利用者体験と鑑賞への誘発に関する実証的研究 : 館種を越えた連携によるリレーワークショップを活用した新たな鑑賞教育の提案
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(2) 2. 西. 嶋. 昭二郎. ◯新進芸術家の海外研修やその成果を還元する機. 九州産業大学芸術学部研究報告. られるかを実証研究の目的とした。. 会を充実したり、国内での研修機会を得られる. また、館種を越えた連携協力によるリレー式. ようにしたりするほか、顕彰制度を拡充する等、 ワークショップを開催することが、新たな博物館 将来の芸術家、鑑賞者や、伝承者にもつながる. 文化の形成に寄与できるかも研究の目的としたい。. 子供や若者の「創造力」と「想像力」を豊かに するため、子供の発達段階に応じて、多彩な優. 3.研究方法. れた芸術鑑賞機会、伝統文化や文化財に親しむ 機会を充実する。. 調査は質的研究法に基づき、ワークショップ参 加後、日常で子どもたちが鑑賞への誘発とみられ. ○子供たちのコミュニケーション能力の育成に資 する文化芸術に関する体験型ワークショップを. る行動や発言があるかどうかについて保護者に事 後アンケートを実施した。[図1]. はじめ、学校における芸術教育を充実する。. 具体的には単独で行なった2回のワークショッ プと4団体が協力開催したリレー式ワークショッ. 今回の研究は、こうした体験、コミュニケー. プ(各団体1回計4回)の計6回のワークショップ. ション、鑑賞の指導を重視する子どもたちを取り. に参加した子どもたちに、それぞれどのような変. 巻く現状を基に研究を進めることとした。. 化が起こるかを調査項目とした。. さらに、以下の事例も研究の誘因となっている。 それは九州産業大学美術館の鑑賞活動に参加した 子どもがデザイナーズチェア(=バルセロナチェ ア、スペインの王様椅子と言われる)の解説を学 芸員から聞いた後、日常生活に戻り、たまたま. 事後アンケートは以下の3つの質問で構成した。 各質問に対し該当するものには、具体的に子ども の変化を記述した。 [質問項目] ①ものづくりへの感情・興味・関心が高まった発. 入ったお店にあったデザイナーズチェアを見て、 自信満々にデザイナーズチェアの名称を答えてい. 言や行動の変化があったか? ②テーマへの感情・興味・関心が高まった発言や. たという。. 行動の変化があったか?. この事例から博物館での鑑賞活動が蓄積体験と. ③ワークショップに参加して経験したことへの感. なることで他の物事への感情・興味・関心が高ま. 情・興味・関心が高まった発言や行動の変化が. り、さらなる鑑賞への誘発が起き、確かな知識の. あったか?. 獲得につながっていくことを、他のワークショッ プから実証研究してみたいと考えたからである。 2.目的 今回の研究は、アメリカのジョージ・E・ハイ ンが提唱する「利用者は、すでに知っていること と関連づけながら、博物館の資料を理解しようと する」という構成主義的博物論の立場を基にし、 「鑑賞とは利用者の体験の追体験から、感情が動. [図1]研究方法の概念図. かされる」という仮説を立てた。 そのため、子ども・保護者・学生等を対象に九. 3.1. 単独ワークショップ. 単独ワークショップは九州産業大学美術館が主. 州産業大学美術館の単独のワークショップや複数 団体が協力するリレー式ワークショップを通じて、. 催するワークショップ2回を調査対象とした。. 鑑賞への誘発(感情・興味・関心の高まり)が得. 1回目は「光」をテーマに立体万華鏡を制作した。. -134-.
(3) 第47巻. 利用者体験と鑑賞への誘発に関する実証的研究. 3. ―館種を越えた連携によるリレーワークショップを活用した新たな鑑賞教育の提案―. 2回目は「アニメーション」をテーマにフェナキ. トペをテーマに立体万華鏡の図柄を考え、制作し. ストスコープ(おどろき盤)を制作した。それぞ. た。立体的なイメージは小学生には難しい部分も. れ小学生を対象に感情・興味・関心の高まりをア. あるので、学生がフォローしながら完成させた。. ンケート調査した。[図2]. 完成した立体万華鏡を覗きこんだ子どもたちの表 情は驚きと喜びに満ちていた。 最後に作品の発表会を行なった。各作品を共有 できるように万華鏡の中をカメラで撮影し、モニ ターに映して発表した。 〈タイムスケジュール〉 11:00. あいさつ 自己紹介 万華鏡についての話 展覧会見学[図3]、光のオノマトペ交換. [図2]単独ワークショップのイメージ. 12:00. 昼食. 13:00. 制作の説明. (1)第23回 九州産業大学美術館所蔵品展「光と. 13:30. 制作開始[図4]. 影」関連イベントワークショップ「立体万華. 14:50. 作品発表会[図5]. 鏡をつくろう!」. 15:30. 集合写真撮影[図6]. 15:40. 解散. 実 施 日:平成27 (2015) 年5月9日(土) 実施場所:15号館103番教室・美術館展示室 参 加 者:10名(小学3~6年生) ボランティア学生:15名(経済学部経済学科5名、 国際文化学部臨床心理学科1名、商学部観光産業 学科2名、商学科4名、経営学部産業経営学科1名、 工学部住居・インテリア設計学科1名、情報科学 部情報科学科1名) 注:学生は 「社会教育計画・演習」 「課題解決演習A」の受講生を含む. 本プログラムは第23回九州産業大学美術館所 蔵品展「光と影」の関連イベントとして開催した。 [図3]展覧会作品鑑賞 今回の活動では立体万華鏡を制作した。ボラン ティア学生15名と小学生3~6年生10名の計25 名を6班に分けて、活動を行なった。 まず、見本の立体万華鏡を見て感じる光のオノ マトペ(例えば、キラキラ、ピカピカなど)を子 ども達に言ってもらい、光に関心が持てるように した。その後、開催中の展覧会「光と影」を鑑賞 し、青ざめた光や透明な光などに関するオノマト ペを見つけることで、たくさん光の表現について 各班で意見交換をした。 昼食後、展覧会で見た作品から見つけたオノマ. [図4]立体万華鏡の制作. -135-.
(4) 4. 西. 嶋. 昭二郎. 九州産業大学芸術学部研究報告. ストスコープ)という1980年代に開発されたア ニメーションを楽しむ玩具を制作し、アニメー ションへの興味・関心を高め、今後のものづくり に活かすこととした。 まず活動の理解を深めるために、アニメーショ ンの歴史を話した。その後、アニメーションの原 理を2枚の紙で2コマのパラパラマンガで体験し た。それを活かして2コマから12コマに増やし、 各々のアニメーションを制作した。次に1枚1枚 のコマをはさみで切り離し、おどろき盤の台紙に 貼り付け完成させた。最後に各班で自分の作品の. [図5]立体万華鏡の中をカメラで撮影. 工夫したところや頑張った所を発表した後、全体 で作品鑑賞会を行った。 〈タイムスケジュール〉 13:00. 自己紹介. 13:10. 趣旨説明/アニメについての話[図7]. 13:30. 制作開始[図8]. [図6]集合写真. (2)アートキャラバン隊によるワークショップ ちびっこ・ワークショップ「おどろき!アニ メーション!」 実 施 日:平成27 (2015) 年7月20日(月・祝) 実施場所:1号館5階N501番教室 参 加 者:29名(小学3年~6年生) ボランティア学生:34名(芸術学部美術学科1名、 デザイン学科2名、写真映像学科2名、経済学部. [図7]アニメーションの歴史の話. 経済学科7名、国際文化学部臨床心理学科1名、 国際文化学科5名、商学部観光産業学科2名、商 学科10名、経営学部産業経営学科1名、工学部住 居・インテリア設計学科1名、情報科学部情報科 学科1名、卒業生1名)注:「社会教育計画・演習」「課 題解決演習A」「博物館実習生」の受講生を含む. 本プログラムは特別展「卒業生―プロの世界― vol.6. 森りょういち展. おいでよ、りょういちの. 森」の関連イベントとして開催した。 プログラムの到達目標はおどろき盤(フェナキ. [図8]パラパラマンガの制作. -136-.
(5) 第47巻. 利用者体験と鑑賞への誘発に関する実証的研究. 5. ―館種を越えた連携によるリレーワークショップを活用した新たな鑑賞教育の提案―. 15:00. 作品鑑賞会[図9]. 15:35. 集合写真撮影[図10]. 15:45. 終わりのあいさつ. 16:00. 解散/展覧会見学ツアー(希望者のみ). 16:30. 展覧会見学ツアー終了. [図11]リレーワークショップのイメージ. (1) 「形のいろいろ☆葉の形を見る、 作る、 かざる!」 実 施 日:平成27 (2015) 年4月18日(土) 実施場所:九州大学箱崎キャンパス21世紀交流 プラザ ボランティア学生:8名 九州大学総合研究博物館では自然を観察しなが ら葉っぱの形や生態について知るツアーの後、粘. [図9]作品鑑賞会. 土で葉っぱの形のブローチを作った。 〈タイムスケジュール〉 11:00. 21世紀交流プラザに集合. 11:05. 交流ワークショップ. 11:35. 保護者向け説明会. 11:50. 昼食. 13:00. 趣旨説明. 13:05. 葉っぱの形のいろいろ、観察ツアー [図12]. [図10]集合写真. 13:30 3.2. リレー式ワークショップ. お気に入りの葉の形をミニチュアで再現! [図13]. 4団体でのリレー式ワークショップ(各団体. 15:00. 作品鑑賞会[図14]・振り返り. 1回ずつ計4回)では「いろいろ」という共通テー マで科学、美術、水族という各団体の特色を活か したプログラムを実施した[図11] 。参加者は 4回とも同じで、小学1年~中学校1年の男女19名 だった。子どもたちには九州産業大学学生が制作 補助者として活動に参加した。 (博物館実習生、 他) 参加者:19名(中学1年3名、小学6年4名、小学 5年1名、小学4年2名、小学3年3名、小学 2年4名、小学1年2名) [図12]植物観察ツアー. -137-.
(6) 6. 西. 嶋. 昭二郎. 九州産業大学芸術学部研究報告. 15:20. 次回のご案内/アンケート記入. 14:50. 作業開始. 15:30. 終わりのあいさつ、解散. 15:50. 作業道具の後片付け. 16:00. 作品鑑賞会・振り返り[図16][図17]. 16:25. 次回のご案内. 16:30. 終わりのあいさつ、解散. [図13]ミニチュアの制作. [図15]展覧会作品鑑賞. [図14]作品鑑賞会. (2) 「色のいろいろ☆デザインいろいろ、オリジ ナルバッグを作ろう」 実 施 日:平成27 (2015)年5月16日 (土) [図16]作品鑑賞会の様子. 実施場所:九州産業大学2号館1階円形ホール ボランティア学生:10名 九州産業大学美術館では展覧会鑑賞の後、その イメージをコットンバッグにマスキングテープで 表現したオリジナルバッグを制作した。 〈タイムスケジュール〉 13:00. 2号館円形ホール集合. 13:30. 趣旨説明. 13:45. 展覧会作品鑑賞[図15]. 14:10. 大学構内散策. 14:40. 休憩. [図17]集合写真. -138-.
(7) 第47巻. 利用者体験と鑑賞への誘発に関する実証的研究. 7. ―館種を越えた連携によるリレーワークショップを活用した新たな鑑賞教育の提案―. (3) 「種類のいろいろ☆チリモンストラップを作 ろう」. 15:05. チリモン選別ストラップ制作[図19]. 16:10. 作品鑑賞会/振り返り[図20]. 実 施 日:平成27 (2015) 年6月20日(土). 16:25. 次回のご案内/アンケート記入. 実施場所:海の中道海洋生態科学館. 16:30. 終わりのあいさつ、解散. ボランティア学生:11名 海の中道海洋生態科学館ではプランクトンを採 取し、顕微鏡で観察した。その後、様々な海の生 き物のチリメンを使って、オリジナルキーホル ダーを制作した。 〈タイムスケジュール〉 13:20. 海の中道海洋生態科学館近辺桟橋へ集合. 13:30. 趣旨説明. 13:50. プランクトン採取[図18]. 14:20. マリンホールへ移動. 14:30. プランクトンを顕微鏡で観察. 14:45. 休憩. 15:00. チリモン(=チリメンモンスター)の話. [図20]集合写真. (4) 「思い出いろいろ☆ワークショップでの思い 出をお話して絵本をつくろう」 実 施 日:平成27 (2015) 年7月18日(土) 実施場所:九州大学箱崎キャンパス21世紀交流 プラザ ボランティア学生:11名 CLCworks の活動は、3回のリレー式 ワ ー ク ショップを振り返り、参加者の蓄積体験をもとに 絵本を制作し読み語りを行った。 〈タイムスケジュール〉 11:00. 九州大学21世紀交流プラザ集合 (会場に展示している絵本を読んだり九. [図18]プランクトンの採取. 州大学総合研究博物館の展示見学)昼食 13:00. 絵本づくりの説明. 13:15. 思い出を語ろう. 13:45. 絵本をつくろう[図21]. 15:35. 作品発表会(絵本の読み語り) 振り返り[図22]. 16:25. アンケート記入 終わりのあいさつ[図23]. 16:30. 今後の調査について説明. 17:00. 解散. [図19]ストラップの制作. -139-.
(8) 8. 西. 嶋. 昭二郎. 九州産業大学芸術学部研究報告. ○「『アニメを見ている時、これも同じ方法ででき ているの?』と聞いてきた」 など、ワークショップのテーマやものづくりへの 興味・関心が高まった行動や発言が見られた。 連携したワークショップでは保護者への口頭で の聞き取りや、各ワークショップの終了後に行っ た4団体での振り返りなどで、自宅に帰ったあと もワークショップで経験したことを活かしたもの づくりを行っている行動や発言の事例があった。 [図21]絵本の制作. 5.考察 事後アンケートを分析すると、全活動で参加後 の子どもたちの感情・興味・関心の高まりが見ら れた。リレー式ワークショップに関しては同じ子 どもたちでの活動により、子どもたちのコミュニ ケーション能力の高まりが見られた。また、4団 体の特色を活かした「いろいろ」をテーマにした ワークショップに参加することで、表現の幅の広 がりが認められた。その他、4団体の連携協力に より、担当した学芸員は各館のワークショップの 良さや違いを知ることができ、様々な視点から話. [図22]制作した絵本の読み語り. しあうことができた。このような他団体との交流 は 貴 重 な 機 会 と な り、今 後 の 各 団 体 の ワ ー ク ショップの充実が期待される。 6.今後の課題 今回の調査から、「鑑賞とは利用者の体験の追 体験から、感情が動かされる」という仮説は概ね 検証できた。また、追体験による鑑賞への誘発は、 その後、対象者の学習活動への進展も窺い知るこ とができた。しかし、まだまだ事例が少ないため、 今後もさらに調査を続けていき、博物館学研究の. [図23]集合写真. 充実に寄与していきたいと考えている。. 4.研究結果 単独のワークショップの事後アンケートでは、 ○ 「図工の教科書を何度も見るようになった」. *本稿は「全国博物館学講座協議会西日本部会. ○ 「国語の教科書で光の表現に注意して読むよう. 平成26年 度 研 究 助 成」お よ び「JSPS 科 研 費. になった」. 24220013」による研究成果の一部である。. ○ 「いろいろ自分で作ってみたいと思って科学雑. *研究を進めるに当たり、リレーワークショップ. 誌の定期購入をしました」. では海の中道海洋生態科学館の高田浩二館長. -140-.
(9) 第47巻. 利用者体験と鑑賞への誘発に関する実証的研究 ―館種を越えた連携によるリレーワークショップを活用した新たな鑑賞教育の提案―. (現福山大学教授)、三宅基裕学習交流課次長、 九州大学総合研究博物館三島美佐子准教授、 CLCworks坂倉真衣副代表の協力を得ました。 また九州産業大学美術館の緒方泉教授から多大 な研究指導助言を受けました。ここに記して心 より感謝申し上げます。 *本稿の「鑑賞」とは、従来の「芸術作品を見聞き したものを味わう」だけではなく「自他の作品 や日常で見聞きしたものを味わう」も含みます。. 参考文献・資料 1)中央教育審議会『幼稚園、小学校、中学校、高等学校 及び特別支援学校の学習指導要領等の改善について (答申) 』p.97、平成20年1月17日 2)文化庁『文化芸術の振興に関する基本的な方針の第4次 基本方針』p.18、平成27年5月22日 3)文部科学省『第2期教育振興基本計画』p.44、平成25年 6月14日 4)文部科学省『第2期教育振興基本計画概要』p.3、平成 25年6月14日 5) George E.Hein著、鷹野光行翻訳『博物館で学ぶ』同 成社、2010、p.233. -141-. 9.
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