山梨医大誌,3(3),1!1∼115,1988 原 著
山梨医科大学附属病院4年間における
原発性肺癌の気管支擦過細胞診の検討
一病理組織学的診断との対比を中心に
家澤米井
貴中久吉
O ◎ の O ユ ユ を ヨ一雄雄弥
耕喜敏勝
田井山木
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■ O ● ユ リロ リね イ基子司平
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久章新
!)山梨医科大学病理*,2)同検査部,3)三三2内科,4)同第2外科 抄録:山梨医大附属病院開院後4年間に行われた気管支擦過細胞診による肺癌組織型の判定と病 理組織学的診断(組織診)におけるそれとの対比検討を行った。組織診の裏付けのある気管支擦過 細胞診63例の申,両者の組織型の一致をみたもの54例(85.7%)で,残りの9例が不一致であった。 9例の内訳をみると組織学的に扁平上皮癌と診断されたもの(4例)を細胞診で腺癌(3例)または 小細胞癌(工例)にしたものおよび組織学的に腺癌(5例)であったものが扁平上皮癌(3例)あ るいは大細胞癌(2例)とされたものであった。不一致の要因を検討すると,①組織診と細胞診で は,組織片と個々の細胞という検索対象が異なるため癌の組織型の決め方に相違があり,前者では 細胞型と腫瘍構築より,後者では個々の細胞型より判定していること,②肺癌の組織像は他臓器の 癌と比較して多彩であるために,組織の一部だけを採取して診断する生検および気管支擦過細胞診 では腫瘍全体の細胞型をカバーできないこと,③気管支擦過細胞診の新鮮細胞による組織型の推定 は従来の晶晶における自然に剥離した変性細胞と比較し,組織型の差による細胞の特徴に乏しいこ と,④扁平上皮癌とも腺癌とも判定し難い例がwas毛e basket的に大細胞癌として分類されること が少なくないことなどである。 キーワード 細胞診,気管支擦過,原発挫肺癌,一致,病理組織学的診断 は じ め に 集学的治療など最近の癌に対する放射線や化 学療法等の進歩には目覚しいものがある。これ らの治療法の選択は一般に癌の組織型に依存し ている。このことは肺癌においても同様であ り,組織型の分類は治療方針の決定や予後等の 推定に必要不可欠のものである% 悪性腫瘍の形態学的診断法の一つとして細胞 *〒409−38山梨県中巨摩郡玉穂町下河東1UO 受付;19884手三5ノ警ユ8日 診は広く普及しており,最近では従来の癌細胞 が自然に剥離,脱落してくる“exfoliaもive”とい う消極的なものから擦過,穿刺吸引などのより 積極的な方法に変りつつある2)。 従来,腫瘍の組織型分類は病理組織学的に, 細胞の形態と腫瘍の構築より行われてきたが, 細胞診では個々の細胞からその組織像を推定で ぎ得る特徴を見出して行っている○このため組 織診と細胞診における診断の距りを生ずること がある。 そこで,本学附属病院開院後4年間の気管支112 須 田 耕 一,他 擦過細胞診における肺癌組織型の判定を組織診 によってなされたそれとを対比し,両者の不一 致例を検討した。 材料と方法 山梨医科大学附属病院開院(昭和58年10月) より4年間(62年9月まで)に検査部病理に提 出された肺癌の気管支擦過細胞診112例のうち 組織診の裏付けのある63例を対象とした。組織 診63例の内訳は手術の行われたもの14例,剖検 となったもの3例および残りは経気管支等の生 検46例である。検索標本は細胞診ではパパニコ ロウ染色を施行した。組織診は通常の方法でパ ラフィン・ブロックとし,3μの薄切片に対し H:.E染色とエラスティカ・ワンギーソソ染色, PAS染色等を行った。
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Fig. L Tumor cells obtained from bronchiaI brushing cytologically showing foamy and vacuoIated cytoplasm, and promi− nent nucleoli, suggestive of adeno− carcilloma ill a patient(67yr, M)with primary lung cancer・ Papan{colaou stain,×1,000. 結 果 組織像の裏付けのある肺癌の気管支擦過細胞 診63例中,病理組織学的診断と癌の組織型が一 致をみたもの54例(85.7%)で,残りの9例 (14.3%)が不一致であった。9例の内訳は①組 織学的に扁平上皮癌と診断されたもの4例を腺 癌(3例)または小細胞癌(1例)としたもの および②組織学的に腺癌5例であったものを扁 平上皮癌(3例)または大細胞癌(2例)とし たものであった(Table 1)。 代表例を供覧すると,Fig.1は67歳・男性 の気管支擦過細胞診で腫瘍細胞の泡沫状の細胞 質と粘液様空胞,核の偏在性,丸いやや大きい Fig.2. Transbronchial lung biopsy(TB正B) histopathologically showing Poorly diEerentiated squamous cell carci− noma. The same patiellt as in Fig.1. H.E. stai11, 〉〈400. Table l. Comparison of histopathologic and cytopathologic diagnosis in primary lung cancer(63 cases) Cytopatho、ogic Diagnosis of:Bronchial Brushing Histopathologic Diagno3is(case)SqUamOUS Cell CarCinOma adenocarcinoma small cell ]arge cell
CarCmOma CarClnOma Squamous cell carcinoma(26) Adenocarcinoma (18) Small cell carcinoma (17) Large Cell Ca・Cin・ma (2) 22 (84.6%) 3 0 0 3 13 (72・2%) 0 0 1 0 17 (100%) 0 0 2 0 9 (100%)
気管支擦過細胞診 113
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b Bronchial brushing cytology specimen showing;(a)acluster of cells with thickened cytoplasm, coarsely 9「anula「 chromatin and prominent nucleoli, and(b)multinucleated giant cell, sug− gestive of large cell carcilloma in a patient(75yr, F)with primary lung cancer Papanicolaou staill,×LOOO. :Fig.4. Surgically resected lung carcinoma histopathologically showing adeno− carcinoma, partially with meduUary pattern. The same patient as in Fig.3. H。E. stain,×200. 核小体等の所見より腺癌と判定されたが,その 後の生検では中ないし低分化扁平上皮癌と診断 された(Fig.2)。本例は組織診で明るい細胞質 と核小体の目立つ細胞も出現しており,そのよ うな細胞が擦過法で剥離してきた場合には,細 胞学的に腺癌と診断されることもありうること を教えるものであった。Fig.3は75歳・女性 で比較的大型の細胞が平面的に結合し,細胞質 の厚みと粗大穎粒状のクロマチソ像より細胞学 的に扁平上皮癌が示唆された。また,同時に偏 在性の核と丸い顕著な核小体から腺癌も考えら れたが,特に結合性のない大型の細胞が混在し ていたことから大細胞癌と判定された。同症例 の切除肺を検索すると,癌は主として左肺尖部 S−1+2にあり4.5×3×2.5cm大で, B−1+ 2aとbの枝を腫瘍性に閉塞していた。組織学 的には腺癌で一部では充実した配列や細胞質の 厚みの目立つところも認められた(Fig.4)。 考 察 今回検討した肺癌の気管支擦過細胞診63例中 病理組織学的診断(組織診)と癌の組織型が一致 をみたものは54例であり,一致率の85.7%は他 施設の同様の検討と近似したものであった3・4)。 不一致の9例は扁平上皮癌4例と腺癌5例で, 扁平上皮癌はいずれも分化が低く,一方腺癌は 細胞質に扁平上皮様の厚みのあるものや大型細 胞の混在したものであった。大細胞癌は組織診 よりみると2例と症例が少なく不一致をみなか ったが細胞学的に2例の腺癌を大細胞癌と判定 していた。小細胞癌は核形態に非常に特徴があ り,その判定にはあまり問題がなく,細胞診と 組織診の一致率が非常に良い5)。 今回の不一致の要因を検討すると,①癌の組 織型の分類方法と判断基準,②肺癌組織像の多 彩性,③気管支擦過細胞診の組織型判定基準の バラツキ,④大細胞癌の位置付げなどがあげら れる。すなわち,①組織診と細胞診では,組織 片と個々の細胞という検索対象の差に基づく癌 の組織型の決め方に相違があり,組織診では癌 組織がどのような正常組織に模倣しているかと いう構造より組織型の分類が行われているのに 対し,細胞診では個々の腫瘍細胞からその組織 像を推定でき得る特徴を見出して行っている。 したがって,例えば原形質に厚み等のある腫瘍 細胞は細胞学的に扁平上皮癌と判定されがちで あるが,組織学的には原形質に厚みがあっても 腺腔形成が優勢であると腺癌と分類される。② 肺癌の主な組織型は扁平上皮癌,腺癌,大細胞 癌および,小細胞癌であるが,組織像は他臓器 のそれと比較し多彩で,前2者の混在している114 須 田 耕 一,他 ものが少なくない。このような肺癌の多彩性は 腫瘍の一部だけを採取する気管支擦過細胞診と 生検との間に不一致を生む大きな原因であろ う。③気管支擦過細胞診における肺癌組織型の 判定基準がいまだ確立されていないことであ る。細胞診における組織型の推定には従来より 喀疾のような自然に剥離した変性細胞で行われ ていた。主な特徴を示すと,例えば,扁平上皮 癌は平面的に配列し,原形質が厚く,核は大型 で細胞のほぼ中央に位置し,クロマチソは粗穎 粒状,核小体は一般に著しくない。これに対 し,腺癌は重積性に配列し,原形質は薄くある いは空胞状で,核は偏在し,核質は明るく,核 小体が顕著である。このような特徴を基にして class IV∼Vには比較的容易に組織型の判定が 行われていた。ところが,気管支擦過細胞診で は喀疾の自然に剥離した変性細胞と異なり, より新鮮な細胞が対象となっている。新鮮細胞 では変性細胞における扁平上皮癌と腺癌ほどの 核形,クロマチソパターンおよび細胞質の性状 の差に乏しく,また検体が乾燥しやすく細胞変 性を無理して判定するために見誤ったりするこ ともある。④大細胞癌は分化傾向のない大型細 胞が扁平上皮癌様の充実性に配列し,細胞形態 は一般に腺癌様を示している。このため扁平上 皮癌とも腺癌とも判定し難い例がwaste basket 的に大細胞癌とされることが少なくない。 以上より,気管支擦過細胞診における肺癌組 織型の判定は,鏡検者の習熱・経験の有無にか かわらず,少数例では病理組織学的診断と不一 致となる必然的な要因を含んでいると考えられ る。不一致を少なくするためには,一致例を詳 細に対比検討してさらに組織型を推定でき得る より特徴的な所見を見出すことや,もし可能な らぼより大きい,あるいは細胞成分の多い検体 を繰り返し採取して調べることであろう。 山梨医大病理吉田洋二教授の御校閲を感謝致 します。なお,本論文の要旨は早川らにより第 3回日本臨床細胞学会山梨県支部総会(加藤順 三会長;1987)で発表した。 ︶ 1 ︶ 2 ︶ 3 ︶ 4 ︶ 5 文 献 早田義博編:肺癌の診断手順と治療方針,東 京:医学書院,1982. 須田耕一:細胞診,山梨医大紀要1985;2:8− 15。 服部正次:肺癌の細胞診,北本 治編,肺癌の すべて,東京:南江堂,!974:158−169. Kanhouwa s.:B.筆Matthews M. J.:Reliability o£cytologic typing of lung cancer・Ac嬢Cyto1 1976; 20: 229−232, 松田 実,宝来 威,服部正次:肺i燕麦細胞癌 の細胞診断,肺癌1972;12:157−169
fxK;ptesiEiijrwwar,2 115
A Cytopathologic S£udy o£ Bronchial
at Yamanashi Medical College
Special Reference to Concurrence
Brushing on Primary Lung Cancer
Hospital during Four Years with Histopathologic Diagnosis
Koichi Sudai), Motoi Sasugai>, Tsutomu Yuniinamochi2), Yeshio
Kumiko Nakazawa2), Naomi Hayakawa2), Toshio Oyama2), Shoji
Katsura Ozawa"), Katsuya Sasaki3) and Shinpei Yoshii`) Z)DePartment of Pathology, 2)Central LaboTatory, 3)DePartment of
Medicine and `')DePartment of 2nd Surgery, Yamanashi Medical
IshiiL),
KumeL'),
2nd Internal
College
A cytopathologic study of broRchial brushing was compared with histopathologic diagnosis in 63 cases of primary lung cancer at Yamanashi Medical College Kospital during four years. In 9 out 68 cases, cytopathologic diagnosis was not in concurrence with histopathologic diagnosis
as follows; four cases of squamous ce}1 carciRoma were cytologically classified ifito adenocarcinoma (three cases> aitd sma}l cell carcinoma (one case), and five cases of adenocarcinoma into squainous
cell carcinoma (three cases) and large ce}l carcinoma <two cases). The discrepancies between cytopathologic and histopathologic diagnosis were main}y due to differences in the methed of classificatioR, histologic variations of primary ltmg cancer, poor cliaracteristics in cytologic
features obtained froiin bronchial brushing aRd `waste basket' classifying into large cell carcinoma.
Key words: cytology, bronchial brushing, primary ltmg cancer, concurreRce, histopathologic diagnosis