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<総説>生体内凍結技法による肺組織切片標本上での生体物質分布と血行動態の可視化法 利用統計を見る

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I.はじめに  一般的に生命体を構成する細胞や組織の機能 は,動物生体内臓器の構造に依存しているので, それをターゲットとする形態学的アプローチは 常に必要である。まず,以前より行われている が,これらの形態観察法として,最初に生体内 標的臓器から切除した組織塊をホルマリン等の 水溶性固定剤に浸漬,あるいは血管内灌流する ことによって十分に化学固定する。その後,低 濃度より徐々に上げて完全にアルコール脱水し てからパラフィン等に包埋後,薄切する。さら にヘマトキシリン・エオジン(HE)染色など による組織や細胞の形態像,あるいは免疫染色 によって,その組織・細胞内の特定物質の局在 を可視化する(図 1a)。この古典的な光顕用試 料作製法の歴史は古く,現在でも多くの組織学・ 病理学の標本作製に用いられている。一方で は,近年のデジタル顕微鏡や撮影装置開発と蛍 光標識法などの進歩により,生体内イメージン グが高解像度で可能となり,血行動態が維持さ れて,細胞間質液に満たされた微小環境を保っ たまま,生きた動物臓器内での生体物質の動的 変化が経時的に可視化されるようになった1–6)。 しかし,古典的な試料作製法による光顕像と比 較しながら,生体内イメージング法による画像 が議論されていることがある。この際に,一見 して対応しているように見られる二つの方法に よる形態像は,実際には虚血・酸欠のために多 くは解離しているはずである。以前より,生き た動物臓器を観察するために発展してきた生体 内イメージング法であるのに対して,従来の古 典的な切片試料作製法では,灌流固定したり, 生体内臓器から組織を切除するために,血流が 遮断され虚血・酸欠が起こり,さらに固定・ア 要 旨:近年,蛍光標識蛋白などを用いた生体内イメージング法による生きた動物臓器の機能的形 態像や生体物質の動態解析が注目されている。しかし一方,通常の組織切片標本作製法のための灌 流固定法や浸漬固定法と,その後のアルコール脱水による光顕用組織試料では,人工産物としての 細胞組織の収縮や血液・間質液等の可溶性成分の流失が起こるため,正常血行動態を維持した生き た動物の機能的形態像を観察することは困難である。当教室では,すでに「生体内凍結技法」という, 生きた麻酔下動物の各種臓器をできるだけ速やかに凍結する方法を開発し,凍結置換固定法などと 併用することにより,生きた動物臓器の機能分子形態学的解析を進展させてきた。本稿では,この 生体内凍結技法により作製した,正常血行動態下と実験的肺水腫モデルでのマウス肺組織標本を用 いて,肺の呼吸運動に伴うダイナミックな肺組織形態像と,その血行動態や病理学的変化を検討し たので報告する。 キーワード 生体内凍結技法,凍結置換固定法,血行動態の可視化法,可溶性血清蛋白 〒 409-3898 山梨県中央市下河東 1110 番地 受付:2013 年 6 月 10 日 受理:2013 年 11 月 8 日

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ルコール脱水中に血液や細胞間質液といった液 性成分は常に流出してしまっている。このこと は,生きた動物生体内の状態とは大きく変化し ていることになる。特に,アルコール脱水によっ ても,脂質成分溶出や試料収縮が容易に起こっ てしまう。そこで,生きた動物臓器の生体内機 能状態を反映した光顕用切片試料作製のために は,生体内凍結技法が必要となる7–12)(図 1b)。 II.生体内凍結技法の手技と特徴  すでに 1996 年頃に開発したこの生体内凍結 技法によって,麻酔下実験動物における虚血・ 酸欠の影響が全く無い細胞組織の形態像が得ら れる7)。さらに動物生体内臓器の可溶性物質が, この生体内凍結技法により,瞬時に氷中に閉じ 込められるために,全ての物質の移動と流失が 起こらずに臓器組織の局所に保存される。本稿 では,最近発表した呼気と吸気時の肺胞構造と 肺胞中隔壁内毛細血管が,ダイナミックに変化 するという生きたマウス肺組織について概説 する。  通常の化学固定法による光顕用試料作製法で は,ダイナミックな機能的肺組織の肺胞中隔 壁内毛細血管構造の保持は困難である(図 2)。 一方,生体内凍結技法で試料を作製すると,生 きた動物の呼吸状態を反映した組織像が得られ る。具体的な生体内凍結技法としては,麻酔下 マウスに人工呼吸器を接続して開胸後,可及的 速やかに,あらかじめ液体窒素中(-196℃)で 作製した液性イソペンタン・プロパン混合寒剤 (-193℃)を,露出した肺表面に直接かけて生 体内凍結する(図 3a)。その後,発泡スチロー ル箱の液体窒素中(-196℃)で,肺を小型歯科 用電気ドリルで摘出し保存する。  さらに血行動態解析のためには,生体内凍結 施行前に,右心室などから量子ドット(Qdot) を注入し,その後の任意の時間で生体内凍結 を 行 う こ と も で き る( 図 3b)。 こ の Qdot と は,カドミウム−セレンを芯としたナノ粒子 で,様々な粒子径のものが人工合成できるが, その粒子径によって紫外線励起で特定波長の 蛍光が,半永久的に放たれる特徴を持ってい る13–18)。本研究では,このナノ粒子周囲をグ ルタチオンで被覆したもので,血管外へ漏出し ない赤色蛍光を放つ約 10 nm 粒子の Qdot を 使用した19–21)。さらに病態解析モデルとして, 上行大動脈結紮により,実験的肺高血圧症の肺 浮腫を引き起こして生体内凍結した22)。これ らの生体内凍結試料は,2%パラホルムアルデ ヒド含有アセトン中で,-80℃から徐々に温度 を室温まで上げて凍結置換固定し,型のごとく パラフィン包埋した。この凍結置換固定では, 低温下で氷晶を有機溶剤(アセトン等)に置換 生体内凍結技法を用いて作製されたパラフィン包埋試料は,通常の標本作製法を用いて作製さ れたパラフィン包埋試料と同様に扱うことができる.

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して固定する方法で,生体内凍結時の機能的形 態像や物質局在を保存できることが知られて いる。 III.正常肺組織の機能的形態像および 血清蛋白局在の解析 1.呼気と吸気時肺組織の可視化  麻酔下マウスを人工呼吸器で管理して呼気時 と吸気時にタイミングを合わせて生体内凍結す ると,肉眼的にも肺が縮小した状態と拡大し た状態で凍結保存される。その光顕切片試料の HE 染色により,肺胞中隔壁内毛細血管構造や 流動赤血球が明瞭に観察できる。なお,血行動 態によって様々に変形した流動赤血球と,進行 方向に向かって矢じり型や勾玉型といった形状 が同定できるのは,この生体内凍結組織標本の 特徴と言える。さらに,肺胞中隔壁の機能的形 態像は呼吸状態を反映して異なり,呼気では肥 厚して蛇行し,吸気では肺胞腔の拡大とともに 図 2. 灌流固定法により作製した肺組織標本;矢印は肺 胞毛細血管内に残った赤血球を示す. 図 3. Qdot の右心室内注入と肺の生体内凍結の模式図 (a)イソペンタン・プロパン混合寒剤(-193℃)を直接動 物臓器にかけることにより生体内凍結する. (b)生体内凍結する前に,心臓(右心室)より Qdot を注 入することもできる.

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伸展して薄くなっているのが観察できる(図 4)。 2. Qdot による肺胞中隔壁内血管配置と血行動 態の可視化法   麻 酔 下 マ ウ ス を 人 工 呼 吸 器 で 管 理 し て, Qdot を右心室から注入し,1 秒後に生体内凍 結した肺組織切片を検討すると,肺内流入直 後の肺胞中隔壁組織部位が判別できる(図 5a, b)。その Qdot 分布は,太い血管とそれに続く 毛細血管に見られ,したがってこの太い血管 は,細動脈であることがわかる(図 5b)。一方, Qdot が未だ見られない肺胞中隔壁内毛細血管 に続く太い血管も見られ,これらは細静脈であ ると同定できる。次に Qdot 注入 2 秒後に生体 内凍結した肺を検討すると,Qdot に完全に満 たされた太い血管,それに続く毛細血管,更に その先に血管壁に沿ってのみ Qdot が見られる 太い血管が観察できる(図 5c-e)。これらは細 動脈から肺胞中隔壁内毛細血管を経て,細静脈 に流れ込む瞬間を捉えていると考えられる。こ のような機能的形態像は,血行動態を考えると 一見当然のように思えるが,これまでは光顕用 組織切片では観察することができなかった。ま た,この Qdot 局在の経時的変化を考えて細動 脈と細静脈を区別すると,肺組織切片上で小葉 間細動脈と細静脈が,交互に並ぶ肺胞中隔壁内 血管構築が明らかとなり,生きた動物肺の機能 状態を反映した血行動態が,組織像と同時に光 図 4. 生体内凍結−凍結置換固定後の呼気(a, b)および吸気肺(c, d)の肉眼像(a, c)と HE 染色した肺組織像 (b, d);肺組織は,肉眼の*印部位から得た.生体内凍結 −凍結置換固定により,呼気および吸気時の肺が縮小・拡 大する肺葉がそのまま維持される. 白矢印(⇒):(b)呼気時に厚く屈曲した肺胞中隔壁と(d) 吸気時の伸展した肺胞中隔壁 二重矢頭(b, d):流速や進行方向によって変化した様々 な形状の赤血球 A:肺胞腔,H:心臓.

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顕用切片上で観察できていることになる(図 5f, g)。 3. 共焦点レーザー走査型顕微鏡による肺胞中 隔壁の三次元的再構築像  さらに呼吸時の肺胞中隔壁の立体構造を観察 するためには,この生体内凍結−凍結置換固定 した Qdot 注入肺組織ブロック試料を,比較的 厚い切片のまま(約 42 µm)で脱パラフィンし てスライドガラスに封入した。さらに共焦点 レーザー走査型顕微鏡を用いて,Z 軸方向の光 学的切片(0.39 µm)より約 100 枚の画像情報 を得ることができ,その連続した光学的切片像 をコンピューター処置により,三次元再構築し た。そこで,右心室注入 2 秒後での肺胞中隔壁 毛細血管内 Qdot は,紫外線励起による赤色蛍 光を発して,肺胞中隔壁の組織成分は,自家蛍 光の青色で同定できるため,肺胞中隔壁内毛細 血管網の立体的形態像が得られた(図 6d)。こ の立体的デジタル再構築像は,コンピューター 画像処理により,任意の断面像を確認できる(図 6e)。

図 5. Qdot 注入 1 秒(a, b)および 2 秒(c-e)後に生体内凍結した肺組織の HE 染色像(a) と紫外線励起した蛍光像(b-e). (d, e)は(c)の一部拡大. (b, d, e)矢印は Qdot が流入した肺胞中隔壁内毛細血管を示す. (f, g)は,得られた Qdot の分布を模式図化したもの.隣接する細動静脈間で の血行動態が Qdot の蛍光として切片上に確認できる.隣接する細動脈を取り 囲むように細静脈が配置されている(g の点線). Ar:細動脈,Ve:細静脈.

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IV.実験的肺水腫モデルでの 血清蛋白局在の可視化  実験的肺高血圧下マウスの肺組織では,肺胞 中隔壁の形態は保たれていたが,赤血球がうっ 滞する毛細血管や,肺胞中隔壁内および終末細 気管支周囲の壊れた結合組織,さらに肺胞腔内 に充満するエオジン好性漏出液を認めた。さら にアザン染色およびアルデヒドフクシン染色に より,結合組織内の線維成分を同定すると,膠 原線維が終末細気管支周囲の漏出液中に分断さ れて散在したが,弾性線維は血管周囲や肺胞中 隔壁結合組織に連続して認めた(図 7a)。また 肺胞腔内の漏出液は,パラフィン包埋した連続 切片を血清アルブミン抗体を用いて免疫染色す ると,強陽性であることから,漏出血清成分の 局在・分布が容易に検討できた(図 7b, c)。 V.おわりに  以上のように生体内凍結技法により,呼吸機 能状態下肺組織を任意の時点で停止させた光 顕用組織切片像が得られた。さらに右心室内 Qdot 注入によって,肺内小葉間細動脈から毛 細血管網を経て,速やかに細静脈へと流入する 血行動態像と,その規則的な動静脈の血管配置 が可視化された。また,実験的肺水腫モデルで の肺胞腔や中隔壁内血管構築像と合わせて,漏 出液の蛋白成分についても,切片上で免疫組織 化学的に解析できた。すでに我々は,低温ステー 図 6. 共焦点レーザー走査型顕微鏡による Qdot 注入後に生体内凍結した肺組織の立 体再構築像 ; 光学切片像 108 枚中の 5 枚目(a),8 枚目(b),11 枚目(c)と 立体再構築像(d)を示す.肺胞中隔壁の自家蛍光は青色,Qdot の蛍光は赤色 で示す.Qdot の流入した肺胞中隔壁内毛細血管が明瞭に認められ,血管内を 流れる赤血球や白血球も自家蛍光により区別できる. (e)立体再構築像の任意の断面像(青線)を得られる. 矢頭:Qdot の流入した肺胞毛細血管, 黒矢印(➡):様々な形状の赤血球, 白矢印(⇒):様々な形状の白血球.

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ジ上(-150℃)で分子構造に特有な振動波であ るラマンスペクトルを解析できるクライオ−ラ マン顕微鏡法を生体内凍結標本に適用すること によって,マウス小腸・肝臓血管の流動赤血球 内ヘモグロビン酸素飽和度に対応した共鳴ラマ ンシフト解析で分子構造変化を発表したが23), さらに光顕切片作製用の凍結置換固定法と組み 合わせることで,種々の血行動態と酸欠状態下 臓器組織の時間・空間的な相互関係も明らかに できると考えている。このように生きた動物臓 器を反映した機能的形態像が得られるので,生 体内蛍光イメージングとのギャップをうめられ る一方で,機能的蛍光イメージング法とは異な り,動物臓器の実体として標本ブロック内に保 存された物質の組織切片上での種々の解析が可 能となった。今後,この生体内凍結技法と蛍光 イメージング法等の併用により,さらに種々の 生体内分子の動態解析が可能である。 文  献

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