学 位 論 文 内 容 の 要 約
氏名 篠原 珠緒
論文題目
Association of inherited genetic variants with glucocorticoid sensitivity and glucocorticoid receptor expression in B-cell precursor acute lymphoblastic leukemia (B前駆細胞急性リンパ性白血病のステロイド感受性およびステロイド受容体発現におけ るゲノムワイド関連解析)
学位論文内容の要約 (研究の目的)
薬剤感受性の個体差においては、一塩基多型(single nucleotide polymorphism; SNP)に代表さ れる遺伝子多型がその背景因子になっている。近年のゲノム解析技術の進歩によって、全ゲノム 領域のSNP を網羅的に解析し、各 SNP の形質との関連性を統計学的に評価するゲノムワイド関 連解析(genome-wide association study; GWAS)が可能になった。小児急性リンパ性白血病(acute lymphoblastic leukemia; ALL)患者においても、化学療法剤の薬物代謝や副作用の発現に関する GWAS が行われ、個体差に関連する SNP が次々と同定されている。白血病細胞の化学療法剤感 受性には、各症例のSNP に加えて白血病細胞が獲得した遺伝子異常やエピジェネティック修飾も 寄与すると推定されるが、白血病細胞の薬剤感受性に関連するSNP の同定を GWAS で試みた報 告はない。ステロイド剤はALL の重要な治療薬の 1 つで、ステロイド剤の単独投与に対する初期 反応性は ALL の治療成績と強く相関する。B 前駆細胞 ALL(BCP-ALL)細胞株を用いたステロイ ド剤感受性に関するわれわれの先行研究では、ステロイド受容体(NR3C1)遺伝子の発現レベルが 感受性に相関することを確認している。一方、NR3C1遺伝子上にある8 カ所の既知の SNP に関 する解析では、NR3C1遺伝子の発現レベルと有意な関連を示すSNP はなかった。そこで本研究 では、BCP-ALL におけるステロイド剤感受性とNR3C1遺伝子の発現に関連するSNP を明らか にするため、BCP-ALL 細胞株を用いて GWAS を行った。 (方法) 解析対象は日本人由来のBCP-ALL 細胞株 72 株。山梨大学の倫理委員会の承認を得て、Illumina HumanCoreExome-12 v1.1 BeadChip を用い約 550,000 カ所の SNP における遺伝子型を決定し、 minor allele frequency (MAF)が 1%未満の SNP を除外するなどの quality control を行って、最 終的に331,281 カ所の SNP における遺伝子型を対象とした。AlamarBlue assay で 50%の細胞が 死滅する Prednisolone (Pred)および Dexamethasone (Dex)の濃度である IC50 の log 値と、
NR3C1遺伝子のexon 8 および 9a に設定した primer で行った real time RT-PCR による遺伝子
発現レベルに対して、PLINK ver1.7 を用いて GWAS を行った。P 値が 5×10-8未満を有意な、10-5 未満をsuggestive な関連 SNP と判定した。
(結果)
(1)Pred感受性におけるGWASでは、3番染色体p14.1領域のrs904419が有意な関連を示し、4カ 所のSNPがsuggestiveな関連を示した。rs904419がGGの細胞株では、GAおよびAAの細胞株に比 べてIC50の中央値が200倍以上高い耐性を示した。
学 位 論 文 内 容 の 要 約 ( 続 紙 ) 氏名 篠原 珠緒 (2)Dex 感受性における GWAS では、有意な関連を示した SNP はなく、6 カ所の SNP が suggestive な関連を示した。最も低い P 値を示したのは 1 番染色体 p22.1 領域の rs2306888 であ った。 (3)NR3C1遺伝子の発現レベルにおけるGWAS では、有意な関連を示した SNP はなく、20 カ 所の SNP が suggestive な関連を示した。最も低い P 値を示したのは 7 番染色体 p14.3 領域の rs11982167、rs11975522 および rs11773644 であった。 (考察) (1)Pred 感受性で有意な関連を示した rs904419 は、FRMD4Bおよび MITF遺伝子の上流に位 置する。FRMD4B は細胞骨格分子であり、srRNA によるノックダウンによって腫瘍細胞株にお ける抗がん剤抵抗性が高まることが報告されている。一方、MITF は転写因子であり、srRNA に よるノックダウンによって多発性骨髄腫細胞の Dex 感受性が高まることが報告されており、 BCP-ALL のステロイド感受性にも寄与している可能性が示唆される。 (2)Dex 感受性の GWAS で最も低い P 値を示した rs2306888 は、TGFBR3遺伝子のコドン173 におけるサイレント多型であり、TGFBR3遺伝子はいくつかの組織でステロイドによって発現が 増強されることが報告されており、BCP-ALL においてもステロイド受容体の標的遺伝子である可 能性が示唆される。 (3)NR3C1 遺伝子の発現レベルで最も低い P 値を示した rs11982167、rs11975522 および rs11773644 は、PLEKHA8遺伝子上に位置する。PLEKHA8遺伝子はグルコシルセラミド輸送に 関与する細胞質蛋白をコードするが、NR3C1遺伝子の発現との機能的な関連性を示唆する報告は なかった。 (結論) 日本人由来のBCP-ALL細胞株のステロイド感受性に関連する遺伝子多型として、FRMD4Bおよ び MITF遺伝子の上流に位置するrs904419を同定した。白血病細胞株を用いた薬剤感受性に関す るGWASは、白血病患者の薬剤感受性に関連する遺伝子多型の同定を可能とし、各症例の遺伝子 型から予測される薬剤感受性に基づいた個別化治療を目指す上で有用な解析ツールとなると期待 される。