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ユーザー主体の連携支援を目指した特別支援学校コーディネーターの取り組み: 幼稚園から小学校への移行支援を通して

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Academic year: 2021

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第1章 はじめに  特別支援教育がスタートして 2 年目に入り、コー ディネーターの配置、校内委員会の設置など特別支援 教育推進のための基本的な体制がほぼ整い、実践的な 内容について取り組んでいく、いわば特別支援教育の ネクストステージに入ったということができる。  今後目指すべきは、子ども及びその家族をユーザー と位置づけ、そのニーズを的確に捉えた上で、子ども の支援を支援者みんなが手を取り合って進めていく、 即ちユーザー主体の連携支援をすすめることであると し、その立役者として、地域のセンター校である特別 支援学校の地域支援コーディネーターが担うべき役割 があるのではないかと考えた。本研究は、ユーザー主 体の連携支援を目指すために必要な取り組みと手立 て、特別支援学校のコーディネーターに期待される役 割と資質について明らかにするために、幼稚園から小 学校への移行支援に関する実践から検証を行っていく こととする。 第2章 問題と目的 1 就学時の現状と課題 (1)就学支援の実態  榎本 (2005) は、「小学校入学を一人の子どもの出発 点とするならば、その時点でどのような場で教育を受

ユーザー主体の連携支援を目指した特別支援学校コーディネーターの取り組み

― 幼稚園から小学校への移行支援を通して ―

The Action of the Special Support School Coordinator who Aimed at

the Cooperation Support of the User Subject:Through the Shift Support from a

Kindergarten to the Elementary School

髙 田 敬 子

Keiko Takada

要旨:特別支援教育の体制整備が進められる中、よりスムーズなライフステージの移行を目指すため には、保護者と学校等が連携して支援することの重要性が示されている。また、特別支援学校は、セ ンター的機能を発揮し、地域全体を見渡した支援の在り方について検討すべき役割を担っているとい える。  本研究では、特別支援学校の地域支援コーディネーターが、A児に対する幼稚園から小学校への移 行支援を中心とした支援を行った。幼稚園、小学校、保護者のそれぞれがA児の就学にあたってなす べき具体的支援を明確に示すことで、幼稚園で行われていた支援が小学校に適確に引き継がれ、本人 が安心して小学校生活をスタートさせることができたと同時に、保護者も一支援者として安心感を 持って子どもと向き合う見通しを持つことができるようになった。  これらの実践を通して明らかになった、就学移行にあたって有効な取り組みとして①幼稚園での就 学後必要と思われる支援の明確化②小学校での入学後必要な支援の明確化と共通確認③保護者による 子ども及び学校との関係作りの推進④幼稚園・保護者・学校の三者による支援の情報の伝達と確認で ある。連携支援のために必要な手立てとしては①幼稚園・保護者・学校の三者の役割の明確化②実施 可能な支援情報の共有化と具体化が挙げられ、このために現段階では、客観的視点を持った地域支援 コーディネーターによる三者それぞれへの支援の必要性が明らかになった。  本研究の課題として、今回提案した「就学支援ガイド」の実質的な効果の検証、地域全体を鳥瞰し た支援体制構築に向けての検討があげられる。 キーワード:特別支援学校、連携支援、就学・移行支援、保護者支援、コーディネーター

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けるかは、その後の人生を左右する大きな問題である」 と述べている。この教育の場を決めたり、支援の方法・ 内容等について確認したりする就学の時期に、保護者 が抱える不安を理解し、支えることがいかに大切なこ とであるかは、容易に推察することができよう。特別 支援教育は「障害児教育」(障害児への教育 ) ではなく、 障害のある子どもやその家族が豊かに過ごせる環境づ くりをも目指す(柘植 ,2007)。家族を支えることと、 子どもを支えることは密接に繋がっているのである。  2007 年、特殊教育から特別支援教育への転換が制 度としてスタートし、場による教育から一人一人の ニーズに合わせた教育への変換が求められている。金 子 (2007) は、このことを「あらかじめ用意された既 製服の教育から、子どもサイズや好みに合わせた注文 服の学校教育への転換」と表現し、だからこそ「採寸 の作業、すなわち学校教育を始めるにあたっての就学 をめぐる取り組みがこれまで以上に重要な意味を持っ てくる。」と指摘している。  この就学をめぐる具体的な取り組みに関しては、各 地方自治体に委ねられており、特別支援教育の推進に 合わせてそれぞれの地域の実情に応じた取り組みが進 められている。(「就学指導委員会」を「就学相談委員 会」へと転換した長野県の取り組み、就学相談の資料 及び移行支援の引き継ぎツールとしての機能を備えた 東京都の「就学支援シート」、母子手帳とセットで使 用する静岡県の「相談支援手帳」等)このように、就 学支援の取り組みが各地方自治体に委ねられていると いうことは、取り組みが進んでいる地域もあれば、そ うではない(取り組みの進まない)地域も存在してい るということを示している。  何らかの事情で取り組みの進まない状況にある地域 では「特別支援教育」という看板は掲げたものの、ニー ズに即した十分な支援や対応がもらえず、子どもはも ちろんのこと、保護者も就学にあたって必要以上のス トレスを感じていることが予想される。  「学校教育法施行令」の改正 (2007) により、就学に あたっては保護者からの意見聴取の義務付けが新たに 規定され「個別の教育支援計画」の策定にあたって、 保護者の参加が盛り込まれるようになったため、保護 者が責任を持って子どもの支援に関する情報提供をし ていく必要性が出てきた。しかし、今のところ、保護 者が子どもの最善の支援方法について情報収集するた めの十分な機会が与えられているとは言い難く、何ら かの形で情報を得たとしても、実際に子どものより良 い支援につながる学校・園との関係の作り方や情報の 伝え方等、保護者サイドからの連携のためのノウハウ について知る場や機会は保障されていない。    就学を一つの契機として、保護者が一支援者として の誇りと自覚を持ち、学校やその他の機関と良い形で つながり、子どもの支援のための中心的サポーターと なって、子どもと共に歩む人生を、主体的に謳歌する ことができるように、保護者をしっかりと支えていく しくみ作りが必要であると考える。 (2)特別支援学校のセンター的機能の実情  文部科学省が行った 2007 年度特別支援学校のセン ター的機能の取り組みに関する状況調査をみると、担 任や学校からの相談内容の第1位が「指導・支援につ いての相談・助言」、次いで「障害の状況などについ ての実態把握と評価について」「就学や転学について の相談・助言」となっており、特別支援学校のセンター 的機能に求められるものとして、より実際的、実践的 な支援の必要性が求められるようになっているという ことがわかる。  また、子ども及び保護者からの相談内容として最も 多いものが「就学や転学等についての相談助言」で、 子どもにとって最適の教育の場を考える際に、直接子 どもが関わっている機関(幼稚園や学校)以外の機関 ( 特別支援学校等 ) に直接相談を掛けるケースが増え てきている。より専門的な知見と客観性を持って子ど もの進路について判断しようとする保護者の姿勢が見 られ、特別支援学校が地域のセンター校として、地域 の学校の保護者を直接サポートすることも実態として 見られるが、その取り組みの有効性に関する研究はあ まり見られない。  地域全体の特別支援教育を推進していく上で、支援 ニーズを的確に把握し、タイミングよく対応していく ことで、今後特別支援学校のセンター的機能のさらな る充実が果たせると考える。地域の実情に応じた就学 支援に対して、特別支援学校の地域支援コーディネー ターに期待される役割があると考えられるし、そのこ とについて明らかにしていく必要があると考える。

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2 研究の目的  特別な支援を必要とする子どもの、就学時の現状と 課題を踏まえ、以下の二点を本研究の目的とする。  一点目は、ユーザー主体の連携支援を目指し、就学 移行にあたって必要な取り組みと連携支援のための手 立てについて明らかにすること。  二点目は、就学移行における、特別支援学校の地域 支援コーディネーターに期待される役割と資質につい て明らかにすること、である。 第3章 方法  本研究は、幼稚園および小学校での実践とそれに基 づいた教育委員会との連携による取り組みを柱とす る。これら一つ一つの実践結果から得られる「効果」 図1 研究テーマ鳥瞰図

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と「妥当性・課題」を検証し、それぞれの実践から示 唆された内容を総合的に考察する。  考察を通して幼稚園から小学校への移行支援をどの ように進めるべきかを明らかにし、その結果から本研 究のテーマであるユーザー主体の連携支援を目指すた めに、地域の特別支援学校のコーディネーターに期待 される役割と資質について明らかにしていく。実践全 体のスケジュールを図2に示す。 第4章 研究実践1:就学移行の取り組み支援及び就  学支援ガイドの作成と活用 1.基礎情報  期間:2007 年 10 月∼ 2008 年 7 月  対象:X町立B幼稚園、A小学校、 A児 2.目的 ・ 小学校学校生活をスムーズにスタートさせるため に、幼稚園から小学校への移行にあたって必要な取 り組みについて明らかにすること。 ・ 就学前機関、保護者、学校が相互に情報を得て、 就学に向けて見通しを持って準備することができる しくみ(ガイド)を提示する。 3.方法 ・ 個別の教育支援計画、就学支援会議、個別指導等 による就学移行の取り組みを支援する。 ・ 就学移行の取り組み(実践)、就学支援に関する 資料等を基に、教育委員会との連携により「就学支 援ガイド」を作成する。 4.結果 (1)就学移行の取り組みについての評価  これまで、支援の引き継ぎに関して決まったスタイ ルがなかったが、幼稚園で保護者と共に策定した「個 別の教育支援計画」を引き継ぎのためのツールとし、 入学前後に「就学支援会議」を持つことで、支援情報 の共有化ができた。対象児の必要に応じて「就学に向 けた個別指導」を行うといったことも含めた就学移行 に関する一連の具体的な取り組みを進めることによっ て、ユーザーである保護者をはじめ幼稚園、小学校も 安心感をもって就学に備えることができた。取り組み を通して、幼稚園と小学校との間に、子どもや保護者 への支援に対する捉え方の違いがあることが明らかに なった。 表1 就学移行の取り組み支援スケジュール

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(2)対象児の適応  就学支援会議で得た情報を基に入学式当日から支援 をスタートさせ、幼稚園からの引き継ぎ事項に基づい て具体的な支援を行い(Step 1)、さらに子どもの様 子に合わせて支援方法をステップアップさせること により(Step2)、子どもが変容していった様子 (Step3) を見て取ることができた。また、幼稚園では時間の経 過に伴い、支援の必要がなくなったため、情報として 引き継がれていなかったことで、入学後再び支援を要 するようになったということがいくつかあった。本人 の特性を考慮し、環境の変化によって再び支援が必要 になることもあるということを、会議の参加者全員で 気付くことができ、次年度への引き継ぎに生かしてい くべきこととして、確認がなされた。 図 4 就学支援ガイド(表紙)と連携図 図3 就学支援会議③の資料

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(3)就学支援ガイドについての評価  就学に関わる全ての情報を一冊の冊子として作成す ることで、保護者・就学前機関・学校のそれぞれが取 り組むべきことを明確に提示することが できた。  ガイドに沿って就学の取り組みを進めることで、そ れぞれが主体性をもって支援に関わる ことが可能となり、お互いの役割を認識した上で支援 する、いわゆる連携支援のモデル提示を行うことがで きた。 5.考察  地域支援コーディネーターが客観的な視点を持っ て、就学移行の取り組みを具体的に提案し進めていく ことによって、これまであいまいだった周囲の支援者 のなすべきことが明らかになり、目的を明確にして取 り組むことによって成果を実感し、より主体的な支援 に結び付けることができるということが明らかになっ た。また、就学にあたって必要と思われる事項を該当 者ごとにまとめた冊子(「就学支援ガイド」)を作るこ とによって、連携を進めるにあたって必要な役割の明 確化ができ、ユーザーを中心に据えた望ましい就学支 表2 就学支援ガイドについての評価

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援(連携支援)のモデル提示を行うことができた。各 校各園ごとにそれぞれで就学支援の取り組みを行うの ではなく、ガイドを用いることで、地域で統一された 就学移行の取り組み(システム)ができ、同じ物差し をもって就学支援に関する様々なケースの情報交流を 近隣の学校同士で行うことができる。そのことを通し て、支援のノウハウについての力量を高め合うことも 可能となるであろう。  今回、幼稚園と小学校との間に子どもの支援、ある いは保護者への支援に対する捉え方の差があることが 明らかになったが、これを埋めるためには、神田 (2007) が指摘しているように、幼児教育で重視し作り上げら れてきた視点・子ども観・ 子どもの力を小学校の側で も学び、生かしていくという方向での移行・連携が必 要であると考える。     発達障害のある子どもの就学に当たってはその困難 性が表面上は分かりにくい上、発達年齢からいっても 本人自身が困難性について意識することも難しいため 「幼稚園でできるようになったからもう大丈夫」だと か「小学校ではこうあるべき」という発想でスタート させるのではなく、まずはユーザー主体(子どもの実 態あるいは保護者の実態)の視点に立ち、「無理して 頑張りすぎていることはないか」「どのような支援が あれば、少しでも早く新しい環境に慣れ、スムーズに 集団適応することができるのか」ということを念頭に おいて移行支援を進める必要があると思われる。  発達障害の特性からいっても、スタートをいかにス ムーズに切るかによって、その後の学校生活を大きく 左右することが考えられる。子どもの支援あるいは保 護者への支援に対する認識のギャップがある現状を踏 まえると、子どもの成長発達にとって本当に必要なこ とを、保護者、就学前機関、学校で共通確認し、特性 に合わせた支援が一本のラインで滑らかにつながって いくことができるよう、地域支援コーディネーターが 客観的な視点を持って後押ししていく必要がある。  以上のことから、地域支援コーディネーターには、 地域の実情を見極めた上で、特別な支援を必要とする 子どもが就学移行するにあたっての具体的な取り組み を進めたり、連携の仕方について客観的視点を持って 提示を行ったり等の役割があることが明らかになっ た。 第5章 研究実践2:小学校における個別支援 (小グループSST、保護者学習会) 1.基礎情報  期間:2008 年 5 月∼ 9 月  対象:X町立A小学校 A児 ( 1年 )・B児 ( 2年 )     A児・B児の保護者 2.目的  学校生活へのスムーズな適応を促すために、入学後 表3 小グループSSTの指導・支援プログラム(1回 60 分)

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表4 保護者学習会における学習内容

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に必要な取り組みと学童期の子どもを持つ保護者に とって必要な支援とその効果について明らかにする。 3.方法 ・ 小グループSST  1 回 45 分、月 2 回(計 8 回)放課後にソーシャ ルスキルトレーニングを中心とした小グループ学習 を実施。学習内容・様子については、毎回記録ノー トに綴り、コーディネーター→担任→保護者に回覧。 ・ 保護者学習会  1 回 90 分、月 2 回(全 8 回)A児、B児の保護 者を対象に、子どもとの関係作り、学校との連携の 仕方等についての学習会を実施。第 6 回、第 7 回は 次年度就学予定のC児、D児 4.結果 (1)小グループSSTの評価  小グループSSTに対するアンケートの評価結果か ら、教師も保護者 ( 本人 ) も実施とその効果に当たっ ては高い評価を示している。指導内容や子どもの様子 を書面を通して伝えることで、保護者と教師が本人に とって必要な支援について知り、支援に関する情報を 共有しながら子どもと関わることができた。また小グ ループSSTを行うことで、子どもにとっては自己の 課題に合わせた学習の場が保障されことになり、周囲 の支援者にとっては、より適切な日常の支援の方法に ついて互いに確認できる場が確保され、よりスムーズ な適応を促すことにつながった。 図6 小グループSSTの評価(保護者) 図7 保護者学習会の評価

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(2)学童期の保護者支援  保護者学習会を通して、子どもや周囲との関わり方 を学んだり、他の保護者の体験談を聞く機会を持った りすることにより、不安や悩みを共有しながら具体的 方策を知ることができ、保護者として今後の子育てや、 学校と連携に前向きに関わる姿勢が養われるというこ とが明らかになった。 5.考察  就学移行期に小グループSSTを行い、そこでの指 導内容・子どもの支援の様子について、保護者、教師 と情報を共有することによって、当面必要な支援につ いて確認することができ、より質の高い支援(連携支 援)が行われることによって新しい環境への適応を促 し、スムーズな移行を果たすことができる。小グルー プでの指導場面で子どもの特性に合わせた指導・支援 を実施し、その成果を示すことで、小学校の教師に特 性に合わせた指導・支援の必要性に対する気づきを促 すことができ、幼稚園と小学校との支援に対する認識 のギャップを埋めていくことができるのではないかと 考えられる。小グループSSTの指導場面で明らかに なった本人の課題に対する支援を、通常学級での指導 にも生かしていくためには、担任の理解が不可欠であ るし、通常学級での指導・支援の手立てを明確にし、 保護者も含めた支援チームで共通理解しておくことが できれば、連携支援の理想的なスタイルができあがる。 個別の教育支援計画や指導計画等を用いて入学後の支 援の在り方について、定期的に振り返る取組みも進め ていく必要があると考える。  今回、特別支援学校の地域支援コーディネーターが、 就学移行期に小グループSSTを行ったことは、この 地域において個に応じた指導・支援の必要性や保護者 も交えた支援(連携支援)の在り方に対して気づきを 促せたという点においては妥当であったが、コスト面 を考慮すると、運用が始まった通級指導教室あるいは、 特別支援学級の弾力的な運用(特別支援教室構想)に 同様の役割を委ねていく方が長期的な展望としては有 効であると思われる。  淵上ら (2005) はその研究結果から、発達障害児を もつ保護者のうち「情緒・情報的サポート」よりも「指 導・評価的サポート」を重視している保護者の方が教 師との関係・子どもとの行動についてのストレスが低 いことから、より具体的な内容でサポートしていくこ とが求められ、そのためには、障害についての専門性 や、教育相談、医療などの専門機関との連絡・調整が できるコーディネート力が求められるとしている。し かしながら、教育的支援の可能性を伝えることと同時 に、学校ができることの限界も伝え、理解と協力を得 ることも必要であると指摘している。この学校がで きることの限界に対する対応として、西川 (2008) は、 それぞれの地域における様々な人的・物質的資源を最 大限に活用した大胆な取り組みを行っていくことが大 切であると指摘している。即ち地域の特別支援学校が センター的機能を発揮し、舵取り役となって地域の人 的・物質的資源に関する情報収集、コーディネートを 行い、それらを用いて地域の学校・園を支援していく といったことが考えられるであろう。  特別支援学校の地域支援コーディネーターが、専門 的知識をもって子どもとの関わりや学校とのつながり 方を伝え、地域の人的資源を活用した保護者への支援 を行うことにより、子ども及び学校や周囲との良好な 関係構築を促すことができ、就学前後の不安を低減さ せ、保護者が見通しを持った主体的な子育てができる よう支援することができるということが明らかになっ た。  以上のことから、地域支援コーディネーターには、 具体的な指導・支援の在り方について、小学校の教師 や保護者に実践を通して示したり、情報提供したりす る役割、子どもや周囲(学校)との関係作りについ て、保護者に対して専門家としての知識を提供したり、 ニーズに応じて地域の人的資源をコーディネートし、 具体的なノウハウを提供する役割があることが明らか になった。 第6章 総合考察  研究実践1では、保護者、幼稚園、小学校の三者で 就学後に必要と思われる支援情報の伝達(引き継ぎ) を確実に行うことと、移行後の支援状況について確認 することが就学移行にあたって必要な取組みであった ということができる。  研究実践2では、幼稚園から引き継がれた情報を基 に、入学後の様子から学校生活場面での課題を明らか にし、小グループSSTを行うことで、個に応じた指 導場面を確保した。小グループSSTでの指導・支援

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内容について保護者と学校に伝えることによって、個 に応じた望ましい支援方法がより明確になり、保護者 と学校とで共通理解の上でより質の高い支援(連携支 援)を行うことができた。   幼稚園・保育園からの支援情報が小学校の担任まで しっかりと伝わる校内組織と支援が活かせる校内支援 体制を構築することが、就学支援の最大の課題である (岡田 2007)。就学移行の一連の取り組みを明確に提 示し、丁寧に進めていくことが、校内組織、校内支援 体制の充実にもつながっていくということが、実践を 通して明らかになった。  本研究の結果から就学移行にあたって必要な取り組 みとして、幼稚園での就学後必要と思われる支援の明 確化、小学校での入学後必要な支援の明確化と共通確 認、保護者による子ども及び学校との関係作りの推進、 三者による支援の情報の伝達と確認が挙げられる。   連携支援のために必要な手立てとして、幼稚園・保 護者・学校の三者の役割の明確化、実施可能な支援情 報の共有化と具体化、地域支援コーディネーターによ る三者への支援が考えられる。  就学移行における地域支援コーディネーターに期待 される役割として、客観的な視点で三者を有機的につ なぐ役割があげられる。地域の就学システムについて 熟知しており、保護者への具体的な支援のノウハウを 持ってサポートしながら、幼稚園・小学校との互いの 関係が良好なものになるようにフォローできる資質を 必要とする。  本研究を通して得た課題として、「就学支援ガイド」 の実質的な効果の検証、できるだけ早く支援ニーズに 応えるための地域全体を鳥瞰した支援体制の構築、子 どもの支援ニーズに対する保護者との情報共有の在り 方の検討がある。 第7章 おわりに  ユーザー(保護者)を主体に支援者同士が、互いに 尊重し合って支え合う支援(連携支援)が行われるこ とによって、子どもの成長を共に喜びあうことができ、 成熟したより質の高い支援を提供することができる。 支援者それぞれの持ち味を引き出して生かす働きを担 う特別支援学校の地域支援コーディネーターは、地域 の包括的マネージャーであるといえる。 補足  本稿は、兵庫教育大学大学院特別支援教育学専攻に おける筆者の修士論文のうち、第 4 章、第 5 章、第 7 章を中心に記載した。 引用文献 榎本和(2005):就学相談の現状−就学児童の教育相 談について−.こころの科学.日本評論社. 淵上克義・岡野清子・棚上奈緒(2005):特別な教育 的ニーズを必要とする子どもをもつ親のストレス、 教師からのサポート認知、学校の認識イメージ認知 に関する研究,適応障害の包括的支援システムの構 築. 金子健(2007):ノーマライゼイション社会を目指す 就学支援−歴史と現実を踏まえて−:特別支援教育 研究,No601,pp4 − 5.日本文化科学社. 文部科学省(2007):2007 年度特別支援学校のセンター 的機能の取り組みに関する状況調査. 岡田哲夫(2007):小学校における就学前支援の取り 組み.LD研究,16(3),pp56 − 1. 清水貞夫・相澤雅文(2006):「個別の教育支援計画」 と生涯ケア. 田中良三・山本理絵・小渕隆司・神田直子 (2007): 発達障害児の幼児期から小学校への移行支援.愛知 県立児童教育学科論集 41 号. 柘植雅義(2007):発達障害のある子どもの家族を支 援するために.児童心理.No866.p115 − 120

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