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グローバリゼーション・アジア新興国の時代と日本の地域政策・大都市政策

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(1)研究ノート. . グローバリゼーション・アジア新興国の時代と 日本の地域政策・大都市政策 中  村  剛 治 郎 はじめに. の極を形成することに失敗し,いま,グローバ ル経済と知識経済の時代の下で,地域経済の低.  小論は,グローバリゼーションの時代におけ. 迷と地域政策をめぐる難問に直面するに至って. る日本の地域政策と大都市政策の現状と課題に. いる.. ついて検討する.最初に,その準備作業とし.  日本では,長い間,企業と一体になって産業. て,日本における地域政策の歴史を簡単に顧み. の国際競争力を強化し,効率を重んじ,国民経. る.次に,1980 年代半ば以降のグローバリゼー. 済の成長を優先するという,開発主義国家の発. ションの時代における日本の地域政策・大都市. 展戦略が支持されてきた.それゆえ,日本の地. 政策の動向を総括し,最後に,アジア新興国の. 域政策は,先進工業国のそれと共通する側面と. 台頭というグローバリゼーションの新段階のも. 同時に,異質な性格を帯びてきた.日本の地域. とで,日本の地域政策や大都市政策の現状を検. 政策は,産業の立地,都市と農村の配置,土地・. 討し,政策課題を提示する.. 水の利用,災害防除,電力・交通・情報通信・. 1.日本における地域政策・大都市政策の変遷. 科学技術研究施設などのインフラ,文化・厚生・ 観光などにわたる,いいかえれば,産業政策・.  先進工業国における地域政策は,一般化して. 社会政策・インフラ整備など,あらゆる領域の. 言えば,次のように発展してきた.. 諸政策をカバーし,これらを中央政府主導の空. ①戦後の経済成長期:地域格差の縮小を掲げて,. 間計画で統合しリードするような,総合的で,. 工業の集中する大都市で立地規制をし,停滞地. 大きな,しかし,本質的には成長優先の国土計. 域に優先的に工場の立地移転を促進する再配布. 画(その名称は全国総合開発計画=以下,計画と. 型地方分散政策,. 略す)として展開されてきた.. ② 1970 年代以降:大都市への立地規制を緩和.  日本における地域政策は,中央政府の国土計. し,あらゆる地域で,地域の諸アクターの協力. 画の流れでみると,. によって企業活動を活発化させる内発的成長政. ①戦後復興期の既成工業地帯整備(大都市地域. 策,. の重視,隘路打開型インフラ整備)と河川総合開. ③グローバリゼーションと知識経済の時代:新. 発(既成工業地帯へ電力や工業用水を供給),. しい時代の成長エンジンの可能性を最も有する. ② 1960 年の太平洋ベルト地帯構想( 重化学工. 地域として大都市地域を重視するグローバル競. 業化で経済成長,企業立地の動向に即して大都市. 争国家の地域政策の登場,である.. 地域を連ねる太平洋沿岸地域を優先開発 ) ,1962.  日本の地域政策は,この流れを共有しつつも,. 年の第 1 次全国総合開発計画(地域間の均衡あ. 独自の変遷を遂げてきた.それは,日本経済の. る発展,後進地域の拠点開発を謳うも,内実は,. 成長を加速させ,先進工業国への仲間入りに貢. 太平洋ベルト地帯構想の推進) ,. 献し,所得水準など量的な地域格差の縮小に成. ③ 1969 年の第 2 次計画(国土全域に開発可能性. 功したが,同時に,多様な地域に内発的な発展. の拡大,東京の中枢管理機能の強化,遠隔地に巨. 『エコノミア』第 61 巻第 2 号(2010 年 11 月),67 - 73 頁[Economia Vol. 61 No.2(November 2010),pp.67 - 73].

(2) . 大工業基地開発,東京と全国を結ぶ高速交通通信. 大都市地域への集中を促進した.結果として,. 体系の整備でリンケージコストの低減 ) ,1977 年. 国土レベルにおいて,東京大都市圏を頂点とす. の第 3 次計画( 地方定住構想を謳うが,実体は,. る求心的垂直的国土構造が形成された.東京大. 第 2 次計画の推進) ,. 都市圏レベルにおいても,都心や副都心に,大. ④ 1986 年の第 4 次計画中間報告(米国の円高ド. 企業の本社機能・金融・ビジネスサービスな. ル安誘導・内需拡大圧力への対応,本格的国際化. どの中枢管理機能,隣接する神奈川県などに研. 時代への対応,世界の中枢都市の一つとして東京. 究開発機能,北関東地区に量産型組立工業の母. 重視・再開発) ,1987 年の第 4 次計画(東京一極. 工場機能の集積が進み,東京の都心機能を頂点. 集中の是正と多極分散型国土の形成を謳うが,実. とする同心円的な大都市圏の都市構造が形成さ. 体は,東京の世界都市機能の強化,東京圏に業務. れ,東京大都市地域もまた求心的垂直的地域構. 核都市の形成,東京圏一極集中を促進,広域ブロッ. 造を形成した.それゆえ,たとえば,人口 350. クごとに地方中枢都市の成長を期待,大都市民間. 万人の横浜市は,人口規模では大都市であるに. 資本主導のリゾート開発) ,1998 年の第 5 次計画. もかかわらず,その実体は,中枢性を持たず,. (多軸型国土構造への転換を掲げて 2 次計画以来の. 東京に中枢機能を依存する郊外の工業生産拠. 大規模プロジェクトの推進,しかし,副題で地域. 点,研究開発拠点,住宅都市といった衛星都市. の自立を強調,公共事業縮小・再分配政策の縮小・. の集合であり,周辺的地位に甘んじている.. 地方分権をめざす新自由主義的構造改革路線の優.  国土レベルでの東京大都市地域と地方圏,そ. 位,全国総合開発計画の終わりを予告) ,. して,東京大都市地域レベルでの都心と周辺地. ⑤ 2008 年の国土形成計画(名実ともに全国総合. 域,二層の求心的垂直的空間構造が形成されて. 開発計画から転換,地方制度改革・道州制導入を. いるところに,日本の空間システムの特徴があ. 展望した広域ブロック計画中心の計画へ,台頭す. る.そして,この空間構造が日本の輸出型製造. る東アジアの中での広域ブロックの独自性と国際. 業に空間システム的競争優位という外部経済を. 競争力の強化,成長エンジンとしての首都圏の国. もたらし,日本の製造業の国際競争力の強化,. 際競争力強化 ) ,2009 年民主党政権誕生,国土. 加工貿易立国による経済成長を支えてきたので. 形成計画の継承,大都市圏とくに首都圏の国際. ある.二層の求心的垂直的空間構造の形成の背. 競争力強化を前面に打ち出す成長戦略の構築を. 後にあるのは,政治と経済の結びつきによる成. 課題,. 長主義的な開発主義国家という日本経済のあり. という変遷をたどってきた.. 方であるが,日本の産業が独立企業型産業シス.  地域政策論では,しばしば,集中と分散が対. テムを競争力の源泉にしてきたという,国際的. 立する概念であるかのように論じられるが,上. な比較制度的視点からの特殊な産業システムの. 記の①から③までの時期の日本経済において. あり方が重要である.日本の企業は,個々の企. は,集中が分散を呼び,分散が集中を呼ぶ,相. 業を超える地域に開かれた研究開発交流や人的. 互作用的成長メカニズムが生まれた.大都市地. ネットワークを基礎とする地域的イノベーショ. 域への集中が大都市地域の空間的機能再編,中. ンシステム,言い換えれば,地域的ネットワー. 心部に高次の経済機能を集中する内包的発展と. ク型産業システムの形成に関心がないので,同. 郊外へのそれほど高次でない機能の外延的拡大. 業種企業が同じ地域に集積していても,たいて. を進め,同時に,低次の経済機能,生産現場. いは,互いに交流することがない.企業内では. 機能や営業現場機能の地方圏への分散を促進し. 労使協調による競争力強化の取り組みに熱心で. た.地方圏に分散した生産機能・営業現場機能. あるが,外に向かっては閉鎖的である.日本の. は,大都市地域の本社や研究開発,母工場など. 求心的垂直的空間システムは,独立企業型産業. 高次の経済機能とのリンクを求め,高次機能の. システムに基づくヒエラルヒー的な企業内分業.

(3) . システムの空間展開の集合として制度補完的に. 集積といった,知識経済に必要な経済力を地域. 形成されてきたのである.. に蓄積してこなかったからである.東京大都市. 2.グローバリゼーションの時代と 日本の地域政策・大都市政策. 地域の頭脳機能についても,個人の主体性・創 造性よりも組織への忠誠心を重んじる日本企業 の本社集中を基礎としているだけに,同質的な.  ところが,1980 年代半ば以降,資本の多国. 会社人間による企業内分業システムのブランチ. 籍企業化が主導するグローバリゼーションの時. を効率的に管理する仕事に安住してきたという. 代に入ると,しだいに,日本の産業が享受して. 問題を抱えてきた.結果として,東京圏に集積. きた空間システム的競争優位は競争劣位に転化. する企業にとって,個性的で枠にはまらない異. する傾向を強めた.東京大都市地域を頭脳(高. 質な人間や多様な知識・文化を背景にもつ人材. 次の経済機能) ,地方圏の地域を手足や排泄器官. の集積と交流による知識創造の場である都市の. (生産現場や迷惑施設の立地) ,地方中枢都市や地. 意義,つまり,多様な人材の集積という点で企. 方中核都市を中継器官(支店経済)と位置づけ,. 業を超える存在たる都市の意義を自覚し活用す. それぞれ,機能を効率的に分担しあう有機的で. る視点が弱かった.それが,世界で通用する知. 一体的な求心的垂直的国土構造を形成するため. 識労働の生産性や創造性で見劣りし,あるいは,. に巨額の公共投資を行ってきた日本の地域政策. 世界の市場を見渡し,世界の多様で異質な人材. は,日本のリーディング産業である輸出型製造. や企業の協力関係を組織して,新しい世界標準. 業にとって有効性を失い,日本の経済・財政に. となる新商品の企画力や競争ルールの標準化の. とって重荷となってきた.グローバリゼーショ. 設計力,それらの提案を採用する柔軟な企業組. ンの時代は,先進工業国にポスト工業化,知識. 織,目利き力の蓄積,国際的交渉力では弱いと. 経済への移行を求め,開発主義国家による加工. いう問題に繋がった.. 貿易立国路線の限界を明らかにした..  上述の日本の地域政策の変遷に戻ろう.グ.  1980 年代半ば以降,ドル安円高の時代に入. ローバリゼーションの時代が到来した④の段階. ると,日本の輸出型製造業は,海外への生産. の第 4 次計画は,東京大都市地域が世界都市の. 移管を加速させた.工場立地は国内分散から国. 一つとして機能するために,東京圏の改造を打. 際分散の時代に移行した.高付加価値の新製品. ち出した.国内的な中枢管理機能だけでなく国. 製造工場などとして国内立地を維持した場合で. 際的な中枢機能の集積を強化するために,東京. も,生産の自動化,省力化が進められ,雇用効. の都心や副都心の再開発にとどまらず,その周. 果は低減して行かざるを得ない.地方圏は,地. 辺に多数の業務核都市を形成することを打ち出. 域経済の運命を工場の地方分散に依存すること. した.地方圏の活性化には,工業生産機能の地. はできなくなった.海外の生産拠点との競合に. 方分散ではなく,企画・情報・中枢管理・研究. よって既存工場が閉鎖や縮小に追い込まれ,他. 開発など高次の経済機能の集積が必要であると. 方では,安価な農産物輸入の拡大が農村経済に. いう認識からすれば,業務核都市は,地方圏に. 打撃を与えた.. 分散的に配置する方策を採るべきであったが,.  この危機に対し,地方圏では,地域の中か. 東京に隣接する都市に分散配置したので,東京. ら創造的に対応することが難しかった.なぜな. 圏一極集中が進むことになった.. ら,東京大都市地域に頭脳機能を依存する求心.  1998 年の第 5 次計画は,戦略の一つに「大. 的垂直的国土構造のもとで,手足的な現場機能. 都市のリノベーション」を掲げた.グローバリ. に特化してきた地方経済は,変化に対応する内. ゼーションと知識経済の時代における発展拠点. 発的な発展力あるいはイノベーションを起こす. として大都市地域の再生に取り組むことを正面. 創造力,世界に通用する知識労働を担う人材の. から打ち出してゆくための政策体系の転換を示.

(4) . 唆するものであった.renovation(修復,再生). レベルの発展計画を立て, 主体的に推進すべし,. は,成長の時代の redevelopment(再開発)と. とした.. ちがって,成熟の時代の都市再生方式を指向す.  しかし,現実を見ると, 「わが国第 2 の中枢. るものであるが,実際には理念倒れの傾向が強. 都市」であるはずの大阪大都市地域は, いまや,. かった.. 地方中枢都市(支店経済)的な地位に没落して.  他方で,1980 年以降,従来の国土行政担当. いる.国際的な「ものづくりの中枢地域」と. 官庁ではなく,通商産業省という産業行政担. 位置づけられる名古屋大都市地域はトヨタ自動. 当官庁が地域政策の領域に参入するようになっ. 車関連産業に依存する特定工業都市と化してい. た.知識経済の時代には,開発行政による工場. る.生産拠点だけでなく開発拠点さえ新興国に. 誘致ではなく,地域で産業を組織化してあらゆ. シフトする時代のもとで,今後の成長を期待す. る地域からイノベーションを起こしてゆく発展. るのは難しい.ほかの広域ブロックになると,. のメカニズムを創出するような内発型の地域経. ますます,何らかの分野での国際的センターに. 済政策が求められるからである.1980 年代の. なるのは難しい.地域の自立や地方分権という. テクノポリス計画は,その理念とは裏腹に,ハ. 言葉は,今の日本では,地域の切り捨てを意. イテク企業の地方圏への工場進出のための受け. 味するのではないかとの疑問の声が出ている.. 皿作りにとどまった.2001 年には,新事業に. もっとも,東京圏でさえ,国内では一極集中の. 挑戦する地域の中小企業と大学との連携による. 地位にあるが,世界やアジアでは国際的地位を. 産業クラスター計画が生まれ,イノベーション. 低下させている.たとえ,東京圏がアジアシフ. やベンチャー企業の創出をめざす試みが始まっ. トを加速させている多国籍企業のコントロール. た.国の支援を受けて,各地で取り組まれてい. 拠点として成長しえたとしても,国民経済の時. るが,大きな成果は生まれていない.. 代の工業化のように,東京の集中や活力が他の. 3.東アジア新興国の台頭と 日本の地域政策・大都市地域政策. 地域の成長に波及することは期待できず,逆に, 国内の他の地域の産業と雇用を縮小に導く負の リンクが組み込まれる可能性が高いという問題.  「アジアの世紀」が語られるほど,東アジア. がある.かつて,国民経済を基盤とする日本経. 新興国の台頭が鮮明になった⑤の段階に入っ. 済の成長の時代には,1で指摘したように,大. て,2008 年の国土形成計画(全国計画)は, 「多. 都市地域と地方圏との間で 「集中が分散を呼び,. 様な広域ブロックが自立的に発展する国土」を. 分散が集中を呼ぶ相互作用的成長メカニズム」. 国土ビジョンとした.従来の全国総合開発計画. という国内的空間統合が機能したが,グローバ. のように,国が地域間の均衡ある発展を目標に. ル経済やアジア経済を基盤とする日本経済の成. 掲げ,国主導の公共投資プロジェクトを地方圏. 熟化の時代には,市場経済の論理は,国境を超. に配分することによって府県や市町村を誘導し. える国際的空間統合と国内的空間非統合,東京. て地域開発事業を推進するという方式と決別す. 大都市地域への国際的中枢機能の集積と国内地. ることが打ち出された.国土形成計画は,地域. 方圏の産業の海外分散(産業空洞化)を求める. の単位について,府県制廃止・道州制導入とい. ことになるからである.この問題に対応しうる. う地方制度改革を見込んで,日本を 10 の地域. 地域政策を打ち出せるかが,日本経済の国際化. に区分する広域ブロックのレベルで設定した.. を進める現代日本の試金石になっている.. その上で,計画は,地域の自立と責任を強調し た.それぞれの地域が,台頭する東アジアの中.  他方,ローカルな生活圏レベルについては, 「新たな公」という概念に基づくコミュニティ. で独自の地位を築いて自立的に発展できるよう. の組織化が政策の柱として打ち出されている.. に,何らかの分野で国際競争力を強化する広域. 人口減少と高齢化の時代のもとで地域社会は不.

(5) . 安に陥っている. 「新たな公」は,住民や地域. 企業関係者が快適に仕事のできるビジネス環境. 団体,NPO,企業などが主体となって,行政. 及び生活環境を有する都市の形成を目指す.ま. と協働して,地域社会の維持に取り組む活動を. た,我が国のみならず,世界に通用する製品,. 言う.地域政策は,ローカルのレベルでは,地. サービス,知的財産等を生み出すイノベーショ. 域経済の開発と成長によって社会統合を図る時. ンを創出する地域として強化・育成するととも. 代から,地域社会を,直接,組織化して社会統. に,港湾,空港,情報通信基盤等世界とのゲー. 合を図るコミュニティ政策の時代へと転換した. トウェイ機能を強化する」ことを打ち出してい. のである.. る..  2009 年 8 月には,8 つの広域ブロック(地域).  工業化の時代が終わったにもかかわらず,加. を単位とする国土形成計画(広域地方計画)が. 工貿易立国の路線に固執し,ポスト工業化段階. 策定された.地域ごとに経済団体,国と地方の. への移行に成功していない日本経済は,その国. 行政の代表が集まる広域地方計画協議会の審議. 際的地位を大きく低下させている.これまでは,. を経て国土交通大臣が決定したものである.共. 日本の大都市地域が先頭を走る「雁行型発展」. 通して,地域の自立を謳いつつ,外に向かって. が東アジアの経済発展の特徴であった.いまや,. は,東アジア諸国の台頭を意識した国際競争力. 分野によって,東アジア諸国の企業や大都市地. の視点,内に向かっては,成長のエンジンとな. 域が新しい成長エンジンとなって,アジアの時. る都市・産業の強化を重視している.もっとも,. 代をリードする新段階へ移行している.東アジ. 主要なプロジェクトに焦点を合わせると,高速. アの大都市地域がそれぞれの強みを発揮して,. 道路や大規模港湾,国際空港などの整備,つ. 相互に連携・協力しつつ競争し,ネットワーク. まりは,国土交通省が別途策定している公共投. 型発展という東アジアの新経済秩序を創り出す. 資の諸計画の推進を地域の側から要望させてい. べき時代が到来したのである.. る形になっている.全総計画の柱であった国主.  ところが,日本における大都市地域政策は,. 導の公共投資プロジェクトが,今後の投資余力. 成長著しい東アジア諸国の大都市地域との都市. の減退から将来の維持コストを見込むなら転換. 間競争に勝ち抜くために,国家が総力を挙げて. (縮小)が不可避にもかかわらず,むしろ、逆. 大都市地域の国際競争力を強化する政策体系に. にいまを逃しては大規模投資が難しくなるとば. 転換することを謳っている.とりわけ,首都圏. かりに、地域からの要望を反映した広域地方計. の国際競争力の強化が重視されている.. 画で支持されているという形を作って生き残ろ.  1998 年 4 月と 2010 年 3 月の経済団体連合会. うとしているかのようである.. の提言は,いずれも,「商業・工業・金融・行.  大都市政策の現状について,東京大都市圏に. 政等の各種機能が集中する大都市は,国全体の. 注目してとりあげよう.この大都市地域の政策. 成長エンジン」という観点から,東京を世界都. は,首都圏(人口 4200 万人,域内総生産 194 兆円,. 市にするための大胆な都市戦略の必要を説いて. 資本金 50 億円以上日本企業の本社のうち 62% が. いる.しかし,その内容は,「 東京圏における. 立地,東京都だけで 53% 立地,東京証券取引所上. 最大の課題 」 あるいは「わが国の国際競争力を. 場企業株式時価総額は世界の同総額の 1 割を占め. 左右する」課題として,大都市の交通・物流イ. る)という広域空間のレベルで計画されている.. ンフラのボトルネック解消を強調するもので,. 2009 年の「首都圏広域地方計画」は,首都圏. 工業化時代の全総計画と変わらない旧来型の発. の果たすべき役割を「引き続き世界有数の国際. 想から脱け出ることができていない.. ビジネス拠点として機能し,日本全体,東アジ.  東京都の「10 年後の東京」(2006 年)という. ア,世界を牽引する成長エンジンとしての役割」. 都市構想も同様である.世界に範たる都市をめ. に求めている.そのための方策として「世界の. ざす東京の最大の弱点は「交通渋滞」にあると.

(6) . いう立場から, 「3 環状道路等の整備によって. う.いうまでもなく,この道は,欧米の標準化. 克服する」ことを第 1 の課題としている.. 競争戦略と協調する場合もあれば,対立する場.  日本では,人口減少・少子高齢化社会のもと. 合もあるかもしれない.その時,日本は,これ. で国内市場は縮小の時代に入るので,東アジア. までの対米一辺倒的な従属的国家の道から離脱. 諸国の成長を取り込むために,都市間競争に打. して,アジアの一員としての協力関係を重視し. ち勝つための大都市地域の国際競争力を強化す. ながら,米国民との関係も大事にするような,. べきだという考え方が政策基調になっている.. 新しい日本の自立の道を切り拓いていくことが. 2010 年 4 月の民主党政権の下での「国土交通. できるかどうか,国家戦略をめぐる選択が問わ. 省成長戦略会議重点項目」もまた同様の発想で. れることになるであろう.. ある.たしかに,日本は,経済を活性化させ,.  日本企業が東アジアへの進出を加速するとす. 国際競争力を強化しないと,アジアや世界で,. れば,東アジア企業の日本への進出をも大いに. その地位を高めることはできないであろう.し. 歓迎する相互浸透の「国際化」を加速させるべ. かし,問題は,どのような質やシステムの経済. きであろう.それがアジアの平和の礎となろう.. であり,どのような戦略や方法によって,だれ.  日本における国際競争力強化の政策は,企業. を主体にして構想し,実現するかであろう.. 指向に偏っている.グローバリゼーションの時.  現代のグローバル競争で特徴的なことは,工. 代における先進工業国の活路は知識(文化)経. 業規格の標準化や競争のルールないし制度の標. 済の道にしかない.知識経済では,知恵や知識. 準化をめぐる国際競争である.日本企業が,単. の創造性という人間のもつ可能性が最も重要な. 独で,高度技術の製品を開発しても,グローバ. 資源になる.人間の潜在可能性を開花させるた. ル競争の世界で多数派になれず,低い利益率水. めの教育や訓練こそが,国家戦略の柱に位置付. 準に甘んじざるを得ない状況がうまれている.. けられなければならない.知識経済では,知識. 日本が得意としてきた「ものづくり」の発想で. や技術の変化が激しく,グローバル競争の下で. 国際競争力を強化しようとしても,結果が付い. は,同じ仕事能力で一生同じ仕事ができるとい. てこない.グローバリゼーションと知識経済の. う保障はない.包括的福祉国家を掲げてきた北. 時代の競争戦略として,欧米がリードする世界. 欧諸国が,積極的社会保障政策(Security)の. 標準化競争に対応できていないからである.. 基盤の上に労働市場の流動化(Flexibility)を実.  東アジア諸国との競争を強調する道よりも,. 現する Flexicurity の道を選択したように,働. 協力や連携を重視して,相互的な発展に貢献す. く人間には厳しい面があるが,雇用の流動性を. る東アジアの新経済秩序を形成する道を選択す. 視野に入れざるを得ない.となれば,それをス. べきだという考え方のメリットは,この点に関. ムーズにするために,人々が安心して新しい知. わっている.たとえば,日本・韓国・中国など. 識や仕事能力を身につけ,変化する労働市場に. 東アジア諸国が技術力を持ち寄って,協力・連. 対応できるための暮らしを保障する積極的社会. 携により,情報通信・スマートグリッド・新. 保障政策の充実が不可欠である.創造的な知識. エネルギー・リチウムイオン電池・電気自動車. 労働や労働市場の変化への適応能力の高さが,. など新成長産業分野で,工業規格や競争ルール. 国際競争力のある産業を育て,経済の競争力や. のアジア標準をつくりあげるなら,東アジアの. 効率性を生み出してゆく基本的な源泉となるで. 巨大な市場規模からして,世界の標準化競争を. あろう.. リードする道に繋がるであろう.それは,医療.  そして,筆者が 1970 年代後半から提言して. や福祉,環境,教育・訓練,さまざまのサービ. いることであるが,保育所・教育・訓練や医療・. ス領域にまで広げるべきであろう.そこに東京. 福祉・環境・文化・所得保障など,広義の福祉. 大都市地域のイニシアチブを見出すべきであろ. 政策の充実が,単なるバラまきの需要サイド政.

(7) . 参考文献. 策としてではなく,供給サイドのイノベーショ ンと連動するような「まちづくり産業振興論」 の視点に立つ政策として展開することにより, 関連産業のイノベーションを起こして,地域経 済の安定基盤となる雇用や産業を創出するため の地域的な発展の仕掛けやシステムを構築する ことが重要である.  福祉の充実と経済の競争力やイノベーション を統合した持続可能な発展戦略の構築と実践こ そが,いま,日本に求められている最大の戦略 的課題であろう.教育・福祉・暮らしの充実と 経済の発展との統合が行われる場は,人々の生 活と生産の場たる地域であり,地域経済である. この道は,多様な地域経済の発展をもたらすた めの基盤形成を重視する道であり,地域から多 様な創意や工夫,協働による創造的な試みやイ ノベーションが次々に行われていくことを促進 するための分権的で内発的な地域政策が重要な 役割を果たす道である.大都市地域の政策は, その先頭に立つものとして構築されるべきであ ろう.その経験や教訓が東アジア諸国で交流さ れ共有される時,多様な地域の発展と地域間の 連帯に根ざした,東アジアの新しい未来が拓か れていくことであろう.. 中村剛治郎 [2004]『地域政治経済学』 (3 刷修正, 2006 年)有斐閣, 中村剛治郎編著 [2008]『基本ケースで学ぶ地域経 済学』有斐閣, 中村剛治郎 [2008]「国土形成計画をどう見るか」 『環 境と公害』37 巻 4 号,岩波書店. 中村剛治郎「戦後日本の国土政策の総括と展望― 国土計画の論理と批判の論理,両者の限界を 超えて」 『地域経済学研究』第 17 号,2007 年. (注)本稿は,2010 年 7 月 10 日,東京文化会館に て開催された日本地域経済学会関東支部 2010 年度研究会で配布した報告原稿「グローバリ ゼーション・アジアの時代と日本の地域政策・ 大都市政策」に加筆したものである.元になっ た草稿は,韓国・京畿研究院(the Gyeonggi Research Institute(GRI), Korea)が,ソウル大 都市圏を構成する京畿道(ソウルと仁川を取 り巻く背後地域,2009 年人口 1155 万人)の世 界都市地域としての発展を展望する新しい雑 誌, 『世界都市地域評論』 (Global City-Region Review(GCRR) )を創刊するにあたって執筆 依 頼 を 受 け た 2010 年 6 月 4 日 提 出 原 稿 で あ る.同誌は,発行体や編集方針の変動を経て, 2010 年 10 月に第 1 号が発刊された.小論は, 現在,韓国語に翻訳中で,次号に韓国語で掲 載される予定との連絡を受けている. (横浜国立大学大学院国際社会科学研究科教授).

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