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<論文>数学学習観は学習者個人内でどのように存在しているか―数学信念についての質問紙・面接調査を基に―

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Academic year: 2021

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(1)数学学習観は学習者個人内でどのように存在しているか. 数学学習観は学習者個人内でどのように存在しているか ― 数学信念についての質問紙・面接調査を基に ― 教育デザインコース 数学領域. 大橋 亮河 ・ 舩越 亮太 1.はじめに. が挙げられる。なぜなら,質的研究法は「数量について. 新学習指導要領(文部科学省,2018)では,「主体的・. の問いではなく,“なぜ”あるいは“どのように”とい. 対話的で深い学び」の視点から学習過程改善の実現を目. う質に関わる問いを重視」(日野,2010,p.47)するアプ. 指すことが明記され,何のために学ぶのかという学習の. ローチであるためである。. 意義を共有することや,質の高い理解を図ることが目指 されている。. そこで本研究では学習観研究において主流な量的アプ ローチと共に,「どのように」という問いを大切にする. しかし,どんなに授業が質的に改善され,質の高い理. 質的アプローチを用いて研究を行う。しかし,いきなり. 解を図る「学習」が展開されたとしても,教師の考える. すべての学習者の中の学習観が「どのように」存在して. 学習と生徒の考える学習が食い違っていてはうまくはい. いるのかを検討することは難しい。そこで,本稿では,. かない(伊藤ほか,2015)。教師は授業の質的な改善の. 数学学習に対して前向きだと考えられる「望ましい学習. 際に,生徒が学習をどのように捉えているのかを考慮す. 者」の群に絞って検討を行う。. る必要がある。つまり,より効果的な学習過程の質的改 善のためには,学習者の学習についての認識を対象とし た研究が大切である。 そのような研究として,学習観研究(例えば植木, 2002;寺西,2008 など)が挙げられる。植木(2002)の研. 2.本研究の目的と方法 本研究の目的は,「望ましい学習者の群」に所属する ある学習者個人の中で,数学学習観がどのように存在し ているのかを検討することである。. 究では,高校生の学習一般についての学習観は 3 つの因. 本研究の方法は以下の通りである。まずは,信念(学. 子から構成されていることが示された。この研究では,. 習観) による学習者の群分けとその特徴の分析のために,. 今後の課題として,学習内容という変数を考慮した研究. 量的アプローチを用いる。次に,ある群のある学習者に. を行うことや,学習の成立に関わる信念が個々人の頭の. 焦点化し,その学習者個人の中で,学習観がどのように. 中にどのように体系づけられて存在しているのか検討す. 存在しているのか調査・分析を行うために,質的アプロ. ることが指摘されている (植木,2002,p.309)。これら. ーチを用いる。. の課題に対して,数学に教科を限定した学習観研究は多. 具体的には,以下の①~④の方法で研究を進める。. く行われている(例えば,寺西 2008;廣瀬ほか 2012 な. ①数学信念の尺度項目を予備調査によって決定する。. ど)。一方で,数学科に教科を限定したとき,学習観が. ②数学信念と数学科に限定した狭義の学習観について質. 「どのように体系づけられて」個人内で存在しているか. 問紙調査を行い,因子分析及びクラスタ分析によって学. ということに焦点化した研究はあまりみられない。. 習者をクラスタ分けし,各クラスタの特徴について検討. 学習観研究において,質問紙調査や因子分析・分散分. する。. 析といった量的アプローチが盛んな一方で,それらの知. ③一つのクラスタからある学習者を抽出し,半構造化面. 見を活用した質的研究の少なさが課題として挙げられる。. 接調査を行う。. 先に挙げた先行研究はみな量的アプローチを用いている。. ④ SCAT(Steps for Coding and Theorization)によって. 植木(2002)が課題として挙げた「学習観が「どのよう. 分析し考察を行う。. に体系づけられて」個人内で存在しているか」と言うこ とに焦点化して研究を行うためには,質的研究の必要性 教育デザイン研究. 第 10 号(2019 年 3 月). 56.

(2) 数学学習観は学習者個人内でどのように存在しているか. 3.信念と数学信念の概念規定. 観を取り扱った植木(2002)の学習観研究に対して,寺西. (1)信念の規定. (2008,p.2)は,数学に教科を限定した学習観研究を行っ. 植木(2002,p.302)は学習観を「学習とはどのようにし. た。その際,数学の学習に欠かせない公式や定理につい. て起こるのか,どうしたら学習は効果的に進むのかとい. て,学習者がどのように捉えているかという「公式観」. う学習成立に関する「信念」であると限定する」と規定. を視点として追加する必要があると指摘している。しか. して,学習全般についての学習観の調査を高校生に対し. し,「公式や定理は数学の学習に欠かせない」という価. て行った。つまり,ここで言う「学習」とは教科を限定. 値判断もまた,広く捉えるのならば,著者の抱いている. しない学習全般のことである。この研究は,鈴木(2013,. 「数学という教科についての信念」に基づく価値判断で. p.18)の学習観研究の分類では,狭義の学習観研究である. あると考えられる。つまり,数学という教科についての. と言える。狭義の学習観とは,学習一般に対する考え方. 信念を合わせて検討することが,真に「数学に教科を限. を示す広義の学習観とは異なり,「効果的な学習方法に. 定した学習観研究を行うこと」となると考える。「数学. 関する信念」を扱うものである(鈴木,2013,p.18)。本研. とはどのような教科か」という学習者の信念を,本研究. 究では,狭義の学習観について扱う。学習一般に対する. では数学信念と規定する。この信念の一例に「数学では. 考え方ではなく,数学という教科に限定した学習観を研. 公式が不可欠である」という信念が挙げられる。. 究するためである。. 本研究における数学信念導入の意図は,数学信念と数. また,植木(2002)は学習観を「信念」に限定している。. 学科における学習観の明確な分離や規定ではなく,学習. 信念の先行研究として,McLeod(1992)は「一定期間の学. 観が「どのように」存在しているのかという質的な分析. 習の間に出来上がった,いわば固定したものとして位置. のためである。例えば,「数学の学習は公式や解き方を. づけている。」と指摘し,Schoenfeld(1992)は「生徒は. 丸暗記することで効果的に進む」という学習観は,「数. 形式的な数学についての信念―訓練の印象―を,長期に. 学とは公式を覚える教科だ」という数学信念に依存する. わたっての教室での経験から抽出している。」と指摘し. ことが考えられる。しかし一方では,この学習観と共に. ている(廣水ほか,1996,pp.673-674)。これらのことか. 「数学では,式と式の関係性やその理由を理解している. ら,信念がかなり安定したものであるという認識が得ら. ことが大切だ」という数学信念を同一学習者が保持して. れる。 上記の先行研究に基づいた廣水ほか(1996, pp.673-. いるかもしれない。こういった異なる信念同士がどうし. 674)の研究では,信念とは「非常に安定した認識で,容. て同一学習者の中にあるのか?」ということをインタビ. 易には変わらない認識とされ,その場限りでそう思った. ューによって質的に捉え,分析することで,「数学学習. ような認識を含まない。」としている。. 観が個々の学習者内においてどのように存在しているの. 本研究でもこれらの先行研究に基づいて,信念を「認. か」という本研究で明らかにしたい問いに迫ることがで. 識の中でも,長期にわたる経験の中で形成された非常に. きると考える。 このように, 量的なアプローチによって,. 安定した認識」と規定する。. 学習観の分類や側面を記述するのみではなく,先行研究. (2)本研究における数学信念の規定と導入の意図. に基づいた「数学信念」の概念を導入し,これと学習観. 数学教育研究では,高橋(2010)において,価値観と. の関係性から,「学習者個人の中で信念はどのように存. 信念を完全に分離することはできないとしながら,それ. 在しているのか」を検討する。そのために数学信念と学. らの形成が授業において重要な位置づけにあることを指. 習観について調査を行う。. 摘している。また,鎌田(1993)は,教師がいかに授業. これらの議論を基に,数学信念と学習観を分けて問う. について工夫したとしても,生徒が数学について非好意. 理由をまとめると次の二点があげられる。「数学に教科. 的な信念に満ち溢れていた場合,消極的な数学的活動に. を限定した学習観研究を行えること」と「似た信念や一. 陥ることを指摘し,情意的変数である数学についての信. 見相反する信念の存在を検討し,それらが「どうして」. 念を測定することの意義をあげている。これらの論考か. あるいは「どのように」学習者内で存在するのかを明ら. ら,数学信念の検討は,よりよい授業実践に資するもの. かにする手段となること」である。. と考えられる。 また,教育心理学研究では,学習全般についての学習 教育デザイン研究. 第 10 号(2019 年 3 月). 57.

(3) 数学学習観は学習者個人内でどのように存在しているか. 4.質問紙調査 (1)予備調査による数学信念の項目決定 鎌田(1993)は「数学についての信念を測定する評価. に伝えた。 実施日:2018 年 1 月 22 日. 項目は,生徒から収集することも考えられるが,発達段. 対象:大学 1 年生 107 名(有効回答者:106 名). 階的にみて,彼らがこの信念を自覚的,分析的に記述す. 有効回答記述数:325 個. ることはかなり難しいと考える」(鎌田,1993,p.5)と. 教示文:「あなたの数学という教科に対する考えを. いう考えから,著者の授業実践における観察記録や先行. お聞きします。あなたは、数学はどんな教科だと考. 研究から測定項目を開発している。しかしこれは,方略. えていますか?「数学は○○な教科だ。」、「数学. 使用などに関する項目が多く,信念を測定する項目とし. は○○が大切な教科だ。」といった具合に次の空白. ての妥当性に問題があると指摘されている(犬塚,2016,. を埋めるように記述してください。思いついた数だ. p.14)。そのため,犬塚(2016)では,数学信念の構造. け記入してください。」 図 1.予備調査概要. を検討する目的のもとに新たに数学信念尺度を開発し, 構造を分析している。しかしその項目は,曖昧であった り,より詳細に聞くべきと思われる項目が数件見られた りした。例えば, 「数学は役に立つ」という質問項目は, 「どのように役立つのか」という観点が内包されていな い質問であり,質的に学習観を分析したい本研究におい ては,「数学は,その計算が実生活において役に立つ」 や「数学は,その考え方が役に立つ」などと,より詳細 な項目を設けるべきであると判断した。また,「数学を 使うと,実際にはあり得ない抽象的な世界について考え ることができる」といった項目など,「学習者が素朴に 抱いている」とは考えにくい信念項目も見られた。その ため,犬塚(2016)の尺度は本研究においては,適さな いと判断した。 そこで,本研究では,鎌田(1993)が中学生を対象と した調査の際に,「発達段階的にみて,彼らがこの信念 を自覚的,分析的に記述することはかなり難しい」(鎌 田,1993,p.5)と考え断念した,学習者から項目をボト ムアップ的に抽出する手法で調査項目を検討した。高等 学校までの教科数学での学びを総括的に振り返ることが でき,発達段階的にも記述が可能であり,かつ高等学校 までの教科としての数学の記憶が比較的鮮明な大学 1 年 生を予備調査の対象とした。図 1 にこの予備調査の概要 を記す。調査は,大学の講義の中で配布・回収含めて 10 分程度で行った。図 2 の空欄つきの文章を 7 つ提示し, 最大で 7 つ記入できるように質問紙を設定した。その結 果,一人当たり平均約 3 個の記述が得られた。また,調 査実施に当たっては,結果が講義の成績などに影響する ことは一切ない旨,回答の内容を研究以外の目的に使用 することは無い旨,個人情報保護に留意してデータを取. ・数学は ・数学は. 教科だ。 教科だ。. 図 2.予備調査における自由記述欄 この調査によって得られた記述はすべてカードに記入 し,KJ 法の分類に準じた作業によって似た意味と考え られるものを集めた。この作業は,数学教育を専攻する 大学院生 5 名,小学校の現職教員 1 名,中学校の数学科 現職教員 1 名で検討して行い 26 項目を得た。 (2)学習観尺度 学習観の尺度については,市川ほか(2009)で使用さ れていた,8 因子構造の学習観尺度 24 項目を使用した。 この尺度は, 学習者からボトムアップ式に項目を収集し, 検討した植木(2002)の尺度を基に更に検討を重ねた植 阪ほか(2006)の尺度が基になったのである。そのため, 研究者がトップダウン式に定めたものではなく,本研究 で扱っている数学信念尺度と同様,学習者の実態に適し た尺度であると捉えた。よって,市川ほか(2009)の学 習観尺度を数学信念尺度と合わせて使用した。 (3)質問紙調査の実施 国立・公立の 4 年制大学計 3 大学の大学生を対象に, 大学の講義内で配布・回収含め 15 分程度で質問紙調査 を行った。有効回答数は 285 名であった。また,質問紙 には,アンケート結果は統計的に処理され、個人情報が 第三者に見られたり提供されたりする危険はない旨と, アンケートの回答は任意であり,アンケートに回答しな いことによる不利益は生じない旨を明記した。 調査には, 数学信念 26 項目と学習観尺度 24 項目を使用し,それぞ れ「5:そう思う」,「4:ややそう思う」,「3:どちら ともいえない」,「2:あまりそう思わない」,「1:そ. り扱い、調査・分析後は適切に処分する旨を調査協力者 教育デザイン研究. 第 10 号(2019 年 3 月). 58.

(4) 数学学習観は学習者個人内でどのように存在しているか. 表 1.数学信念の探索的因子分析の結果. Ⅰ. 項目 I 有用性の非認知 (ω = .659) I-22 数学は、学ぶ意義を感じない教科だ。 I-18 数学は、習ったことを日常で使用できない教科だ。 I-23 数学は、生まれもった才能が大切な教科だ。 II 普遍的価値 (ω = .705) I-19 数学は、論理的思考を身につけることができる教科だ。 I-8 数学は、問題解決力を身につけることができる教科だ。 I-15 数学は、他教科の学びのために大切な教科だ。 I-11 数学は、美しい教科だ。 III 暗記 (ω = .723) I-12 数学は、問題の解き方を暗記することが大切な教科だ。 I-26 数学は、問題のパターンを暗記することが大切な教科だ。 I-3 数学は、公式を暗記することが大切な教科だ。. 寄与率 累積寄与率. Ⅱ. Ⅲ. 共通性. .926 .472 .378. -.023 -.078 .108. -.081 .115 .161. .817 .317 .194. .102 .080 -.114 -.120. .734 .636 .539 .534. -.070 .026 .013 .032. .508 .369 .347 .340. .011 .071 .003 29.3 29.3. -.008 .034 -.037 18.2 47.5. .735 .685 .576 10.9 58.4. .549 .506 .341. う思わない」の 5 件法で回答を求めた。また,質問紙に. から,これらは時代や主唱者が変わったとしても普遍的. は学籍番号を記入する欄を設け,以降の面接調査の対象. な数学の価値であると考え,この因子を「普遍的価値」. 者を特定し, 連絡を取るために, 回答者に記入を求めた。. と命名した。因子 3 は暗記に関する項目が集まっている. この理由を回答者に知らせた上で調査を行った。. ことから,「暗記」と命名した。 3 つの因子からそれぞれ該当する項目が影響を受け,. 5.質問紙調査の分析. 因子間に共分散を仮定したモデルで分析を行ったところ,. (1)数学信念についての分析. 適 合 度 指 標 は 𝜒𝜒 2 (32) = 53.691(𝑝𝑝 = .010), CFI =. 以降の分析は,クラスタ分析を除いてすべて心理統計 用分析ソフト「HAD 16on」(清水,2016)を用いて分 析した。数学信念尺度の候補項目について,回答の偏り. .961, RMSEA = .049, SRMR = .048, GFI =. .965, AGFI = .940となった。モデルを採択する基準とし て,CFI が 0.95 以上,RMSEA が 0.5 未満という基準. を確認するために,平均値±標準偏差を算出し,天井効. (印南,2014,p.204)より,このモデルは適合している. 果・フロア効果の有無を確認した。その結果,26 項目中. と判断した。. 15 項目で天井効果が確認できた。 天井効果のあった 15 項目を分析対象から除外し,残. りの 11 項目を用いて探索的因子分析(最尤法・プロマ ックス回転)をおこなった。スクリープロットおよび解. 続いて,得られた尺度の信頼性を検討するため,ω係. 数を算出した。その結果,ω = .659~.723とやや低い値 が示され,信頼性係数は許容範囲であると判断した。. 以降は、各因子を構成する項目の平均得点を「数学信. 釈可能性より, 因子数は3因子と設定した。 共通性が0.20. 念尺度得点」として,分析を行っている。. 未満の項目 1 項目を削除し,再度分析を行った。2 回目. (2)学習観に関する分析. の探索的因子分析の結果を表 1 に示す。. 最初に平均値および標準偏差を求め,天井効果および. 因子 1 は数学を学ぶ有用性に関する項目で構成されて. 床効果の検討を行った。全 24 項目中 12 項目で天井効果. いることから,「有用性の非認知」と命名した。因子 2. が確認でき,天井効果がみられた 12 項目は以降の分析. の 4 項目は,数学教育学研究における数学教育の 3 つの. から除外した。これらの 12 項目はすべて市川ほか(2009). 目的である「陶冶的目的」,「実用的目的」,「文化的. における「認知主義的学習観」に属する項目であった。. 目的」と合致する(中原,1995,pp.104-105;長崎,2010,. そのため,分析対象となった項目は市川ほか(2009)に. p.24)。長崎(2010,p.24)は,数学教育の目的は時代. おける「非認知主義的学習観」の 12 項目である。. によって,また主唱者によって異なるが,上記の 3 目的 については「共通な視点」であると指摘している。ここ. 先行研究より,非認知主義的学習観は「丸暗記志向」 「環境志向」「勉強量志向」「結果重視志向」の 4 因 教育デザイン研究. 第 10 号(2019 年 3 月). 59.

(5) 数学学習観は学習者個人内でどのように存在しているか. 表 2.分析に使用した学習観尺度の項目 番号 II-1 II-3 II-5 II-6 II-7 II-11 II-13 II-14 II-15 II-19 II-20 II-24. 先行研究の 項目 因子名 丸暗記 きちんと暗記できていれば、その内容は分かったといえる。 環境 成績の良い友人が多いクラスに入っていると、つられて成績は良くなる。 環境 教え方のうまい先生に習ってさえいれば、成績はよくなるものだ。 勉強量 たくさんの量の勉強をすることが、なによりも大切だ。 結果重視 テストでは、途中の考え方より、答えが合っていたかのほうが重要だ。 丸暗記 なぜそうなるかは考えずに、とにかく覚えることが重要だ。 勉強量 成績のよさは、勉強した量だけで決まる。 丸暗記 暗記さえしておけば、ほとんどのテストは大丈夫だ。 勉強量 同じことを繰り返し勉強しさえすれば、どんな問題も解けるようになる。 結果重視 なぜそうなるのかわからなくても、答えが合っていれば良い。 結果重視 自分の答えがあっていれば、別の解き方は特に大事ではない。 環境 分かりやすいテキストさえそろえれば、自然に成績は上がる。. 平均値. 標準偏差. 2.323 3.379 3.319 3.460 2.821 2.161 2.428 2.260 3.049 1.993 2.172 2.389. 0.976 1.161 1.147 1.012 1.163 1.049 1.064 1.036 1.147 0.942 1.042 1.031. 子構造となっている。12 項目 4 因子での確認的因子分. 念尺度得点を用いて,距離をユークリッド平方距離とす. 析に基づいて,それぞれのω係数を算出した結果(括弧. るウォード法による階層的クラスタ分析を行った。この. 内は確認的因子分析における因子負荷量),丸暗記. クラスタ分析には統計ソフト「R version 3.4.4」を用い. . 698(.572~.752),環境. 457(.242~.641),勉強量. た。デンドログラムから,クラスタ数を 4 と判断し,調 査対象者 285 名をクラスタリングしたところ,各クラス. ため,4 因子構造の採用は不適切であると判断した。. 人,104 人となった。. . 466(.381~.594),結果重視. 692(.420~.860) であ. り,信頼性係数が許容範囲(. 500以上)を満たさなかった 非認知主義的学習観全体での信頼性係数を算出する. タの構成人数はクラスタ 1 から順に,71 人,80 人,30 クラスタ間の数学信念の平均値の差を検定するために,. と,ω係数は.742(.104~.738)であったため,4 因子構造. 1 要因 4 水準の分散分析を行った。多重比較は Holm 法. ではなく,先行研究における「非認知主義的学習観」1. を用いた。その結果を表 4 に記す。なお,以下の文章中. 因子構造として解釈した。そのため「非認知主義的学習. におけるクラスタ番号の後ろの括弧内の数値は,その因. 観」12 項目の平均得点を非認知主義的学習観尺度得点. 子における各クラスタの数学信念尺度得点および学習観. とし,以降の分析を進めた。分析に使用した 12 項目の. 尺度得点である。「有用性の非認知」(F(3,281) =. 平均値および標準偏差は表 2 に示したとおりである。. スタ 1(2.906)とクラスタ 2(3.067),クラスタ 4(2.131). (3)相関分析の結果 数学信念と学習観との間にどのような関連性があるの かを調査するために,数学信念尺度得点および非認知主 義的学習観尺度得点の相関係数を求め,結果を表 3 に示 した。また,すべての因子間において 1%有意水準で有意 な相関が認められた。 I. II. の順に 5%水準で有意に高かった。「普遍的価値」 (F(3,281) = 105.582, 𝑝𝑝 < .001)に関しては,クラスタ. 2(4.028)とクラスタ 4(4.058),クラスタ 1(2.993),ク ラスタ 3(2.683)の順に 5%水準で有意に高かった。「暗 記」(F(3,281) = 90.571, 𝑝𝑝 < .001)に関しては,クラス タ2(3.875)とクラスタ3(3.889), クラスタ4(3.122),. 表 3.相関分析の結果. I 有用性の非認知 II 普遍的価値 III 暗記 IV 学習観. 75.840, 𝑝𝑝 < .001)に関しては,クラスタ 3(3.778),クラ. III. IV. -0.274 0.381 0.479 -0.274 -0.134 -0.204 0.381 -0.134 0.441 0.479 -0.204 0.441. (4)クラスタ分析の結果. クラスタ4(1.723)の順に5%水準で有意に高かった。 「非 認知主義的学習観」(F(3,281) = 56.619, 𝑝𝑝 < .001)に関. しては,クラスタ 1(10.465)とクラスタ 2(10.945),ク ラスタ 4(8.053),クラスタ 3(5.639)の順に 5%水準で 有意に高かった。 クラスタ1は,平均的なグループであるが,あえて特. 学習者のもつ数学信念・学習観によって学習者を分類. 徴をあげるのであれば,非認知主義的学習観が弱い,普. するために,非認知主義的学習観尺度得点および数学信. 遍的価値を実感していないという特徴をもつグループで 教育デザイン研究. 第 10 号(2019 年 3 月). 60.

(6) 数学学習観は学習者個人内でどのように存在しているか. 有用性の非認知 普遍的価値 暗記 非認知学習観. Clu1(n=71) Mean SD 2.906 0.625 2.993 0.612 3.122 0.541 2.023 0.454. 表 4.クラスタ分析の結果 Clu2(n=80) Clu3(n=30) Mean SD Mean SD 3.067 0.617 3.778 0.615 4.028 0.340 2.683 0.549 3.875 0.542 3.889 0.657 2.590 0.691 3.060 0.549. Clu4(n=104) Mean SD 2.131 0.556 4.058 0.569 2.468 0.725 1.723 0.613. F値. 多重比較. 75.840 105.582 90.571 56.619. 3>1=2>4 2=4>1>3 2=3>1>4 3>2>1>4. あった。クラスタ 2 は,普遍的価値を実感しており, 「暗. という追質問を多くする必要性があり,調査対象者の負. 記」が高いグループであった。クラスタ 3 は有用性およ. 担が大きいことが考えられる。そのため,インタビュワ. び普遍的価値を実感しておらず,「暗記」や非認知主義. ーとラポールが形成されていると考えられるTは調査対. 的学習観が強いグループであった。クラスタ 4 は有用性. 象者として適当と考え,抽出した。. および普遍的価値を実感しており,「暗記」や非認知主 義的学習観が弱いグループであった。. 以前の調査の目的は「学習者 T がどのような数学学習 をしてきたか明らかにすること」であり,「質問紙の点 数に対する理由を基に,学習観がどのように存在してい. 6.半構造化面接調査の実施. るのか明らかにする」という今回の調査の目的とは,調. (1)面接調査対象者の抽出. 査目的が異なっている。前回の調査の際には,「実際に. クラスタ 4 は有用性および普遍的価値を実感しており,. どのような学習を行ってきたか」という高校生までの素. 「暗記」 や非認知主義的学習観が弱いグループであった。. 朴な学習経験を尋ねた。その際,インタビュワー(筆者). 普遍的価値の得点が高いことは,数学教育の目的を学習. は,T の発言に対して良し悪しを判定するような相槌や,. 者が実感できているということであり,望ましいことと. 喜んだり残念がったりする様子を示すことは避け,「信. 考えられる。また,認知主義的学習観は成績と正の相関. 頼関係と中立性を築くこと」(関口,2013)に努めた。. があり,非認知主義的学習観は,成績には結びつかない. これらのことから,今回の面接調査において,T の面接. ことから(植阪,2010,p.83),非認知主義的学習観の. 協力経験が調査目的などを推察し,インタビュワーへの. 点数は低い傾向の方がよい事が示唆される。以上のこと. 忖度を引き起こす可能性は低いと判断した。以上の,参. から,4 つのクラスタの内,クラスタ 4 を「望ましい学. 加者効果が出る可能性の低さと,ラポールが形成されて. 習者の所属するクラスタ」と見なし,クラスタ 4 に所属. いることから,T を抽出した。. する学習者を 1 名抽出し,半構造化面接調査を行った。. また,第 4 章 3 節に記述したように,質問紙調査では. 本来ならばすべてのクラスタを調査対象とするべきであ. 回答者に学籍番号を記入してもらっていたため,この番. るが,本研究ではまず対象を 1 クラスタに限定した。本. 号から,面接調査協力者の質問紙を特定し,その点数を. 研究クラスタ 4 を選択した理由は,このクラスタの学習. 確認した上で面接調査を行った。. 者は数学学習に前向きであった学習者であると考えられ. (2)面接調査における質問項目の検討. るため,詳細に自身の数学学習について語ってくれると. 質問項目は,「質問紙調査における各項目への点数の. 判断したため,そして,この調査から得られる知見がよ. 理由」を尋ねることとした。しかし,調査協力者の負担. りよい数学授業を考える上で示唆に富むものであると判. を考え,50 項目(数学信念 26 項目,学習観 24 項目)で. 断したためである。. はなく,項目を絞ることにした。そこで特に,数学信念. 学習者の抽出には,質問紙調査にて記入してもらった. における「暗記」と学習観における「丸暗記志向」につ. 学籍番号を使用した。 学籍番号の形態から大学を特定し,. いてそれぞれの点数とその理由を尋ね, 各回答に対して,. 質問紙調査を行った授業における責任者に許可を得たう. 随時追質問をする形式をとった。この二つの質問を選択. えで,この学籍番号からある学習者を特定し,連絡を取. した理由の一つは,「数学を暗記教科として捉えていな. った。ここで抽出した大学 2 年生の学習者 T は,過去に. い」ということは,「数学の暗記ではない側面に価値を. 一度筆者の面接調査に協力してくれたことがあり,筆者. 見いだしている」と捉えられ,回答に対する追質問にて. とラポール形成ができていると考えられた。この調査で. 「普遍的価値」についても迫れると考えたためである。. は,協力者に「どうして」,「どのように」,「なぜ」. もう一つは,数学信念の「暗記」と丸暗記志向を含む「非 教育デザイン研究. 第 10 号(2019 年 3 月). 61.

(7) 数学学習観は学習者個人内でどのように存在しているか. 認知主義的学習観」を合わせて検討することで,学習観. 発話データをあてはめ,そこから 4 ステップでの分析を. のみに焦点化した研究と区別できると捉えたためである。. 行い,ストーリーラインの構成と理論記述と今後の課題. このように質問項目を決定し,約 25 分間の半構造化. の検討を行った。なお,分析の段階では,数学信念の「暗. 面接調査を行った。. 記」について,と「丸暗記志向に焦点化した非認知主義 的学習観」について,それぞれ分析シートを分けて,計. 7.面接調査の分析. 2 枚の分析シートそれぞれにストーリーライン・理論・. (1)SCAT の概要. 課題を記述したが,本稿ではそれらを総合化したものの. 面接調査で得られた質的データを SCAT によって分. み,最終項の表 5 に記した。. 析した。SCAT(Steps for Coding and Theorization)と は,切片化したデータをマトリックスの中に既述し,そ. 8.考察. れぞれのデータについて,「〈1〉データの中の着目すべ. (1)分析結果. き語句,〈2〉それを言い換えるためのデータ外の語句,. 学習者 T は普段は理解することを目指し,公式の導出. 〈3〉それを説明するための語句,〈4〉そこから浮き上. 経験を数学学習において大切にする学習者であった。こ. がるテーマ・構成概念」の順にコーディングしていく 4. れらの理論記述から,「意味理解志向」の強い学習者で. ステップのコーディングである。〈4〉の構成概念を一筆. あったと考えられる。そんな学習者 T も,「暗記するこ. 書きのように紡いでストーリーラインを記述し,そこか. と」自体は数学の枠内においては許容していた。「根拠. ら理論記述を行う手法であり,小規模な質的データの分. に基づくことが数学することであるため, 公式の暗記は,. 析にも有効な手法である(大谷,2011)。. その公式を自力で導出するならば許容される。」という. SCAT は大谷(2008)の提案した質的データ分析の技. 理論記述が示すように,一度自力で公式を導出し,その. 法である。この手法の開発にあたって,多くをグラウン. 証明をした経験に基づいてならば,数学することの範囲. デッド・セオリー・アプローチ(Grounded Theory. 内で暗記したと言える。しかし,公式の提示から,覚え. Approach,以下,GTA と記す。)に非常に多くを学ん. て使うのみでは暗記ゲームであり,これは数学すること. でおり,関係性が深い(大谷,2008,p.29)。GTA とは,. の範囲から外れていると捉えられていた。条件付きで暗. 「データから概念を抽出し,概念同士を関連付けようと. 記を許容していたTであるが, テスト前という状況では,. する方法」であり,長期的にデータを採取し,絶えず分. この信念とかみ合わない学習行動をとっており,そのこ. 析を繰り返す手法である(戈木クレイグヒル,2016,p.2)。. とを自覚していた。その理由は,目的達成のための費用. このように, GTA は長期的なデータ採取に基づく多量な. 対効果という構成概念(分析段階〈4〉構成概念・テーマ. データが必要であり,小規模なデータの分析には向かな. において抽出された語)で説明できる。テスト前には学. い。本研究では,インタビュー対象者が 1 名と小規模で. 習行動ごとにかかる時間とそれにより予想される点数の. あることから,GTA ではなく,小規模データにも有効な. 費用対効果を考え,一人では公式を導出し関係的に理解. 手法である SCAT を採用した。. することに時間がかかりすぎることから,テスト前には. (2)SCAT による発話データの分析. 問題パターンの暗記などの暗記方略を採用していた。こ. 大谷(2008)と同様に,図 3 のようなマトリックスに 発 番号 話 者. テ クス ト. のとき,不安やわだかまりなどネガティブな感情を抱え. < 1 > テ クス ト中 < 2 > テ クス ト中 < 3 > 左を説明 < 4 > テ ーマ ・ 構 の注目すべき の語句の言い するような テ ク 成概念 語句 かえ ス ト外の概念. < 5 > 疑問・ 課 題. 1. 数学は公式を暗記することが大切な教科だ,3点。 数学は問題の解き方を暗記することが大切な教科 O だ,1点。数学は問題のパターンを暗記することが大 切な教科だ,2点。最初,この辺はどうしてこの点数 を付けたか教えてもらってもいいかな?. 2. 公式の暗記の許 「数学」と暗記 はい,えっと。(5秒沈黙)1つめの公式は,公式を暗 公式を導いてか 公式を暗記する 暗記前の導出 容. ゲームの明確 記するって……公式を導入……じゃない,導いてか ら暗記をする. 前に導くことを の有無(原因) .公式の導出経 な境界線はど ら暗記をするというか。じゃあこれは使えるんだねっ 公式だけをパッ する. 暗記の許容. 験.. のように設定 T て覚えるならいいかなと思って。けどそれをせずに と見て覚えてそ 数学か暗記 丸暗記志向. 公式の提示. されていたの 公式だけをパッと見て覚えてそれ使って解こうって れを使って解こ ゲームか. 公式提示時の 覚えて使うのみ. か.,定義につ いうのだと,数学っていうのとは変わってきちゃうの うっていうの. 覚えるのみでは 対応. 行動の選択. いて検討する. かなって。暗記ゲームかなって。 暗記ゲーム. 数学ではない. 暗記ゲーム化.. 図 3.SCAT による学習者 T の発話分析(一部抜粋) 教育デザイン研究. 第 10 号(2019 年 3 月). 62.

(8) 数学学習観は学習者個人内でどのように存在しているか. ていたが,それでもなお,暗記方略を採用した。これは,. たとしても,その価値を保つ学習方法を採用できるかど. 「私が今から,テストで点を取るためにはどのような学. うかは,状況次第である。. 習をすることが効果的か。」と個人で考えた時に,暗記. これらのことから,「何を学ぶか」,「どのように学. をすることで得られる費用対効果が,公式の導出を大切. ぶか」という学習過程の質的改善について,「普段の授. にする数学信念や学習観に合致した学習行動をすること. 業」という文脈内でのみ検討するのではなく,テスト前. で得られる費用対効果よりも高いと判断したためである。. といった学習者にとっての様々な状況下でも同様に検討. この判断は,先行研究の「道具的数学の方がよりはっき. する必要性が示唆される。教師の授業改善の例として,. りとして,即時的な報酬を得ることができる」 (Skemp,. 「普段の授業」ではなく,「テスト直前の授業」におい. 1976,p.8)という分析と類似している。. て関係的理解を確認する問題を扱ったり,関係的に理解. しかし,高校生である T がこの Skemp(1976)の論. する有効性を教師が生徒に示したりすることなどが挙げ. 考を知っていて実践していたとは考えにくい。つまり,. られる。このように, 「教師は授業の質的な改善の際に,. T は自身の学習経験の内に,この論考に近い認識を形成. 生徒が「現在の状況下で」学習をどのように捉えている. していたと考えられる。これは,T の抱く数学学習に関. のかを考慮する必要がある。 生徒が置かれている 「状況」. する信念であったと推察される。つまり,公式導出経験. に着目しながら,望ましい信念を育む過程を考えること. を大切にすることは平常時における学習観であり,数学. で,よりよい教育デザインが可能になり,より効果的な. することは暗記ゲームではないという数学信念のもと,. 学習過程の質的改善に資すると考える。. 関係的理解を指向して学習していたが,テスト前という 状況の異なる場面においては,T の中の異なる「信念」 によって「問題パターンの暗記」といった学習行動が規 定されていたと考えられる。 これらは状況に応じてその場その場で生まれた 「考え」. 9.まとめと今後の課題 本研究では,数学学習観が学習者の中でどのように存 在しているのかについて,数学信念を規定しながら質的 に分析し,検討した。そして,テスト直前という状況に. というよりも,「もともと抱いていた信念が,状況の変. おいて,数学信念や学習観に反する学習行動をとってい. 化によって増大及び減少した」と解釈することが妥当で. たことから,もともと少ない度合いで抱いていた学習観. ある。なぜなら,学習観は,市川ほか(2009)の研究な. が,状況によって増大されたり,多い度合いで抱いてい. らば 8 因子で構成されているように,複数の様相を持つ. た学習観が減少されたりして,その場に適した学習活動. 複雑な概念である。ここから,ある学習者が個人の内に. を規定していることと,学習観が個人の中でこのように. 形成している学習観という信念の様相は, 単一ではなく,. 体系づけられている可能性が示唆された。これらのこと. 複数であると推察される。そしてこれらの複数の様相が. から,学習観について検討する際には,学習者が直面し. 状況によってその優先される度合いについて増大・減少. ている状況に着目し,状況ごとに調査などを行う必要性. しながら,その状況に応じた学習行動を規定していると. が示唆される。. いう捉え方ができる。このように,学習者個人の中で学. 今後の課題は,二点ある。第一に,本稿では,数学学. 習観は,状況によって増大や減少が起こり,その場その. 習に対して前向きだと考えられる「望ましい学習者」の. 場で「効果的だ」と捉える学習活動を規定する信念とし. 群に絞って検討を行ったが,本稿で扱った第 4 クラスタ. て体系づけられていると推察できる。. 以外に属する学習者や,他の第 4 クラスタに属する学習. (2)教育実践への示唆. 者にも調査を行うことである。第二に,本研究における. 1 節にて考察したように,学習者は状況に応じて,基. 質問紙調査で天井効果の出た項目のワーディング等を再. にする学習や教科についての信念を使い分け,それらの. 検討すること,「学習者が直面している状況」の詳細な. 信念を基に学習行動を規定している。このことは,授業. 規定・分類も課題である。. 内での取り組みだけに焦点化して「この学習者は数学の 普遍的価値や有用性を認識している」,「この学習者は. 参考・引用文献. 数学を暗記とは捉えていない」と判断してはいけないこ. 日野圭子(2010).「数学教育学における質的研究について」.. とを示唆している。授業内では数学の価値を認識してい. 清水美憲編著.『授業を科学する 数学の授業への新し 教育デザイン研究. 第 10 号(2019 年 3 月). 63.

(9) 数学学習観は学習者個人内でどのように存在しているか. いアプローチ』(pp.45-66).学文社. 廣水乃生・村上豊(1996)「 . 数学教育研究に見られる「信 念(Belief)」に関する枠組みについての一考察」.『数 学教育論文発表会論文集』,29,pp.673-674. 廣瀬友介・中本敬子・蛭田政弘(2012).「数学学習に おける学習観と学習方略の関係―大学生を対象と した分析―」.『文教大学教育学部紀要』46 号,pp.45-56.. ータに適用可能な質的データ分析手法」.日本感性工学 会論文誌『感性工学』,10,3,pp.155-160. 戈木クレイグヒル滋子(2016).『グラウンデッド・セオ リー・アプローチ 改訂版 理論を生み出すまで』.新 曜社. 関口靖広(2013).『教育研究のための質的研究法講 座』.北大路書房. 清水裕士 (2016). 「フリーの統計分析ソフト HAD:機能. 市川伸一・南風原朝和・杉澤武俊・瀬尾美紀子・清河 幸. の紹介と統計学習・教育,研究実践における利用方法. 子・犬塚美輪・村山航・植阪友理・小林寛子・篠ヶ谷. の提案」 『メディア . ・情報・コミュニケーション研究』 ,. 圭 太 (2009). 「 数 学 の 学 力 ・ 学 習 力 診 断 テ ス ト. 1,pp. 59-73.. COMPASS の開発」.『認知科学』,16( 3) ,pp. 333347. 印南洋 (2014).「SEM 入門―見えない概念を扱うには」. 竹内理・水本篤 編著『外国語教育研究ハンドブック: 研究手法のより良い理解のために』.(pp.194-206).松 柏社. 犬塚美輪(2016).「大学初年次生の数学信念の構造—関 連要因の探索的検討—」『 . 教育心理学研究』,第 64 巻, 1 号,pp.13-25.. 住政二郎(2014).「質的研究入門―基盤概念を知るには」. 竹内理・水本篤 編著『外国語教育研究ハンドブック: 研究手法のより良い理解のために』.(pp.242-257).松 柏社. 鈴木豪(2013).「小・中学生の学習観とその学年間の差異学校移行期の変化及び学習方略との関連-」 『教育心理 . 学研究』.61,pp.17-31. 関口靖広(2013).『教育研究のための質的研究法講座』. 北大路書房.. 伊藤慎悟・廣瀬英子(2015)「学習観研究の展望: 「学. 高橋等(2010). 「数学的知識の獲得において形成される. 習の信念」と「学習を支える信念」による分類」.『上. 価値観の特徴とその形成過程の理論的分析」.『日本数. 智大学心理学年報』,39 巻,pp.21-30.. 2 号, 学教育学会第 43 回数学教育論文発表会論文集』. 鎌田次男(1993).「中学生の数学についての信念を測定. pp.819-824.. するための用具の開発、および数学についての信念と. 寺西友理(2008).「高校生は数学の学習において公式・定. 数学の成績との間の関係についての検討」.『科学教育. 理をどのように捉えているか―学習観・学習方略・成. 研究』,第 17 巻,1 号,pp.3-10.. 績との関連―」.『早稲田大学大学院教育学研究科紀要. 文部科学省(2018).『中学校学習指導要領解説総則編』. 東山書房. 長崎栄三(2010).「目的・目標論」.日本数学教育学会 編.『数学教育学研究ハンドブック』(pp.24-29).東洋 館出版社. 中原忠男(1995)「 . 何のための算数・数学教育か : 算数・ 数学教育の目的」日本数学教育学会誌『数学教育』, 77(6-7),pp.104-107. 大谷尚(2008).「4 ステップコーディングによる質的デ. 別冊』,16 号 1 巻,pp.1-13. 植木理恵(2002).「高校生の学習観の構造」.『教育心理学 研究』,50,pp.301-310. 植阪友理・瀬尾美紀子・市川伸一(2006).「認知主義 的・非認知主義的学習観尺度の作成」,『日本心理学 会第 70 回大会発表文集』,p.890. 植阪友理(2010)「学習方略は教科間でいかに転移する か—「教訓帰納」 の自発的な利用を促す事例研究から—」 . 『教育心理学研究』,第 58 巻,1 号,pp.80-94.. ータ分析手法 SCAT の提案―着手しやすく小規模デ. McLeod, D. B (1992). Research on Affect in Mathematics. ータにも適用可能な理論化の手続き―」.『名古屋大学. Education: A Reconceptualization. Grouws, D. A. 大学院教育発達科学研究科紀要(教育科学)』,第 54. (ed.).Handbook of Research on Mathematics Teaching. 巻第 2 号,pp.27-44.. and Learning(pp.575-596). Macmillan Library Reference.. 大 谷 尚 ( 2011 ) 「 SCAT : Steps for coding and. Schoenfeld, A. H (1992).Learning to Think Mathematically. Theorization : 明示的手続きで着手しやすく小規模デ. Problem Solving, Metacognition, and Sense Making in 教育デザイン研究. 第 10 号(2019 年 3 月). 64.

(10) 数学学習観は学習者個人内でどのように存在しているか. Mathematics. Grouws,D.A(ed.).Handbook of Research on. . 根拠に基づくことが数学することであるた. Mathematics Teaching and Learning ( pp.334-370 ) .. め,公式の暗記は,その公式を自力で導出す. Macmillan Library Reference.. るならば許容される。. Skemp, R. R(1976) .Relational Understanding and Instrumental. . Understanding,Mathematics Teaching,No.77,pp.20-26.. 公式の提示から,覚えて使うのみでは暗記ゲ ームである。. . 表 5.SCAT の分析結果. 公式提示後に,覚えて使うのみか導出をする のかによって暗記の価値は変わるが,個人に. この学習者は,公式の暗記を許容していた。し. よってこれらの行動選択は差があると考え. かし,公式導出経験をその条件としており,公式. られる。 . の提示から,覚えて使うのみでは,数学ではなく. 公式導出経験の利点を認知し,普段は導出経 験を大切にしていても,テスト前には学習行. きが数学をすることだと捉えていたためで,導出. 動ごとにかかる時間とそれにより予想され. 経験か覚えて使うのみかという公式の提示時の, ワンステップ目(最初)の行動選択によって暗記 の価値が変わるが,周囲との比較によって,どち らをする人もいることを質問紙得点の根拠とし て,質問紙の「数学は公式を暗記することが大切. 総合化された理論記述. 暗記ゲームと捉えていた。これは,根拠への基づ. る点数の費用対効果を考え,一人では公式を 導出し関係的に理解することに時間がかか りすぎるために暗記方略を取ることがある。 . る。 . な教科だ。」項目には 3 点を付けた。自身は数学. 数学信念は周囲との比較によって規定され 普段は学ぶこと,理解することが目的であっ. をしたいという思いや理解願望もあり,ワンステ. ても,テスト前は点数獲得が目的となり,そ. ップ目に導出経験を行動選択しようとしていた. れ以外は手段となる。. 総合化されたストーリーライン. . が,テスト前にはテストのハイステイクス性か. テスト前には数学信念や学習観に反するよ. ら,テストでの得点獲得が目的化して,学ぶこと. うな学習行動をとることがあるが,そのとき. が手段化した。そして,学ぶ際の根拠の排除が起. は不安やわだかまりなどネガティブな感情. こり問題パターンの暗記というテスト前暗記方. を抱えている。 . 略を行動選択しており,根拠づけることが数学で. テスト前には数学信念や学習観に反するよ. あり,理解したい科目である捉えていたが,実際. うな学習行動を選択することがあるが,それ. は暗記ゲームとなることもあった。それが解法の. は状況に強いられるものである。 . 身につかなさ,解法の忘却につながり,テスト前 暗記方略を不定着の理由と自己分析した。普段は. かず,すぐに忘れてしまう。. 学びが目的であったが,テスト前は学ぶことが手. . 段化した背景にはテストでの得点獲得が目的化. 点を感じていたため,導出経験のないことによる.  課題など. 状況下での時間との闘いがあった。導出経験の利. 上の信念・理論は,ほかの群に所属する学習 者ではどうなのか。. したテスト前日における目的達成のための費用 対効果ともいえるような,他教科のテストもある. テスト前の暗記方略で覚えた解法は身につ. 実際にすぐに忘れてしまっているのか,パフ ォーマンステストなどを行って測る必要性 がある。. . 「他教科のテスト」はどのようなテストだっ. 根拠のなさへの不安やわだかまりというネガテ. たのか検討する必要がある。それらのテスト. ィブな感情もあったが,テスト前日に「今から」,. 科目と学習者との関係性によって,学習者に. 公式などについて導出経験を積み重ねて関係的. とっての状況は変わると考えられる。. 理解をすることは費用対効果が低いという思い. . 数学と暗記ゲームの定義。. が上回り,問題パターンの暗記を選択した。 (下線のある語は図 3.の〈4〉 「テーマ・構成概念」 にあたる分析段階で抽出された語である。 ) 教育デザイン研究. 第 10 号(2019 年 3 月). 65.

(11)

表 5.SCAT の分析結果 総 合 化 さ れ た ス ト ー リ ー ラ イ ン この学習者は,公式の暗記を許容していた。しかし,公式導出経験をその条件としており,公式の提示から,覚えて使うのみでは,数学ではなく暗記ゲームと捉えていた。これは,根拠への基づきが数学をすることだと捉えていたためで,導出経験か覚えて使うのみかという公式の提示時の,ワンステップ目(最初)の行動選択によって暗記の価値が変わるが,周囲との比較によって,どちらをする人もいることを質問紙得点の根拠として,質問紙の「数学は公式を暗記する

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