<論説>刑訴法328条により許容される証拠
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(2) 近畿大学法学. 第55巻第4号. と して証 拠 能 力 が 否 定 さ れ る と い うわ け で あ る。 も っ と も,伝 聞 証 拠 も,反 対 当事 者 の 同意 が あ る場 合(刑 訴 法326条) や 一 定 の例 外 事 由(刑 訴 法321条 乃 至324条)に. 該 当す る場 合,証 拠 能 力 を. 認 め られ る。 そ こで は,各 規 定 に応 じて,反 対 尋 問権 の放 棄 や,証 拠 調 の 必 要 性,当 該 証 拠 の特 信 性 な ど様 々 な根 拠 が 挙 げ られ る。 さ らに,こ の よ う な例 外 規 定 に該 当せ ず,実 質 証 拠 と して 許 容 され な い証 拠 も,公 判 準 備 又 は公 判 期 日 に お け る供 述 者 の供 述(「 公 判 供述 」)の 証 明 力 を争 う 目 的 に お いて,つ ま り補 助 証 拠 と して な らば,な お も証 拠 と して許 容 さ れ る(「弾 劾 証 拠 」)。 弾 劾 証 拠 に関 して,従 来,特 に そ の法 的 性 質 と関 連 して 「自己 矛 盾 供述 」 に限 定 さ れ る か とい う問 題 につ い て議 論 が 積 重 ね られ て きた ω。 近 時,最 高 裁 が この 問 題 につ いて 明 確 な 結 論 を 示 した こ とか ら,学 説 上 も関 心 が 高 ま って い る。 本 稿 で は,最 高 裁 で 問 題 とな った 論 点 を 中 心 に,328条 に よ っ て 許 容 され るべ き証 拠 に関 す る諸 問 題 につ いて 検 討 す る。. 二. 1.従. 弾劾証拠の関連性(自 己矛盾供述への限定性). 来 の 議論. 弾劾 証 拠 に 関 して,従 来 か ら,裁 判 例 及 び 学 説上,自. 己 矛 盾 供 述 に限 定. され る か 否 か とい う点 に つ い て 対 立 が み られ る。 (1)裁 判 例 非 限定 説 に立 つ裁 判 例 と して,東 京 高判 昭和26年7月27日. 高 刑 集4巻13. 号1715頁 は,以 下 の よ うに判 示 して い る(2)。. (1)こ. の問 題 につ いて,堀 江 慎 司 「憲 法 三 七 条 二 項 と刑 訴 法 三 二 八 条 」論 叢146巻. 2号1頁(1999年)が. 詳 細 か つ 明快 な 検 討 を 行 って い る。 本 稿 は,学 説 及 び裁. 判 例 の整 理 ・分 析 につ い て,同 稿 に依 拠 す る と こ ろが 大 き い。 一198一.
(3) 刑 訴 法328条 に よ り許 容 さ れ る証 拠. 刑 訴 法328条 の 「法 文 解 釈 よ りす れ ば一 般 的 に は刑 事 訴 訟 法 第321条 乃 至 第324条 の 規 定 に よ り証 拠 とす る こ とが で き な い 書 面 又 は供 述 で あ って も公 判 準 備 又 は 公 判 期 日に お け る被 告 人,証. 人 そ の他 の者 の 供 述 の 証 明 力 を 争 うた め に は総 て. 無 制 限 に証 拠 とす る こ とが で き る趣 旨 と解 す べ きで あ」 る。. 他 方,限. 定 説 に た つ 裁 判 例 と して,仙. 3巻10号524頁. は,以. 台 高 判 昭 和31年5月8日. 高刑裁特. 下 の よ う に判 示 し て い る(3)。. 328条 の 「規 定 に よ り公 判 準 備 又 は公 判 期 日に お け る被 告 人,証 人 そ の 他 の 者 の 供 述 の 証 明 力 を 争 う た め に用 い る こと の で き る証 拠 は,現. に証 明 力 を 争 お う. とす る供述 を した 者 の 従 前 の 供 述 を 記 載 した 書 面 又 は供 述(以 下 供 述 と称 す る) に 限 る もの と解 す る。 即 ち,同 条 は,公 判 準 備 又 は公 判 期 日に お い て あ る供 述 を した 者 が,さ. き に同 一 事 項 に関 し異 っ た供 述 を した と い う こ とを 明 らか にす. る こ とを 許 容 した に過 ぎ な い。 こ の場 合,前. の供 述 が真 実 で あ る との 主 張 を 許. す もの で は な く,前 後 いず れ の 供 述 が 真 実 で あ る か は別 と して,た だ 同 一 人 が 同 一 事 項 に 関 し前 後 矛 盾 の 供 述 を して い る と い う こ と を 明 らか に す る こ と に よ って,公 判 準 備 又 は 公 判 期 日 にお け るそ の 者 の供 述 が真 実 で あ る との心 証 形 成 を一 応妨 げ得 れ ば 足 る もの と され るの で あ る。 従 って,同 条 は,以 上 の 趣 旨 に 解 さ れ る 以 上,伝. 聞 法 則 の 例 外 と して 許 容 され る場 合 を定 め た もの で は な. く,理 論 上 伝 聞法 則 の適 用 が な い場 合 を注 意 的 に規 定 した もの に外 な らな い」。. 近 時 も,東 京 高 判 平 成8年4月U日 (2)そ. の他,非. 295頁,東. が限定説 にた. 限定 説 に た つ 裁 判 例 と して,福 岡 高 判 昭 和24年11月18日. 京 高 判 昭和36年7月18日. 高 刑 集9巻3号249頁 (3)そ. 高 刑 集49巻1号174頁. 判 時293号28頁,東. 。. の他,限 定 説 に た つ裁 判例 と して,福 岡 高 判 昭 和26年9月28日. 10号1262頁,東. 判 特1号. 京 高 判 昭 和31年4月4日. 京 高 判 平 成5年8月24日 一199一. 判 タ844号302頁 。. 高 刑 集4巻.
(4) 近畿大学法学. 第55巻第4号. つ こ と を明 らか に して い る。 この裁 判 例 は,特 に被 告 人 の捜 査 段 階 にお け る 自 白 の任 意 性 に関 す る担 当検 察 官 の公 判 供 述 の信 用 性 を争 うた め の弾 劾 証 拠 の許 容 性 が 問 題 と な った もの で あ る が,従 来 の議 論 が犯 罪 事 実 に関 す る供 述 の証 明 力 を争 う場 合 を念 頭 に され て き た こ とに対 し,自 白 の任 意 性 に関 す る供 述 の証 明 力 を争 う場 合 も同列 に扱 う こ とを前 提 に して い る点 が 注 目 され る(4)。 近 年 の裁 判 実 務 で は限 定 説 に よ る運 用 が 一般 的 とな りつ つ あ る,と 評 価 され る こ とが 多 い(5)。それ は,非 限 定 説 の 論 拠 が 刑 訴 法328条 の文 理 上 何 ら 限 定 が な い と い う形 式 的 な もの に と どま る の に対 し,限 定 説 か らは,非 限 定 説 に対 し,「か か る解 釈 を許 す こ とは,刑 事 訴 訟 法 の定 め る伝 聞証 拠 禁 止 の 根 本 精 神 に惇 る もの と い わ な け れ ば な らな い。 何 故 な らば,例 え ば,甲 の 公 判 期 日にお け る供 述 の証 明 力 を争 うた め の証 拠 と して,乙 の公 判 期 日 外 の 供 述 が 許 容 され る もの とす れ ば,甲 の供 述 の証 明 力 を滅 殺 す る た め に は7こ れ と対 比 し乙 の 供 述 が まず 措 信 され る こ とを要 し,か くて は,乙 の 供 述 にか か る事 実 が 要 証 事 実 に関 す る場 合 に は,伝 聞 証 拠 に よ って要 証 事 実 の 存 否 につ き心 証 を 形 成 す る結 果 と な るか らで あ る。」(前 掲 仙 台 高 判 昭 和31年)と. の 批 判 が 向 け られ て い る よ うに,伝 聞 法 則 の実 効 性 とい う制 度. の 根 幹 にか か わ る部 分 に お いて 限 定 説 が 優 る もの と考 え られ て い る こ とに よ るの で はな いだ ろ うか 。 もっ と も,前 掲 東 京 高 判 平 成8年. の事 案 で は,. 原 審 が 非 限 定 説 にた って お り,実 務 で も依 然 と して 見 解 が 統 一 さ れ て い た わ けで はな い(6)。. (4)堀 江(前 掲 注(1))「憲 法 三 七 条 二 項 と刑 訴 法 三 二 八 条 」4頁 。 (5)石 丸 他[石 丸 俊 彦=服 部 悟]『 刑 事 訴 訟 の 実 務 下 巻 』215頁(1990年,新 法 規 出 版),石. 井 一 正 『刑 事 実 務 証 拠 法 。第4版 』200頁(2007年,判. 日本 例 タイム. ズ 社),藤 永 他 編[大 野 市 太 郎]『 大 コ ンメ ンタ ー ル 刑 事 訴訟 法 第5巻1』400頁 (1999年,青 (6)飯. 林 書 院)。. 田 喜 信 「刑 訴 法 三 二 八 条 と回 復 証 拠 」 判 タ983号58,59頁(1998年)。 一200一.
(5) 刑 訴 法328条 に よ り許 容 され る証 拠. (2)学. 説. 学 説 で は,裁 判 例 同様 の 限定 説 と非 限定 説 との対 立 に加 え て,中 間説 的 見 解 も見 られ る。 ①. 限定 説. 現 在,学 説 上,限 定 説 が通 説 的 見解 で あ る。 例 え ば,田 中 和 夫(7)は,英 米 に お け る弾 劾 証 拠 と して の伝 聞例 外 は 自己矛 盾 供 述 に 限定 され て い る こ とを挙 げ,非 限定 説 は伝 聞例 外 許 容 と して広 す ぎ る と批 判 した上 で,刑 訴 法328条 は正 確 に い う と伝 聞法 則 例 外 で は な く,非 伝 聞 的利 用 と して 当 然 に証 拠 と して 使 用 で き る こ とを 定 め た もの で あ る と主 張 す る。 平 野 龍 一⑧ は,自 己矛 盾 供 述 に よ る弾 劾 は非 伝 聞利 用 と して 当然 に証 拠 と して許 容 さ れ る性 質 の もの で あ るが,刑 訴 法328条 は,自 己矛 盾 供 述 も主 要 事 実 に対 し て(供 述 内容 の真 実 性 に 関 して)は 伝 聞証 拠 で あ る こ とか ら生 じ る証 拠 使 用 へ の疑 念 を打 消 し,「許 容 性 の 多面 性 」を 明示 す る た め に制 定 され た もの と主 張 す る。 鈴 木 茂 嗣⑨ は,「 法328条 は,犯 罪 事 実 存 否 の認 定 に利 用 し う る 内 容 の証 拠 で,そ. の 関 係 で は 伝 聞 法 則 に よ り排 除 さ れ る も の で あ って. も,弾 劾 目的 で 非 伝 聞 的 に利 用 す る の で あ れ ば差 し支 え な い 旨を,注 意 的 に規 定 した もの 」 と主 張 す る。 この よ う に,限 定 説 は,実 質 証 拠 と して使 用 で き な い供 述 も,弾 劾 証 拠 と して 使 用 す る場 合 に は,要 証 事 実(矛 盾 供 述 の存 在)と. の 関係 に お い て. 非 伝 聞 の 構 造 を もつ 限 りに お い て 証 拠 と して 許 容 さ れ う る の で あ る,他 方,他 者 矛 盾 供 述 に よ って 公 判 供 述 を弾 劾 す る た め に は,そ の供 述 内容 の 真 実 性 が 問 題 とな る,す なわ ち伝 聞 の 構 造 を もつ こ とか ら許 容 さ れ な い と 主 張 す る。 そ の よ う な理 解 か らは,刑 訴 法328条 は 本 来 伝 聞 法 則 に よ って. (7)田 中 和 夫 『新 版 証 拠 法 ・増 補 第3版 』198頁(1971年,有 (8)平 野 龍 一 『刑 事 訴 訟 法 』252頁(1958年,有 ⑨. 鈴 木 茂 嗣 『刑 事 訴 訟 法 ・改 訂 版 』216頁(1990年,青 一201一. 斐 閣)。. 斐 閣)。 林 書 院)。.
(6) 近畿大学法学 B.片. 第55巻第4号. 面的構成説. 同 じ く中 間 説 と して,刑 訴 法328条 を片 面 的 に解 釈 し,検 察 官 が 被 告 人 側 証 人 の 公 判 供 述 を 弾 劾 す る場 合 に は 自己 矛 盾 供 述 に限 定 され るが,逆. に被. 告 人 側 が 検 察 官 側 証 人 の 公 判 供 述 を 弾 劾 す る場 合 に は 自己 矛 盾 供 述 に限 ら ず,伝 聞証 拠 に よ る こ と も許 され る と理 解 す る見 解 が あ る。 この 片 面 的 構 成 説 は,そ の理 論 的 基 礎 付 け にお い て,二 つ の ア プ ロー チ に区 別 され る。 田宮 裕 ⑬ は,刑 訴 法328条 の 解 釈 にお い て,公 判 供 述 の 信 用 性 を 争 う証 拠 は基 本 的 に 自己 矛盾 供 述 に 限 定 され る もの で は な い との 見 解 か ら出 発 し, 検 察 官 が被 告 人 側 の証 人 供 述 を 弾劾 す る場 合 に 限 り 自己 矛 盾 供 述 に限 定 さ れ る と主 張 す る。 す な わ ち,「328条 の 文言 の無 限 定性 と,伝 聞 に 関 して 特 別 規 定 が設 け られ た こ との意 義 」 か ら,刑 訴 法328条 は,「 立 証 趣 旨を 限 定 した伝 聞 例 外 規 定 」 で あ る が,「 被 告 人 の証 人 審 問 権(憲 法37条2項 に よ る合 憲 限定 解 釈 」 に よ って,検 察 官 側 の み非 伝 聞 的証 拠(自. 前 段). 己矛盾供. 述)に 限 定 され る と い う わ け で あ る。 田宮 は,伝 聞法 則 一 律 に 片面 的適 用 を主 張 す る わ けで は な く,明 文 あ る場 合 に証 明力 を争 う とい う 目的性 に 強 い拘 束 力 を認 め さえ す れ ば不 都 合 は な い,む. しろ刑 事 訴 訟 法 全 体 の趣 旨 か. ら は憲 法 上 の デ ュ ー ・プ ロ セ ス保 障 は本 来 片 面 的 で あ る,そ れ ゆ え,刑 訴 法328条 の解 釈 と して この よ うな 片面 的構 成 が導 か れ るべ き と主 張 す る。 これ に対 し,刑 訴 法328条 の解 釈 に お い て も,自 己矛 盾 供 述 に 限定 さ れ る との 見 解 か ら出 発 しつ つ,被 告 人 側 が 検 察 官 側 の 証 人 供 述 を弾 劾 す る場 合 に限 り 自己 矛 盾 供述 に限 定 され ず,広. く伝 聞 証 拠 に よ る弾 劾 も許 容 され る. と見解 が あ る。 例 え ば,光 藤 景 咬 α のは,前 述 田 宮 の 見 解 につ いて,そ G3)田 宮 裕 『刑 事 訴 訟 法 ・ 新 版 』394頁(1996年,有 プ ロ セ ス』341頁(1972年,有. 斐 閣),同. の考. 『刑 事 訴 訟 とデ ュー ・. 斐 閣。 初 出 「証 明 力 を 争 う証 拠 」 ジ ュ リ272号. (1963年))。 ω. 光 藤 景 鮫 『刑 事 証 拠 法 の 新 展 開 』154頁(2001年,成. 文 堂 。 初 出 「被 告 人 の 証. 拠 提 出権 」 『刑 事 法 学 の 歴 史 と課 題 一 吉 川 経 夫 先 生 古 稀 祝 賀 論 文 集 』(1994年,ノ 一204一.
(7) 刑 訴 法328条 に よ り許 容 さ れ る証 拠. え 方 自体 に は 「共 鳴 を お ぼ え つ つ も」,被 告 人 に 利 益 な 方 向 で の 「証 拠 能 力 の い わ ば 一 般 的 解 放 」(傍 点 原 文,以 下 同 じ)に は 反 対 し,独 自の 基 礎 付 けを 追 求 す る。 す な わ ち,光 藤 は,憲 法37条2項. 後 段 の証 人 喚 問請 求 権. に着 目 し,伝 聞 法 則 は被 告 人 に有 利 な証 拠 の場 合 に も原 則 と して妥 当す べ き こ とを 確 認 した うえ で,こ. の伝 聞 法 則 よ り も被 告 人 の憲 法 上 の右 権 利 が. 優 越 す べ き場 合 に は,伝 聞 法 則 に抵 触 す る と して も,被 告 人 は 当該 証 拠 を 提 出す る権 利 を有 す るべ き もの と主 張 す る(「証 拠 提 出権 論 」)。光 藤 は,そ の よ うな 優 越 性 が認 め られ る た め の 要 件 と して,ア て,①. メ リカ の 先 例 に倣 っ. 当該 証 拠 自身 に信 用 性 が 認 め られ る こ と,② 関 連 性 及 び重 要 性 を有. す る こ と を挙 げて い る。 堀 江 慎 司⑮ も,同. じ く,伝 聞 法 則 の原 則 的 適 用 を前 提 に,被 告 人 側 か ら. の弾 劾 証 拠 に限 り法 則 の緩 和 を 図 るべ き こ と を主 張 す る。 堀 江 は,刑 訴 法 328条 に 関 して も,刑 訴 法320条 との 関 係 に お い て あ くま で 伝 聞法 則 の妥 当,す なわ ち 自 己矛 盾 供 述 に 限定 さ れ るべ き こ と が原 則 で あ る と しつ つ, 憲 法37条2項. 前 般 の証 人 審 問権 が 「現 行 刑 訴 法 の枠 内 で設 け られ て い る と. 解 され る伝 聞 証 拠 の許 容 性 に関 す る規 制 を(被 告 人 側 の た め に 片面 的 に) 緩 め る よ う命 じる もの と して理 解 しな け れ ば な らな い。」 と して,「 限定 説 か ら出発 した328条 の 解 釈 を こ こで 修 正 し,同 条 を,被 告 人 側 につ いて は, 証 人 の供 述 の証 明 力 を争 う た め の伝 聞 証 拠 の使 用 を認 め る もの と,解 さ な けれ ば な らな い。」 と論 じて い る。 以 上 の と お り,片 面 的 構 成 説 は,当 初,田 宮 に よ っ て,非 限定 説 を基 調 と しつ つ,憲 法37条2項. 前 般 の証 人 審 問権 保 障 の観 点 か ら,検 察 官 側 に よ. る弾 劾 に限 って 自 己矛 盾 供 述(非 伝 聞証 拠)に. 限定 さ れ る べ き との見 解 が. 主 張 され たが,光 藤 及 び堀 江 の見 解 は,田 宮 の こ の よ うな非 限定 説 か らの \ 法 律 文 化 社))。 ㈲. 堀 江(前 掲 注(1))「憲 法 三 七 条 二 項 と刑 訴 法 三 二 八 条 」18頁 。 一205一.
(8) 鰍説. 近畿大学 法学. 第55巻第4号. ア プ ロー チ に 反 対 して,限 定 説 を 基 調 と しつ つ,憲 法37条2項 審 問権)又. は 後般(証. 人 喚 問 権=証 拠 提 出 権)に. 前 段(証 人. よ り,被 告 人 側 に よ る弾. 劾 に 限 って 自己 矛盾 供 述 以 外 の 証 拠(伝 聞 証 拠)も 刑 訴 法328条(又. は321. 条1項 の諸 要件 の緩 和)を 通 じて 許 容 され るべ き との 見 解 が 主 張 され た 。 い ず れ の ア プ ロー チ も,刑 訴 法328条 の適 用 に お け る具 体 的 結 論 に お い て 径 庭 な き もの と思 わ れ る が,そ の理 論 的考 察 に お け る基本 的 な 差 異 は,伝 聞法 則 に 関 す る理 解 の違 い の 表 れ と して 注 目 され る。. 2.最. 決 平 成18年11月21日 刑 集60巻9号770頁. 以 上 の よ うに,刑 訴 法328条 の適 用 範 囲(自 己矛 盾 供 述 に 限定 さ れ る か と い う問題)に. 関 して,裁 判 例 及 び学 説 に お い て,激. 最 高 裁 は,近 時,こ. しい対 立 が み られ た。. の 問題 に つ い て よ うや く初 め て の判 断 を下 した。 本 裁. 判 例 は,裁 判 実 務 上 強 い影 響 を与 え る だ け で な く,学 説 上 の議 論 に お い て も検 討 の指 標 と な りう る もの で あ る こ と か ら,概 略 を紹 介 し,後 の検 討 の 素 材 と した い。 本 件 は,被 告 人 が 内妻 と共 謀 の上,内 妻 の連 れ 子 で あ る女 児 に掛 け られ た保 険 金 を 取 得 す る こ と等 を 目的 に,自 分 と そ の家 族 が 居 住 す る一 戸 建 住 居 に放 火 し,家 屋 を 全 焼 させ,同 児 を殺 害 した事 件 で あ る(保 険 金 詐 欺 は 未 遂)。 右 公 訴 事 実 に基 づ い て公 訴 提 起 され,公 判 で は,被 告 人 は,本 件 火 災 が 自然 発 火 に よ る もの で あ り,放 火 の事 実 はな い と争 っ た た め,火 災 発 生 直 後 の 被 告 人 の 言 動 を 目撃 した 隣 人Aの 供 述 が 重 要 とな っ た。Aが 公 判 で 証 言 した 後,弁 護 人 は,Aが. 事 件 直 後 に消 防 官Bに 対 して 行 っ た供 述 部. 分(公 判 証 言 と矛 盾 す る内 容)を 含 むB作 成(事 件 当 日付)の. 「聞 込 み 状. 況 書 」(Aの 署 名 押 印 は な され て い な い)を 証 拠 申請 した 。 検 察 官 が 不 同 意 と した た め,弁 護 人 よ り刑訴 法328条 に基 づ く証 拠 採 用 が 主 張 さ れ た が, 一 審 判 決(大. 阪 地 判 平 成11年3月30日 一206一. 刑 集60巻9号575頁. に掲 載)は ,こ.
(9) 刑 訴 法328条 に よ り許 容 さ れ る証 拠. れ を却 下 した。 弁 護 人 は,控 訴 し,訴 訟 手 続 違 反 を主 張 した が,控 訴 審 判 決(大. 阪 高 判 平 成16年12月20日 刑 集60巻9号615頁. 立 場 か ら,「B作 供 述 書)で. 成 の 聞 き込 み 状 況 書 は,Bの. に掲 載)は,限. 定説 の. 供 述 を 記 載 した 書 面(Bの. あ るか ら,同 条 に よ り許 容 され る証 拠 に は該 当 しな い」 と判 示. し,控 訴 を 棄 却 した 。 弁 護 人 は,原 判 決 の328条 に関 す る解 釈 は非 限定 説 に たつ 高 裁 判 決(福. 岡 高 判 昭和24年11月18日. 判 特1号295頁)の. 先 例 に違 反. す る等 と主 張 し,上 告 したが,最 高 裁 は,以 下 の よ う に判 示 し,上 告 を棄 却 した。. 「所 論 引 用 の判 例 は,刑 訴 法328条 が許 容 す る 証拠 に は特 に 限 定 が な い 旨の 判 断 を した もの と解 され,こ. れ に 限定 が あ る と して本 件書 証 は 同 条 で 許 容 す る証 拠. に当 た らな い と した原 判 決 は,所 論 引用 の判 例 と相反 す る判 断 を した もの と い うべ きで あ る。[原 文 改 行]し. か しな が ら,刑 訴 法328条 は,公 判 準 備 又 は公 判. 期 日 にお け る被 告 人,証 人 そ の他 の者 の供 述 が,別 の機 会 に した そ の 者 の 供 述 と矛 盾 す る場 合 に,矛 盾 す る供 述 を した こ と 自体 の立 証 を 許 す こ と に よ り,公 判 準 備 又 は公 判 期 日 に お け る そ の者 の供 述 の信 用 性 の減 殺 を 図 る こ とを 許 容 す る趣 旨の もの で あ り,別 の機 会 に矛 盾 す る供 述 を した と い う事実 の 立 証 につ い て は,刑 訴 法 が 定 め る厳 格 な 証 明 を 要 す る 趣 旨で あ る と解 す る の が 相 当 で あ る。[原 文 改 行]そ. うす る と,刑 訴 法328条 に よ り許 容 さ れ る証 拠 は,信 用 性 を. 争 う供 述 を した 者 の そ れ と矛 盾 す る 内容 の供 述 が,同 人 の供 述 書,供. 述を録取. した書 面(刑 訴 法 が 定 め る要 件 を 満 た す もの に 限 る。),同 人 の供 述 を 聞 い た と す る者 の 公 判 期 日の 供 述 又 は これ ら と 同視 し得 る証 拠 の 中 に現 れ て い る部 分 に 限 られ る とい うべ き で あ る。[原 文 改 行]本 件 書 証 は,前 記Aの 供 述 を 録取 した 書 面 で あ るが,同 書 面 に は同 人 の 署 名 押 印 が な いか ら上 記 の供 述 を録 取 した書 面 に 当 た らず,こ れ と同 視 し得 る事 情 もな いか ら,刑 訴 法328条 が許 容 す る証拠 に は 当 た らな い とい うべ きで あ り,原 判 決 の 結 論 は正 当 と して是 認 す る こ とが 一207一.
(10) 亀へ凄 細. 近畿大学法学. 第55巻第4号. で き る。[原 文 改 行]し. た が って,刑 訴 法410条2項. に よ り,所 論 引 用 の判 例 を. 変 更 し,原 判 決 を 維 持 す る の を相 当 と認 め るか ら,所 論 の 判 例 違 反 は,結 局, 原 判 決 破 棄 の 理 由 にな らな い。」. 本 決 定 は,以 上 の とお り,最 高 裁 と して 初 めて 弾 劾 証 拠 の許 容 要 件 につ いて 検 討 し,限 定 説 にた つ こ と を明 らか に した点 で,今 後 の裁 判 実 務 に お け る運 用 に大 きな 影 響 を 与 え る こ と にな る だ ろ う。 加 え て,本 件 の よ うに 弾 劾 証 拠 が 書 面 の か た ちで 提 出 され る場 合,原 供 述 者 の署 名 ・押 印が 許 容 要 件 にな る と し,自 己 矛 盾 供 述 の 存 在 自体 の立 証 につ いて は 「刑 訴 法 が 定 め る厳 格 な 証 明 を 要 す る」と した 点 にお い て も,注 目 され る と ころ で あ る。. 3.若. 干の検討. 刑 訴 法328条 に よ っ て許 容 され る証 拠 の 範 囲,す. な わ ち 自 己矛 盾 供 述 に. 限 定 され るか 否 か とい う問 題 点 につ い て,若 干 の 検 討 を 加 え る。 上述 の とお り,下 級 審 裁 判 例 で は限 定 説 と非 限 定 説 との 対 立 が,学 説 で は そ れ に 中 間 的解 決 を 図 る見 解 を 含 め た 対 立 が 見 られ た 。 近 時,最 高 裁 が 限 定説 に た つ こ とを言 明 した こ とか ら,今 後 は,限 定 説 が 支 配 的 見 解 とな る こ とが 予想 され る。 私 も,刑 訴 法328条 の 解 釈 と して は,限 定 説 を 基 礎 とす べ きで あ る と考 え る。 確 か にy非 限 定 説 の 論 者 が 主 張 す る よ う に,328条 の 文 言 上 は,自 己 矛 盾 供 述 へ の 限定 が示 され て お らず,非 限 定説 の解 釈 も成 り立 ち う る。 も っ と も,限 定 説 が主 張 す る よ う に,328条 の母 法 とな った 英米 法理 論 は と もか く と して,刑 訴 法320条 の 原 則 的妥 当 及 び そ の 趣 旨潜 脱 の虞 を 回 避 す るべ き とい う観 点 か らは,328条. は非 伝 聞 的 使 用 に限 定 され るべ きで あ る。. 私 は,こ の 結 論 に つ い て,従 来 の基 礎 付 け に加 え て,「 弾 劾 証 拠 の 関 連 性 」 とい う観 点 か ら補 足 さ れ る べ き こ とを主 張 す る。 す な わ ち,あ 1:. る証 人.
(11) 刑 訴 法328条 によ り許 容 され る証 拠. の 公 判 供 述 の 信 用 性 を 争 う(つ ま り疑 わ しあ る)た め に は,当 該 証 人 の 証 言 が 虚 偽 で あ る こ との 可 能 性 を 指 摘 す る必 要 が あ り,例 え ば,以 前 に異 な る内 容 の 供 述 を して い た と い う事 実 は,少 な く と も矛 盾 す る 供 述 の 一 方 (も し くは双 方)が 虚 偽 で あ る と い う結 論 を導 くた め,当 該 証 人 の 信 用 性 を 減殺 させ る効 果 を もつ。 これ に対 し,別 人 の 異 な る内 容 の 供 述(他 者 矛 盾 供述)が. 存 在 す る とい う事 実 は,た だ そ れ が 存 在 して い る とい う こ とで は. 右 の よ うな推 論 が導 か れ ず,公 判 供 述 の 信 用 性 を 減 殺 す るた め に は供 述 内 容 の真 実 性 が立 証 され な けれ ば な らな い 。 確 か に,例 え ば,検 察 官 が そ の よ うな他 者 矛盾 供 述 を証 拠 と して 提 出 し,そ の 供 述 内 容 が 真 実 で あ る と主 張 す る とい った場 合,そ. の よ うな 供 述 の 真 実 性 を 前 提 と して,公 判 供 述 の. 信 用 性 が減 殺 さ れ る こ と も考 え られ る。 しか し,そ もそ もそ の よ う に して 伝 聞 証 拠 を そ の 供 述 内容 の真 実 性 立 証 に 向 け て 使 用 す る こ と は,刑 訴 法 320条 が 原 則 と して 禁 止 し,た だ326条 に よ る相 手 方 の 同 意 又 は321条 乃 至 324条 の例 外 許 容 規 定 に該 当す る 限 りで 許 され る に と ど ま る。 こ の よ うな 法 構 造 を前 提 に す る と,刑 訴 法328条 は,「 第321条 乃 至 第324条 の 規 定 に よ り証 拠 とす る こ とが で き な い書 面 又 は供 述 」 を 「供 述 の証 明 力 を争 う」 と い う 目的 に 限 り証 拠 と して許 容 す る規 定 で あ り,こ れ は,当 該 証拠 を 伝 聞 証 拠 と して で は な く非 伝 聞証 拠 と して使 用 す る場 合 に 限定 す る趣 旨 に基 づ く もの と理 解 す べ き で あ る。 この よ うな理 解 か らは,他 者 矛盾 供述 の 存 在 と い う事 実 は そ れ 自体 で公 判 供 述 を減 殺 す る必 要 最 小 限度 の証 明 力 を もつ もの と は い えず,そ. れ ゆ え,弾 劾 証 拠 と して の 関連 性 を欠 く こ とに な るの. で あ る。 もっ と も,こ の よ うな弾 劾 証 拠 の 関連 性 とい う観 点 は,被 告 人 側 に よ る 弾 劾 の場 合 と,検 察 官 側 に よ る弾 劾 の場 合 とで異 な って作 用 す る と理 解 す る こ と も可 能 で あ る。 す な わ ち,検 察 官 側 証 人 の公 判 供 述 を,被 告 人 側 が 他 者 矛 盾 供 述 の存 在 に よ って減 殺 す る こ と を試 み る とい う場 合,私 一209一. は,そ.
(12) 近畿大学法学. 第55巻第4号. の よ うな他 者 矛 盾 供 述 が存 在 す る とい う こ とだ け で検 察 官 側 証 人 の 公 判 供 述 に関 す る信 用 性 の減 殺 効 果 は認 め られ て よ い と考 え る。 す な わ ち,検 察 官 は,公 訴 事 実(主 要 事 実)の 存 否 に 関 して,合 理 的疑 い を生 じ させ な い 程 度 に ま で立 証 す る必 要 が あ る が,そ の立 証 に用 い られ た証 言 に つ い て, 他 に矛 盾 す る(被 告 人 に有 利 な)供 述 が存 在 す る とい う こ とは,そ れ だ け で 検 察 官 に要 求 され る立 証 の程 度 を減 殺 させ る効 果 を もつ の で あ り,そ れ ゆえ,そ の よ う な他 者 矛 盾 供 述 もそ れ が存 在 す る と い う事 実 だ け で弾 劾 証 拠 と して の 関 連 性 が 認 め られ る もの と理 解 す る わ け で あ る。 こ れ に対 し, 被 告 人 側 証 人 の 公 判 供 述 を 検 察 官 側 が 他 者 矛 盾 供 述 に よ っ て減 殺 す る とい う場 面 は,被 告 人 側 が い っ たん 検 察 官 の立 証 に対 し合 理 的 疑 い を生 じさせ る こ と に成 功 した と い う段 階 に あ る,す な わ ち,検 察 官 側 に改 め て合 理 的 疑 い を 打 消 す 程 度 の 立 証 が 要 求 され る と い う立 証 構 造 上,被 告 人 側 証 人 の 供 述 の 信 用 性 を 他 者 矛 盾 供 述 に よ って 減 殺 させ るた あ に は,そ の供 述 内容 の 真 実 性 が 前 提 とな り,や は り弾 劾 証 拠 と して の 関 連 性 が 否 定 され る と い う原 則 が 維 持 され るの で あ る。 この よ うな 片 面 的 構 成 に よ る結 論 は,す で に前 述 の とお り田宮,光 藤, 堀 江 らに よ って主 張 され て きた と こ ろで あ る。 この う ち,田 宮 の 見 解 は, 後 二 者 が 批 判 す るよ う に,刑 訴 法328条 の非 限 定 説 的 基 礎 にお い て 支 持 で き な い。 そ れ ゆ え,理 論 的 に は,光 藤,堀 江 の ア プ ロー チ か ら出 発 す べ き で あ る。 そ して,両 者 は,い ず れ も憲 法37条2項 人 側 に よ る検 察 官 側 証 拠 の弾 劾(吟. に 着 目 し,そ こか ら被 告. 味)と い う場 面 に お い て 伝 聞 法 則 の 緩. 和 を主 張 す る の で あ る が,そ の法 的根 拠 と して は,同 条 項 前 段 の 証 人 審 問 権 及 び後 段 の証 人 喚 問権(証 拠 提 出権)の. い ず れ もが妥 当 す べ き で あ り,. いず れ か 一 方 に 限定 さ れ る必 要 は な い もの と思 わ れ る。 そ の上 で,前 述 の よ う に,刑 事 訴 訟 に お け る立 証 構 造 の違 い が,弾 劾 証 拠 の 関連 性 の程 度 に 影 響 を 与 え る と い う観 点 か ら,補 強 さ れ る もの と な る で あ ろ う。 一210一.
(13) 刑 訴 法328条 に よ り許 容 され る証 拠. な お,刑 訴 法328条 の 解 釈 に関 して,純 粋 補 助事 実 につ いて は伝 聞 証 拠 の 使 用 を認 め る とい う見解 も,被 告 人側 か らの 弾劾 の場 面 につ いて は同 様 の 結 論 が導 か れ る。 も っ と も,こ の よ うな 見解 か らは,検 察 官 側 か らの 弾 劾 の場 面 で もや は り伝 聞法 則 を緩 和 す る とい う こ と にな るが,右 の よ うな 立 証 構 造 上 の 違 い か らは,支 持 で き な い よ う に思 わ れ る。 この 見 解 に対 し て,従 来 か ら,そ もそ も純 粋 補 助 事 実 とそ れ以 外 の主 要 事 実 又 は聞 接 事 実 との 区別 が 困難 で あ る との批 判 が寄 せ られ て き た が,そ の 点 は お くと して も,同 説 は,純 粋 補 助 事 実 につ い て は 「厳 格 な証 明」 に よ る必 要 が な い, す な わ ち 「証 拠 能 力 」 は必 要 な い とす る 問題 と,刑 訴 法328条 に よ って証 拠 と して 許 容 され る(証 拠 能 力 が 認 め られ る)か. とい う問題 とを混 同 し,. 前 者 を 前 提 に後 者 を導 く とい う循 環 論 法 に陥 る危 険 を も って い る。 ま た, 少 な くと も,自 己矛 盾 供 述 に限 定 す るか 否 か(他 者 矛 盾 供 述 で もよ い か) と い う こ とが 問 題 と され る場 面 に お いて は,お よ そ純 粋 補 助 事 実 以 外 に よ る立 証 が 問 題 と され て い るの で あ り,そ もそ もこの 問 題 につ い て 同説 が妥 当 す る 範 囲 は 極 め て 限 定 さ れ た もの とな る こ と に注 意 しな けれ ば な らな いo. 三. 「証 明 力 を 争 う」 の 意 味. 刑 訴 法328条 は,公 判 供 述 の 「証 明 力 を争 う た め」 と い う 目的 に お いて 公判 外供 述 の使 用 を許 容 す る。 この 目的 規 定 に関 して,従 来,① 公 判 供 述 の証 明力 「減 殺 」 に 限 定 す べ き とす る見 解,② い った ん 減 殺 され た 証 明 力 の 「回復 」 ま で認 め る見 解,③. 公 判 供述 の 証 明 力 の 「増 強 」 ま で 認 あ る見. 解 が対 立 して き た。. 一211一.
(14) 近畿大学法学 1.裁. 第55巻第4号. 判例. この 問 題 につ い て,ま だ 最 高 裁 にお いて 判 断 され た 事 例 はな く,下 級 審 レベ ル で 以 下 の よ うな 対 立 が 見 られ る。 (1)ま ず,二 で 検討 した よ う に,弾 劾 証 拠 は 自己 矛 盾 供 述 に限 定 され る か 否 か とい う問題 と平 行 して,③ 説 の 採 否 が 決 定 され て い る。 す な わ ち, 非 限定 説 か らは証 明 力 の増 強 目的 で の 使 用 が 認 め られ るが,限 定 説 か ら は 認 め られ な い とい うわ けで あ る。 前 者 の見 解 と して,例 え ば,東 京 高 判 昭 和31年4月4日 249頁 は,「 同 条[刑 訴 法328条]に. 高 刑 集9巻3号. い う証 明 力 を争 う と は,同 条 に よ り提. 出 し得 る供 述 は い わ ゆ る 自己 矛盾 の供 述 に 限 らな い か ら証 明 力 を 減 殺 す る た め にす る場 合 の み な らず,こ れ を増 強 す る場 合 で あ って も妨 げ な い もの と解 しな け れ ば な らな い。」 と判 示 して い る(東 京 高 判 昭 和36年7月18日 判 時293号28頁 も同 旨)。 ま た,東 京 高 判 昭和54年2月7日. 判 時940号138頁. は,回 復 証 拠 が 許 容 され た結 果,「事 実 上 証 人 の原 審 証 言 の証 明力 が 増 強 さ れ る結 果 と な った と して も,こ れ に よ る不 利 益 は前 記 の よ うな 内容 の 弾劾 証 拠 を 提 出 した被 告 人 の 側 に お い て 甘 受 す べ き もの で あ[る]」. と して,. や は り増 強 ま で認 め られ る と の結 論 を支 持 して い る。 これ に対 し,増 強 を否 定 す る見 解 と して,例 え ば,福 岡高 判 昭和30年2 月28日 判 時47号27頁 は,「 刑 事 訴 訟 法 第328条 は所 謂 弾 劾 証 拠 に 関す る規 定 で あ って,公 判 準 備 又 は公 判 期 日に お け る被 告 人,証 人,そ. の他 の者 の供. 述 の 証 明 力 を 争 う場 合 に のみ 適 用 あ る もの で あ っ て,反 対 に そ の信 愚 力 を 増 強 す る為 に検 察 官,司 法 警 察 員 等 に対 す る右 証 人 の供 述 調 書 の証 拠 調 請 求 を な し得 な い こ と は言 を 侯 た な い と こ ろで あ る。」 と判 示 し,本 条 の文 理 上 当然 に増 強 は認 め られ な い と述 べ て い る。 ま た,大 阪 高 判 平 成2年10月 9日 判 タ765号266頁 は,「あ る証 人 の公 判 証 言 の証 明 力 を増 強 す る た め,そ の 証 人 が 捜 査 段 階 にお いて も 同 旨の 供 述 を して い る こ と,す な わ ち そ の証 一212一.
(15) 刑 訴 法328条 に よ り許 容 され る証 拠. 人 の 供 述 内 容 が 捜 査 段 階 か ら一 貫 して い る こ とを 明 らか にす る 目的 を もっ て,そ の 立 証 趣 旨が 刑 訴 法328条 の 『証 明力 を争 う』 場 合 に 当 た る と して, 本 来 証拠 能 力 を 有 しな い そ の 証 人 の 捜 査 官 に対 す る供 述 調 書 を 同 条 の 書 面 と して取 り調 べ る こ とが 許 され る とす れ ば,事 実 上 伝 聞 法 則 の 潜 脱 を 容 認 す る の と等 しい」 と判 示 し,伝 聞 法 則 の 潜 脱 に つ な が る との 実 質 的 基 礎 付 け か ら増 強 目的 で の使 用 を 禁止 して い る。 (2)次. に,増 強 ま で は認 め られ な い が,い. った ん 減殺 され た 証 明 力 を 回. 復 す る 目的 に お い て な ら使 用 を認 め る とい う見 解 が存 す る。 例 え ば,鳥 取 地 判 昭和32年11月29日 判 時137号29頁 は,や は り限 定 説 を前 提 に,「 証 人 が 法 廷 で前 後(仮. に)二 回 に亘 り互 に 矛盾 す る供 述 を行 い前 後何 れ の 供述 を. 真 実 と も判 定 し難 い場 合 に は,前 の供 述 と同 旨 の法 廷 外 の供 述 を反 証 と し て提 出 し後 の供 述 の証 明力 を争 う こ とに よ って,後 の供 述 の信 用 性 が 失 わ れ前 の供 述 が全 面 的 に そ の証 明力 を 回復 す る に至 る結 果,前 の供 述 の 内容 に副 った 事 実 の認 定 が 可 能 と な る こ と は い うま で もな い。」 と して 証 明力 を 回復 す る 目的 で の使 用 を許 容 しつ つ,単. に 回復 に と ど ま らず 原 供 述 の証. 明 力 増 強 まで 認 め る こ と(例 え ば,証 人 の 原 供 述 か ら は,「 犯 人 は被 告 人 に似 て い た」 と認 定 しう る に と と ま るが,増 強 の結 果 「犯 人 は現 に被 告 人 で あ っ た」 と認 定 す る こ と)は で き な い と判 示 して い る(東 京 高 判 昭 和53 年5月17日. 東 高 刑 時 報29巻5号81頁. も同 旨)。. これ に対 し,裁 判 例 に お いて,回 復 目的 で の 使 用 を 明 示 で 否 定 した もの は見 られ な い よ うで あ る。. 2.学. 説. (1)学 説 上 も,ま ず ③ 説 の 当 否,す な わ ち 「増 強 」 を 認 め るか 否 か と い う問 題 点 につ い て,や. は り前 述 二 の 問 題 点 に関 す る考 え 方 が そ の 結 論 に影. 響 を 与 え る もの と理 解 され て い る。 例 え ば,光 藤 景 咬Us)は,限 定 説 を 前 提 一213一.
(16) '諏 己. 近畿大学法学. 第55巻第4号. とす る と,自 己 矛 盾 供 述 は 非 伝 聞 的使 用 と して328条 に よ り許 容 され る の で あ り,証 明 力 の 増 強,す. な わ ち 「『伝 聞 証 拠 で な い』 と い う性 格 を 類 型. 的 に破 る一 と くに有 罪 の 方 向 で の心 証 形 成 の結 果 を生 じる一 用 法 も斥 け ら れ る と い う関 係 に な る」 と主 張 す る。 石 川 才 顯0のは,「 証 明 力 の増 強 立 証 は,証 拠 能 力 の な い証 拠 に よ って 裁 判 所 の 心 証 形 成 を 左 右 す る ばか りで な く,『証 明 力 を 争 う』 と規 定 す る本 条 の 法 意 に も反 す る」 と して,や. はり. 増 強 目的 使 用 を 否 定 す る。 これ に対 し,青 柳 文 雄U8>は,328条 は例 外 的 に伝 聞 証 拠 を も証 拠 と して 許 容 す る規 定 で あ り,純 粋 補 助 事 実 に限 定 して 自己 矛 盾 供 述 に限 定 され な い との 見解 を 前 提 に,純 粋 補 助 事 実 を 立 証 す るた め の 補 助 証 拠 につ いて は証 拠 能 力 を 要 しな い の で あ る か ら,信 用 性 を 増 強 す る た め の 使 用 も本 条 に よ って許 容 され る と主 張 す る。 も っ と も,青 柳 の 見 解 は,右 の とお り純 粋 補 助 事 実 に 限定 され た もの で あ り,補 助 証 拠 が 同 時 に間 接 証 拠 に もな り得 る場 合 に は,伝 聞証 拠 に よ る立 証 は 許 され な い と述 べ られ て い る こ と に注 意 が必 要 で あ る。 も っ と も,学 説 上,非. 限定 説 の立 場 か ら も,裁 判例 とは 異 な り,増 強 目. 的使 用 に つ い て否 定 的 な見 解 が支 配 的 で あ る。 この よ うな 見解 は,限 定 説 の立 場 か ら,刑 訴 法328条 に お い て 提 出が 許 容 され る証 拠 に つ い て な ん ら 限定 が付 さ れ て い な い か ら とい って直 ち に増 強 ま で認 め られ る と理 解 す る の は,「 非 限 定説 の 立 場 か ら も論 理 の飛 躍 が あ る と い わ ね ば な らな い」useと 指 摘 され て い る よ う に,増 強 目的使 用 の可 否 は,限 定 説 の立 場 か らは論 理 必 然 的 に否 定 され る と い え る が,非 限定 説 の立 場 か らは必 然 的 に肯 定 され ㈱. 光 藤 景 絞 『口述 刑 事 訴 訟 法 中巻 ・補 訂 版 』246頁(2005年,成. qの 石 川 才 顯 『刑 事 訴 訟 法 講 義 』274頁(1974年,日. 文 堂)。. 本 評 論 社)。. ⑱. 青 柳 文 雄 『刑 事 訴 訟 法 通 論 下 巻 ・5訂 版 』412頁(1976年,立. ⑲. 光 藤 景 鮫 「証 明 力 の増 強 」 熊 谷 他 編 『証 拠 法 体 系III』379,380頁(1970年, 日本 評 論 社)。 一214一. 花 書 房)。.
(17) 刑 訴 法328条 に よ り許 容 され る証 拠. る とい う関 係 には な い こ と に よ る もの と思 わ れ る。 ま た,証 明 力 の 減 殺 か 増 強 か は実 際 にそ の 区 別 が 困 難 で あ り,例 え ば, 検 察 官 側 請 求 証 拠 が 刑 訴 法321条1項3号. に よ る もの か328条 に よ る ものか. の 見 極 め が 難 しい こ とか ら(高 松 高 判 昭 和24年12月10日 判 特5号91頁. 参. 照),増 強 目的 で の 使 用 も認 め ざ る を得 な い と も考 え うる。 しか し,区 別 の 困 難 さの 問 題 は お くと して も,そ の よ うな 観 点 は,増 強 目的 使 用 を認 あ る 論 拠 とは な らな い もの と理 解 され て い る。 す な わ ち,「確 か に,あ る者 の供 述 を そ の 者 の 自己 矛 盾 供 述 に よ って 証 明 力 を 減 殺 す る こ と は,そ の者 と異 な った 内 容 の 供 述 を して い る他 の 者 の 供 述 の 証 明 力 を 増 強 す る結 果 を招 来 す る こ とが あ る こ と は否 定 で きな いの で あ って,そ の 意 味 で,減 殺 と増 強 の 区 分 は 明 確 で は な い と いえ るが,そ れ は減 殺 に よ る反 射 的 な効 果 で あ っ て,減 殺 か 増 強 か の 判 断 は,直 接 弾 劾 の 対 象 とな った 供 述 につ いて 検 討 す べ き もの 」 で あ るか ら,原 供 述 との 関 係 で 「増 強 」 を 目的 と した使 用 は や は り否 定 され るべ き とい うの で あ る⑫ Φ。 (2)こ の よ う に,学 説 上,増 強 目的 使 用 は認 め られ な い とす る見 解 が 支 配 的 とな って い る。 で は,い った ん 減 殺 され た 証 明 力 を 「回 復 」 させ る 目 的 で の 使 用 は ど うか 。 この 問 題 に関 して,学 説 上,非 限 定 説 の 立 場 か ら はな お の こ と,限 定 説 の 立 場 か ら も,回 復 目的 使 用 を 許 容 す る見 解 が,支 配 的 とな って い る。 す な わ ち,限 定 説 の立 場 か ら は,刑 訴 法328条 に よ って 許 容 され る の は 自 己矛 盾 供 述 に限 定 され るが,一 方 当 事 者 か らの 弾 劾 に よ って 証 明 力 を 減 殺 され た 相 手 側 は,公 判 供 述 と一 致 す る(弾 劾 証 拠 と矛 盾 す る)証 拠 を 提 出す る こ とに よ り,減 殺 され た 証 明 力 を 回 復 す る こ とが 可 能 にな る と い う。 つ ま り,こ の 場 合 も,回 復 証 拠 は,そ の 供 述 内 容 の 立 証 の た め 用 い られ る ので は な く,あ くま で 公 判 供 述 と一 致 した 供 述 が 行 わ れ て いた と い う事 実 を示 ⑳. 大野(前 掲 注(5))『大 コ ン メ ン ター ル 刑 事 訴 訟 法 』403頁 。 一215一.
(18) 近畿大学法学. 第55巻第4号. す に 過 ぎ な い た め,そ の よ うな 形 で の 証 明 力 回 復 が 許 され る とい うわ けで あ るau。 この 場 合,「 証 明 力 を争 う」 と い う文 言 の解 釈 が 問 題 と な るが,そ の 際 に は,攻 撃 防 御 に 関 す る当 事 者 対 等 ・公 平 とい う刑 訴 法 の 原 則 ⑳ や, 一 致 供 述 の提 出 は相 手 方 の 弾 劾 証 拠 に対 す る弾 劾 で あ る㈱ とい った 基 礎 付 け が な さ れ て い る。 こ れ に対 し,刑 訴 法328条 によ って は,あ くま で 公判 供 述 の証 明 力 を 減殺 す る 目的 で の使 用 に 限定 さ れ,増 強 は お ろ か 回復 目的 で の使 用 も認 め られ な い とす る見 解 が あ る。 例 え ば,石 川 才 顯 ⑳ は,「回 復 証 拠,す な わ ち 弾劾 さ れ た法 廷 供 述 と一 致 す る法 廷 外 供 述 は,形 式 的 に は弾 劾 立 証 に よ る減 殺 を回 復 す る に止 ま る よ う に み え る が,し か し,そ れ は実 質 的 に は増 強 立 証 に ほか な らな い。」 と述 べ,回 復 目的 で の 使 用 を 否 定 す る。 渥 美 東 洋 ㈱ も, や は り 「伝 聞 証 拠 が 密 か に実 は 有 罪 立 証 の証 拠 に用 い られ る結 果 を 生 ず る」 虞 が あ る こ とか ら,回 復 目的 使 用 を否 定 す る。 これ らは,い ず れ も, 回 復 効 果 と増 強 効 果 との 区 別 の困 難 性,そ れ に よ る伝 聞 法 則 の潜 脱 と い う 観 点 か ら,制 限 を 必 要 とす る見 解 で あ る と い って よ い。. 3.若. 干の検討. 上 述 の 裁 判 例 及 び 学 説 の 概 観 を 前 提 に,本 問 題 に関 す る若 干 の 検 討 を 行 う。 (1)ま. ず,「 増 強」 目的 で の使 用 につ い て,裁 判 例 で は,自. 己矛 盾 供 述. に 限 定 す るか 否 か の 対 立 が ほ ぼ そ の ま ま反 映 して,見 解 の 対 立 が 見 られ た。 これ に 対 し,学 説 上 は,ほ ぼ 否 定 説 が 支 配 的 とな って い る。 理 論 的 に ⑳. 光 藤(前 掲 注 ⑲)「 証 明力 の増 強 」382頁 。. ⑳. 前 掲 東 京 高 判 昭和54年 参 照 。. ㈱. 高 田卓 爾 『刑 事 訴 訟 法 ・2訂 版 』248頁(1984年,青. ⑳. 石 川(前 掲 注qの)『刑 事 訴 訟 法 講 義 』274頁 。. ㈱. 渥 美 東 洋 『刑 事 訴 訟 法 ・全 訂 版 』401頁(2006年,有 一216一. 林 書 院)。 斐 閣)。.
(19) 刑 訴 法328条 に よ り許 容 され る証 拠. は,裁 判 例 の 対 立 に見 られ る よ う に,限 定 説 か ら は否 定 され,非 限 定 説 か らは肯 定 され る とい う こ と にな るで あ ろ う。 但 し,増 強 目的 で の 使 用 まで 認 あ る こ とは 「証 明 力 を争 う」 とい う語 義 を 逸 脱 す る とい う こ とか ら,非 限定 説 か ら も,増 強 目的 で の 使 用 を 否 定 す る とい う考 え 方 は,成 り立 ち う る。 も っ と も,増 強 目的 で の使 用 とい う場 合,① 証 拠 請 求 の段 階 で 増 強 目的 で の使 用 を立 証 趣 旨 と して請 求 す る こ とは許 され る か とい う問題 と,② 回 復 目的 で請 求 さ れ た証 拠(後 述)が. そ の趣 旨を超 え て,又 は 回 復 の い わ ば. 反 射 的 効 果 と して 原 公 判 供 述 の証 明 力 の 増 強 は許 され る か と い う問 題 と は,は. っき り区別 さ れ な け れ ば な らな い。 従 来 の議 論 は,こ の あ た りの 区. 別 が 明 確 で なか った た め に,前 述 の よ うな 回復 と増 強 との 区別 の 困難 性 と い う問 題 に逢 着 して しま って い た よ うに思 われ る。 まず,① で,さ. の問 題 は,そ. もそ も原 公 判 供 述 に対 す る弾 劾 が 存 在 しな い般 階. らに公 判 外 供 述(例 え ば 自 己一 致 供 述)に. よ って 公 判 供 述 の証 明力. を 増 強 す る こ とが で き るか と い う もので あ る。 こ の場 合,非 限 定 説 か らは な お の こ と,限 定 説 か ら も,自 己一 致 供 述 の内 容 で はな くそ の よ うな供 述 が 行 わ れ た と い う事 実 自体 が 要 証 事 実 で あ る とな れ ば,そ れ は非 伝 聞 的 使 用 で あ り,許 容 され る よ う に も思 わ れ る。 しか し,自 己 矛 盾 供 述 は,そ の 存 在 自体 に よ り当 該 証 人 の 証 言 は少 な くと も いず れ か が 虚 偽 で あ る こ とを 立 証 す る もの で あ り,そ れ ゆ え 関 連 性 は肯 定 され るが,自 己 一 致 供 述 は, そ れ が い くら存 在 して も,そ の 内 容 自体 の 真 実 性 が 証 明 され な い 限 り,当 該 証 人 の 信 用性 を 高 め る もの で は な い。 も っ と も,前 述 の とお り,検 察 官 側 と被 告 人 側 との 立 証 負 担 の 差 異 を 前 提 と して,弾 劾 証 拠 の 関連 性 に 関 して も片 面 的 構 成 が 妥 当 で あ る とい う見 解 か らは,増 強 目的使 用 の 可 否 も片 面 的 に 構 成 し うる よ うに思 わ れ る。 す な わ ち,検 察 官 側 が原 公判 供述 を 公判 外 の一 致 供 述 に よ って増 強 しよ う と 一217一.
(20) 隔 も,オ雌. 近畿大学法学. 第55巻第4号. して も,前 述 の とお りそ の供 述 内容 の信 用 性 が高 め られ る構 造 に は な い。 これ に対 し,被 告 人 側 が 自 己 に有 利 な公 判 供 述 を公 判 外 の一 致 供 述 に よ っ て その 証 明 力 の増 強 を図 る場 合,そ. れ は,原 公 判 供 述 に よ る検 察 官 側 立 証. に対 す る合 理 的 疑 いを な お も高 め る こ と を 目的 と して使 用 す る とい う もの で あ り,例 え ば,公 判 供 述 と一 致 す る複 数 の他 者 一 致 供 述 が提 出 され る場 合 を 考 え る と,関 連 性 は認 め られ て よ い よ うに思 われ る。 これ に対 し,② の 問 題 は,原 公 判 供 述 に対 す る弾 劾 が な され た と き, い った ん 減 殺 され た 証 明 力 を 回 復 す る 目的 で 証 拠 申請 され たが,裁 判 所 の 心 証 にお い て,原 公 判 供 述 の 証 明 力 回 復 に と ど ま らず,さ. らに従 前 よ り も. 増 強 され た 証 明 力 を 認 め る こ と に よ って 心 証 形 成 に影 響 を 与 え る こ と は許 され るか とい う もの で あ る。 この 問 題 は,前 述 の とお り,増 強 目的 と回 復 目的 との 区 別 が 困 難 で あ る と指 摘 され る場 面 を 対 象 とす る もの で あ る。 こ の 場 合,確 か に,「 事 実 上 証 人 の 原 審 証 言 の 証 明 力 が増 強 さ れ る 結 果 」 が 生 じる こ と(東 京 高判 昭 和54年 参 照)は 否 定 で きな い で あ ろ う。 しか し, 論 理 的 に は,回 復 に と どめ られ るべ き 効 果 が,増 強 ま で に至 る とい う こ と は,や は り否定 さ れ な け れ ば な らな い。 す な わ ち,例 え ば,公 判 供 述 の 証 明力 が 自 己 矛盾 供 述 に よ って 減殺 され た とき,こ れ を 自己一 致 供 述 に よ っ て証 明力 の 回復 が試 み られ る場 合,そ. れ は単 に そ の よ うな供 述 が 存 在 す る. こ と自体 を要 証 事 実 とす る もの で あ る。 これ に対 し,前 述 の とお り,自 己 一 致 供 述 に よ る証 明力 増 強 の た め に は そ の 内容 の真 実 性 が 問 わ れ な け れ ば な らな い こ と か ら,証 拠 と して の 関連 性 を欠 い て い る とい わ な け れ ば な ら な い。 ま た,自 己一 致 供 述 以 外 の伝 聞証 拠 で 回復 を 図 る場 合,そ 自体 問 題 で あ るが,そ. の許 容 性. の点 を ひ と まず お くと して も,増 強 目 的 で使 用 す る. た め に はや は りそ の 内容 の真 実 性 が 問 われ る こ とか ら,証 拠 能 力 は否 定 さ れ な けれ ばな らな い。 も っ と も,こ こで も,被 告 人 側 に よ る公 判 供 述 が 弾 劾 され,回 復 目的 で 一218一.
(21) 刑 訴 法328条 に よ り許 容 さ れ る証 拠. 他 の 供 述 が 請 求 され る場 合,そ. の立 証 が 果 た され る こ と に よ って原 供 述 の. 信 用 性 が 増 強 され る こ と は,上 述 の よ う な立 証 の片 面 的 構 成 を前 提 とす る と,少 な くと も理 論 的 は否 定 で き な い だ ろ う。 但 し,そ の際. 当事 者 請 求. 証 拠 の 立 証 趣 旨の 拘 束 力 が 問 題 と な る。 こ の問 題 につ い て,本 稿 で詳 細 に 検 討 す る こ と はで きな いが,被 告 人 側 に よ る証 明 力 増 強 に関 して は,裁 判 所 が そ の 後 見 的 立 場 か ら立 証 趣 旨を 超 え て 被 告 人 に有 利 に証 拠 評 価 す る と い う こ と も許 され て よ いの で はな いだ ろ うか 。 (2)で. は,「 回復 」 目的 で の使 用 は許 さ れ る か。. 前述 の とお り,回 復 目的 使 用 の 可 否 につ いて,裁 判 例 及 び学 説 上,肯 定 説 が 支 配 的 とな って い る。 「証 明力 を争 う」と い う解 釈 に関 して,そ もそ も 非 限 定説 の 立場 か ら は広 く肯 定 され るの に対 し,限 定 説 の 立 場 か ら も,攻 撃側 と防 御側 との機 会 均 等,回 復 証 拠 は弾 劾 証 拠 に関 して 言 え ば 自 己矛 盾 供述 で あ る とい った こ とが 挙 げ られ て い る。 これ に対 し,回 復 と増 強 との 区 別 の 困 難 さか ら実 質 的 に潜 脱 され る虞 が あ る と して,回 復 も認 め な い 見 解 も有 力 で あ る。 しか し,前 述 の と お り, そ もそ も問題 と され て い る場 面 にお い て,回 復 目的 で の 証 拠 を 増 強 目的 で 使 用 す る こ とは,少 な く と も関連 性 の 観 点 か ら は,基 本 的 に否 定 され るべ き もの で あ る こ とか ら,そ の 区 別 の 困難 さは 回 復 目的 で の 使 用 を 否 定 す る 論 拠 とは な らな い。 も っ と も,回 復 目的使 用 を肯 定 す る見解 も,論 理 必 然 的 に,検 察 官 側 及 び 被 告 人 側 と も一 律 に そ の 結 論 を 基 礎 づ け る もの で は な い よ う に思 わ れ る。 す な わ ち,ま ず,回 復 証 拠 は弾 劾 証 拠 に 関 して言 え ば 自己 矛 盾 供 述 で あ る との観 点 は,本 条 は あ くま で公 判 供 述 の証 明力 を争 うた め の証 拠 に関 す る規 定 で あ り,仮 に肯 定 され る と して も,本 条 に よ る もの で は な く,他 の論 理 に よ らな け れ ば な らな い。 ま た,攻 撃 側 と防御 側 との機 会 均 等 は, 前 述 の と お りそ の立 証 構 造 の違 い を前 提 とす る と,少 な く と も検 察 官 側 に 一219一.
(22) 近畿大学法学. 第55巻第4号. よ る回 復 の場 面 に は妥 当 しな い。 や は りこ こで も,検 察 官 側 と被 告 人 側 との立 証 構 造 の差 異 は,回 復 目的 で の使 用 に関 して も片 面 的 構 成 の か た ち で結 論 付 け られ るべ き で は な い だ ろ うか 。 す な わ ち,例 え ば,検 察 官 側 が 自 己矛 盾 供 述 に よ る弾 劾 に対 す る 自 己一 致 供 述 に よ る回 復 を 試 み る場 面 で は,弾 劾 証 拠 に よ り動 揺 した原 公 判 供 述 の 信 用 性 は,自 己一 致 供 述 が 存 在 す る と して も,そ の供 述 内容 の真 実 性 が 問 わ れ な けれ ば,自 己矛 盾 供 述 に よ りい っ たん 生 じた合 理 的 疑 い を 払 拭 す る こ と はで きな い。 これ に対 し,被 告 人 側 が 回 復 を 試 み る場 合,原 公 判 供 述 に よ り検 察 官 側 立 証 に対 しい った ん 生 じさせ た 合 理 的 疑 い は,同 趣 旨の 公 判 外 供 述 が 存 在 す る こ と に よ り,な お そ の 証 明 力 は回 復 され う る 関 係 に あ る。 但 し,そ の 際 も,原 公 判 供 述 の 証 明 力 が 完 全 に(100%)回 復 され う るか は 問題 で あ る。 しか し,被 告 人 側 立 証 と して は,仮 に半 分 程 度 しか 回 復 され な い と して も,そ れ 自体 は 十 分 に意 味 の あ る こ とで あ り, 関連 性 は 否定 され る もの で は な い。 ま た,自 己 一 致 供 述 以 外 に広 く伝 聞 証 拠 に よ って 回復 が試 み られ る場 合 も,基 本 的 に,こ の 片 面 的 構 成 は 維 持 さ れ うる。 但 し,こ の よ うな形 で 回復 目的使 用 を認 め る と して も,そ こに は さ ら に 別 の 問題. す な わ ち手 続 的 な許 容 性 の 問題 が残 さ れ て い る。 項 を 改 め て,. 手 続 的 要 件 を検 討 す る。. 四. 1.弾. 弾劾証拠 の手続的要件. 劾供述の時期. (1)従 来 の 議 論 手 続 的 要 件 と して,第 一 に,刑 訴 法328条 に よ って 提 出 され る法 廷 外 供 述 は,証 明 力 を 争 う対 象 とな る公 判 供 述 よ りも以 前 に為 され た こ とが 必 要 で 一220一.
(23) 刑 訴 法328条 に よ り許 容 され る証 拠. あ るか とい う問 題 を 検 討 す る。 この 問題 につ い て,最 高 裁 は,い わ ゆ る 「八 海 事 件 」 第 三 次 上 告 審(最 判 昭和43年10月25日 刑 集22巻11号961頁)に. お い て,「 公 判 準 備 期 日 に お け. る証 人Aの 尋 問終 了後 に作 成 され た 同 人 の検 察 官調 書 を,右 証 人 の 証 言 の 証 明 力 を 争 う証 拠 と して 採 証 した 原 判 決 の 説 示 は,必 ず し も刑 訴 法328条 に違 反 す る もの で は な い」 と判 示 し,弾 劾 供 述 の 時期 に つ い て 限 定 して い な い(東 京 高 判 平 成6年7月11日. 高 検 速 報3005号9頁. も同 旨)。 最 高 裁 調. 査 官 解 説[船 田三 雄]⑳ は,刑 訴 法328条 は321条 とは異 な り 「前 の」供 述 に 限 定 して い な い こ と を挙 げ,「そ れ は,憲 法37条2項 障 は,厳 格 な 証 明 を 要 す る事 実,こ 考 え れ ば よ いの で あ って,単. に よ る証 人 尋 問権 の保. と に犯 罪 事 実 を証 明 す る証 拠 に つ い て. に証 拠 の 証 明 力 を争 う補 助 事 実 を証 明す る証. 拠 に まで これ を 保 障 す る趣 旨で はな い こ と に 由来 す る」と説 明 し,「単 に証 拠 の 証 明力 を 争 う証 拠 に す ぎ な い刑 訴 法328条 の 場 合 は,… … 自己 矛 盾 の 供 述 の な され た 事 情 につ いて の 被 告 人 側 の 反 対 尋 問 権 を 必 須 の もの と して は 認 め て い な い」 と結 論 付 けて い る。 この よ うな 結 論 は,前 述 非 限 定 説 か らは な お の こ と,限 定説 か ら も,同 一 人 によ る矛 盾 供 述 の 存 在 に基 づ く証 明力 減 殺 の作 用 は認 め られ る と して,支 持 す る見 解 が 見 られ る⑳。 こ れ に対 し,弾 劾 証 拠 は証 明力 を争 わ れ る 公 判 供述 よ り も前 の 供 述 に限 定 さ れ るべ き とす る見 解 も有 力 で あ る。 例 え ば,高 田 卓 爾㈱ は,証 人 を 再 喚 問 し うる 限 り,証 人 と して再 尋 問す べ き で あ って,そ れ に代 え て 公 判 外 供 述 を 内容 とす る調 書 を提 出す る こ と は,い わ ば公 判 中心 主 義 に反 す る も の と して 許 され な い と主 張 す る。 光 藤 景 咬 ⑳ は,「 公 判 中心 主 義 が 画 餅 と ㈱ ⑳. 船 田 三 雄 「判 例 解 説 」 最 判 解 刑 事 篇 昭 和43年 度298,340頁(1969年)。 石 井(前 掲 注(5))『刑 事 実 務 証 拠 法 』202頁,石. 丸=服 部(前 掲 注(5))『刑 事 訴. 訟 の 実 務 』215頁 。 ㈱. 高 田(前 掲 注 ㈱)『 刑 事 訴 訟 法 』248頁 。 平 場 他[鈴 木 茂 嗣]『 注 解 刑 事 訴 訟 法 中 巻 ・全 訂 新 版 』798頁(1982年,青. 林 書 院 新 社)も 同 旨。 一221一.
(24) 近畿大学法学. 第55巻第4号. な る」 虞 に 加 え て,「 公 判 廷 で の 証 言 後,供 述 者 の 申 出 もな い の に,捜 査 機 関 が そ の 証 言 内 容 に関 連 して法 廷 外 で取 り調 べ,そ は,弾 劾 に必 要 な 最 小 限度 の 要 件 を 欠 き,328条. の結 果 得 た矛 盾 供 述. に よ る提 出 は 認 め られ な. い」 と主 張 す る。 そ こで い う 「弾 劾 に必 要 な最 小 限 度 の要 件 」 につ い て 明 示 され て は いな いが,お そ ら く,自 己矛 盾 供 述 の 存 在 自体 に よ る証 人 の信 用 性 減 殺 の 効 果 は,以 前 に異 な る供 述 を して いた に もか か わ らず 公 判 で そ れ と矛 盾 す る証 人 の 供 述 態 度 にお いて そ の 信 用 性 が 後 退 させ られ る と い う 点 にそ の 根 拠 が あ るの で あ って,公 判 供 述 以 後 に捜 査 機 関 が 罪 状 立 証 に資 す る内 容 の 供述 を 求 め た こ と に応 じて(少 な くと も 自発 的 にで はな く)公 判 供述 と矛 盾 す る供述 を 行 った と して も,公 判 供 述 の 信 用 性 自体 が 減 殺 さ れ る もの で は な い との 考 察 に基 づ く もの で あ ろ う。 また,こ れ 以 外 に,検 察 官 と被 告 人 との武 器 対 等性 の 観 点 か ら,や は り公 判 供 述 前 の 供 述 証 拠 に 限定 す べ き とす る見 解 もあ る暁. ちな み に,ア メ リカ で は事 後 の供 述 は 一. 般 に不 正 の 危 険 が 大 き い た め 臨 終 の 供 述 に 限定 され て い る と い う点 もRD, 参 考 に な る もの と して指 摘 さ れ よ う。 ま た,福 井 地 決 昭 和48年7月17日. 判. 時717号113頁 が,検 察 官 が起 訴 後 に弁 護 人 請 求 予定 証 人 に つ い て 後 に 弾 劾 す る 目的 で取 調 べ て調 書 を作 成 して お き,証 人 が公 判 で供 述 した 後,直 ち に 当該 調 書 を弾 劾 証 拠 と して提 出す る こ と は,公 判 中心 主 義 及 び 両 当事 者 の 武 器 対 等 の 観 点 か ら許 され な い と結 論 付 け て い る事 例 は,刑 訴 法328条 に よ って 提 出が 許 容 され る証 拠 の供 述 時 期 に関 して も参 考 に な る。 この よ うな 公 判 中心 主 義 に基 づ く公 判 供 述 後 の弾 劾 証 拠 を否 定 す る見 解 ⑳. 光 藤 景 絞 「自 己矛 盾 の供 述 に 限 る か」 熊 谷 他 編 『証 拠 法 体 系 皿』371,377頁 (1970年,日. ⑳. 本 評 論 社)。. 青 柳 他編[西 原 春 夫]『 注 釈 刑 事 訴 訟 法 第3巻(旧. 版)』414頁(1978年,立. 書 房)。 但 し,同 書 新 版[香 城 敏 麿]第5巻375頁(1998年)で. 花. は,見 解 が 改 め. られ,公 判 供 述 後 の 公 判 外 供 述 も許 容 され る と して い る。 ⑳. ジ ョ ン ・エ ヴ ァー ツ ・ トレ イ シ ー(中 村 恵 他 訳)『 英 米 証 拠 法 概 説 』186頁 (司法 研 修所 資料 第22号,1970年)。 一222一.
(25) 刑 訴 法328条 に よ り許容 され る 証拠. に対 し,加 藤 克 佳 ⑳ は,十 分 な反 対 尋 問 が 行 われ た後 の再 尋 問請 求 は必 要 性 に乏 しい と して 却 下 さ れ る虞 が大 き い こ とか ら,む しろ,公 判 証 言 後 の 供 述 証 拠 につ いて も一 応 許 容 し,公 判 供 述 の 内容 と比 較 して必 要 性 が認 め られ れ ば再 尋 問 を行 うとす る運 用 が,特. に被 告 人 側 に十 分 な反 証 活動 を保. 障 す る こ と につ な が る,そ の よ うに解 して も必 ず し も公 判 中心 主 義 に反 す る もの で はな い と して,よ. り実 践 的 な解 決 を主 張 す る。. (2)若 干 の 検 討 以 上 の とお り,前 掲 最 判 昭 和43年 及 び これ を支 持 す る見 解 か らは,条 文 上 の 限 定 が な い こ とか ら,公 判 供 述 よ り後 に な され た公 判 外 供 述 も,刑 訴 法328条 に よ って 許 容 され る とす る見 解 と,公 判 中心 主 義 及 び 両 当 事 者 間 の 武 器 対 等 性 の 観 点 か ら,328条 証 拠 は 公 判 供 述 よ り前 に な さ れ た 公 判 外 供 述 に限 定 す べ き とす る見 解 との 対 立 が 見 られ た 。 ま ず,刑 訴 法328条 が321条1項2号 い な い とす る点 は,確 か に,328条. と は異 な り 「前 の 供 述 」 に限 定 して が321条1項. で は証 拠 とで きな い証 拠 も. 許 容 す る規 定 で あ る こ とか ら,文 理 上 の 論 拠 と して は合 理 的 で あ る と いえ よ う。 も っ と も,反 対 説 か ら主 張 され る公 判 中 心 主 義 及 び両 当 事 者 間 の 武 器 対 等性 の 観 点 も,実 質 的 な 論 拠 と して 軽 視 で きな い 。 但 し,反 対 説 が 主 張 す る 観 点 は,被 告 人 側 証 拠 を 検 察 官 側 が 弾 劾 す る場 合 に問 題 とな る もの で あ って,反 対 に検 察 官 側 証拠 に対 して 被 告 人 側 が 弾 劾 す る場 合 に問 題 と な る もの で は な い。 す な わ ち,「 す で に公 判 期 日 に お い て 証 人 と して 尋 問 さ れ た者 に対 し,捜 査 機 関 が,そ の作 成 す る供 述調 書 を の ち の 公 判 期 日 に 提 出 す る こ とを予 定 して,同 一 事 項 に つ き取 調 を 行 う こ とは,現 行 刑 訴 法 の趣 旨 とす る公 判 中心 主 義 の 見地 か ら好 ま しい こ とで は な く,で き るだ け 避 け るべ き で は あ る」(最 決 昭 和58年6月30日. 刑 集37巻5号592頁)が,弁. 護 人 が公 判 供 述 後 に証 人 と面 会 し,発 言 の真 意 を 問 う とい った こ とは,両 働. 加 藤 克 佳 「判 例 解 説 」 刑 訴 法 百 選 第6版178,179頁(1992年)。 一223一.
(26) 近畿 大学法学. 第55巻 第4号. 当事 者 間 の武 器 対 等性 の 観 点 か らは 決 して 非 難 され るべ き もの で はな く, ま た 公判 中心 主 義 に反 す る もの と もい え な い で あ ろ う。 む し ろ,そ の よ う な 公判 外 で の質 問 に 際 し,真 実 に反 す る内 容 の証 言 を した との 事 情 が 明 ら か に な れ ば,そ の よ うな証 拠 が 公 判 に顕 出 され るべ き こ とは,公 判 中 心 主 義 の観 点 か ら も要 請 さ れ る もの とい い う る。 確 か に,こ の場 合 も,弁 護 人側 よ り再 喚 問 の請 求 が な され,公 判 に お い て そ の 供 述 の 真 偽 が 確 か め られ る こ とが 望 ま し い の は 確 か で あ る。 しか し,当 初 の 公 判 で 真 実 に反 す る(疑 い の強 い)供 述 を あえ て 行 っ た証 人 は, 相 応 の理 由 に基 づ い て そ の よ うな挙 に 出 た もの で あ り,再 度 の証 人 尋 問 で 十 分 な供 述 を 引 出す こ とが で き る か は疑 わ しい。 ま た,被 告 人 側 と検 察 官 側 と の立 証 構 造 の違 い を前 提 に,矛 盾 す る供 述 の いず れ が真 実 で あ る か を 確 認 す る ま で もな く,そ の よ うな矛 盾 す る供 述 の存 在 を提 示 す る だ け で, 合 理 的 疑 いが 生 じう る こ と,そ れ ゆ え,他 者 矛 盾 供 述 で も関連 性 が認 め ら れ るべ き こ と を考 え る と,片 面 的 に被 告 人 側 に よ る弾 劾 の場 合 に 限 って 公 判 供 述 後 の 公 判 外 供 述 を許 容 す る こ と も,認 め られ て よ い もの と思 わ れ る。. 2.弾. 劾 書 面 の形 式 性. (1)最 高 裁 の 見 解 例 え ば,自 己矛 盾 供 述 が 書 面 に よ って 提 出 され る場 合,当 該 供 述 の供 述 者 に よ る署 名 押 印 が 必 要 で あ るか 。 最 高 裁 は,前 掲 最 判 平 成18年 に お い て,自 己矛 盾 供 述 に 限定 され る との分 析 を前 提 に⑬,「本 件 書証 は,Aの. 供. 述 を 録 取 した 書 面 で あ るが,同 書 面 に は 同人 の署 名 押 印 が な いか ら上 記 の ㈱. ち な み に,原 判 決 は,自 己矛 盾 供 述 を行 った証 人 の 供述 録 取 書 で はな く,そ の よ うな 供 述 を 事 件 現 場 で聞 き取 っ た(体 験 した)消 防 官 の 供 述 書 で あ る と分 析 し,そ もそ も限 定 説 の 立 場 か らは そ の段 階 で証 拠 と して の 許 容 性 が 否 定 され た た め,こ の 問 題 は 検 討 され な か った 。 一224一.
(27) 刑 訴 法328条 に よ り許 容 され る証 拠. 供 述 を録 取 した 書 面 に当 た らず,こ れ と同 視 しう る事 情 もな いか ら,刑 訴 法328条 が許 容 す る証 拠 に は 当 た らな い」と判 示 し,供 述 者 の署 名 押 印 を必 要 とす る見解 にた つ こ とを 明 らか に した 。 本 件 の よ うな 警 察 官 以 外 の公 務 員 の 面前 で 行 わ れ た 供述 が 弾 劾 証 拠 と して 用 い られ る こ と は,特 に本 件 の よ うな放 火事 件 で は珍 しい こ とで はな く,そ の よ うな 書 面 に は,刑 訴 法 上 の供 述 録 取 書 とは異 な って,原 供述 者 の 署 名 押 印 を 求 め る こ とが 必 ず し も 日常 的 と は い え な い こ とか ら,署 名 押 印 を 刑 訴 法328条 に よ る証 拠 の 許 容 性 要 件 とす るか 否 か は,実 務 上 重 要 な 問 題 で あ る。 この 問題 に つ い て,明 示 で検 討 され た の は,下 級 審 裁 判 例 を 含 あて も, 本 判 決 が初 め て で あ ろ う。 そ の理 由 は,公 判 外 供述 が 書 面 の か た ちで 提 出 され る場 合,こ れ に 署 名 押 印 が な され て い る こ とが 要 件 で あ る とす る の が,裁 判 実 務 及 び学 説 上 お よ そ 一 般 的 な見 解 で あ り鋤,裁 判 に お い て 実 際 に争 わ れ る こ と もな か った こ と によ る もの と思 わ れ る。 す な わ ち,署 名 押 印 を欠 く書 面 は,供 述 者 に よ る正 確 性 が確 認 され て い な い 証拠 で あ り,二 重 伝 聞 と して 直 接 主 義 に 対 す る二 重 の侵 害 に な る もの と して許 容 さ れ な い,と い うわ け で あ る。 この点 に つ い て,判 例 時報 及 び判 例 タイ ム ズ の 匿 名 解 説 ㈲ は,供 述 録 取 書 は原 供 述 者 が 供 述 録 取 者 に対 して 供 述 す る過 程 (第 一 供 述 過 程)と 供 述 録 取 者 が これ を書 面 化 して伝 え る供 述 過 程(第. 二. 供 述 過 程)を もち,刑 訴 法328条 に よ る弾 劾 は第 一 供 述 過 程 につ い て これ を 非 伝 聞 的 に使 用 す る こ とに許 容 の根 拠 が認 め られ る もの で あ って,第 二 供 述 過 程 の伝 聞 性 の問 題 は残 さ れ る こ とに な る,そ れ ゆ え,第 二 供 述 過 程 に 関 して は原 供 述 者 の署 名 押 印 が備 わ って い な い 限 り伝 聞法 則 に よ る制 限 を 受 け るの で あ り,刑 訴 法328条 に よ って も許 容 され な い と解 説 して い る。 鋤. 大 野(前 掲 注(5))『大 コ ンメ ン ター ル 刑 事 訴 訟 法 』406頁,小 注 釈 全 書 刑 事 訴 訟 法 下 。新 版 』933頁(1986年,有 解 刑 事 訴 訟 法 』799頁 。. ㈲. 判 例 時 報1957号167頁,判. 例 タ イ ム ズ1228号137頁 。 一225一. 野 他 『ポ ケ ッ ト. 斐 閣),鈴 木(前 掲 注 ㈱)『 注.
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