アート&デザインによる環境問題の提起、解決
地球環境問題を提起、解決する日用品のデザインワーク
影山友章 産業イノベーションデザイン領域
昨今、地球環境を取り巻く様々な問題は凄惨さを増し、地球規模での対策が必要とされている。2015 年 9 月の国連サミットで採択された、世界規模の開発目標「SDGs」では、17 ジャンルの開発目標のうち、 4 ジャンル注 1)が地球環境保全に対する直接的目標である。また、間接的影響を含めると、8 ジャンル注 2) が地球環境と何らかのつながりを持った開発目標となっており、対策の重要性が読み取れる。持続可能 な人間社会を構築していくためには、これらの問題と対峙していく必要があり、人間の生活目線でモノ やコトを生み出していくことが役割のデザイナーも、その責務を担っているといえよう。本稿では、デ ザイナーが日用品の創造を通じて、地球環境問題をどのように提起、解決していくことができるのかを、 デザイン提案の事例と共に紐解いていく。 キーワード:デザイン・日用品・地球環境保全 1.はじめに 近年、過去に例を見ないほどの猛暑、豪雨、暖冬などの異 常気象が頻発し1)、地球環境の異常を日常生活の中でも実感 するようになってきている。IPCC 第5次評価報告書による と、過去130 年間で世界の平均気温は 0.85°上昇し2)、地 球温暖化は、数値的に見ても確実に進行していることがうか がえる。2018 年の IPCC 特別報告書では、工業化以前より 平均気温が1.0°上昇したと分析3)されていることからも分 かるように、温室効果ガスによる地球温暖化に代表される昨 今の環境問題は、産業革命による工業化が大きく関与してい ると言える。 2.デザイナーの役割 18 世紀後半のイギリスで起こった産業革命は、産業構造 の抜本的変革をもたらした。産業革命による工業化以前の世 界では、設計、製造の一連の工程を、一人または数名の職人 で担うのが一般的であった。しかし、蒸気機関の開発による 工業化以後では、製造の工程を機械が担うようになる。製造 の機械化は、安価で粗悪な製品を大量に生み出し4)、製品価 値の低下など、様々な問題を引き起こした。そして、生活環 境への新しいニーズが生まれていく中で、機械や科学技術を 社会や人間の生活目線で活用することができる、新しいタイ プの専門家として、デザイナーが誕生した5)。 産業革命から約 200 年の月日が流れた現在、工業化がも たらした負の側面は、地球環境問題という形で、大きく横た わっている。工業化により生まれた職能であるデザイナーは、 この問題に取り組むべき責務を負っていると言えよう。 3.環境問題を提起、解決する日用品のデザイン 自身で作品を制作するアーティストとは異なり、産業を基 盤とするデザイナーは、生活の中で使われるモノやコトがそ の創作対象である。果たして、人々の生活の中で使われる日 The Second Route is from Point B (City Bus Terminal) to Point C
(Meitetsu Line, Embarkation point to Centrair Airport). Along this route students follow only the signage while imagining they are travelers with suitcases who can only take elevators and esca-lators to reach Point C.
These exercises help the students analyze the gaps created be-tween the designed signage and reality, and how much larger they can feel for foreign travelers.
3. Cultural Sites and Art-related Events Visited
during the Class
3.1. Aichi Trienalle
The once-in-three years international art event was taking place during the summer of 2019 and it was a particularly Þtting event for the theme of our class and for our students to visit and ana-lyze.
The results of their analysis were that all the promotional printed material is available both in Japanese and English. The ofÞcial website was available in seven languages, covering a very large scope of the audience expected to visit the trienalle. Furthermore, all the exhibited artworks had explanations and captions in both Japanese and English, and the video works had Þtting subtitles. The students' conclusion was that this event can be considered to be equally democratic towards local and international audiences. The most likely reasons for that were the large scope of the event, the on-going involvement of many international artists in the event, and the strategy of the partners in the trienalle organiza-tion.
Image 2: Bilingual sign of the Image 3: Arimatsu; Tourguide showing House of Takeda, Arimatsu Utagawa Hiroshige’s Narumi Meibutsu
Arimatsu Shibori from the 19 C.
3.2. Arimatsu
Arimatsu, a historical site within the Midori ward in Nagoya is practically an open-air museum of the preserved tie-dying shibori textile techniques developed during the Edo Period on the Tokai-do route from Tokyo to Kyoto. However, many of the travel web-sites in English do not list it as one of the top tourist facilities in
Nagoya, if at all. For example, it is not part of Nagoya Travel Guide’s https://www.nagoya-info.jp 12 selected tourist facilities, as well as Japan Guide’s www.japan-guide.com 15 top attractions in Nagoya nor the 7 proposed side-trips from Nagoya.
The students found that information marking the historical sites in Arimatsu was sufÞciently available and legible in both Japanese and English. They discussed that Arimatsu is underrepresented as a travelers spot, and before visiting it, especially since one can reach it within a 30 minutes train ride from some of the bigger train stations in the city, they had the impression that it was way further outside of Nagoya city. Three points were observed for further improvement: Arimatsu’s online presence, the possibility for Arimatsu Station itself to become a more elaborate entry to the town of Arimatsu and the possibility to experience tie-dying in Arimatsu without having to make prior appointments.
3.3. Osu
Compared to Arimatsu, the Osu area is very popular among the young local population as well as visitors to Nagoya. Unlike Arimatsu, the Osu area or the Osu Kannon temple are represented through the two above-mentioned websites. In our class, Osu was selected as an interesting location to represent various in-ternational food cultures brought on by the many restaurants and shops in the area.
Expectedly, the use of many languages was present in the shop signboards and shop windows. What the students observed as a problem was that information was communicated rather chaoti-cally, the signage was self-made, the lettering was small and difÞ-cult to read, the maps were difÞdifÞ-cult to understand and there was no sense of uniÞed design and organization. Furthermore, al-though restaurants serve different cuisines, most of the menus were in Japanese only.
4. In Conclusion
The class this year, covered three different art-related and cultural venues with various levels of information communication capaci-ties. Some were deemed to be satisfactory in their democratic information communication to both Japnese and international audiences, but others presented with challenges of various na-tures. One universal solution proposal was deemed impossible, and the class length didnÕt allow the time for speciÞc solutions to be proposed to all the problems.
Therefore the students decided to make one proposal for one par-ticular case: the insufÞcient online presence of Arimatsu as a cultural and tourist spot Nagoya. They created an Instagram ac-count called Friendly Nagoya (@friendlynagoya), linked with hashtags in English such as #japantravel #tourism_nagoya, etc. and uploaded Arimatsu related images that they have taken during class. Although they are not skilled social media professionals, its the media that their generation understands and uses well to communicate with friends but also with unknown peers from all over the world. This gesture replicates their will to communicate in a democratic manner, well beyond their social circles and is-sues of language.
用品や消耗品を創作対象として、地球環境問題を提起、解決 することはできるのだろうか。著者は、地球環境保全をテー マとしたデザイン提案を、過去 10 年にわたり行っている。 本稿では、それらの提案を通じて、デザインによる環境問題 提起、解決の可能性を探っていく。 3.1. 「ゴミノキモチ」 「ゴミノキモチ」は、2009 年 12 月 10 日〜13 日に東京ビ ックサイトで開催された「エコプロダクツ2009」で発表し た、地域指定ゴミ袋のデザイン提案である。当提案は、地域 指定ゴミ袋に“悲しい表情のグラフィック”を印刷すること で、地域住人にゴミ削減の意識を根付かせるという提案であ る。当ゴミ袋を採用した地域の住人は、ゴミ回収日の朝、路 上に積み上げられた“無数の悲しい表情”を目の当たりにす ることになる(図−1)。そして、“資源として再利用されるこ ともなく、ゴミとして捨てられていく、ゴミたちの気持ち” を感じ取り、「ゴミを捨てることは、良くない行為だったの だ」と気が付く。最終的には、「この悲しい表情たちを、な るべく減らしていかなければ」と、地域全体にゴミの削減意 識が根付いていく。 (1) 「ゴミのキモチ」の評価、生産 「ゴミノキモチ」は、環境省が主催するコンペティション 「eco japan cup 2009 カルチャー部門」にて、準グランプ リを受賞するなど、多方面からの評価を受けた。そして、環 境省からの助成を受け、10 枚セット×300 個を株式会社モ ロフジにて生産した(図−2)。 (2) 展示会「グローバル・エコーズ」 環境省からの助成を受け、2010 年 4 月 20 日〜5 月 9 日に 東京都台東区のギャラリーコエグジストにて行われた展示 会、「グローバルエコーズ」に出展した。当展示会は、eco japan cup 2009 の上位入賞者 3 名が、各々の受賞作品を展 示した受賞作品展である。当展示会では、ゴミ捨て場を再現 した展示スタイルで「ゴミノキモチ」を展示した(図−3)。 図-2 「ゴミノキモチ」の生産品 図-3 「グローバル・エコーズ」の展示風景 図-1 「ゴミノキモチ」の使用イメージ また、ギャラリーの周辺地域に「ゴミノキモチ」を配布し、 展示会期中、実際に「ゴミノキモチ」を使用してゴミ捨てを 行なってもらった注3)。 (3)「ゴミノキモチ」の反響 展示会での露出を受け、西東京市の小学校から教育用に使 いたいとの依頼を受けたほか、深谷市のボーイスカウトがゴ ミ回収の袋に「ゴミノキモチ」を採用するなど(図−4)、様々 な反響を得た。 3.2.「ホッキョクグマ石鹸」 「ホッキョクグマ石鹸」は、2011 年 3 月 5 日〜22 日に東 京都新宿区のコニカミノルタプラザで開催された、「コニカ ミノルタ エコ&アートアワード 2011 作品展」で発表した、 エコアート石鹸である。当デザイン提案は、リアルな北極熊 の姿を象った石鹸で(図−5)、使うごとにその姿は曖昧かつ 小さくなっていき、使い切ることで消失してしまう(図−6)。 これは、“シャワーを浴びたり身体を洗ったりする快適な生 活の裏には、海洋汚染や化石燃料の使用による地球温暖化な ど、地球の様々な犠牲が潜んでいる。そして、地球の北端に 住む北極熊は、絶滅の危機を迎えている”ということを、石 鹸の使用を通じて訴えかけることを狙っている。 (1) 「ホッキョクグマ石鹸」の評価 「ホッキョクグマ石鹸」は、コニカミノルタ株式会社が主 催するコンペティション、「コニカミノルタ エコ&アートワ ード2011」にて、協賛者特別賞(J-WAVE AWARD)を受賞 するなど、様々な評価を得た。 (2) 「ホッキョクグマ石鹸」の反響
当提案は、ラジオ番組「J-WAVE TOKYO MORNING
RADIO」で紹介されたほか、CCC メディアハウスによる雑 誌「Pen」の 2011 年 5 月号に記事が掲載されるなど、様々 な反響を得た(図−7)。 図-4 ボーイスカウトでの使用事例 図-6「ホッキョクグマ石鹸」の使用課程 図-7「Pen」2011 年 5 月号の掲載記事 図-5「ホッキョクグマ石鹸」の使用場所イメージ
用品や消耗品を創作対象として、地球環境問題を提起、解決 することはできるのだろうか。著者は、地球環境保全をテー マとしたデザイン提案を、過去 10 年にわたり行っている。 本稿では、それらの提案を通じて、デザインによる環境問題 提起、解決の可能性を探っていく。 3.1. 「ゴミノキモチ」 「ゴミノキモチ」は、2009 年 12 月 10 日〜13 日に東京ビ ックサイトで開催された「エコプロダクツ2009」で発表し た、地域指定ゴミ袋のデザイン提案である。当提案は、地域 指定ゴミ袋に“悲しい表情のグラフィック”を印刷すること で、地域住人にゴミ削減の意識を根付かせるという提案であ る。当ゴミ袋を採用した地域の住人は、ゴミ回収日の朝、路 上に積み上げられた“無数の悲しい表情”を目の当たりにす ることになる(図−1)。そして、“資源として再利用されるこ ともなく、ゴミとして捨てられていく、ゴミたちの気持ち” を感じ取り、「ゴミを捨てることは、良くない行為だったの だ」と気が付く。最終的には、「この悲しい表情たちを、な るべく減らしていかなければ」と、地域全体にゴミの削減意 識が根付いていく。 (1) 「ゴミのキモチ」の評価、生産 「ゴミノキモチ」は、環境省が主催するコンペティション 「eco japan cup 2009 カルチャー部門」にて、準グランプ リを受賞するなど、多方面からの評価を受けた。そして、環 境省からの助成を受け、10 枚セット×300 個を株式会社モ ロフジにて生産した(図−2)。 (2) 展示会「グローバル・エコーズ」 環境省からの助成を受け、2010 年 4 月 20 日〜5 月 9 日に 東京都台東区のギャラリーコエグジストにて行われた展示 会、「グローバルエコーズ」に出展した。当展示会は、eco japan cup 2009 の上位入賞者 3 名が、各々の受賞作品を展 示した受賞作品展である。当展示会では、ゴミ捨て場を再現 した展示スタイルで「ゴミノキモチ」を展示した(図−3)。 図-2 「ゴミノキモチ」の生産品 図-3 「グローバル・エコーズ」の展示風景 図-1 「ゴミノキモチ」の使用イメージ また、ギャラリーの周辺地域に「ゴミノキモチ」を配布し、 展示会期中、実際に「ゴミノキモチ」を使用してゴミ捨てを 行なってもらった注3)。 (3)「ゴミノキモチ」の反響 展示会での露出を受け、西東京市の小学校から教育用に使 いたいとの依頼を受けたほか、深谷市のボーイスカウトがゴ ミ回収の袋に「ゴミノキモチ」を採用するなど(図−4)、様々 な反響を得た。 3.2.「ホッキョクグマ石鹸」 「ホッキョクグマ石鹸」は、2011 年 3 月 5 日〜22 日に東 京都新宿区のコニカミノルタプラザで開催された、「コニカ ミノルタ エコ&アートアワード 2011 作品展」で発表した、 エコアート石鹸である。当デザイン提案は、リアルな北極熊 の姿を象った石鹸で(図−5)、使うごとにその姿は曖昧かつ 小さくなっていき、使い切ることで消失してしまう(図−6)。 これは、“シャワーを浴びたり身体を洗ったりする快適な生 活の裏には、海洋汚染や化石燃料の使用による地球温暖化な ど、地球の様々な犠牲が潜んでいる。そして、地球の北端に 住む北極熊は、絶滅の危機を迎えている”ということを、石 鹸の使用を通じて訴えかけることを狙っている。 (1) 「ホッキョクグマ石鹸」の評価 「ホッキョクグマ石鹸」は、コニカミノルタ株式会社が主 催するコンペティション、「コニカミノルタ エコ&アートワ ード2011」にて、協賛者特別賞(J-WAVE AWARD)を受賞 するなど、様々な評価を得た。 (2) 「ホッキョクグマ石鹸」の反響
当提案は、ラジオ番組「J-WAVE TOKYO MORNING
RADIO」で紹介されたほか、CCC メディアハウスによる雑 誌「Pen」の 2011 年 5 月号に記事が掲載されるなど、様々 な反響を得た(図−7)。 図-4 ボーイスカウトでの使用事例 図-6「ホッキョクグマ石鹸」の使用課程 図-7「Pen」2011 年 5 月号の掲載記事 図-5「ホッキョクグマ石鹸」の使用場所イメージ
3.4.「空気梱包箱」 「空気梱包箱」は、2013 年 10 月 30 日〜12 月 1 日に、東 京都港区のAXIS ギャラリーで開催された「PVC デザイン アワード2013 作品展」で発表した(図−11)、物流用梱包容 器の提案である。EC サイトによるウェブショッピングが全 盛の現代、使い捨て梱包材の過剰消費が問題視されている。 当提案は、伸縮性のあるPVC(ポリ塩化ビニル)素材を使 用した、二重構造の梱包容器である。伸縮性のある素材を使 用することで、使用後に折り畳み、商品の発送元に返送する ことができる。商品の発送元は、顧客から返送された空気梱 包箱を再利用することで、梱包材の使い捨てをなくすことが できるという提案である(図−12)。 (1) 「空気梱包箱」の構造 容器の内側に内容部を入れ、梱包箱に空気をいれると、外 層PVC より伸縮性が高い PVC が内層で使用されているた め、内層PVC は内容物の形状に合わせて膨らむ。一方、外 層PVC は伸縮性の低い素材を使用しているため、容器全体 の外装形状は、内容物に左右されることなく一定の形状で膨 らむ(図−13)。この構造により、様々な内容物にも対応でき る汎用性の高い梱包容器が実現した。 (2) 「空気梱包箱」の評価、反響 「空気梱包箱」は、日本ビニル工業会が主催するコンペテ ィション「PVC デザインアワード 2013」で入賞するなど、 多方面から評価を受けた。当提案は、日本ビニル工業会によ りデザインサンプルが制作され、実用化が検討されるなど (図−14)、様々な反響を得た。 図-11 「PVC デザインアワード 2013 作品展」での展示 図-12 「空気梱包箱」のコンセプトスケッチ 図-14 日本ビニル工業会によるデザインサンプル 図-13「空気梱包箱」の構造説明図 3.3.「エコノタネ」 「エコノタネ」は、2011 年 12 月 15 日〜17 日に、東京ビ ックサイトで行われた「エコプロダクツ2011」で発表した、 紙パックの回収を促すグラフィック提案である。飲料用紙パ ックの“開封口の逆側”は、通常の使用の際には開封するこ との無い箇所である(図−8)。しかし、紙パックのリサイクル を試みる際には、容器の展開、洗浄が必要であることから、 “開封口の逆側”を開封することになる。当デザイン提案は、 その“開封口の逆側”に、“閉じた状態では種しか見えない が、開封することで種が芽吹いて見えるグラフィック”を配 置した(図−9)。このグラフィックが付加された飲料用紙パ ックを飲み終えたユーザーは、「種の状態のまま、紙パック をゴミとして捨てる」のか、「“開封口の逆側”を開封して種 を芽吹かせ、紙パックをリサイクルする」のかを選ぶことと なる。そして、この種を「エコノタネ」と名付け、ユーザー たちのエコロジーに対する意識の種が芽吹くことを期待し た提案である。 (1) 「エコノタネ」の評価、反響 「エコノタネ」は、環境省が主催するコンペティション 「eco japan cup 2011 カルチャー部門」にて、準グランプ リを受賞するなど、多方面から評価を受けた。そして、環境 省の助成を受けて、2012 年 6 月 1 日〜24 日に東京都江東
区のEARTH+GALLERY で行われた「eco japan cup 2011
受賞作品展」に出展した(図−10)。 (2) 「エコノタネ」の反響 展示会への出展を経て、最終的な提案の採用には至らなか ったものの、明治乳業株式会社がデザイン提案の採用に興味 を示すなど、様々な反響を得た。 図-9 開封することにより芽吹く「エコノタネ」 図-8 “開封口の逆側”に記された「エコノタネ」
3.4.「空気梱包箱」 「空気梱包箱」は、2013 年 10 月 30 日〜12 月 1 日に、東 京都港区のAXIS ギャラリーで開催された「PVC デザイン アワード2013 作品展」で発表した(図−11)、物流用梱包容 器の提案である。EC サイトによるウェブショッピングが全 盛の現代、使い捨て梱包材の過剰消費が問題視されている。 当提案は、伸縮性のあるPVC(ポリ塩化ビニル)素材を使 用した、二重構造の梱包容器である。伸縮性のある素材を使 用することで、使用後に折り畳み、商品の発送元に返送する ことができる。商品の発送元は、顧客から返送された空気梱 包箱を再利用することで、梱包材の使い捨てをなくすことが できるという提案である(図−12)。 (1) 「空気梱包箱」の構造 容器の内側に内容部を入れ、梱包箱に空気をいれると、外 層PVC より伸縮性が高い PVC が内層で使用されているた め、内層PVC は内容物の形状に合わせて膨らむ。一方、外 層PVC は伸縮性の低い素材を使用しているため、容器全体 の外装形状は、内容物に左右されることなく一定の形状で膨 らむ(図−13)。この構造により、様々な内容物にも対応でき る汎用性の高い梱包容器が実現した。 (2) 「空気梱包箱」の評価、反響 「空気梱包箱」は、日本ビニル工業会が主催するコンペテ ィション「PVC デザインアワード 2013」で入賞するなど、 多方面から評価を受けた。当提案は、日本ビニル工業会によ りデザインサンプルが制作され、実用化が検討されるなど (図−14)、様々な反響を得た。 図-11 「PVC デザインアワード 2013 作品展」での展示 図-12 「空気梱包箱」のコンセプトスケッチ 図-14 日本ビニル工業会によるデザインサンプル 図-13「空気梱包箱」の構造説明図 3.3.「エコノタネ」 「エコノタネ」は、2011 年 12 月 15 日〜17 日に、東京ビ ックサイトで行われた「エコプロダクツ2011」で発表した、 紙パックの回収を促すグラフィック提案である。飲料用紙パ ックの“開封口の逆側”は、通常の使用の際には開封するこ との無い箇所である(図−8)。しかし、紙パックのリサイクル を試みる際には、容器の展開、洗浄が必要であることから、 “開封口の逆側”を開封することになる。当デザイン提案は、 その“開封口の逆側”に、“閉じた状態では種しか見えない が、開封することで種が芽吹いて見えるグラフィック”を配 置した(図−9)。このグラフィックが付加された飲料用紙パ ックを飲み終えたユーザーは、「種の状態のまま、紙パック をゴミとして捨てる」のか、「“開封口の逆側”を開封して種 を芽吹かせ、紙パックをリサイクルする」のかを選ぶことと なる。そして、この種を「エコノタネ」と名付け、ユーザー たちのエコロジーに対する意識の種が芽吹くことを期待し た提案である。 (1) 「エコノタネ」の評価、反響 「エコノタネ」は、環境省が主催するコンペティション 「eco japan cup 2011 カルチャー部門」にて、準グランプ リを受賞するなど、多方面から評価を受けた。そして、環境 省の助成を受けて、2012 年 6 月 1 日〜24 日に東京都江東
区のEARTH+GALLERY で行われた「eco japan cup 2011
受賞作品展」に出展した(図−10)。 (2) 「エコノタネ」の反響 展示会への出展を経て、最終的な提案の採用には至らなか ったものの、明治乳業株式会社がデザイン提案の採用に興味 を示すなど、様々な反響を得た。 図-9 開封することにより芽吹く「エコノタネ」 図-8 “開封口の逆側”に記された「エコノタネ」
4.「環境デーなごや 2019」への出展 2019 年 9 月 14 日に、愛知県名古屋市の久屋大通公園を 中心にして行われた環境イベント、「環境デーなごや2019」 にて、「ゴミノキモチ」、「ホッキョクグマ石鹸」、「エコノタ ネ」のプロトタイプを展示した(図−15)。当イベントでは多 数の来場者があり、「ゴミノキモチを名古屋市の指定ゴミ袋 として採用するべきだ」、「ホッキョクグマ石鹸が製品化した ら、ぜひ子供に使わせたい」など、各デザイン提案に対する 反響の大きさを、改めて感じる機会となった。 5.終わりに 本稿では、現在人類が直面している地球環境問題を、日用 品を対象としたデザインで提起、解決する、様々なタイプの 提案事例を記してきた。これらの提案は、デザインコンペテ ィションや美術ギャラリーでの展示など、アート&デザイン の土壌の上で創り上げてきた提案である。そのため、工学的 知見で求められる、定量的な効果が検証されているとは言い 難い。しかし、人々の生活の中で使われる日用品を対象とし、 アートのエッセンスを加えることで諸問題を提起、解決する これらの方法は、1つの方法論と言えるのでは無いのだろう か。冒頭で触れた「SDGs」は、途上国も含めた包括的目標 であるため、先進国では、日常生活との解離が問題視されて いる 6)。もちろん、書物やテレビなどのメディアを通じて、 地球環境問題を提起することも可能であろう。しかし一方で は、日用品を媒体とすることで、より生活に根ざした問題で あることを、生活者に、当事者意識を持って感覚的に訴える ことが可能になると考えている。 参考文献 1) 環境省「IPCC 第 5 次評価報告書の概要」 https://www.env.go.jp/earth/ipcc/5th/pdf/ar5_wg1_over view_presentation.pdf (最終検索日:2020 年 2 月 20 日) 2) 3) 気象庁「IPCC 第5次評価報告書」 https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ipcc/ar5/index.html (最終検索日:2020 年 2 月 20 日) 4) 阿部公正『世界のデザイン史』美術出版社 pp.24-28 5) JIDA 編集部『プロダクトデザイン-商品開発に関わるす べての人に-』ワークスコーポレーション pp.10-16 6) 落合陽一『2030 年の世界地図帳』 SB クリエイティブ pp.7-20 注釈 注1) 「7,エネルギーをみんなにそしてクリーンに」、「13, 気候変動に具体的な対策を」、「14,海の豊かさを守 ろう」「15,陸の豊かさを守ろう」の 4 ジャンル 注2) 上記の4 ジャンルに加え、「6,安全な水とトイレを 世界中に」「11,住み続けられるまちづくりを」「12, つくる責任つかう責任」、「17,パートナーシップで 目標を達成しよう」を加えた8 ジャンル 注3) 2010 年当時、東京都台東区にはゴミ袋の指定がな かったため実現した。 図-15 「環境デーなごや 2019」での展示風景