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「大1コンフュージョン」の実際(第4報) : 大学2年目の学生を対象とした相談状況とその検討

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Academic year: 2021

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【原  著】

「大1コンフュージョン」の実際(第4報)

―大学2年目の学生を対象とした相談状況とその検討―

池谷 航介 原田 新

Kosuke IKETANI,Shin HARADA

Study of “Confusion after the Entrance to Higher Education” Ⅳ Grasp of the Consultation Situation for Second-Year Undergraduates

2019

岡山大学教師教育開発センター紀要 第9号 別冊 Reprinted from Bulletin of Center for Teacher Education

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原  著 【研究論文】 岡山大学教師教育開発センター紀要,第9号(2019),pp.251−257

「大1コンフュージョン」の実際(第4報)

―大学2年目の学生を対象とした相談状況とその検討―

池谷 航介※1 原田 新※1  本研究は,現状の支援体制が「大1コンフュージョン」等の解消や緩和にどの程度寄与できてい るのかについて検討することを目的とした。2018年12月に実施した調査では,大学生活が1年半以 上経過した2年目の学生を対象に,「大1コンフュージョン」項目群と,既存の相談先,意欲低下領 域尺度,単位取得状況を聞き,その相関について分析と考察を行った。この結果,単位取得に影響 が少ない範囲で対処できている学生は,戸惑いや困難が生じた場合,友人や家族等を中心に相談し, 援助要請をすることによって深刻な状況を回避していると推察された。また,「大1コンフュージョ ン」が継続している学生は,友人や家族を中心とした援助を得ながらどうにか必要な単位取得は進 められている場合であっても,大学や学業に対する意欲が低下する状況になっていると考えられた。 キーワード:大1コンフュージョン,高大接続,支援体制 ※1 岡山大学全学教育・学生支援機構学生総合支援センター Ⅰ 問題と目的  本研究では,(第1報)(原田・池谷・松井・望月,2018)において,「高校までの 学校段階と大学との様々なギャップに対し,多くの大学1回生が入学後に強い戸惑い や困難を感じる」といった移行期の問題が生じているのではないかとし,このよう な状態を「大1コンフュージョン」と命名した上でその現状把握を進めてきた。この 結果,大学入学時においては,相対的に授業履修や学習面に対する戸惑いや困難の 高さが確認された。では,入学時にこのような「大1コンフュージョン」の状態を感 じてきた学生は,その後の大学生活においてどのように適応を進めているのだろう か。あるいは,不適応な状況が継続しているのだろうか。現在,いずれの大学にお いても大学生活全般の支援に関する部署が設置されており,学生支援は大学におい て必須機能であることは言うまでもない。また,昨今では学生支援について,例え ば心理的な相談が必要であれば学生相談部署でカウンセリングを受け,障がい等の 特性に応じた支援が必要であれば障がい学生に関する専門部署で助言や履修調整を 受けるというように,より専門的な対応が可能な体制整備が進められてきている。  しかしながら,このような進捗に伴って,学生に応じる窓口が多様に存在し,分 かりにくさが増しているというジレンマが生じつつある状況もある。以上を踏まえ, 既存の支援体制が「大1コンフュージョン」等学生生活に伴う問題の解消や緩和にど の程度寄与できているのかについて,評価を行う時期に来ているのではないかと考 えた。  大学入学後に様々な支援を利用するためには,もちろん学生本人の援助要請力を 高める入学以前からの取り組みも大切であるが,大学入学以降は,大学内での支援 ― 251 ―

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池谷 航介・原田 新 体制を学生にとって分かりやすいもの,あるいは利用しやすいものとするため,整 備することが重要であると(第2報)(池谷・原田,2018)では提言した。つまり,「支 援を利用するための支援」をいかに構築するかということが希求されていると考え る。  そこで本研究では,この(第1報)及び(第2報)による研究を踏まえ,現状の大 学生活においてフォーマル及びインフォーマルに準備されている支援体制(相談先) について検討し,さらに推進すべき体制整備について方向性を検討することを目的 とした。  調査にあたっては,大学生活が1年半以上経過した2年目の学生を対象に,(第1報) における「大1コンフュージョン」項目群と,既存の相談先,意欲低下領域尺度(「学 業意欲低下」,「授業意欲低下」,「大学意欲低下」),単位取得状況を聞いた。これら の関連について分析することにより,「いずれの窓口につながっても,援助サービス が開始できる仕組みを構築しておくことが大切」(池谷・原田,2018)であると示し た支援体制の整備に関し,既存の体制を増補するポイントが見えてくるのではない かと考えた。 Ⅱ 方法 1 調査協力者および調査時期  2017年4月に入学し,大学生活が2年目となった学生122名(男性55名,女性67名, 19 ~ 21歳,平均年齢19.83歳,SD=.61)であった。調査時期は,2018年12月であった。 なお,大学生活2年目であることは回生(学年)ではなく,入学年度で判断した。 2 測定尺度と統計パッケージ (1)大1コンフュージョン【大学生活全般】項目群(原田他,2018)  本研究の第1報における31項目に関し,大学2年次となった現在の状況について回 答するよう依頼した。「1.全く困っていない」~「5.とても困っている」の5件法 によって回答を得た。回答にあたっては,「あなたは現在,以下の場面や事柄にどの 程度とまどったり,困ったりしていますか。あてはまる数字に○をつけてください」 という教示を行った。 (2)大1コンフュージョン【一人暮らし】項目群(原田他,2018)  本研究の第1報における8項目に関し,一人暮らし経験者のみ(調査協力者122名の うち88名)を対象とし,大学2年次となった現在の状況について回答するよう依頼し た。「1.全く困っていない」~「5.とても困っている」の5件法によって回答を得た。 回答にあたっては,「実家から離れて生活する(1人暮らしの)学生のみ回答してく ださい。あなたは現在,以下の場面や事柄にどの程度とまどったり,困ったりして いますか。あてはまる数字に○をつけてください。」という教示を行った。 (3)相談先  学校心理学における4種のヘルパー分類(石隈,1999)に基づいて区分した上で,

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1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 「大1コンフュージョン」の実際(第4報)―大学2年目の学生を対象とした相談状況とその検討― 標準的な8種類(ボランティア的ヘルパー:「大学の友人・先輩・後輩」,「大学以外 の友人・先輩・後輩」/役割的ヘルパー:「家族」/複合的ヘルパー:「大学の教職 員」,「大学以外の教職員」,「大学の所属学部の事務窓口」/専門的ヘルパー:「大学 の相談部署」,「大学以外の相談窓口」)と,近年における学生のライフスタイルを踏 まえて1種類(WEB上の相談サイト等),合計9種類の相談先を項目に設定し,それぞ れについて「1.全く相談しない」~「4.よく相談する」の4件法によって回答を得た。 回答にあたっては,「大学生活全般に関して悩みがあったり分かりにくいことがあっ たりした場合,あなたは以下の項目に対してどの程度相談をしていますか。あては まる数字に○をつけてください」という教示を行った。   (4)意欲低下領域尺度(下山,1995)  「学業意欲低下」,「授業意欲低下」,「大学意欲低下」各5項目について,「1.全く 当てはまらない」~「4.とてもよく当てはまる」の4件法で回答を得た。各意欲低 下は,以下のような内容を表している。「学業意欲低下」とは,「教師に言われなく ても自分から進んで勉強する。(逆転項目)」「勉強に関する本を読んでいてもすぐに 飽きてしまう。」など,勉学への興味を失い,学業に対して意欲が低下した状態を指 している。「授業意欲低下」とは,「授業に出る気がしない。」「朝寝坊などで授業に 遅れることが多い。」など,授業に対して意欲が低下した状態を指している。「大学 意欲低下」とは,「学生生活で打ち込むものがない。」「大学ではいろいろな人と交流 がある。(逆転項目)」など,大学キャンパスへの所属感がなく,大学に対して意欲 が低下した状態を指している。回答にあたっては,「普段のあなたにどの程度あては まりますか。あてはまる数字に○をつけてください。」という教示を行った。   (5)単位取得状況  これまでの単位取得状況について,「全て取得できている」,「一部落としているが 卒業・進級に影響は少ない」,「卒業・進級に影響が出ている」の3件法で回答を得た。 回答にあたっては,「大学での修学(単位取得)状況についてききます。最もあては まる数字に○を」つけてください。」という教示を行った。  なお,以降の分析では統計処理用ソフトのSPSS Statistics 22を用いた。 3 調査手続き  本研究では,A大学に在籍2年目の学生を対象に質問紙を配布し,調査を実施した。 調査にあたっては,(1)本調査への協力は任意であり,また,同意後でも,回答の 途中に不都合が生じた場合は途中で回答を打ち切り,協力を撤回することが可能で あること,(2)この調査の回答内容はすべて集団データとして扱うため,個人の情 報や回答内容が特定されることは無く,また回答内容が研究以外の目的で使用され ることも無いこと,(3)情報の取り扱いに際し,質問紙ならびに回答データは,鍵 のかかる場所およびパスワードによって保護されたディスクに保管し,調査分析を 終えた後,速やかに破棄すること,(4)論文・発表等,研究報告に際しては,個人 情報の保護について細心の注意を払うこと,以上を明記した。これらを口頭で教示後, ― 253 ―

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池谷 航介・原田 新 調査協力に同意できる場合のみ回答してもらうよう留意した。 Ⅲ 結果 1 各相談先への相談量の平均値及び標準偏差  各相談先への相談量の平均値及び標準偏差を算出した(Table1)。この結果,相談 先として相談量の平均値が最も高かったのは「大学の友人・先輩・後輩」で,平均 値は2.89を示した。次いで「家族(両親・きょうだい・親戚等)」が平均値2.72,「大 学以外の友人・先輩・後輩(アルバイト先等)」が平均値2.24であった。これら以外 の相談先への相談量は相対的に低く,「大学の教職員」が平均値1.53,「大学の所属 学部の事務窓口」が平均値1.44,「大学の相談部署(学生相談室等)」が平均値1.30,「大 学以外の教職員(高校時代の恩師等)」が平均値1.26,「WEB上の相談サイト等」が平 均値1.21,大学以外の相談窓口が平均値1.15であった。 3 調 査 手 続 き 本 研 究 で は , A 大 学 に 在 籍 2 年 目 の 学 生 を 対 象 に 質 問 紙 を 配 布 し , 調 査 を 実 施 し た 。 調 査 に あ た っ て は ,( 1) 本 調 査 へ の 協 力 は 任 意 で あ り , ま た , 同 意 後 で も , 回 答 の 途 中 に 不 都 合 が 生 じ た 場 合 は 途 中 で 回 答 を 打 ち 切 り , 協 力 を 撤 回 す る こ と が 可 能 で あ る こ と ,( 2) こ の 調 査 の 回 答 内 容 は す べ て 集 団 デ ー タ と し て 扱 う た め , 個 人 の 情 報 や 回 答 内 容 が 特 定 さ れ る こ と は 無 く , ま た 回 答 内 容 が 研 究 以 外 の 目 的 で 使 用 さ れ る こ と も 無 い こ と ,( 3) 情 報 の 取 り 扱 い に 際 し , 質 問 紙 な ら び に 回 答 デ ー タ は , 鍵 の か か る 場 所 お よ び パ ス ワ ー ド に よ っ て 保 護 さ れ た デ ィ ス ク に 保 管 し , 調 査 分 析 を 終 え た 後 , 速 や か に 破 棄 す る こ と ,( 4) 論 文 ・ 発 表 等 , 研 究 報 告 に 際 し て は , 個 人 情 報 の 保 護 に つ い て 細 心 の 注 意 を 払 う こ と , 以 上 を 明 記 し た 。 こ れ ら を 口 頭 で 教 示 後 , 調 査 協 力 に 同 意 で き る 場 合 の み 回 答 し て も ら う よ う 留 意 し た 。 Ⅲ 結 果 1 各 相 談 先 へ の 相 談 量 の 平 均 値 及 び 標 準 偏 差 各 相 談 先 へ の 相 談 量 の 平 均 値 及 び 標 準 偏 差 を 算 出 し た( Table1)。こ の 結 果 , 相 談 先 と し て 相 談 量 の 平 均 値 が 最 も 高 か っ た の は「 大 学 の 友 人・先 輩・後 輩 」 で , 平 均 値 は 2.89 を 示 し た 。 次 い で 「 家 族 ( 両 親 ・ き ょ う だ い ・ 親 戚 等 )」 が 平 均 値 2.72,「 大 学 以 外 の 友 人 ・ 先 輩 ・ 後 輩( ア ル バ イ ト 先 等 )」が 平 均 値 2.24 で あ っ た 。 こ れ ら 以 外 の 相 談 先 へ の 相 談 量 は 相 対 的 に 低 く ,「 大 学 の 教 職 員 」が 平 均 値 1.53,「 大 学 の 所 属 学 部 の 事 務 窓 口 」が 平 均 値 1.44,「 大 学 の 相 談 部 署( 学 生 相 談 室 等 )」が 平 均 値 1.30,「 大 学 以 外 の 教 職 員( 高 校 時 代 の 恩 師 等 )」が 平 均 値 1.26,「 WEB 上 の 相 談 サ イ ト 等 」が 平 均 値 1.21,大 学 以 外 の 相 談 窓 口 が 平 均 値 1.15 で あ っ た 。 2 大 1 コ ン フ ュ ー ジ ョ ン と 相 談 量 , 意 欲 低 下 , 単 位 取 得 状 況 と の 相 関 【 大 学 生 活 全 般 】 と 【 一 人 暮 ら し 】 双 方 に お け る 大 1 コ ン フ ュ ー ジ ョ ン と 相 談 先 9 種 の 合 計 相 談 量 ,意 欲 低 下 領 域 尺 度(「 学 業 意 欲 低 下 」,「 授 業 意 欲 低 下 」,「 大 学 意 欲 低 下 」),単 位 取 得 状 況 が ど の よ う に 相 関 し て い る か に つ い て , 相 関 分 析 を 行 っ て 検 討 し た ( Table2)。 こ の 結 果 ,【 大 学 生 活 全 般 】 で は , 相 平均値 標準偏差 大学の友人・先輩・後輩 2.89 .99 大学以外の友人・先輩・後輩(アルバイト先等) 2.24 .99 家族(両親・きょうだい・親戚等) 2.72 .96 大学の教職員 1.53 .74 大学以外の教職員(高校時代の恩師等) 1.26 .59 大学の所属学部の事務窓口 1.44 .71 大学の相談部署(学生相談室等) 1.30 .60 大学以外の相談窓口 1.15 .42 Web上の相談サイト等 1.21 .50 Table 1. 各相談先への相談量の平均値及び標準偏差 2 大1コンフュージョンと相談量,意欲低下,単位取得状況との相関  【大学生活全般】と【一人暮らし】双方における大1コンフュージョンと相談先9種 の合計相談量,意欲低下領域尺度(「学業意欲低下」,「授業意欲低下」,「大学意欲低 下」),単位取得状況がどのように相関しているかについて,相関分析を行って検討 した(Table2)。この結果,【大学生活全般】では,相談量合計が.31,「大学意欲低下」 が.31と,中程度の有意な正の相関を示した。また,「学業意欲低下」が.25と,弱い 有意な正の相関を示した。「授業意欲低下」及び単位取得状況との有意な相関は見ら れなかった。他方,【一人暮らし】では,【大学生活全般】とは逆に「授業意欲低下」が.25 と弱い有意な正の相関を示したものの,他の項目とは有意な相関が見られなかった。 談 量 合 計 が .31,「 大 学 意 欲 低 下 」 が .31 と , 中 程 度 の 有 意 な 正 の 相 関 を 示 し た 。ま た ,「 学 業 意 欲 低 下 」が .25 と ,弱 い 有 意 な 正 の 相 関 を 示 し た 。「 授 業 意 欲 低 下 」及 び 単 位 取 得 状 況 と の 有 意 な 相 関 は 見 ら れ な か っ た 。他 方 ,【 一 人 暮 ら し 】 で は ,【 大 学 生 活 全 般 】と は 逆 に 「 授 業 意 欲 低 下 」が .25 と 弱 い 有 意 な 正 の 相 関 を 示 し た も の の , 他 の 項 目 と は 有 意 な 相 関 が 見 ら れ な か っ た 。 Ⅳ 考 察 と 今 後 の 課 題 全 体 的 な 傾 向 と し て ,大 学 生 活 で 問 題 や 困 り ご と に 直 面 し た 際 の 相 談 先 は , 学 内 外 の 友 人 ・ 先 輩 ・ 後 輩 と い っ た ボ ラ ン テ ィ ア 的 ヘ ル パ ー か 家 族 等 の 役 割 的 ヘ ル パ ー が 高 頻 度 で あ る こ と が 確 認 で き た 。 対 照 的 に , 教 職 員 や 専 門 的 な 学 生 支 援 部 署 は 数 値 が 低 く , 大 学 の フ ォ ー マ ル な 相 談 窓 口 に 対 し て 援 助 要 請 を 検 討 し て い る 学 生 は 少 数 で あ る と 言 え る 。 研 究 室 に 分 属 前 で あ る 2 年 目 の 学 生 に と っ て は , 大 学 に 関 す る こ と で あ っ て も , 教 職 員 よ り 身 近 な ヘ ル パ ー に 援 助 要 請 を 行 う こ と で 対 処 す る 場 合 が 多 い こ と が 推 察 さ れ た 。 今 回 の 調 査 で は 単 位 取 得 状 況 に 深 刻 さ が 生 じ て い る 学 生 が ほ と ん ど 含 ま れ て い な か っ た こ と か ら , 対 象 学 生 は 概 ね 良 好 な 単 位 取 得 状 況 に あ る 層 に 属 し て い る と 考 え ら れ る 。し か し な が ら ,大 学 生 活 2 年 目 に 入 っ て な お ,【 大 学 生 活 全 般 】 に お け る 「 大 1 コ ン フ ュ ー ジ ョ ン 」 が 継 続 し て い る と 考 え ら れ る 学 生 が 少 な か ら ず 存 在 し て お り , そ の 度 合 い が 相 談 量 の 合 計 と 中 程 度 の 正 の 相 関 を 示 し て い た 。 こ の こ と か ら , 単 位 取 得 に 影 響 が 少 な い 範 囲 で 対 処 で き て い る 学 生 は ,戸 惑 い や 困 難 が 生 じ た 場 合 ,ボ ラ ン テ ィ ア 的 ヘ ル パ ー( 友 人 等 ) か 役 割 的 ヘ ル パ ー ( 家 族 等 ) を 中 心 に 相 談 し , 援 助 要 請 を す る こ と に よ っ て 深 刻 な 状 況 を 回 避 し て い る と 推 察 さ れ る 。こ の 点 に つ い て 例 え ば 木 村( 2016) は , 学 生 相 談 の 利 用 を 促 す た め の 介 入 プ ロ グ ラ ム に つ い て そ の 効 果 の 検 証 を 行 い , 介 入 前 か ら 友 人 や 家 族 に 相 談 ・ 援 助 を 求 め て い た 学 生 に つ い て は 介 入 の 効 果 が 認 め ら れ た と 述 べ て い る が , も と よ り 他 者 に 対 し て 援 助 要 請 を 検 討 し て い な い 学 生 に は , 介 入 の 効 果 は 見 ら れ な か っ た と 述 べ て い る 。 初 年 次 教 大1コンフュージョン .31*** .25** .13 .31*** -.11 一人暮らしコンフュージョン .12 .04 .25* .12 -.02 相談先9 種の相談 量合計 *p<.05, **p<.01,***p<.001 Table 2. 大1コンフュージョンと相談量,意欲低下,単位取得状況との相関 <意欲低下領域尺度> 単位取得 状況 学業意欲 低下 授業意欲 低下 大学意欲 低下 ― 254 ―

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1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 「大1コンフュージョン」の実際(第4報)―大学2年目の学生を対象とした相談状況とその検討― Ⅳ 考察と今後の課題  全体的な傾向として,大学生活で問題や困りごとに直面した際の相談先は,学内 外の友人・先輩・後輩といったボランティア的ヘルパーか家族等の役割的ヘルパー が高頻度であることが確認できた。対照的に,教職員や専門的な学生支援部署は数 値が低く,大学のフォーマルな相談窓口に対して援助要請を検討している学生は少 数であると言える。研究室に分属前である2年目の学生にとっては,大学に関するこ とであっても,教職員より身近なヘルパーに援助要請を行うことで対処する場合が 多いことが推察された。  今回の調査では単位取得状況に深刻さが生じている学生がほとんど含まれていな かったことから,対象学生は概ね良好な単位取得状況にある層に属していると考え られる。しかしながら,大学生活2年目に入ってなお,【大学生活全般】における「大 1コンフュージョン」が継続していると考えられる学生が少なからず存在しており, その度合いが相談量の合計と中程度の正の相関を示していた。このことから,単位 取得に影響が少ない範囲で対処できている学生は,戸惑いや困難が生じた場合,ボ ランティア的ヘルパー(友人等)か役割的ヘルパー(家族等)を中心に相談し,援 助要請をすることによって深刻な状況を回避していると推察される。この点につい て例えば木村(2016)は,学生相談の利用を促すための介入プログラムについてそ の効果の検証を行い,介入前から友人や家族に相談・援助を求めていた学生につい ては介入の効果が認められたと述べているが,もとより他者に対して援助要請を検 討していない学生には,介入の効果は見られなかったと述べている。初年次教育で アクティブラーニング等が取り入れられ,授業内において同学年の学生とのコミュ ニケーションが促進される機会が拡充された結果,大学内において気軽に対話でき る友人関係が構築されることも考えられ,木村(2016)の指摘を踏まえると,この ような些細な他者との接点がさらなる援助要請を検討するための「呼び水」になっ ている可能性もあることだろう。この点については学生の相談状況についてさらに 詳細な調査を継続し,支援体制を増補するポイントの把握に努めたいと考える。  他方,【大学生活全般】における「大1コンフュージョン」は,「大学意欲低下」に 中程度,「学業意欲低下」に弱程度,相関していることが認められた。本研究の(第3報) (原田・池谷,2019)による入学1年次の学生を対象とした調査では,【大学生活全般】 における「大1コンフュージョン」と「大学意欲低下」及び「授業意欲低下」とは中 程度の正の相関がみられたが,「学業意欲低下」とは相関がみられなかった。2年目 になると「授業意欲低下」との相関がなくなる反面,「学業意欲低下」に相関が表れ てきている。このことに関し,(第3報)調査と本調査の対象は同一ではないため推 察の域を超えるものではないが,「大1コンフュージョン」が継続されると,大学に 通うこと自体への意欲低下が保持され,次第に学業内容に関する意欲も低下してい く可能性が考えられる。この結果から,個々の学生に応じた支援を進めるにあたって, 単純に単位取得状況だけでその良好さを判断するのではなく,大学生活への適応状 況に留意しつつ支援の方針を検討する必要性について示唆が得られたと考える。今 回は大学生活2年目の学生を対象としたが,授業意欲低下に相関がみられなかった要 因も含め,今後は4年間の大学生活を通じて縦断的に調査を行う等,さらに詳細な実 ― 255 ―

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池谷 航介・原田 新 態把握を進める必要があるだろう。  以上に加えて,【一人暮らし】における「大1コンフュージョン」は,「授業意欲低 下」においてのみ,弱程度の相関がみられた。大学生活を送る上で,一人暮らしによっ て生活全般におけるタスクが増加することにより,日々の通学や授業参加に影響が 出ていると推察される。しかしながら,【一人暮らし】の「大1コンフュージョン」は, 相談量の合計との相関が認められなかった。【大学生活全般】と同様に今回の調査で は概ね良好な単位取得状況の学生であったことを踏まえると,【一人暮らし】におい て「大1コンフュージョン」の状態が継続している場合,どのように対処しているの かについてさらに調査することで,単身生活の負担感だけではなく,その効果につ いても検討できるかもしれない。この点も今後の課題としたい。 参考・引用文献 原田 新・池谷 航介(2019). 「大1コンフュージョン」の実際(第3報)―ライフスキル, 意欲低下,心理的ストレス反応との関連― 岡山大学教師教育開発センター紀要, 9.[印刷中] 原田 新・池谷 航介・松井 めぐみ・望月 直人 (2018). 「大1コンフュージョン」の 実際(第1報)―高校と大学のギャップに戸惑う新入生の実態調査― 岡山大学教 師教育開発センター紀要, 8, 97-107. 池谷 航介・原田 新 (2018). 「大1コンフュージョン」の実際(第2報)―大学生活 を支える段階的な援助サービス― 岡山大学教師教育開発センター紀要, 8, 173-180. 石隈 利紀(1999).学校心理学―教師・スクールカウンセラー・保護者のチームに よる心理教育的援助サービス― 誠信書房 木村 真人(2016).大学生の学生相談利用を促す心理教育的プログラムの開発―援 助要請行動のプロセスに焦点を当てた冊子の作成と効果検証― 国際研究論叢:大 阪国際大学紀要,29(2),123-137. 下山 晴彦 (1995). 男子大学生の無気力の研究 教育心理学研究, 43, 145-155.

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1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 「大1コンフュージョン」の実際(第4報)―大学2年目の学生を対象とした相談状況とその検討―         Study of “Confusion after the Entrance to Higher Education” Ⅳ

Grasp of the Consultation Situation for Second-Year Undergraduates

Kosuke IKETANI*1, Shin HARADA*1

It was the objective of this research to examine the question of whether or not the current system of student support is helping to resolve problems (“confusion after the entrance to higher education”) faced by students. A questionnaire survey was conducted with students, and an analysis was made on relations in each category of scale. As a result, it was found that, when confronted with problems, students with a good academic record consulted and sought help from friends, family members, and other parties, and thereby maintained their academic performance. It was also found that students who faced ongoing problems (“confusion after the entrance to higher education”) continued to pursue their studies with the help of friends and family members, but had little enthusiasm for studying and attending the university.

Keywords: confusion after the entrance to higher education, articulation between high schools and universities, system of support for students

*1 Institute for education and student services, Okayama University

       

参照

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