仙台市における東北大学ムスリム留学生の一日五回
礼拝の実態調査
著者
アンディ ホリック ラムダニ
雑誌名
東北宗教学
巻
14
ページ
127-151
発行年
2018-12-31
URL
http://hdl.handle.net/10097/00127432
仙台市における東北大学ムスリム留学生の
一日五回礼拝の実態調査
アンディ ホリック ラムダニ
キーワード ムスリム、一日五回礼拝、政教分離、国立大学、仙台市 1.はじめに 東北大学は、文部科学省「スーパーグローバル大学創成支援(トップ型)」 に採択され、「東北大学グローバルイニシアティブ構想」のもと、卓越した教育・ 研究を行う大学へと飛躍することを目指している。東北大学はまたグローバル リーダーを育成するための教育環境として、外国人学生や日本人学生向けのプ ログラムの整備に取り組むとともに、FGL(Future Global Leadership)プ ログラムを推進し、留学生受入促進と学位や単位取得可能な留学生教育プログ ラム(JYPE、DEEP、COLABS、IPLA)を造り、外国人留学生の奨学支援も 実施している。東北大学には現在、多様な文化を持つ学生や教職員が集い、出 身地だけではなく言語、民族、宗教も様々である。平成29年度統計データによ 〈表1〉2017年度東北大学国別イスラーム圏留学生数データ(筆者作成) ナイジェリア モロッコ チュニジア エジプト アルジェリア ヨルダン レバノン トルコ シリア サウジアラビア クゥエート イラン イエメン アフガニスタン マレーシア バングラデシュ パキスタン インドネシア 6 4 1 12 2 2 1 13 1 1 1 7 1 1 44 35 11 132れば、東北大学には約98ヶ国・地域出身の2,000人以上の留学生が在籍してお り、そのうち275名はイスラーム圏からの留学生である。むろんイスラーム圏 からの留学生がすべてムスリムであるとは言えないが、インドネシア、マレー シア、バングラデシュ、トルコ、エジプト、パキスタン等、ムスリム人口の多 い国々(18カ国)からの留学生数は275人を数える。留学生全体の13%以上が ムスリムであることが推計される。 地域や国境を越えた移動の活性化は普遍的な現象となりつつあるが、それは 移動先における宗教実践にもダイナミズムをもたらしている1。本稿は、非イス ラーム圏である日本、とりわけ東北大学の留学生ムスリムの礼拝実践に着目し、 その実態を明らかにすることを目的とする。具体的にはアンケート調査とイン タビュー調査をもとに、公の場ではあまり語られることのないムスリム留学生 の礼拝実践を明らかにするとともに、教育機関や地方自治体にとって、どのよ うな対応や課題が生じているのかを考察する。 2. イスラーム教徒の礼拝 まず、ムスリムの礼拝についてここで説明していきたい。イスラームには五 つの行動規範の柱があるが、礼拝(サラート)はその中で二番目に重要なもの である。サラートの語源は「サラ―」すなわち「行う」という意味であり、そ こから派生した言葉が「礼拝(サラート)」である。聖クルアーンの第二十二 章巡礼の章十八節において、次のように記述される通りである。 「あなたは見ないのか。天にある凡てのものが、アッラーにサジダするの を。また他にあるもの凡てのものも、太陽も月も、群星も山々も、木々も 獣類も、また人間の多くの者がサジダするのを見ないのか」(第二二章巡 礼の章一八節) 「サジダ」というアラビア語は「お辞儀をする」という動詞から発生した言 葉で「頭を垂れ、膝を屈する、礼拝」という意味になり、礼拝の姿を表してい 1 小島敬裕(2015)「移動と宗教実践の態度着目した地域間比較研究の射程」CIAS Discussion paper No.47、京都大学地域研究統合情報センター
る。この世界にアッラーが創りたもうたものはすべてアッラーに対しサジダす ることが命令される。これは創造主アッラーに対する敬愛の念を表す姿勢であ り、そこにこそ礼拝の目的があるとされる。 イスラーム教の礼拝は二つに分けることができる。一つ目はムスリムが絶対 的義務としてささげなければならないファルドゥ礼拝であり、一日に五回、す なわち早朝(ファジュル)、午後早く(ズフル)、午後遅く(アスル)、日没直 後(マグリブ)と夜の就寝前(イシャ―)である。二つ目はスンナ礼拝、又は 「聖行」とよばれる礼拝である。この礼拝は必ずしも義務付けられたものでは ないが、実践することによりアッラーからの御利益を受けることができるとい う。スンナ礼拝の例としては、サッラー・ドゥハ(仕事や学校へ行く前の礼拝、 その一日の活動がうまく行けるための礼拝)、金曜日礼拝であるサラート・ジュ マアー(男性の礼拝)、イード礼拝(ラマダン明け祭りと巡礼祭りに行う礼拝)、 サラット・イスティスコ(長期の乾季に行う礼拝)等がある。 「アザーン」という呼び声によって礼拝の時間が知らされると、人々はモス クやムサラーに集い、ウドゥ(浄め)を行ってから、礼拝を行う。ウドゥの順 番もまたハディースに定められている。まず流水を手のひらで受けながら口を 3回ゆすぎ、続いて顔、鼻、右手と左手、前髪から後ろ、耳と足をそれぞれ3 回洗う。 「礼拝はイスラームの柱で、天国への鍵である」としばしば言われるとおり、 ムスリムにとって神の存在を認め帰依する最も直接的な手段が礼拝である2。聖 クルアーンに記される通り、一日に五回の礼拝を毎日続けることは、死後アッ ラーにお会いすることを信じる者にとっては、喜びであり楽しみである3。さら にモスクに集い集団で行う礼拝は功徳をもたらすとされている4。 2 「本当にアッラーはあなたの主である。アッラーの外に神はない。だからアッラーに仕え、 アッラーを心に抱いて礼拝の務めを守れ」(聖クルアーン第二〇章ター・ハーの章一四節) 3 「忍耐と礼拝によって、(アッラーの)御助けを請い願いなさい。だがそれは、(主を畏れる) 謙虚な者でなければ本当に難かしいこと。敬神の仲間はやがて主に会うこと、かれの御許に 帰り行くことを堅く心に銘記している者である」(聖クルアーン第二章雌牛の章四五・四六節) 4 「集団で行う礼拝は家で行う礼拝や市場(職場)で行う礼拝に比べて二十数倍勝っている。 そのわけは集団礼拝に参加する者は浄めをする際にはしっかりとした浄めを行い、それから
ムスリムに義務付けられ、また死後のご利益が約束される一日五回の礼拝を 実施することは、イスラーム圏では容易である。礼拝の時間になるとアザーン が聞こえ、簡単にモスクやムサッラー(社会施設にある礼拝用のための個室) を見つけられるからである。しかし非イスラーム圏である日本では、礼拝施設 もなく、しばしば礼拝時間も授業や学外活動時間とぶつかるため、この義務を 果たすことは容易ではない。 3.ムスリムの礼拝をめぐる研究 中野らによる先行研究5は、在日ムスリム留学生が日本で社会生活を送る上 で感じる困難や違和感、戸惑いを明らかにしている。東南アジア10名、南アジ ア5名、西アジア3名、アフリカ2名、中央アジア1名、合計21名のイスラー ム圏留学生に半構造化面接を実施し、KJ 法分析を行った結果、イスラーム圏 留学生の困難は大きく4つに分けられるという。それは飲食の制限の困難、礼 拝習慣の困難、マスメディアの影響の困難と行動上の制約の困難である。 このうち「礼拝習慣に関する困難」については、日中にモスクのない外出先 にいるとき、お祈りをする場所を確保しにくいことが困難の一つとして挙げら れた。1回の礼拝は5分から10分ほどで、自らが祈るスペースがあればよいが、 礼拝前は手足を洗う必要があるため、洗い場が遠い場所では困難を強いられる という。また日本で礼拝するときは人目につかない所が好ましいが、それらの モスクまで出向いて行き、その時の彼の行為にはただ集団礼拝に参加したい一心でそれ以外 には何の強制もなく、また彼は礼拝を除いて他のいかなる目的も抱きません。彼はモスクに 向かって一歩進むごとに一段とアッラーからの得点を上げ、罪の方は一つ一つ消滅してゆく うちにモスクに入ることになります。そして彼がモスクに入った時、彼は礼拝一筋に没頭し ているがその際彼が自分の礼拝の場にいる限り天使達は彼のために次のように祈りつづけま す。『おおアッラー、彼に慈悲を与え給え、おおアッラー、彼の罪を赦し給え、おおアッラー、 彼の悔悟をうけ入れ給え』こうして天使達はこの祈りを彼が自ら害をなさぬ限りまた彼の浄 めの状態が解消するまで祈りつづけるでしょう」(ハディース、即ち、イスラーム教の預言 者モハンマドの言行をまとめた書物、又は、イスラームの第二の法、サヒーフ・ムスリム1 巻「義務の集団拝の特典について」p.450-451)。このほか聖クルアーンには、次のように記 されている。「礼拝〔サラート〕の務めを守り、定めの施し〔ザカ―卜〕をなし、立礼〔ルクー ウ〕に勤しむ人たちと共に立礼しなさい」(第二章雌牛の章四十三節) 5 中野祥子、奥西有里、田中共子(2015)「在日ムスリム留学生の社会生活上の困難」、『岡 山大学大学院社会文化科学研究科紀要』第39号 p.137−151
条件を満たす場所を確保するのはなかなか難しいという。さらに、礼拝の時間 を厳守することにやりにくさを感じる者もいるという。これには2つの問題が あり、一つは礼拝をするべき時間帯に講義や業務がある場合に礼拝時刻が厳守 できないという問題で、もう一つは礼拝の時刻が明確にわかりにくいという問 題である。礼拝の時刻は通常日の出と日の入りの時刻によって決められる。そ のため、緯度経度が母国とは異なる日本では、母国にいたときと同じようには いかないことや、また、日本の四季による月々の細かい時間の変化に対応する ことに苦労したと述べる者もいた。 名古屋大学6におけるムスリム留学生の宗教的ニーズへの対応に関する研究 で、礼拝施設・整備について、数年前は、ムスリム留学生は集団礼拝(男性金 曜日礼拝)や個人礼拝を行うため、正式な場所は無かった。金曜礼拝について も、毎週異なる場所を探し予約するので、一定の場所が無かった。礼拝等のた めの学内施設の利用について、大学の法務室に相談した結果、国立大学法人と して、日本国憲法に定められた政教分離の原則を遵守する必要があること、同 時に信教の自由を保障するための環境に配慮すべきこと、という見解が示され た。大学のこの立場については、大学関係者もムスリム学生たちも共通理解を 持っているところである。 一方、外国の大学における事例として、岸田7はオーストラリアにある37大 学を調査した。それによれば、31大学でムスリム専用礼拝室が設置されており、 聖職者を学内に配置して学生の面談に対応している大学もあるという。また、 新聞報道の中で例えばトローブ大学で年々増加するムスリム学生の要望に応え る努力として、学内の礼拝所の広さを二倍にするなどの措置を取っていること、 一方複数の大学で、大学の授業時間を礼拝の時間に合わせることや学食や共用 場所の使用を男女別にすることなどムスリム学生たちからの要望があったが、 オーストラリアは政教分離を採択しているため宗教的な理由に依拠する要求に 6 田中、ストラーム(2013)「大学による多文化環境整備─ムスリム学生との協働の視点か ら─」独立行政法人日本学生支援機構『留学交流』ウェブマガジン7月号 vol.28 7 岸田由美(2009)『留学生の宗教的多様性への対応に関する調査研究─イスラーム教徒の 事例を通して─』2007 2008年度科学研究費補助金若手研究(B)研究成果報告書
応えることはできず、その前例も作るべきではないと判断したことなどを報じ ている。 上述の先行研究から、様々なパターンでの礼拝の困難と対応が明らかになっ た。ただし、在日ムスリム留学生は、大学での生活だけではなく、学外の活動 も多い。そのため、学外での礼拝に関する困難や日本人に対する対応も明らか にする必要がある。又、世俗社会である日本は、宗教の課題について、どのよ うに対応しているのだろうか。本稿では、仙台イスラーム文化センター(ICCS) と東北大学ムスリム留学生の礼拝の歴史と実態を見ながら、ムスリムの礼拝困 難への対応について考察する。 4.仙台市におけるムスリムの歴史と実態 4. 1 仙台市イスラーム文化センター(ICCS)の設立 仙台市八幡七丁目に仙台イスラーム文化センターがある。その歴史は東北大 学ムスリム留学生と深く関係がある。この仙台イスラーム文化センター(ICCS) は、1977年9月にイスラーム教に改宗した日本人の Abdul Kareem Makabe と2人のムスリム留学生により設立された。この二人は、エジプトのアレクサ ンドリア大学出身の Mustafa Hamzah El-Aal 及びアール・アザール大学出 身の Nabil Fatahallah である〈写真1〉。 〈写真1〉仙台イスラーム文化協会創立者、後列、立って い る 人 物 は 左 か ら AbdulKareemMakabe、 MustafaHamzahEl-Aal、NabilFatahallah の妻, NabilFatahallah(ムハンマド・佐藤氏提供)
当初、ICCS は東二番町通にあるビルにあった。当時20人ほどであったメン バーの出身地は、エジプト、パキスタン、バングラデシュ、インドネシア、モ ロッコなどの国であった。当時の ICCS は、国籍に関係なく、金曜日礼拝や年 中行事の礼拝をともに行い、アラビア語講座の活動には、東北大学の一般日本 人学生も参加した。部屋が狭いため、5人∼6人ぐらいの礼拝スペースしかな かった。そのほか留学生の出身国の食べ物を紹介し、料理教室も行っていたと いう。 その後、1988年に、設立メンバーのムスタファ、ナビール両氏が博士号を取 得し仙台を離れたが、程なくしてもう一人の設立メンバーである真壁氏も病気 で入院し、活動から手を引くことになり、センターは閉鎖するに至ったという。 金曜礼拝や一日五回の礼拝を一緒に行うことができなくなったが、閉鎖中とい えども、東二番町にあるコミュニティーセンターを借りるなどして、アラビア 語講座は開いていた。 その約2年後にセンターを再開することができ、イスラーミックセンター ジャパンの一人の理事が ICCS の状況に理解を示し、財政的援助を提供してく れた。この時点で ICCS はセンターの運営方法を、創立を担った3人の責任体 制から、仙台在住のムスリム全員から選出する運営委員会へと変更したという。 〈写真2〉国分町にあるビルで礼拝している様子(ムハ ンマド・佐藤氏提供)
現在まで続くこの新方式の下、このコミュニティーに住むイスラーム教徒から 会費を徴収するようになった。またできるだけ、地域内のイスラーム教徒の結 束を強めるべく努力したという。 その後、年々学生数は増え続けたが、中曽根政権時代に留学生を招く政策が 打ち出されて以降、特に増加したという。ICCS は増え続けるイスラーム教徒 に対応するため、市内で三度も引っ越しを余儀なくされた。川内キャンパス、 片平キャンパス、及び雨宮キャンパスそれぞれから最も近い地点をコンパスで 決めて、2∼3年ほど、国分町のビルに部屋を借りたという〈写真2〉。しか し国分町のイメージが悪いため、そこに代わってエジプトからの留学生の助け で片平キャンパス内のホールを借りるようになった。数か月のあいだ、礼拝や アラビア語講座をここで行ったが、ウドゥで使った水詰まりや汚れのために管 理人より苦情が寄せられ、ホールが使用禁止となった。 その後、片平キャンパスのバングラデシュ留学生が自発的に不動産屋に相談 し、礼拝のためのアパート(6畳一間、敷金礼金なし)を見つけたという。五 年ほどそのアパートを借りたが、留学生が増えるにつれ礼拝を行うには手狭に なってきた。大家に相談すると、隣の中国人留学生にほかの階に移ってもらう ことができ、二つの部屋で礼拝するようになった。一緒に礼拝するために壁を 壊してもいいと大家が申し出てくれたが、退去時に壊した壁を直さなければな らず、壊すのをやめたという。そこで二つの部屋の一方を、ビデオカメラを通 じて他方の部屋で見られるようにして同時に礼拝するようにした。しかしその 後も東北大学のイスラーム圏留学生は増えたため、次第に手狭になってきた。 金曜日の礼拝のときには、部屋に入れない人が外のシートに座り参加するよう になった。しかし、冬や梅雨の時期には、困難を感じたため、ICCS の会長が 他の留学生と相談し、会費や寄付に加え、ハラール肉販売の利益を使ってほか の場所を探そうと動き始めたという。 その結果、東北大学の近くにある住宅街(三条町)に土地を見つけ、購入し た。しかし駐車場が狭く、また周辺の住民の迷惑を考えたため、その土地を売 りほかの土地を探した。その後 Muslim Student Association Center や日本イス
ラーム文化センターよりもらった援助金によって、八幡七丁目にあるより広い 土地を購入した。仙台市や近所から許可を受けたその土地に今の仙台イスラー ム文化センターが建てられた。 〈写真3〉現在の仙台イスラーム文化センター(筆者撮影) 仙台モスク建設が終わったあと、ICCS 役員も正式に決めることとなった。 2011年におきた東日本大震災のときは、この仙台モスクが大きな役割を果たし たという。このとき多くのムスリム留学生が一時的に帰国したが、当時の ICCS会長とイギリス出身のムスリム二人で、イスラーム圏の国々や日本全国 ムスリムコミュニティー及び個人からの寄付や物資を管理していたという。 2010年頃に、宗教法人申請のための活動を開始したという。申請許可が下り るためには、様々な条件を満たす必要があった。その一つは、毎月の活動報告 や参加者名簿の提出だった。そのほか毎年4月に役員を改選したり、財産や施 設情報の報告も義務付けられているという。5年間、県庁職員が監視・監査を 行い、2016年5月に仙台イスラーム文化センターが宗教法人に認定されるとい う非公式の知らせをもらったという。 4. 2 現在の東北大学ムスリム留学生にとってのモスクの役割 その後、東北大学におけるムスリム留学生の増加8とともに、国ごとにムス 8 筆者の調査によれば、2010年∼2017年にかけて、東北大学の留学生総数に対するムスリム の割合は10%∼12%である。平成30年度の留学生総数は2089人であり、その内267人(12.8%) がムスリム留学生である。
リムのグループが形成されるようになってきている。金曜日礼拝やイード礼拝 といった集団的な礼拝にかんしては、モスクに集うムスリム留学生も多いが、 国ごとに東北大学国際交流会館のロビーや北山市民センターで礼拝が行われる ことも多くなってきている。たとえば、インドネシア人ムスリム留学生協会で ある Keluarga Muslim Indonesia di Sendai(在仙台インドネシア人ムスリム家 族)やマレーシア人ムスリム協会である Remaja Riang Sendai(仙台市でいつ も幸せにしている若者)というグループがその代表例である。また仙台モスク は大学から遠く、イード礼拝以外は訪れることがないという声も多い9。このよ うに国ごとの集団礼拝や、大学からの距離といった問題によって、モスク以外 の場所での礼拝が行われていることが推測される。以上を踏まえたうえで、本 稿はムスリム留学生の礼拝の実態を明らかにするために、アンケート調査やイ ンタビュー調査を実施した。東北大学に在学するムスリム留学生(学部生、大 学院生、短期留学生)25人を対象に、2017年3月から2017年4月中旬までの期 間に、アンケートを配布し、21人の回答を得た<表2>。回答者21人(男性13 名、女性8名)のうち、インドネシア人が13名を占めた。 アンケートは全4問によって構成されている。設問1は、月曜日から日曜日 まで一日五回の礼拝場所をそれぞれどこで行なっているかを記入してもらった。 その際、ジャマック10 を行う場合は、そのように回答するよう指示している。 設問2は設問1で記入した礼拝場所を選択した理由、およびその場所をどのよ うに知ったのかを回答してもらった。設問3ではモスクで礼拝しない場合その 理由を、設問4は、日本での礼拝にかんする課題や経験を記入してもらった。 設問1の回答は5つのカテゴリーに分類することができる。Masjid、
9 アフガニスタン出身ムスリム留学生の A さん(24歳)は too far to go to mosque, class, busy with research activity(モスクへ行くのが遠い。授業、研究活動も忙しい)。また、パキスタ ン出身ムスリム留学生の B さん(24歳)Because Sendai mosque is far so I just go to Sendai mosque in Ied(仙台モスクは遠いから、イードのときだけモスクに行く)。一方、インドネ シア出身ムスリム留学生の C さん(20歳)も almost always, because it is too far and I just go there by purpose(ほとんど大学で行う、モスクは遠いから。目的のあるときだけあそこに行 く)という。
10 ズフルとアスル、又はマグリブとイシャを結合する礼拝。長い距離の旅や離れられない仕 事をするときに実施しても構わない礼拝である。
Mosqueや Sendai Mosque のキーワードは「モスク」の枠組に追加され、 Apartment、Dormitory、Friends House、IH Common Room のキーワードは「家」 の枠組みに追加した。Aobayama Campus、Global Learning Room、Kawauchi Library 2nd Building 等のキーワードは「大学」の枠組みに追加され、AEON 8th
floor、 Elpark Mitsukoshi、 Ogawara Park 等のキーワードは「大学外」の枠 組みに追加した。そして、Jamak や menstruation のキーワードは「その他」の 枠組みに追加した。 5つのカテゴリーのうち、イスラーム圏でもよくみられる「モスク」や「家」 以外の場所を回答した者につき、追加でインタビュー調査を実施した。以下で はまず「大学内」の礼拝場所からみていきたい。 5.「大学内」の礼拝場所観察
礼 拝 場 所 と し て「 大 学 内 」 の「Seiryo Campus Praying Room 4th Floor」、
「Engineering Departement 5th Floor」 や「Kawauchi Campus Library」 と 回 答
したムスリム留学生の事例をみていく。
Seiryo Campus Praying Room 4th Floor は歯学部一号館にある礼拝場所であ
る。礼拝場所として整えられたこの部屋には、礼拝用具も用意されている。同 じ建物の4階にある国際交流支援室によると、この礼拝室(Praying Room) は2年前から開かれるようになったという。開設にかかわった中国国籍の歯学 部教員 D は、以前からムスリム学生がトイレの前や階段の踊り場で祈ってい るのを見るにつけ不憫に思っていたという。イスラーム圏からの留学生が年々 増えるなか、この教員が学科の他の教員と相談した結果、より清潔な場所とし てこの部屋が用意されたという。ただしこうした学科内の対応に反対する教員 もいたという。反対のもっとも大きな理由は、施設の管理を誰がどのようにす るのかという問題があったからである。教員 D は国際交流支援室の協力を受け、 使われていない研究室を礼拝室として、午前8時から午後5時まで使用できる よう取り計らったという。
このほか Seiryo Campus Praying Room 4th Floorをよく使用している回答者
は「there are places which open for public and I can use it for a minute without bothering many people. So, I can comfortably praying」(誰でも使用できるよう なスペースだと思い、他の人を邪魔せずに数分ほど使用できる。そこで、私は
安心して礼拝できる)や「its clean and quiet」(清潔で、静かな場所だ)と書 いた。
Seiryo Campus にある礼拝室と違って、Engineering Department 5th Floorを礼
拝場所として回答した者もいる。2016年に工学部のイスラーム圏留学生が礼拝 場所が欲しいと教員に打ち明けて以降、ここで礼拝場所が提供されるように なったという。しかし「ウドゥの水で床が汚れる恐れがある」とか、「その部 屋にあるものが盗まれたり壊れる恐れもある」との理由で、他の学部の学生に 礼拝場所を知らせないようにと注意されたという。アンケートでは「I know that place from my senior, the reason is clean and have facilities like Sejadah (carpet for prayer)」(その場所は先輩から教えてくれた。清潔な場所で、サジャ ダ ー も あ る )、「clean, even if there are many people passing by. I think it is a proper place to pray, I know from my senior」(たくさんの人が通っているが、清 潔な場所だ。礼拝のために最適な場所だと思う。この場所は先輩が教えてくれ た)と書かれた。
こ の ほ か「Global Learning Kawauchi Library, Kawauchi Campus Library,
〈写真4〉青葉キャンパス研究室で 礼拝している様子(筆者 撮影) 〈写真5〉研究室使用に関する注意 事項が英語で書いてある (筆者撮影)
Kawauchi Campus Library Corner, Kawauchi Library 2nd Building」を礼拝場所 としてあげる回答者も多かった。川内キャンパス図書館のなかでも、グロバー ル・ラーニングと図書館2号館が礼拝時間によって使い分けられているようで ある。図書館2号館では午後5時の閉館時間までの間であれば、ズフル礼拝や アスル礼拝が2号館一階トイレ前で行われている。一方、マグリブ礼拝の時間 以降は、図書館1号館のグロバール・ラーニングやフレキシブル・ワーク・エ リアの隅がよく使用されているようである。「グロバール・ラーニングには図 書館の活動や大学生の発表やグループワークしている人が多いので、ときどき 礼拝場所として使用できない。そのときは、マグリブ礼拝の一時間や二時間前 グロバール・ラーニングの様子を見て、混んでいるなら、日本語が喋れる友達 にグループ学習室を借りてもらい、そこで集団礼拝を行うようになりました」 とインドネシア出身の E さん(29歳)はいう。アンケートでは「it hidden from people」(他の人の目につかないところだ)、「because the place are quite in the corner and not so many people come by」(隅にあるので、静かなところ で通っている人があまり多くない)、「hidden」(人目につかない)という理由 があげられている。
7.「大学外」の礼拝場所観察
一方「大学外」では、「Dissable toilet in public space 」 「fitting room」 などが頻出する回答としてあげられる。
試着室は「UNIQLO」や「AEON 2nd-floor 」、「Fujisaki Store Clissroad」な
どもあげられており、礼拝場所としてしばしば用いられている場所の一つであ る。店内の服を試着するふりをして礼拝する様子が観察されたこともある。試 着 室 が 礼 拝 場 所 と し て 好 ま れ る 理 由 と し て は、「wide, hidden, and clean. Emergency because I can t find the good room for praying」(広くて、人目につ かないところだ。更に、清潔なところだ。非常階段を選ぶのは、礼拝するため に 適 切 な と こ ろ を み つ け る こ と が で き な い か ら )、「in other time when I urgently need to find a praying space. I pray in any space which I think won't bother many people 」(急に礼拝の時間になったら、他の人を邪魔しないとこ ろで礼拝するようにした)「I still can comfortably pray as long as I don t use the spaces that can be bothersome to others」(他の人を邪魔しない限り、その 場所で安心に礼拝できる)などがあげられている。
一方、トルコ出身の F さん(24歳)は珍しいことに「大学外」キーワード
の「Dissable Toilet in public space」で礼拝を行った。彼女の理由は「Praying in public places is a little bit of a problem. Taking Vudu (ablution) in public is even a bigger problem actually. I prefer a place where people cannot see me, since Japanese people might not know and understand what am I doing, might disturb me or get disturbed by my actions. My Turkish friends recommended me disabled toilets, which are roomy, provides plenty of privacy and you can take Vudu (ablution) there as well. Even if they are relatively clean and have many spaces they are still toilets, and a praying place must be very clean and nice, a toilet is definitely not that place. But on many occasions when I am in public I have to use that way.」(公共施設で礼拝するのはちょっと困難なことだと思う。 一般使用トイレでウドゥをすることはもっと大変。誰にも見られないところの ほうが望ましい。なぜかというと、日本人が、私のやっていることに気づかな いから。もしかすると、彼らが私の邪魔をしたり、私が彼らの邪魔をしてしま うかもしれない。トルコの友人は、障害者用のトイレを勧めてくれた。スペー スが広くて、自分のプライバシーを守ることができ、浄めもできる。だが、清 潔で広い場所だと思っても、トイレはトイレだ。礼拝はトイレで実施するので はなく、ちゃんと清潔で適切なところでするべきもののはず。しかし、公共の 場にいるときは、そのようにやるしかない)というものだった。 8.礼拝場所による困難 アンケート調査の回答から見れば、「大学内」に提供された礼拝室で礼拝を 実践すれば安心や集中しながら礼拝できるようだ。しかし、礼拝場所として適 切ではないところで礼拝をすれば、「I feel inconvenience whenever spend a lot of time outside the dorm and campus, it is hard to find place to pray. I had to pray in fitting room, it is not spacious so that it is inconvenience. Beside that I have to wudhu in wastafel and people will stare at me.」(会館や大学以外にいる ときに不便を感じます。礼拝できるところを見つけにくいから。試着室で礼拝 するしかなかった。狭くて不便だった。浄めするときはシンクで行わなければ
ならず、一般の人からジロジロ見られてしまう)、「when we are in the middle of the city, and its hard to find empty/ proper spaces, emergency exit is a good choice but sometimes feel insecure about people gonna come in. my experience when doing prayer in the emergency exit, security man came in and asked to have conversation. Lol」(街中にいたとき、空きスペースや適切なスペースを 見つけられなければ、仕方なく非常口で礼拝をする。誰かが来ないか心配だけ ど。ある日、非常口で礼拝をしていたとき、警備員さんが来て、喋りかけられ た経験もあった)という話もあった。 これらの解答から分かったことは、周りの人に迷惑をかけるため心配で礼拝 に集中できず、周りの人も自分の礼拝の様子を見たら心配するし、疑われるこ ともあるということだ。図書館でよく礼拝しているインドネシア出身の E さ ん(29歳)から聞いた話でも、公園や駅周辺で礼拝すると警備員に近寄られて、 注意されたこともある。E さんに聞き取り調査したところ、西公園で礼拝した 経験もあり、礼拝中に注意されたこともあったそうだ。すなわち警察に「あな たは自分の礼拝場所があるでしょう!なぜここで礼拝するの?」と叱られたと いう。 アンケート調査の回答では、礼拝場所を選択した理由について「Clean」及 び「Hidden」と言及することが多かった。周りの人に迷惑をかけないように、 また疑われないように、清潔かつ隠れている場所で、不安のため集中できずに 礼拝を実施したとの声が多い。イスラーム圏留学生が礼拝場所を選ぶ基準や特 徴は、大学内でも大学外でも、清潔な場所でありながら、他の人を邪魔しない ように隠れている場所というものである。イスラーム教ではトイレで礼拝する ことは禁止されているが、緊急の際プライバシーを守るために、トルコ出身の Fさん(24歳)は障害者用トイレでウドゥをして、礼拝を実施したという。 観察調査から分かったことは、青葉山キャンパスや星陵キャンパスではイス ラーム圏留学生が多く、イスラーム圏留学生の宗教的な必要性を意識する先生 方が多いようだ。例えば、ウドゥのための蛇口の提供や礼拝室の提供もある。 しかし、歯学部教員の D 先生が語った通り、イスラーム圏からの留学生にとっ
て、今一番課題になっているのはその施設の管理である。大学生は留学期間が 決まっているので管理は難しいという。また礼拝場所を提供すればウドゥの水 の汚れも問題になるという。 9. 日本人側による礼拝施設設置対応 9. 1 東北大学側のインタビュー 以上のアンケート調査やインタビュー調査により、ムスリム留学生の「大学 内」と「大学外」における礼拝の実態が明らかになった。以上を踏まえたうえ で、本節ではムスリム留学生が日常生活の大半を過ごす教育機関および居住自 治体の関係者の現状認識や対応状況についてインタビュー調査を通じて明らか にしたい。 まずは東北大学を見てみたい。東北大学には現在、出身地だけではなく言語、 民族、宗教において多様な教員・学生が集っている。多様な文化的背景をもつ これらの構成員が共に研究や教育を進めていくための環境の整備が求められて いる。インタビューに協力してくれた東北大学グローバルラーニングセンター 副センター長の末松和子氏は、ムスリム留学生の礼拝に関する要望を以前から 認識していたという。しかし日本の国立大学ではイスラームに限らずあらゆる 宗教活動を大学内では認めておらず、大学側として特定の場所を確保し、ムス リムのために礼拝活動を支援することはしないという。他方で東北大学に学ぶ ムスリム留学生の現状や要望も把握しているため、グローバルラーニングセン ターで「学生の集まりのため」に場所を提供しているという。そこで留学生が 何をするかは学生次第だという。礼拝をはじめて見た日本人学生らが、警備員 に注意するよう促すという出来事も過去にはあったという。毎年のようにムス リム留学生が増加するなかで、大学内で礼拝している様子も珍しいことではな くなってきている。日本人学生・教員に対し理解や対応を求めていくことを今 後の課題と考えているという。非公式ではあるが、教員の会議などでムスリム の礼拝について「認めてあげましょう」という話があがることはよくあるとい う。各研究室の教員がそれぞれの裁量のなかで礼拝場所を設置していたことは
あまり知らなかったが、ムスリム留学生への対応としてはいいことだと思って いるという。東北大学は、各学部や各研究科がとても強いという特徴をもつの で、礼拝場所の設置については部局ごとの対応となっている。礼拝施設の設置 がいまだない研究科の参考にしてみたいと述べていた。 そのほかムスリム留学生は図書館を礼拝場所としてしばしば使用していると いう現状を踏まえたうえで、東北大学附属図書館の職員に、礼拝場所の設置や 対応について伺った。 東北大学附属図書館参考調査係の西村氏は次のように述べる。ご存知の通り、 東北大学の留学生は現在2千人以上も在学していて、いろいろな宗教を持って いる留学生もいる。インドネシアやマレーシアからのムスリム留学生も割合的 に多いようだ。図書館では礼拝している様子はよく見ているが、今まで館内で 特定の場所を設置したことはないという。
東北大学附属図書館元参考調査係長の吉植氏は、「Religious Common Room 作れないかな?」と一度考えたことがあったという。それは特定の場所でイ スラーム教だけではなくて、他の宗教でも宗教的な活動ができる場所を設置す るという案である。館内で礼拝している様子をよく見ていた図書館のディレク ターが、それを課題として考えたこともあるが、そのあと何か問題があって先 に行けなかったようだ。吉植氏は最初驚いたが、ある意味日本人はそういうこ とに関して寛容なので、よっぽど過激なことをしなければ、「あ、やってるな」 「邪魔しないで」「いいよ」と考える日本人が多いのではないかという。よって、 吉植氏はムスリム留学生の宗教的なことはあまり否定していないという。 一方、東北大学附属図書館元情報サービス課長の村上氏は、宗教は自由だか ら、「礼拝の際に図書館職員に知らせる必要はなく、ムスリムの留学生は館内 ではどこでも自由に礼拝してよい」と語った。 名古屋大学図書館では、ムスリム留学生から集団礼拝のために館内施設を利 用したいという申請が毎週あるという。それに対応しているが、毎回同じ場所 でできないため、いつも違う場所を貸し出している。 礼拝する様子はもちろんよく見かけているが、お祈りは気持ちの問題じゃな
いかと村上氏は思っているので、東北大学図書館ではムスリム留学生に自由に 礼拝場所を選ばせ、自由にさせているという。村上によれば、これからは図書 館コンシェルジュメンバーに一つの職員ロッカーを借りてもらって、ウドゥの 水たまりをちゃんと綺麗にするように、礼拝しようとするムスリム留学生のた めのタオルやモップもそのロッカーに置くことにした。そして、東北大学は国 際的な環境なので、日本人学生にもちゃんと理解させるために、ムスリム留学 生も人目につかないところで礼拝をしないで、ときどきは彼らが見ているとこ ろでも礼拝すればいいのではないか、と村上氏は考えている。 9. 2 仙台市副市長・宮城県副知事との対談 仙台 ARI ティヴィー11及び自治体のサポートで、2017年12月11日、ムスリム 留学生や研修生の増加に伴い、整備多目的スペースの設置に関する要望書を宮 城県副知事に提出し仙台市副市長とも対談を行った。これに際し東北大学イス ラーム文化協会を代表するムスリム留学生ら(インドネシア人4名、マレーシ ア人2名、アルジェリア1名、パキスタン1名、イエメン1名、日本人大学生 1名)が、仙台市内における礼拝施設設置の要望書を副知事と副市長に渡すに あたって、仙台市の東北大学と仙台駅近辺における礼拝施設の状況と課題を説 明した上で、各留学生の困難や意見について対談をした。 副知事と副市長の回答は次のようにまとめられる。宮城県における外国人の 増加に伴いムスリムである外国人も共に増加している。2020年のオリンピック や東北地方の震災復興を目的として、外国人観光客を呼び、彼らに対し住みや すい環境を整備しなければならない。東北地方に在住・観光するムスリムのた めに、観光ガイドブックの中で「ムスリムフレンドリー」の施設も記載し、観 光地の日本人たちにもイスラーム教についてのガイドブックを配布したという。 11 地上波テレビ局であり、2010年に設立された。東北に暮らす人々、自然、文化、歴史、グ ルメなど多岐に渡り発信を行ってきたが、2011年3月11日に起きた東日本大震災を機に、東 北を復興させ震災前よりも輝けるような土地にしたいと前を見て立ち上がる東北の人々を中 心に多言語で放送を開始した。そして、東北の誘客プロモーションに力を注ぎ始め、JAPAN HALAL TVというプログラムをつくった。これはムスリムフレンドリーな観光施設を紹介 する番組である。
対談で各留学生が述べた困難に対し、ムスリム留学生や実習生又は配偶者が仙 台駅や街中で礼拝のために苦労するのは大変申し訳ないという。実はこの件に ついて、我々は解決しなければならない課題と思っている。だが、われわれが 知っているとおり、日本は、政教分離である以上、特定の宗教のために、デ パートや他の公共施設に礼拝施設を設置するのは難しい。仙台市は国連の基準 に基づき、国際会議を開くときには、会議参加者の宗教的必要性に応じて、礼 拝施設を提供しなければならない。一方、多目的スペースを設置するのにも、 社会的合意が必要である以上、施設使用の目的に対し理解を求めることが必要 であるという。 以上の対談からは、次のことが分かる。まず、副知事と副市長はともに外国 人観光客誘致のために、仙台や宮城を「ムスリムフレンドリー」な街へ変えて いこうとしていることである。特にガイドブックを観光地にのみ配布している ことを考えると、「ムスリムフレンドリー」の対象は観光客であることが分かる。 穿った見方をすれば、礼拝所の設置に向けた努力は、観光客誘致による経済的 効果を狙ったものと捉えることもできるであろう。もちろん、両者の発言に見 て取れるように、行政は政教分離の原則に縛られているため、自由に公共施設 へ礼拝施設を設置することは難しい。だが、「観光客誘致」という目標のため 〈写真10〉宮城県副知事に礼拝施設設置要望書を提出す る光景 (アリティヴィースタッフ撮影)
に政教分離の原則と折り合いをつけながら礼拝施設設置に向けた努力を行って いる。 このような「ムスリムフレンドリー」へと向かう政策の変化は、グローバル 化のあらたな側面を示しているものと言えるであろう。グローバル化は、経済 格差や政治力の違いに依拠しながら、西洋文化がその他の文化を塗り替えてい くようなプロセスとして認識されることが多い。しかし、副知事と副市長の事 例に見られるのは、ムスリム観光客を誘致していくために、イスラームの礼拝 所という、西洋でも日本でもない、従来の日本社会にとっては「異質」なもの を受け入れていくというプロセスであった。このように、政教分離という枠の なかにありながらも、ムスリムたちのグローバルな流れは確実に日本社会を多 文化社会へと変えつつあるのである。 10. まとめ ムスリム留学生だけではなく、イスラーム教徒にとって、礼拝は重要な宗教 実践である。イスラーム教の教義である「六信五行」の中でも、礼拝は基本的 な信仰行為であり、イスラーム教徒は、日常生活のなかで一日五回定められた 時間にそれを実施しなければならない。仕事や研修あるいは留学生として来日 した彼らは、文化や言葉だけではなく、信仰している宗教を日本で保持し続け ている。その中でも、ムスリムは、日常生活で既に習慣となった礼拝をどこに いても守らなければならない。 イスラーム圏では、アザーンによって、礼拝の時間がすぐに分かるように なっている。モスクから離れた場所にいる場合、デパートや公園にも「ムサッ ラー」という礼拝施設が設置されており、安心して礼拝できる。だが、非イス ラーム圏では、本稿で対象にした日本の仙台市のように、これとは異なる状況 が見られた。 東北大学内においては、正式な礼拝施設はない。しかし、各研究室や教員、 そして附属図書館の職員は、毎年増加するムスリム留学生に対して配慮し、ム スリムの礼拝に関しても当たり前な光景として捉えるようになった。だが、仙
台駅周辺では、ムスリムたちは礼拝のために適切な場所を探さなければならな い。探しにくい場合は、人に見られない場所で、注意されるのではないかと不 安を抱きながら礼拝を実施している。 日本人社会では、いまだイスラームは馴染みがある宗教とはいえない。しば しばニュースで流れるイスラーム過激派によるテロの影響で、イスラームへの 理解や配慮はけっして簡単ではない。その一方、イスラーム圏からの留学生が 毎年増えているという現実をみると、大学は学生全体への平等な支援を行うこ とが望ましいと思われる。学生が平等に教育を受け研究を進め、更に国際的な 大学ならではの協働ができるように、大学の環境整備としての礼拝施設設置と いう支援を行うことが求められているように思われる。 本稿が試みたアンケート調査結果からは、ホスト側として日本の教育機関や 行政機関がムスリムの要望について理解を示したり、配慮したりするなどの歩 み寄りの余地が明らかになった。むろん大学が必ずしもムスリムの学生のため に礼拝所を作らなければならないわけではない。もし大学や公共施設が政教分 離の原理を守りたいのであれば、施設内に礼拝用施設を設置するまでは必要な く、ムスリムがどこでも礼拝できるような環境をつくることの検討も可能であ ろう。ムスリムの礼拝についての理解を深めるための活動や説明会等、地方自 治体と共に知識人や大学人による行動と協力が期待される。 参考文献
Bowen, John R. (2012) A New Anthropology of Islam: Migrating and Adapting, Cambridge University Press pp. 156
岸田由美(2009)『留学生の宗教的多様性への対応に関する調査研究──イス ラーム教徒の事例を通して──』2007−2008年度科学研究費補助金若手研 究(B)研究成果報告書
小島敬裕(2015)「移動と宗教実践の態度に着目した地域間比較研究の射程」 CIAS Discussion paper No.47、京都大学地域研究統合情報センター 田中、ストラーム(2013)「大学による多文化環境整備──ムスリム学生との
協働の視点から──」独立行政法人日本学生支援機構『留学交流』ウェブ マガジン7月号 vol.28
中野祥子、奥西有里、田中共子(2015)「在日ムスリム留学生の社会生活上の 困難」『岡山大学大学院社会文化科学研究科紀要』第39号 pp.137 151
TohokuUniversityMuslimStudent
FivetimesPrayerActualSurveyinSendai
AndiHolikRamdani
The impact of globalization is not only about the increase of moving economy, social, and cultural realms across national borders. Together with the frequent cooperation between two nations or more, movement of labor and increased immigration allegedly generates a social problem that are mostly related to cultural friction.Followed by an increase of Muslim students from Islamic countries inside Miyagi prefecture after 3.11, this article will explore how to do religious practice, social loyalties, and nations rule interrelate by focusing to the new issues in Japanese social environment through minorities by its religion and how Japanese society overcome with this.
Through the interview, questionnaire, and direct survey, particularly, this article will highlight the problem faced by Tohoku University Muslim student in Sendai on performing their prayer inside the university and when they are in the middle of the city.
However, this article aims to give a description based on research finding and try to give a new thought together to find a solution in the future regarding with the influxes of international students with their religious practice which is inseparable from their life habits under secular nation.