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平安時代から江戸時代における「~ヲバ~ヲ」文について――二重ヲ格との比較も含めて――

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(1)

平安時代から江戸時代における「~ヲバ~ヲ」文について

—二重ヲ格との比較も含めて一一

佐·

1. はじめに

筆者は先に.佐伯暁子 (2009) において平安時代から江戸時代における二重ヲ格について, 次の三点を主張した。 (1)二つのヲ格の表す意味により. ①-1二つのヲ格がいずれも対格を表し意味役割も同じ 拿ズ もの(「(省略)手ヲ以テ頭ユ疵ユ撫デヽ. 去リ給ヒヌ。(「今昔物語集」巻六・一三)」 など). ①-2二つのヲ格がいずれも対格を表し意味役割が異なるもの(「次には中宮の. ませ 菊の花主簸玄結ひたり。(「榮花物語]巻三七・けぶりの後)」など).②二つのヲ格が いずれも移動格を表すもの(「死ナラパ悪ロヲスルヲサシ殺セ。サナクハ袴ノ下ユマ タクラユク、・レゾ。(「写本蒙求抄」中ノ下:森田武1965)」など).③一方のヲ格が対 格. もう一方のヲ格が移動格を表すもの(「悪い者共主町至追出だいた。(ロドリゲス 「日本大文典J 97ウ)」など).の四種類に下位分類される。用例数から見て.中心的 な用法であったと考えられるのが①-1である。 (2) ①-1の二姐ヲ格の二つのヲ格名詞句の間には[略述]と[詳述]の関係が見られる。 (3) ①-1の二煎ヲ格は, 広い範囲の時代・炎料にわたり.一定の規則を持った文型として 存在したことが確認される。 このように.平安時代から江戸時代に存在したと考えられる二重ヲ格は.例えば次のような ものである。 オヽヽル (4) (省略)此ノ被負ル男.負フ男ユ屑ユヒシト食タリケレパ, (「今昔物語集」巻二七•四四) (5) 衛辿ハ.秘仲連ナリ。仲ノ字ヲキッタゾ。三字ツ、イタ名Z·中ユキルガ多ゾ。 (「玉盛抄』巻七・19オ) (4X5)では. 二つのヲがともに働きかけの対象を表している。二つの対格が同じ意味役割の場 合. 二つのヲ格名詞句の間に[略述]と[詳述)の関係が見られる.例えば(4)は.一番目の ヲ格名詞句で「負フ男」と略述し、 二番目のヲ格名詞句「屑」で体の一部分を挙げ詳述して いる。

- 62 -

(6)

(2)

(3)について, その根拠となる使用状況も示しておく。 表1 平安時代から江戸時代における二重ヲ格の使用状況(佐伯暁子2009の表1を一部改編}' I ①-2 ® (l)

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土左日記 l I 字i,1し保物:t I I 枕1,t子 I I 2 源氏物店 3 3 紫式部日記 I 1 榮花物店 I I 夜の襄化 I I 2 更級日記 I I 今甘物研集 15 I 16 字治拾遺物" I I 古今若閏染 2 2 沙石集 I I 秋夜長物開(「f加J) I I ヰ本漿求抄 I I H学大成抄(岩湘*) I I (j)-1 ①-2 ®

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玉匝抄(を一、七) 5 5 業平沙物聞(r骰ヰJ) I I ロドリゲス日本大文夷 3 3 伊8保掬話(「餃れ』) I I きのふはItふの物団(l�J) 1 I 店糸さうし(『偏J) I I 梵天国(I偏」) I I 好色一代男(Ei」) I I 好色―代女(Ei」) 2 2 a*ik代蔵 (r西』) 2 I 3 用明天王霰人尺(『近J) 1 I けいせい反魂谷(「近J) 1 I 女殺油地欺(f近』) I l 44 7 2 4 57 合計 7.0% 772% 123% 3.5% l匹 ※作品名の表記は、)jJ例の日査に用いた日本古典文学大系や公引に従った。 ※空開は用例数が0であることを表す。 ※『写本蒙求抄』のm例についてはべmmR (1965)に指縞がある。rt9学•大成抄』の用例は、「時代別OO甜大辞典区町時代紺j の「ぢき(直)」の項で3Imされたものである。 以上,佐伯暁子 (2009) を概観したが. ここで注目したいのは. 二重ヲ格が存在したのと 同じ時期に(6X7)のように一つの動詞がヲバとヲを同時にとる例も観察されるという点である。 (6) 人つく牛全旦角全切り. 人くふ馬至且耳至切りて. その標とす。 (「徒然草」一八三段) (7)大王. 弓箭ヲ拗テ宜旨ヲ下シテ云ク. 「今ヨリ宮ノ内及ピ國(ノ)内ノ人民. 佛法ヲ 可信シ。 若シ此ヲ背カム

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ノ身ユ可殺シ」卜。 (「今昔物語集」巻三・ニ五) (6X7)のような文型は、 先行研究において, 二重ヲ格と区別されていなかったり. 二虚ヲ格の 単なる変形として扱われており, 詳細な糊査はなされていない。佐伯暁子 (2009) でも, (6) (7)のような文型は考察の対象外とした。 しかし, 二重ヲ格は平安時代から江戸時代において 一定の使用が見られるが, 時代が下ると許容されなくなるといった. 変化が認められる構文 ) 佐伯呪子(2009)の表1のうちffl例が確認できなかったft料は除いた。関査沢科については論文末を参照の こと。 (7) 61

(3)

-である。 こうした歴史的変化を遂げた二砥ヲ格の全体像を捉えるとき.(6X7)のような文裂を どう位包づけるか考えてみる必要があると思う。本稿では,(6X7)のような文型を「~ヲバ~ ヲ」文と呼ぴ2. 使用状況を示すとともに. どのような文型なのか二砥ヲ格と比較しながら 分析を行う%

2. 先行研究

「~ヲバ~ヲ」文の存在について指摘した先行研究はわずかである。松尾拾 (1958,1969) では. 古代語における二瓜ヲ格について言及され. その例として「御迎へに来む人をば. 長 き爪して眼をつかみつぶさん」(「竹取物語」)が挙げられている。 山田忠雄ほか (1980: 日 本古典文学大系「今昔物語集二J p435)では.「但シ其レヲパ罪ヲ母二負セムト思力」(「今 昔物語集J巻九・ニ八)という例が挙げられ.「ヲ・・・ヲの変形と目される」と指摘されている。 このように先行研究では. 挙げられた例がヲパを含むにも関わらずその点に目が向けられ ていなかったり. 二菰ヲ格の変形とされているだけである。

3.「

ヲパ

ヲ」文の使用状況

二重ヲ格と比較をするために. 佐伯暁子(2009)で行った二煎ヲ格の岡査と同様. ヲパの ヲともう一方のヲが表す意味の組み合わせにより「ヲバ~ヲ」文を分類すると. 次の(8)~ ⑯に示す7つのタイプがあることに気づく4 0 〈a対象一対象〉 (8) うちとけぬ御有様なれば. 「是うち向きて見給へ」 と申させ給へば. 女御殿.「笛主旦 墜玄こそ朋け,見るやうやは有」とて, (「榮花物語」巻六•かゞやく藤壺) 2 佐伯呪子(2009)に従い.「(省略)やlとてはこなた上旦瓜宝主なさるヽぞ(『狂言記Jを四・ニ)」のように 一つの勁馴がヲバのツともう一つのヲをfll1時にとらない例.「(行略)貨子土旦これ主愛し. 櫂子土ば是立う とんず。(『OO字本9憎保物聞J上•四)」のようにヲパを伴う名罰句をヲ格名阿句で甘い換えている例は考 烈対象外とした. 3 箪者は. 中村(佐伯)呪子(2001)において「~ヲパ~ヲ」文の存在を指惰した上で. Ill法について検討し. 構文として認められることを示した。その時点では二瓜ヲ格との関係は視野に入っていなかったが.「~ヲ パ~ヲ」文を倒別の構文としてだけでなく. 二瓜ヲ格との関係という祝点から眺めてみることも必要だろう と思う。本栢では閃査対象を大幅に広げて二韮ヲ格との対照を試みることで.「~ヲバ~ヲ」文の位四づけ について検討する。 4 中村(佐伯)琥子(2001)ではa.d,eのみを扱い.aを「全体ー邸分」関係 d.eを「人_場所」関係としていた。 - 60 - (8)

(4)

〈b相手一内容など〉 5 (9) (省略)適二出入スル人ユ△姓名ユ問ヒ, 行キ所ヲ辱ヌレパ. 更二術元シ。 (「今昔物語集」巻四・一七) 〈C経由点ー経由点〉 (10) 瀬田全且稲毛の三郎煎成がはかりごとにて. 田上の供御の瀬全こそ渡しけれ。 (「平家物語」百二十句本. 巻九・宇治川) 〈d対象一起点〉 (11) この人全且家•町・国・知行・所主払うた。 〈e対象ー経由点〉 (12)頼朝おとなしやかに仰せらるるやうは. 定めて首玄旦小路全渡されうず。 (ロドリゲス「日本大文典」 97 ウ) (ロドリゲス「日本大文典」 97ウ) 〈f被使役主一対象〉 (13) 又は皿(ね)て悟と入とを繹(し)て云(は)ク, 悟(と)いふは外道の衆生全世党 悟至生(ぜ)令(めむ)との故(に)なり。 (石山寺本「妙法蓮華経玄焚J平安中期点,巻;::) 〈g被使役主一起点〉 {わ9 (14) 郎(ち)是は為に開くに堪(へ)不者玄旦席全退(か)シムルなり。 (石山寺本「妙法蓮華経玄賛」平安中期点・巻三) a. b, c. dはそれぞれ佐伯暁子 (2009) の①-l 「対格一対格(同じ意味役割)」, ①-2 「対 格ー対格(異なる意味役割)」, ②「移動格ー移動格」, ③「対格ー移動格」にあたるが,「~ ヲバ~ヲ」文は二つのヲの関係が二直ヲ格よりも多様であるため, 上記のa~gの用語を用 いることにする。 a~gの用例を平安時代から江戸時代における演科から抽出したところ, 表2のような結呆 が得られた%表2から次の点が読みとれる。 5 二つのヲの意味役割が異なるもので. この他〈方向一対象〉〈対象ー資格〉などがある。〈方向ー対象〉〈対 象一沢格〉の例を1例ずつ挙げておく。「右と後と全旦林土あて.左と前と立旦野や澤主あてヽ,帥を取ぞ。(「毛 詩抄」巷ニ・撃鼓)」「又惣テ師範ユ竺.能々先徳ユキラヒテ、9ず クワウリヤウニ左右ナク依府スペカラズ。(「却 廃忘記J J:)」なお. 後者の例の「先徳」は.「先. 徳」ではなく.「すぐれた先輩たち」(麻橋秀栄択 pl92)と解釈される。「師範」として「先徳」を「キラフ(ヨ選ぶ)」べきであると解釈でき.「先徳」は「師 範」の炭格を表していると考えられる。 6 資料は佐伯暁子 (2009)の二煎ヲ格の調査を受け. 和文系資料. 説話. 抄物. キリシタン資料. 御伽ヰ子. 仮名荘子. 浮世],t子. 浄瑠璃を中心に取り上げたが. 中古の和文にはヲパがあまり蜆れないことを考えあわ せて(伯太知子1979参照). 渫文聞読文献も加えた。

(9)

59

(5)

-表2 平安時代から江戸時代における「~ヲバ~ヲ」文の使用状況 b c d 9, 9 99

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(10)

(6)

-1 ・用例が見られない資料も多く用例が見られる資料でも用例数は少ない。しかし. 平安時 代から江戸時代を通して26作品で全68例確認できる。 · 26作品のうち「今昔物語集」が10例と最も多く用いられている。 .ヲバは江戸時代以降衰退していくため(信太知子1979.1980に詳しい).「浮世物語」が 用例を確認できる最後の資科である。 ・漢文訓説文献の用例が全68例中20例と約3割 (29.4%)を占める。 . aが38例 (55.9%) と最も多く. 全体の過半数を占める。 . b6例 (8.8%), Cは4例 (5.9%), d4例 (5.9%). eは3例 (4.4%), fは 10例 (14.7%), g3例 (4.4%)でいずれも用例数が少ない。 ・ニ煎ヲ格には現れないタイプであるe. f. gでも用例が確認された。 ・使役文で用いられるf、 Eの用例全13例中10例が洪文訓読文献に現れた例である。 二諏ヲ格の調査結果と比べると. 次の点が見てとれる。 ・共通の調査費科における「~ヲバ~ヲ」文と二煎ヲ格の用例数を比較するため.「~ヲ バ~ヲ」文の全用例68例から漢文固II読文献16作品の20例とその他11作品76例を除く42例と.「~ヲバ~ヲ」文の方が用例数が少ない。この事実は. 漢文訓読文献以外の 資料において. 二重ヲ格よりも「~ヲバ~ヲ」文の方が用いられにくかったことを表し ているわけではないだろう。ヲバの衰退に伴い.「浮世物語」以降「~ヲパ~ヲ」文が 現れないことが影孵を与えていると考えられる。二皿ヲ格の全用例57例から「浮世物 語」以降の夜科に現れる11例を除くと46例となり.「~ヲバ~ヲ」文とほとんど差が見 られないことからも衷付けられる。

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平家物語」

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徒然草」「天草版乎家物語」では「~ヲバ~ヲ」文の用例のみが現れる。 一方.「土左日記」「枕草子」「源氏物語J「紫式部日記」「夜の疲覺』「更級日記」では二 重ヲ格の用例のみが現れ「~ヲパ~ヲ」文の用例は現れない。 これは. 信太知子 (1979.1980) で. ヲバが中古の和文系液料であまり用いられず. 室町期の切支丹文献 で多用されるという指摘とおおよそ一致する。 このように.「~ヲパ~ヮ」文に見られる分布の特徴は. ヲバの分布の特徴をある程度反映 していることがわかる。 先にも述ぺたように.「~ヲバ~ヲ」文も二砥ヲ格と同様. 広範な資料にあってもわずか に用例が見いだせる程度であるといえる。しかし. 平安時代から江戸時代において. 現代語 で非文法的とされる二諏ヲ格や「~ヲパ~ヲ」文がわずかながらも常に存在したことは事実 7 詳しくは論文末を参照のこと。 (11) 57

(7)

-であり/二重ヲ格に加え「~ヲバ~ヲ」文の実態を解明することは意味があるように思われ る。

4. 「~ヲバ~ヲ」文の用法

本節では.「~ヲバ~ヲ」文の実際の用例を見ていくことにする。 aの「~ヲバ~ヲ」文は. 68例中38例で全体の55.9%を占める。 9..,9マ (15) 適見ユル者Zム9其ノ頚ユ皆切リ捨ツ。〈a対象ー対象〉(「今昔物甜集」巻五・一七〉 (16) 部公申サル、コトハ.「(省略)然f!IJ. ff昔侯王ユ△知行ユ‘ノロリソロリト削テ天子ノ方 へ取リテ. 天子ヲ強クシテ諸侯ヲ弱メント思フ也。(以下省略)」8 〈a対象一対象〉 (r中華若木詩抄J二七「詠史」) (17) 又朝敵ナドユ △. ミヤコニ. トガ人ュ. 入テヲク. 楼アリ。〈a対象ー対象〉 (「玉底抄」巻ー・12オ) (18) あるは倶合経の御瞑経とて. 浜言の心ばへありと朋しめす圭旦. 世に出でたる至立. 山に稲り寺に籠り居たる至立召し出づれば. 〈a対象一対象〉 (「榮花物諾j巻ーうたがひ) 上記の例は全て. ヲパのヲともう一方のヲがいずれも対象を表している。 ヲバを伴う名詞句 で示された内容に対し(15)は身体的な一部分・(l6)は所有物. 17)は性質がヲ格名飼句で示され ている。 ここで諏要なのは・(l5)-(!7)はヲ格名詞句で示される内容に関わらず. まずヲバを伴 う名詞句で示したい対象について簡略に述べ. 次にヲ格名詞句でその対象の細邪について詳 しく述ぺるということである。 ここでは. ヲパを伴う名詞句で示される内容を[略述]. ヲ 格名岡句で示される内容を[詳述]と呼ぶ%また(l8)は.「渓言の心ばへありと聞しめす」 人の状態として「世に出でたる」と「山に籠り寺に煎り居たる」の二つが挙げられている。 この例は. ヲにモが付加されヲモとなることで「~ヲパ~ヲ」文の後者のヲが二つ現れる特 殊な例であるが. ヲパを伴う名詞句で略述され. ヲ格名詞句で詳述される点で(15)-(17)と同じ 8 「'h侯王ヲパ」は「間る」の項と片釈しにくい意味関保にあるように患われるが. 「tt侯王ヲバ」のヲをとる 述9[動開という観点から見るならば.「削る」以外に館認でさないということになる。(”)も同様である。 なお(6)(15) (26)の「切る」は.「人/動物」をD]で傷つける」と解釈できるので. ヲバを伴う名因句 は「切る」の対象と認められる。 9 中村(佐伯)暁子 (2001) では「全体」「部分」としていたが.佐伯院子 (2009) では例えば「(省略)紐ノ 汲裟ユ新ク清巣ナルユ沼給ヘリ。(r今昔物匝集j牲六·一三)」における「紐ノ穀裟」と「新ク清氣ナル」 を「全体」と「部分」として説明するのは難しいため、 [略述] [詳述]の用栢を用いた。本梢でも佐伯暁子 (2009)の用猜を用いる。 - 56 - (12)

(8)

関係にある。 ヲバを伴う名詞句とヲ格名詞句の間に[略述]と[詳述]の関係が成立してい るのは. 二重ヲ格と同じである。 次に. 上述のa以外のタイプの用例をそれぞれ挙げておく。 (19) (省略)適二出入スル人Zム孜t名ユ問ヒ. 行キ所ヲ尋ヌレパ. 更二術元シ。〈b相手一 内容など〉 ((9)の再掲) 因 瀬田至旦稲毛の三郎が謀で供御の瀬至渡いて. 〈c経由点ー経由点〉 (「天草版平家物語」巻四・ニ) (2l) 「按察大納言資賢卿子息右近衛少将.雅賢是三人主旦やがて都の内全追出さるべし」 〈d対象一起点〉 (r乎家物語」覚一本. 巻三大臣流罪) 四 頼朝おとなしやかに仰せらるるやうは. 定めて首主ば小路立渡されうず。〈e対象一 経由点〉 (02)の再掲) 9 9ヽ9 9 四 「是ハ願糊ノ城也。不知シテ此二来ヌル人ユム!, 先ヅ物ヲ不云ヌ栗ユ令食テ. 次二肥 ュル栗竺令食ム。(以下省略)」〈f被使役主一対象〉 (「今昔物語集」巻ーー·--) 9い) ⑳ 論に三止を秤(し)て云(は)ク, 初の止をば相と為(ふ)。(省略)後の止は悪人土 旦席主退(か)令(めむ)と欲(ひて)なり(と)いへり。〈g被使役主ー起点〉 (石山寺本f妙法巡華経玄賛J平安中期点・巻三) (19)は.「問ふ」の相手である「出入スル人」と10・「問われる」内容である「姓名」 がヲパと ヲで示されている。因は. ヲバとヲが経由点を表している。 ヲバを伴う名詞句で「瀬田」と 略述し. ヲ格名詞句「供御の瀬」でより詳細な場所を挙げている。(2»は移動する対象の人と 起点. 四は移動する対象と経由点がヲバとヲで示される例である。四は. 動詞「食ふ」に対 して「物ヲ不云ヌ薬」「肥ユル業」が対象を表し、 使役の助動詞「令む」に対してヲバで示 された「不知シテ此二来ヌル人」は被使役主を表している。⑳は. 移動を表す動詞「退く」 に対しヲが起点を表し. 使役の助動詞「令む」に対しヲパの構成要素のヲが被使役主を表し ている。 ここで.「~ヲバ~ヲ」文の二つの名詞句の関係をまとめ. 二菰ヲ格と比較すると. 表3の ょうになる。 10 「問ふ」がヲをとることは. 山田巌(1958)で指摘されている。(「家主女子ユ「何ノ故二泣」I- I!りヘバ(「今 昔物語集」牲二六•一:山田毅1958)」) (13) 55

(9)

-表3 「~ヲバ~ヲ」文と二重ヲ格に見られる二つの名詞句の関係 二つの名詞句の関係 「~ヲパ~ヮJ文 二重ヲ格 a (対象一対象〉い(!)-I) [略述]と[19述] [硲述]と[I料述) b (相手ー内吝)など(-①-2) (1111きかけを受ける相手]と(内容]など [変化する対象)と[結果としての対象)など c〈経由点ー経由点) (ヨ②) [略述]と[詐述] [略述)と[詳述] d〈対象一起点〉(-③) (人]と(起点) [人)と(起点J c〈対象ー経由点) (対象)と(経由点] f (彼使役主 対象〉 [被使役主]と[対象) g〈彼使役主一起点〉 [彼使役主)と[起点] 二重ヲ格との比較という点から見ると.a, b、 c. dの四タイプについては二菰ヲ格と同じ 用法で.二つの名詞句の間にも同じ関係が見られた。 方「~ヲパ~ヲ」文にはeの[対象] と[経由点]の関係も見られた。 またf. gの使役表現も「~ヲパ~ヲ」文にのみ見られる用 法である11。 このように見てくると.「~ヲバ~ヲ」文では二皿ヲ格よりも多くのタイプを 認めることができ. 典味深い用例が確認されたと言える。 しかしながら.cは4例のうち3例 が「平家物語」(党一本).「平家物語」(百二十句本).「天草版平家物語」の同じ例((l0広W) 例)であり. 生産的な用法であったとは言えない。 また .b. d, e, gも用例数が箸しく少 なく. 周辺的な用法と捉えざるをえない。fは全体の約15%程度を占めるものの, 頻繁に用 いられた用法ではないと考えられる。 以上のことと. 二重ヲ格が①-l (=a)の用法を持つ 構文として存在したことをあわせて考えると.aの「~ヲパ~ヲ」文が中心的な用法として 存在したと考えたほうが妥当である。 つまり, 二孤ヲ格も「~ヲパ~ヲ」文も二つのヲが対 象を表し. 二つの名詞句が[略述]と[詳述]の関係を表す文として存在したものと考えら れる丸 11 f. gの使役表現の例が「~ヲパ~ヲ」文にのみ見られる理由については. (. gの例が現れやすい漢文隕笠文 猷で「~ヲ~令む」よりも「~ヲパ~令む」の方が用いられやすいのかといった点も視野に入れて検討して みる必要がある。eの例が「~ヲパ~ヲ」文1このみ見られる理由とあわせて. 今後の課題としたい。 12 a以外の用法が生産的でなく机繁に用いられなかった理由として"々 .d.gについては.0ドリゲス

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日本大文典J に. 「落つる」「逃ぐる」「去る」「迅く」「退く」「立つ」「出づる」「出る」の動問は「助辞Yori(より). Cara(から)を1l1ゐるよりも. 対格を111ゐた方が上品である」(109オ)という記述があることから. 文体 が影嗜しているのではないかと思う。bについては. 汀.味役割の異なる対象をとる動詞が少ないことによる のではないかと推測される。これらの検証も含め.a以外のIll例数が少ない点については今後の課題としたい。 なお. 全1l1例が68例と少ないのは. 二つの補語を同時にヲで表せなければならず. かつ一番目の補栢が主llll または対比を表さなければならないという制約が彰響している可能性があるように思う。そうした制約にも 関わらず. aについては二瓜ヲ格と並行して存在したものと考えられる。 - 54 - (14)

(10)

5. 対比を表す「~ヲバ~ヲ」文

以上のように,「~ヲパ~ヲ」文と二重ヲ格は用法上類似した文裂と捉えられるが, 全く 同じ文型かというとそうではない。 当然, ヲパとヲの違いが両文型の違いにも反映している。 山田昌裕•井野菜子(2005)によると,「源氏物語Jのヲパには「対比となるか」「対比とな らないか」の二稲があり,「二者の存在が明示されている楊合」に対比となるという。 99 ( 四 見る人, 後れたる方主且言ひ隠し, さてありぬべき方主且つくろひてまねぴ出だすに, (「帯木」①五七:山田昌裕•井野菓子2005) 「~ヲバ~ヲ」文のヲパが対比として機能していると考えられる例には, 例えば先の(6) の他,姻四が挙げられる。 閲 (省略)携.悦主旦水に入れ. 土に埋み, 太A.し児全旦首生切る。 (r天草版平家物栢J巻四 ・ニ六) 切 心, 敵<!1.!..点文を._屯.う煮各.盛のよ.手立且身近う寄せ, .し.吝?ぷ圭A.咬.こ点.全盤み脈空. る者をぱ所知,財賓をもはぎ取れ。--- (「天草版金句集JFの部) aの「~ヲバ~ヲ」文のヲバが対比を表す例は38例中8例である。 これに対し, 当然, 二1li:ヲ 格が対比を表す例は1例も見られない13。 つまり ヲパとヲの機能の途いが両文型の違いに も反映していると言える。 もちろん. このような迩いは. ヲパとヲの述いから必然的に帯びるものであり. 自明とも 言えよう。 そうした点から考えれば. これまで二重ヲ格と「~ヲパ~ヲ」文が区別されずに 扱われてきたのも了解される。 しかし, 先行研究で「~ヲパ~ヲ」文を二瓜ヲ格の変型とす る根拠が示されていないのに対し. 本稲では「~ヲパ~ヲ」文の使用状況や用法を詳細に調 査分析することにより「~ヲバ~ヲ」文を含めた二重ヲ格の全体像を明らかにしたことに なる。

6. まとめ

本稿では. 従来ほとんど論じられることのなかった「~ヲパ~ヲ」文の使用状況と用法に ついて検肘を行った。使用状況の開査により. 二狐ヲ格と並行して「~ヲパ~ヲ」文が存在 したこと. 両文型の分布が異なることを示した。 また, 用法の観点から二皿ヲ格と比較する 13 次のような場合には二煎ヲ格が用いられる。「(省略)太復は. 琵琶i..伽かたちはきよらに. いとけだかく て,おほのかなるものの音k.ゆる、かにおもしろくかさならし.免の凩は.(中略)箪の琴をひき給ふ。(「夜 の辰覺』を一)」 (15) 53

(11)

-ことで.両文型には用法上の共通点が見られることをあらたに示した。一方で.「~ヲパ~ヲ」 文はヲパの対比を表すという機能もあわせ持った文型として位骰づけられるという点で述い が見られることも確認した。 「~ヲパ~ヲ」文と「~ハ~ヲ」の関係などさらなる検証が必要ではあるが".「~ヲパ~ヲ」 文の存在を認めることは, 日本語史上のある期間に一定の使用が認められる二砥ヲ格が非文 法的な構文となっていった背娯を解明する足がかりとなる可能性がある。 本稿は.「~ヲパ ~ヲ」文を手がかりとして二重ヲ格の全体像を解明しようとする試みの一つである。 調査資料 [二重ヲ格と「~ヲパ~ヲ」文

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「竹取物語伊勢物話大和物栢」「宇津保物語」「裕窪物語堤中納言物梢」「源氏物語」「枕ヰ子紫式 部日記」「土左日記かげろふ日記和泉式部日記更級日記J

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今昔物甜集」

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宇治拾逍物語」「徒然草j 「平家物栢」「御堡草子」「且糾集J

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松浄瑠璃集」 「挽瑠璃集」「榮花物語」「平中物語渋松中納百 物話」「夜の辰覚」「狭衣物語J

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正法服蔵随聞記」「古今若聞集』「沙石集」「堡名巫子集」「江戸笙話集」 以上岩波日本古典文学大系(下級は表1.表2で用いた名称),「更紐日記J岩波新日本古典文学大系,「更 級日記」小学館日本古典文学全集,「中世日記紀行集j『十訓抄J以上小学館新編日本古典文学全集.「平 家物語」新潮日本古典集成. 「枕草子全注釈」角JII杏店.「源氏物語大成J中央公論社, 「玉腿抄J勉 馘社, 「天1/i版平家物甜対照本文及ぴ総索引J明治由院. 「文禄二年耶邪會板伊留保物語」京都大卑國 文學會. ロドリゲス

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日本大文典」三省堂 [「~ヲパ~ヲ」文】 大坪併治 (1958)「小川本頷経四分律古貼」「訓点栢と訓点資料」別刊1/鈴木一 (1979)「聖語蔵顧 経四分律怨四十六破伯繭捻度古点」「初期点本論孜」桜楓社/稲垣瑞穂 (1954)「東大寺図世館蔵本成 貨論天長黙」「柑II点語と訓点安料」2.3/鈴木一 (1956)「聖栢蔵御本成実論巻十天長五年点訳文稿J

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世陵部紀要」6, (1954)「聖栢蔵御本成実論巻十三天長五年点訳文桜」「奈良学芸大学紀要J 4-1. (1956) 「壁語蔵御本成実論巻十六天長五年点」「奈良学芸大学紀要」5-3, (1955)「型甜蔵御本成実詮巻十八 天長五年点について」「奈良学芸大学紀要」5-1. (1957) 「成英論巻二十二天長五年点(二)」「書陵部 紀要」8/春日政治(1985)春日政治著作集別巻「西大寺本金光明最勝王経古貼の國語學的研究」勉誡 社/中田祝夫 (1969)「東大寺訊誦文稿の国賄学的研究」風問柑房/遠藤嘉基 (1955) 「知恩院蔽大庖三 蔵玄契法師表啓古姑について」

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因語因文」 24-11/吉沢義則 (1930)「井々竹添先生遺愛唐紗淡柑揚雄 伝訓点」「内藤博士頌呑記念史學論彼」弘文堂/藤枝徳三 (1936)「薔紗本史記孝餓本紀第十ーに用ひ られたる訓関に就いて」「國語・函文」6-4/英島裕 (1965)「輿福寺本大慈恩寺三蔵法師僻古黙の甑栢 學的研究 鐸文篇」東京大半出版會/中田祝夫(1%8)「地蔵十輪経元底七年訓貼J「法部経玄賛淳祐 古黙」「法邪経義疏長保四年黙」「大唐西城記長寛元年貼」「古黙本の因栢半的研究 繹文箭J講談社 14 近藤泰弘 (1998) に, ヲパを分析する際にはハの恨能が瓜要であることが示唆されている。ハの機能を視野 に入れて検討する必要があるが, この点については今後の謀1'J1としたい。 - 52 - (16)

(12)

「中華若木詩抄渇山聯句抄J「狂旨記」岩波新日本古典文学大系,

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却廃忘記J岩波日本思想大系, 高橋秀栄訳「大釆仏典〈中国・日本篇〉」中央公論社. 「法奉百座聞書抄穂索引J武蔵野柑院. 「打聞 集の研究と総索引J消文堂.

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訓抄本文と索引J笠間柑院, 「十六夜日記校本及ぴ総索引J笠間密院. 「毛詩抄」岩波世店, 「天草板金句集の研究J束洋文庫, 「大蔵虎明本狂首集の研究J表現社 参考文献 近藤寮弘(1998)「平安時代の「をば」の構文的特徴について一「源氏物栢Jの用例を中心に」国 語研究論集糧集委員会(糧)「東京大学国栢研究室創設百周年記念国栢研究論集」pp.1282-1294. 汲古行院. 佐伯暁子(2009)「平安時代から江戸時代における二重ヲ格について」「国栢と国文学J 864, pp.5牛 69. 束京大学国語国文学会 信太知子(1979)「「をば」小考一消滅過程の検討ー」中田祝夫博士功績記念国語学論集刊行会(椙) 「中田祝夫博士功績記念国匝学論集」pp.439459, 勉誠社. 信太知子(1980)「近世の「をば」について一武士ことばと文語との関連」近代胚学会(椙)「近世 語研究 第6集J pp.183-198, 武蔵野杏院. 中村(佐伯)暁子(2001)「「~ヲパ~ヲ」構文の構造と意味横能」「岡大国文論稿J 29, pp.11-21. 岡 山大学言語国栢国文学会. 松尾拾(1958)「源氏物語の文法」「8本文法講座4 解釈文法」pp.82-104. 明治笹院. 松尾拾(1969)「を一格助詞〈古典餅・現代語〉」松村明(糧)「助詞助動詞詳説」pp.335•340, *燒社. 森田武(1965)日本古典文学大系「伊曽保物語」「仮名草子梨J岩波魯店. 山田殺(1958)「今昔物語の文法」「日本文法講座4 解釈文法」pp.149-185、 明治困院 山田忠雄ほか(1961.1980)日本古典文学大系「今昔物語集ニ・三」岩波書店 山田昌裕•井野菜子(2005)「「源氏物話」の文法講座 をば」上原作和(耀)「人物で読む「源氏物語J 第八巻ータ顔」pp.295-297. 勉誡出版 (さいき きょうこ 大阪成埃短期大学グローパルコミュニケーション学科専任講師) (17) 51

参照

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