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交流電力標準の再構築に関する研究

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交流電力標準の再構築に関する研究

交流電力標準の再構築に関する研究

交流電力標準の再構築に関する研究

交流電力標準の再構築に関する研究

2001 年

年 3 月

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1-2 交流電力標準の確立に関する従来の研究 3 1-3 交流電力標準のための交流電圧・電流標準の確立,虚負荷試験電源の 開発に向けた従来の研究 5 1-4 本研究の目的と概要 8 第2章 交流電圧標準の再構築 §2 1 2-1 緒言 1 2-2 交流電圧,電流の実効値と交直変換器の交直差 3 2-2-1 交流電圧,電流の実効値 3 2-2-2 実効値計測に利用される熱電変換素子 4 2-3 交直変換器(真空熱電対)における交直差の発生メカニズム 7 2-3-1 低周波交流電流における交直差発生のメカニズム 7 2-3-2 交直変換器の高周波交流電流における交直差 9 2-3-3 高周波標準器の分布定数回路としての周波数依存性と交直差 11 2-3-4 表皮効果に起因した交直差の発生 15 2-3-5 高周波標準器を構成する各要素の表皮効果の定量的な見積り 17 2-4 熱電効果に起因した交直差発生のメカニズムと FRDC Source 21 2-4-1 ヒータにおける二次のトムソン効果がもたらす交直差 22 2-4-2 ヒータ・ヒータ支持部におけるペルティエヒーティングが もたらす交直差 25 2-4-3 ヒータ・ヒータ支持部におけるゼ− ベック効果による交直差 28 2-4-4 FRDC Source の概要 30 2-4-5 交直変換器の FRDC-DC 差の測定例 39 2-4-6 真空熱電対における交直差の信号源インピーダンス依存性 41 2-5 交直差の比較,測定アルゴリズム 43

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2-5-3 Dual Channel 法による交直差の比較試験のアルゴリズム 47 2-5-4 Differential 法による交直差の比較試験のアルゴリズム 49 2-5-5 正規化した指数による表現 51 2-6 結言 54 第3章 交流電流比標準の再構築に関する研究 §3 1 3-1 緒言 1 3-2 自己校正形電流比較器の概要 3 3-2-1 巻線構成と電流比 3 3-2-2 鉄芯と巻装 5 3-3 電流比較器を用いた変流器の試験 7 3-3-1 試験回路 7 3-3-2 誤差補正電流発生器 10 3-4 電流比較器の自己校正アルゴリズム 12 3-4-1 電流比較器の誤差 12 3-4-2 電流比較器の同相誤差と直角相誤差 14 3-4-3 自己校正のアルゴリズムと補正式の導出 15 3-4-4 電流比較器各巻線の誤差を決定するための自己校正アルゴリズム 18 3-5 自己校正形電流比較器#8506 の評価試験結果 23 3-6 誤差補償変流器を使用した自己校正形電流比較器#8506 の評価 31 3-7 結言 33 第4章 精密変流器及び変圧器の開発に関する研究 §4 1 4-1 緒言 1 4-2 これまでの誤差補償変流器 4 4-2-1 変流器の等価回路と誤差 4

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4-2-4 電流比較器を利用した誤差補償変流器 9 4-3 新しい誤差補償変流器 11 4-4 新しい誤差保証変流器の安定性の評価 16 4-5 新しい誤差補償変流器に対する性能の実験的検証 18 4-6 これまでの精密交流計測用分圧器 22 4-6-1 誘導分圧器 22 4-6-2 二段変圧器 25 4-7 複巻誘導分圧器 30 4-8 試作した比が 0.1 の複巻誘導分圧器の周波数特性 33 4-9 結言 41 第5章 虚負荷試験電源の開発に関する研究 §5 1 5-1 緒言 1 5-2 虚負荷試験電源 3 5-3 精密虚負荷試験電源のためのフィードフォワード形増幅器概説 7 5-4 虚負荷試験電源のための精密フィードフォワーッド形増幅器 12 5-4-1 虚負荷試験電源用精密電圧増幅器 12 5-4-2 虚負荷試験電源用精密フィードフォワーッド形トランス コンダクタンス増幅器 16 5-4-3 設定電力の安定性試験結果 19 5-5 トランスコンダクタンス増幅器のための変形二段変流器 21 5-5-1 フィードフォワードトランスコンダクタンス増幅器用変形 二段変流器の構造 22 5-5-2 試作した変形二段変流器の仕様並びに得られた電流特性,周波数特性 27 5-6 アナログフィードバック回路にサンプリング制御を併用した精密トランス コンダクタンス増幅器 29

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5-6-3 増幅器の安定性 34 5-6-4 試作した増幅器の詳細な回路 35 5-6-5 試作した増幅器について得られた諸特性 38 5-7 結言 43 第6章 真空熱電対を利用した交直電力比較に関する研究 §6 1 6-1 緒言 1 6-2 交流電力と直流電力の比較アルゴリズム 2 6-2-1 真空熱電対を利用したこれまでの交流電力計 2 6-2-2 本研究で提案する乗算アルゴリズム 4 6-2-3 信号処理部におけるオフセット電圧の除去 7 6-2-4 2 個の真空熱電対の特性の違いを軽減するアルゴリズム 8 6-3 正帰還形サンプリング系を負帰還制御系に組み込むことによる制御精度の 改善に関する研究 10 6-4 試作した熱電形電力計における実験的検証 13 6-5 緒言 16 第7章 結論 §7 1 謝辞 参考文献 研究発表 査読付論文 国際会議

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第 1 章

序論

序論

序論

序論

1-1 研究の背景研究の背景研究の背景研究の背景 商用周波数帯域における交流電力標準は,電力の供給とその消費を相応の精度で評価する場合, あるいはまた機器の開発,設計に際しそこで消費される電力を見積もる場合に改めてその必要性 が認識されることが多い。 このことは,近年の直流電圧,抵抗,あるいは電流等の標準の確立が,物理定数の決定,さら には物理法則の研究に直接的に関わっていることに比し,電力標準の確立がその時々の工学,産 業の方向に深く関わっている工業用標準の性質を強く示す面が特徴的であるといえる。近年は, 環境保全,資源のより効率的な利用についての関心が高まり,電力測定に対する高精度化,広帯 域化の要望が高まってきている。 一方,交流電力標準は電圧,電流,力率から誘導される測定量であることから,交流電圧・電 流標準,範囲の拡張のための交流電圧比標準,交流電流比標準,並びにそれらを具現する装置の 開発を背景に持つ交流の総合的な標準としての側面を持っており,それら交流標準の全体に調和 がとれていることが重要である。 更に,精密な電力標準のシステムでは,試験電力の発生にも相応の技術が必要とされる。通常, 電力標準の確立に際しては,試験電力の安定化を第一義に虚負荷試験法が採用され,虚負荷試験 電源が利用される。ただし,国家標準としての電力標準の性能に見合う虚負荷試験電源は市販さ れていないため,電力標準の確立では虚負荷試験電源についても研究が必要不可欠である。 さて,商用周波数帯域における交流電力標準についての研究の歴史を俯瞰すると,概ね三段階 に分けることが可能であろう。 第一期は,誘導形電力量計,電流力計形電力計に象徴される電磁誘導に基づく計測器の時代で ある。ちなみに,誘導形電力量計は家庭用から比較的大きな電力の需要家まで今日でも広く利用 されているが,それらの試験のための標準器として,より注意深く設計,製作された同型のもの

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が基準器として使用されていたのがこの段階である。 第二期は,半導体技術の導入による電子式電力,電力量計の時代である。時分割乗算方式や A/D 及び D/A 変換素子を使用したディジタル乗算方式などが産業用計測の目的に開発された。 これらの計測器は測定の性能だけでなく多様な機能を有していることも特徴でる。そしてこの多 様なお機能は,産業用のみならず家庭用にも普及しつつある様々ななメニューの電力の供給に対 応する電子式電力量計にも組み込まれ,多くの型式の計器が開発され今日に至っている。 交流電力標準の確立を目的として,多対熱電対を用いた熱電形交流電力標準システム,交直電 圧変換器による交流電圧の計測と電流比較器の原理を基にしたパワーコンパレータ等が開発さ れている。 パーソナルコンピュータの普及により交流電力標準を具現する装置が,規格化されたコンピュ ータのインターフェイス・バスを介してユニット化された装置を組み合わせて構成され,より精 密な計測を可能にしたのも大きな特徴である。 我が国では精密なパルス出力形電子式電力計とそれを試験する電流力計形の原理を応用した トルクバランス形交直電力比較器が開発され,国家標準として指定,登録されている。 現在は第三期に入っている。試験,検査において使用される標準器,基準器は国家標準あるい は SI 単位にトレーサブルであることが求められている。この場合のトレーサビリティの概念は, 上位標準による試験の連鎖だけでなく,各試験を介し上位標準に連鎖する不確かさの評価の見積 もりも求められている。 試験,検査に使用される標準器に付された校正値とその校正値がもつ不確かさを認識し,その 標準器を使用した測定に伴う新たな不確かさの評価が必要とされ,更にその不確かさの大きさが, 日常の試験・検査行為において維持されていることが求められている。 国内では 1993 年に施行された計量法の改正がその基点である。計量標準のグローバル化はよ り円滑な貿易の促進を目指したものである。審査機関により品質及び能力が認められた試験室が 発行する試験結果を,国際的に相互に受け入れることがその目的である。 このような背景があり,既存の制度,システムの多くが再構築を迫られており,交流電力標準 についてもその対応が急がれている。

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1-2 交流電力標準の確立に関する従来の研究交流電力標準の確立に関する従来の研究交流電力標準の確立に関する従来の研究交流電力標準の確立に関する従来の研究 現在,実現されている交流電力標準には,電流力計形計器が交流及び直流計測に利用可能な点 に着目した交直電力比較器,多対熱電対の 2 乗特性を乗算のアルゴリズムに利用した交直電力比 較器,電流比較器を利用して試験回路の電流の大きさと位相角を試験電圧を基準に測定したパワ ーコンパレータ,アナログ・ディジタル変換器を利用したディジタル乗算形精密交流電力計等が ある。年代順に,研究され開発された電力標準の概要を以下に示す。なお,各国の国立研究所名 は以下の 1-1 表に示す略記号で表す。 理工学研究所(独) Physikalish-Technische Bundesanstalt PTB

国立標準研究所(米) National Institute of Standard and Technology NIST 国立標準局(米:NIST の旧称) National Bureau of Standard NBS 国立標準研究所(加) National Research Council of Canada NRC

国立物理研究所(英) National Physical Laboratory NPL

理工学研究所(豪) The Commonwealth Scientific and Industrial Research Organization CSIRO 表 1-1 各国の国立研究所と略記号 試験回路の電圧,電流を電子回路で取り出すと同時に,電流力計形電力計の電圧及び電流コイ ルをその帰還回路に挿入することで,電流力計形電力計の特性を改善した研究が NPL の A. H. Arnold 等により 1956 年に報告されている[1] 。 熱電対の熱起電力がヒータ電流に対しほぼ二乗の特性を示すことから,試験電圧と試験電流の 各信号の和と差を 2 個の熱電対に入力すれば,熱起電力の差は電圧と電流の積の平均値に比例す るので,電力を測定することが可能である。J. J. Hill は熱電対の二乗特性について,熱伝導の解

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析的な面から評価した上で精密熱電形電力計を開発し 1958 年に報告[2]している。 わが国では,電流力計形交直電力比較器が電気試験所の楠井[3]により開発され 1962 年に報告 されている。同一軸上に電流力計形電力計と可動コイル形直流電流計とをアセンブリし,電流力 計形電力計に交互に入力される交直電力に対しトルクが平衡するよう可動コイル形直流電流計 に直流電流を帰還している。技術的には,電磁気的な動作の精密さとトルク平衡系のフィードバ ックシステム設計,そしてシステマティック誤差の評価が研究の重点であった。なお研究の成果 は,今日なお国家標準(特定標準器)として電力量計の検定のみならず,産業界への標準供給に 使用されている。 ドイツでは,PTB の G. Schuster が,電流力計形電力計に交流電力と直流電力を重畳させ両電 力により生ずるトルクを平衡させる方式の交直電力比較器と,和差 2 乗差方式の乗算原理による 交直電力比較器を開発し,その特性を比較検討[4]し 1976 年に報告している。 楠井が交直の電力を時間的に交互に入力し比較したのに比べ,この方式では交流電力に直流電 力を重畳させているのが特徴である。PTB ではその後,多対熱電対を使用し,交流電圧と電流 の和差信号に直流電流を重畳させた交流電力を直流電力に変換するアルゴリズムによる交流電 力標準を組み立て国家標準としている。同システムでは,2 個の多対熱電対の使用を避け,和差 信号を時間的に交互に入力し,時間的に隔たった熱起電力差を平衡させる系としている。 カナダでは,NRC の L. C. Cox 等が同所で開発した差動形多対熱電対を使用した熱電形交直電 力変換器を開発している[5]。同時期,日本大学の高橋も交流電力に直流電力を重畳させた交直電 力比較器について報告している[6]。交直の電力を重畳させた形で交流と直流の電力を比較し平衡 させるためには負帰還制御の技術が必要とされる。その帰還にサンプル値制御を取り込み,実質 的に制御精度の制約をとり除いた研究が高橋により 1991 年に報告されている[7]。 負荷に印加された電圧とそこに流れる電流の瞬時値をサンプリングし,各々16 ビットの A/D 変換器でディジタル化し,ディジタル乗算するディジタル式電力計の研究が米国で開始され,そ の成果が 1974 年に R. S. Turgel により報告されている[8]。研究された当時,A/D 変換器の性能は もとより,ディジタル化されたデータの積と加算のためのメモリ容量も少なかったが演算とデー タ処理の高速化のために既に DMA 技術が採用されていた。

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米国の NIST では,A/D 変換器の直線性の評価等の研究が継続されていたこともあり,1992 年 には G. N. Stenbakken 等により,50Hz-1000Hz の周波数帯域における電力の測定精度が 50ppm を 達成した[9]。1995 年には,J. R. Pickering 等が,試験周波数 30 kHz の帯域のディジタル乗算方式 の電力計の開発をしている[10]。その後,取引証明用の電子式電力量計の乗算方式としてディジ タル乗算方式に着目し開発が進められたこともあり,技術的には概ね成熟した感がある。 ただし,ディジタル乗算方式の課題であるサンプリングのタイミングについては,虚負荷試験 電源の電源電圧に完全に同期したサンプリングが試験室では可能なこともあり,不確かさの改善 の可能性があった。これに着目したのが,G. Ramm 等のグループであり,商用周波数,カバー レンジ・ファクタ“1”において,2.5ppm の不確かさの測定を達成したと報告している[11]。 電流比較器を利用した交流電力標準は,主に米国とカナダで行われ,高い性能が達成されてい る[12],[13] 1-3 交流電力標準のための交流交流電力標準のための交流交流電力標準のための交流交流電力標準のための交流電圧・電流標準の確立,虚負荷試験電源の開発に向けた従来の電圧・電流標準の確立,虚負荷試験電源の開発に向けた従来の電圧・電流標準の確立,虚負荷試験電源の開発に向けた従来の電圧・電流標準の確立,虚負荷試験電源の開発に向けた従来の 研究 研究研究 研究 交流電力標準器の実現のためには電力測定のアルゴリズムに関する研究が必要である。ただし, 電力測定が交流電圧,電流を測定の対象とするため,交流電圧,電流標準,並びに位相角が配慮 された交流電圧比標準,電流比標準等の調和のとれた研究が必要不可欠であり,試験電力を所要 の性能で発生するための虚負荷試験電源についての研究も求められる。 交流電圧の精密計測を目的とした真空熱電対による交直差の比較試験システムと交直差につ いて F. L. Harmack により研究され 1952 年に報告されている[14]。F. C. Widdis は,真空熱電対の 熱電効果に起因する交直差の評価を目的にヒータ線での熱伝導方程式を調べ,そのペルティエ効 果,トムスン効果の大きさを見積もり 1962 年に報告している [15] 。この報告はその後の交直差 の決定の研究に指針を与えている。 真空熱電対の交直差の大きさが,ヒータにおける温度勾配に強く依存することが解明され,よ

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り小さな交直差の熱電対を開発する目的で,F. J. Wilkins 等により多対熱電対が研究され 1965 年 に報告されている[16]。 F. C. Widdis が導いた交直差の定量的な評価に基づき,岩本等は真空熱電対を設計しその交直 差を決定し報告している[17]。 交直差の迅速な比較試験を念頭においた研究が開始され F. L. Hermack により報告されている [18] 。測定器に内蔵された真空熱電対に試験交流電圧を入力し,次に内蔵の直流電圧に切り替え, 熱起電力を平衡させる自動式の交直電圧変換器が,R. Gerr 等により開発された[19]。 欧州各国の交流電圧標準を整備するプロジェクトが計画され,PTB の M. Klonz が担当し, Willkins による多対熱電対の技術が導入された[20]。この多対熱電対は,1982-1983 年に欧州の各 国立研究所に配備され,併せて研究用資料として我が国を始めとする多くの国立研究所に提供さ れ,その後の各国の国家標準の試験精度のみならず産業用計測器の性能を一挙に高めた。 多くの国立研究所が多対熱電対の導入により高い精度の交直差標準を確立する一方,B. D. Inglis は,シングル・ジャンクションの真空熱電対の交直差について極めて精密な研究を行って いた。まずレンジ抵抗と交直変換器のコンビネーションでの交直差のについて 1980 年に報告が あり[21],1982 年には 0.1ppm よりも高い精度で交直差を比較することの可能な試験システムを開 発した報告があった[22]。その後,交直電圧変換器の交直差について研究を進め,ヒータ線での 2 次のトムソン効果,ヒータにトムソンヒートをもたらすヒータ/ヒータサポートリード接続点で のペルティエ効果等を詳細に調べ[23],電流に依存しない交直差の見積もりを行った[24]。 我が国でも,電総研において交流電圧標準の整備が進められ,米崎等は先の岩本等が研究開発 した交直変換器を基に,まず交直差の比較試験システムを設計,製作し[25],交直変換器群に対 しそれまでに見積もられた交直差の値の信頼性を統計的な手法で再検討した[26]。 その後,市販される交直電圧変換器の性能も大幅に改良され,欧米各国の交直差試験システム の試験分解能が向上されてきたこともあり,電総研の佐々木等の研究に高橋も参加し交流電圧標 準の再構築のための研究が開始された。 我が国における交流電圧標準の研究のアプローチとしては,他の国立研究所と同様に,交直差 の比較試験システムの開発から開始した[27],[28]。ここで開発した交直差の比較試験システムと同

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様なシステムが,カナダ[29],フランス[30]等の校正試験,研究機関に影響を与えている。 交直差の絶対値については,PTB の M.Klonz により FRDC 装置(ファスト・リバースド・DC・ 装置)によるシステム[31] が提唱された。FRDC 装置のパルス列のトランジェントの影響のない 波形のアルゴリズムを佐々木が提案し,装置の開発には高橋が参加した[32]。 同装置により,交直変換器の熱電効果がもつ時定数の評価が行われた[33]。その後,交直変換器 の電圧及び電流モードにおける異なる交直差の原因が,真空熱電対のヒータ線でのゼーベック効 果に起因していることが同装置を用いて実験的に検証された[34]。これら一連の研究は,電総研 の研究報告としてまとめられている[35]。 交流電力標準の確立を念頭において交流電流比標準の研究は,主に米国の NIST では O. Petersons により,カナダの NRC では N. L. Kusters のグループにより実施された。 N.L.Kusters 等により,変流器の試験における標準器として電流比較器が 1964 年までに開発さ れ[36],電流比の検証に関わる研究の成果が同年 12 月に N.L.Kusters により報告されている[37]。 電流比較器の巻線間の分布容量,電流が流れることで生じる電位などの影響を詳細に評価し, 電流比較器による比の標準の誤差を評価,決定した結果が,1965 年に NRC の N. L. Kusters と W. J. M. Moore により報告された[38]。 誤差補償変流器の開発に繋がる,二段変流器の特性解析,自動平衡形電流比較器が研究され, NRC から NIST に移る前の O. Petersons により 1966 年に報告されている[39] 。 定格一次電流が 36 kA までの変流器を試験する目的で,可搬形の電流比較器が NRC において 開発された[40]。この電流比較器は二段変流器としても使用することが可能な構造をしており, その後の国際比較の実施を想定して設計された。 変流器の試験では,負担の設定も必要である。通常,負担箱が使用されるが,二端子の抵抗と インダクタンスで実現される負担の値の信頼性はそれほど高くない。そのため疑似負担が NRC の L. L. Kusters 等により開発された[41]。 カナダ(NRC),米国(NBS),独(PTB),英国(NPL),スイス(EAM)の間で,1982 年から 1983 年にかけて,商用周波数の 60 kA,50 kA の電流での国際比較が実施され,電流比の 国家標準が国際的に比較,評価された[42]。

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なお,NRC,NBS(NIST)を中心とする研究の流れとは別個に,豪州の CSIRO の P. J. Bett は, 二段変流器の誤差を等価回路の研究から進めていた[43]。1988 年,1989 年にかけて,磁気シール ド形の電流比較器が日本でも開発され,その自己校正の試験結果が高橋により報告されている [44] 。 電力標準の範囲を拡張するための誤差補償変圧器が O. Petersons 等により研究されている[45] 。 虚負荷試験電源についての研究は,電力標準の研究と併せて実施され,報告されたものが幾つ かあった。特に電流比較器を利用したパワーコンパレタは虚負荷試験電源と一体であるため,そ のほとんどが電力標準の論文 [11], [12], [13]の中で報告されている。 虚負荷試験電源の開発についての報告は,シンセサイザの利用が普及した 1980 年代に幾つか 見られる。日電検の高橋が負帰還増幅器にサンプル値制御の概念を導入したトランスコンダクタ ンス増幅器について 1984 年に報告している[46]。NIST では,虚負荷試験電源だけでなく直角相 ブリッジへの応用などより多目的に利用するためにシンセサイザの研究とその応用としての虚 負荷試験電源の研究[47]が精力的に実施されていた。 1-4 本研究の目的と概要本研究の目的と概要本研究の目的と概要本研究の目的と概要 本研究は,定量的な不確かさの評価を行うことを前提とした交流電力標準の確立を目的として いる。前節では様々な理論に基づく交流電力計あるいは交流電力標準を紹介したが,それらを不 確かさの評価の見地から俯瞰すれば,その根底にある技術は共通している。 その技術とは,1) 交流電圧の精密計測のための交直変換器における交直差の研究,2) 電流比 の精密計測のための交流電流比較器の研究,3) 交流電圧比を実現するための電力測定用の変圧 器の研究,4)交流電流比を実現するための電力測定用の変流器の研究,5) 試験電力を発生する 虚負荷試験電源の研究である。本研究では,電力標準システムとして熱電対を使用した熱電形交 流電力標準システムを採用した。よって,上記の 5 個の課題に 6) 熱電形交流電力標準システム のアルゴリズムの研究が付け加わる。本論の構成を第 1-1 図に示す。

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第 1-1 図 本論の構成 V VV V ± C.T. V.T. 熱電形交直電力比較器 熱電形交直電力比較器熱電形交直電力比較器 熱電形交直電力比較器 トランス コンダクタンス 増 幅 器 電 圧 増幅器 ac u ac i 虚負荷試験電源 第4章 精密変流器及び変圧器の開発に関する研究 (新しい誤差補償変流器と複巻誘導分圧器の提案) 第3章 交流電流比標準の再構築に関する研究 (自己校正形電流比較器の提案)   第2章 交流電圧標準の再構築に関する研究 (真空熱電対の交直差に関する研究)   第5章 虚負荷試験電源の開発に関する研究 (アナログ負帰還系に正帰還サンプリング系を  付加した高精度制御系の提案) 第6章  真空熱電対を利用した 交直電力比較に関する研究 (新しいアルゴリズムの提案) I II I ±

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第 1 章では,本研究の背景にあるこれまでに報告された研究の紹介とその背景を述べ,本研究 の意義と目的を明確にする。 第 2 章では,真空熱電対の交直差に関わる研究の成果を報告している。熱電形交直電力比較シ ステムでは,そこで使用する真空熱電対の交直差が交流と直流の電力を比較する上でのシステマ ティックな誤差となる。よってその交直差の値は予め試験され評価されていなければならない。 本研究では,まず 2 個の交直電圧変換器(真空熱電対及びレンジ抵抗の組み合わせ)の交直差 を比較するための新しいアルゴリズムを提案し,そのアルゴリズムに基づき交直差を試験するシ ステムを開発した。その後,真空熱電対の熱電的な要因による交直差を評価するための改良形 FrDc 装置を開発し,熱的な要因による交直差の性質,特に電圧モードと電流モードで異なる交 直差が観測される原因がヒータとヒータ支持部でのゼーベック効果に依るものであることを理 論的に解明し,実験的に検証した。真空熱電対の熱的な要因による交直差の研究では,主にヒー タの中心付近での 2 次のトムスン効果が精力的に調べられていたが,本研究により,ヒータ両端 での熱起電力の影響が予想された以上に大きなことが解明された。 第 3 章では,交流電流比標準の確立を目指して実施した電流比較器の研究の成果を報告してい る。熱電形交直電力比較システムでは,同システムを試験回路と絶縁し,同時に試験電流を熱電 対などの素子に入力することが可能な信号レベルに減衰させる目的で変流器を使用する。ただし その変流器の誤差は,交流と直流の電力を比較する上でのシステマティックな誤差となる。その ため使用する変流器の誤差は小さいことが望ましいが,更に重要な点は,使用される変流器の誤 差が試験され評価されていなければならないことである。 本研究では,変流器の誤差を評価することを目的とした自己校正が可能な電流比較器を提案し, 製作した自己校正形電流比較器の商用周波数から 1kHz までの帯域での同相誤差と直角相誤差を 自己校正により決定した。なお決定したそれらの誤差は,同比試験により実験的に検証している。 第 4 章では,電力標準システムに使用するために研究した誤差補償型精密変流器と複巻誘導分 圧器の成果を報告している。国家標準としての交流電力標準の定格電圧及び電流は,歴史的な経 緯から, 100V(110V), 5A である。そのため,試験電圧,電流範囲の拡張を目的として,ある いは試験回路とシステム内の電子回路との絶縁を目的として計器用変圧器あるいは変流器が使

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用される。 電力測定システムは,大きなレベルにある電圧と電流を入力するため,それらを十分に分離し ないと信号の回り込みにより誤差が発生する。また試験電流により回路に電圧降下が生じ,その 電位が漂遊容量を介して流れる容量性電流も誤差の要因になる。それらの影響を軽減するために は複巻の変流器と変圧器を使用することが効果的である。ただし,既成の変圧器,変流器では比 誤差,位相角が大きいだけでなく,周波数帯域も狭く,所要の定格電圧,電流を得るためには物 理的な寸法,重量が大きくなってしまい十分な性能を得ることは困難である。 本研究では,変圧器については電気的な性能が極めて優れた単巻の誘導分圧器と同等の特性を 複巻の変圧器で実現する方式を提案し,試作した複巻誘導分圧器について単巻の誘導分圧器の特 性が実現されたことを実験的に検証した。 また,変流器については電子回路を組み込んだ誤差補償形変流器を提案している。磁気回路に 電子回路を組み込む場合,回路の安定性には十分な注意が必要である。本研究では回路の安定条 件を明確にし,試作した誤差補償変流器についてその特性と併せて安定限界についても実験的に 検証した。なお,同変流器の評価は第 3 章で実現した交流電流比標準を基にしている。 第 5 章では,電力標準システムに供給する虚負荷試験電源の研究の成果を報告している。交流 電力,電力量計(以下電力計等と称す)の試験では,同一の試験電圧,試験電流を標準器と被試 験器に供給する比較試験法が採用され,試験電力の安定性を確保することを目的として虚負荷試 験電源を利用した虚負荷試験法が採用される。 虚負荷試験電源は,シンセサイザで発生した 5V の二相の交流電圧を,電圧増幅器で 100V に, トランスコンダクタンス増幅器で 5A に増幅し,出力インピーダンスの改善と同時に併せて所要 の出力容量を発生させている。これらの増幅器は,増幅度の安定化のために比較的深い負帰還が 施されている。一方,出力電圧及び電流の逓倍,インピーダンス変換等のために,負帰還系に磁 気回路(変圧器,変流器)が利用されており,複数のポールを帰還系に含む構造になっている。 このように虚負荷試験電源に使用される増幅器では,高い精度(安定度)と発振などに対する 安定化という回路の設計上において相反する課題を解決することが求められていた。 一方,電力計の応答速度は,測定器の精度等のトータル性能のバランスから決定され,通常,

(17)

標準電力(量)計と被試験器のそれは大きく異なる。このため比較試験法といえども異なる時刻 に測定した電力を比較することになり,試験電力に揺らぎがある場合,その周期によっては観測 者にタイプ A あるいはBの不確かさをもたらすことになる。 本研究では,負帰還増幅器にサンプリング形の正帰還回路を付加する方式を提案している,こ の手法により,高い安定性と高精度な性能を併せ持つ増幅器の設計,製作が可能になった。試作 した増幅器によりその性能を実験的に検証している。 第 6 章では,真空熱電対を利用した交流と直流電力を比較する新しいアルゴリズムを提案して いる。真空熱電対を利用した交流電力計あるいは交流電力標準は,素子の周波数帯域が広く,そ の性質が交流電圧標準により十分に研究されていることが最大の特徴である。一方,その入力に 対する熱起電力の応答は比較的遅く大きな時定数を持つため,交直の電力を平衡させる負帰還制 御系が複雑になるのが欠点であった。 本研究において,1) 試験回路の電圧と電流(負荷に加わる電圧とそこに流れる電流)の和差 信号に,基準直流電圧と測定電力に対応した直流電流の差と和の信号を重畳させた交直電力の比 較するアルゴリズムを提案し, 2) サンプリング形のフィードバック技術をアナログフィードバ ック回路に付加することで,交直の電力を比較,平衡させる制御系の応答速度と比較精度を改善 した。

(18)

第 2 章

交流電圧標準の再構築

交流電圧標準の再構築

交流電圧標準の再構築

交流電圧標準の再構築

2-1 緒言 熱電形交直電力比較システムでは,真空熱電対の交直差が交直電力を比較する上でのタイプ B の不確かさの要因となる。そのため,使用する交直電圧変換器の交直差の値は,予め試験,評価 されていなければならない。そのためには,まず基準とする交直電圧変換器の交直差の値を決定 し,その後,電力比較システムにおいて使用する交直変換器に交直差の値を移すための交直差の 比較試験を行なうことが必要不可欠である。 交直電圧変換器の交直差の決定と交直差の比較試験方法についての研究は,交流電圧・電流標 準の構築にほかならない。わが国の交流標準は通産省工業技術院電子技術総合研究所において確 立,維持されているが,近年の交流計測の高精度化,トレーサビリティ制度の変革において,そ の再構築が求められていた。これらの背景をもとに,交流電圧標準の再構築に向け,日本電気計 器検定所及び電子技術総合研究所の共同研究が開始され,その後,ドイツ理工学研究所(PTB)及 び豪州国立標準研究所(CSIRO)の共同研究に発展した。 交直電圧変換器の交直差は, (1) 熱起電力に熱リップルが観測される低周波数での交直差, (2)電気回路の伝達特性が直流と異なる高周波数域での交直差,(3) 直流及び低周波数における, ヒータ線回路のトムソン効果,ペルティエ効果,並びにゼーベック効果等の非ジュール熱による 交直差が原因となっている。 筆者等は理論的に伝送特性が導出可能な高周波用交直変換器を提案し,その交直差を決定した。 また,交直変換器における交直差の発生メカニズムを整理し,特にヒータにおける非ジュール熱 による交直差を調べるために実施したファスト・リバース法を研究した。交直変換器の交直差の 値が電圧・電流モードで異なることは知られていたが,それがヒータにおけるゼーベック効果に よることを本研究で明かにし,改良形 FRDC Source を用いて実験的に検証した。

(19)

また,交直差の比較試験についても Dual Channel 法及び Differential Channel 法について研 究し,交直電圧・電流変換器の交直差の値を 0.1ppm の分解能で比較試験するシステムを実現し た。 本章 2-2 節で交流標準の確立と維持の目的で使用される真空熱電対を紹介し,2-3 節では交直 電圧変換器の交直差を概説し,2-4 節では非ジュール熱による交直差発生のメカニズムを明確に し,それを定量的に評価するファスト・リバース法を述べ,併せて非ジュール熱による交直差の 性質を明らかにしている。2-5 節では提案する交直差の比較試験法を述べている。

(20)

2-2 交流電圧,電流の実効値と交直変換器の交直差 2-2-1 交流電圧,電流の実効値 時間軸の上では時々刻々と変化する、周波数軸から見れば様々なスペクトルを含有する信号 の大きさを一義的に定義するため、実効値が定義されている。

v

rms2

=

1

T

v

2 0 T

(t )dt

(2-2-1) 交流標準では、可能な限り正弦波に近い、すなわち歪みの少ない信号を発振器、あるいは電 圧・電流発生器により発生され使用する。しかしながら、程度の差こそあれ歪みがある。特に、 正弦波信号を階段波近似から作り出す形の信号源は、基本波信号周波数の数十倍から数千倍の周 波数帯域の高調波を含有していおり,測定の不確かさを増大させる。 時々刻々変化する交流信号を一定のタイミングでサンプリングすれば、時系列信号として、

v(1)

v(2)

、・・・

v(N)

が得られる。このサンプル値信号についても、実効値は、

v

rms2

=

1

N

v

2

(k)

k=1 N

(2-2-2) として算出することが可能である。 ふらついている信号を測定した結果の測定値、すなわちサンプルデータのばらつきを評価す る尺度として分散

σ

2

=

1

N

f

k k=1 N

(x

k

− x )

2 (2-2-3) ただし、

f

kはサンプルされたデータをその大きさの等しいも毎に数えた頻度である が計算される。ここではばらつきに着目しているため平均値からの差を評価している。直流信号 成分を含まない交流信号においては、

x

=0 であるから、

σ

2

=

1

N

f

k k=1 N

(

x

k

)

2 (2-2-4)

(21)

となり、分散の平方根、すなわち標準偏差の値が、先の(2-2-2)で定義される交流信号の実効値に 一致する。 正弦波電圧を発生する電圧発生器からの実効値が時間的に揺らいでいる場合,出力電圧の実 効値が標準偏差の値と一致するという見方をすれば,測定時間を意識することの重要性が理解さ れる。程度の差こそあれ,測定される信号はふらついており,歪んでいる。そして測定の目的と している正弦波電圧(あるいは任意の波形の電圧)とこれらの成分を区別するのが望ましいか否 かは測定の目的,使用する計測器の特性等によって異なってくる。 交流標準では,可能な限り歪み,ノイズの少ない,安定な実効値の下での計測条件を整える ことが求められる。 2-2-2 実効値計測に利用される熱電変換素子 交流電圧,電流を測定するほとんどの計測器は,式(2-2-1)に最も忠実な真空熱電対など熱電 変換素子を使用する方法,式(2-2-2)に示される A/D,D/A 変換器等の半導体集積素子を使用した サンプリング技術を用いた方法が採用されている。 半導体技術の進歩により,後者の手法は今後益々広く利用されると予想される。なお基準ク ロックを内蔵した交流電圧,電流の発生器では,ディジタル電圧計等による交流信号の測定に比 し,サンプリングの曖昧さが無い分だけ高い精度の実効値でが達成されている。 そのため D/A 変換素子を使用した精密交流電圧・電流の発生器は大変普及している。 そこでクロック信号を測定器の外部入力のサンプリング信号とし D/A 変換した精密交流電 圧・電流計,あるいは D/A 変換器により精密交流基準電圧を発生し,これと測定しようとする 試験電圧の両者の実効値を別途用意した実効値検出素子で比較する精密計測器も実現されてい る。 ジョセフソン素子を D/A 変換として利用した交流標準も研究されており,量子化された直流 標準に近いレベルが達成されると期待できる状況にある。 現時点では,交直の実効値比較に熱電変換素子を利用した標準,計測器が実用的に最も高い

(22)

精度を達成している。 交流電圧,電流計測のため真空熱電対を利用して 2 次標準器を実現した。真空熱電対はヒー タ線に交流あるいは直流の電圧を印加し,ヒータで発生するジュール熱を熱電対で熱起電力とし て検出し,交流と直流の実効値の比較をする素子である。真空熱電対のヒータ線で消費された電 力は、熱に変換され一部は放射され、残りは抵抗線や熱電対を伝達して室温系に拡散する。ヒー タ線での熱電変換において交直差が無視できる程度であれば、交流電圧の高精度測定が実現でき る。 そこで、交直電圧の比較に適した真空熱電対が研究された。第 2-2-1 図は、真空熱電対の形状 を示している。 ヒーター 熱電対 導入線 引出線 1 ガラス球 引出線 2 絶縁ビード 第 2-2-1 図 真空熱電対の構造 (電子技術総合研究所仕様,理化工業(株)製) ヒータ線に電気的な絶縁を施すためのビーズを介して熱電対の温接点が固着された構造にな っている。ヒータ線は放射熱を少なくし安定な熱起電力を得ることを目的として真空のガラス球 に納められている。ガラス球からのヒータ線の引き出しには、ガラスと熱膨張係数が比較的一致 しているジュメット線が使用されている。 室温に配置された真空熱電対のヒータ線は 20℃程度にあるが,ヒータ線の中心付近の温度は ジュール熱により室温に比べ 100℃以上増加する。この温度勾配のあるヒータ線に直流電流が流

(23)

された場合,トムスン効果,ペルティエ効果,ゼーベック効果等により交流電流が流された時と 異なる温度分布が生じる。その結果,熱電対で発生する熱起電力が交流と直流で異なる交直差が 現れる。 これら真空熱電対の交直差の研究と,交直差の小さな素子に向けた開発の歴史は長い。真空 熱電対の交直差については,1952 年の Hermach 等による理論的な研究報告,1962 年の Widdis による輻射熱の項を除いた熱伝導方程式の解析的な解の報告がある。 その後,真空熱電対の交直差を支配するヒータ線材のトムスン係数等の調査が 1966 年 Hermach 等により行われ,更に,1985 年,Inglis 等による交直差の整理,素材の各種係数のより 高い精度での調査,研究が行われ,真空熱電対の交直差の決定が進められた。 トムソン効果を軽減するために温度勾配を小さくする研究も,1960 年代に Wilkins 等により 多対熱電対の研究の形で実施された。一方,Klonz 等はヒータ線を撚ることで熱分布の非対称性 を除き,トムソン効果による交直差を極めて効果的に低減した多対熱電対を 1970 年代に研究し, 1980 年代初頭にはその多対熱電対を欧州各国に配備し国家標準とした。 我が国では,通産省,工業技術院,電子技術総合研究所の平山,岩本等が,先の Widdis の解 析結果を採用し製作した真空熱電対の交直差を決定した。 その後,交直差に対する数度の国際比較を経て各国の交直差の絶対値についてある程度その 信憑性が検証されてきた。そして PTB 製のマルチジャンクションの交直差が不確かさの大きさ のレベルで零と見なされることが信じられるようになっていた。 多対熱電対の開発と平行して,PTB の Klonz により提唱された FRDC の原理を電総研の佐々 木等が Modefied-FRDC として改良し,製作した装置により,様々な種類の真空熱電対の評価試 験が PTB/CSIRO/ETL/JEMIC の共同研究で進められた。それらのデータの分析を通じ,真空熱電 対の交直差(厳密には FRDC-Dc 差)並びに FRDC-Dc 差の周波数特性,大きさ,交直差の時定 数等の研究が進み,交直差の発生箇所,性質,これまで研究されてきた真空熱電対の交直差の絶 対値の確からしさ等が検証されるに至った。

(24)

2-3 交直変換器(真空熱電対)における交直差の発生メカニズム 交直電圧あるいは電流変換器に入力される交流と直流信号に対し交直差を発生する原因は,入 力される交流信号の周波数域により全く異なる.本説では,商用周波数以下の低周波数での交直 差と可聴周波数周波数以上での交直差の発生メカニズムについて述べる. 特に,本研究のプロジェクトの開始に際して,高周波域での交直差については筆者の担当であ った.高周波用標準器の開発とその交直差の評価については詳述した. 交直変換器の熱物性的な要因による交直差については 2-4 節において述べる. 2-3-1 低周波交流電流における交直差発生のメカニズム 真空熱電対のヒータにヒータの熱時定数以下の周期の交流電流を流すと,交流電流の倍周波 数の熱リップルが現れ,熱起電力も倍周波数の正弦波を重畳した直流電圧が観測される。第 2-3-1 図は,入力正弦波に対するジュール熱による発熱の様子を示している。 入力正弦波信号 t ヒーター電流 ジュ ール 熱 t 熱起電力 熱電対 温度 平均値 第 2-3-1 図 真空熱電対の入力信号波形と熱起電力

(25)

ヒータの熱的な時定数が無視できる十分高い周波数では,熱起電力は同図に示す“熱電対温 度平均値”に対応した安定なレベルにある。しかし,周波数が低くなると入力信号波形の倍周波 数で温度が変化し,同図に示すような正弦波状の熱起電力が出力されることになる。 真空熱電対のヒータにおける発熱量に対する温度の特性は,温度差が大きくなる高温では伝 導及び放熱による熱の流出が増加するため,直線からはずれた飽和気味の性質を示す。その様子 を第 2-3-2 図に示した。 t t 発熱 温度 熱電対部 温度 平均値 a b a' b' a'' b'' ジュール熱によ る 発 熱 第 2-3-2 図 波形の影響を受ける低周波数での温度リップル 同図から明らかな様に,熱リップルの現れる周波数では,熱起電力の平均値が熱リップルの 観測されない直流電流,あるいは比較的高い周波数の場合に比べ小さくなることが理解される。 低周波数域では,発生する交流電圧の実効値の周波数特性がフラットな D/A 変換器による交 流電圧発生器を使用することで,交直差を評価することが可能である.

(26)

2-3-2 交直変換器の高周波交流電流における交直差 特定副標準器は周波数 100kHz まで特定標準器により校正されるが、100kHz 以上 1MHz までは、 別途用意した高周波用標準器により校正される. 高周波用標準器は、100kHz まで交直差が決定された交直電圧変換器に対し、100kHz 以上の周 波数において純粋に電気回路的評価から交直差の決定をするものである.特定副標準器と高周波 用標準器の 100kHz 以上、1MHz 以下の周波数における交直差の偏差分のみ比較の対象とする. 以上の目的で使用する高周波用標準器は、その交直差を決定する上で電気的な特性を物理的な 形状から決定しなければならない.すなわち、幾何学的形状を電気回路に正確に置き換えること のできるものでなければならない.第 2-3-3 図に高周波標準用交直電圧変換器の構造を示す。 Output Voltage

Test Voltage Input Insulator (Derlin) T.C Input Lead Copper 0.25φ 35mm 35

Copper Return Wire(30μ φ )

N-Connector Center Pin Brass 3mm 35mm lengthφ Transmission Line 190mm

Wire Resistor (400Ω  30μ Ni - Cr - Al - Mn )φ 74 20 3 1

第 2-3-3 図 高周波における電気的な要因による交直差の決定のための交直電圧変換器

真空熱電対のヒータ回路に試験電圧を印加し電流を流すために,入力コネクタを設けた円柱状 の管に真空熱電対を設置している。

交直電圧変換器としての入力電圧の定格値は、交直差標準の供給がされる低周波数域での試験 電圧レベルに高周波標準器の入力定格電圧を一致させることが高周波標準の交直差の値の不確

(27)

かさの評価を容易にし更にその精度を増すことを念頭に決定している。真空熱電対を安定な温度 環境に保つため,厚さ 10mm のアルミ管に回路を納めている。真空熱電対は定格電流が 10mA, 熱起電力がほぼ 7mV,ヒータ抵抗は 25Ωである。 入力定格電圧を 5V にするため入力インピーダンスは 400Ωにしている。ただし抵抗値の周波 数依存性を見積もるため、固有抵抗の比較的大きなニューマ線を管の軸方向に直線上に張って実 現している。 この抵抗器、あるいは回路インピーダンスの周波数依存性を評価する場合、漏れインダンクタ ンス、漂遊容量と抵抗器の抵抗値からなる分布定数回路としての交流特性と、電流が流れる抵抗 線および各部導体の表皮効果による抵抗値の周波数依存性が交直差に影響を与える。

(28)

2-3-3 高周波標準器の分布定数回路としての周波数依存性と交直差 高周波標準器の交直差を評価するため,回路を分布定数回路で表現すれば,

F

( )

T

=

cosh zy

z

y

sinh zy

y

z

sinh zy

cosh zy

(2-3-1) が得られる。 上記分布定数回路の後段に,熱電対のヒータ線を終端抵抗の形で取り付けている。更に製作 した高周波標準では回路を空間的に固定するために N 形コネクタが管に取り付けられ,センタ ピンが利用している。このセンピンが管に対し容量

C

Nを有してヒータに並列に入っている。第 2-3-4 図及び第 2-3-5 図に 2 端子対回路として示した.

R

TC

C

N 第 2-3-4 図 2 端子対回路で 第 2-3-5 図 N型コネクタ 表現した真空熱電対 センタピンとシェル間容量 熱電対のヒータ回路のFマトリックスは,

F

( )

TC

=

1

0

1

R

TC

1

(2-3-2) となる。N形コネクタの容量は,

(29)

F

( )

N

=

1

0

j

ω

C

N

1

(2-3-3) である。これらの四端子回路が縦続に接続した第 2-3-6 図により高周波標準器の交直差を評価す ることができる.。

z

2n

z

2n

z

2n

z

2n

z

2n

z

2n

1 2

R

TC

C

N

n

→ ∞

真空熱電対 Nコネクタ

y

n

y

n

y

n

第 2-3-6 図 T形2端子対回路で表した高周波標準器電流導入部, 真空熱電対並びに入出力 N コネクタ 同図から全体のFマトリクスは,

F

( )

HFS

= F

( )

T

( )

F

TC

( )

F

N

=

A

HFS

B

HFS

C

HFS

D

HFS

(2-3-4) となる。Fパラメータの入出力電圧比を表す

A

HFSは,

A

HFS

= cosh zy +

R

1

TC

+ j

ω

C

N

z

y

sinh zy

(2-3-5) となる。直流電圧の入力に対しては,

ω

→ 0

と置けば,

z

= R

y

=

0

(2-3-6)

(30)

であるから,

A

HFS

( )

dc

=

1

+

R

R

TC (2-3-7) となる。ただし,回路は空間に張られた線材で構成したので

G

=

0

とした。 交流電圧を入力した場合,角周波数が

ω

では,

A

HFS

( )

ac

=

cosh

j

ω

C R

(

+ j

ω

L

)

+

R

1

TC

+ j

ω

C

N

R

+ j

ω

L

(

)

j

ω

C

sinh

j

ω

C R

(

+ j

ω

L

)

(2-3-8) となる。四端子回路の入出力電圧の比は,

V

out

V

in

=

1

A

(2-3-9) である。実効値の等しい交直電圧

V

inを入力した時の出力電圧は,

V

out dc( )

=

V

in

1

+

R

R

TC (2-3-10)

V

out ac( )

=

V

in

cosh j

ω

C R

(

+ j

ω

L

)

+

R

1

TC

+ j

ω

C

N

R

+ j

ω

L

(

)

j

ω

C

sinh j

ω

C R

(

+ j

ω

L

)

(2-3-11) となり,これらの電圧が熱電対のヒータ線に印加される。すなわち,両電圧の差がこの高周波標 準におけるインピーダンスの周波数特性に依存した交直差となる。 回路の各パラメータを代入し求めた高周波標準器の交直差の周波数特性を第 2-3-7 図に示す。

(31)

r=400 :ニューマ線抵抗値(Ω) l=0.5 10^-6 :電流回路漏れインダクタンス(H) c=3 10^-12 :電圧回路(ニューマ線)漂遊容量(C) g=0 :電圧回路(ニューマ線)コンダクタンス(Ω-1 rtc=25 :真空熱電対ヒータ抵抗(Ω) cn=2.5 10^-12 :Nコネクタ芯線とシェル間容量(F) fl=10^f w=2 Pi fl z=(r+I w l) y=(g+I w c) yt=(1/rtc)+(I w cn)

a=Cosh[Sqrt[z y]] + (yt) Sqrt[(z/y)] Sinh[Sqrt[z y]] yd=-(Abs[1/a]-rtc/(r+rtc))*10^6 gp=Plot[yd,{f,4,8}, PlotRange->{0,3000}, Ticks->{Range[4,10,1],Range[0,3000,500]} ] 第 2-3-7 図 回路の各パラメータを代入し求めた高周波標準器の交直差の周波数特性

(32)

2-3-4 表皮効果に起因した交直差の発生 高周波標準器に印加された試験電圧は,N コネクタセンタピン/抵抗線/交直電圧変換器の ヒータ線/電流帰還用銅線/N コネクタシェルから構成される回路に印加され,回路のインピー ダンスにより電流に変換される。 円柱状の導体に交流電流が流れる際,断面積方向の電流分布が表皮効果により一様にならず, インピーダンスの抵抗成分の大きさが増加する。同時に交流電流の周波数に比例するインピーダ ンスの直角相成分(jωL の内の L 成分)も周波数に依存した変化をすることも知られている。 そこで,真空熱電対のヒータ回路に繋がる回路線材の表皮効果によるインピーダンスの増減の様 子を評価することが必要になる。 周知のように円柱導体の内部インダクタンスは,導体の断面積方向の半径の大きさには依存せ ず,

L

i

=

µ

l

8

π

(2-3-12) ただし,l は導線の長さ と表される。高周波標準器の電流回路において,長さが最も長く(0.2m),比透磁率の最も高 いと想定される線材は,電流を制限するために使用したニューマ線である。この線材は温度係数 が小さく(±10ppm/℃〜±50ppm/℃),固有抵抗は大きく(1.33μΩm),対銅熱起電力の小さ な(最大 1.0μV/℃)精密抵抗材料として開発されたものであるが,磁気的な性質についてのパ ラメータは公表されていない。ただし,線材の化学成分割合が 75Ni,20Cr,3Al,1Mn であると 報告されている。そこで同合金の透磁率を Ni の透磁率を念頭に 1〜10 倍であるとみなすことに した。 この仮定に依れば,内部インダクタンスの大きさは最大でも 0.1μH と見積もることができる。 よって,電流の周波数が 1MHz の場合,そのリアクタンスは 0.6Ωである。一方,同線材の直流 電流での抵抗値は 400Ωであるから,直流抵抗性分の表皮効果を考えなければインピーダンスは,

(33)

400(1+j0.0015) [Ω]となる。真空熱電対の熱起電力に寄与する電流の実行値は,インピーダンス の絶対値に反比例するのでリアクタンス分が及ぼす交直差の程度は,最大でも 2ppm 程度と見積 もることができる。高周波電流では表皮効果により電流の分布が表皮に集まるので,このリアク タンスの大きさは減少すると考えられる。 高周波標準器を構成する線材の,表皮効果による電流と同相成分の抵抗成分の評価を行った。 なおニューマの比透磁率は最大で 10 と見積もったが,他の線材の比透磁率は真空の透磁率と同 程度と見なした。 円柱状導体の表皮効果によるインピーダンスを直流電流での抵抗値に対する比の形で表せば,

R

+ j

ω

L

R

0

=

x

2

J

0

(x)

J

1

( x)

(2-3-13)

R

0

=

l

κ π

a

2 (2-3-14) ただし,

x

= a − j

κ µω

となる。なお J0(x),J1(x)は零次及び第一次 Bessel 関数であり,κ,μ,a は線材の導電率,透磁 率,断面積方向の半径である。

(34)

2-3-5 高周波標準器を構成する各要素の表皮効果の定量的な見積もり 第 2-3-3 図の回路を構成する線材のパラメータと直流抵抗の値を次表に示した。ただし,真空 熱電対のヒータ線の比透磁率は1と見なした。 第 2-3-1 表 高周波用標準器を構成する部品のパラメータ 素子 線材 半径 (m) 長さ(m) 導電率(S/m) 比透磁率 (H/m) 直流抵抗 (Ω) Nコネクタピン 黄銅 1.5×10-3 35×10-3 1.5×107 1 3.3×10-3 抵抗線 ニューマ 15×10-6 0.19 7.5×105 1〜10 380 TC 電流導入線 銅 0.13×10-3 35×10-3 5.7×107 1 0.1×10-3 TC ヒータ ニクロタール 24×10-6 10×10-3 2.2×105 1 25 電流戻線 銅 15×10-6 0.19 5.7×107 1 5 表のパラメータに基づき周波数範囲として 102 Hz〜107 Hz における各部の表皮効果の大きさ を数値計算により評価し,第 2-3-8 図〜2-3-12 図に示した。なお,第 2-3-8 図には計算式も併せ て記載した.各図の縦軸は交直差を ppm で,横軸は周波数を対数目盛で示した. 高周波標準器では電流の入力のために使用している N 形コネクタのセンタピンが比較的低い 数キロヘルツの周波数から交直差を示し,1MHz の周波数で 20ppm 程度となった。真空熱電対 のヒータに電流を導く銅線も線材の径が太いことから強い表皮効果を示し,1MHz の周波数で 15ppm 程度の交直差を有する。

(35)

表皮効果(N コネクタ・センタピン) rtotal=400 anc =1.5 10^-3 knc =1.5 10^7 lnc =35 10^-3 m0 =4 Pi 10^-7 rnc=lnc/(knc Pi anc^2) mnc=10 m0 fl=10^f xnc=anc Sqrt[-I] Sqrt[knc mnc 2 Pi fl] ync=(Abs[(xnc/2)(BesselJ[0,xnc]/BesselJ[1,xnc])]-1) * (rnc/rtotal) *10^6 gpnc=Plot[ync,{f,2,7}, PlotRange->{0,50},Ticks->{Range[2,7,1],Range[0,50,10]}, GridLines->Automatic ] 第 2-3-8 図 N形コネクタセンタピンの表皮効果

(36)

第 2-3-9 図 抵抗線(ニューマ・400Ω)の表皮効果

(37)

第 2-3-11 図 真空熱電対のヒータ線における表皮効果

(38)

2-4 熱電効果に起因した交直差発生のメカニズムと FRDC 法 熱電対の熱起電力を介した交直の電圧比較にの交直差については多くの研究報告がある。し かしながら,真空熱電対の電気的,物理的な形状,素材のパラメータ,それらから作られる電気, 熱的なモデル回路に対する解析的な研究結果に対する実験的な検証の困難さもあり,定性的,定 量的な理解を得るのは極めて困難であった。 そのような背景もあり,真空熱電対の交直差についての正確な認識,数値的な大きさの評価 (推定)も困難であった。そのため,交直差の絶対値の決定に際しては,試験の不確かさに比べ 交直差の値が十分無視できるほど小さく,よって交直差の大きさを零と見なすことが可能と信じ られている一部のマルチジャンクションを基準とする流れがあった。 その後,FRDC 法の研究が進み,FRDC Source を用いた交直差の実験的な評価,真空熱電対 の内部で交直差を発生している箇所,あるいはその特性,性質の研究が進み,より高い信頼性の もとで交直差の原因と大きさを推定することが可能になった。 FRDC 法については後節で報告するが,真空熱電対のようなヒータ線に熱電対が接した形の 交直変換器の熱的な要因での交直差は,ヒータに流す交流電流に依るのではなく直流電流に原因 があることを認識しなければならない。 なお,交直比較器を用いた交直電圧,電流の比較試験では,直流電圧,電流の印加に際して は,必ず電圧,電流の向きを逆転(転極)させ,得られた測定値の平均の値を採用する。この電 圧,電流を転局する速さが速く,一程度の周波数以上では交流と見なされるようになり,いわゆ る交直差の値も零になる。交直差が現れたり消えたりする境になる周波数の大きさの逆数は,ヒ ータの熱時定数に一致することになる。 本節では,FRDC Source を利用した測定を通じて明確になった,ヒータの熱的な性質に依っ て発生する交直差のメカニズムについて報告する。

(39)

2-4-1 ヒータにおける二次のトムソン効果がもたらす交直差 熱電対のヒータ線に沿った Joule 熱によるヒータ中心部付近の温度分布を次図に示している。 temp I x temp I x θ( x) θ( x) 第 2-4-1a, b 図 ヒータでの Joule 熱による温度分布 温度勾配のあるヒータ線に電流が流されると,トムスン効果により電流の流入方向に依存し た発熱ないし吸収(Thomson Heating)による温度変化

δθ

t

(

x)

= ±I

α

t

b

d

dx

θ

(

x)

(2-4-1) が生じる。ただし

α

tはヒータ線のトムスン係数であり,

b

はその他の定数を表している。ト ムスン効果であることを示すためトムスン係数を陽に表現した。なお,Joule Heating による温度 分布がヒータの線方向 x に対し二次式で表されるため,発熱,吸収による温度分布は次図のよう に直線となる。 temp x I temp x I 第 2-4-2a, b 図 Thomson-Heating による温度分布

(40)

第 2-4-1a,b 図の Joule Heating による温度分布θ(x)に,第 2-4-2a,b 図の Thomson Heating に よる温度勾配が重畳されるので,新たな温度分布θ'(x)は

θ

( )

x

=

θ

(x)

±

δθ

t

(x)

=

θ

(

x)

± I b

α

t

d

dx

θ

(

x)

(2-4-2)

となる。比較のため Joule Heating θ(x) と Thomson Heating が重畳された温度分布θ'(x)を第 2-4-3a,b 図に示す。 θ'(x) I θ(x) temp x θ(x) θ'(x) I temp x

第 2-4-3a, b 図 Joule & Thomson Heating による温度分布

Thomson Heating がもたらす新たな温度分布θ'(x)の下で2次の Thomson Heating による発熱, 吸収がある。2 次の Thomson Heating による温度分布の変化は,

δ

θ

t

(

x)

= ±I

α

t

b

d

dx ′

θ

(

x)

= ±I

α

t

b

d

dx

[

θ

(

x)

±

δθ

t

(

x)

]

= ±I

α

t

b

d

dx

θ

(

x)

± I b

α

t

d

dx

θ

(

x)

(41)

= ±I

α

t

b

d

dx

θ

(x)

+ I

2

(b

α

t

)

2

d

2

dx

2

θ

(x)

(2-4-3) である, Joule Heating による温度分布が線方向に沿って二次であるため第一項は傾きが一定の直線で あり,第二項は定数項である。第二項は電流の 2 乗に比例するため電流の方向に依存しない。す なわち電流方向を転極してても打ち消されない項である。第 2-4-4a,b 図にその様子を示した。 temp x I temp x I

表 3-4-1  自己校正形の電流比較器の試験プロセスと誤差評価式  基準巻線 被試験  巻線 測定値  同相誤差・直角相誤差  Wr1 Wc1   εc1m  θc1m  εc1 = εc1m  θc1 = θc1m  Wr1  + Wc1  Wr2 Wc2  εr2m  θr2m  εc2m  θc2m  εr2 = εr2m+(εc1)  θr2 = θr2m+(θc1) εc2 = εc2m+(εc1) θc2= θc2m+(θc1)  Wr1  + Wr2  Wr3 Wc3  εr3m  θr3m
表 3-5-1  自己校正形電流比較器 (#JEM KT-8506)  試験電流周波数:60 Hz  自己校正により求めた各巻線の同相誤差及び直角相誤差
表 3-5-2  自己校正形電流比較器 (#JEM KT-8506)  試験電流周波数:400 Hz  自己校正により求めた各巻線の同相誤差及び直角相誤差
表 3-5-3  自己校正形電流比較器 (#JEM KT-8506)  試験電流周波数:1000 Hz  自己校正により求めた各巻線の同相誤差及び直角相誤差
+7

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