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交流電流比標準の再構築に関する研究

ドキュメント内 交流電力標準の再構築に関する研究 (ページ 72-105)

3-1  緒言

熱電形交直電力比較システムでは,同システムを試験回路と絶縁し,同時に試験電流を熱電 対などの素子に入力することが可能な信号レベルに減衰させる目的で変流器を使用する。ただし その変流器の誤差は,交流と直流の電力を比較する上でのシステマティックな誤差となる。その ため使用する変流器の誤差は小さいことが望ましいが,更に重要な点は,使用される変流器の誤 差が試験され評価されていなければならないことである。

変流器を試験するための交流電流比標準は,日本電気計器検定所において確立・維持されて いる。

本研究が実施しされる以前の交流電流比標準は,誤差の評価が間接測定法により可能な標準 変流器を拠り所にしていた。ただし,変流器は巻装する導線の直径との兼ね合いで巻数に強い制 約があるためその励磁インピーダンスを大きくすることが困難であり,誤差は比較的大きく,周 波数依存性も強い。このことは,誤差を補正した後の不確かさを大きくしており,変流器と共に 使用されることの多い変圧器標準と調和した試験精度の実現を困難にしていた.

このような背景もあり,電流比較器の研究もされていたが,電流比較器自身の誤差を評価す る直接的な方法が見いだされず,先の標準変流器の誤差との比較,検証の域を越えることができ ず,試験周波数帯域を広げることも困難であった.

筆者は電流比較器の誤差(同相誤差及び直角相誤差)を実験的に決定することが可能な自己 校正形の電流比較器を開発し,交流電流比の標準を電流比較器により確立した。本研究により,

商用周波数域において,従前100 ppmの試験精度であった変流器の試験を1 ppm程度の不確か さに改善することができた。

標準器)として定められ,現在,産業界への標準供給と変流器の検査のために使用されている.

本章3-2節で国家標準のために設計した自己校正形電流比較器の仕様を示し,3-3節では電流 比較器を使用した変流器の試験方法を概説し,3-4節において提案する自己校正のアルゴリズム を述べ,3-5節ではアルゴリズムに従って確定した自己校正形電流比較器の各巻線の誤差を示し,

3-6節では得られた誤差を補完的に検証した結果を示した。

3-2 自己校正形電流比較器の概要

国家標準として指定された電流比較器の仕様について本節では述べている.国家標準はそれを 試験することが可能なより上位の標準が存在しないので,電流比較器自身の比較誤差を何らかの 方法で評価することが求められる.

自己校正形電流比較器は,基準巻線の1ターン W1r を基準とし,他の基準巻線,比較巻線 の各々の巻き線の誤差を決定することが可能な電流比較器である.

3-2-1 巻線構成と電流比

基準巻線には(1,2,3,4,10)ターンの5個の巻線,比較巻線には(1,2,3,4,10,20,30,

40,100)ターンの9個の巻線を設けた.

基準巻線の4個の巻線を適宜選び直列に接続することで,1ターンから20ターンまでの任意 の巻数を実現することが可能である.比較巻線も同様な手法で,1ターンから210ターンまでの 任意の巻数を実現することが可能である.

基準巻線と比較巻線に流れる電流の誤差分を平衡させるために補正電流を流す補償巻線には (1,10,100)ターン設けた.

基準巻線と比較巻線に流れる電流の差は,各巻線で発生する磁界の差を検出巻線で比較する.

検出巻線には十分な検出感度を得る巻数が求められるが,より重要な点は基準巻線と比較巻線で 電流の比較に寄与しない漏れ磁束を検出してはならないことである.そこで製作した電流比較器 では1000ターンの検出巻線を磁気シールドしている.

表3-2-1に自己校正形電流比較器の各巻線の仕様を示した.

なお,基準巻線と比較巻線の各々は,鉄芯の円周方向に巻線を均一に巻装することで漏れ磁束

ターンは,実際には(3,6,9,12,30・・・)ターンとなっている.

表3-2-1  自己校正形電流比較器の巻線の仕様

巻線の種類 巻数

(⋅3 ターン)

使用銅線直径 (mm)

定格電流

(Α) 備考 検出巻線 1800∗ 0.3 φ - ×1 ターン (補償巻線)

補償巻線2

1

10 100 1 10

0.5 φ 0.5 φ 0.5 φ

0.3 φ 0.3 φ

4 4 4 1.5 1.5

磁気シールド 中に巻装

磁気シールド 外に巻装 (基準巻線)

基準巻線

1

2 1 2 3 4 10

− 0.6 φ×6 0.6 φ×6 0.6 φ×4 0.6 φ×4 0.6 φ×4

60 60 35 35 25 25 25

×1 ターン

×1 ターン

(比較巻線)

比較巻線

1

1 2 3 4 10 20 30 40 100

− 0.8 φ 0.8 φ 0.8 φ 0.8 φ 0.8 φ 0.8 φ 0.8 φ 0.6 φ

10A×2 10A×2 10 10 10 10 10 10 10

6

×1 ターン

使用した磁気シールド形環状巻鉄芯

・材  質:スーパーマロイ

・板  厚:0.1mm

・製造元:東北金属株式会社

3-2-2 鉄芯と巻装

鉄芯にはすべて板厚が 0.1mm のスーパーマロイを使用している.基準巻線と比較巻線で発生 する磁界を比較する鉄芯の断面積は5×10 mmであり,円周方向の内径は100 mm,外形は110 mm である.検出巻線は,肉厚が5 mmのパーマロイでシールドしている.なおすべてのパーマロイ 鉄板は0.1 mmであり,その層間は絶縁している.

鉄芯の外形を第3-2-1図に示す.

9080 120 130

5

5

1515 5

25 15 5

2mm 厚ベークライト

板厚 0.1mm スーパーマロイ

1

第3-2-1図に示した環状巻鉄芯に,表3-2-1に示した各巻線を巻装している。その様子を第3-2-2 図に示した。

なお,磁気シールド用環状巻鉄芯は,静電シールドの効果も併せて与えるため,鉄芯の電位を 外部で接地電位に固定するための銅線を引き出している。

第3-2-2図  電流比較器の鉄芯と巻線順を示す断面図

電流比較用環状巻鉄芯 磁気シールド用環状巻鉄芯

ベークライトケース

検出巻線

誤差電流補正巻線 電流比較巻線 基準巻線

3-3  電流比較器を用いた変流器の試験

変流器の試験では,本論文で示す電流比較器を使用する場合と標準変流器を使用するものがあ る.標準変流器を使用する場合は,試験電流,試験負担,試験周波数のすべてについて,予め何 らかの方法でその誤差を試験しておかねばならない.このため標準変流器の校正の作業とその補 正は極めて煩雑になる.また,被試験変流器と標準変流器の電流比が一致していなければならな いことも試験の利便性を損なう点である.一方,試験負担の設定での制約が少なく更に試験その ものも迅速に行える長所がある.

電流比較器を使用する場合,電流比較器の巻線抵抗が被試験変流器の負担となるため,余り小 さな負担を設定することは困難である.また,負担力率の設定も煩雑にならざるを得ない.その ため,現場用の変流器を試験するための標準器として使用することは得策ではない.むしろ試験 室の標準変流器の定期的な校正に使用するべきである.

3-3-1  試験回路

電流比較器を使用して変流器を試験する場合の回路を第3-3-1図に示す.

試験電流を発生するために電源を用意し,その電圧を逓降変圧器により電流に変換する.試験 電流IN1は,変流器の1次巻線に流され,同じ電流が電流比較器の基準巻線Wrと補正電流発生 装置にも流される.

被試験変流器の2次電流IN2が電流比較巻線Wcに流され発生する磁界と,試験電流IN1が電流 比較器の基準巻線Wrに流され発生する磁界が等しくなるように,電流比較器の基準巻線と比較 巻線の巻数(各々Nr,Nc)を選択する.

A

B

Galva 補正電流  発生装置

電流比較器 被

試 験 変 流

器 試

験 負 担 逓降変圧器

電流比較   巻線

基準  巻線

試験電流 試験電流発生用電源

IN1

IN1

IN2

Wc Wr

Wd

Wi

第3-3-1図  電流比較器を使用した変流器の試験回路

変流器の1次電流をIN1,2 次電流をIN2,補正電流からの誤差補正電流をIi,電流比較器 の基準巻線,比較巻線,並びに誤差補正巻線の巻数を各々Nr,Nc,Niとし,

被試験変流器の比誤差と位相角を,(ε + jθ)として表現すれば,

IN2 = IN1 Nr

Nc ( 1+ε + jθ) (3-3-1)

となる.よって,

IN1NrIN1 Nr

Nc ( 1+ ε + jθ)Nc = Ii Ni   (3-3-2)

基準巻線と誤差補正巻線の巻数を等しく(Nr =Ni)に設定すれば,変流器の誤差は,

ε + jθ = − Ii

IN1 (3-3-3)

となる.

電流比較器での平衡を得るために,巻線Niに誤差補正電流を流す補正電流発生装置からは試 験電流に比例した電流を供給する.その大きさはは交流検流計を平衡する分であり,そのために 流し込んだ電流の大きさは変流器の誤差に等しく,その符号は逆になる.各電流はベクトル量で ある.なお補正電流発生装置の出力電流は基準巻線の巻数と等しい巻数の補償巻線に流し込む.

巻数が一致しない場合は補正電流発生装置の読み値をその分補正する.

被試験変流器の1次定格電流が補正電流発生装置の定格電流(5A)よりも大きい場合は,被試験 変流器の2次電流が補正電流発生装置に流される.

被試験変流器の1次回路と電流比較器の基準巻線は直列に接続されるが,接続点とならない方 の電流比較器の基準巻線の端を接地することが重要である.試験電流を発生する電源はその片端 を接地する.これらの接地により電源側と試験電流回路の大地に対する電位が固定され,コモン モード電流の混入が防がれる.なお,製作したシステムでは逓降変圧器に絶縁形変圧器(1次と 2次巻線間を静電シールドしたもの)を使用し,コモンモード電流の一層の低減化を図っている.

ドキュメント内 交流電力標準の再構築に関する研究 (ページ 72-105)

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