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マイクロ波パワーアンプ用動的出力整合回路の基礎検討

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招待論文

マイクロ波パワーアンプ用動的出力整合回路の基礎検討

石崎

俊雄

†a)

松室 尭之

Basic Study on Dynamic Output Matching Circuit for Microwave Power Amplifier

Toshio ISHIZAKI

†a)

and Takayuki MATSUMURO

あらまし マイクロ波加熱でパワーアンプを使用する場合,負荷インピーダンス変動により出力電力や効率が 低下する.マイクロ波を適切に照射し続けるためには動的に負荷インピーダンス整合を行う可変整合回路が必要 である.可変整合回路は,スミスチャート上の広範囲のインピーダンスに整合でき,回路損失が小さいことが 要求される.3 個の容量を用いる FET スイッチ式可変整合回路では,回路方程式から各容量値の厳密解を求め, FET スイッチ切り替え回路をオフ容量込みで設計した.周波数掃引方式では,4 段構成の誘電体同軸共振器を用 いた小型・低損失な可変整合回路を設計し,インピーダンス軌跡がスミスチャート上を満遍なく覆う特性を実現 した.いずれの回路においても良好な整合がシミュレーションで確認できた. キーワード パワーアンプ,負荷インピーダンス,動的整合,インピーダンス可変方式,周波数掃引方式

1.

ま え が き

マイクロ波パワーアンプに使用するトランジスタは 負荷インピーダンスにより利得,出力電力,効率が大 きく変動する.マイクロ波回路の基準インピーダンス は通常50Ωに設定され,パワーアンプは入出力共に 50Ω終端状態で最適動作になるように整合回路を設計 する.しかし,マイクロ波手術器具や電子レンジ等の マイクロ波加熱用途にパワーアンプを使用する場合, 負荷インピーダンスが変動する.例えば,マイクロ波 手術器具では,アンプの負荷は人体の臓器や血管であ り,それらのインピーダンスは部位や温度,手術器具 の開閉状態により異なる.したがって,マイクロ波を 適切に照射し続けるためには,パワーアンプの出力電 力や効率が負荷インピーダンスによって低下しないよ うにしなければならない.インピーダンス変動対策と してパワーアンプ出力にアイソレータを用いることが あるが,この場合,反射波を吸収してパワーアンプを 保護するものの被加熱物への供給電力低下は防げない. そのため,安定な加熱を維持するには,変動する負 †龍谷大学先端理工学部,大津市

Faculty of Advanced Science and Technology, Ryukoku University, 1–5 Yokotani, Seta Oe-cho, Otsu-shi, 520–2194 Japan

a) E-mail: [email protected] DOI:10.14923/transelej.2020MWI0001 荷インピーダンスに対して動的にインピーダンス整合 を行う可変整合回路をパワーアンプ出力側に挿入する ことが必要である.可変整合回路に要求される性能は, スミスチャート上の広範囲のインピーダンスに対して 整合でき,回路の挿入損失が小さいことが必要である. 動的にインピーダンス整合を行う可変整合回路とし て二つのアプローチが考えられる.一つはインピーダ ンス素子を可変させるインピーダンス可変方式であり, もう一つは周波数特性をもった回路素子を用いて加熱 周波数を掃引する周波数掃引方式である. インピーダンス可変方式ではMEMSスイッチやPIN ダイオードスイッチを用いたものが既に報告されてい る[1], [2]が,大電力に耐える可変素子の選定が重要で ある.バラクタダイオードも,簡単な回路でインピー ダンスを連続変化できる特長をもつが,大電力動作に 課題がある.本論文では,FETスイッチを用いてキャ パシタを切り替えるFETスイッチ式可変整合回路に ついて基礎検討を行った内容を報告する. 一方,周波数掃引方式では,インピーダンス整合回 路として同軸ケーブル等の2種類の伝送線路を用い, スミスチャートの原点を始点とする渦巻き状インピー ダンス軌跡を描き,2.4GHzから2.5GHzまで周波数掃 引してスミスチャート全面を満遍なくカバーできる回 路が既に報告されている[3].しかし,長い線路が必要 で回路が大型化することから,本論文では,誘電体同

(2)

軸共振器を用いた小型・低損失な周波数掃引方式可変 整合回路の基礎検討を行った.

2.

GaN

パワーアンプの加熱応用

近年,GaN-HEMT(窒化ガリウム高電子移動度トラ ンジスタ)を使用した半導体パワーアンプにより,マ グネトロンに匹敵する高出力電力を提供できるように なった.2.4GHz帯でも出力が200Wを超えるパワー アンプが報告されている[4], [5]. これまでのマイクロ波加熱システムは,真空管であ るマグネトロンが広く使用されている.マグネトロン は高出力で高効率であるが,発振周波数や出力電力が 不安定であり,動作寿命に限界があり,あるいは化学反 応システムでは反応再現性が低下する等の課題があっ た.また,マグネトロンの出力電力全てが非加熱物に 吸収されるわけではなく,吸収効率が低いと多くの電 力がマグネトロンに戻ってきて発熱することになる. これに対し,半導体デバイスを使用して周波数と位 図 1 GaN パワーアンプを用いたマイクロ波加熱システム 図 2 マイクロ波手術器具とマイクロ波発生装置 [8] 図 3 パワーアンプ特性の負荷インピーダンス依存性 相を高精度に制御し,吸収効率を向上させるシステム が開発されている[6], [7].図1はGaNパワーアンプ を用いた半導体方式マイクロ波加熱システムである. 2台の200WのGaNパワーアンプモジュールで加熱 システムが構成され,加熱炉の上下に設置された二つ の金属製パッチアンテナから合計400Wの電力が供給 される.このシステムでは,加熱炉からの反射電力は 監視センサーでリアルタイムに検出され,周波数と位 相を電子的に制御して高効率加熱を実現している. また,図2はマイクロ波を生体細胞に照射して細胞 を発熱・凝固させて止血しながら切断手術を行うこと ができるマイクロ波手術器具である[8].マイクロ波 手術器具では,アンプの負荷は人体の臓器や血管であ り,それらのインピーダンスは部位により異なる. 図3は,パワーアンプ特性の負荷インピーダンス依 存性の一例を示している.この例では,2.45GHzにお いて負荷抵抗が50Ωから10Ωに変化すると,Poutが 約6dB落ち,効率は約40%低下している.このよう に,負荷インピーダンス変化はマイクロ波加熱にとっ て無視できない非常に大きな影響を及ぼす.したがっ て,マイクロ波を適切に照射し続けるためには,パワー アンプの出力電力や効率が負荷インピーダンスによっ て低下しないようにしなければならない.

3.

インピーダンス可変方式

図4は,FETスイッチを用いたインピーダンス可変 方式整合回路の構成図である.容量切り替えスイッチ 部を三つ用いることであらゆる負荷に対して整合が可 能となる.三つのスイッチ部は4分の1波長線路を介 して縦続に接続されている. 負荷インピーダンスは常に変動し続ける事を想定し, 容量値はスイッチで動的に切り替える.ここで,変動 する負荷インピーダンスに対して,できるだけ少ない 容量値の切り替えで対応できるように工夫する必要が ある.例えば,3個(3ビット)のスイッチは最大8 図 4 スイッチを用いたインピーダンス可変方式整合回路

(3)

図 5 整合すべき 5 点の代表的負荷インピーダンス 通りの整合パターンがあるが,全ての状態が整合に有 効とは限らない.これらを勘案して,複数の負荷イン ピーダンスに対応できる容量値の設定方法を検討する. なお,図中ではスイッチはSPDT(Single-Pole Double-Throw:単極双投)型で描いているが,簡単に構成でき る電子スイッチはSPST(Single-Pole Shingle-Throw: 単極単投)型であり,そのことも考慮する. ここで,整合すべき代表的負荷インピーダンスを図5 で示すように5点選び,スミスチャートのほぼ全域の 負荷インピーダンスをカバーできる条件について検討 する.設計周波数は2.45GHzに設定し,FETのOFF 容量,ON抵抗等の寄生成分は考えないものとする. 図5の目標負荷インピーダンスに対し,それぞれ整 合に必要な容量値を検討する.図4の回路は古くから あり,インピーダンス整合法としてスミスチャートを 用いた図式解法が良く知られている[9].しかし,回路 最適化のためには理論式に基づく解析が必要であり, 整合のための厳密な回路方程式を今回新たに導出した. 図6は,負荷インピーダンスの位置と整合の取り方 の場合分けを示している.まず,図6 (a)はアドミタン スチャートを示し,R= R0の円(以下R0円と称す) も同時に示している.この,R= R0の円とG= G0の 円(以下G0円と称す)は整合を取る上で重要である. ここで,R0,G0は系の基準インピーダンス,アドミ タンスである. ゾーン1(|YL| > 0.02S)の場合の整合法を図7に示 す.C1は不要であり,C1= 0pFとしてよい.TL1に よりR0円内に移動し,C2R0円の円周上にもって いく.そうすると,TL2によりG0円の円周上に移動 するため,C3で整合することができる. これを回路方程式で記述する.負荷アドミタンスを YL= GL+ jBL (1) とすると,Y ’1は次のように書ける. 図 6 負荷インピーダンスの位置による場合分け 図 7 ゾーン 1 での整合の取り方 Y1′= G 2 0GL G2L+ B2L − j G20BL G2L+ B2L (2) また,R2= R0とするため,次式が成り立つ. Y2= R0 R20+ X22 − j X2 R20+ X22 (3) 一方で,次式が成り立つ. Y2= Y1+ jωC1= G1+ j(B1+ ωC1) (4) よって, R0 R20+ X22 = G20GL G2L+ B2L (5) − X2 R02+ X22 = − G20BL G2L+ B2L + ωC2 (6) であるから,

(4)

図 8 ゾーン 2 での整合の取り方 X22=R0G 2 L+ R0B2L− GL G20GL (7) となり,以下のようにC2の値が決まる. C2= G20BL+G0 √ G0GL ( G2L+B2L−G0GL ) ω(G2 L+B 2 L ) (8) また, G2= R0 R2 0+ X 2 2 = G 2 0GL G2L+ B2L (9) Y2′= G 2 0G2 G22+ B22 − j G20B2 G22+ B22 = G0− jG0 ( G2L+ B2L− G0GL ) GL (10) より,C3の値が以下のように決まる. C3= 1 ω √ G0 ( G2L+ B2L− G0GL ) GL (11) 次に,ゾーン2(|YL| < 0.02SかつR0円を含む上 方)の場合の整合法を図8に示す.C1R0円の円周 下半分上に移動させ,TL1でG0円の円周上に移動さ せ,C2で整合させる.C3は不要であり,C3= 0pFと してよい.この時点で整合が取れているため,TL2は 単なる伝送線路として働く.以下,回路方程式から導 出する. Y1= YL+ jωC1= GL+ j(BL+ ωC1) (12) Y1= R1 R2 1+ X 2 1 − j X1 R2 1+ X 2 1 = R0 R2 0+ X 2 1 − j X1 R2 0+ X 2 1 (13) GL= R0 R02+ X12 (14) 図 9 ゾーン 3 での整合の取り方 B1= − X1 R02+ X12 = BL+ ωC1 (15) したがって, X12=R0− GLR 2 0 GL (16) B1=√GL(G0− GL) (17) となり,C1の値が以下のように決まる. C1= √ GL(G0− GL) − BL ω (18) また, Y1′= G 2 0G1 G21+ B21 − j G20B1 G21+ B21 = G0− jG0 √ (G0− GL) GL (19) より,C2の値が以下のように決まる. C2= G0 ω √ (G0− GL) GL (20) 次に,ゾーン3(|YL| < 0.02SかつR0円の下方)の場 合の整合法を図9に示す.C1は不要であり,C1= 0pF としてよい.まず,TL1でゾーン2に移動させ,以下, ゾーン2と同様のことを,C2,C3で行う.すなわち, C2でR0円の円周下半分上に移動させ,TL2でG0円 の円周上に移動するため,C3で整合できる. Y1′= G 2 0GL G2L+ B2L − j G20BL G2L+ B2L (21) Y2= G20GL G2L+ B2L + j ( − G 2 0BL G2L+ B2L + ωC2 ) (22) 一方で,R2= R0とするため,次式が成り立つ.

(5)

Y2= R0 R20+ X22 − j X2 R20+ X22 (23) よって R0 R20+ X22 = G20GL G2L+ B2L (24) − X2 R2 0+ X 2 2 = − G 2 0BL G2L+ B2L + ωC2 (25) であるから,C2の値が以下のように求まる. X22=GL(GL− G0) + B 2 L G30GL (26) C2= G20BL+G0√(G2L+B2L−G0GL ) G0GL ω(G2L+ B2L) (27) また, G2= G 2 0GL G2L+ B2L (28) B2= − X2 R02+ X22 = G0√(G2L+ B2L− G0GL ) G0GL G2L+ B2L (29) より, Y2= G0− j G 2 0B2 G2 2+ B 2 2 = G0− jG0 ( G2L+ B2L− G0GL ) GL (30) となり,C3の値が以下のように決まる. C3= 1 ω √ G0(G2L+ B2L− G0GL ) GL (31) 図5に定めた目標負荷インピーダンスでは,負荷⃝1 (10Ω)はゾーン1,負荷⃝2(150Ω)と負荷⃝4(20+j50) はゾーン2,負荷⃝5(20−j50Ω)はゾーン3に分類さ れ,負荷⃝3(50Ω)は全ての領域の境界であるが,容 量C1,C2,C3を全て0にする事で整合が取れる.整 合に必要な容量値を表1に示す. これで基本的に整合可能であるが,実際に回路を構 成する際,0pFの素子値の実現は難しい.そこで,上 記導出で0pFとした容量に対する自由度を有効活用し 表 1 整合に必要な容量値 図 10 ゾーン 2 で C3も用いた整合の取り方 て違う容量値の組み合わせで整合する事を考える. まず,ゾーン1とゾーン3ではC1を0pFから増や したときにC2,C3 がどのように変化するかを見る. また,ゾーン2においてはC3を有効に活用できる別 解を考える.図10で示すように,まずC1でゾーン3 に移動させ,TL1でゾーン2に移動させる.そうする と,以下ゾーン2と同様の手順で整合できる.すなわ ち,C2R0円周の下半分上に移動させ,TL2でG0 円周上に移動し,C3で整合する. Y1= YL+ jωC1= GL+ j(BL+ ωC1) (32) Z1= GL G2L+ (BL+ ωC1)2 − j (BL+ ωC1) G2L+ (BL+ ωC1)2 (33) R1= GL G2L+ (BL+ ωC1)2 < R0 (34) より, ωC1> √ GL(G0− GL) − BL (35) となり,C1は前述のゾーン2で求めた容量C1よりも 大きいことが条件である.後はゾーン3の手順に従う. これらに基づき,C1に対するC2,C3の変化を計算 した結果を図11に示す.今回,このように,各容量の 関係を明示的に求めることができた.また,図11で 得られた結果から容量値の組み合わせを選択した一例 を表2に示す. 表2に示した容量によりΓ = 0.05以下で整合を取 ることができた.しかし,C1,C2,C3に必要な容量

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図 11 C1に対する C2,C3の変化(ゾーン 2 で C1を用い る場合) 表 2 整合に必要な容量値の一例 値の数は,C1が4種類,C2が4種類,C3が5種類と なり,FETスイッチが多数必要なため,切り替える容 量値の数の削減を検討した.整合条件は少し緩めて, Γ= 0.2以下で目標負荷インピーダンスと整合を取る ことにする.図11を用いれば,切り替え数の少ない 容量値の組み合わせを系統的に求めることができるは ずであるが,現段階では導出法の確立はできていない ため,今回は試行錯誤で組み合わせを求めた.表3に 求めた容量値を示す.切り替える容量値の数は削減さ れ,C1は2種類,C2は3種類,C3は2種類となった. 次に,これをFETスイッチ切り替えで実現する方法 を検討する.図12は,2ビットの場合のFETスイッ 表 3 切り替え容量値の数を減らした場合の一例 図 12 FET スイッチ切り替え型可変容量(2 ビットの例) チ切り替え型可変容量の構成である.マイクロ波帯で はFETのオフ容量はオン抵抗を減らすために許容す べきであり,オフ容量込みの回路設計が必要である. 容量値の設計は以下のように行う.まず,2進数の K桁目のビットに1が立つときの可変容量の容量値と K桁目が0の場合の容量値の差分∆CKを全てのKに ついて定める.また,全桁が0のときの容量値CRを 定め,切り替え用固定容量値CK及び基準用固定容量 値C0は,スイッチ素子のオフ容量値CFKを用いて次 式から導出する[10]. CK = AK+ √ A2K+ 4AKCFK 2 (36) ここで, AK = K−1 i=1 ( 2K−1−i∆Ci ) + ∆CK (37) であり,また, C0= CR− N ∑ i=1 Ci· CF i Ci+ CF i (38) とする.右辺がもし負の値になった場合は,次式に示 すインダクタンスL0により等価的に実現する. L0= 1 ω2 0C0 (39) 表3のC2 の設計を例として説明する.FETのオ フ容量を2.6pFとした場合,二つのFETスイッチを 切り替えて0.5pF,1.2pF,2.2pFを実現する.1状態

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は使用しないが,その状態を2.9pFとすれば設計で きる.Nが2より,A1 =0.7pF,A2 = 1.7pFとなり, C1= 1.744pF,C2= 3.118pF,またCR= 0.5pFである から,C0 = −1.962pFすなわちL0 = 2.151nHと求め ることができる.同様にして,C1は2.188pFの固定容 図 13 FET スイッチ切り替え型可変整合回路の例 図 14 可変整合回路による整合結果の例 図 15 スイッチを切り変えたときの整合効率 量と並列インダクタL0 = 22.45nHで,C3は2.862pF の固定容量と並列キャパシタC0 = 0.138pFで実現す ることができる.図13にFETスイッチ切り替え型可 変整合回路の等価回路の例を,図14に可変整合回路 による整合結果の例を示す.図13は10Ω負荷に整合 した例であり,C3の回路のFETのみオンになってい ることを示している.図14で2.45GHzのマーカーが 完全に中心に集まっていないのは,切り替える容量値 の数を減らす際に,設定した5点とは少しずれた点で 整合を取ったことによる. 目標負荷インピーダンスごとに設計した可変整合 回路の整合効率をスミスチャート上で示すために, 2.45GHzでの反射係数をスミスチャート全域で求め, 反射係数から算出した整合効率の等高線図を図15に 示す.切り替え式整合回路により,図中黄色円の内側 で80%以上の整合効率が得られることが分かった. なお,今回設計した可変整合回路を全体として見た とき,FETの切り替えパターンは合計16パターン存 在する.今後の研究により,これらを有効に用いる方 法が確立できれば,更に細かなインピーダンス整合点 の切り替えや,あるいは周波数特性を考慮した整合な ど,適用範囲の拡大に繋がる可能性がある.

4.

周波数掃引方式

本研究で提案する周波数掃引方式可変整合回路の構 成を図16に示す.この整合回路は誘電体同軸共振器 を用いて位相回転を行うことで,整合回路が小型化, 低損失化されている.回路は伝送線路,キャパシタ, 誘電体同軸共振器で構成されており,各々のパラメー タと段数を変化させることで回路特性を制御できる. ここでは,4段構成で回路パラメータを変化させ, 2.4GHzから2.5GHzにおいて各パラメータが回路特 性に与える影響をシミュレーションした.なお,誘電 体同軸共振器単体は,2.5mm角で長さ5mm程度の大 きさのものが想定されている. 各共振器の共振周波数は,共振周波数を帯域に等間 図 16 周波数掃引方式可変整合回路

(8)

表 4 整合回路の回路パラメータ 図 17 得られたインピーダンス軌跡 隔に配置することで,スミスチャート上を均等に覆う 位相回転が可能であることがわかった.伝送線路の電 気長は,スミスチャート上で共振器による位相回転の 位置に影響することがわかった.結合容量値は,位相 回転円の大きさを変化させることがわかった. 以上の検討に基づき設計された整合回路の回路パラ メータを表4に示す.ここで,回路設計は,共振器の 特性インピーダンスを25.136Ωとし,電気長は全て中 心周波数2.45GHzの値で表し,回路シミュレータ上の チューニングで行った.なお,図16の回路は帯域阻 止フィルタであるため,望ましい特性の定量化ができ れば,フィルタ理論による設計が可能と思われる. 図17に得られたインピーダンス軌跡を示す.特性 はS11,S22ともに均等な大きさの軌跡がスミスチャー ト上を満遍なく覆い,所望回路特性が実現できている. 全負荷インピーダンスに対して最適周波数に設定した 際の整合効率を算出し,等高線図で表したものを図18 に示す. インピーダンス軌跡上の負荷では整合効率が100% となり,インピーダンス軌跡から離れている負荷でも 実用上問題ない程度に整合できている.図18から,整 合回路に負荷を接続する際のポートの向きによって整 図 18 周波数掃引方式による整合効率 合特性に若干の差があることがわかった.なお,整合 効率が低い領域に対しては,共振器の数を増やして整 合回路を多段化することで改善可能と考えられる.

5.

マイクロ波加熱でマイクロ波を適切に照射し続ける ため,動的に負荷インピーダンス整合を行う可変整合 回路を検討した. インピーダンス可変方式では,FETスイッチ式可変 整合回路の基礎検討を行った.3個の容量切り替えス イッチを用いる回路の回路方程式を理論から導出し, 各容量値の厳密解を求めた.また,FETスイッチ切り 替えの実現方法を検討し,オフ容量込みの回路設計を 可能にした.各目標負荷インピーダンス近傍において シミュレーションで80%以上の整合効率を得た. 周波数掃引方式では,誘電体同軸共振器を用いた小 型・低損失な可変整合回路を検討した.4段構成で,共 振器の共振周波数,伝送線路の電気長,結合容量値を 変化させ,インピーダンス軌跡がスミスチャート上を 満遍なく覆う所望の回路特性を実現した.その結果, インピーダンス軌跡近傍で良好な整合が実現できた. 今後,実回路開発に向け寄生成分の考慮,耐電力性の 検討や,整合回路の損失最小化のためにインピーダン ス間のポアンカレ距離[11]の検討を行う予定である. 文 献

[1] A. Fukuda, H. Okazaki, and S. Narahashi, “Highly efficient multi-band power amplifier employing reconfigurable matching and bi-asing networks,” IEICE Trans. Electron., vol.E93-C, no.7, July 2010.

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[3] 鈴木麻子,ほか,“スミスチャート上に渦巻軌跡を描く周波

数掃引インピーダンス整合回路,” 信学技報,MW2018-164,

March 2019.

(9)

Nishihara, K. Kawashima, and M. Nakayama, “Internally matched GaN FET at C-band with 220W output power and 56% power added efficiency,” Proc. APMC2012, Dec. 2012.

[5] Y. Itoh and K. Honjo, “Fundamental perspective of future high power devices and amplifiers for wireless communication sys-tems,” IEICE Trans. Electron., vol.E86-C, no.2, Feb. 2003. [6] K. Nakatani and T. Ishizaki, “2.4GHz-band 100W GaN-HEMT

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[8] 仲 成幸,山田篤史,谷 徹,“マイクロ波手術機器と術 中 MRI が実現する究極の手術システム,” MWE2019 ダイ ジェスト,TH2B-2, Nov. 2019. [9] 中島将光,「マイクロ波工学」,森北出版,第 3 章 3.4 節な ど,1975. [10] 永田智士,石崎俊雄,“共振器結合型 WPT システム用 FET スイッチ式適応整合回路,” 信学技報,WPT2019-39, Oct. 2019.

[11] K. Yamada and T. Ohira, “Graphical representation of the power transfer efficiency of lumped-element circuits based on hyperbolic geometry,” IEEE Trans. on CAS, vol.64, no.5, May 2017.

(2020 年 7 月 17 日受付,8 月 20 日再受付, 9 月 3 日早期公開) 石崎 俊雄 (正員:シニア会員) 1981 年京大工電気第 2 卒.1983 年同修 士課程了.同年 4 月,松下電器産業に入社. 以来,同社研究部門にて,高周波・マイク ロ波デバイス・回路,無線通信装置,携帯電 話用フィルタなどの開発に従事.1998 年, 京都大学工学博士号取得.2010 年から龍谷 大学理工学部教授.1998 年 OHM 技術賞,2003 年度電気学会 優秀論文賞,2015 年度電子情報通信学会最優秀論文賞を受賞. IEEE 及び電子情報通信学会シニア会員.2014 年から 2016 年ま で IEEE MTT-S 関西チャプター・チェアー,APMC 2018 実行委 員長を務めた. 松室 尭之 (正員) 平 24 京都大学工学部電気電子工学科卒. 平 29 同大大学院工学研究科博士課程了. 平 29 龍谷大学先端理工学部助教となり現 在に至る.博士(工学).マイクロ波電力伝 送システムの研究開発に従事,2013 TJMW Best Presentation Award 受賞.IEEE,電気学 会,宇宙太陽発電学会,海洋インバースダム協会各会員.IEEE MTT-S Kansai Chapter WTC Chair,本会通信ソサイエティ無線電 力伝送研究専門委員会コンテスト委員.

図 5 整合すべき 5 点の代表的負荷インピーダンス 通りの整合パターンがあるが,全ての状態が整合に有 効とは限らない.これらを勘案して,複数の負荷イン ピーダンスに対応できる容量値の設定方法を検討する. なお,図中ではスイッチは SPDT ( Single-Pole  Double-Throw :単極双投)型で描いているが,簡単に構成でき る電子スイッチは SPST ( Single-Pole Shingle-Throw : 単極単投)型であり,そのことも考慮する. ここで,整合すべき代表的負荷インピーダ
図 8 ゾーン 2 での整合の取り方 X 2 2 = R 0 G 2 L + R 0 B 2 L − G L G 2 0 G L (7) となり,以下のように C 2 の値が決まる. C 2 = G 20 B L + G 0 √ G 0 G L ( G 2 L + B 2 L − G 0 G L ) ω ( G 2 L + B 2 L ) (8) また, G 2 = R 0 R 2 0 + X 22 = G 20 G LG2L+B 2 L (9) Y 2 ′ = G 20 G 2 G 2 2 + B 22
図 11 C 1 に対する C 2 , C 3 の変化(ゾーン 2 で C 1 を用い る場合) 表 2 整合に必要な容量値の一例 値の数は, C 1 が 4 種類, C 2 が 4 種類, C 3 が 5 種類と なり, FET スイッチが多数必要なため,切り替える容 量値の数の削減を検討した.整合条件は少し緩めて, Γ = 0.2 以下で目標負荷インピーダンスと整合を取る ことにする.図 11 を用いれば,切り替え数の少ない 容量値の組み合わせを系統的に求めることができるは ずであるが,現段階では導出法
表 4 整合回路の回路パラメータ 図 17 得られたインピーダンス軌跡 隔に配置することで,スミスチャート上を均等に覆う 位相回転が可能であることがわかった.伝送線路の電 気長は,スミスチャート上で共振器による位相回転の 位置に影響することがわかった.結合容量値は,位相 回転円の大きさを変化させることがわかった. 以上の検討に基づき設計された整合回路の回路パラ メータを表 4 に示す.ここで,回路設計は,共振器の 特性インピーダンスを 25.136Ω とし,電気長は全て中 心周波数 2.45GHz の値で表

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