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Key words ALS respiratory failure ventilation tracheostomy music therapy Spinal Surgery ALS ALS ALS 1 ALS ALS Fig

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はじめに

 ALS における問題は身体的問題,社会的問題,精神・ 心理的問題に分けられる.身体的問題には,四肢麻痺, 球麻痺,呼吸筋麻痺があるが,呼吸の問題は生命に直結 する.ALS 患者のケアにおける重要なポイントは,栄養 管理,呼吸管理,コミュニケーション手段の確立であり, 呼吸管理は ALS ケアの中で特に重要なテーマであるが, 誤解も多い1).ここでは,ALS 患者の呼吸管理について 述べる.

呼吸筋麻痺の出現時期

 かつて,ALS の筋力低下は上肢に始まり,下肢筋力低 下,球麻痺と進行した後に呼吸筋麻痺が生じる例が多い と考えられていたが,上肢筋力低下に続いて呼吸筋麻痺 が生じることも少なくなく,呼吸筋麻痺が初発症状の例 もある.Fig. 1 に自験 66 例における発症から気管切開ま での期間別の人数を示す.発症から 1∼4 年が多く,平 均は 2 年 9 カ月だった.患者によって早い場合は発症 後 6 カ月以内,遅い場合は 10 年以上経ってから呼吸不 全に至る場合もある.初発部位による病型別の発症から 気管切開までの期間は,上肢型 32.8 カ月,下肢型 28.3 カ月,球麻痺型 25.3 カ月,呼吸筋麻痺型 12.4 カ月だっ た.

ALS の呼吸機能評価

 呼吸不全に対する対応を検討するためには呼吸機能を 経時的に評価する必要がある.呼吸機能の評価には,肺 活量(VC),努力性肺活量(FVC)が有用である.ALS の肺活量低下の出現時期はまちまちだが,低下し始める と時間の経過とともに確実に落ちていく.したがって, 肺活量が正常な間は肺活量の測定は 3 カ月に 1 回でよ いが,%VC が 80%を切ると 1 カ月ごとに測定していく のがよい.呼吸には横隔膜と肋間筋がおもに関与してい るが,肋間筋と傍脊柱筋は同じ胸髄支配であるため,傍 脊柱筋の萎縮が進行している場合は呼吸筋麻痺の進行に より注意が必要である(Fig. 2).  肺活量測定において,顔面筋,特に口輪筋の筋力低下 が生じると肺機能検査時にマウスピースをうまく装着で きなくなる.その場合には,マウスピースの代わりにマ スクを接続して測定する.診察室やベッドサイドにおい ては,マスクをレスピロメーターに接続して肺活量を測 定することが簡便である.このレスピロメーターは,気 管切開後においても,カニューレと接続することで肺活 量を測定することができる.  上位ニューロン障害が強い ALS の場合には,肺活量測 定がうまくできないことがある.その場合には,臨床所 見と血液ガス分析の値を参考とする.  呼吸不全を示唆する臨床症状を表に示す(Table 1).努 力様呼吸や呼吸数増加,脈拍数増加の有無に注意する.

ALS の呼吸器療法

Management of Respiratory Failure in ALS

近 

藤 

清 

公立八鹿病院脳神経内科

公立八鹿病院脳神経内科/〒667−8555 養父市八鹿町八鹿 1878−1〔連絡先:近藤清彦〕

Address reprint requests to:Kiyohiko Kondo, M.D., Department of Neurology, Yoka Hospital, 1878−1 Yoka, Yoka−cho, Yabu−shi, Hyogo 667−8555, Japan

Review−Essentials

Key words: ALS respiratory failure ventilation tracheostomy music therapy Spinal Surgery 27(3)221−229,2013 発症からの経過 人数 18 16 14 12 10

∼6m ∼1y ∼2y ∼3y ∼4y ∼5y ∼6y ∼7y ∼8y ∼9y ∼10y ∼12y ∼15y

8 6 4 2 0 Fig. 1 自験 66 例における発症から気管切開までの期間別の人数 1∼4 年が多く,平均は 2 年 9 カ月だった.

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著者が最も重視しているのは苦悶様顔貌で,眉間に縦皺 がみられる場合にはかなり呼吸困難が進行している状態 である(Fig. 3).

1

 酸素飽和度と血液ガス分析の落とし穴

 呼吸状態の評価に酸素飽和度測定や血液ガス分析が日 常的に活用されている.ALS では,肺活量低下が生じて も呼吸努力や呼吸数増加によって酸素飽和度や血液ガス 分析の酸素値にはすぐには反映されない.特に,急性に 呼吸不全が進行した場合には,これらの数値に変化があ らわれにくい.  一方,進行が緩徐で経過が長い ALS 患者においては, 呼吸困難感の訴えが乏しく,血液中の二酸化炭素値上昇 が進行して CO2ナルコーシスに陥ることがあるため,定 期的な動脈血ガス分析を行っておく必要がある.

2

 呼吸管理の段階

 呼吸管理は,肺活量(VC)や努力性肺活量(FVC)が 低下すると開始する.米国のガイドラインでは,ALS で は%FVC 50%以下が呼吸補助の基準として挙げられて いる2∼4).当院では,ALS により呼吸筋麻痺が起こる可 能 性 に つ い て は 病 名 告 知 時 に 一 度 説 明 し て お く が, %FVC が 80%を切ったら呼吸管理の方法(Table 2)につ いて再度説明する.%FVC が 60%以下に低下したら非 侵襲的陽圧換気(NPPV)の練習を開始する.IPAP 8 cmH2O,EPAP 4∼2 cmH2O で開始し,1 回換気量をみな がら IPAP のみを徐々に上げる.当初は IPAP が 10∼12 cmH2O で維持可能だが,呼吸不全の進行とともに 16∼ 18 cmH2O へ上げる.  当初は日中に 20∼30 分を目標に装着練習を行い, 徐々に延長していく.装着に慣れたら,夜間の装着練習 を行い,一晩中装着できることを目指す.夜間の睡眠中 に装着が可能となれば,日中の呼吸困難感が軽減し,日 中は装着なしで過ごせるようになることも多い.しかし, その後,経過とともに NPPV の装着時間を延長せざるを 得なくなることが多い.  NPPV が普及するまでは%FVC が 40%以下で気管切 開を検討していた5).また,NPPV は,当初は%FVC 40% 前後で呼吸困難感が明らかになってから開始していた が,その場合には NPPV に順応できないことが多かっ た.近年,NPPV を早期(%FVC 60∼50%)に導入する ようになってからは,気管切開の時期を 1∼2 年遅らせ ることが可能となった.NPPV と気管切開下陽圧人工換 気(TPPV)の長所と短所を表に示す(Table 3)Fig. 2 呼吸筋麻痺で発症した ALS 患者 四肢の筋萎縮に先行して著明な傍脊柱筋萎縮 を認める.

a

Fig. 3 気管切開前後での表情変化 a:気管切開 2 週前.b:気管切開 4 週後.気管切開前にみられ た眉間の縦皺は呼吸不全の改善後には消失.表情筋も回復した.

b

Table 1 ALS の呼吸不全徴候 痰・唾液の喀出不十分 頭痛・不眠 四肢が鉛のように重い感じ 会話時の息切れ 努力様呼吸 呼吸数増加 頻脈 苦悶様顔貌 肺活量低下 %FVC<50% Table 2 肺活量(%FVC)と呼吸管理の段階 %FVC<80% 人工呼吸器装着について相談開始 %FVC<60% 非侵襲的陽圧呼吸の導入        人工呼吸器装着の意思確認 %FVC<40% 気管切開の時期を検討

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気管切開について

1

 気管切開が必要となる状態

 NPPV が 24 時間必要となったら,気管切開による人 工呼吸器装着を検討する時期と考えている.気管切開を 行うと決めていても,多くの患者が気管切開をなるべく 先延ばしにしたいと考えている.しかし,24 時間装着の 時期を経てから気管切開した患者は,マスク装着による 圧迫感や視野障害からの解放,換気の改善などから安楽 を感じ,もっと早期に気管切開に移行しておけばよかっ たと感じることが多い.  嚥下障害が先行し,気道内への唾液の貯留が多く,気 管内から分泌物の吸引が必要な場合は,呼吸機能が低下 していなくても気管切開が必要になる.この場合,分泌 物の吸引のみを行い,陽圧式人工呼吸器装着を行わない ときには,トラヘルパーやミニトラックなどの使用も 検討される.

2

 気管切開の 2 つの方法

1 .従来の気管切開  気管切開のみを行いカニューレを装着する方法.局所 麻酔下でも手術可能で,手術時間が短い.咽頭・喉頭や 舌の麻痺が軽度の場合には,気管切開後もカニューレの 工夫などで発声できる場合がある.一方,唾液などが気 道内へ落下してカニューレ挿入部の気管切開孔から流出 したり,下気道への落下で嚥下性肺炎をきたすことがあ り,一般に気管からの痰の吸引回数が多くなる. 2 .気管食道分離手術  気管切開とともに気管入口部を閉鎖したり,喉頭摘出 を行う手術.咽頭筋が保たれていれば,誤嚥の心配なく 食事の経口摂取を試すことが可能.気管内への分泌物落 下が全くないため,嚥下性肺炎をきたすことがなく,気 管カニューレ内からの吸引回数は少ない.全身麻酔が必 要で,手術時間が長くなる.手術直後から声帯を使って の発声は全くできなくなる.

3

 気管切開を行わない場合の対応

 NPPV は行うが気管切開を行わない場合と NPPV も 行わない場合がある.呼吸不全により CO2が上昇してく る場合は呼吸苦の訴えが少ないが,努力呼吸が続くと呼 吸苦が強くなり,対症療法としてモルヒネの使用が必要 になる場合がある6)

人工呼吸器装着後の残存能力

 人工呼吸器を装着後,呼吸苦の改善とともに残ってい る能力が明らかになってくる.呼吸筋の休息と陽圧呼吸 による胸郭の拡張により,ほとんどの例で一時的な呼吸 器離脱が可能となる.経験的には,レスピロメーターに よる測定で肺活量が 1,000 cc あれば,日中の呼吸器離脱 が可能で,500 cc 以上あれば,30 分∼1 時間の離脱が可 能である.Fig. 4 のように,下肢発症以外の例では,多 くが介助での歩行が可能となり,球麻痺発症以外では, 嚥下や発声機能がある程度の期間保たれる7).完全四肢 麻痺になっても,顔面筋が保たれる例が少なくなく,こ のような例では,意思疎通が長期にわたって行いやすい.

長期管理における合併症

 長期管理においてよく経験される合併症を Table 4 に 示した.ALS において,滲出性中耳炎の併発はしばしば Table 3 NPPV と TPPV の比較 TPPV NPPV 必要 やや煩雑 よい NPPV が困難ないし 24 時間 必要なとき 気管内吸引が必要なとき 初期は可能 気管カニューレの違和感 容易(頻回なことあり) 有用 進行しても可能 定期的に必要 可能 器具の工夫で可能 (球麻痺が進行すると不能) 球麻痺が軽度のときは可能 あり(管理料,呼吸器加算) 不要 簡便 悪い %FVC が 50%以下 初期は可能 マスクの圧迫感・視野障害 困難 有用 進行すると限界あり 不要(使用せず) 可能 比較的容易 (球麻痺が進行すると不能) 球麻痺が軽度のときは可能 あり(管理料,呼吸器加算) 気管切開 導入の簡便さ 換気効率 開始時期 間欠的離脱 違和感 痰の吸引 MAC の有用性 効果の限界 カニューレ交換 在宅での使用 発声 経口摂取 保険適応 NPPV:非侵襲的陽圧換気,TPPV:気管切開下陽圧人工換気

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経験される.嚥下不能となり,咽頭部に分泌物貯留が多 くなると出現しやすい.気づかないと患者の反応が鈍く なったことから認知症の合併ととらえてしまうこともあ るので注意が必要である.耳鼻科的処置で聴力は改善す るので,見逃してはならない合併症の 1 つである.臥床 期間が長くなると,胆道系感染症10)や尿管結石,水腎症 に伴う尿路感染症が多くなる.

最近の器具の進歩

1 .カフエア調節不要のカニューレ  気管カニューレはカフ付きで,サイドチューブがある ものを使用することが多い.気道粘膜の損傷を予防する ため,カフ圧を 10∼20 cmH2O に調節しておく必要があ る.カフ圧測定やカフエアの量の測定に手間がかかるが, 当科ではランツ(空気圧自動調節機能)付きのカニュー レを使用することでこれを省略できた(Fig. 5). 2 .人工呼吸器を装着したまま発声が可能なカニュー  気管切開施行直前まで発声可能であった患者は,気管 切開後も発声できることが多い.気管カニューレを装着 した状態での発声方法として,1カフエアを減量して空 気の漏れを利用する方法,2サイドチューブからエアを 注入して発声する方法がよく行われてきたが,いずれも, カフの上部の分泌物が肺に落下して肺炎を惹起する危険 があった.  近年わが国で使用可能となった Blom 気管切開チュー ブでは,専用の内筒(Blom スピーチカニューレ)の Fig. 5 ランツ(空気圧自動調節機能)付きのカニューレ 風船状のランツのふくらみ具合をみてエアを追加する.カフ圧測定 やカフエアの量を測定する必要がない. Table 4 ALS 患者にみられる合併症(文献 9 より引用) 呼吸器系 :肺炎(反復・難治性),無気肺,気胸,呼吸に関 する訴え 心循環器系:呼吸器導入時の低血圧・意識消失       装着中の不整脈,高血圧,低血圧 消化器系 :流涎過多,呑気症,巨舌,反射性咬舌,腸管蠕動 変化(便秘,下痢),胃十二指腸潰瘍,穿孔,イ レウス,上腸間膜動脈症候群,食事性糖尿病,高 血糖,脂肪肝,胆石症,胆のう炎 耳鼻科系 :滲出性中耳炎,めまい(体位・頭位変換時) 眼科系  :流涙過多,羞明,相対的鼻涙管閉塞 泌尿器系 :残尿,頻尿,慢性膀胱炎,尿管結石,水腎症 知覚系  :全身諸部の疼痛・過敏症状 皮膚科系 :皮膚掻痒症,褥瘡 呼吸器装着後経過(月) 上肢型 下肢型 球麻痺 型 呼吸筋 麻痺型 0 5 10 15 20 25 30 34 33 32 31 30 29 28 27 26 25 24 23 22 21 20 19 18 17 16 15 14 13 12 11 109 8 7 6 5 4 3 2 1 *機能保持中Fig. 4 人工呼吸器装着後の歩行機能保持期間(文献 8 より引用)

(5)

使用により,独自の 2 種類の弁によって空気の流れる方 向を変えることで,カフをふくらませた状態で人工呼吸 器を作動させながら発声することが可能になる11)(Fig.  6).ただし,いずれの方法も構音筋が麻痺すると発声は できない. 3 .痰の自動吸引装置  気管からの痰の吸引回数が多い場合の介護者の負担軽 減を目的に,気管カニューレ内からの自動吸引装置12) 開発された.これは,専用の気管カニューレと専用のポ ンプを用いてカニューレ内側吸引孔より低量持続吸引を 行う自動吸引である.1人工呼吸器を装着したまま痰の 吸引が行えるため安全であり,2外部からの菌の持ち込 みがなく,3気管内の痰の吸引時に苦痛がないなどの利 点がある(Fig. 7).自験例では,1 日の気管内吸引回数 が激減した例があるが,痰の粘度が高い場合は使用でき ないこともあった. 4 .排痰用の機器  ALS 患者で最も注意すべき合併症は肺炎,無気肺であ る.用手排痰法に加えて,機械的排痰補助(mechanical assisted coughing:MAC)を用いた咳嗽介助としてカフ アシスト(カフマシーン)の利用が痰の喀出に効果的 である13).NPPV を行っている患者にはマスクを使用し, 気管切開患者にはカニューレに直接つないで使用する. 保険診療でのレンタルが可能となっている(Fig. 8).そ の他に,体表面から任意の高頻度振動を与えて排痰を促 進させる高頻度胸壁振動法(スマートベスト),特殊な 人工呼吸器(パーカッショネア)を用いた肺内軽打換 気法がある.

在宅人工呼吸療法

1

 退院の準備

 ALS 患者の在宅人工呼吸療法はわが国では 1980 年代 後半に始まり,1990 年に保険診療上の管理料が認められ 在宅医療の 1 つとなった14).これを行うための条件を以 下に示す15)  1患者と家族に在宅療養の希望がある.  2相談や往診を依頼できる主治医がいる.  3緊急入院が可能なベッドが確保されている.  4病院から十分な退院指導が受けられる.  5訪問看護などの在宅支援体制がある.  人工呼吸器の選択には,大きさや操作性,深呼吸機能 の有無,騒音の程度,3 電源(AC 電源・バッテリー・車 でのシガーライター電源)の有無,内部バッテリーの容 量,外部バッテリーの種類などを検討する.呼吸器回路 などの経費や,トラブル時の業者のバックアップ体制の 有無なども重要である.近年,コンパクト,軽量かつ高 機能な人工呼吸器が種々のメーカーから供給されるよう になり,サービス体制も充実してきている.

2

 退院前カンファレンス

 ALS 患者のケアには院内院外の多専門職種ケアチー ム(multidisciplinary care team)によるサポートが必要で

a

Fig. 7  a:気管内痰の自動吸引装置.  b:専用のカニューレ. カフエア用チューブとカフ上部からの吸引用サイドチューブ に加えて,カニューレ先端部から吸引するチューブがある.

b

a

b

Fig. 6

Blom 側孔付カフ付気管切開チューブ(a)に専用の Blom スピー チカニューレ(b)を内筒として使用することで,カフをふくら ませた状態で人工呼吸器を使用しながら発声が可能となる.

(6)

ある.Fig. 9 に当院における ALS 患者の在宅支援体制, Table 5 に各職種の役割を示す.退院前には,管轄の保健 所(健康福祉事務所)主催のカンファレンスを開催する. 参加者は,病院側からは主治医,病棟看護師,理学療法 士(および作業療法士,言語聴覚士),医療ソーシャルワー カー,臨床工学技士,院外からは,在宅主治医,保健所 保健師,ケアマネジャー,訪問看護ステーション,訪問 介護事業所,デイサービスセンター,消防署救急隊,市 町の福祉担当者,身体障害者施設,医療機器業者などに 必要に応じ参加を依頼する16)  退院前には,家族も交えて院内スタッフと院外関連機 関のスタッフでの合同カンファレンスを開催する.在宅 療養開始にあたっては,安心,安楽,安全がキーワード である.在宅療養開始時には本人・家族だけでなく,ケ アスタッフにも不安が大きい.退院前カンファレンス説 明と検討すべき内容を以下に示す.   1)身体機能,精神機能,合併症  その時点での身体機能,すなわち,上肢筋,下肢筋, 球筋(言語,嚥下),呼吸筋の麻痺の程度と,残っている 能力.ALS 以外の疾患や合併症の有無.意識や知能の状 態.   2)今後の進行予測  呼吸器の離脱時間が短くなり,歩行,会話,嚥下など, 退院時点で保たれている機能もやがて低下していく可能 性が高いこと.嚥下困難が進行した場合に胃瘻から栄養 する方法があること.   3)起こり得る合併症  肺炎,無気肺,滲出性中耳炎などの合併症が起こり得 ることと,それらに対しては治療方法があること.まれ に,人工呼吸器使用中に不整脈を生じ突然死の例がある こと.   4)予測される介護負担  症状の進行とともに介護量が増大していくこと,特に 四肢麻痺の進行とともに筋痛やだるさを訴え,四肢の マッサージや屈伸の要求が増える場合があること,完全 麻痺になると体位交換の要求が昼夜を問わず増えてくる Fig. 8  a:カフアシストとカニューレに直接接 続する回路.  b:NPPV 患者に使用するときは先端を マスクに取り換えて使用する.

a

b

院内ALSケアチーム 院外機関 神経内科医,耳鼻科医,消化器内科医 病棟・外来看護師 理学療法士 作業療法士 言語聴覚士 薬剤師 管理栄養士 歯科衛生士 臨床工学技士 医療ソーシャルワーカー(MSW) 音楽療法士 生活支援員 臨床心理士 地域主治医 保健所保健師 市町保健師 ケアマネジャー ホームヘルパー デイサービスセンター 行政福祉担当者 医療機器業者 消防署救急隊 身体障害者施設 Fig. 9 当院の人工呼吸器装着 ALS 患者の在宅支援体制

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可能性があること,吸引回数の増加が予想されること.   5)かかりつけ医との役割分担  安定した状態におけるかかりつけ医と専門医の役割分 担.訪問診察,カニューレ交換,胃瘻チューブ交換,専 門医の診察の予定.   6)在宅支援態勢  訪問看護師,ヘルパー,ケアマネジャー,臨床工学技 士,人工呼吸器業者など,在宅支援にかかわる多職種の それぞれの役割.病状の変化,呼吸器トラブル時の連絡 先.   7)緊急時の対応方法  緊急時の連絡先と対応方法.特に,救急搬送が必要な 場合の手順.患者の了解を得て退院時に救急隊に情報提 供.   8)レスパイト入院の方法  介護疲労がみられたときのレスパイト入院の相談窓 口,期間などについて.  緊急時対策として,病状変化や人工呼吸器トラブル, 停電を想定し,訪問や病院への搬送方法を検討する.地 震や台風による風水害で交通手段が断たれた場合に備 え,発電機を使用しての現地での対応も検討しておく必 要がある.また,台風など予測可能な災害に対しては, 事前に病院へ搬送する方法も検討しておく.兵庫県では 阪神・淡路大震災と台風 23 号災害(2004 年)の教訓か ら在宅人工呼吸装着難病患者災害時支援指針を作成し, 呼吸器装着者に対しては個別災害対応マニュアルを備え た.

3

 長期療養を支えるために

 当院では TPPV を開始した後に在宅療養の支援と長 期入院のどちらも選択できることを説明した結果,呼吸 不全に陥った ALS 患者 72 名中 63 名が気管切開を希望 し,うち 49 名で在宅人工呼吸療法を実施した(Fig. 10).  在宅療養を支えるためには保健所保健師やケアマネ ジャーが院外関連機関の要となって支援態勢を組んでい くが,訪問看護の役割が最も重要である.介護負担を軽 減するためには,ヘルパーやボランティアの活用が必要 となる.長期療養を支えるためには,1看護・介護技術, 2在宅ケア体制,に加えて,3患者・家族のこころのケ ア,が重要である. 1 .訪問看護師の役割  在宅療養移行後,残っている運動機能も徐々に低下し ていく.これに伴い,栄養,呼吸,コミュニケーション の方法も工夫が必要になる.最も頻繁に接する訪問看護 師はこれらの変化を医師や関係職種に伝えていく.症状 の変化に対する対応と,それに伴う患者自身への精神的 ケアが必要であり,訪問看護師の役割は大きい. 2 .レスパイト入院の必要性  訪問看護や訪問介護により昼間の在宅支援は得られや すくなったが,夜間の支援はまだ十分でない.介護疲れ の主たる要因は夜間の介護量によることが多い.間欠的 なレスパイト入院があることで在宅療養が可能となる患 者も少なくない.  全国で ALS をはじめとする神経難病患者の受け入れ を目的とした重症神経難病患者入院施設確保事業のネッ トワークづくりが行われているが,現在のところ患者家 族の希望に十分応えられる状況にはなっていない.レス パイト入院の受け皿の増加が望まれる. 3 .ALS 患者の心のケアと音楽療法  ALS 患者のケアにおいては,療養の場所の確保や介 護・看護の支援のみでなく,ALS 患者の心を支えていく Table 5 ALS ケアチーム各職種の役割 人工呼吸器の管理 人工呼吸器の取扱方法説明 自宅への呼吸器設置指導 呼吸器トラブル時の対応 貸出呼吸器の定期点検 嚥下困難時の食事工夫 ミキサー食の指導 口腔ケア 薬の説明,服薬方法の検討 福祉サービス調整 院外機関との連絡 在宅患者の支援・観察 介護者の疲労度チェック 癒し,楽しみ,こころのケア 日常生活の介助,生活面の充実 臨床工学技士 管理栄養士 歯科衛生士 薬剤師 MSW 訪問看護師 音楽療法士 生活支援員 病名告知 気管切開・呼吸器装着の説明 症状に応じた対症療法 在宅患者の訪問診察 日常生活の介助 退院指導 家庭の情報収集 筋力訓練 装具の工夫 関節可動域訓練 呼吸リハビリ 自助具の工夫 コールスイッチの製作 文字盤・環境制御装置の工夫 発語訓練・嚥下訓練 意思伝達装置の指導 精神面の分析・ケア 医師 病棟看護師 理学療法士 作業療法士 言語聴覚士 臨床心理士

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ことも忘れてはならない.  当院では,2000 年から在宅人工呼吸療法中の ALS 患 者に対し,月に 1 回の訪問診察時に音楽療法士が同行 し,歌や演奏による音楽療法を実施している(Fig. 11). 患者本人の癒しになるとともに,介護者への癒しにも なっている17).さらに,音楽療法の場を通じて,診療所 の医師や保健所保健師,訪問看護師,ヘルパー,ケアマ ネジャーなど,支援しているスタッフの心をつなぎ,支 援者のネットワークづくりにも役立っている.

おわりに

 ALS 患者の療養において人工呼吸器装着後のケア体 制の有無が呼吸器装着の選択,すなわち,生と死の選択 に少なからず影響を与えている.本人の意思に基づいた 療養方法が選択できるために在宅ケア体制の確立が急務 である.  この 20 年間で ALS 患者を取り巻く環境は大きく変 化している.安心,安全,安楽な療養生活が行えるため に,新しい機器・器具の導入,意思伝達手段の確立,在 宅支援体制の強化をさらに進めていくとともに,身体的 な命(ビオス)だけでなく,精神的ないのち(ゾエ)を 支えていくことが必要である. 文 献 1) 近藤清彦:ALS と人工呼吸器―その誤解と伝説.週刊医学界 新聞,2000 年 1 月 17 日号

2) Fallat RJ, Jewitt B, Bass M, et al:Spirometry in amyotrophic lateral sclerosis. Arch Neurol 36:74−80, 1979

3) Miller RG, Rosenber JA, Gelinas DF, et al:Practice parame-ter:The care of the patient with amyotrophic lateral sclerosis (an evidence−based review):report of the quality standards

subcommittee of the American Academy of Neurology.

Neurol-ogy 52:1311−1323, 1999

4) Miller RG, Jackson CE, Kasarskis EJ, et al:Practice Parame-ter update:The care of the patient with amyotrophic laParame-teral sclerosis:Drug, nutritional, and respiratory therapies(an evi-dence−based review). Report of the Quality Standards Subcom-mittee of the American Academy of Neurology. Neurology 73: 1218−1226, 2009 5) 小松素明,北山通朗,新改拓郎,他:筋萎縮性側索硬化症 (ALS)患者の呼吸管理―気管切開の時期に関する検討.八鹿 病誌 13:19−22,2004 6) 荻野美恵子:緩和ケアにおけるモルヒネの使用は.岡本幸市, 棚橋紀夫,水澤洋編:EBM 神経疾患の治療 2009−2010.東京, 中外医学社,2009, pp336−340 7) 近藤清彦,新改拓郎,石崎公郁子:呼吸器装着 ALS 患者の四 肢・球筋機能の予後の検討.厚生省特定疾患「特定疾患に関 する QOL 研究班」平成 10 年度研究報告書,pp211−217 8) 近藤清彦:神経筋疾患の呼吸リハビリテーション―在宅生活 に向けて:オーバービュー.J Clin Rehabil 13:359−601, 2004 9) 近藤清彦:ALS 患者の在宅ケア.坪井栄孝監,田城孝雄編: 在宅医療ハンドブック―入院医療から在宅医療へ.東京,中 外医学社,2001,pp314−325 当院主治医 ALS患者 80 呼吸不全 72 気管切開 人工呼吸器 63 NPPV 33 気管切開のみ 2  在宅 9 入院 5 転院 5 死亡 30 入院継続 14 在宅療養 49 入院 2 転院 5 死亡 7 死亡 2 在宅 2 死亡 4 NPPV・気管切開なし 1 NPPVのみ 6 27 36 死亡 1 Fig. 10 当院における 1990 年 4 月∼2013 年 3 月の ALS 患者に対する呼吸管理の状況 在宅療養と長期入院のどちらでも可能であることを説明した結果,呼吸不全となった 72 名中 63 名が気管切開下での人工呼吸器装着を選択,うち 49 名が在宅療養を行った. Fig. 11 ベッドサイドでの音楽療法

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10) Kitamura E, Ogino M:Occurrence of cholelithiasis and chole-cystitis in amyotrophic lateral sclerosis patients with long− term tracheostomy invasive ventilation. Intern Med 50: 2291−2295, 2011

11) Kunduk M, Appel K, Tunc M, et al:Preliminary report of laryngeal phonation during mechanical ventilation via a new cuffed tracheostomy tube. Respir Care 55:1661−1670, 2010 12) 法化図陽一,山本 真,徳永修一,他:自動吸引装置の研究

開発とその応用―人工呼吸器を装着した患者,家族の QOL 向上をめざして.臨床神経 49:877−880,2009

13) Winck JC, Goncalves MR, Lourenco C, et al:Effects of mechanical insufflation−exsufflation on respiratory parameters

for patients with chronic airway secretion encumbrance.

Chest 126:774−780, 2004

14) Kondo K, Shinkai T:Home ventilation for amyotrophic lateral sclerosis patients. Nakano I, Hirano A(eds):Amyotrophic Lat-eral Sclerosis. Progress and Perspectives in Basic Research and Clinical Application. Amsterdam, Elsevier, 1996, pp388−392 15) 近藤清彦:呼吸障害.日本 ALS 協会編.新 ALS ケアブック. 第 2 版,東京,川島書店,2013,pp51−64 16) 近藤清彦:ALS 患者を支えるネットワーク.脳と神経 58: 653−659,2006 17) 近藤清彦:筋萎縮性側索硬化症と音楽療法―在宅医療の立場 から.神経内科 67:243−251,2007

参照

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