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がん DDS 製剤の臨床応用 G CSF 製剤の歴史 虎の門病院 * 臨床腫瘍科 髙橋萌々子 * 近藤千紘 * * 高野利実 The history of Granulocyte-colony stimulating factor Granulocyte-colony stimulating fac

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D

虎の門病院 臨床腫瘍科*

髙橋萌々子

・近藤千紘

・高野利実

G―CSF 製剤の歴史

がん DDS 製剤の臨床応用

The history of Granulocyte-colony stimulating factor

Granulocyte-colony stimulating factor is a glycoprotein that stimulates the bone marrow to produce granulocytes and stem cells and release them into the bloodstream. Pegylated G-CSF(pegfilgrastim), in which the addition of polyethylene glycol increases the half-life of the agent, decreases the incidence of febrile neutropenia during chemotherapy. The use of G-CSF support is also important to increase dose intensity or dose density of chemotherapy. Pegylated materials are expected to play an important role in cancer treatment.

 顆粒球コロニー形成刺激因子(granulocyte-colony stimulating factor:G-CSF)製剤は、骨髄 中の好中球前駆細胞に存在する G-CSF 受容体に結合し、好中球前駆細胞から好中球への分化を促進 することで、末梢血中の好中球数を増加させる。フィルグラスチムの N 末端にポリエチレングリコー ル(polyethylene glycol:PEG)を結合させ、血中半減期を延長することで作用を持続させた持続 型 G-CSF 製剤ペグフィルグラスチムは、化学療法の副作用の1 つである発熱性好中球減少症を有意 に抑えるだけでなく、化学療法の治療強度を高めることもできる。PEG 製剤の開発により、がん治 療が今後さらに発展していくことが期待される。

MomokoTakahashi*,ChihiroKondoh,ToshimiTakano

Keywords: G-CSF, pegfilgrastim, filgrastim, chemotherapy

1.はじめに  顆粒球コロニー形成刺激因子(granulocyte-colony stimulatingfactor:G-CSF)製剤は、発熱性好中球 減少症(febrileneutropenia:FN)の発症抑制、造 血幹細胞移植における末梢血細胞の動員など、が ん化学療法における臨床現場で広く使用されてい る。G―CSF製剤は、骨髄中の好中球前駆細胞に存 在する G―CSF受容体に結合し、好中球前駆細胞か ら好中球への分化を促進することで、末梢血中の 好中球数を増加させる。ペグフィルグラスチムは フィルグラスチムの N末端に20 KD のポリエチレ ングリコール(polyethyleneglycol:PEG)を結合さ せ、血中半減期を延長することで作用を持続させ た G―CSF製剤であり、2014年11月28日に持続型 G―CSF製剤ペグフィルグラスチム(商品名ジーラス タ皮下注3 .6 mg)として発売された。 2.がん治療の基礎 2―1.化学療法  化学療法では根治を目指すか、または症状緩和や 延命を目指すかにより、治療に対する考え方が異 なってくる。外科的手術前や後に、目に見えない微 小転移を根絶するために行われる術前・術後化学療 法や、急性骨髄性白血病の寛解導入療法や胚細胞腫 瘍に対する根治的化学療法など、治癒を目指す薬物 療法においては、治療強度が下がると治癒を得られ なくなる可能性があり、安易な減量や休薬期間の延 長は行うべきではないと考える。その一方で、根治 不能な進行がんにおける化学療法の目的は生存期間

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を上回るベネフィットが期待される場合に化学療法 が施行される。 2―2.好中球減少と発熱性好中球減少症  骨髄抑制はほとんどの化学療法で見られる副作用 である。血液中には主に白血球・赤血球・血小板が あり、そのうち白血球は細菌、真菌、ウイルスなど の病原菌から私達の身を守る役割を担う。全白血球 の60〜70%を占めるのは好中球であるが、好中球 が減少すると、細菌やウイルスが繁殖しやすくなり、 感染症を発症する。通常、白血球は血液のなかに 4 ,000〜9 ,000 /mm3あり、そのうち好中球は2 ,000 〜7 ,500 /mm3ある。白血球が2 ,000 /mm3以下、 好中球が1 ,000 /mm3以下になると、細菌・真菌感 染の頻度が増加する。好中球が最も減少するのは、 抗がん剤投与後約7〜14日ごろである。  発熱性好中球減少症(FebrileNeutropenia:FN) は「好中球が500 /μL未満、または1 ,000 /μL未満 で48時間以内に500 /μL未満に減少することが予 想される状態で、かつ腋窩温37 .5℃以上(口腔内温 38 .0℃以上)の発熱を生じた状態」と定義される1) がん化学療法を行う際、FN は入院期間の延長や医 療費用の増加につながり、ときに生命の危険を及ぼ す有害事象の1つである。また、化学療法中に好中 球減少を生じると、投与量の減少や投与間隔の延長 を余儀なくされるために相対的治療強度が低下し、 十分な治療効果が得られない可能性も考えられる。 2―3.発熱性好中球減少症リスクの高いレジメン  がん薬物療法のレジメンはその強度により、好中 球減少の深さや期間が異なり、それに伴い FN の頻 度も変化する。FN を来すリスクの高いレジメンを 表1にあげた。 2―4.発熱性好中球減少症リスクの高い個体因子  患者側のリスク評価も重要であり、FN の発症リ スク因子、重症化リスク因子としては表2のような ものがあげられる。 表1 FN のリスクが高い(>2 0 %)レジメン がん種 化学療法のレジメン 膀胱がん MVAC(メソトレキセート、ビンブラスチン、アドリアマイシン、シスプラチン) 乳がん ドセタキセル+トラスツズマブ

Dose dense ACT(アドリアマイシン、シクロホスファミド、パクリタキセル) アドリアマイシン+パクリタキセル アドリアマイシン+ドセタキセル TAC(ドセタキセル、アドリアマイシン、シクロホスファミド) 食道がん / 胃がん DCF(ドセタキセル、シスプラチン、5 -FU) ホジキンリンパ腫 BEACOPP(ブレオマイシン、エトポシド、アドリアマイシン、シクロホスファミド、ビンクリスチン、 プロカルバジン、プレドニゾロン) 非ホジキンリンパ腫 ICE / R-ICE(イフォスファミド、カルボプラチン、エトポシド / リツキシマブ) CHOP1 4 / R-CHOP1 4(シスプラチン、アドリアマイシン、ビンクリスチン、プレドニゾロン)/ リツ キシマブ DHAP(デキサメタゾン、シタラビン、シスプラチン) ESHAP(エトポシド、メチルプレドニゾロン、シタラビン、シスプラチン) 小細胞肺がん ノギテカン 卵巣がん パクリタキセル 胚細胞腫瘍 VeIP(シスプラチン、ビンブラスチン、イフォスファミド+メスナ) ・Bennett,C.L. .(2013).Colony-stimulatingfactorsforfebrileneutropeniaduringcancertherapy. ,368(12), 1131 –1139 . ・Aapro,M.S. .(2011).2010updateofEORTCguidelinesfortheuseofgranulocyte-colonystimulatingfactortoreducetheincidenceof chemotherapy-inducedfebrileneutropeniainadultpatientswithlymphoproliferativedisordersandsolidtumours. ,47(1), 8 –32 .

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3.従来型 G―CSF 製剤 3―1.種類  G―CSF製剤は、ヒト由来の G―CSF と基本的に差 異のない構造をもつ造血因子である。好中球前駆細 胞の細胞表面に発現している G―CSF受容体に特異 的に結合して、好中球前駆細胞から成熟好中球への 分化・増殖を促進させ、成熟好中球に対してはその 機能を亢進させる。薬効としては下記のようなもの があげられる。 ①好中球前駆細胞の細胞周期への導入、分化、増殖 の促進 ②好中球機能の亢進(活性酸素の酸性能の向上、貪 食殺菌能の亢進、遊走能の亢進) ③成熟好中球の末梢血への動員 ④造血幹細胞の末梢血への動員  本邦で用いられている G―CSF製剤はノイトロジ ン®、グラン®、ノイアップ®などがある。いずれも 注射剤で、投与は皮下投与あるいは点滴静注にて行 う。 <レノグラスチム:ノイトロジン®  1974年に浅野茂隆らが顆粒球のなかでも特に 好中球増多を伴う CSF産生肺がん患者を発見し、 CSF がヒトにおいても生理活性を示し、顆粒球の なかでも特に好中球の増殖や分化に作用している ことを推定した。1983年にはヌードマウス移植ヒ ト口腔底がんが、従来にない高い CSF産生能を有 していることを発見した。そして、この腫瘍から G―CSF産生細胞CHU―2株を樹立し、hG―CSF を 初めて完全に純化することに成功した。1985年に は G―CSFcDNA のクローニングをして、大腸菌と 哺乳動物細胞(チャイニーズハムスター卵巣細胞: CHO細胞)のそれぞれにおいて hG―CSF の発現に成 功した。CHO細胞による産物は糖鎖を含む糖タン パク質で N末端にメチオニンを含まず、E.coli の産 物よりも活性が高いことから生産細胞として選択さ れた。この CHO細胞に hG―CSFcDNA を組み込ん だ発現ベクターを導入し、hG―CSF を効率よく産生 する種細胞株を樹立し、マスターセルバンクが確立 された。 表2 FN の発症リスク因子、重症化リスク因子 発症リスク 重症化リスク ・6 5 歳以上の高齢者 ・進行がん ・化学療法もしくは放射線療法の治療歴 ・以前から存在する好中球減少症 ・腫瘍の骨髄浸潤 ・感染症 ・開放創や最近の手術 ・Performance Status 不良や低栄養状態 ・腎機能障害 ・肝機能障害 ・心血管疾患 ・さまざまな感染症 ・HIV 感染症 ・敗血症 ・6 5 歳以上 ・著名な好中球減少症(<1 0 0 / μ L) ・1 0 日間以上続くと想定される好中球減少症 ・肺炎 ・侵襲性真菌感染症 ・臨床的に明らかな感染症 ・入院中の発熱性好中球減少症の既往 ・Klastersky,B.J. .(2000).TheMultinationalAssociationforSupportiveCareinCancerRiskIndex:AMultinationalScoringSystemfor IdentifyingLow-RiskFebrileNeutropenicCancerPatients. ,18(16),3038 –3051 . ・Smith,T.J. .(2015).RecommendationsfortheuseofWBCgrowthfactors:Americansocietyofclinicaloncologyclinicalpracticeguideline update. ,33(28),3199 –3212 .

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<フィルグラスチム:グラン®  フィルグラスチムは遺伝子組み換えヒト顆粒球 コロニー形成刺激因子(rhG―CSF:recombinant humangranulocyte-colonystimulatingfactor)で、 好中球前駆細胞に作用して分化・増殖を促進させ るほか、骨髄からの成熟好中球の放出促進および 好中球機能を亢進させる。G―CSF研究の歴史は、 1965年頃までさかのぼり、当時オーストラリアの DonMetcalf らは、マウス腎細胞や胎児胚細胞が分 泌する液性因子がマウス骨髄細胞の分化増殖を活 性化し、コロニー形成を促進することを認め、こ の液性因子を CSF と命名した。1985年には Karl Welt らがヒト膀胱細胞の培養上清よりヒト G―CSF (hG―CSF)を純化・精製することに成功した。さら に、KarlWelt らと米国アムジェン社の Lawrence  M.Souza らは、この hG―CSF の N末端領域のア ミノ酸配列を決定し、それに基づきヒト膀胱細胞由 来の hG―CSF遺伝子をクローニングして大腸菌にこ の遺伝子を組み込み、hG―CSF(rhG―CSF)を産生す ることに成功した。 図1 レノグラスチムの構造式または示性式 レノグラスチムは1 7 4 個のアミノ酸で構成される O- グリコシド型糖鎖を有する糖タンパク質。 1)タンパク質部分 1 1 0 2 0

Thr Pro Leu Gly Pro Ala Ser Ser Leu Pro Gln Ser Phe Leu Leu Lys Cys Leu Glu Gln

3 0 4 0

Val Arg Lys Ile Gln Gly Asp Gly Ala Ala Leu Gln Glu Lys Leu Cys Ala Thr Tyr Lys

5 0 6 0

Leu Cys His Pro Glu Glu Leu Val Leu Leu Gly His Ser Leu Gly Ile Pro Trp Ala Pro

7 0 8 0

Leu Ser Ser Cys Pro Ser Gln Ala Leu Gln Leu Ala Gly Cys Leu Ser Gln Leu His Ser

9 0 1 0 0

Gly Leu Phe Leu Tyr Gln Gly Leu Leu Gln Ala Leu Glu Gly Ile Ser Pro Glu Leu Gly

1 1 0 1 2 0

Pro Thr Leu Asp Thr Leu Gln Leu Asp Val Ala Asp Phe Ala Thr Thr Ile Trp Gln Gln

1 3 0 * 1 4 0

Met Glu Glu Leu Gly Met Ala Pro Ala Leu Gln Pro Thr Gln Gly Ala Met Pro Ala Phe

1 5 0 1 6 0

Ala Ser Ala Phe Gln Arg Arg Ala Gly Gly Val Leu Val Ala Ser His Leu Gln Ser Phe 1 7 0

Leu Glu Val Ser Tyr Arg Val Leu Arg His Leu Ala Gln Pro レノグラスチムのアミノ酸配列 *:O- グリコシド型糖鎖結合位置  :S-S 結合 レノグラスチムのアミノ酸配列は、N 末端 Thr から C 末端 Pro まで、cDNA の塩基配列から推定されるアミノ酸の配列と完全に一致する。また、ヒト口腔底が ん扁平上皮細胞から単離、精製した G-CSF(天然型 G-CSF)の全アミノ酸配列分析の結果とレノグラスチムのアミノ酸配列は完全に一致している。 2)糖鎖部分 NANAα2 ± NANAα2 3 6 Galβ1 3 GalNAc Thr1 3 3 レノグラスチムの O- グリコシド型糖鎖の構造 NANA:N- アセチルノイラミン酸、Gal:ガラクトース GalNAc:N- アセチルガラクトサミン、Thr:スレオニン

O―グリコシド型糖鎖は Gal β1 →3 GalNAc を共通構造とし、この二糖に結合する NANA 残基数の異なる2 種類(モノシアロおよびジシアロ)の糖鎖で、レノグ ラスチムの糖鎖の結合位置は、上記天然型 G-CSF と同一である。また、構成糖の種類、組成比についてもほとんど差異はない。

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<ナルトグラスチム:ノイアップ®  1985年東京大学第三内科と協和発酵キリン株式 会社(旧協和発酵東京研究所)との共同研究によっ て、ヒト正常細胞(マクロファージ)から G―CSF遺 伝子の cDNA をクローン化したことをきっかけに、 大腸菌による組み換え hG―CSF の量産に成功した。 次いで、カセット変異法という当時最先端のタンパ ク質工学的技術を駆使しアミノ酸配列の一部を改変 図2 フィルグラスチムの構造式または示性式 / 分子式および分子量 分子式および分子量 分子式:C8 4 5H1 3 3 9N2 2 3O2 4 3S9 分子量:1 8 ,7 9 8 .6 1 矢印は天然型 hG-CSF のアミノ酸を置換した部位を示す。 N 末端から数えて1、3、4、5、1 7 番目のアミノ酸が下記に示すごとく天然型 hG-CSF と異なる。 1 番目:トレオニン→アラニン 3 番目:ロイシン→トレオニン 4 番目:グリシン→チロシン 5 番目:プロリン→アルギニン 1 7 番目:システイン→セリン   に置換されている。 構成アミノ酸の略号 A(Ala):アラニン C(Cys):システイン D(Asp):アスパラギン酸 E(Glu):グルタミン酸 F(Phe):フェニルアラニン G(Gly):グリシン H(His):ヒスチジン I (Ile) :イソロイシン K(Lys):リジン L (Leu):ロイシン M(Met):メチオニン P(Pro):プロリン Q(Gln):グルタミン R(Arg):アルギニン S(Ser):セリン T(Thr):トレオニン V(Val):バリン W(Trp):トリプトファン Y(Tyr):チロシン

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した hG―CSF誘導体(ミューテイン G―CSF)約100 種をつくり、これらのなかからinvitro スクリーニ ングによって、天然型hG―CSF誘導体(糖鎖非結合) より比活性が約3倍高く、血漿中で安定なナルトグ ラスチムが1987年に選定された。 3―2.適応症  G―CSF製剤の適応症は製剤ごとに異なり、適応 症の広い順にノイトロジン®、グラン®、ノイアップ® となる(表3)。 表3 G-CSF 製剤の適応症の比較 適応症 ノイトロジン® グラン® ノイアップ® 造血幹細胞移植時の好中球数の増加促進 〇 〇 〇 造血幹細胞の末梢血中への動員 がん化学療法終了後の動員 〇 〇 × 自家末梢血幹細胞移植を目的とした G-CSF 単独による動員 〇 〇 × 末梢血幹細胞移植ドナーに対する G-CSF 単 独による動員 〇 〇 × がん化学療法による好中球減少 急性骨髄性白血病 〇 〇 × 急性リンパ性白血病 〇 〇 〇 悪性リンパ腫、小細胞肺癌、胚細胞腫瘍、 神経芽細胞腫 〇 〇 〇 小児がん 〇 〇 〇 その他のがん腫 〇 〇 〇 成人骨髄異形成症候群(MDS) 〇 〇 × 再生不良性貧血 成人 〇 〇 × 小児 〇 〇 〇 先天性・特発性好中球減少症(成人・小児) 〇 〇 〇 HIV 治療に支障をきたす好中球減少(成人・小児) 〇 〇 × 免疫抑制療法(腎移植)に伴う好中球減少(成人・小児) 〇 × ×

Medicina vol.4 9 no.1 1(2012)増刊号より引用

3―3.治療成績  211人の小細胞肺がん患者を対象に、G―CSF も しくはプラセボ投与した第Ⅲ相試験では、FN の発 症率は G―CSF投与群で40 %、プラセボ投与群で 76 % であり(p<0 .001)、Grade4の好中球減少(好 中球が <500 /m3となること)も G―CSF投与群で平 均3日間、プラセボ投与群で平均6日と、G―CSF投 与群で好中球減少が続く期間は有意に短くなること が示された2)。この試験を受けて FDA は1991年に G―CSF製剤を承認した。本邦においても第Ⅲ相臨 床試験で有効性が確認され3 ,4)、レノグラスチムと フィルグラスチムが1991年2月に、ナルトグラス チムが1994年5月に発売された。 3―4.課題  G―CSF製剤の投与方法は大きく3つに分類される (表4)。  従来の G―CSF製剤(フィルグラスチム、ナルト グラスチム、レノグラスチム)は、多くのがん種で FN の予防投与が認められていなかった。また、血 表4 G-CSF 製剤の投与方法 一次予防的投与 抗がん剤治療の1コース目から FN を予防する目的で、発熱や好中球減少を確認することなく、G-CSF を 投与する。 化学療法の強度を上げる、または維持する目的で投与する。 二次予防的投与 抗がん剤治療により、前コースにおいて FN を生じたり、遷延性の好中球減少症により投与スケジュールの 延期が必要となった場合に、次コースで予防的に G-CSF を投与する。 治療的投与 発熱のない好中球減少症、または FN を生じてから G-CSF を投与する。

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中半減期が短いため、好中球数が回復するまでに連 日の投与が必要であり、特に外来で通院している患 者が連日病院に通院する必要があるという点があっ た。 4.持続型 G―CSF 製剤 4―1.開発の経緯  がん化学療法を受けている患者に好中球減少症を 認めた場合、FN や感染症のリスクを低減させるた めに、がん薬物療法の抗がん剤の減量や投与間隔の 延長を余儀なくされることがあるが、相対的な治療 強度が低下し十分な治療効果が得られないことによ る生存率の低下が懸念されていた。それらのことか ら、血中半減期の長い G―CSF製剤の開発と、がん 種やレジメンによらずに FN発現リスクに基づいた 予防投与が可能な G―CSF製剤の開発が求められて いた。  今回発売されたペグフィルグラスチムは、既存の フィルグラスチム(分子量約1万9 ,000)の N末端に 水溶性高分子のポリエチレングリコール(PEG)1分 子(分子量約2万)を共有結合した修飾タンパク質で ある(図4)。PEG化によって、プロテアーゼによる 分解を抑制するとともに、腎臓でのクリアランスを 低下させ体外への排泄を減少させることで、血中半 減期を延長させている。血中半減期の延長に伴い、 従来の連日投与の必要性がなくなり、化学療法の各 サイクルに1回のみ投与するという治療スケジュー ルが可能となった。 4―2.適応症  ペグフィルグラスチムと従来の G―CSF製剤の効 能・効果に関する主な相違点を表5に示す。 4―3.治療成績 1)FN の予防効果における成績  2005年に CharlesL.Vogel らは、乳がんの術後 化学療法としてドセタキセル(100 mg/m2)を投与 した928人を対象とし、ペグフィルグラスチム群と プラセボ群を比較した第Ⅲ相試験を報告した5)。こ の試験の結果、主要評価項目である FN の発症率が ペグフィルグラスチム群で有意に低下することが示 された。(ペグフィルグラスチム群対プラセボ群: 1 % 対17 %、p<0 .001)。また、メタ解析におい ても、ペグフィルグラスチム群はプラセボ群と比較 して、有意に FN発症を予防することが示され、ま たフィルグラスチムとの比較においても、ペグフィ ルグラスチムが優れる傾向が示された6)(図5)。 2)治療強度を高めるレジメンでの成績  2015年に LuciaDelMastro らは、乳がんの術後 化学療法において、ペグフィルグラスチムを併用す ることで投与間隔を短くした dose-density を高めた 治療と、標準的な投与間隔で施行した治療を比較 した GIM―2試験の結果を報告した7)。主要評価項目 である DFS(disease-freesurvival)において、dose-dense療法は標準的な投与方法より有意に優れてい た(図6)。 表5 ペグフィルグラスチムと従来の G-CSF 製剤の適応の違い ペグフィルグラスチム 従来の G-CSF 製剤 一次予防的投与 すべてのがん種で適応 悪性リンパ腫、小細胞肺がんなど 一部のがん種のみで適応 二次予防的投与 すべてのがん種で適応 悪性リンパ腫、小細胞肺がんなど 一部のがん種のみで適応 治療的投与 適応外 すべてのがん種で適応 O O N H Filgrastim H3C n ペグフィルグラスチムは、メトキシポリエチレングリコール (分子量:約2 0 ,0 0 0) 1 分子がフィルグラスチム(遺伝子組換 え)の Met1 のアミノ基に結合した修飾タンパク質(分子量:約 4 0 ,0 0 0)である。

Pegfilgrastim is a modified protein(molecular weight: ca. 4 0 ,0 0 0) consisting of a methoxy polyethylene glycol molecular(molecular weight: ca. 2 0 ,0 0 0) attached to an amino group of Met1 of Filgrastim(Genetical Recombination).

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図5 FN 発症率に関するメタアナリシス(文献6 より引用、一部改変)

Primary G-CSF No primary G-CSF Risk Ratio Risk Ratio Study or Subgroup Events Total Events Total Weight M-H, Random, 9 5 % Cl M-H, Random, 9 5 % Cl 4 .1 .1 Pegfilgrastim Romieu 2 0 0 7*(breast) 4 3 0 5 2 9 2 .1 % 0 .7 7[0 .2 3 , 2 .6 0] Vogel 2 0 0 5(breast) 6 4 6 3 7 8 4 6 5 3 .5 % 0 .0 8[0 .0 3 , 0 .1 8] Hecht 2 0 0 9(colorectal) 3 1 2 3 1 0 1 1 8 2 .0 % 0 .2 9[0 .0 8 , 1 .0 2] Balducci 2 0 0 7(NHL)1 1 7 3 2 7 7 3 4 .7 % 0 .4 1[0 .2 2 , 0 .7 6] Balducci 2 0 0 7(solid)1 4 3 4 3 3 4 3 4 3 4 .8 % 0 .4 1[0 .2 3 , 0 .7 5] Subtotal(9 5% Cl) 1 0 3 2 1 0 2 8 1 7 .1 % 0 .3 0[0 .1 4 ,0 .6 5] Total events 3 8 1 5 4

Heterogeneity:Tau2 =0 .54;Chi2=16 .49 ,df=4(P=0 .002);I2=76 %

Testforoveralleffect:Z=3 .08((P=0 .002) Favours primary G-CSF Favours primary no G-CSF0 .0 1 0 .1 1 1 0 1 0 0

Pegfilgrastim Filgrastim Risk Ratio Risk Ratio Study or Subgroup Events Total Events Total Weight M-H, Random, 9 5 % Cl M-H, Random, 9 5 % Cl Green 2 0 0 3(breast) 1 0 7 7 1 5 7 5 3 0 .5 % 0 .6 5[0 .3 1 , 1 .3 5] Hlmes 2 0 0 2(breast, ph3) 1 4 1 4 9 2 7 1 4 7 4 5 .1 % 0 .5 1[0 .2 8 , 0 .9 4] Hlmes 2 0 0 2(breast, ph2) 5 4 6 2 2 5 6 .7 % 1 .3 6[0 .2 8 , 6 .5 0] Grigg 2 0 0 3*(NHL) 0 1 4 1 1 3 1 .7 % 0 .3 1[0 .0 1 , 7 .0 2] Vose 2 0 0 3(NHL, HL) 6 2 9 6 3 1 1 6 .1 % 1 .0 7[0 .3 9 , 2 .9 4] Total(9 5)% Cl 3 1 5 2 9 1 1 0 0 .0 % 0 .6 6[0 .4 4 , 0 .9 8] Total events 3 5 5 1

Heterogeneity:Tau2=0 .00;Chi2=2 .60 ,df=4(P=0 .63);I2=0 %

Testforoveralleffect:Z=2 .04((P=0 .04) Favours pegfilgrastim0 .0 1 0 .1 1Favours filgrastim1 0 1 0 0

①ペグフィルグラスチム投与 対 G-CSF 予防投与なし ②ペグフィルグラスチム 対 フィルグラスチム 図6 GIM-2 試験の治療成績(文献4 より) Q2:2週毎投与=dosedense療法、Q3:3週毎投与 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0

Disease free survival(%)

Q2 Q3 1002 1001 Number of patients Number of patients with event 5year estimated survival(%) 95%CI HR 0.77,95% CI 0.65-0.92; p=0.004 224 270 81 76 79-84 74-79 Q2 Number at risk Q2 Q3 10 0 0 0 1002 1001 1 935 907 2 857 810 3 795 724 4 725 662 5 646 599 6 554 492 7 343 294 8 101 92 9 13 9 Q3 Years

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文献  1)日本臨床腫瘍学会編:発熱性好中球減少症(FN)診療ガイド ライン , 南光堂(2012)  2)CrawfordJ,etal.,NEnglJMed ,325,164-170(1991)  3)阿曽佳郎ほか ,泌尿器外科 ,7(2),189-199(1994)  4)吉田彌太郎ほか ,臨床血液 ,35(11),1289-1296(1994)  5)VogelCL,etal.,officialjournaloftheAmericanSocietyof ClinicalOncology,23,1178-1184(2005)  6)CooperKL,etal.,BMCcancer ,11,404(2011)  7)DelMastroL,etal.,Lancet ,385,1863-1872(2015)  8)社内資料:悪性リンパ腫患者を対象とした第Ⅲ相臨床試験 5.終わりに  本稿では、従来型G―CSF製剤から持続型G―CSF 製剤が開発された経緯、そして持続型G―CSF製剤 の特徴や治療成績を紹介した。持続型G―CSF製剤 表7 KRN1 2 5 -0 0 7 試験における主な副作用(いずれかの群で5 % 以上発症したもの) 副作用 ペグフィルグラスチム (N=5 4) フィルグラスチム群 (N=5 5) 背部痛 1 1(2 0 .4 %) 1 6(2 9 .1 %) LDH 上昇 8(1 4 .8 %) 1 7(3 0 .9 %) 発熱 3(5 .6 %) 5(9 .1 %) T-Bil 上昇 3(5 .6 %) 2(3 .6 %) ALP 上昇 2(3 .7 %) 6(1 0 .9 %) ALT 上昇 2(3 .7 %) 4(7 .3 %) 頭痛 1(1 .9 %) 4(7 .3 %) 骨痛 0(0 .0 %) 5(9 .1 %) 表6 安全性評価の対象となった計7 試験(6 3 2 例)における主な副作用 5 % 以上 1 ~5 % 未満 1 % 未満 皮 膚 発疹 蕁麻疹、紅斑、そう痒 多形紅斑、皮膚剥脱 筋・骨格 背部痛、関節痛、筋肉痛 骨痛、四肢痛 筋骨格痛 消化器 下痢、便秘、腹痛、腹部不快感、悪心、嘔吐、口内炎 肝 臓 AST、ALT 上昇 肝機能異常、血中ビリルビン増加、γ―GTP 増加 血 液 白血球増加、好中球増加、 リンパ球減少 貧血、血小板減少、白血球減少 単球増加 代謝、栄養 電解質異常、高血糖、食欲減退 精神神経系 頭痛 味覚異常、めまい、異常感覚 感覚鈍麻、不眠症 その他 LDH 上昇、発熱、倦怠感 潮紅、浮腫、CRP 上昇 血中 Alb 増加、注射部位反応 の開発により、より少ない負担で FN の発症が抑え られ、また化学療法の治療強度を保つことができる ようになるなど、臨床面で患者が受ける恩恵は大き い。今後も PEG製剤の応用が進み、臨床の現場に 生かされることを期待する。 4―4.副作用  承認に向けて、安全性の評価のために本邦で施行 された臨床試験632例におけるおもな副作用とその 頻度を示す(表6)。フィルグラスチムと比較した第 Ⅲ相試験において、ペグフィルグラスチム群で明ら かに多く見られた副作用は認めなかった(表7)。

参照

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