体外受精 胚移植について
(IVF-ET)
このパンフレットは、不妊症の治療として体外受精を受ける方に少しでも体外受精に関する理解 を深めていただくために作られた説明書であります。 1978 年 7 月、イギリスで最初の体外受精児(試験管ベビーとも呼ばれています。)が誕生して 以来、オーストラリア、アメリカ、フランス、西ドイツをはじめ多くの国々でもその誕生が報告さ れております。1983 年、日本でも最初の体外受精児が生まれました。本邦において現在既 10,000 例以上の出産が報告されており、その臨床上の有用性や手技的安全性はほぼ確立しているといえま す。 日本では昭和 57 年に日本産婦人科学会が中心となって、第1表に示すような“体外受精に関す る日本産婦人科学会基準”というものが作られ、また、昭和 58 年に第 2 表に示すような“「体外 受精・胚移植」に関する見解が示され、体外受精を実施するに当たっての指針が定められました。 焼津市立総合病院では、この指針に準じて学会登録し当院における倫理委員会の承諾を受け体外受 精の治療を実施しています。
1. 体外受精とは
通常の妊娠過程では、第1図に示すように排卵によって卵巣から卵管に取り込まれた卵と、 膣内に射精され子宮内を通って卵管に到着した精子とが卵管の外 1/ 3 の場所即ち卵管膨大部 というところで遭遇することによって受精が成立します。受精卵は 2 分割、4 分割、8 分割と 分裂、発育しながら卵管を移動し、受精後、約4日目に子宮内に入り、ここでしばらく浮遊し ながら発育を続け、受精後、約 7 日目に十分に成熟した子宮内膜に付着侵入を開始して、受精 後 12 日目に完全に着床が完了します。これが胚の着床であり、妊娠が成立したわけです。体 外受精では第2図に示されるように卵巣の排卵前の成熟卵胞から、穿刺によって卵を体外に取 り出し、これを夫の精子と体外(小試験管内)で受精させた後、4~8 分割した受精卵を再び 妻の子宮内に細いチューブを通じて注入し、妊娠させる方法であります。従って、受精から 4 ~8分割卵に至るまでを体外で行なうだけで、後は自然の妊娠と全く異なるところはありませ ん。試験管の中でベビーが成育するのではありませんから、試験管ベビーと呼ばれるのは誤解 を招きやすく、体外受精と呼ぶのが正しいのです。2. 体外受精の適応と条件
体外受精は本来卵管性不妊(両側卵管に障害があり、自然の夫婦関係では全く妊娠成立の 可能性がない不妊症)のために開発されたものです。例えば、感染症などの炎症によって両側 卵管が閉塞してしまった人や、繰り返し子宮外妊娠に罹患して両側とも卵管を切除してしまっ たような人、また、子宮内膜症が原因で子宮卵管、卵巣周囲に癒着や閉塞がおきた場合も同様 です。その他には、夫の精子数が非常に少ない(乏精子症)とか、運動性が悪く人工授精によ っても妊娠しない場合(精子無力症)、夫婦のどちらかに精子に対する抗体が産生されていて、 精子を不動化したり、凝集したりするために妊娠しない場合(免疫性不妊症)、さらに腹腔鏡 検査などで確認した長期の原因不明の難治性不妊症などが適応となります。体外受精を受けるために必要な条件は・・・
① 少なくとも片側の卵巣が残存し、かつ排卵が行なわれているかまたはその可能性があること。 ② 経膣超音波下に卵巣より卵の採取が可能であること。 ③ 子宮に異常がなく受精卵の着床と胎児の発育が可能な状態にあること。 ④ 夫の精液中に受精能力の可能性のある精子が存在すること。3. 体外受精実施過程の概略
1) 排卵を抑える 前周期の高温期 7 日目・・・点鼻薬スプレキュアを開始します(開始日や使用量に変更が ある場合は医師の指示に従ってください、生理発来後 1 日目 からのこともあります)。使用しない場合もあります。 2) 卵巣刺激(排卵誘発) 生理発来第 3 日目・・・・・排卵誘発剤(HMG)の連日注射を開始し、数日毎に経膣超 音波で卵胞の発育を計測します。 点鼻薬スプレキュアを使用しない場合、セトロタイド(排卵を抑える)を卵胞が直径 13-14mm 程度に育ってから、採卵に十分な大きさに育ちきるまでの数日間(3-5 日) 毎日注射します。 採卵の日程が決まった時点で、医師の指示に従ってスプレキュアを中止し、入院採卵の 前日AM9:00 頃に排卵を促す注射(HCG)を婦人科外来で行ないます。 3) 卵の採取と入院 採卵の日の午後 3 時に入院して頂きます。採卵時静脈麻酔をしますので、入院当日の1 0時以降から一切の経口摂取をしないで下さい。原則的には入院当日の夕方頃、処置室に て経膣超音波ガイド下に採卵します。 4) 精子の準備 入院当日の夕方ごろ、用手的に採取していただいた精子を持参の上、来院して頂きます。 洗浄・濃縮などの調製を行い、培養後卵子との受精に用います。夫は持参後、そのまま帰 宅して頂いても結構です。 5) 受精、培養 小さな組織培養容器の中で卵子と精子を一緒にし、まもなく卵に精子が侵入し受精が始ま ります。37℃温度、三種の混合ガス下で引き続き培養し、入院の翌日昼頃授精完了(前核 形成)の確認をします。この時点で未授精の場合は体外受精を中断し退院していただきます。 受精を確認された場合、更にもう1日継続培養します。 5)受精卵(胚)の子宮内への移植 入院第3日目の 19 時頃に受精卵の分割発育が認められた場合、病室にて胚移植を行ない ます。この場合麻酔を必要としません。人工授精と同じ要領で、終了後2~3時間ベッド上安静が必要です。そのまま翌日朝まで安静入院し、黄体維持ホルモン注射をして退院し ます。胚移植は場合によっては第5日目まで培養しつづけ、胚盤胞の状態にて胚移植する こともあります。日本産婦人科学会の見解では、多胎妊娠予防の観点から一回の胚移植に つき受精卵を1~2個までに制限することが望ましいとされています。 6) 黄体期のホルモン補充と妊娠判定 子宮内への胚移植後、子宮内膜に受精卵が着床するまで黄体ホルモンを補充する目的で 黄体ホルモン剤の内服もしくは注射、膣錠を続けて行い、胚移植から12~14日目に妊 娠判定します。
4. 体外受精の成功率について
イギリスで最初の体外受精児が誕生するまでに、100回以上の体外受精が試みられたと いわれております。初期の報告に比べると最近では体外受精による妊娠率は急速に向上して います。経膣超音波下で卵が採取できる率は個人の卵の発育度により異なりますが平均 80 ~90%で、採取できた卵は精子の状態にもよりますが、受精後に卵分割が起こる率は約 60 ~80%、この受精卵を子宮内に移入して妊娠が成立する率は 15~25%であります。一般 に正常な夫婦が一生理周期の排卵期に夫婦生活を営んだ場合でも、自然に妊娠が成立するの はわずか 30~40%程度であります。従って、体外受精も数回繰り返すことで成功する可能 性も高くなることが考えられます。5. 副作用および本法による先天異常発生の可能性
1) 経膣超音波ガイド下採卵は一般には安全性が高いものですが、血管や腸を損傷することも 皆無とはいえません。更に、これらに際して行なわれる静脈麻酔についても副作用が起こ る可能性があります。 2) 成功率を向上させるために、以前は一度に多数個の受精卵を胚移植してきたため、多胎妊 が多く生じました。現在では1~2個しか子宮に移植しませんが、それでもある頻度で多 胎妊娠(双胎以上)になることがあります。 3) 着床しても、流産に至る可能性が少なくありません。また、子宮外妊娠が起こることも報 告されています。 4) 体外受精・胚移植によって生まれた児に先天異常が多いという報告はありません。しかし、 いまだデータは十分とはいえないのが現実です。6. 本法の実施が不可能な場合について
次のような場合は本法の実施が不可能です。 イ. 母体が非常に高年齢の場合 ロ. 腹腔内に広範囲の炎症や癒着があり採卵が困難な場合ハ. 無精子症や高度の乏精子症の場合(この場合顕微授精が適応) ニ. 子宮膣内に広範な癒着があったり、高度の奇形がある場合 ホ. 母体に、妊婦の継続を不可能にするような重症の合併症がある場合 また、次のような場合は本法の実施を途中で中断します。 イ. 卵胞が十分発育しない場合 ロ. 下垂体が早く反応し、排卵誘発剤の使用で十分コントロールできない場合 ハ. 十分な精子が採取できない場合 ニ. 採卵できなかった場合 ホ. 卵が全く受精しなかった場合
7. 正常な発育が明らかに不可能と考えられる受精卵の取り扱い
多精子受精卵など、正常な発育が明らかに不可能と考えられる受精卵については子宮に移 植しません。その後は法や行政の定めるところに従い、受精卵を丁重に取り扱います。また、 このような受精卵について、原因解明のための検索を行なうことがあります。8. 不妊症の治療の進歩に貢献するため、患者さんに不利益をもたらさない範囲内で研
究にご協力いただく場合があります。
体外受精・胚移植はいまだ完成した治療法ではありません。このため、次のような今回 の治療には直接役立たない検査を、病院の費用負担で行なうことがあります。 ご理解とご協力をいただければ幸いです。 イ. 尿や血液などで、今回の治療には直接役立たないが、その後の成功率の向上に関連す る可能性のあるホルモンを測定すること ロ. 出産されたお子さんについて、追跡調査すること(個人情報の保護は厳守したします)9. 入院採卵胚移植の費用について
体外受精は原則的に私費診療で保険対応外です。入院の当日夕方、処置室にて静脈麻酔下 経膣超音波下に採卵、人工的に授精や顕微授精後卵割成長してから子宮内に胚移植します。 さらに余剰受精卵あればその受精卵を凍結するなど約 5 日間が必要です。実際の入院は採 卵の当日と胚移植の日の夜間の入院のみです。その間普通に仕事をすることは可能です。 平成22年1月1日より県及び市の特定不妊助成金制度の改正にならい、同一年度におけ る料金の改定を以下のようにします。 同一年度内で第一回目の実施(入院、採卵、麻酔、胚移植、顕微授精、凍結保存などを含 む)料金は一律20万円で、外来での注射やスプレーの費用はこれに含まれません。ただし、 助成金の申請額はこれらかかった費用すべてが対象となります。第二回目も同様料金は20 万円です。なお先に凍結した受精卵を後に人工周期にて融解胚移植の場合も一回と数えます(ただし人工周期など外来で使われる貼り薬や腟座薬はこれら
の費用には含まれません)。
第3回目以降は
同一年度内であれば一回につき料金が5万円となります。例えば平成21 年度とは平成21年4月 1 日から平成22年3月31日までをさします。入院採卵などの実 施が年度内でも、助成金の申請日が4月1日以降になった場合、制度上次の年度の扱いとな ります。 10顕微授精や凍結保存、融解胚移植についての説明書や同意書は別冊をご参照くださ
い。
体外受精・胚移植に関する見解
体外受精・胚移植(以下,本法と称する)は,不妊の治療,およびその他の生殖医療の手段として行わ れる医療行為であり,その実施に際しては,わが国における倫理的・法的・社会的基盤に十分配慮し, 本法の有効性と安全性を評価した上で,これを施行する. 1. 本法はこれ以外の治療によっては妊娠の可能性がないか極めて低いと判断されるもの,および本 法を施行することが,被実施者またはその出生児に有益であると判断されるものを対象とする. 2. 実施責任者は日本産科婦人科学会認定産婦人科専門医であり,専門医取得後,不妊症診療に 2 年以 上従事し,日本産科婦人科学会の体外受精・胚移植の臨床実施に関する登録施設(注)において 1 年 以上勤務,または 1 年以上研修を受けたものでなければならない.また,実施医師,実施協力者は,本法の 技術に十分習熟したものとする. 3. 本法実施前に,被実施者に対して本法の内容,問題点,予想される成績について,事前に文書を用い て説明し,了解を得た上で同意を取得し,同意文書を保管する. 4. 被実施者は婚姻しており,挙児を強く希望する夫婦で,心身ともに妊娠・分娩・育児に耐え得る状 態にあるものとする. 5. 受精卵は,生命倫理の基本にもとづき,慎重に取り扱う. 6. 本法の実施に際しては,遺伝子操作を行わない. 7. 本学会会員が本法を行うに当たっては,所定の書式に従って本学会に登録,報告しなければならな い. (注)今回の改定以前からの登録施設に関しては,「体外受精・胚移植,および GIFT に関する登録施 設」と読み替えるものとする.第1表 体外受精に関する日本産婦人科学会の基準
ヒトの体外受精(In Vitro Fertilization)ならびに受精卵の移植(Embryo Transfer)は、すでに、 国際的に不妊治療の一環として応用されていますがこの領域の研究を実施するにあたっては、わが 国における倫理的、法的、社会的な基盤を十分に配慮し、さらに有効性と安全性を評価し、以下の 付記事項に留意の上で、これを行なうことを希望します。 [付記事項] 1. 臨床応用に際しては、動物実験による quallty control を十分に行ない得ること 2. 医師が全ての操作及び処理に責任を持てる状況で行なうこと 3. 実施に際しては、被実施者に方法と予想される成績について十分説明し、その同意を得る こと 4. 体外受精の段階でとどまったもの(the unborn など)については、その取り扱いに十分 注意すること 5. 被実施者は、合法的に結婚している夫婦とし、非配偶者間では行なわないこと 6. 疑問点については本学会に照会すること ※ 器具、操作、培養手段などについては、マウスなどの動物実験でその安全性を十分に 確認すること
第2表