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カンジダ性口唇炎の3例

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Academic year: 2021

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カンジダ性口唇炎の 3 例

小 澤 通 子

神 部 芳 則

宗 正 憲 和

柏 崎 明 子

草 間 幹 夫

 抄録:口腔カンジダ症は,口腔常在菌叢を構成する Candida による日和見感染であり,抗癌剤による化学療法,抗 菌薬や副腎皮質ステロイド薬の長期投与などがその発症要因となっている。  口腔カンジダ症は,口腔粘膜の疼痛,灼熱感,味覚異常をその主な症状とし,臨床的には白苔の付着や粘膜の萎縮 を認める。しかし,口唇での報告は顎口腔領域では比較的稀である。  われわれは,口唇の腫脹および発赤を認めた 74 歳女性,54 歳女性,71 歳女性の計 3 例を経験した。  抗真菌薬により腫脹,発赤,疼痛は消失し,現在,症状の再燃はなく経過良好である。  キーワード:カンジダ性口唇炎,口唇  口腔カンジダ症は,口腔常在菌叢を構成する Candida による日和見感染であり,抗菌薬や副腎皮質ステロイド薬 の長期投与などがその発症要因となっている。  舌を主とする口腔粘膜の疼痛,灼熱感,味覚異常をその 主な症状とし,臨床的には白苔の付着や粘膜の萎縮を生じ ることはよく知られている。しかしながら口唇での報告は 顎口腔領域では比較的稀である。  今回われわれは,口唇の腫脹を主訴に来院し,カンジダ 性口唇炎と診断した 3 例を経験したため,若干の文献的考 察を加えて報告する。  症例 1  患者:74 歳,女性。  初診:2012 年 11 月中旬。  主訴:口唇の腫脹および口唇周囲の発赤。  現病歴:2012 年 5 月頃より口唇の腫脹を自覚するよう になり,近くの皮膚科を受診し,白色ワセリン,ヒドロコ ルチゾン酪酸エステル(ロコイドⓇ)の外用などで治療を 受けたが改善なく,別の皮膚科より同年 10 月下旬当院皮 膚科を紹介され,受診した。同科にてジフルコルトロン吉 草酸エステル(ネリゾナⓇ)外用で経過観察を行っていた が改善がなかったため,肉芽腫性口唇炎を疑い,同年 11 月中旬当科紹介受診となった。  既往歴:高脂血症。  現症:全身所見に特記事項なく,上下唇および周囲皮膚 にわたる著明な発赤を伴った腫脹を認め,皮膚と赤唇との 境界は不明瞭だった。接触痛が著明であったが,口唇の硬 結は認めなかった。その他口腔粘膜に異常所見は認めな かった。  臨床診断:口唇炎。  処置および経過:11 月下旬下唇より生検を施行した。 真菌感染を認め,カンジダ性口唇炎と診断し,12 月上旬 よりケトコナゾール(ニゾラールⓇ)外用を開始した。外 用開始から 1 週間後,赤唇と皮膚との境界はやや明瞭にな り,上下唇の腫脹,発赤は改善した(写真 1)。外用開始 から 1 か月後,赤唇周囲の発赤はほぼ消失し,皮膚との境 界は明瞭になった(写真 2)。その後も再燃症状等は認め ず,治癒経過は良好であったため,1 月下旬に当科終診と なった。  病理組織学的所見:角質層部に酵母状〜糸状の真菌が付 着し,好中球が浸潤する所見を認めた(写真 3)。  病理組織学的診断:カンジダ性口唇炎。  症例 2  患者:71 歳,女性。  初診:2013 年 4 月下旬。  主訴:口唇,頬の発赤および疼痛。  現病歴:2011 年頃より上記症状を自覚し,近くの内科 にてステロイド外用薬で経過観察をされていたが改善な く,2013 年 4 月当院アレルギーリウマチ科を受診した。 同科より精査目的に当科へ紹介受診となった。  既往歴:胃炎,めまい症,腰椎狭窄症。  現症:オトガイ,頬部皮膚に点状発赤と,上下唇の発赤 を伴う腫脹および接触痛を認めた(写真 4)。皮膚との境界 はやや不明瞭であり,周囲の皮膚にも一部発赤を認めた。

症例報告

自治医科大学歯科口腔外科学講座(主任:草間幹夫教授) 〔受付:2013 年 9 月 14 日,受理:2013 年 12 月 24 日〕

(2)

 臨床診断:口唇炎。  処置および経過:口唇周囲皮膚ではクロムアガー寒天 培地を用いた真菌培養で Candida albicans を検出した。 2013 年 5 月初旬よりケトコナゾール(ニゾラールⓇ)塗 布を開始した。塗布開始より 1 週間後に口角および口唇 周囲の発赤は軽快し,疼痛も改善した。アムホテリシン B(ファンギゾンⓇ)含嗽併用で経過観察中であるが,症 状の再燃はなく経過良好である(写真 5)。オトガイ,頬 部皮膚にも発赤を認めたため,6 月中旬に当院皮膚科に対 診した。脂漏性皮膚炎の疑いでクロベタゾン酪酸エステル (キンダベートⓇ)軟膏塗布を開始したところ,改善傾向 を示し,現在当院皮膚科で経過観察中である。  症例 3  患者:54 歳,女性。  初診:2012 年 11 月初旬。  主訴:口唇の腫脹。  現病歴:2012 年 4 月金属製の補綴物を削合除去後から, 口唇の腫脹を生じた。近くの皮膚科を受診したが改善な く,また手背部にも発赤,腫脹を認めるようになった。同 年 11 月当科初診となった。  既往歴:喘息。  現症:手背部に点状発赤を認め,上下唇に発赤を伴う腫 脹および接触痛を認めた(写真 6)。皮膚との境界は不明 瞭で周囲の皮膚にも発赤が拡大していた。 写真 1 症例1:ケトコナゾール(ニゾラールⓇ)外用開始から 1週間後,赤唇と皮膚との境界はやや明瞭になり,上下 唇の腫脹発赤は改善した。 写真 2 症例1:ケトコナゾール(ニゾラールⓇ)外用開始から 1か月後,赤唇周囲の発赤はほぼ消失し,皮膚との境界 は明瞭になった。 写真 3 症例1:病理組織像(A:H-E染色×200 B:H-E染色×1000) A:角質層部に真菌の付着を認め,角質層から真皮上部にかけて著明な炎症性細胞浸潤を認めた。 B:Aのインレット部の拡大像。上皮内にカンジダ菌糸(矢印)を認め,また,その直下には多数の 好中球の浸潤(矢頭)を認めた。

(3)

 臨床診断:口唇炎(金属アレルギーの疑い)。  処置および経過:パッチテストの結果,Cr,Ni,In,Ir が陽性であったため,近くの歯科医院で口腔内の金属の除 去を開始した。その後,当科での診療は中断となってい たが,2013 年 6 月口唇の発赤の改善がないために当科を 再度受診した。上下唇およびその周囲の発赤が顕著であ り,金属除去によっても全く改善がないことから金属アレ ルギーとの関連は否定的と判断し,臨床的にカンジダ性口 唇炎を疑い,6 月下旬よりケトコナゾール(ニゾラールⓇ 外用を開始したところ,外用開始から 1 か月で症状は消失 した(写真 7)。手背部の発赤についてはアレルギー性皮 膚炎の診断でオロパタジン塩酸塩(アレロックⓇ)内服, プレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステル軟膏(リド メックスⓇ)および白色ワセリン(プロペト)軟膏塗布 にて症状は改善した。  口唇は,皮膚と比較すると角層が薄く,また露出部器官 であるため紫外線や乾燥などの環境的変化を受けやすく, 飲食物や化粧品などと接触する機会も多い部分である。口 唇に炎症をきたす疾患としては,口唇ヘルペスなどのウイ ルス性疾患,口唇扁平苔癬,肉芽腫性口唇炎,接触性皮膚 炎などがある1)  一方,カンジダは真菌の一種であり,真菌は有性胞子 の形成様式に基づいて,子嚢菌門,担子菌門,接合菌門, ツボカビ門に分類されている。カンジダは子嚢菌のなか の Candida 属に分類されており,Candida albicans,Can-dida krusei など多くの種類がある。至適発育温度は 37℃ で Candida albicans は酵母様の発育と菌糸状の発育を示 すので,二形性真菌である。粘膜や皮膚表面に定着した状 写真 4 症例2:初診時写真 上下唇の発赤を伴う腫脹および接触痛を認めた。 写真 5 症例2:ケトコナゾール(ニゾラールⓇ)外用開始から 1か月後,上下唇の発赤,腫脹は改善した。 写真 6 症例3:初診時写真 上下唇の発赤を認め,皮膚との境界は不明瞭であった。 写真 7 症例3:ケトコナゾール(ニゾラールⓇ)外用開始から 1か月後,症状は改善した。

(4)

態では酵母形として存在しているが,組織内に侵入した 場合には菌糸形発育を行うことが多い2)。カンジダ菌は口 腔内の常在菌であり,健常人の 5 〜 30%から分離される。 常在菌であるカンジダ菌が病原性を発揮するのは口腔粘膜 上皮に付着した後,酵母状形態から菌糸状形態に変化し, 菌体外プロテアーゼやホスホリパーゼなど病原因子を産生 することが必要となる。  口腔カンジダ症は,口腔常在菌叢を構成する Candida による日和見感染であり,主に Candida albicans が関与 し,舌の疼痛や灼熱感,味覚異常,嚥下困難症状など様々 な症状を呈するが,無症状であることも稀ではない3)。口 腔カンジダ症は急性カンジダ症,慢性カンジダ症およびカ ンジダ関連病変に分類される。これに対して,口唇に生じ るカンジダ症は口唇紅部に鱗屑を付着させ,乾燥した場合 と,それに潰瘍,びらんを伴う場合とがあり,Jansenn ら4) はそれらをびらん型,顆粒状型に分類した。本症例は,上 下唇および周囲皮膚に及ぶ,著明な発赤を伴った腫脹をそ れぞれ認めたことから顆粒状型にあてはまると考えられ る。  口腔カンジダ症の発症は,口腔乾燥症,悪性腫瘍に対す る化学・放射線治療,抗菌薬・ステロイド薬の投与,義 歯,糖尿病・AIDS などによる免疫能低下などが関与する ことが多い。山本ら5)は,その主な原因は口腔乾燥症で全 体の 61.7%を占めており,唾液分泌能の低下が量的な低下 を引き起こすだけではなく,抗カンジダ菌作用を有する抗 菌蛋白質の減少をも引き起こし,容易にカンジダ症が生じ るのではないかと報告した。また,抗菌蛋白質に加え,好 中球などの免疫細胞の貪食能,殺カンジダ能,活性酸素産 生能も劣っており,この機能低下は悪性腫瘍,ウイルス感 染,免疫抑制剤の投与などによってもたらされると報告し た6,7)  口唇に生じるカンジダ症の発症については以上のような 経過に加え,口唇紅部の皮膚炎などに対するステロイド薬 の外用が起因となることも考えられる。ステロイド薬はカ ンジダ菌に対して増殖促進的に作用するため,好中球の抗 カンジダ作用の抑制と相まってより容易に発症することと なる。本報告の症例 1 と 2 ではいずれも当科受診前にステ ロイド薬の塗布が開始されており,特に症例 1 ではその後 も種類を変えながら外用を継続していた。その間にカンジ ダ感染を併発し,症状が増悪した可能性があろう。症例 1 では口唇腫脹を認めた時期に感冒症状も併発し,抗菌薬の 内服を行っていた。このことがカンジダ感染を助長した可 能性もあると考えられた。  カンジダ性口唇炎の診断については直接鏡検または生検 が第一選択と考えられる。症例 1 に関しては,初診より 14 日後に生検を施行しており,それにより診断に至った。 カンジダが病原性を発揮するのは酵母状形態から菌糸状形 態に変化した時であり,カンジダを分離培養できても病変 部から採取した材料の直接鏡検によって菌糸形の発育を確 認しないと起因菌とすることはできない1)。症例 1 におい ては,菌糸の付着が認められたことから起因菌として特定 できたと考えられた。症例 2 については,真菌培養でカン ジダが検出された。症例 3 は当初金属アレルギーとの関連 を強く疑ったものの金属除去後も症状の改善がみられな かったが,抗真菌薬の外用で症状は消失した。臨床症状な らびに治療経過からもカンジダ性口唇炎と判断した。しか しながら,症例 3 についてはカンジダ症発症の誘因は明確 にできなかった。また,手背部についてはアレルギー性皮 膚炎の診断で,ステロイド軟膏を含む外用薬の使用で症状 は改善しており,金属アレルギーとの関連は否定できない ものの口唇のカンジダ症との関連はないものと思われた。  一般に,口腔カンジダ症の特徴は剥離可能な白苔の形 成,上皮の肥厚による白斑や粘膜の著明な萎縮と発赤など である。これに対して口唇の場合は口唇紅部では鱗屑の付 着とその周囲皮膚に及ぶ著明な発赤が特徴的である。この ような臨床症状の違いは粘膜と皮膚におけるカンジダの発 育形態の違いによると思われる。今回報告した 3 例は比較 的典型的な症状を呈した。しかし,口腔カンジダ症と比べ ると頻度が低く,比較的まれであるため,その臨床的な特 徴を十分に理解していないと診断に手間取る可能性があ る。  鑑別診断として考えられる疾患としては,アトピー性皮 膚炎,化粧品や食物による接触性口唇炎,肉芽腫性口唇炎 などがあげられる。炎症,腫脹を伴う口唇炎やステロイド 軟膏で改善しない口唇炎についてはカンジダ性口唇炎の可 能性についても念頭におき,診断を行う必要がある。  今回われわれは,口唇の腫脹を主訴に来院した患者に対 し,カンジダ性口唇炎と診断した 3 例を経験したため,若 干の文献的考察を加えて報告した。  炎症,腫脹を伴う口唇炎については,カンジダ性口唇炎 の可能性についても念頭におき,診断,治療を行う必要が ある。 1) 松永佳世子,編:口腔の真菌症.口唇診療マニュアル MB  Derma 108:55︲60.2005. 2) 東 禹彦:カンジダとは.皮膚カンジダ症.アトラス,皮膚 および粘膜のカンジダ症,金原出版,2︲13,49︲62,2011. 3) 中川洋一,小根山隆浩,寺井陽彦,他:口腔カンジダ症に対 する抗真菌薬の臨床効果の適切な判定方法に関する研究―抗 真菌薬の効果判定基準作成委員会報告―.歯薬療法 30:29︲ 40,2011. 4) Jansenn GT, Dillaha CJ, Honeycutt WN, et al: Candidal chei-litis. Arch Dermatol  88:325︲329, 1963.

(5)

5) 山本哲也:口腔カンジダ症の病態とその制御.臨床病理 58: 1027︲1034,2010.

6) 植田栄作,米田和典,山本哲也,他:口腔カンジダ症の臨 床および白血球機能からみた検討.口科誌 39:982︲992, 1990.

7) Ueta  E,  Osaki  T, Yoneda  K,  et  al :  Functions  of  salivary  polymorphonuclear  leukocytes (SPMNs) and  peripheral 

blood  polymorphonuclear  leukocytes (PPMNs) from  healthy individuals and oral cancer patients. Clin Immunol  Immunopathol  66:272︲278, 1993.

別冊請求先:小澤通子 〒 329︲₀₄₉₈ 栃木県下野市薬師寺 3311︲1

(6)

Three Cases of Candidal Cheilitis

Michiko O

ZAWA

, Yoshinori J

INBU

, Norikazu M

UNEMASA

Akiko K

ASHIWAZAKI

, Hiromi H

AYASHI

, and Mikio K

USAMA

Department of Dentistry, Oral and Maxillofacial Surgery, Jichi Medical University

(Chief : Prof. Mikio KUSAMA) J. Jpn. Oral Medicine, 19:66 〜 71, 2013  Abstract:Oral candidiasis is opportunistic infection by Candida constituting oral microbiota, and is often associated  with cancer chemotherapy, steroid therapy and/or long-term treatments with antibiotics.  Main symptom of candidiasis  is pain of oral mucosa, burning sensation and taste disorder, and white plaques on the mucosa and atrophic change of  the mucosa are common clinical symptom.  However, candidal chelitis is relatively rare.  We describe a 74-year old woman (Case 1), a 54-year old woman(Case 2), and a 71-year old woman (Case 3) with  swelling and redness of the lips.  After treatment of antifungal drug, swelling, redness and pain was disappeared and now is good without a recurrence  in progress.  Key words:candidal cheilitis, lip

 Reprint requests to Michiko OZAWA, Department of Dentistry, Oral and Maxillofacial Surgery, Jichi Medical University, 3311︲1, 

Yakushiji, Shimotsuke-shi, Tochigi, 329︲₀₄₉₈, Japan.

参照

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