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理学療法の臨床と研究第 25 号 2016 年 平成 26 年度学術助成研究 臨床現場の理学療法士のプロフェッショナリズムに関する一考察 学生の結果との比較を通して * 島谷康司 1) 井関 茜 2) 沖田一彦 1) 甲田宗嗣 3) 要旨 目的 本研究では 質問紙を用いて理学療法士のプロフェッショナ

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(1)

【はじめに】

 Elliott は、プロフェッショナリズムとは「仕事 の編成あるいは仕事への志向の一形態、つまり固有 の職業的活動への取り組み方ないしその遂行に関す る共有の志向である1)」と説明しており、個人のポ リシーや志向性とは区別される。理学療法士(以下、 PT)は技術職でもあるため、「技術・知識に精通した」 という意味のスペシャリストと混合し易いが、これ らは異なるものとして捉える必要がある。  では、我々 PT のプロフェッショナリズムは如何 なるものなのか、それについての研究は乏しいのが 現状である。日本理学療法士協会は倫理規程を作成 しているが、その内容はいわゆる業務方針であり、 プロフェッショナリズムの指針として適当とは言い 難い。  現在日本の PT の数は急増し、質の低下が危惧さ れている中、個々の PT がプロフェッショナルであ ることを求めていくことを疎かには出来ない。我々 は以前、理学療法学科の学生に対してプロフェッ ショナリズムに関するアンケート調査を実施し、臨 床実習の経験で学生のプロフェッショナリズムが学 ばれたこと、そしてそれは hidden curriculum(隠 れたカリキュラム)の影響が大きいと考えられるこ とを報告した2)。hidden curriculum とは、正式な 教育とは異なることが行われている現場から、正式 に教えられたこととは別のことをメッセージとして 受け取る、あるいは教員や指導医の無意識な習慣や 行動から得る学習様式のことである。このことから、 臨床経験によりプロフェッショナリズムが学習され ていく可能性が十分考えられる。  そこで今回は、臨床の PT のプロフェッショナリ ズムを調査し、その結果を学生と比較することで、 臨床経験による PT のプロフェッショナリズムの形 成について考察する。

【対象および方法】

 プロフェッショナリズムに関する質問項目として は、質問紙作成手法に基づいて、日本理学療法士協 会が作成した倫理規定3)、職業倫理ガイドライン3) 日本看護協会による看護の倫理綱領4)、日本医師会 による医師の職業倫理指針5)、文献6)等を参考に井 関ら2)が作成した 46 項目の質問項目を使用した。 回答方法は 5 段階のリッカート尺度(全くそう思わ ない= 1、どちらともいえない= 3、強くそう思う 平成 26 年度学術助成研究

臨床現場の理学療法士のプロフェッショナリズムに関する一考察

―学生の結果との比較を通して―

*

島谷 康司

1)

  井関  茜

2)

  沖田 一彦

1)

  甲田 宗嗣

3) 要旨 「目的」本研究では、質問紙を用いて理学療法士のプロフェッショナリズムについて調査し、学 生のそれと比較する。 「方法」5 段階リッカート尺度の質問紙(46 項目)を用いて、「理学療法士としてプロであるた めには、どの程度当てはまる必要があるか」を質問し、各項目に対して学生との差異を統計学 的に比較した。 「結果」有意差のあった組み合わせで、5 つのパターンが認められた。 「 結 論 」 プ ロ フ ェ ッ シ ョ ナ リ ズ ム は 臨 床 経 験 を 通 し て 学 習 さ れ、 そ の 学 習 に は hidden curriculum の影響が大きいことがわかった。 (理学療法の臨床と研究 25:37-41,2016) キーワード 理学療法士、プロフェッショナリズム、アンケート

* Consideration of the characteristic professionalism of physical therapists in clinical settings: comparing results among physical therapy students

1) 県立広島大学保健福祉学部理学療法学科

Department of Physical Therapy, Faculty of Health and Welfare, Prefectural University of Hiroshima

2) 医療法人社団朋和会 西広島リハビリテーション病院 リハ ビリ部 D e p a r t m e n t o f r e h a b i l i t a t i o n , N i s h i h i r o s h i m a rehabilitation hospital 3) 広島市総合リハビリテーションセンター リハビリテーショ ン科 D e p a r t m e n t o f r e h a b i l i t a t i o n , H i r o s h i m a c i t y rehabilitation hospital (受付日 2015 年 3 月 24 日/受理日 2015 年 9 月 7 日)

(2)

= 5)であり、「理学療法士としてプロフェッショナ ルであるためには以下の項目がどの程度当てはまる 必要があるか、理想ではなくあなたの考えで回答し てください」と質問した。  アンケートの対象には、学生時のプロフェッショ ナリズムと比較することが目的であるため、卒後 3 ~ 4 年の臨床(あるいは社会)を経験した理学療法 士を基準とした。また、施設におけるバイアスを 避けるために、各施設 1 名とした。アンケートの実 施方法は、まず(公社)広島県理学療法士会の協力 を得て、当会に所属する 25 歳以上の PT が、少なく とも 1 名以上勤務する 413 施設をピックアップし た。各施設に 1 通ずつ質問紙を送付し、各施設の理 学療法部門の責任者に、回答者を 1 名選出するよう 依頼した。アンケートは 170 部回収され(回収率 41.2%)、その中から欠損項目の合計が 3 問以上であっ た回答データを除いた 166 名(有効回答率 40.2%) を分析の対象とした。また、欠損項目の合計が 2 問 以下の回答には、欠損値として中央値を当てた。  分析対象者の性別は男性 114 名(68.7%)、女性 52 名(31.3%)であった。年齢は 20 歳代が 42 名(25.3%)、 30 歳代が 88 名(53.0%)、40 歳代が 28 名(16.9%)、 50 歳代以上が 8 名(4.8%)であり、経験年数の平均 は 10.9 ± 6.4 年であった。そのうち管理職であっ た者は 104 名(62.7%)であった。また、回答者の 勤務する施設に所属する PT 数の平均は、6.9 ± 7.9 人であった。  理学療法学生との比較には、井関ら2)が実施した アンケートの回答データを使用した。このデータは 2012 年度に 4 年制大学理学療法学科に在籍する学 生 115 名から収集したものであった。統計処理は、 Excel 統 計 2010(SSRI 社 ) の Kruskal-Wallis 検 定 (Steel-Dwass による多重比較)を用いてすべての質 問項目別のリッカート尺度の点数を、PT と学生間で 比較した。学生のデータは実習未経験群(以下未経 験群)である 1 ~ 3 年生(88 名)と、実習経験群(以 下経験群)である 4 年生(27 名)とを区別した。有 意水準は 5%未満とした。  倫理的配慮として、本アンケートは無記名式であ り、質問紙の返送をもって本研究に同意を得ている と見なした。また、以前に実施した学生に対するア ンケート調査時にもプロフェッショナリズムの研究 調査にデータを使用することに同意を得ていた。な お、本研究は県立広島大学倫理委員会の承認(第 14MH010 号)を得ている。

【結果】

 表 1 に、未経験群、経験群、PT の各項目の中央値 (第 1 四分位数~第 3 四分位数)と最頻値を比較し た結果を示す。この中で有意差が認められた項目に おいて、その組み合わせで以下の 3 通りに大別出来 る。①実習の経験に関わらず、PT と学生で有意差が 生じる項目。②経験群と PT との間でのみ有意差が 生じる項目。③未経験群と PT との間でのみ有意差 が生じる項目。 表1 各項目を PT と学生間で比較した際の中央値(第 1 四分位数~第 3 四分位数)および最頻値を示す。 カテゴリ 質問項目 実習未経験群 実習経験群 理学療法士 最頻値 p値 パターン 自己研鑽 1. 質の高い医療のために学習 〔5(4 ~ 5)〕 〔5(4 ~ 5)〕 〔5(4 ~ 5)〕 (5,5,5) n.s -2. 生涯学習 〔4(4 ~ 5)〕* 〔4(4 ~ 5)〕 〔5(4 ~ 5)〕 (4,4,5) p < 0.01 4 3. 研修会に参加 〔4(3 ~ 4)〕* 〔4(3 ~ 4)〕* 〔4(3 ~ 5)〕 (4,4,4) p < 0.05 1 品行 4. 適切な接遇・言葉 〔5(4 ~ 5)〕* 〔4(4 ~ 5)〕* 〔5(4 ~ 5)〕 (5,5,5) p < 0.05 1 5. 身なり 〔4(4 ~ 5)〕 〔4(4 ~ 5)〕 〔5(4 ~ 5)〕 (5,4,5) n.s -6. 勤務時間外の行動 〔3(3 ~ 4)〕* 〔3(3 ~ 3.5)〕* 〔4(3 ~ 4.75)〕 (3,3,4) p < 0.001 1 研究 7. 研究活動に参加 〔4(3 ~ 4)〕 〔4(3 ~ 4)〕 〔3(3 ~ 4)〕 (4,4,3) n.s -8. 学会発表 〔3(3 ~ 4)〕 〔3(3 ~ 4)〕 〔3(3 ~ 4)〕 (3,3,3) n.s -9. 勤務時間外の研究 〔3(2 ~ 3)〕 〔3(2 ~ 3)〕 〔3(2 ~ 3)〕 (3,3,3) n.s -技術 10. 高い評価・治療技術 〔5(4 ~ 5)〕 〔4(4 ~ 5)〕 〔5(4 ~ 5)〕 (5,4,5) n.s -11. 特殊な評価・治療技術 〔4(3 ~ 4)〕 〔3(2 ~ 4)〕 〔3(3 ~ 4)〕 (4,4,3) n.s -知識 12. 医学的知識 〔5(5 ~ 5)〕 〔5(4 ~ 5)〕 〔5(4 ~ 5)〕 (5,5,5) n.s -13. 保険制度の理解 〔4(4 ~ 5)〕* 〔4(4 ~ 5)〕 〔4(4 ~ 5)〕 (4,4,5) p < 0.01 4 14. 診療報酬の理解 〔4(4 ~ 5)〕 〔4(4 ~ 5)〕 〔4(4 ~ 5)〕 (4,4,4) n.s -15. 教養・地域の知識 〔4(4 ~ 4)〕 〔4(4 ~ 5)〕 〔4(4 ~ 4)〕 (4,4,4) n.s -守秘義務 16. 守秘義務 〔5(5 ~ 5)〕 〔5(4 ~ 5)〕 〔5(5 ~ 5)〕 (5,5,5) n.s -ICF 17. 病態や治療の説明 〔5(5 ~ 5)〕 〔5(4 ~ 5)〕 〔5(4 ~ 5)〕 (5,5,5) n.s -18. 同意を得る 〔5(4 ~ 5)〕* 〔5(4 ~ 5)〕 〔4(4 ~ 5)〕 (5,5,5) p < 0.001 5 19. 効果の低い治療の実施 〔3(3 ~ 3)〕 〔3(2 ~ 3)〕* 〔3(3 ~ 3)〕 (3,3,3) p < 0.05 3

(3)

【考察】

 今回の調査結果から、学生と PT を比較するとプ ロフェッショナリズムに多くの差異が認められた。 そして有意差が認められた項目について、その組み 合わせで 3 通りに大別出来た。これらは更に、学生 と PT という比較で差異が認められたパターン(1)、 (2)と、学生でも実習経験の有無によって有意差 の出方に差異が認められたパターン(3)、(4)、(5) に分類出来た。  プロフェッショナリズムの教育は、ロールモデル によって次世代に伝えられてきたとされており、そ の中でも hidden curriculum が重要とされている7) つまり、実習現場や臨床現場において明示的に「言 語」によって教育、指導がなされていなくても、指 導者の態度、行動、現場の状況などを「体験」する ことで十分にプロフェッショナリズムは学習され得 るということである。例えば、特に PT が学生より もプロフェッショナリズムとして低く回答している 項目の、「医療ボランティアなどに参加して社会に 貢献する」、「治療の前には必ず患者の同意を得る」、 「必ず科学に基づいた治療を行う」などについて、「こ れらは重要ではない、必要ではない」と上司あるい は所属団体等から、指導がなされたとは想像し難い。 よって今回の結果は、プロフェッショナリズムの学 習に hidden curriculum の影響が大きかったと考え るのが妥当であろう。つまり、実習経験や臨床経験 を経験する前後の母体間での有意差については、そ の経験によってプロフェッショナリズムが変化した と考えられる。以下より、この学習体系の存在を前 提として考察する。  パターン(1)の項目については、PT が臨床現場 を経験することで、学生よりもそれらをプロフェッ ショナルとして高く評価している、つまりより厳し い意識を持っていると解釈出来る。医療者として行 動することを高く評価していたことについては、各 職場や施設での社会人研修や、社会生活で学ばれる 社会人としての意識の変化と捉えることが出来る。 カテゴリ 質問項目 実習未経験群 実習経験群 理学療法士 最頻値 p値 パターン 正当報酬 20. 正当な報酬 〔5(4 ~ 5)〕 〔5(4 ~ 5)〕 〔5(4 ~ 5)〕 (5,5,5) n.s -21. 謝礼の拒否 〔3(3 ~ 4)〕 〔3(3 ~ 4)〕 〔3(3 ~ 4)〕 (3,3,3) n.s -EBM 22.EBM 治療 〔4(3 ~ 4)〕* 〔3(3 ~ 3.5)〕 〔3(3 ~ 4)〕 (4,3,3) p < 0.001 5 関係性 23. 私的な関係の拒否 〔4(3 ~ 5)〕 〔4(4 ~ 5)〕 〔5(3.25 ~ 5)〕 (5,4,5) n.s -24. 不快感を示さない 〔5(4 ~ 5)〕 〔4(4 ~ 5)〕 〔4(4 ~ 5)〕 (5,4,5) n.s -25. 涙を流さない 〔3(3 ~ 4)〕 〔3(3 ~ 4)〕 〔3(3 ~ 4)〕 (3,3,3) n.s -患者との 26. 適切なコミュニケーション 〔5(4 ~ 5)〕 〔5(4 ~ 5)〕 〔5(4 ~ 5)〕 (5,5,5) n.s -コミュニケーション 27. 関係のない会話 〔1(1 ~ 2)〕 〔2(1 ~ 2)〕 〔1(1 ~ 2.75)〕 (1,1,1) n.s -28. 積極的な関係 〔4(4 ~ 4)〕* 〔4(3 ~ 4)〕* 〔3(3 ~ 4)〕 (4,4,3) p < 0.001 2 営利目的 29. 地位を利用しない 〔4(3 ~ 5)〕 〔4(3.5 ~ 5)〕 〔4(3 ~ 5)〕 (4,4,5) n.s -医療事故 30. 事故の報告 〔5(5 ~ 5)〕 〔5(4 ~ 5)〕* 〔5(5 ~ 5)〕 (5,5,5) p < 0.01 3 31. 事故の謝罪 〔5(4 ~ 5)〕 〔5(4 ~ 5)〕 〔5(4 ~ 5)〕 (5,5,5) n.s -医療資源配置 32. 適切な単位数の決定 〔4(4 ~ 5)〕 〔4(3 ~ 4.5)〕 〔4(3 ~ 5)〕 (4,4,4) n.s -チーム 33. 他専門職との連携 〔5(4 ~ 5)〕 〔5(4 ~ 5〕* 〔5(4 ~ 5)〕 (5,5,5) n.s 3 ワーク 34. 他の専門職への指導 〔4(4 ~ 5)〕* 〔4(4 ~ 4.5)〕* 〔4(4 ~ 5)〕 (4,4,5) p < 0.01 1 35. 治療方針の決定 〔5(4 ~ 5)〕* 〔4(4 ~ 5)〕 〔4(4 ~ 5)〕 (5,4,5) p < 0.05 5 36.PT への助言・指導 〔4(4 ~ 5)〕 〔4(4 ~ 5)〕 〔4(4 ~ 5)〕 (4,4,4) n.s -37. 同僚への注意 〔4(4 ~ 5)〕 〔4(4 ~ 4)〕* 〔4(4 ~ 5)〕 (4,4,4) n.s 3 同僚との 38. 同僚との人間関係 〔5(4 ~ 5)〕* 〔5(4 ~ 5)〕 〔4(4 ~ 5)〕 (5,5,5) p < 0.01 5 コミュニケーション 39. 批判をしない 〔3(3 ~ 4)〕 〔4(3 ~ 4)〕 〔3(3 ~ 4)〕 (3,4,3) n.s -後輩指導 40. 後輩の指導 〔4(3 ~ 4)〕 〔4(4 ~ 4)〕 〔4(4 ~ 5)〕 (4,4,4) n.s -41. 時間を割いた指導 〔4(3 ~ 4)〕 〔4(3.5 ~ 4)〕 〔4(3 ~ 4)〕 (4,4,4) n.s -利他主義 42. 給与よりも職場 〔3(3 ~ 4)〕* 〔4(3 ~ 4)〕* 〔3(2 ~ 3)〕 (3,4,3) p < 0.001 2 43. 職場の選択基準 〔3(2 ~ 3)〕* 〔3(2 ~ 3)〕 〔3(1 ~ 3)〕 (3,3,3) p < 0.01 5 専門職として 44. 理学療法界のリード 〔3(3 ~ 4)〕 〔3(3 ~ 4)〕 〔3(3 ~ 4)〕 (3,3,3) n.s -の責務 45. 天職 〔3(3 ~ 4)〕 〔3(3 ~ 4)〕 〔3(3 ~ 4)〕 (3,3,3) n.s -46. 地域・社会に貢献 〔4(3.75 ~ 4)〕* 〔4(3 ~ 4)〕* 〔3(3 ~ 4)〕 (4,4,3) p < 0.001 2 * 理学療法士と比較して有意差が認められた項目 ※最頻値は(未経験群 , 経験群 ,PT)

(4)

また学生と異なり、社会人では行動の責任が所属組 織にも問われることも影響していると考えられる。  パターン(2)の項目については、PT が臨床現場 を経験することで、学生よりもそれらをプロフェッ ショナルとして低く評価している、あるいはするよ うになると解釈できる。給与体系の重視やボラン ティア活動の項目で有意差が認められたことは、時 間や労力、金銭の自己犠牲が求められる内容の為に、 実際に理学療法を生活手段となる仕事(job)とし て賃金を得ている PT が、学生よりもよりシビアに 捉えている結果である。これは著者ら2)の学生を対 象とした研究においても、自己犠牲の求められる内 容でジレンマが存在しているという見解と一致して いる。  パターン(3)の項目については、経験群よりも、 PT がそれらをプロフェッショナルとして高く評価 していると解釈できる。パターン(1)との違いは、 未経験群と PT との比較では有意差が認められない 点にあるが、これは項目が医療事故時の対応など、 未経験群にとっては回答する際に十分想像しがたい 内容であったためと推測される。沖田8)は、長期実 習経験後の大学 4 年生に行ったアクシデント/イン シデントに関するアンケート調査を行っている。そ の結果、実際にアクシデントを起こした者は 37.0% であったが、事故をおこしそうになったインシデン トはそれよりも多い 46.3%であり、実に 8 割を超え る学生がなんらかのアクシデントまたはインシデン トを経験していると報告している。さらにそれらが 発生した最も大きな原因は、「(学生)自分自身」に あったとの回答が 77.1%を占めていたことから、実 習が進むについて学生に「慣れ」が生じるとともに、 実習指導者に「油断」がおこるためだと述べている。 今回の結果においても、経験群には事故に対する慣 れが生じており、PT との差が認められたと考えるこ とができる。また、回答者の 166 名中、104 名が管 理職であったことから、PT は報告義務の必要性の意 識がより高かった可能性が考えられる。  パターン(4)の項目については、未経験群よりも、 PT がそれらをプロフェッショナルとして高く評価し ており、経験群と PT の比較では差が認められない。 つまり臨床実習により十分に学習されたと解釈され る項目である。自費で研修会に参加するという項目 について、島谷ら9)は日本の学生と伊国の学生のプ ロフェッショナリズムを比較した際、日本の学生は 伊国と比較して受動的な学習が習慣化していること が示唆され、日本の理学療法養成カリキュラムでは 臨床を身近に感じることが難しく、能動的に学ぶ姿 勢が身につきにくいと述べている。今回の結果より、 臨床現場に身を置くことで、PT は能動的な学習の姿 勢の必要性を高く評価するようになることが示唆さ れた。臨床実習でこれらの重要性への気づきが得ら れ、PT と同様にプロフェッショナルとして捉えてい る。生涯学習の必要性や医福祉制度の理解などは、 臨床実習経験により、その必要性を学習したと言え る。  パターン(5)の項目については、未経験群よりも、 PT がそれらをプロフェッショナルとして低く評価し ており、経験群と PT の比較では差が認められない。 つまり臨床実習で臨床現場を体験した者と、臨床現 場で働く者はこれらを低く評価するようになると解 釈される項目である。勤務体制の項目は、パターン (2)と同様に、自己犠牲を要求される項目のために 低く評価されたと考えられる。米国の最近の医学生 は頭がよくエネルギッシュであるが、自由な時間と ワークライフバランスに価値を置くユニークな世代 であると指摘し、彼らは融通性のある雇用形態を好 み、患者よりも自分を優先し、1 人の患者の医師に なることに熱意をもつ者が減ってきている7)、との 分析もあり、PT においても同様の傾向があることが 窺える。そして、患者の同意を得る、科学に基づい た治療を行う、他の PT との連携、職場の人間関係 の項目は、著者ら2)の研究でインフォームドコンセ

ント、evidence based medicine、チームワークの カテゴリについて、実習経験群が未経験群に比べこ れらを低く評価するという結果が示されており、臨 床現場で働く PT も、経験群と同様にこれらをプロ フェッショナリズムとして低く評価していることが 明らかとなった。  今回の結果より、実習生が臨床実習を経験し、PT が臨床現場に身を置くことで、生涯学習や能動的 な学習の重要性など、プロフェッショナリズムとし て高く評価するようになった項目が多く見受けられ た。このことは、卒前・卒後教育の成果とも捉えら れる、ポジティブな学習の存在を窺えさせた。また、 パ タ ー ン(5) の 項 目 よ り、hidden curriculum に よってプロフェッショナリズムが学習されることが 十分に裏付けされたことが明らかとなった。一方で、 hidden curriculum の成立は“正式な教育とは異な ることが行われている現場”が存在することを暗に 意味し、学校教育と臨床現場との乖離の存在を浮き 彫りにする。「学校で習ったことが現場では役に立 たなかった」という台詞を、PT なら誰しも一度は耳 にしたことがあるのではないだろうか。  では、学校教育と臨床現場との乖離を埋めていく ことは可能だろうか。現在、学校教育はその多くが 講義形式で定式化されている。学内での実習も、学 生同士で定式化された手技が教えられている。つ まり確実に“真”と言える内容を伝達している。上 記で述べた、身体機能に変化が見られなくなった患 者から「歩行練習」を要求された場合を例にとって も、学校教育では早期歩行訓練の重要性が十分に説 明され、実践するよう教育される。しかしそれが身

(5)

体機能に変化が見られなくなった患者が対象である 場合の対応について、教育上明言することは困難で ある。この点について中川10)は、臨床現場では社会 的・感情的な問題を含む個人的要因を調べる必要の あるケースの方が圧倒的に多く、現在の医学教育は それに対する感受性を育んでいないことが大きな問 題であり、そのことが逆に医学・医療の“不確実性” を生み出す原因となっていると指摘している。つま り、学校教育と臨床現場の乖離とは、医学や医療に 不確実性の存在があるために起こっているのではな いか。更に、教育と現場が乖離していると言うより は、学校教育で身につける医学的知識に加えて、社 会的、感情的、個人的要因から総合的に判断、対応 することが必要なケースが臨床現場では圧倒的に多 い、と述べた方がより正しい表現であろう。そして、 中川が感受性を育むと述べたように、社会的・感情 的・個人的要因により自明な正解がない問題を思慮 する経験を、学校教育で実現出来れば、その距離を 縮めることが可能かもしれない。  医師養成課程においては、プロフェッショナリズ ム教育を科目として実施する予定とする大学もあ る11)。今後、理学療法教育においても、プロフェッ ショナリズム教育、及び医療の不確実性の存在を踏 まえた教育の在り方について、議論がなされるべく、 更なる研究、検証が早期に望まれる。

【結論】

 アンケート結果より、臨床実習や臨床経験におい てプロフェッショナリズムが学習されることが明ら かとなった。その学習には hidden curriculum の影 響も大きく、その存在は学校教育と臨床現場の乖離 を示唆した。

【謝辞】

 研究助成の機会を与えていただき、また会員の施 設名簿を提供していただきました(公社)広島県理 学療法士会にお礼申し上げます。また、アンケート にご回答していただきました広島県の PT の皆様に 深く感謝いたします。

【文献】

1) 長尾周也:プロフェッショナリズムの研究:(1)プロ フェッションおよびプロフェッショナル.大阪府立大 學経済研究 25:18-49,1980 2) 井関茜,沖田一彦・他:PT のプロフェッショナリズム の分析-日本の理学療法学生へのアンケート結果に基 づいて-.理学療法科学 29:599-604,2014 3) http://www.japanpt.or.jp/about/about_jpta/ 04_index/:日本 PT 協会:倫理規定,職業倫理ガイド ライン [2013.11.25] 4) h t t p : / / w w w . n u r s e . o r . j p / h o m e / p u b l i c a t i o n / index.html#p2: 日 本 看 護 協 会: 看 護 者 の 倫 理 綱 領 [2013.11.25] 5) http://www.med.or.jp/doctor/member/000250. html: 日 本 医 師 会: 医 師 の 職 業 倫 理 指 針〔 改 訂 版 〕 [2013.11.25] 6) 鎌倉雅彦,宮下一博・他:心理学マニュアル質問紙法. 北大路書房,東京,10-108,2003 7) 宮崎仁,尾藤誠司・他:白衣のポケットの中 医師の プロフェッショナリズムを考える.医学書院,東京, 2009,pp196-212 8) 沖田一彦:第 4 章カリキュラムにみる臨床実習 . 標 準 理 学 療 法 学  理 学 療 法  臨 床 実 習 と ケ ー ス ス タ ディー.医学書院,東京,2011,pp41-53 9) 島谷康司,井関茜・他:理学療法学生のプロフェッショ ナリズムの分析-日伊の理学療法学生へのアンケート 結果を比較して-.理学療法科学 29:615-620,2014 10) 中川米 :医学の不確実性.日本評論社:128-138, 1996 11) 朝比奈真由美,河本慶子・他:医師養成課程における プロフェッショナリズム教育の現状調査.日本プライ マリ・ケア連合学会誌 36:19-22,2013

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