●
今月の話題
●
フラット 35 の 3 つの商品改善とア
ドバイスのポイント
長期固定金利のフラット 35 は、今年の 4 月より、フラット 35 を 2 つ組み合わせて利用 できる「ダブルフラット」、中古住宅購入資金とリフォーム資金をまとめて借りられる「フ ラット 35(リフォーム一体型)」といった、新たな商品を打ち出した他、太陽光発電の売電 収入を所得に加算できるとする取扱いを開始した。今回は、これら商品改善の概要と活用 法等について紹介し、アドバイスにあたっての要点をまとめた。 一般社団法人 金融検定協会試験部 田 春菜 住宅金融支援機構では、4 月 1 日申し込み分より、返済期間の異なる 2 つの「フラット 35」を組み合わせる「ダブルフラット」の取り扱い、及び「フラット 35」の融資審査にお いて太陽光発電の売電収入を年収に加算することができる制度の導入をそれぞれ開始した。 また、同月 20 日には、中古住宅の購入資金とリフォーム資金をまとめてフラット 35 で借 りられる「フラット 35(リフォーム一体型)」の取り扱いも始まった。それぞれの概要と活 用法等について以下紹介していく。なお、それぞれの商品・制度についての詳細について は、住宅金融支援機構のフラット 35 の HP を参照されたい。(http://www.flat35.com/)■ ダブルフラットとは
ダブルフラットは、住宅金融支援機構が取り扱う全期間固定型の住宅ローンのうち、返 済期間の異なるものを 2 つ組み合わせることにより、将来の返済負担を軽減することを主 な目的とした融資方法である。 ダブルフラットは、「定年後に毎月の返済額を減らしたい人」や「将来的に子どもの学費 が多くなる時期の毎月の返済額を減らしたい人」におすすめの商品となっている。という のも、ダブルフラットを利用することにより、返済期間後期の毎月の住宅ローンの返済額 を減らすことが可能となるからだ。ダブルフラットについては、以下のような組み合わせが可能となっている。なお、建物 の建設要件を満たせば、フラット 35Sの利用も可能である。
(1) フラット 20 とは
フラット 20 とは、フラット 35 のうち、借入期間を 20 年以下とする場合の総称であり、 借入期間が 21 年以上の場合の最頻金利(取扱金融機関が提供する最も多い金利)よりも低金 利となっている。フラット 20 では、原則、返済途中で、借入期間を 21 年以上に変更する ことはできない。(2) ダブルフラット活用例
前述したとおり、ダブルフラットは、「将来的に返済負担を減らしたい人」のための商品 となっている。 例えば、現在 40 歳の方が 60 歳で定年を迎えるとして、定年までになるべく住宅ローン の残債を減らしたいと考えているのであれば、ダブルフラットで「定年を迎えるまでの 20 年返済」と「35 年返済」を組み合わせることにより、当初の 20 年は返済の負担は大きくな るものの、定年時の住宅ローン残債を減らすことができ、また、定年時以降の毎月の返済 額を減らすことも可能となってくるのである(図表 2 参照)。 「2014 年度上半期フラット 35 利用者調査報告」によれば、近年では 40 歳を超える方の借 入が増えているとのことだ。今後、住宅ローンアドバイザーのもとにも 40 歳を越える相談 者が増えていくことが予想される。今回の商品は、そんな方にとっても朗報となるもので ある。アドバイザーも商品理解を深くし、スムーズにアドバイスできるようにしていきた い。 1.【フラット 20】+【フラット 35】 2.【フラット 35】+【フラット 35】 3.【フラット 20】+【フラット 20】 出典:フラット 35 HP(住宅金融支援機構) 図表 1 ダブルフラット例また、ダブルフラットのもう一つのメリットとしては、一部の借入を金利の低いフラッ ト 20 にすることで、返済期間の短縮に伴い、総支払額を減らすことも可能であるというこ とがある。前記例(図表 2)においても、ダブルフラットの場合と、ダブルフラットを利用 しない場合を比較すると、総返済額 231 万円の軽減となっている。 ただし、この場合の注意点としては、ダブルフラットの場合、それぞれの借入に対して、 金銭消費貸借契約、抵当権設定等の手続が必要となってくるため、融資手数料、金銭消費 貸借契約書の印税、抵当権設定のための費用等が通常フラット 35 を一本で借りる場合より もかかってくることに留意しなければならない。また、総返済額が減るとしても、返済期 間が短くなれば毎月の返済額は上がることになる。この点、アドバイザーは、ライフプラ ンを考慮し、初期費用、返済期間前期の負担を許容できるのかをよく見定めていきたい。 なお、ダブルフラットへの借換えについては、「借入金利が高かった時代のフラット 35 を利用している、2 段階金利のフラット 35 で金利アップ時期を迎えている、変動金利型や 固定金利期間選択型の金利優遇期間が終了して金利アップ時期を迎えている、といった場 合では、例えば、フラット 35 と期間の短いフラット 20 を組み合わせたタイプにローンを 借り換えることも効果的」とは、FPの金子千春氏(FP/弊協会試験委員)。「特に変動金 利型などで金利上昇アップ時期を迎えているケースでは、月返済額の増加に加えて将来の 金利上昇リスクも抱えることになる。もちろん、繰上げ返済をすることでそれらのリスク を軽減することはできるが、繰上げ返済効果を実感できるのは返済を完了後であり、手元 資金が減る不安が生じる。 一方で、借換えをすれば、将来の金利上昇リスクを抑えながら、 フラット 20 の部分については低金利の恩恵も受けられ、かつ、定年後(あるいは、60 歳以 降の収入減時期)の返済を抑えることが可能となる」とのこと。 出典:フラット 35HP(住宅金融支援機構) 図表 2 40 歳の方のダブルフラット借入例
参考<フラット 35+20 を使った既存住宅ローンの借り換えイメージ> 借換え 45 歳 60 歳 70 歳 返済期間 融資額 金利 期間 月返済額 45~60 歳 60 歳以降 フラット35 12,284,335 円 1.65% 25 年 50,000 円 50,000 円 フラット20 11,622,166 円 1.38% 15 年 71,518 円 ――――― 合計 23,906,501 円 121,518 円 50,000 円 ※融資率90%以下と 90%超で金利が異なる。 出典:金子千春氏(FP/金融検定協会試験委員)作成 一方で、「ダブルフラットについては、返済余力のあるうちに多く返済をしておこうとい う利用者のニーズに応えるものだが、2 段階の 2 階部分を、フラット 20 とすべきか変動金 利型とすべきか検討する必要はあるだろう」とは、FPの星野知倫氏(FP/弊協会試験委 員)。「追加の返済余力がある期間は、金利変動リスクもある程度とれる可能性が高いこと から、金利面から変動金利と組み合わせるという選択とどちらがいいか、納得感をもって 決めてもらうことが重要になるだろう」と指摘する。 住宅ローンアドバイザーは、顧客の要望やライフプランをよく把握し、アドバイスをし ていけるようにしていきたい。
■ フラット 35(リフォーム一体型)とは
フラット 35(リフォーム一体型)は、中古住宅の購入資金と中古住宅の購入に併せて行 うリフォーム工事の資金を 1 つのフラット 35 で一緒に借りることができる住宅ローン商品 である。 リフォーム工事の内容は限定しておらず、ニーズに応じた自由なリフォームが可能とな っている。また、購入する中古住宅がフラット 35 の技術基準を満たさない場合であっても、 当初借入条件 借入金額 3,000 万円 借入時年 齢35 歳 借入期間 35 年 元利均等返済 金利 2.5% 月返済額 107,249 フラット35 フラット20 このままだと、60 歳以降の 10 年間 月額約10 万 7 千円の返済をしなければならない!リフォーム工事によりフラット 35 の技術基準を満たすことにより、購入資金もリフォーム 資金とまとめて、フラット 35 が利用可能となる。より条件の厳しいフラット 35Sについて も同様である。 これまでも、リフォームパックなどを使えばリフォーム資金を借りられるケースもあった が、使い勝手が悪かった。今回、住宅購入費用にリフォーム費用を上乗せして、住宅ロー ン一本で借りられ、かつ長期間返済できるといった取り扱いはこれから中古住宅の購入を 検討している人には朗報といえる。
(1) 手続きの一般的な流れ(一戸建て)
フラット 35(リフォーム一体型)の一般的な手続きの流れは図表 3 のとおりである。 なお、リフォーム完了後にフラット 35 の技術基準に適合していない場合は、フラット 35 (リフォーム一体型)の資金受け取りができない。このリスクを軽減するために、手続き では原則 3 回の物件検査を行い、フラット 35 の技術基準への適合状況を適合証明機関によ る検査で確認する。この検査については、新築時にフラット 35 の物件検査を受けている中 古住宅の場合、既存住宅売買瑕疵保険又はリフォーム瑕疵保険を利用すると、物件検査の 一部又は全部を省略できる。また、新築時にフラット 35 の物件検査を受けている住宅は、 既存住宅売買瑕疵保険の付保を省略できる場合がある。 また、フラット 35(リフォーム一体型)の融資開始はリフォーム工事完了後となるため、 中古住宅の代金決済に際し「つなぎ融資」が必要となるケースもある点には留意が必要で ある。 図表 3 フラット 35(リフォーム一体型)の一般的な手続きの流れ(一戸建ての場合) 出典:フラット 35HP(住宅金融支援機構)(2) フラット 35(リフォーム一体型)利用時の留意点
フラット 35(リフォーム一体型)を利用する際に留意する点についてまとめると、大き く分けて 3 点ある。 1 点目は、中古住宅の購入時に「つなぎ融資」が必要となってくることである。上記のよ うに、フラット 35(リフォーム一体型)の融資開始はリフォーム工事完了後であり、その 前に支払われることになる中古住宅の購入代金については、「つなぎ融資」を借り入れ、リ フォーム工事後にまとめて資金を受け取った時点で返済するという流れになる。つなぎ融 資を借りている期間については、その分の金利が発生する点に注意しなければならない。 2 点目は、リフォーム工事完了後にフラット 35 の技術基準に達していない場合は、フラ ット 35(リフォーム一体型)の融資を受けることはできないこと、また、マンションや一 定の条件に該当する戸建住宅以外の場合は、既存住宅売買瑕疵保険の加入が求められるこ とに注意が必要だ。既存住宅売買瑕疵保険の加入の場合の事前確認、リフォーム工事計画 の確認及び適合証明検査は、既存住宅売買瑕疵保険を取り扱っている検査機関に限り実施 できる。 3 点目は、申込に際し、フォーム工事の金額の提示が必要になることである。リフォーム 工事の金額は、リフォームする中古住宅の現状から判断して、その工事の見積もりを取る ことで算出できる。通常、中古住宅の現状を詳しく調べられるのは、物件が引き渡されて からだが、これでは遅い。したがって、リフォーム工事の依頼先を先に決めておき、売買 契約をしてから購入費用を支払うまでに、リフォーム工事の内容を詰められるように、事 前に段取りよく準備をしておくことが、必要になる。リフォーム工事の費用が変わった場 合は、再審査となるので注意が必要だ。 「つなぎ融資」やリフォーム工事の見積もりの段取り等、通常よりもやや煩雑にも思え るかもしれないが、購入資金とリフォーム資金を低金利でかつ長期間返済できるのは魅力 的であり、かつ、検査を受けることで品質に安心できる点もメリットとなる。「リフォーム しなければ住めないような住宅でも流通するようになるというよりは、フラット 35Sを使 えるようにして資産価値を高め、金利も優遇されるようにして中古住宅が流通するような 使われ方をすれば、この制度は成功といえるのではないか」とは、前出・星野知倫氏。今 後の中古住宅市場活性化に向けた主要商品となっていくかもしれない点にも注目していき たいところだ。■ 太陽光発電の売電収入を年収に加算する取り扱い
フラット 35 では、太陽光発電の売電収入を年収に加算する取り扱いを開始した。 融資の対象となる太陽光発電設備で得られる売電収入のうち、「申込者が申請した売電収 入の見込み、または、住宅金融支援機構が定める上限額のうちいずれか低い金額 × 0.7」(図表 4 参照)で算出した金額が年収に加算されることになる。 融資の対象となる太陽光発電設備は、融資対象住宅の屋根、外壁または住宅用カーポー トに固定して設置されるものとなる。融資対象とならない太陽光発電設備で発電した電力 の売電収入は、年間収入に加算されない。 なお、新築住宅の建設融資・購入融資の他、新規に太陽光発電設備を設置する場合のフ ラット 35(リフォーム一体型)にも適応される。