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Japanese Journal of Acute Care Surgery 2018; 8: 163~167 原著特集 : 胸部 縦郭における ACS の治療戦略 大動脈食道瘻治療に対する胸腔鏡下食道切除の安全性 海老原裕磨 1), 七戸俊明 1), 倉島庸 1), 村上壮一 1), 松居喜郎 2

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(1)

大動脈食道瘻治療に対する胸腔鏡下食道切除の安全性

はじめに

大動脈食道瘻(aortoesophageal fistula;AEF)は,ま れであるが死亡率の高い病態として知られている。しかし, 最近では胸部ステントグラフト(thoracic endovascular aortic repair;TEVAR)の導入により治療成績も向上し てきている1)。一般的に AEF 治療には,出血制御のた めの TEVAR 内挿後に食道切除ならびに大動脈置換を行 う。食道切除には右開胸,大動脈置換術には左開胸が用 いられているが,北海道大学病院(以下,当院)では食 道切除に際し,低侵襲性を考慮した開胸を行わない胸腔 鏡 下 食 道 切 除 術(video-assisted thoracoscopic surgery-esophagectomy;VATS-E)を導入している。本稿では, 当院における AEF に対する治療戦略ならびに VATS-E の

海老原裕磨

1)

,七戸 俊明

1)

,倉島  庸

1)

,村上 壮一

1)

,松居 喜郎

2)

,平野  聡

1)

〔要旨〕【はじめに】大動脈食道瘻(aortoesophageal fistula;AEF)は,死亡率の高い疾患であるが,その治療成績は向上

している。AEF 治療には,出血制御のための胸部ステントグラフト(thoracic endovascular aortic repair;TEVAR)の内 挿と,食道切除を行う必要がある。北海道大学病院(以下,当院)では,AEF に対する食道切除に際し,低侵襲性の点か ら胸腔鏡下食道切除術(video-assisted thoracoscopic surgery-esophagectomy;VATS-E)を適応としている。今回,その 治療成績につき報告する。 【対象・方法】2009 年 1 月〜 2017 年 12 月に当院にて AEF に対し VATS-E を施行した 6 症例を対象とし,手術成績ならび に術後経過につき検討を行った。 【結果】年齢中央値は 70(64 〜 74)歳,男性 5 例,女性 1 例。食道切除前 TEVAR 内挿は 5 症例に施行されており,その うち 3 症例に一期的動脈・消化管再建を施行した。VATS-E 手術時間中央値は 146(114 〜 178)分であり全症例で開胸移 行なく切除可能であった。3 症例が自宅退院となり,在院死亡は 3 症例であった。 【結語】AEF に対する低侵襲治療としての VATS-E は安全に施行可能であった。 〔キーワード〕大動脈食道瘻,胸部ステントグラフト,胸腔鏡下食道切除術 手術成績につき報告する。

対 象

2009 年 1 月 〜 2016 年 12 月 に 当 院 に て AEF に 対 し VATS-E を施行した 6 症例を対象とした。

方 法

1.当院におけるAEFに対する段階的治療戦略(Figure 1) まず,TEVAR による出血コントロールを行い,待機 的に感染源の除去(VATS-E,胸腔ドレナージ)を行う。 VATS-E 終了後に患者の全身状態を考慮し,大動脈置換術, 食道再建術を行う。 2.第 1 期治療:TEVAR による出血コントロール 出血性の AEF に対する初期治療としての TEVAR によ る出血コントロールを行う。 3.第 2 期治療:感染源の除去(VATS-E,胸腔ドレナージ) ①手術適応 AEF に対する VATS-E の手術適応基準は「全身麻酔が 可能である」「手術希望がある(自らの意思を示すことが 所属:北海道大学大学院医学研究院 消化器外科Ⅱ1) 北海道大学大学院医学研究院 循環器呼吸器外科2) 著者連絡先:〒 060-8638 札幌市北区北 15 条西 7 丁目 北海道大学大学院医学研究院 消化器外科Ⅱ 受付日:2018 年 4 月 2 日/採用日:2018 年 12 月 5 日

原 著

特集:胸部・縦郭における ACS の治療戦略

(2)

できる)」「1 秒量が 1L 以上ある(あると予想される)」の 3 項目としている。

② VATS-E 術式

導入初期では,用手補助下胸腔鏡下食道切除術(hand-assisted thoracoscopic surgery;HATS)2)を行ってきたが, 2010 年からは分離肺換気が不要な両肺換気下の腹臥位に よる完全胸腔鏡下食道切除術を導入している3)(Figure 2)。 ③ Decision making (第 3 期治療を連続施行するか否か の判断) VATS-E 終了後に患者の全身状態を考慮し,2 期に引き 続き第 3 期治療(動脈置換術,食道再建術)まで施行する か否かを判断する。AEF に対する第 2,第 3 期治療の連 続施行は患者の状態や血管外科医の体制によって制限され るものであり,それらを慎重に判断し治療戦略を立てる。 第 3 期治療を連続しない場合には唾液瘻・胃瘻造設のみを 行う。 4.第 3 期治療:大動脈置換術,食道再建術 VATS-E 終了後,全身状態を考慮し開胸に耐え得ると 判断した場合には右側臥位にて人工血管置換術を施行す る。人工血管置換時には感染予防の目的に後縦隔経路で挙 上した胃管の大網で人工血管を被覆する(Figure 3)。食 道は奇静脈レベルで切離を行い,極力大網を付けた状態で 胃管作成を行う。High risk 症例に対しては,状況に応じ て食道再建術を施行せずに唾液瘻・胃瘻造設のみを行うが, 感染予防の目的で大網を置換人工血管に被覆するが,状態 回復後に再建を行う際には胃管の使用が困難となり,空腸 や回結腸を用いた食道再建法を選択する。

結 果

年齢中央値は 70(64 〜 74)歳で,男性 5 例,女性 1 例であっ た。すべて胸部大動脈瘤食道穿破症例であり,うち 1 例 は大動脈置換後の吻合部感染瘤の食道穿破症例であった。 VATS-E 前に TEVAR 内挿術を施行された症例は 5 例で あった。人工血管置換術後の症例では TEVAR 内挿術を 施行していない。VATS-E 手術時間中央値は 146(114 〜 178)分であり,全例で開胸手術に移行することなく,鏡 視下で手術を完遂できた。6 例中,3 症例で第 2 期治療の Figure 2  Prone position Video-assisted thoracoscopic surgery- esophagectomy

A: After artificial pneumothorax (8-10 mmHg) is established with a 12-mm trocar in the 9th intra-costal space(ICS), three operating trocars (5 or 12-mm, 3rd, 5th, 7th ICS) are placed. B: The esophagus was resected, aortoesophageal fistula (arrow) was confirmed under the thoracoscopic view.

Figure 1  Therapeutic strategy for aortoesophageal fistula in our institution

AEF: aortoesophageal fistula

TEVAR: thoracic endovasucular aortic repair

(3)

VATS-E から連続して第 3 期治療までを一期的に施行可 能であった。そのうち 1 症例では動脈置換後の瘻孔であり 動脈非置換とし食道切除再建を行ったが,術後出血により 緊急的に胃管切除と大動脈置換および大網被覆術を施行し た。その後,1 カ月後に遊離空腸グラフトにより消化管再 建を行った。第 2 期の VATS-E と第 3 期治療の大動脈置 換との間に一定期間をおいて分割手術とした症例は 3 例で あった。 一期的手術を施行した 3 症例は,いずれも自宅退院して いるが,分割手術となった 3 症例ではすべて在院死亡と なった。死因の内訳は,非閉塞性腸管虚血が 2 例,上腸間 膜動脈血栓症が 1 例であった(Figure 4)。

考 察

AEF は病態が複雑であり,侵襲の大きな外科治療でし か救命できないが,その救命率は低い。しかし,最近の TEVAR の導入により治療成績も向上しつつある。また, 従来の開胸手術では,瘻孔周囲を中心とした癒着の存在や Figure 3  Replacement of aorta

Reconstruction of the aorta with the removal of intra-aortic covered stent and replacement with a prosthetic graft. The greater omentum (arrow), which was pull up with gastric conduit, was used for omental

flap plombage to cover the aortic graft.

Figure 4 Post-operative course of entire patients

Thoracic endovascular aortic repair (TEVAR) was performed in five patients (83.3%). Three patients underwent aortic replacement with artificial graft and esophageal reconstruction was possible(blue line).

HATS: hand-assisted thoracoscopic esohagectomy PP-E: prone position esophagectomy

(4)

術中の片肺換気による酸素化の問題から,手術成績は不良 とされてきた。しかし,近年では食道切除・再建における 鏡視下手術導入により,治療成績の改善が期待されてい る4) 当院では,出血性の AEF に対する初期治療としての TEVAR は,動脈置換術ならびに食道再建術における bridging therapy(橋渡し治療)として有用と考えてい る。Jonker ら5)は AEF に 対 し て TEVAR 後 30 日 以 内 に食道切除を行った症例で死亡率が低かったとしており, 当院でも TEVAR 挿入後は数日以内に準緊急手術として VATS-E を考慮することとしている。時に,TEVAR 挿入 後に食道へのドレナージと抗菌薬が奏功し,全身状態の改 善が得られた場合,そのまま保存治療を継続し得るとの印 象を与えるが,持続的な感染源となり得る食道と大動脈と の交通を速やかに取り除くことが重要と考えている。また AEF 症例では,長期にわたる摂食障害や慢性的な感染状 態が続いているため,栄養状態を含めた全身状態が不良と なって受診される場合が多い。そのため,TEVAR 後の早 期食道切除とともに栄養状態改善が手術成績に重要と考え る。 消化器外科領域における鏡視下手術手技の向上や新たな 機器の開発に伴い,同手技の適応は大いに広がりつつある。 胸腔鏡下食道手術は 1993 年に Cushieri6)が初めて報告し, わが国でも 1996 年に Akaishi ら7)により報告され,国内 各施設にて導入されつつある。当院でも,1996 年より食 道癌に対し手術侵襲の軽減を目的に VATS-E を導入し, AEF に対する胸腔鏡下食道切除を 2009 年より導入してい る4) VATS-E における低侵襲性について Nagpal ら8)は 12 の研究による meta-analysis を行い,胸腔鏡手術群 672 例 と開胸群 612 例を比較し報告している。そのなかで,胸腔 鏡手術群は手術時間が延長したが,有意に出血量が少なく, 在院日数や ICU 滞在期間が減少し,加えて術後呼吸器合 併症の割合が少なかったとしている。さらなる低侵襲化 を目指した腹臥位両肺換気による VATS-E では,術中の P/F 比が良好に維持されたと報告されている9)。その理由 として肺圧排に用いる人工気胸圧や,人工呼吸器による換 気圧および PEEP により肺胞細血管床が内外から圧排さ れ,非換気側肺のシャント血流量が減少するためと考えら れるとしている。食道癌に対する HATS と腹臥位の手術 成績の比較は Fukuda ら3)が検討し,腹臥位手術が出血量 の減少ならびに術後合併症軽減の点で有用であることを報 告している。 AEF の治療には食道切除と大動脈置換が必要となるが, 食道切除には通常,右開胸が必要であり,大動脈置換には 左開胸が必要である。そのため,AEF 外科治療における 低侵襲性を考慮すると食道切除には開胸を行わない胸腔鏡 が有利であると考える。 治療の strategy として,単に TEVAR のみでは在院死 亡が 75%と報告されており,感染源となる食道切除は必 須と結論されている10)。その際には,留置したステントグ ラフトはもちろん,すでに感染が及んでいると考えられる 周囲組織を大動脈を含めて一括に摘出し,グラフトによる 大動脈置換,および大網被覆が推奨される。一期的手術に おいては胃管を使用することができるため,十分な大網を 人工血管に被覆することができ,感染コントロールには有 利である。今回の検討においても一期的手術を施行した 症例のみが生存しており,十分量の大網による感染コント ロールの重要性が示唆される。食道再建術を施行せずに大 網被覆のみを行ったとしても,その後に胃管による再建術 が可能であるとの報告11)があるが,空腸や回結腸再建も 選択肢となるため,状況による判断が必要である。とくに 食道再建術の際には消化管吻合を行う必要があり,術後縫 合不全によるグラフト感染,縦隔炎などが危惧されるため, 再建臓器は慎重に選択する必要がある。 われわれは AEF の治療戦略として 3 期に分けた段階的 治療を行っており,とくに第 2 期治療(食道切除)では, 低侵襲性から VATS-E を適応とし,現在まで全例に安全 に手術が施行できている。

おわりに

AEF 治療における食道切除に際し,低侵襲治療として の VATS-E は安全に施行可能であると考えられた。 文 献

1)Jonker FH, Schlosser FJ, Moll FL et al: Outcomes of thoracic endovascular aortic repair for aortobronchial and aortoesophageal fistulas. J Endovasc Ther 2009; 16:428-440. 2)Okushiba S, Ohno K, Itoh K, et al: Hand-assisted

endoscopic esophagectomy for esophageal cancer. Surg Today 2003; 33: 158-161.

3)Fukuda N, Shichinohe T, Ebihara Y, et al: Thoracoscopic esophagectomy in the prone position versus the lateral position (Hand-assisted thoracoscopic surgery): A retrospective cohort study of 127 consecutive esophageal cancer patients. Surg Laparosc Endosc Percutan Tech 2017; 27: 179-182.

4)Toshiaki Shichinohe, Satoru Wakasa, Suguru Kubota, et al: One-stage radical operation of aortoesophageal fistula-combination of VATS esophagectomy and open aortic surgery: report of a case. Esophagus 2013; 10: 280-284. 5)Jonker FH, Heijmen R, Trimarchi S, et al: Acute

management of aortobronchial and aortoesophageal fistulas using thoracic endovascular aortic repair. J Endovasc Ther 2009; 50: 999-1004.

6)Cuschieri A: Endoscopic subtotal oesophagectomy for cancer using the right thoracoscopic approach. Surg Oncol 1993; 2: 3-11.

7)Akaishi T, Kaneda I, Higuchi N, et al: Thoracoscopic enbloc total esophagectomy with radical mediastinal

(5)

Thoracoscopic esophagectomy for aortoesophageal fistula

Yuma Ebihara

1)

, Toshiaki Shichinohe

1)

, Yo Kurashima

1)

, Soichi Murakami

1)

,

Yoshiro Matsui

2)

, Satoshi Hirano

1)

Department of Gastroenterological Surgery Ⅱ , Hokkaido University Faculty of Medicine1) Department Cardiovascular and Thoracic Surgery, Hokkaido University Faculty of Medicine2)

Background:Aortoesophageal fistula (AEF) is an uncommon but one of highly fatal conditions. There are surgical,

endoscopic and interventional radiological treatment options, however, definitive treatment is the surgical intervention. Video-assisted thoracoscopic surgery (VATS) has been gradually accepted as a substitution for thoracotomy to reduce the invasiveness of the surgery as radical surgery for esophageal cancer. We aimed to evaluate a feasibility of VATS-esophagectomy (VATS-E) for AEF in this study.

Material and methods:Between 2009 and 2017, we retrospectively reviewed clinical charts of six patients who

underwent VATS-E for AEF.

Results:The median thoracoscopic time was 146 min (range, 114-178 min). None of the patients were converted to open

surgery. Thoracic endovascular aortic repair (TEVAR) was performed five patients (83.3%). Four patients underwent aortic replacement with artificial graft. Esophageal reconstruction was possible in three patients.

Conclusion:TEVAR and VATS-E are feasible for the treatment of AFE. Further accumulation of cases is necessary to

establish safe and secure surgical strategy for AEF.

KeyWords: aortoesophageal fistula, thoracic endovascular aortic repair, video-assisted throracoscopic

surgery-esophag-ectomy

lymphadenectomy. J Thoracic Cardiovasc Surg 1996; 112: 1533-1541.

8)Nagpal K, Ahmed K, Vats A, et al: Is minimally invasive surgery beneficial in the management of esophageal cancer? A meta-analysis. Surg Endosc 2010; 24: 1621-1629.

9)Saikawa D, Okushiba S, Kawata M, et al: Efficacy and safety of artificial pneumothorax under two-lung ventilation in thoracoscopic esophagectomy for esophageal cancer in

the prone position. Gen Thorac Cardiovasc Surg 2014; 62: 163-170.

10)Hollander JE, Quick G: Aortoesophageal fistula: a comprehensive review of literature. Am J Med 1991; 91: 279-287.

11)Kubota S, Shiiya N, Shingu Y et al: Surgical strategy for aortoesophageal fistula in the endovascular era. Gen Thorac Cardiovasc Surg 2013; 61: 560-564.

Figure 1  Therapeutic strategy for aortoesophageal fistula in our institution AEF: aortoesophageal fistula
Figure 4 Post-operative course of entire patients

参照

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