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アルコール使用障害における注意バイアス修正訓練に関する研究動向

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日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P2-45 386

-アルコール使用障害における注意バイアス修正訓練に関する研究動向

○竹澤 緑1)、田中 佑樹1,2)、野村 和孝3)、嶋田 洋徳3) 1 )早稲田大学大学院人間科学研究科、 2 )日本学術振興会特別研究員、 3 )早稲田大学人間科学学術院 【問題と目的】 アルコール使用障害(以下,AUD)に対して有効で あるとされる認知行動療法(以下,CBT)においては, 多岐に渡る問題飲酒の原因を「個人と環境の相互作 用」の観点からの整理を試み,生活環境中における個 人にとっての飲酒行動のリスク状況に対する具体的な コーピングスキルの獲得を重視してきた(Litt et al., 2003)。しかしながら,アルコール関連刺激に対 する反応抑制が困難である(衝動的に飲酒を行う)者 はドロップアウトや再発が生じやすいことが示されて いる(Stevens et al., 2014)。したがって,CBTの治 療効果の向上においては,衝動的な飲酒行動の変容を 目的としたアプローチの体系化を行うことが必要であ ると考えられる。 このような衝動的な飲酒行動に影響を及ぼす要因の 1 つとして,アルコール関連刺激への「注意バイアス」 があげられる(Weafer & Fillmore, 2012)。注意バイ アスは,自動処理段階と統制処理段階の 2 つに大別さ れ,前者は環境上の他の刺激よりも優先してアルコー ル関連刺激に注意が向きやすいことをさす(Field et al., 2004)。同様に,後者は刺激から注意を離すこと ができないことをさす。これまでの研究においては, アルコール関連刺激に対して注意バイアスを示すこと はAUDの特徴の 1 つであり,注意バイアスを低減する ことが有効である可能性が理論的に指摘されてきた (Schoenmakers et al., 2010)。その一方で,個人と 環境との相互作用の観点から注意バイアス修正訓練 (以下,ABM)の効用と限界を検討する試みは行われて いない。 そこで本研究においては,AUDに対するCBTの効果向 上を目指す一環として,衝動的な飲酒行動の変容を目 的としたアルコール関連刺激へのABMに関する研究を 個人と環境との相互作用の観点から検討することを目 的とした。 【方 法】 ABMに関する文献を「Web of Science」と「Scopus」 を用いて文献検索を行った。具体的には,「Alcohol」, 「Attentional bias」,「Attentional Training」また

は「Attentional bias modification」というアルコー ル関連刺激へのABMに関するキーワードを組み合わせ て検索を行った。実際にアルコール関連刺激への注意 バイアスの修正操作を行った,という基準を満たす10 件の文献が抽出された。 【結 果】 このうちABMの介入を 1 回行っている研究は 6 件で あった。さらに,統制処理または自動・統制処理段階 の低減によって,AUDの中核的な症状である飲酒欲求 の低減と飲酒に対する葛藤の改善効果を示した研究 は,それぞれ 2 件であった。一方で,統制処理段階の 低減によって,飲酒行動の低減を示した研究は 2 件, 示さなかった研究は 2 件であり,介入効果の知見が一 貫していなかった。 その一方で,複数回の介入を行っている研究は 4 件 であった。そのうち,統制処理段階の低減によって, 介入後に飲酒行動の低減が示された研究は 2 件,示さ れなかった研究は 2 件であり,やはり介入効果が一貫 していなかった。また,統制処理段階の低減によっ て,短期的には飲酒行動低減の効果が得られたが,そ の効果が長期的には維持されないことを報告した研究 は 1 件存在した(Table)。 【考 察】 ABMに関する研究を概観した結果,効果が一貫しな いことと,注意バイアスの低減によって一時的に飲酒 行動は低減されるものの,その効果が長期に渡って維 持されないことが示された。これらを整理すると,以 下の 2 点に課題があると考えられる。 まず, 1 点目の課題として,ABMの実施において, 対象者に異なる臨床像が混在していた可能性があるこ とがあげられる。なぜならば, 1 回の介入を行ってい るいずれの研究においても,対象者の飲酒重症度が同 等であり,介入手続きにも十分な差がないことを踏ま えると,アルコールに対して注意バイアスが生じにく い者が対象者に含まれていたために,ABMが飲酒行動 の低減に影響を与えなかった可能性があると考えられ る。一方で,複数回の介入を行っている研究において も,結果の不整合があることを踏まえると,ABMが飲 酒行動の低減に影響しない者も存在する可能性が高い と考えられる。 このような臨床像の差異に関する理解の枠組みの 1 つとして,CBTにおける飲酒行動の「機能」の観点が 有用であると考えられる。具体的には,飲酒行動の維 持メカニズムには異なるサブタイプ(具体的には,正 の強化に相当する「高揚動機」,負の強化に相当する 「不安/抑うつ対処動機」)が存在していると理解され ている(Grant et al, 2007)。このような「機能」の 観点から,飲酒行動の「機能」と注意バイアスとの関

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日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P2-45 387 -連性の検討においては,高揚動機傾向が高い者は,報 酬手がかり(たとえば,アルコール)に対する統制処 理 段 階 が 高 い こ と が 示 さ れ て い る(C o l d e r & O’Connor, 2002)。一方で,対処動機傾向が高い者は, ストレス状況下において,自動・統制処理段階が増加 することが示されている(Field & Quigley, 2009)。 すなわち,高揚動機傾向が高い者は,アルコール関連 刺激への統制処理段階によって,衝動的な飲酒が生じ ている一方で,対処動機傾向が高い者は,ストレス反 応が直接的に飲酒行動に影響していると考えられる。 したがって,ABMは,高揚動機傾向が高い者に対して は有効である可能性が考えられるが,対処動機傾向が 高い者においては, むしろ効果が得られにくい可能 性があると考えられる。そのため,対処動機傾向が高 い者は,ストレス反応へのコーピングスキルを獲得す ることを目指すことの方が重要であると考えられる。 2 点目の課題として,代替行動の獲得が十分ではな かった可能性があげられる。飲酒行動の低減効果が長 期に渡って維持されなかったという結果を踏まえる と,ABM単独のみでは長期的な飲酒行動の低減には至 らない可能性が推察される。そのため,他の技法と組 み合わせることが有用であると考えられる。 この点に関して,CBTの枠組みにおいては,飲酒行 動は,当該本人にとって望ましい「結果」が得られる ために維持されると理解される。そのため,飲酒行動 を低減するには,飲酒によって得られていた望ましい 結果を「代替行動」によって補完することが重要であ るとされる(田中ら,2018)。このことを踏まえると, 刺激に対する自動的な反応としての行動が減弱された ことによって,一時的に飲酒行動が抑制されたとして も,飲酒と同じ「機能」を有する適応的な行動である 「代替行動」を獲得していなかった場合には,再び衝 動的な飲酒が生じてしまう可能性が予測される。した がって,ABMは単独で行うのではなく,代替行動の獲 得を行った後に実施することが有用であると考えられ る。 以上のことを踏まえると,CBTを基盤としたAUDに対 する治療においては,当該本人の生活全般を踏まえた 機能分析に基づく見立てを行い,各自の問題性に応じ て適切な介入技法を選択する必要があると考えられ る。

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