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藤田和生著,編集 日本動物心理学会監修 動物たちは何を考えている? 動物心理学の挑戦

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Academic year: 2021

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DOI: http://doi.org/10.14947/psychono.35.21 125 ●●●●●●●●●●●●●●●著者名: ランニングタイトル●●●●●●●●●●●●●●●

藤田和生著,編集 日本動物心理学会監修

動物たちは何を考えている?

動物心理学の挑戦

技術評論社

『動物たちの心の中を覗いてみたいと思ったことはあ りませんか? そんな夢に挑戦するのが「動物心理学」。 100年余りの研究で,そんな心の働きが明らかになっ てきました。 動物たちの心の世界,それは一体どんなものだろう?』 可愛いらしい動物たちのカラーイラストが描かれた表 紙,そしてそこに書かれたこの謳い文句に誘われて,思 わず手に取ってしまう。そんな著書である。「雑学本よ り奥が深く,入門書より易しい」を売りにする技術評論 社「知りたい!サイエンス」シリーズの1冊だけあって, 高校生でも気軽に読めそうな平易な文章で書かれてい る。それでありながら,内容に関しては本格的で,動物 心理学における古典的な研究から国際学術雑誌に比較的 最近発表された知見まで幅広く紹介されている。「動物 心理学の挑戦」というサブタイトルの通り,この領域の 研究者は現在進行形で“挑戦”を続けており,その過程 で得られた最新の成果をできる限り新鮮な状態で読者に お届けしたいという著者らの熱い想いが本書を通じてひ しひしと伝わってくる。このような著書であるため,ヒ トを含めた動物の心について気になっている大学生はも ちろん,基礎心理学会会員の先生方にも興味深く読んで いただける一冊に違いない。 本書は7つの章から構成されている。第1章では,動 物心理学とはどのような学問なのかについて,主要な研 究の歴史に触れながら簡潔にまとめられている。第2章 では,ヒトの言語を用いずに動物の心の働きを知るため の研究法が具体例を交えながら紹介されている。第3章 以降は,動物心理学が研究対象とする「心」の働きのさ まざまな側面について,それぞれ4∼5ページ程度のト ピック形式でまとめられている。第 3章では感覚・知 覚,第4章では学習,記憶,認知の発達,第5章では思 考,推論,数量の認識,概念形成,ナビゲーション,第 6章では社会的知性,感情,第7章では自己認識,メタ 認知,エビソード記憶などのテーマが取り挙げられてい る。どのトピックを読んでも,ヒト専用のフィルターを 通して外界を認識することが当たり前のこととなってい る読者にとっては,動物たちのフィルターを通して認識 される世界,そして,それによって形成される心の働き を知ることで,意外,新鮮,ワクワクといった気持ちに なれるのではないだろうか。また,日本動物心理学会監 修ということもあり,第6章の後にコラムとして,動物 実験倫理についての話が5ページにわたって詳細に書か れている。読者の多様性も考慮すれば,特に動物心理学 を語る際には重要なトピックの1つであろう。 各トピックの解説は,第一線で活躍中の総勢17名の 研究者が分担しておこなっているが,大人数によって分 担執筆された著書にありがちな,著者間における表現の ゆらぎや“温度差”といったものは,少なくとも私には さほど感じられなかった。おそらくその理由は,著者た ちの間で以下のような形式がきちんと共有されるよう, 編著者が厳密な統制をとられていたからではないかと推 測する。

The Japanese Journal of Psychonomic Science

2017, Vol. 35, No. 2, 125–126

書 評

(2)

126 基礎心理学研究 第35巻 第2号 ①各トピックの初めにそこで取り挙げるテーマについ て,私たちヒトの日常生活に当てはめた事例に触れな がら問いかける導入形式をとる。それにより,読者が 置いてきぼりを食らわないように配慮する。 ②読者の準備が整ったところで,問いかけに対する答え となる研究の紹介に移る。 ③当該のトピックで押さえておきたい専門用語は,解説 を加えたうえでしっかりと残す。 ちなみに個人的な感想になるが,最後の③について, 「入門書より易しい」シリーズながら専門用語をしっか りと残したところに,著者らの本書への想いが(勘違い かもしれないが)感じられた。もしかしたら,本書は 「一般の入門書より易しい“入門書”」という表現のほう が適切なのかもしれない。 そんな“入門書”を読み終えた読者の心には,どのよ うな変化が生じうるだろうか。「動物の心について知る ことができて感動した」という読者はたくさんいるだろ う。さらには,本書のまえがきにも書かれているよう に,「私たちヒトという存在を考え直すきっかけ」をつ かむ読者もいると思う。第1章と第7章には,「心の多様 性」「(動物種によって)何が大切かはそれぞれ異なる」 といった話が出てくる。動物が自身の行動様式(例え ば,地上性か飛行性かなど)に合った必要な情報を自身 の体を介して外界から取り入れていることを考えれば, 動物種間における行動様式や体のつくりの違いは,情報 処理の種差を生み出すことにつながるだろう。さらに, それに伴って生じる心の働きも種間で異なるものとなる だろう。つまり,動物種の数だけ「心」は存在し,ヒト の「心」はそのうちの1つに過ぎないのである。そして, それぞれの「心」に個性はあるが,そこに優劣は存在し ないという点が重要である。これら2つの章で編著者が 述べた「心の多様性」に関する主張をまとめると,以上 のようになる。書籍から何を必要な情報として取り出す かは人それぞれ自由であるが,個人的には,本書を通し て,編著者が主張する「多様な「心」」を意識すること は大切なことだと考える。ヒトの心理を研究している (あるいは学んでいる)だけでは決して見えてこない世 界(つまり,動物の心を知ることによって,初めて見え てくるヒトの心の特徴)がそこにはあり,まさに動物心 理学の研究だけが提供できる貴重な情報のなかの1つで あるからだ。 最後に,もしあなたが本書を手に取って読み進めるこ とになった場合,残念ながらあなたのお気に入りの動物 があまり登場しなかった!という可能性がありうること に言及したい。もちろん,動物心理学の研究に携わって いる人(特に,比較認知科学と呼ばれる領域に興味のあ る人)の多くは,いろいろな動物の認知世界を知りたい と思っているのだが,それを実現するには,膨大な時間 と労力(とその他諸々の事情)を要するため,全ての読 者の希望を叶えることはできないのが現状である(決し て,本著者の怠慢ではない)。ただ,どうしても諦めき れない方がいれば,ぜひ自らの手で新たな 1ページを 作っていただければと思う。冗談っぽく書いたかのよう に思われるかもしれないが,一部の読者には本当にそれ くらいの想いを抱かせうる魅力が,本書にはあると私は 感じている。 (東洋学園大学人間科学部 中村哲之)

参照

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