ミャンマーから日本に輸入された小型エビ類の現地商品名と種の対応

Carcinological Society 01 Japan

ミャンマーから日本に輸入された小型エビ類の

現地商品名と種の対応

Small shrimps imported from Myanmar to Japan: species and local commercial names

阪地英男

l Hideo Sak

勾

i . は じ め に 筆者はミャンマーから日本に輸入された小型の天 然または粗放養殖によるエビを入手することができ 日本は，中国に次ぐエビ類の輸入大国である.財 たので，その現地商品名と種の対応を報告する. 務省貿易統計ウェブサイト (h町://www.cusωms.go.jp/ toukei/info/index.htm)によると， 2012年における日 本のエビ類(生鮮・冷凍)輸入金額は 1，808億円で あった.その輸出国別の内訳は，ベトナム18%， インドネシア17%，タイ 15%，インド11%，中国 7%であり， ミャンマーは2.6%(47億 円・10位) を占めた. 日本に輸入されたエビの現地商品名と種の対応 は，養殖されたものや，天然であっても比較的大型 で流通量が多いものでは明らかであろう. しかし， おもに加工用として輸入される天然の小型種では種 名が明らかでない場合が多く，同じ現地商品名のエ ビに複数種が含まれている可能性もあると恩われ る. 言うまでもなく，人聞が利用する動植物の種を調 べることは資源管理や種の保護を行う上で最も基本 的な作業である.最近では， レストラン等における エビの種の偽装が問題視されたこともあり，商材の 正確な種を明らかにすることはコンプライアンス上 重要であることが認識されている. l独立行政法人水産総合研究センタ一 瀬戸内海区水 産研究所 干739-0452 広島県廿日市市丸石2-17-5 NationalResearch lnstituteof Fisheries andEnvironment ofInland Sea， FisheriesResearchAgency， 2-17-5Maru -ishi， Hatsukaichi， Hiroshima 739-0452， Japan E-mali: h出kun@a缶c.go.jp . 材 料 と 方 法 2013年にミャンマーで採集され，日本の食品会 社が輸入した標本を観察した.標本はすべて現地商 品名ごとに冷凍されており，解凍後に雌雄の判別j， 頭胸甲長

(CL)

の測定，および形態の観察を行っ た . 観 察 後 の 標 本 は10%ホルマ リンで固定後， 70%アルコール中に保存した. 観察したエビの現地商品名(標本名)と個体数 は， FlatPink(FP) 30個体， Golden Hard Shell Pink (GHS) 15個体， GoldenPink (GP) 10個体， Hard Pink (HP) 16個体， HardShellPink(HSP-Iお よ び HSP -2)各10個体， River Pink(RP-IおよびRP-2)各30 個体， YellowPink(yp) 27個体であった.RP-lおよ びRP-2は粗放養殖によるものであり，その他は天 然で漁獲されたものであった.採集地はミャンマー 西部のベンガル湾に面した Sittweおよび、Thantweで、 あり， RP-I， RP-2， HSP-I， HSP-2は前者で，その他 は後者で採集された. . 出 現 種 と そ の 形 態 的 特 徴 形態による種査定の結果， 2科4属9種が認めら れた(表1).GP， HP， RP-IおよびRP-2は単一種から なり，それぞれ Solenoceraclassicornis (すべて雄)，

表1. ミャンマーから輸入されたエビ類の現地商品名と種名およびそれらの雌雄別の出現個体数(割合)と頭 胸甲長 (mm) 雌 雄 現 地 商 品 名 標 本 名 採 集 地 種名 合計(割合) 個 体 数 頭 胸 甲 長 個 体 数 頭 胸 甲 長 Melapenaeus brevicornis 27 (90%) 17.5-22.0 24 14.5-17.3 FlatPink FP ThantweMelapenaeus dobsoni 1 (3%) 16.5 Melapenaeus moyebi 2(7%) 18.9 15.2 Golden Hard Parapenaeopsis hardwickii 14(93%) 14 21.3-25.5 Thantwe GHS Shell Pink _{Parapenaeopsisstylifera coromandelica 1 (7%) 22.8} Golden PinkGP Th印 刷eSolenoceracl回 目， corms Hard Pink HP ThantweMegokris ghamrmψt HardShell Pink River Pink HSP-I Sittwe Parapenaeops阻hardwickii Parapenαeops阻styliferacorom朗de/icα， Pαrapena叩ps回hαrdwickii HSP-2 Sittwe Parapenaeopsisstyliferacoromandelica Melapenaeussp RP-I Sittwe Melapenaeus ensis RP-2 Si仕we Metapenaeusensis Melapenaeusbrevicorn;s YellowPink YP ThantweMelapenaeus dobsoni Melapenae山 lys叩 Megokrisghamrav.ぅli(すべて雌)，Melapenaeus ensis (雌雄)であった.FPでは，大部分が Mel.brevicornis (雌3対 雄24)で あ っ た が ， わ ず か に Met.dobsoni (雄)と Met.moyebi (雌雄)も出現した.GHSでは， 大 部 分 が Parapenaeopsishardwickii(す べ て 雌 ) で あ っ た が ， わ ず か に Pstyliferacoromandelica (雌) も出現した.HSP-IおよびHSP-2では，P s. coroman -delica (すべて雌)が主体であったが，P hardwicki (すべて雌)も比較的高い頻度で出現した.YPでは， Met. lys四1assa (雌17， 雄1)が 主体 で あ った が， Mel. dobsoni(雌 6，雄1) も比較的高い頻度で出現 し，わずかに Mel.brevicornis (雌)も出現した. 1. Peneaidae (クルマエビ科)

1・1. Megokris ghamrawyi Shinomiya & Sakai

，

2005 んた'g.granulosus(Haswell， 1879)に 似 て い る が ， thelycum (雌性生殖補器)の形態が両種で異なる. オーストラリア産の Meg.granulosusでは前板後縁が 後方に伸びて後板後縁に癒合するのに対し (Oall， 1957)，本種では前板後縁は前方に伸びた後板前縁 10(100%) 10 25.2-32.6 16(100%) 16 18.5-21.9 6(30%) 6 24.7-25.7 -・・.----... 14(70%) 14 23.2-29.4 8(40%) 8 20.7-25.0 11(55%) 11 21.8-27.0 1 (5%) 破 損 30 (100%) 18 23ι-18.3 12 17.8-24.1 30 (100%) 12 17.3-21.4 18 20.3-17.5 1 (4%) 19 8 (30%) 6 18.3-20.7 2 16.2-17.8 18(67%) 17 14.5-19.5 14.5

中 央 部 に 接 す る (Ghamrawy，1988;Shinomiya & Sakai， 2005).観察した標本では前板後縁と前方に 伸びた後板中央部の聞には隙聞があったが，Meg ghamrωψiと判， 断した(図

IA

)

.

本穫は2005年にペルシャ湾産の標本を基に記載 された種で，Me

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.

granulosus(Haswell， 1879)とされ たアラビア海産のもの (Ghamrawy，1988)は本種で ある (Shinomiya& Sakai， 2005).本報告は本種のペ ルシャ湾とアラビア海を除く海域からの初記録であ る.Ghamrawy (1988)と同様に，本種は各地で Me

g

.

granulosus (Haswell， 1879)と混同されている可能性 カ主ある. Megokrisはかつては Trachypenaeuss.1.とされてい た が ， 現 在 で は 本 属 を 含 め て4属 (Rimapenaeus

，

Trachypenaeus S.s.， Trachysalambria)に分けられたも の の 一 つ で あ る (PerezFarfante& Kensley， 1997). 日本産のTrach汐enaeuss.1.は現在ではすべて Tra -chysalambriαとなっており，サルエビ Trachys.curvi -rostrisを含む4種とされている (Sak句i& Hayashi， 2003).

C

図1. A Megokris ghamrawyi Shinomiya& Sakai， 2005， thelycum，雌，頭胸甲長 CCL) 20.4 mm; B Metapenaeus b即 日cornis(H.MilneEdwards， 1837)，雌， CL 22.0mm; C Metapenaeus dobsoni (Miers， 1878)，雌， CL 16.5 mm; D Metapenaeus lysianassa (De Man， 1888)，雌， CL 17.8mm; E Parapenaeopsis hardwickii(Miers， 1878)，雌， CL 25.0 mm; F Parapenaeopsisstylifera coromandelicaAlcock， 1906，雌， CL25.8 mm 1・2. Metapenaeus brevicornis(H.1¥直i1neEdwards

，

1837) 額角上の前半部に歯はなく，後半部に胃上歯を除 いて5-7歯を有し，歯のある部分が上方に膨らむ (図1B). petasmaは，先端が左右斜め前方に聞き， その内側に l対の前方を向く細長い突起を有する. thelycumは，前板は前方左右の角が丸い四角形であ り，後板は側縁と後縁が曲状に連続して厚く隆起す る.これらの特徴によ って近似種と識別できる CMiquel

，

1982). 本種は，アラビア海東部，ベンガル湾，インドネ シア，マレーシア，タイ， ベトナムに分布する CMiquel

，

1982). 1・3. Metapenaeus dobsoni(Miers

，

1878) 額角は長く(第 l触角柄部先端を越える)，緩く S 字状に曲がり(基部がやや上方に膨らみ，中央部が やや下を向き，先端部がやや上方に向かう)，前部 1/3より後方に7-9の額角上歯を有する(図lC). 歩脚は細く短い.雄では，第

3

歩脚基節に長い鍵状 の突起，および第5歩脚長節に三角形の突起が2つ ある.雌の第4歩脚底節には内側を向く大きな糠が ある.これらの特徴によって近似種と識別できる CMique1

，

1982). 本種は， インド南部， スリランカ，ベンガノレ湾， マレ一半島，インドネシア， パプアニューキ‘ニア， タイ，フィリピンに分布する CMique1，1982). 1-4. Metapenaeus ensis(De Haan

，

1844) Met.monoceros (Fabricius， 1798)に似るが，雌雄と も生殖補器の形態で区別できる CMiquel，1982).雄 のpetasmaの先端は，本種では左右平行に前方を向 くのに対し ，Met.monocerosでは左右斜め前方を向 く.雌のthelycumの前板は，本種では側縁から後縁 にかけて隆起するのに対し ，Met. monocerosでは側 縁のみ隆起する. スリランカ，ベンガル湾，インドネシア， パプア ニューギニア，オーストラリア，マレーシア，イ ン ドシナ半島，南シナ海，フィリピン，台湾，日本に 分布する CMiquel，1982).標準和名はヨシエビであ

る(林， 1992).

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(De Man

，

1888) 額 角 は 短 く (眼の中央に達しない)，鶏冠状に上 方に膨らみ，全体にわたって 6~7歯を有する(図 10). このような特徴によって近似穫と識別できる (Miquel

，

1982). 本種は，インド南部，スリランカ，ベンカソレ湾， マレ一半島， インドネシア，インドシナ半島に分布 する (Miquel，1982). 1・6

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(Kishinouye

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1896)

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Racek， 1957に似るが，雌雄とも生殖補 器の形態で区別できる (Miquel，1982).雄のpetasma は，本種では先端突起が薄片状であるのに対し，

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では管状である.雌のthelycumの前板前縁 は，本種では凸であるのに対し，

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では凹で ある.ただし， thelycum前板は奥まっているうえに 細毛に覆われていて観察しにくいので，この特徴の み林 (1992)の図を基に同定した. インド南部，スリランカ，ベンガル湾，マレ一半 島，イ ンドネシア， インドシナ半島，フィリピン， 東シナ海，台湾，日本に分布する CMiquel，1982). 標準和名はモエビである(林， 1992). 1・

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(Miers

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1878) 額角は，ゆるく S字状に曲がって先端はやや上を 向き，第1触角柄先端をはるかに超えて長い.7~8 の額角上歯が後半部にあり，これらは前方ほど小さ く，歯の間隔は狭い(図IE).額角後方隆起は頭胸 甲後端に達し，中央に広い溝を有する.尾節側縁に は3~5対の可動車車を有する.雌の thelycumは，前 板が半円状で，後板前縁の両端に赫状の突起があ り，その間には毛がある.これらの特徴から近似種

と区別できる (Racek& Oall， 1965; Muthu， 1969;林， 1992). アラビア海東岸，スリランカ，ベンガル湾，マ レ一半島，インドネシア，インドシナ半島，南シナ 海，台湾，東シナ海に分布する (Yu& Chan， 1986; 林， 1992).標準和名はナガツノスベスベエビであ る(林， 1992).

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1906 額角はゆるく

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字状に曲がって先端はやや上を向 き，第1触角柄先端をはるかに超えて長い.4~8の やや大きな額角上歯が，後半部にほぼ等間隔に並ぶ (図1F).額 角 後 方 隆 起 は 頭 胸 甲 後 端 に 達 し ， 中 央 に溝は無いが，胃上歯と後端の聞にやや広い部分が ある.尾節側縁には1~2対の強い不動車車を有する. 雌のthelycumは，前板前縁がやや狭い台形で，後板 前縁は中央部が凹む.これらの特徴から近似種と区 別できる (Racek& Oall， 1965; Ravindranath， 1989). 本亜種はスリランカ，インド東岸，マレー半島， インドネシアに分布し， もう一つの亜種であるR

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α(H.Milne Edwards， 1837)はインド西 岸，パキスタン，ペルシャ湾に分布する (Ravindra -nath， 1989). これらは尾節側縁 の 練 の 数 で 区 別 で き，前者では 2 対であるのに対し，後者では 3~4 対 である CRavindranath，1989).本亜種を認めていな い場合もあるが (OeGrave & Fransen， 2011)，ここ で観察した標本では尾節側縁の線数と分布域が本亜 種に一致した. 2. Solenoceridae(クダヒゲヱビ科) 2・1.

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(H. Milne Edwards

，

1837) 本種は，本属中では尾節縁辺に練を有しない唯一 の種である CStarobogatov，1972; Liu& Zhong， 1986; Oall，1999).S.

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句， 1945， S.

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Kubo， 1949およびS.k

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Hall， 1956は本種の同物異名と されている (DeGrave， & Fransen， 2011). 今 回 の 標 本 は 全 て 雄 で あ り， 最 大 個 体 (CL 32.6m m)においてもpetasmaが 左 右 に 分 離 し て い る未成体であった.一方， Liu& Zhong (1986)では 体長 62m m C図のスケールから CL24mm程 度 と 推 定)の個体の左右が癒合したpetasmaが図示されて いる.このような成熟サイズの違いについて，多く の産地からの数多くの標本に基つ‘いた精査が必要で ある. ベンガル湾，マレーシア，インドネシア，南シナ 海に分布する (Natar匂，1945;Kubo， 1949; Hall， 1956; Starobogatov

，

1972; Liu& Zhong

，

1986).

. 現 地 商 品 名 と 種 の 対 応

Metapenaeus ensisは 雌 雄 と も 粗 放 養 殖 のRiver Pinkのみから出現したことから，現地商品名と種は 完全に一致していると考えられる .Solenocera clas -slcormsは雄のみがGoldenPinkのみから

，

Megokris ghamrawyiは 雌 の み がHardPinkの み か ら

，

Met brevicornisは雄がFlatPi出の主体を成していたこと から，それぞれの種の雄または雌がそれぞれの現地 商品名に対応しており，それぞれ別の性は別の現地 商品名として扱われている可能性がある.クルマエ ビ科では雌より雄のほうが小さいことが一般的であ ることから，特に Me

g

.

ghamrawyiの小さな雄はサ イズ選択により商品として扱われていないこともあ りえる. Parapenaeopsis hardwickiiはGoldenHard Sell Pink の大部分を占めたが

，

P stylifera coromandelicaが主 体であったHardShellPinkからも比較的高い頻度で 出現しており，両種は混同されることが多いと推察 された.また

，

Met. lysianassaはYellowPinkの主体 となっていたが， Yellow Pi此 に は 比較的高い頻度 で 、 Met.dobsoniも出現したことから，両種は混同さ れることが多いと推察された.これら4種では雄が 出現しないか非常に少なし雄は別の現地商品名で 扱われているか

，

Meg. ghamrawyiと同じ理由で商品 として扱われていないこともありえる.Met. moyebi はMet.brevicornisと混同されていたが，出現個体数 が少なかったことから，詳細は不明である. ここで扱った標本は数が限られており，すべての 現地商品名を入手したわけではなく，片方の性が出 現していない種もあった.ベンガル湾からインドネ シアおよび南シナ海にかけての海域ではもっと多く のクルマエビ科が報告されているので (Dall，et al.

，

1990)， ミャンマーにはここで報告したより多くの 種が分布しているはずである.この報告はミャン マーのエビ類の現地商品名と種およびその性との対 応の一例であり，その詳細を明らかにするために は，さらに多くの標本を調べる必要がある.

. 謝 辞

本報告を取りまとめるにあたり，有益なご助言を 賜った水産総合研究センター中央水産研究所の花村 幸生博士に深謝いたします.

園

支 爾

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