脳性麻痺児における粗大運動機能別の股関節筋解離術前後5年間の股関節脱臼の変化
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(2) 294. 理学療法学 第 43 巻第 4 号. とんどであり,中期・長期的な報告は少ない 4)。また, 股 関 節 筋 解 離 術 後 の 中 期・ 長 期 的 報 告 で は,MP や Shenton line の報告がほとんどであり,他のパラメータ がどのように変化するのかは不明である. 3)5‒7). 。また,. 股関節筋解離術後の粗大運動機能レベルごとの脱臼の変 化についての検討はされているが,術式の異なる海外の 報告であるため,日本の脳性麻痺児の術後経過とは経過 が異なることが予想される. 10). 図 1 対象者のフローチャート. 。. 脳性麻痺児の粗大運動レベルは粗大運動能力分類シス テム(Gross Motor Function Classification System:以 下,GMFCS)によって分類されている。GMFCS とは,. く,軽度の拘縮や動きやすさの改善を目的に行われるこ. 対象者が日常生活で行っている運動機能によってレベル. とが多いため,今回の検討からは GMFCS レベルⅠ,. 11). Ⅱの者を除外した。また,一側の股関節筋解離術例には,. Ⅰ∼Ⅴの 5 段階に群分けした評価尺度である. 。. GMFCS レベルⅢとは床上動作が自立しており歩くため. 股関節脱臼が重度であり初めから OR や FDVO の実施. に歩行補助具を必要とするレベルであり,レベルⅤとは. を計画していた者が多くいること,痙直型片麻痺のよう. 自ら動くことはほとんど困難であり,屋内外の移動は完. に非術側の支持性が極端に優れている場合があること,. 全に介助されるレベルである。そのため GMFCS レベ. 両股関節筋解離術後と比べて後療法が異なる場合がある. ルⅢからⅤでは,日常生活における抗重力位での荷重機. ことなどの理由により除外した。. 会や移動頻度が異なると考えられる。骨形成には荷重が. 本研究は東京工科大学倫理委員会の承認を得て行った. 必要であるため,股関節筋解離術後の股関節脱臼の経過. (承認番号:第 E14HS − 008 号)。. は GMFCS レベルによって異なる可能性がある。 そこで本研究では,脳性麻痺児における粗大運動機能. 2.評価項目. 別の股関節筋解離術前後 5 年間の股関節脱臼の変化を調. カルテより後方視的に性別,初回手術時月齢,股関節. 査し,粗大運動機能ごとにレントゲン指標の推移に差が. 筋解離術の手術内容,股関節筋解離術後 5 年間に行った. あるのかを明らかにすることを目的とした。. 整形外科的手術の回数,股関節筋解離術後の膝関節・足. 方 法. 関節・体幹・上肢筋解離術の既往の有無を調査した。 股関節のレントゲン画像より,MP. 2)4). ,Sharp 角 12),. 1.対象. 臼 蓋 外 側 縁 傾 斜 角(Acetabular Ridge Angle: 以 下,. 某整形外科病院にて 2003 年 7 月∼ 2009 年 10 月の間. 13) 5) 14) を術前・術後 1 年・ ARA) ,Shenton line ,TDD. に股関節筋解離術を施行した者を対象とした。対象者の. 術後 3 年・術後 5 年で評価した。レントゲン画像の各パ. フローチャートを図 1 に示した。本研究における取り込. ラメータの測定方法を表 1 に示す。股関節のレントゲン. み基準は 1)基礎疾患が脳性麻痺,2)初回手術時年齢. 画像は 1 人の検査者が撮影した画像を使用し,各パラ. が 13 歳以下,3)初回の下肢手術として両股関節筋解離. メータの測定は 2 人の測定者が十分に練習を行ってから. 術を施行した者,4)5 年間追跡調査が可能だった者と. 計測した。. し た。 除 外 基 準 は 1)GMFCS レ ベ ル Ⅰ, Ⅱ の 者,2) 追跡期間中に股関節の追加手術を行った者とした。取り. 3.統計処理. 込み基準を満たした 67 名中,除外基準によって 34 名が. GMFCS レベルごとの各パラメータの比較では,手術. 除外された。両条件を満たした GMFCS レベルⅢ∼Ⅴ. 時月齢と 5 年間の手術回数を一元配置分散分析にて,股. の 脳 性 麻 痺 児 33 例( Ⅲ:8 名 で 手 術 時 の 平 均 月 齢. 関節筋解離術の手術内容と股関節筋解離術後の膝関節・. 93.0 ヵ月,Ⅳ:13 名で 79.9 ヵ月,Ⅴ:12 名で 63.8 ヵ月). 2 足関節・体幹・上肢筋解離術の既往の有無を χ 検定に. を分析の対象とした。股関節脱臼は左右差があることが. て検討した。股関節レントゲンの各パラメータの比較で. 多く,一般的に MP の値が高い股関節の方が脱臼は進. は,GMFCS レベルを対応のない要因,術後経過を対応. 行しやすい。そのため今回の検討では,全例,術前の. のある要因とした反復測定二元配置分散分析および単純. MP の値が高い方の下肢のパラメータを取り扱った。. 主 効 果 検 定 を 行 っ た。 統 計 処 理 に は IBM SPSS. GMFCS のレベルは,小児分野に 6 年以上携わってい. Statistics Ver.19 を使用し,有意水準を 5%とした。. る医師,理学療法士 3 名がカルテと術前のビデオを基に 協議し決定した。GMFCS レベルⅠ,Ⅱの者に対する股 関節筋解離術は脱臼の改善を目的に行われることは少な.
(3) CP における股関節手術前後の粗大運動能力別の股関節脱臼の変化. 295. 表 1 股関節レントゲン画像の計測方法 MP(%). 基準線上で骨頭内側端から臼蓋外側端までの長さと,骨頭内側端 から骨頭外側端までの長さとの比率で示され,骨頭の何%が臼蓋 外にあるかを表わす.. Sharp 角(度). 臼蓋縁と涙痕を結ぶ線と左右の涙痕を結んだ線とのなす角度.. ARA(度). 臼蓋の外側縁を円と見なし,この接線と基準線とのなす角度で示 され,基準線より下方に向かうときが正常でプラスの値,上方に 向かうときが異常でマイナスの値となる.. Shenton line(mm). 骨盤閉鎖孔の上縁をなす曲線と大. TDD(mm). 涙痕と大. 骨頸部内縁の曲線との差.. 骨骨頭内側面との距離.. MP:Migration Percentage,ARA:Acetabular Ridge Angle,TDD:Tear Drop Distance.. 表 2 GMFCS レベルごとの対象者の属性と手術内容の比較 レベルⅢ(8 名). レベルⅣ(13 名). レベルⅤ(12 名). p値. 8,0. 10,3. 7,5. 0.10. 男女(男,女;人) 手術時月齢(ヵ月). 93.0 ± 30.1(47 ∼ 125) 79.9 ± 35.3(38 ∼ 159) 63.8 ± 22.4(46 ∼ 115). 0.11. 股関節手術の内容 大腰筋(cut,SL†:人). 9,3. 10,3. 12,0. 0.09. 腸骨筋(FL,なし:人). 8,0. 12,1. 12,0. 0.45. ††. 大. 直筋(中枢)(cut,ZL :人). 0,8. 2,11. 2,10. 0.48. 大. 直筋(末梢)(FL,なし:人). 1,7. 0,13. 0,12. 0.20 0.07. 半膜様筋(中枢)(cut,FL:人). 4,4. 11,2. 11,1. 0,8,0. 5,8,0. 10,1,1. ,FL,なし:人). 2,0,6. 1,1,11. 3,0,9. 0.57. 二頭筋(中枢)(cut,FL,なし:人). 0,1,7. 5,5,3. 10,2,0. < 0.001 *. 大内転筋(cut,なし:人). 8,0. 12,1. 12,0. 0.45. 薄筋(中枢)(cut,なし:人). 8,0. 13,0. 12,0. ―. 長内転筋(FL,なし:人). 0,8. 3,10. 8,4. 0.01 *. 半腱様筋(中枢)(cut,FL,なし:人) †††. 半腱様筋(末梢)(SL 大. 縫工筋(中枢)(移行,なし:人). 0.00 *. 0,8. 2,11. 0,12. 0.19. 3.3 ± 1.5. 2.9 ± 1.6. 3.5 ± 2.6. 0.77. 膝関節筋解離術の既往(あり,なし;人). 5,3. 0,13. 1,11. < 0.001 *. 足関節筋解離術の既往(あり,なし;人). 7,1. 9,4. 7,5. 0.38. 体幹筋解離術の既往(あり,なし;人). 4,4. 0,13. 3,9. 0.02 *. 上肢筋解離術の既往(あり,なし;人). 5,3. 7,6. 8,4. 5 年間の手術回数(回). 0.80 †. GMFCS:Gross Motor Functional Classification System,cut: 切 離,SL: ス ラ イ ド 延 長,FL: 筋 間 腱 延 長,ZL:Z 延 長, :20 ∼ 30 mm スライド延長,††:10 ∼ 15 mmZ 延長,†††:20 ∼ 30 mm スライド延長,平均値±標準偏差,手術時月齢と 5 年間の手術回数の 比較は一元配置分散分析を,それ以外の比較には χ 2 検定を用いた.*:p < 0.05.. 薄筋,縫工筋,股関節手術後 5 年間の手術回数,足関節. 結 果. 筋解離術の施行の有無,上肢筋解離術の施行の有無に. 1.GMFCS レベルごとの対象者の属性と手術内容の比較. は,3 群間で有意差はなかった。. GMFCS レベルごとの対象者の属性と手術内容の比較 を表 2 に示した。股関節筋解離術の手術内容では,レベ. 2.GMFCS レベルごとのレントゲン所見の変化. ルⅢと比べてレベルⅣ,Ⅴでは半腱様筋や大. レントゲン所見における GMFCS レベルと術後経過. 二頭筋,. 長内転筋の延長方法で切離した者が有意に多かった。股. の分散分析表を表 3 に,レントゲン所見の各値を表 4 に. 関節手術後 5 年間に施行した手術では,レベルⅢがレベ. 示した。すべての項目の術後経過に主効果が認められ. ルⅣ,Ⅴと比べて膝関節筋解離術を多く施行し,レベル. た。Sharp 角と ARA は GMFCS レベルと術後経過との. Ⅲ,ⅤがレベルⅣと比べて体幹筋解離術を多く施行して. 間に交互作用が確認された。. いた。性別と手術時月齢,股関節手術の内容では大腰筋,. 単純主効果検定の結果,MP では GMFCS レベルⅢに. 腸骨筋,大. て術前と術後 5 年で有意に術後 5 年の値が小さかった。. 直筋,半膜様筋,半腱様筋末梢,大内転筋,.
(4) 296. 理学療法学 第 43 巻第 4 号. 表 3 レントゲン所見の分散分析表 F値 MP. ARA. Shenton line. TDD. p値. 2.27. 術後経過. 27.99. 2.4. < 0.001 *. 0.70. 4.8. 0.62. GMFCS ×術後経過 Sharp 角. 自由度. GMFCS. 2. 0.12. GMFCS. 0.56. 2. 0.58. 術後経過. 7.87. 3. < 0.001 *. GMFCS ×術後経過. 2.38. 6. 0.04 *. GMFCS. 9.995. 2. < 0.001 *. 術後経過. 9.754. 2.04. < 0.001 *. GMFCS ×術後経過. 2.749. 4.08. 0.04 *. GMFCS. 0.669. 2. 0.52. 術後経過. 3.61. 2.2. 0.03 *. GMFCS ×術後経過. 1.666. 4.4. 0.16. GMFCS. 0.565. 2. 0.58. 術後経過. 6.055. 3. < 0.001 *. GMFCS ×術後経過. 0.879. 6. 0.51. MP:Migration Percentage,ARA:Acetabular Ridge Angle,TDD:Tear Drop Distance, GMFCS:Gross Motor Functional Classification System,*:p < 0.05.. 表 4 GMFCS レベルごとのレントゲン所見の比較. MP(%). Sharp 角(度). ARA(度). Shenton line(mm). TDD(mm). GMFCS レベル. 術前. 術後 1 年. 術後 3 年. Ⅲ. 36 ± 13. 23 ± 9. 24 ± 8. 21 ± 8 ***. Ⅳ. 53 ± 24. 37 ± 23 *. 38 ± 29 **. 39 ± 29 ***. Ⅴ. 60 ± 24. 42 ± 23 *. 42 ± 20 **. 38 ± 21 *** 45 ± 5 ***, # 48 ± 6. Ⅲ. 52 ± 4. 50 ± 4. 47 ± 5 **. Ⅳ. 50 ± 6. 49 ± 6. 49 ± 5. Ⅴ. 52 ± 4. 50 ± 4. 51 ± 4. Ⅲ. ‒ 6 ± 13. Ⅳ. ‒ 14 ± 10. ‒ 3 ± 11. Ⅴ. ‒ 12 ± 15. ‒ 15 ± 11. 4 ± 12. 50 ± 3 12 ± 8 ***. 7±7 1 ± 12 ** †, ††. ‒ 12 ± 11. 術後 5 年. †, ††. 3 ± 9 *** ‒ 13 ± 16. Ⅲ. 6±2. 6±4. 4±4. 3±4. Ⅳ. 8±9. 9 ± 11. 9 ± 12. 8 ± 13. Ⅴ. 9±6. 7±7. 7±6. 7±7. Ⅲ. 9±2. 8±2. 7±1. 8±1. Ⅳ. 11 ± 7. 10 ± 8. 10 ± 9. 9±9. 11 ± 3. 10 ± 6 **. Ⅴ. 13 ± 5. †, ††. 10 ± 4 ***. MP:Migration Percentage,ARA:Acetabular Ridge Angle,TDD:Tear Drop Distance,平均値±標準偏差,Bonferroni 法 による多重比較検定を行った.*:術前 vs 術後 1 年,**:術前 vs 術後 3 年,***:術前 vs 術後 5 年,#:術後 1 年 vs 術後 5 年, † :レベルⅢ vs レベルⅣ,††:レベルⅣ vs レベルⅤ,*, **, ***, #, †, ††:p < 0.05.. GMFCS レベルⅣとⅤでは術前と比較して術後 1 年・術. ル Ⅲ, Ⅳ と 比 較 し て 有 意 に 小 さ か っ た。TDD で は. 後 3 年・術後 5 年で有意に値が改善していた。Sharp 角. GMFCS レベルⅤにて術前と比較して術後 3 年・術後 5. では GMFCS レベルⅢにて術前と比較して術後 3 年・. 年で有意に値が小さかった。. 術後 5 年で,術後 1 年と比較して術後 5 年で有意に値が 小さかった。ARA では GMFCS レベルⅢにて術前と比. 考 察. 較して術後 5 年で有意に術後 5 年の値が大きかった。. 1.GMFCS レベルごとの手術内容の違い. GMFCS レベルⅣにて術前と比較して術後 3 年・術後 5. 脳性麻痺患者に対する整形外科的手術では,各症例の. 年で有意に大きかった。また,GMFCS レベル間の比較. 痙性や変形の程度によって手術する筋やその延長量が決. では,術後 1 年から術後 5 年にかけて,レベルⅤがレベ. められている. 8)9). 。股関節筋解離術では,大腰筋や腸骨.
(5) CP における股関節手術前後の粗大運動能力別の股関節脱臼の変化. 297. 図 2 GMFCS レベルⅢの術前・術後 5 年での股関節レントゲン画像の 1 例 左図に術前,右図に術後 5 年の GMFCS レベルⅢの男児の画像を示した.術前の月齢は 125 ヵ月だった.Migration Percentage は術前が 32%,術後 5 年が 12%だった.Sharp 角は術前が 29 度,術後 5 年が 42 度だった.Acetabular Ridge Angle は術前が ‒ 30 度,術後 5 年が 21 度だった.Shenton line は術前が 6 mm,術後 5 年が 2 mm だった.Tear Drop Distance は術前が 5 mm,術後 5 年が 5 mm だった.. 筋,半腱様筋,半膜様筋,大. 二頭筋,大内転筋,薄筋, 9). 松尾や中寺らは術前の MP が 50 ∼ 60%未満が筋解離術 4)15). 長内転筋などが延長する筋として選択される 。本研究. 単独での適応と述べている. の対象者では,レベルⅢと比べてレベルⅣ,Ⅴでは半腱. 時月齢は平均で 63.8 ∼ 93.0 ヵ月であり,術前の MP が. 様筋や大. 二頭筋,長内転筋の延長方法で切離した者が. 36 ∼ 60%だった者が術後 5 年で 21 ∼ 39%と,先行研. 有意に多かった。股関節筋解離術では重症度の高い者は. 究と同様に良好な経過をたどっていた。異常筋緊張緩和. 前述した筋の延長方法を変えて手術に個別性をだしたこ. や亜脱臼改善を考えていくうえで,できるだけ早期に亜. とで,MP や Sharp 角などの値にレベル間で差が見られ. 脱臼が軽度な時期に股関節周囲筋の解離を行うことが重. なかった要因のひとつになったと考えられる。しかし,. 要と思われる。. ARA ではレベルⅤがレベルⅢ,Ⅳと比較して有意に低. 臼蓋の尺度である Sharp 角と ARA に交互作用が確認. かったことから,筋の延長量以外の要因が影響していた. されたことから,Sharp 角と ARA は,術後経過と粗大. 可能性がある。. 運動機能レベルとが関連していることが明らかとなっ. 股関節筋解離術後のリハビリテーションでは,GMFCS. た。また,レントゲン所見のすべてのパラメータに主効. レベルや各症例の状態によって半腱様筋と大. 果を認め一定の効果が得られ,臼蓋と大. 二頭筋,. 。今回の対象者の手術. 骨頭の関係を. 長内転筋に侵襲の違いがあることを念頭に置いて,術後. 表す MP では術後経過に改善がみられた。しかし,大. に侵襲筋のストレッチや筋力強化練習を行い,膝関節屈. 骨頭の変位を表す Shenton line や TDD は術後変化が少. 曲拘縮の予防や体幹機能の改善を図る必要があると考え. なかったことから,大. られる。. その改善は運動レベルによって経過が異なることが明ら. 骨に対する骨盤被覆が改善し,. かとなった。脳性麻痺患者では ARA と MP は負の相関 2.GMFCS レベルと股関節レントゲン所見との関係. があり,外側への股関節脱臼が進行している者が立位や. 脳性麻痺患者は多関節筋の過緊張によって相対的に単. 歩行を行うと骨盤臼蓋外側縁に荷重がかかるため,臼蓋. 関節筋の機能が低下している状態にある 大. 8). 。そのため,. 骨頭が脱臼する方向に常に力が作用しており,選択. 外側縁の形成が阻害され,臼蓋外側縁や大 を助長すると考えられている. 骨頭の変形. 13). 。本研究では,股関節. 的筋解離術によって多関節筋を選択的に延長・切離し筋. の外側脱臼は術前・術後 1 年・3 年・5 年の順にレベル. の過緊張を抑制し,単関節筋を温存・賦活させること. Ⅲでは平均 MP が 36%・23%・24%・21%と推移し,レ. で,大. 骨の脱臼を防ぎ,股関節の安定化を図ってい. ベルⅤでは 60%・42%・42%・38%とレベルⅢの方が股. 8)9). 。軽度の亜脱臼例については筋解離術単独により. 関 節 求 心 位 を 保 っ て い た。 ま た, 臼 蓋 の 指 標 で あ る. 改善が得られることも多いが,特に脱臼が放置され高位. Sharp 角は,GMFCS レベルⅢにて術前と比較して術後. 脱臼に進展してしまっている症例や亜脱臼の程度が強い. 3 年と術後 5 年で,術後 1 年と比較して術後 5 年で有意. 症例などにおいては,筋解離術単独で脱臼や亜脱臼を改. に改善していた。臼蓋外側縁の指標である ARA は,レ. る. 善できるかどうかについては議論が分かれている. 2‒5). 。. ベルⅢにて術前と比較して術後 5 年で有意に改善し,.
(6) 298. 理学療法学 第 43 巻第 4 号. GMFCS レベル間の比較では,レベルⅤよりレベルⅢ,. 示唆された。Sharp 角や ARA の改善には,GMFCS レ. Ⅳの方が術後 1 年以降に改善していた。術前から術後 1. ベルⅢとⅤにおいて術後経過に差があったことから,運. 年での脱臼指標の変化は,手術の効果と運動機能や荷重. 動機能や荷重機会の違いが骨盤の臼蓋形成に影響する可. 機会による骨成長の効果が合わさった変化と考えられ. 能性が示唆された。. る。それに対して術後 1 年∼ 3 年,術後 3 年∼ 5 年での 脱臼指標の変化は,運動機能や荷重機会による骨成長の 効果による変化と思われる。GMFCS は,日常生活で行っ ている運動機能を表しており,レベルⅢとⅤでは自立し た移動能力が異なる。そのため,二群間では四つ這い移 動や立位,歩行などの股関節への荷重機会が異なる。運 動機能の違いや股関節求心位での荷重機会の違いが骨盤 の臼蓋形成に関与した可能性があると考えられる。 股関節の可動域維持や脱臼予防のために,理学療法や 家庭でのホームエクササイズにて股関節の可動域練習が 行われている. 16). 。しかし,股関節が亜脱臼・脱臼して. いる状態で股関節周囲筋の過度なストレッチを行うと, 骨盤臼蓋や大. 骨頭に圧縮力が働き,股関節脱臼を予防. するのではなく,脱臼や関節破壊を助長してしまう可能 性がある。本研究では GMFCS レベルⅢの術後 MP は 21%に改善したことから,股関節筋解離術後に股関節可 動域練習を積極的に実施しても関節への負担は少ないと 考えられる。それに対して,GMFCS レベルⅣ・Ⅴでは 術後 MP が 38%だったことから,術前と同様に股関節 脱臼の変化や疼痛の出現に注意が必要と思われる。 3.本研究の限界 今回の我々の検討では,股関節脱臼の変化と痙性の程 度や下肢随意性などの身体機能,後療法の内容や頻度な どの活動性との関連は不明である。また,本研究では自 然経過をたどった対照群を設定しなかったことから,股 関節筋解離術と術後経過の効果を検証することは困難で ある。今後は股関節脱臼の変化に影響する要因の検討や 対照群との比較が必要と思われる。 ま と め 選択的股関節筋解離術後の脳性麻痺児における粗大運 動機能別の股関節脱臼は,GMFCS レベルⅢ・Ⅳでは, 術後 TDD の値に変化がなく,MP や Sharp 角,ARA が改善したことから,股関節の側方化は変化しないが骨 盤の被覆が改善することで股関節脱臼が改善したことが. 文 献 1)佐藤一望:脳性麻痺の二次障害.リハビリテーション医 学.2001; 38: 775‒783. 2)Miller F, Dias RC, et al.: Softtissue release for spastic hip subluxation in cerebral palsy. J Pediatr Orthop. 1997; 17: 571‒584. 3)朝貝芳美,渡辺 淳:痙直型脳性麻痺児股関節脱臼・亜脱 臼に対する下肢筋解離手術の中・長期成績.日小整会誌. 2011; 20(2): 393‒397. 4)松尾 篤,松尾 隆,他:脳性麻痺股関節亜脱臼,脱臼に 対する整形外科的選択的痙性コントロール手術の中期成 績.日小整会誌.2014; 23(2): 372‒378. 5)武田真幸,窪田秀明,他:当センターにおける股関節整形 外科的選択的痙性コントロール手術(OSSCS)による股関 節亜脱臼の中期治療成績.脳性麻痺の外科研究会誌.2012; 22: 85‒92. 6)Moreau M, Cook PC, et al.: Adductor and psoas release for subluxation of the hip in children with spastic cerebral palsy. Jour Pedi Orthopaedics. 1995; 15: 672‒676. 7)Presedo BA, Chang WO, et al.: Soft-tissue releases to treat spastic hip subluxation in children with cerebral palsy. Bone Joint Surge. 2005; 87(4): 832‒841. 8)松 尾 隆: 整 形 外 科 的 選 択 的 痙 性 コ ン ト ロ ー ル 手 術 (OSSCS).クリニカルリハビリテーション.2008; 17(11): 1063‒1071. 9)池田啓一,川上宏治,他:痙性に対する整形外科的アプ ローチ ― 整形外科的選択的痙性コントロール手術 ―. Jpn J Rehabil Med.2009; 46(3): 176‒185. 10)Shore BJ, Yu X, et al.: Adductor surgery to prevent hip displacement in children with cerebral palsy: the predictive role of the Gross Motor Function Classification System. J Bone Joint Surg Am. 2012; 94(4): 326‒334. 11)Palisano R, Rosenbaum P, et al.: Development and reliability of a system to classify gross motor function in children with cerebral palsy. Dev Med Child Neurol. 1997; 39(4): 214‒223. 12)紺野愼一:運動器の計測線・計測値ハンドブック.南江 堂,東京,2012,pp. 243‒244. 13)福秀二郎,難波健二,他:脳性麻痺股関節の臼蓋側の変化. 整形外科.1989; 40(6): 865‒874. 14)紺野愼一:運動器の計測線・計測値ハンドブック.南江 堂,東京,2012,pp. 257‒258. 15)中寺尚志,星野弘太郎:脳性麻痺の股関節脱臼,亜脱臼に 対する整形外科的痙性コントロール手術(OSSCS)単独の 治療成績.脳性麻痺の外科研究会誌.2012; 22: 93‒100. 16)楠本泰士:発達障害児の整形外科手術後の理学療法と生活 指導.PT ジャーナル.2014; 48(2): 111‒117..
(7) CP における股関節手術前後の粗大運動能力別の股関節脱臼の変化. 〈Abstract〉. Five-year Radiographic Changes in the Hip Joints of Children with Cerebral Palsy in Relation to Gross Motor Function Level after Selective Hip Joint Muscle Release Surgery. Yasuaki KUSUMOTO, PT, MSc Tokyo University of Technology Kenji TAKAKI, PT, MSc, Yohei TSUKUI, PT, Atsushi MATSUO, MD, PhD Minamitama Orthopedic Hospital Osamu NITTA, PT, PhD Tokyo Metropolitan University Tadamitsu MATSUDA, PT, PhD Uekusa-Gakuen University. Purpose: We investigated five-year radiographic changes in the hip joints of children with cerebral palsy (CP) in relation to their Gross Motor Function Classification System (GMFCS) level after selective hip joint muscle-release surgery. Methods: Thirty-three patients were enrolled in the study, and only those patients with CP classified as GMCFS level III-V and who could be followed for five years after surgery were selected. We evaluated migration percentage (MP), Sharp’s angle (SA), acetabular ridge angle (ARA), Shenton’s line, teardrop distance using radiography preoperatively and at one, three, and five years after surgery. We analyzed the data by two-way repeated-measures analysis of variance, and Bonferroni corrected multiple comparisons. Results: Compared with preoperative measurements, hip MP significantly decreased in patients at all GMCFS levels at one, three, and five years postoperatively. In patients having GMFCS level III and IV, ARA significantly improved at three and five years postoperatively compared to preoperative measurements. Conclusions: Hip MP improved in all patients at one year after surgery, indicating that there was no progression of latera subluxation during the five years after surgery. The results of SA and ARA evaluation demonstrated differences in improvement of acetabular shelf coverage in GMFCS level III and IV patients compared to GMCFS level V patients. Key Words: Cerebral palsy, Hip joint muscle-release surgery, Hip dislocation, Acetabular ridge angle, Migration percentage. 299.
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