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DPCデータによる臨床疫学研究の成果と今後の課題

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DPCデータによる臨床疫学研究の成果と今後の課題

康永 秀生1)

1.はじめに

近年,いわゆる「医療ビッグデータ」の基盤整 備と研究利用が進みつつある。その中でも,研究 上の多くの成果を挙げているデータベースのひと つがDPCデータベースである。

本稿では,まず「医療ビッグデータ」の類型を 解説し,そのうちDPCデータベースについてそ の詳細と具体的な研究事例をいくつか紹介する。

さらに,筆者がこれまで行ってきたDPCデータ ベース研究の実績を踏まえて,「医療ビッグデー タ」研究の今後の課題について言及する。

2.医療ビッグデータの類型

一口に「医療ビッグデータ」といっても様々な タイプのデータがあり,その規模も内容も多様で

ある。医療ビッグデータの類型を表1に示す。本 特集でも紹介されているDPC,NDBなどは診療 報酬明細データベースという類型に含まれる。疾 患特異的患者登録型データベースという類型に は,本特集でも紹介されている外科学会NCDの 他に,がん登録データなども含まれる。厚生労働 省統計情報などの政府統計も医療ビッグデータの 一類型である。電子カルテデータも多施設間で統 合すれば立派な医療ビッグデータになりうるもの  DPC(Diagnosis Procedure Combination)データベースは,全国の1000以上の施設から収集さ れた入院患者データベースであり,年間700万を超える症例数を有するビッグデータである。DPC データは診療報酬明細データベースの一つであり,詳細な診療履歴データに加えていくつかの臨床 データも含んでいる。このデータベースを用いた臨床研究が近年積極的に進められている。本稿で はその成果の一部として,(1)アテローム血栓性脳梗塞患者に対するアルガトロバン療法の効果,(2)

非がん成人患者における経静脈栄養と経腸栄養の短期生存率と合併症率の比較,(3)予後熱傷指数 の妥当性の検討,という3つの研究について解説する。さらに,DPCデータをはじめとする医療ビッ グデータ研究の今後の課題についても言及する。

キーワード Diagnosis Procedure Combination,データベース,臨床疫学

特集論文

1)東京大学大学院医学系研究科臨床疫学・経済学

表1 医療ビッグデータの類型

1)診療報酬明細データ

DPC,NDB,介護給付実態調査,など 2)疾患特異的患者登録型データ

外科学会 NCD,胸部外科学会 JACVSD,がん登録,消防 庁救急蘇生統計(ウツタイン・データ),など

3)政府統計

人口動態統計,患者調査,社会保険診療行為別調査,国 民生活基礎調査,国民健康栄養調査,医療施設調査,医師・

歯科医師・薬剤師調査,など 4)その他

電子カルテ,ゲノム等遺伝子情報,など

(2)

の,まだ開発途上である。その他,ゲノムなどの 遺伝子情報を扱うデータも,その情報量の多さか ら,医療ビッグデータの一類型に位置付けられる。

3.DPCデータベースの詳細

Diagnosis Procedure Combination(DPC)とは,

そもそも診断群分類システムの呼称である。診療 報酬の包括支払制度とリンクされているため,

DPCは包括支払と同義語のように使われること があるが,それは誤りである。DPCを採用する 千数百の大・中規模病院はDPC病院と呼ばれ,

DPC病院が収集する入院患者データはDPCデー タと呼ばれる。

厚生労働省が全国のDPC病院から収集してい るDPCデ ー タ の 個 票 は,DPCの 分 類 精 緻 化 や DPC包括点数の設定に利用されている。2015年 12月現在,研究利用のための一般公開はなされて いない。研究者がDPCデータを用いて研究する ためには,DPC病院からDPCデータを自力で収 集しなければならない。DPCデータ調査研究班

(http://www.dpcsg.jp/)は,全国のDPC病院か ら個別に同意を得た上でDPCデータを収集し,

研究に利用している。

1)DPCデータの参加施設数と患者数

DPCデータ調査研究班が収集するDPCデータ の参加施設数は,2010年度以降1000施設を上回り,

年間退院症例は700万件を超える(表2)。日本の 急性期病院入院患者の全数のうち約50%を占めて いる。

2)DPCデータの項目

DPCデータには様式1とEFファイルが含まれる。

(1)様式1

様式1は患者基本情報を含む。診断名は日本語 テキストとICD10コード(国際疾病分類改訂第10 版コード)を用いて入力される。DPCの包括支 払制度では,出来高支払いと違って,いわゆる「レ

セプト病名」を入力するインセンティブは無い。

このため,NDBなどのレセプトデータと比べて 概ね診断名の精度は高い。

様式1には,「主傷病名」,「入院の契機となっ た病名」,「医療資源を最も消費した病名」,「医療 資源を2番目に消費した病名」,「入院時併存症」,

「入院後合併症」が医師によって入力される。こ のように「入院時」と「入院後」の診断名を区別 して入力するシステムは,海外の同様のデータ ベースとは異なるDPCデータの特徴と言える。

表3に様式1のデータ項目を示す。Japan Coma Scale,がんステージとTNM分類,modified Rankin Scale,肺炎重症度分類,肝硬変Child-Pugh分類,

急性膵炎の重症度といった詳細なデータを用いて,

疾患の類型化や重症度調整が可能となる。

(2)EFファイル

EFファイルには詳細な診療行為明細情報が含 まれている。個別の医療行為(手術,麻酔,リハ ビリテーション,気管内挿管,人工呼吸,血液浄 化など)の実施履歴が,診療報酬請求コードに沿っ て入力されている。麻酔の種類(全身麻酔,脊髄

表2 DPC 伏見班参加施設数・退院患者数

年度 調査月 期間 参加

施設数 全退院 患者数 2002 年度 7月 - 10 月 4か月 82 26 万 2003 年度 7月 - 10 月 4か月 185 44 万 2004 年度 7月 - 10 月 4か月 174 45 万 2005 年度 7月 - 10 月 4か月 249 73 万 2006 年度 7月 - 10 月 6か月 262 108 万 2007 年度 7月 - 12 月 6か月 898 265 万 2008 年度 7月 - 12 月 6か月 855 281 万 2009 年度 7月 - 12 月 6か月 901 278 万 2010 年度 7月 - 12 月 9か月 980 495 万 2011 年度 4月 - 3月 12 か月 1075 714 万 2012 年度 4月 - 3月 12 か月 1057 685 万 2013 年度 4月 - 3月 12 か月 1061 711 万 2014 年度 4月 - 3月 12 か月 1133 782 万

(3)

麻酔,硬膜外麻酔など)や麻酔時間,輸血の種類

(赤血球,新鮮凍結血漿,血小板など)と輸血量,

個々の医薬品・特定保険医療材料の使用履歴も入 力されている。このように詳細な診療履歴情報を

含むデータベースは世界にも類例が無い。

個々の医療サービスにかかる,出来高換算され た医療費のデータも入手可能である。入院基本料,

手術・麻酔,投薬,注射,検査,放射線治療,食 事料など,詳細な内訳データを用いた医療費分析 も可能である。

工夫次第で,診療日付データを臨床研究に役立 てることが可能である。例えば,患者ごとに術後 抗生剤投与日数を調べたい場合,EFファイルに ある該当する手術の実施日と,周術期から開始し た抗生剤の最終投与日を検索し,両者の引き算に よって算出可能である。胸腔ドレーンの留置期間 を調べたい場合,胸腔ドレーンを留置した日付と,

ドレーン管理の加算点数がついている最終の日付 を同定し,それらから割り出すことができる。同 様にして,人工呼吸の期間,集中治療室の滞在日 数なども計算できる。

4.DPCデータを用いた臨床疫学研究の具体例 これまでDPCデータを用いた臨床疫学研究は,

筆者らの研究チームを中心に多数実践されてい る。図1にDPCデータベースを用いた臨床疫学 研究の原著論文数の年次推移を示す。それらのう ち,3例を以下に紹介する。

表3 様式1から得られるデータ項目

1)患者背景情報

(1)年齢,性別

(2)診断名(主傷病名,入院の契機となった病名,医療 資源を最も消費した病名,医療資源を2番目に消費 した病名,入院時併存症,入院後合併症)

(3)患者住所地域の郵便番号

(4)身長・体重,喫煙指数

(5)入院時の褥瘡の有無,退院時の褥瘡の有無

(6)現在の妊娠の有無

(7)(新生児について)出生時体重,出生時妊娠週数

(8)認知症高齢者の日常生活自立度判定基準,など 2)手術情報

(1)術式,手術コード,手術日

(2)麻酔,輸血,など 3)入退院に関する情報

(1)施設 ID,診療科,入院経路,他院よりの紹介の有無

(2)予定・救急医療入院の別,救急車による搬送

(3)退院先,退院時転帰(死亡退院など),退院後の在宅 医療の有無

(4)前回退院年月日,前回同一疾病で自院入院の有無

(5)在院日数 など 4)診療関連情報

(1)入・退院時の ADL スコア

(2)がんの初発,再発,UICC 病期分類,がんの Stage 分類,

化学療法の有無

(3)Hugh-Jones 分類,市中肺炎の重症度分類(A-DROP)

(4)心不全の NYHA 分類,狭心症の CCS 分類,急性心 筋梗塞の Killip 分類

(5)Japan Coma Scale(JCS)(入・退院時に意識障害が ある場合)

(6)脳卒中における発症前・退院時 modified Rankin Scale(mRS)

(7)肝硬変の Child-Pugh 分類

(8)急性膵炎の重症度分類

(9)抗リウマチ分子標的薬の初回導入治療の有無

(10)熱傷患者における Burn Index

(11)入院時 GAF 尺度,精神保健福祉法における入院形 態,精神保健福祉法に基づく隔離日数,精神保健福 祉法に基づく身体拘束日数

(12)持参薬の使用の有無

など 図1  DPC データベースを用いた臨床疫学研究

の原著論文数

(4)

1) アテローム血栓性脳梗塞患者に対するアルガ トロバン療法の効果(Wada et al.,2015)

(1)背景

日常臨床でルーチンに行われている治療の中 で,科学的エビデンスが十分でない治療は少なく ない。日本ではよく実施されている治療であって も,海外では行われていない治療も多数ある。

そのうちの一つが,アテローム血栓性脳梗塞患 者に対するアルガトロバン療法である。日本の脳 卒中ガイドラインではアテローム血栓性脳梗塞患 者に対して選択的抗トロンビン薬であるアルガト ロバンを投与することを推奨している。しかし欧 米のガイドラインでは推奨されていない。

本研究では,アルガトロバンがアテローム血栓 性脳梗塞患者の早期予後を改善するかDPCデー タベースを用いて検討した。

(2)方法

2010年7月1日から2012年3月31日までに発症 後1日以内のアテローム血栓性脳梗塞で入院した 患者を対象とした。患者を入院時にアルガトロバ ンを受けた群と入院中にアルガトロバンを受けな かった群に分けた。両群の患者背景のバランスを とるために傾向スコアマッチングを行った。主要 なアウトカムとして退院時のmRSスコアと入院 中の出血性合併症の発生率を測定した。アルガト ロバン投与と退院時mRSスコアの関連を評価す るために順序ロジスティック回帰分析を行った。

(3)結果

傾向スコアでアルガトロバン群と対照群の患者 を1:1でマッチングし,両群からそれぞれ2289 人を抽出・解析した。退院時mRSスコアは両群 間で有意な差はなかった(調整オッズ比:1.01;

95%信頼区間:0.88-1.16)。また,入院中の出血 性合併症発生率も両群間で有意な差はなかった

(3.5% vs 3.8%,P=0.58)。

(4)結論

急性期アテローム血栓性脳梗塞患者に対して,

アルガトロバン投与は安全に実施できる。しかし,

アルガトロバン投与と早期アウトカムの改善に有 意な関連は認められなかった。

2)非がん成人患者における経静脈栄養と経腸 栄養の短期生存率と合併症率の比較(Tamiya et al.,2015)

(1)背景

正常に経口摂取ができない患者における適切な 人工栄養法の選択は老年医学領域や在宅医領域に おける重要な課題である。しかしながら,これら 2つの人工栄養の方法の予後の違いについては未 だ十分に明らかとなっていない。本研究は,正常 に経口摂取ができない患者に対する経静脈栄養と 経腸栄養の短期アウトカムを比較・分析すること を目的とした。

(2)方法

DPCデータベースを用いて,2012年4月から 2013年3月の間に人工栄養を受けた患者のうち,

20歳以上の非がん患者を抽出した。この患者群は 経静脈栄養を受けた群と,経腸栄養を受けた群に 分けられた。そして2群間の1対1の傾向スコア マッチングを行った。1次アウトカムとしては,

処置を受けた日から30日以内の死亡率,90日以内 の死亡率を用いた。2次アウトカムとしては,処 置後合併症,肺炎,敗血症を用いた。また,処置 後の生存日数は,Cox比例ハザードモデルを用い て解析した。

(3)結果

3750人の患者が経静脈栄養群に,22166人の患 者が経腸栄養群に分類された。傾向スコアマッチ ングにより2群各々に2912対の患者が選ばれた。

ベースラインの状態から計算された傾向スコア

(経腸栄養群に割り振られる確率)が類似した患 者同士をマッチさせた。経静脈栄養 vs 経腸栄養 の30日以内の死亡率,90日以内の死亡率はそれぞ れ,7.6% vs 5.7%(P=0.003),12.3% vs 9.9%(P

=0.002)であった。Cox回帰分析では,経腸栄養 群 の 経 静 脈 栄 養 群 に 対 す る ハ ザ ー ド 比 は0.62

(5)

(95%信頼区間0.54-0.71,P<0.001),経静脈栄養 群と経腸栄養群の処置後肺炎と処置後敗血症の発 症は各々 11.9% vs 15.5%(P<0.001),4.4% vs 3.7%(P=0.164)であった。

(4)結論

今回の解析から,非がん成人患者に対する経腸 栄養は経静脈栄養よりも生存率が高いことが示唆 される。

3) 予 後 熱 傷 指 数 の 妥 当 性(Tagami et al.,

2015)

(1)背景

予後熱傷指数(PBI,prognostic burn index:

Ⅲ度熱傷面積%+Ⅲ度熱傷面積%×1/2+年齢)

は,本邦では,熱傷患者の重症度判定に使用され ている。しかし,明確な妥当性研究は少ない。本 研究の目的は,入院を要する熱傷患者のPBIと死 亡率の関連を検討することである。

(2)方法

DPCデータベースを用いて,2010年7月より 2013年3月までの熱傷指数(BI,burn index)が 1以上で入院した,17185例1044病院(来院時心 肺停止症例を除く)を対象とした。主要評価項目 は,入院死亡である。

(3)結果

全体の死亡率は,5.9%(1011/17185)であった。

図2にPBIと死亡率の関連を示す。PBIは,死亡と 非常に強い関連があった(Mantel-Haenszel test,

P<0.001)。死亡を予測する曲線下面積は,PBI:0.90

(0.90-0.91)あった。PBIが死亡を予測するROC曲線 の曲線下面積を算出すると,PBI≥85で死亡率と関 連していた。ロジスティック回帰分析では,PBI≥85

(odds ratio(OR),14.6;95 % CI,12.1 to 17.6),

と人工呼吸を必要とする気道熱傷(OR,13.0;95%

CI,10.8 to 15.7),Charlson Comorbidity Index≥

2(OR,1.8;95% CI,1.5 to 2.3),と男性(OR,1.5;

95% CI,1.3 to 1.8)が,死亡と有意に関連していた。

(4)結論

本研究から,PBIが85以上であることは,最も 死亡と関連していることが示唆された。PBIと人 工呼吸器の使用は,気道熱傷の有無,入院時合併 症や性別などで調整した後でも,非常に強く予後 と関連することが示唆された。

5.医療ビッグデータ研究の課題 医療ビッグデータの研究利用は近年盛んになり つつあり,今後の医学研究の重要な柱のひとつに なりうる。しかし,医療ビッグデータ研究には克 図2 予後熱傷指数と死亡率の関連

(6)

服すべき課題も少なくない。ひとつはデータその ものの限界という問題,もうひとつはデータへの アクセシビリティーという問題,さらにデータに アクセスできたとしてもそれを高度利用するため の技術的な課題が挙げられる。

1)データの限界

DPCやNDBなどの診療報酬明細データは,検 査値などのデータが含まれておらず,臨床疫学研 究に必須のリスク調整がいつも十分にできるとは 限らない。さらにNDBのレセプトデータは診断 名の妥当性に問題がある。

DPCデータは患者が他の病院に移動した場合,

もはや追跡できなくなる。このため長期のアウト カム(がんの5年生存率など)を評価することは 困難である。

疾患特異的患者登録型データベースは,臨床 データや重症度に関する指標が入力項目に取り入 れられており,より詳細な分析が可能である。し かし,特定の疾患や領域に限られている上に,

DPCデータのような詳細な診療履歴データは無 い。このように,単一のデータベースだけであら ゆるデータをそろえている完全なデータベースは 存在しない。

諸外国に目を向ければ,例えばアメリカでは,

診療報酬明細データのひとつであるMedicare Database(日本のNDBデータに類似)と,疾患 特異的患者登録型データベースのひとつである SEER database(日本のがん登録データに類似)

を患者個人レベルでリンクしたSEER-Medicare linked databaseが あ る。 リ ン ク の キ ー と し て social security number(社会保障番号)が用い られている。しかし,我が国ではまだ,異なるデー タベース間で患者個人レベルでデータをリンクさ せることは,制度的・技術的・倫理的課題が多く 実現できていない。

2)データへのアクセシビリティーの問題 アメリカでは,Nationwide Inpatient Sample

(NIS)という,DPCデータの様式1に類似する データが,すでに研究者に全面公開されている。

研究者は低廉な価格でNISデータを購入し,様々 な 研 究 を 行 っ て い る. 同 じ く ア メ リ カ で は Medicareが公開されており,ResDAC(http://

www.resdac.org/)という専門の組織がMedicare のデータ等の収集・管理・提供を行っている。

我が国に目を向けてみると,NDBは2013年か らデータ利用の公募が実施されているとはいえ,

利用承諾のハードルは高く,データ利用の普及に は程遠い状況である。また,2015年12月現在,

DPCデータの政府による公的な提供は実施され ていない。前述の通り,研究者がDPCデータを 活用するには,自力でDPC病院からDPCデータ を収集する必要がある。DPCデータ調査研究班 だけでなく,いくつかの学会や病院団体などが独 自に多施設からDPCデータを収集する事業を展 開しつつある。

3)ビッグデータの高度利用における技術的課題 ビッグデータを首尾よく収集できたとしても,

それをうまくハンドリングし,その中から新しい 知識やエビデンスを生み出すためには,様々な技 術力が必要となる。

(1)ビッグデータをハンドリングする医療情報学力 データベースの基盤構築とビッグデータをハン ドリングする医療情報技術が不可欠である。研究 プロジェクトには,医療情報学の専門家の参画が 必須である。

(2)研究デザインを構築する疫学力

日常の臨床からクリニカル・クエスチョンを紡 ぎだし,それらを検証可能なリサーチクエスチョ ンに昇華し,入手可能なデータの特性を活かして 研究デザインを組み上げる,臨床疫学の素養も必 要となる。

(7)

(3)ビッグデータを分析する統計学力

ビッグデータ研究は後ろ向き観察研究であり,

前向き介入研究とは比較にならないほど,交絡バ イアスの影響を受けやすい。観察研究データを用 いた統計的因果推論などの応用統計技術も必要と なる。

(4)結果をまとめる論文執筆力

いかなる研究も,最終的に論文にまとめ上げな ければ,何もしなかったことと変わりない。論文 を書く上で最も重要な能力とは,ひとえに国語力 である。

6.まとめ

DPCデータベースを中心に,研究の現状と課 題を概観した。医療ビッグデータ研究は,臨床医 学,医療情報学,疫学,統計学などの幅広い領域 の学際研究である。様々な分野の研究者たちが集

い,各々の知識や技術を持ち寄って共同で実施す る研究体制の構築が重要である。

引用文献

Wada T, Yasunaga H, Horiguchi H, Fushimi K, Matsubara T, Nakajima S and Yahagi N(2015)

“Outcomes of Argatroban Treatment in Patients with Atherothrombotic Stroke:An Observational Nationwide Study in Japan,”Stroke. in press.

Tamiya H, Yasunaga H, Matusi H, Fushimi K, Akishita M and Ogawa S(2015)“Comparison of Short-term Mortality and Morbidity between Parenteral and Enteral Nutrition for Adults without Cancer:A Propensity-matched Analysis Using a National Inpatient Database,”American Journal of Clinical Nutrition. 102(5):1222-1228.

Tagami T, Matsui H, Fushimi K and Yasunaga H

(2015)“Validation of the Prognostic Burn Index:

A Nationwide Retrospective Study,”Burns. 41(6): 1169-1175.

連絡先:康永秀生

    yasunagah-tky@umin.ac.jp

(8)

Clinicoepidemiological Studies Using the DPC Data: Challenges for the Future

Hideo Yasunaga1)

Abstract

The DPC(Diagnosis Procedure Combination)database is a national inpatient da- tabase in Japan, which includes approximately 7 million inpatients per year from more than 1000 hospitals. DPC data include administrative claims data and some clinical data. Recently, studies using the DPC database are increasing. In this report, we ex- plain three of the DPC studies about(i)outcomes of argatroban treatment in patients with atherothrombotic stroke,(ii)comparison of short-term mortality and morbidity between parenteral and enteral nutrition for adults without cancer, and(iii)valida- tion of the prognostic burn index. Also, several ongoing and future issues on large healthcare databases including the DPC database are discussed.

Keywords: Diagnosis Procedure Combination, Database, Clinical epidemiology

1)Department of Clinical Epidemiology and Health Economics, School of Public Health, The University of Tokyo

参照

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