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脱炭素社会に向けた サステナブルな水素バリューチェーン

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Academic year: 2022

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次世代を切り拓く破壊的技術の創生 F E A T U R E D A R T I C L E S

脱炭素社会に向けた

サステナブルな水素バリューチェーン

早川 純|

Hayakawa Jun

白川 雄三|

Shirakawa Yuzo

西出 聡悟|

Nishide Akinori

長谷川 浩章|

Hasegawa Hiroaki

江﨑 佳奈子|

Esaki Kanako

気候変動対策の一環として,脱炭素社会の実現に向けた取り組みが進んでいる。こうした中,

日立は再生可能エネルギーとグリーン水素流通を実現する水素システムを構築し,欧州や国内を 中心にグローバルなエコシステムにより脱炭素化と経済性を両立する水素取引プラットフォームの 創生をめざしている。また,安価かつサステナブルに水素,電力,熱の供給が可能な水素製造 システムと水素活用熱電供給システムを組み込み,需給バランスと高収益を両立する水素マルチ リソースプラットフォームの開発を進めている。

本稿では,日立がめざす水素マルチリソースプラットフォームおよび水素製造システムのコンセプト と,水素活用熱電供給システムにおける制御技術について紹介する。

1. はじめに

2050年のカーボンニュートラル実現に向けて,省エネ ルギーに加え,CO2排出量の60%以上を占める化石燃料 由来の電力,運輸用燃料のグリーン化を進展させるため には,再生可能エネルギーの大幅な導入とCO2を排出し ない非化石由来の水素燃料への転換が必要となる。これ に対し,日立は2030年までに,世界に先駆けて本格的な 再生可能エネルギーの活用をベースとした水素バリュー チェーンの確立をめざしている。最大の課題は,再生可 能エネルギーと水素流通における製造から貯蔵,輸送,

利用までのトータルコストを低減することである。特に,

水素製造における水素生産量向上と製造コスト低減,さ らに水素利用(電力,熱)段階の利用効率の向上と都市,

産業,運輸部門を含めたセクターカップリングによる,

水素エネルギーを活用したほうがコスト面で有利になる

エネルギー取引事業を実現するプラットフォームの創生 が必須となる。

本稿では,再生可能エネルギーと水素サプライチェー ンの各事業者で収益性を確保するための水素マルチリ ソースプラットフォームの構築を目的に再生可能エネル ギー電力を活用した安価な水素製造システムと,都市や モビリティなどの需要家に向けた水素由来の安価な熱電 供給システムの開発およびコンセプトについて紹介する。

2. 水素マルチリソースプラットフォーム

図1に,再生可能エネルギーを活用した水素マルチリ ソースプラットフォームの構想を示す。再生可能エネル ギー電力と水電解装置により製造した水素を用いて,

SOFC(Solid Oxide Fuel Cell)などの燃料電池と混焼エ ンジンを使った熱電供給(コージェネレーション)シス テムを通じ,都市,工場,モビリティの需要家に向けて,

(2)

Vol.103 No.02 278-279 115

電気・熱を高収益かつオンデマンドに取引運用すること をめざす。プラットフォームには,再生可能エネルギー 監視,市場取引,CO2排出量モニタリングといったリア ルタイムIoT(Internet of Things)機能を組み込む。再 生可能エネルギー電力や熱電エネルギーの需給データを リアルタイムに監視・予測し,各設備を制御して稼働タ イミングを最適化することにより,安価な水素製造を可 能にする。また,熱,電気,ガスの供給事業では,電気 および熱の安価な生産が可能になり,市場価格に合わせ て収益が得られる取引運用のサポートをめざす。都市,

工場,モビリティ事業の需要家に向けては,従来より安 い価格で電気,熱,グリーン水素をオンデマンドで入手 可能な運用をめざす。既存の技術に加え,新たに水素技 術を導入した際の全体のエネルギーシステムの経済性,

環境性を両立するために,ドイツ連邦共和国のフラウン ホーファー研究機構太陽エネルギー研究所とグローバル に連携したトータルエネルギーシミュレーションを進め ている。欧州の典型モデルにおいて,再生可能エネルギー

を使った水電解水素製造システムにおける効率と稼働率 の向上,水素活用システムにおける効率向上の両輪によ り,2030年には都市における水素エネルギー供給コスト を半減することが可能なシナリオを検討している。本章 では,本プラットフォームの実現に必要な水素製造シス テムと水素活用熱電供給システムについて述べる。

2.1

余剰電力活用水素製造システム

水素製造における生産量向上とコスト低減を目標に,

図2に示す余剰電力を活用し,需給データと連動した水 素製造制御システムの実現をめざしている。風力,太陽 光発電を中心として,捨電していた安価な余剰電力を安 定化することにより,水素製造システムの稼働率を2倍 にまで向上させることを掲げている。これにより製造コ ストを半減し,1 m3当たり30円の水素価格をめざす。

需要データと連動した水素製造制御システムでは,再 生可能エネルギー電力,熱電需要,市場データを使った

価格提示 需要 運転管理

水素 供給

余剰電力活用

水素製造システム 浄水,海水

電気

データの流れ エネルギーの流れ 再生可能

エネルギー 電力

グリーン水素

D D

D

D

電気・熱 供給

再生可能エネルギー

監視・予測 市場取引 運転制御・保守 需要監視・予測

安価 オンデマンド

CO2排出量 供給支援

H2 O H2

O H2

H2

H2

再生可能 エネルギー事業

水素製造事業 都市(ビル・住宅)

モビリティ(鉄道,物流)

水素活用熱電供給システム ガス供給事業 図1|水素マルチリソースプラットフォームの構想

再生可能エネルギーを活用した水素マルチリソースプラットフォームの構想を示す。電気と熱を都市,工場,モビリティの需要 家との間で高収益かつオンデマンドに取引運用することをめざす。

注:略語説明 D(Data)

余剰電力 平滑電力 アルカリ

電解

PEM

海水 電解

指令

監視 市場データ

需要データ

需要

価格

水素

水源 浄水 排水 海水 発電量

再生可能エネルギー

平滑化 制御

水素製造リアルタイムIoT

水電解設備

図2| 余剰電力活用水素製造システム 余剰電力を活用し,需給データと連動した水素製造 制御システムの実現をめざす。浄水のほか,海水な どの水を調達し,風力,太陽光発電を中心に捨電し ていた安価な余剰電力を平滑化することで,水電解 設備の稼働率を向上し,コスト低減を図る。

注:略語説明

PEM(Polymer Electrolyte Membrane),IoT(Internet of Things)

(3)

116

リアルタイムIoT技術を用いて需要量と価格を予測し,

水電解による水素製造タイミングを制御することで,最 適計画を提示するシステムを構築する。さらに,サイト ごとに発生する多種多様な変動のある余剰電力を平滑回 路によって一定の出力に安定化する。これを電解電力と して安定供給することで,PEM(Polymer Electrolyte  Membrane),アルカリ電解装置などで構成される水電解 モジュール群の設備稼働率を70%以上に高め,コストを 現状との比較で半減させることが可能な技術を開発する。

一方,世界的には水資源の枯渇リスクが高まっている。

水電解による水素製造は,化学量論的に水素1 kgの生成 に9 Lもの水が必要であり,実際には水の純度,冷却など のシステム仕様に応じて,より大量の水資源確保が求め られる。このように水素社会の進展は水不足を加速する 側面を有するため,浄水だけでなく,海水,工業排水な どを活用した地域ごとの安定的な水源確保が重要とな る。こうした課題の解決に向け,日立は既存の水処理技 術の活用1)に加え,高効率・長寿命な水再生システムを 実現する水分離膜材料技術を開発し,水素製造システム の展開地域拡大を図る。

2.2

水素活用熱電供給システム

需要家サイドのCO2削減に向けた水素マルチリソース プラットフォームを構築するために,安価に熱,電気の 生産が可能で,市場価格に合わせて都市,工場,モビリ ティの需要家へ供給することで高収益運用が可能な水素 活用熱電供給システムを開発している。特に,低コスト にエネルギー供給を運用するには,需要に対応するため,

電気と熱の供給量の調整幅を拡張するとともに,需要に 瞬時に応答制御することが重要になる。日立は,こうし た課題を解決するため,発電効率の高いSOFCと熱効率 の高い混焼エンジンを組み合わせ,熱,電気の需給バラ ンスを最適化することが可能なSOFCハイブリッド熱電 供給システムを開発している(図3参照)。エンジンの排 熱をSOFCの起動熱源とし,逆にSOFCの未利用水素の 一部をエンジンの燃料としてむだなく相互に活用するこ とで,システム効率を高める。さらに,両機器の運転状 況をIoT技術で常時モニタリングし,熱電需要に対して 最大効率で運転するように,運転条件パラメータをAI

(Artifi cial Intelligence)によりリアルタイムに制御する。

ここでは,SOFCとAI制御による高効率混焼エンジンの 開発状況を紹介する。

図4(a)は,九州大学水素エネルギー国際研究セン

AI

運転制御

SOFC

混焼エンジン 最適需給 バランス

電力

水素・空気量

出力・温度

排熱 残留 点火スロットル 水素

IoT状態監視

高効率需給運転 トルク・電力

ガス

図3| AI制御による水素活用熱電供給 システム

都市,工場,モビリティの需要家へのエネルギー供 給事業に向けた水素活用熱電供給システムを開発 している。需要に対応するため,発電効率の高い SOFCと熱効率の高い混焼エンジンを組み合わせ,

電気と熱の供給量の調整幅を拡張するとともに,瞬 時に需要に対応する応答制御技術を構築する。

注:略語説明

SOFC(Solid Oxide Fuel Cell),AI(Artifi cial Intelligence)

SOFCモジュール 80

00 20 40 700

燃料利用率(%)

発電効率%

50

40

30 ベース 水素燃焼 AI制御

トルク 出力 圧力 SOFCセル

スタック

10 セル)

エンジン部

希薄化

混合比 排熱 活用 スロットル 燃焼タイミング

熱マネジ メント

熱効率%

60 80 20

40 60

水素混焼エンジン AI 制御

(a) SOFCセル (b)

スタック

10 セル)

エンジン部

図4| SOFCスタックとAI制御による高効率 混焼エンジン

10セルをスタックしたSOFCモジュールの外観を(a)

に示す。燃料利用率を80%まで向上することにより発 電効率60%を確認した。(b)は,既存マルチ燃料 を触媒反応により改質した水素を活用した高効率 混焼エンジンの外観を示す。低濃度エタノール水を 用いて50%程度の熱効率を達成した。

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次世代を切り拓く破壊的技術の創生 F E A T U R E D A R T I C L E S

Vol.103 No.02 280-281

ターと共同で開発したSOFCセル10個をスタック化した SOFCモジュールの外観と24 wt% - 40 wt%エタノール を使った700℃における発電特性を示す。700℃で燃料を 改質し,燃料利用率を80%まで向上することにより,最 大60%の発電効率を達成した。また,バイオ燃料を用い た場合にも同様の結果が得られ,マルチグリーン燃料の 燃料利用率を制御することによって発電効率を向上でき る。図4(b)は,AI制御による高効率混焼エンジンの外 観を示す。バイオエタノールなど既存のマルチ燃料を触 媒反応により改質した水素を利用する実証実績を 持つ2)。蒸留前の含水状態の低濃度28 wt%エタノール水 を用いて,50%程度の熱効率を達成している3)〜5)。本技 術は,混焼エンジンの最適運転を行うために,AIによる 混焼エンジンの燃焼制御技術を組み込んでいることが特 徴である6)。燃焼状態を検知し,燃料種別ごとの燃焼状 態を学習することにより燃料の種類と組成変動を自動的 に感知し,最適な運転状態を作り出すことができる。

今後,SOFCと混焼エンジンを組み合わせ,水素マル チリソースプラットフォームでデータ連携運用を行うた めのAI制御技術を確立する。

3. おわりに

本稿では,2030年以降の脱炭素社会実現に向け,再生 可能エネルギー・グリーン水素の流通を実現する水素シ ステムを構築し,経済性を両立する水素取引プラット フォームのコンセプトについて紹介するとともに,安価 かつサステナブルに水素,電力,熱の供給が可能な水素 製造システム,水素活用熱電供給システム制御技術につ いて述べた。今後,需給バランスと高収益を両立する水 素マルチリソースプラットフォームの開発を進め,ゼロ エミッションを実現可能なサステナブル水素バリュー チェーンの創生をめざす。

謝辞

本稿で述べた水素サプライチェーン構想,SOFCの開 発においては,九州大学水素エネルギー国際研究セン ターの佐々木一成センター長,白鳥祐介准教授に多くの ご支援を頂いた。また,水素エネルギーシミュレーショ ンの連携においてはフラウンホーファー研究機構にご協 力を頂いた。深く感謝の意を表する次第である。

執筆者紹介

早川 純

日立製作所 研究開発グループ 基礎研究センタ 所属 現在,環境エネルギー材料,システムの開発に従事 博士(工学)

応用物理学会会員,日本熱電学会会員,日本磁気学会会員

白川 雄三

日立製作所 研究開発グループ 基礎研究センタ 所属 現在,脱炭素エネルギーシステムの開発および実証に従事 博士(工学)

西出 聡悟

日立製作所 研究開発グループ 基礎研究センタ 所属 現在,熱電変換材料,環境エネルギーシステムの開発に従事 博士(工学)

応用物理学会会員,日本熱電学会会員

長谷川 浩章

日立製作所 研究開発グループ 基礎研究センタ 所属 現在,マルチ燃料エンジン制御システムとエネルギーシステムシ ミュレータの開発に従事

博士(工学)

日本ロボット学会会員

江﨑 佳奈子

日立製作所 研究開発グループ 基礎研究センタ 所属 現在,新世代人工知能のアルゴリズム開発に従事 IEEE会員,日本ロボット学会会員

参考文献など

1)奥野裕, 外:海外向け水処理・造水技術の実績と展望, 日立評論,

99,4, 414〜419(2017.7)

2)日立製作所ニュースリリース,40%の低濃度バイオエタノールを用い た発電システムを試作(2016.2)

https://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2016/02/0208a.

html

3)白川雄三,外:低濃度含水エタノールを用いた燃料改質エンジン システムの高効率化検討,自動車技術会論文集,49巻,2号,

pp.247〜252(2018.10)

4)白川雄三,外:低濃度含水エタノールを用いた燃料改質エンジン システムによる熱効率向上とNOx低減,日本機械学会論文集,82 巻,840号,p.15-00573(2016.8)

5)白川雄三,外:エタノールおよび水素を用いた火花点火エンジンに おけるピストンの低熱伝導率化が冷却損失および排気損失に与え る影響,自動車技術会論文集,51巻,1号,pp.1〜6(2020.1)

6) K. Esaki et al.: Active-exploration-based generation of combustion- model adjusting to occasional rapid changes in mixed ratio of various fuel types, International Journal of Engine Research

(2020.10)

参照

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17―30。 47) André Dacier, La poétique d’Aristote: traduite en français avec des remarques critiques sur tout l’ouvrage, Claude Barbin, 1692, p.

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