〔特別講演〕
3 ( 東 女 医 大 誌 第
5 4
巻 第2 号 )
頁
133‑142
昭和5 9
年2
月眼科領域におけるヘルペスウイルス群による疾患について
ウチ ダ
教 授 内 田
東京女子医科大学 眼科学教室(主任:内田幸男教授)
オ 男
時 幸( 受 付 昭 和58年11月4日〉
Ocular Diseases Caused by Herpes Group Viruses Yukio UCHIDA , M.D. P r o f e s s o r o f O p h t h a l m o l o g y D e p a r t m e n t o f O p h t h a l m o l o g y
,T o k y o Women's M e d i c a l C o U e g e
C o r n e a l h e r p e s s i m p l e x i n v o l v e s e i t h e r t h e e p i t h e l i u m o r s t r o m a
,and t h e i n c i d e n c e o f t h e l a t t e r c a s e h a s become h i g h e r i n l a s t 1 0 y e a r s . R e c e n t l y
,new a n t i h e r p e t i c a g e n t s s u c h a s acy
c1o v i r
,BVDU
,and i n t e r f e r o n have become a v a i l a b l e
,however
,e f f e c t i v e t r e a t m e n t f o r s t r o m a l l e s i o n s h a s n o t y e t been e s t a b l i s h e d . A f t e r i n f e c t i n g t h e c o r n e a
,h e r p e s s i m p l e x v i r u s i n v a d e s t h e t r i g e m i n a l g a n g l i o n
,where t h e v i r u s p e r s i s t s i n a l a t e n t s t a t e . 1 n a n e x p e r i m e n t
,p e r c e n t a g e o f v i r u s ‑ h a r b o r i n g t r i g e m i n a l g a n g l i o n c e l l s e s t i m a t e d i n r a b b i t s r a n g i n g from 0 . 0 5 t o 0 . 3 .
The d i a g n o s i s o f h e r p e s z o s t e r i s d i
任i c u l twhen e r u p t i o n s a r e a t y p i c a l o r l a c k i n g . 1 n s u c h a c a s e
,m o r p h o l o g i c c h a r a c t e r i s t i c s o f d e n d r i t i c c o r n e a l l e s i o n a r e sometimes p a t h o g n o m o n i c .
O c u l a r c y t o m e g a l i c i n
c1u s i o n d i s e a s e ( C 1
D)was p r o d u c e d i n mice by i n o c u l a t i n g m u r i n e c y t o m e g a l o v i r u s i n t o t h e a n t e r i o r c h a m b e r . A f t e r t h e a c u t e o c u l a r i n f l a m m a t i o n
,t h e v i r u s was l o c a l i z e d i n g l a n d u l a r t i s s u e s . T h i s a n i m a l model was t h o u g h t t o b e u s e f u l f o r s t u d y i n g human C 1 D .
I 緒 言
近年基礎,臨床を通じて多くの分野で、へルベス ウイルスが話題となっているが,眼科領域ではか ねてからこの科のウイルスによる疾患が重要視さ れており,この傾向は増大しつつある.ヘルベス 科の中でヒトに疾患を起こすものとしては,単純 へ/レペス
C I
,II型),水痘帯状ヘルペス,サイトメガ、ロ,
E p s t e i n
同Barr
(E‑ B )
の4
ウイルスがあり,眼科では前
3
者が問題となる.これらウイルスは ヒトと密接な関係にあり,顕性または不顕性感染 と し て 人 体 に 侵 入 す る と , そ の 後 は 潜 伏 状 態 と なって生涯ウイルスは人体から離れない.そして 宿主の抵抗力低下などの条件のもとで疾患を再発 させる.これらのウイルスによる眼疾患の概要と,これに関連して私達が行なって来た研究について 述べてみたい.
II 単純ヘルベス角膜炎
単純へルペスウイルス
C h e r p e ssimplex v i r u s
,HSV
と略す〉が侵す眼組織は多いが,中でも角膜 炎は頻度が高く,再発をくり返し,難治となりや す い こ と か ら 重 要 で あ る . 単 純 へ ル ペ ス 角 膜 炎C h e r p e s s i m p l e x k e r a t i t i s
,HSK
と略す〉の病因 としてはHSV
のI
型がほとんどを占め,産道感 染の新生児例などにおける II型の眼感染もある が非常に稀である.1.単純ヘルペス角膜炎患者の年齢
HSV
の初感染は幼小児期に起こり,口内炎や 歯肉炎の形をとることが多いとされる.まれに初 感染が眼験とその周囲に皮疹をあらわすことがあ り,この場合は結膜炎を合併し,さらに角膜に病 変を作ることがある.多くは両眼性である.しか し最近では成人にもこの角結膜炎の初感染型を示‑133
4
症 例 数
図1 単純へノレベス 角 膜 炎 患 者130例 の 年 齢 分 布 (1968 ‑1974)
症 例 数
図2 単純へノレベス 角 膜 炎 患 者125例 の 年 齢 分 布 (1981‑1983)
す例が散見されるようになった.
HSK患 者 の 年 齢 構 成 を 当 科 の 集 計 か ら み る と
, 1968‑1974年が図1,)11981‑1983年が図2の ようになる.図1では20‑40歳台に多いが,図2 ではこの集中性が滅り,高年層側にピークが移っ ている.患者はこのように成人が多く,また小児 も含めてほとんど初診時において再発型である. す な わ ち 前 述 の 初 感 染 例 は 少 な し 過 去 にHSV の侵入をうけている抗体保有者の角膜に起こった ものである.
2.単純へルペス角膜炎の病型 1)表層型
HSV感染による角膜の病変はまず上皮層から 始まり,初め点状の小病巣ができ,これが融合し て浅い潰蕩となる.その形は細かく分岐して木の 枝状であり,樹枝状潰蕩または樹校状角膜炎Cden. dritic keratitis)と呼ばれる.フルオレスセンまた はローズベンカツレなどの色素で染め出される (写
写真1 樹校状角膜炎 (単純へノレベス性〕
真1).この形態から直ちにHSKの臨床診断が下 せる.潰蕩の辺縁は変性細胞と浸潤によって淡く 混濁しており,この部の擦過物からウイルス分離 または蛍光抗体法で、HSVが高率に証明される.
擦 過 が 確 実 で あ れ ば 陽 性 率100%と考えてもよ い2) 樹枝状角膜炎の段階で治癒すれば擁痕によ る角膜混濁も淡くとどまり,視力障害も軽度です む.樹枝状の病巣が拡大したものを地図状角膜炎 と呼び,その病巣辺縁は樹枝状の名残りの凹凸不 整 を 示 す.地 図 状 角 膜 炎 も や は り 上 皮 層 内 で HSVの増殖性の活動があるために起こる病変で あり,これと樹枝状角膜炎を合わせて表層型とい
う. 2)実質型
HSKの病変が表層型からしばしば進展して実 質に及び,さらに虹彩炎を起こすこともある.実 質に破壊が起これば治癒しても必ず角膜混濁を残 す.再生した腰原線維がもとの規則的な配列をと
りえないからである.実質が侵された病型を実質 型と呼ぶが,種々の型がある.最も多いのは円板 状の混濁を実質中に作る円板状角膜炎であり,こ の時潰蕩はなく,上皮層にHSVの活動はない.ま た潰蕩が実質の深部に進み,前房蓄膿を伴ったり,
角膜穿孔を起こすこともある.その他実質性病変 を起こした角膜の表層にウイルスの活動のない潰 蕩が出没をくり返す栄養障害性潰蕩という病型も かなりの頻度で認められる.
‑134
表l 単純へノレベス 角 膜 炎 の 病 型 の 頻 度
よ ぐ 1 1970‑'72 1981‑'83
樹校状角膜炎 34 34 地図状角膜炎 ;>47.1% ~>34.4%
円板状角膜炎 23 54 その他の実質病変 ;;>52.9% 28 >65.6%
計 87 125
外来の初診時において HSKの病型がどのよう であるか,約10年前2)と現在とを比較してみた(表
1).元来大学病院では第一線の診療機関とは異な り,発病問もない新鮮な樹枝状角膜炎は少なく,
難治になった実質型が多い.同一眼において2個 以上の病型をもつことがあり,実質性角膜炎の上 に樹校状角膜炎が再燃したというような例であ る.表では複数の病型をもつものはそのうちの主 な方をとった.1970‑72年では実質型の占める比 率は52.9%であったが, 1981‑83年では65.6%と 増加している.新しい薬物の出現,治療法の進歩 にもかかわらず実質型が増加し, HSK患者の予 後は好転していないことが窺われる.
3 .
実質型の発生病型表層に始まったHSVによる病変が,実質内に 進展する過程に細胞性免疫が関係すると考えられ ている.上皮性病変のみをもっ患者と実質性病変 をもっ患者およびヘルベスの既往のない対照とを 比較した研究がある3) それによると血清免疫グ ロプリンのレベル,補体結合抗体価,マクロファー ジ遊走阻止試験などの反応では上記3群聞に差が ない. リンパ球の
t r a n s f o rm a t i o n
のみが特殊で,実質病変をもっ患者では低下がみられている.
HSVの感染と宿主細胞の反応を考えると 2つ の 様 式 が あ り へ 上 皮 細 胞 で は 細 胞 変 性 効 果 に よって細胞が破壊され, ウイルス粒子が増加する とL、う
p r o d u c t i v e
な感染となる.したがって上皮 層には潰虜が生ずる.これに反し,中匪葉系の細 胞や神経細胞ではn o n ‑ p r o d u c t i v e
な感染となり やすい.実質細胞はHSVを宿すがその増殖の結 果としては破痩されず,実質組織の障害は免疫反 応で起こると説明される.その機序として HSV写真2 円板状角膜炎
の侵入によって細胞膜に特異抗原が現われ,この 細胞に対して抗体と補体による細胞融解, リンパ 球による抗体依存性の細胞融解,非抗体依存性の
T
リンパ球とマクロファージによる攻撃などが起 こると考えられる.さらにこの反応の結果生じた起炎物質が白血球 の漫潤を招き,非特異的な実質組織の融解をきた すことになる.細胞膜の抗原性の変化から始まる 一連の免疫反応は,角膜移植の拒絶反応と同様で ある.実際に臨床像においても実質型HSKと角 膜移植の拒絶反応の聞には共通点が多い.
円叡状角膜炎とは実質中に円形の混濁を形成す るものであるが(写真
2
,) ときに円板の中央が透 明化して輪状の混濁となることがあり,これを免 疫輪Cimmun er i n g )
と呼ぶ.角膜全体をコロイドと考えた場合, この中に起こった免疫反応の沈 降線と考えられるからである.実際に角膜中で実 験的に抗原抗体反応を起こさせると,このような 輪状混濁を作ることができる.円板状角膜炎の発 生機序に抗原抗体反応が関与するということの
1
つの証拠とされる.4 .
潜伏と再発皮膚病変と同じく HSKに再発は特徴的であ り,再発時には発熱,感官,過労,光線照射,心 労などがひきがね
( t r i g g e r )
として働くことはよく知られている.再発までの期間, HSVは局所か らは証明されない.どこに潜伏するかは謎とされ,
局所およびその付近組織に検出され難い程度の徴
‑135‑
6
弱な持続感染を保っているとの主張もなされた.
1 9 7 0
年代に入って知覚神経節内の潜在が実験的に 証明され5)‑7)剖検例も同じ結果を示した.神経節 内でのHSV
は感染力を維持した状態にはなく,通常のウイルス分離法では証明できない.神経節 を 細 切 し , 他 の 単 層 培 養 細 胞 と と も に 培 養
C c o c u l t i v a t i o n
,共生培養〉すると,HSV
が増殖 し単層細胞に変性巣が現われる.角膜の場合は 対応するのは三叉神経節であるが,角膜に接種し たHSV
はこれのみでなく,自律神経節,すなわち 毛様神経節,上頚神経節にも到達する.私達は三叉神経節中の神経細胞がどの程度の比 率で
HSV
を宿すのか実験を行なった8) 家兎の角 膜にHSVI
型を接種すると,結膜炎と角膜炎を起 こす. ヒトにおける初感染と同様の病像である.5
を追って眼球,視神経,涙腺,眼筋,下垂体,三 叉 神 経 節 な ど を 組 織 学 的 に し ら べ て 行 く . 抗
HSV
蛍 光 標 識 抗 体 を 反 応 さ せ る と 各 組 織 にHSV
抗原が検出され,HSV
の侵襲が起こること がわかる.角膜の擦過物中のHSV
抗原は接種1 4
日までは陽性例がみられ,
2 8
日となると全く陰性 である.そこでこの時点から三叉神経節,角膜,結膜,虹彩,涙腺,網膜,視神経,大脳皮質,小 脳の各組織片をミドリザル腎細胞と共生培養す
る.
HSV
接種2 8
日C4
週〉以後,7
,8
,1 4
,2 0
,3 2
週において三叉神経節以外の組織からの培養結 果はすべて陰性であった.これに反し三叉神経節 か ら は , 各 時 点 に お い て 上 記 の 期 聞 を 通 じ て50‑100%
の分離陽性率を得た.さらに各時点において家兎から 1側の三叉神経 節を摘出して細切し, トリプシンとコラゲナーゼ で細胞を分散させ,細胞浮遊液を作った.細胞外 の
HSV
を除くため抗HSV
ウサギ血清で3 0
分間 処理した. トリパンフ守ルーの染色性から生細胞を 数え,N i s s l
染色で神経細胞を同定した.細胞浮遊 液を2
倍段階稀釈してV e r o
細胞の単層培養に重 層し,CPE
C細胞変性効果〉の出現を2
週間観察 した.V e r o
細胞単層培養の50%
に変性を起こす 神経節細胞の数を求める. 1個のウイルス保有神 経節細胞がCPE
を生ずるのに必要とすると,こ れからウイルスを潜在させた細胞数を求めうる.<Il
"
υ0.4
"
〉
'i;i 0 3
0 a. O 0.2
ω
"
"
2 0 1 ω O L
ω
且 28 56
E
98 n=4
亙
140 Days after infection
224
図3 家兎単純へノレベス角膜炎慢性期における三叉神 経節神経細胞のウイノレス保有率.
結果は図
3
に示したようにHSV
を宿した神経細 胞は0.05‑0.3%
と変動が大きいが,この程度を持 続するものと思われた.臨床例では三叉神経節に潜在した
HSV
が活性 化し,軸索流に沿って末梢へ移動し,角膜に再発 病巣を作る.この病巣で増殖したHSV
は再び神 経を遡って神経節で潜在場所を拡げる.この過程 が繰返されると考えられる.神経節内の潜在はほ ぼ定説になってきたが,反対もないわけではない.神経節の神経細胞の障害による症状がないこと,
支配神経が切断された領域にも
HSV
の病変が再 発をおこす例があることなどが反対説の根拠とさ れている.5 .
単純へルベス角膜炎の治療 1) 表層型の治療(1)
D e b r i d e m e n t
古くから行なわれたのが
HSV
の増殖した細胞 を除去しようとする方法である.中でもヨードチ ンキ塗布が普及した.点眼麻酔ののち,上皮の病 巣部に塗布する.速効的によい結果をみることが 多い.ただし扱い方によっては強L、娘痕を残すこともある.
(2)化学療法剤
①
IDU C 5 ‑ i o d o ‑ 2 ' ‑ d e o x y u r i d i n e )
・0.1%
水 溶 液の点眼が樹枝状角膜炎に奏効することが,1 9 6 2
年
Kaufman
9)によって報告された.家兎角膜の実 験的HSK
に卓効を示し,臨床例でも同様であり,この効果は二重盲検法でも確められた.昼間
1
時 間毎,夜間2
時間毎に点眼する.夜間は0 . 2 5 %
の 眼軟膏を就寝前に1
回点入して溶液にかえてもよ 136‑︒ ρ N b
HO 図4 IDU
い.臨床ではじめて導入された抗ウイルス剤であ るが,わが国で、抗ヘルベス剤として認可されてい るのはこの一種のみである.
IDU
はt h y m i d i n e
と 非常によく似た構造をしており(図4).HSV
のDNA
が合成される時,t h y m i d i n e
と誤ってとり こまれ,感染力のないHSV
粒子ができると説明 さわしている.IDU
は表層型には第一選択的な薬剤として広 く使用されて,従来のd e b r i d e m e n t
を追いやって しまった観がある.しかしIDU
は実質型HSK
と 虹彩炎には無効である.またIDU
に耐性のHSV
株の存在も知られている.これらに加えて副作用 も少なくない.最も多いのは接触性皮膚炎型のア レルギ一反応で、あり結膜に充血,肥厚, t慮胞形成 をきたす.私達の経験では
IDU
使用者の10%
以上 にこれをみている.そのほか角膜上皮の点状びら ん , 涙 点 閉 塞 , 眼 険 炎 な ど を 起 こ し ま た 動 物 実 験では点眼による催奇性も知られている.②
T r i f l u o r o t h y m i d i n e
民T ): IDU
のI
に 代ってCF
3が付いたものであり ,IDU
よりも水に 溶けやすく,表層型に対する効果もすぐれ川,米国と西独では
1%
点眼液として認可されている.③
A d e n i n e a r a b i n o s i d e ( A r a
・A )
:前2
者が ピリミジン核を有するのに対し,これはプリン核 の誘導体である.この燐酸化されたものがDNA
合成のさい干渉して
DNA
鎖が伸びるのを妨げる とか,またはDNA ‑ p o l y m e r a s e
を抑制してウイ ルス核酸合成を阻害するなどの説がある.3%
の 軟膏として用いられ10) 米国と西独で認可されてし、る
④
A c y c l o v i r (ACV)
:図5に示すようにプリ ン核に結合する糖の環が破れた形をしている.前7 OH
図5
A c y c l o v i r
出のいずれの抗ウイルス剤よりも
HSV
に対し強 力といわれる11)12) 水痘一帯状ヘルベスウイルス,サイトメガロウイルスに対しても有効である.
A r a ‑ A
同様に全身的にも用いうる抗へルベス剤 である.3%
眼軟膏として多施設で治験が行なわ れたが,欧米で、の優れた結果ほどではないが表層 型HSK
に対してよい効果が得られた.また二重 盲検法で現在わが国で製剤化されている0.25%
眼 軟膏と比べたが,ACV
は有意に優れていた13)⑤
BVDU
(E)・5・(2・b r o m o v i n y l )
‑2'‑ d e o x
・y u r i d i n e : H S V ‑ I
型 に 対 し て はIDU
の2 0
倍 の 増 殖阻害性を有し,ACV
を含めたどの抗ウイルス 剤よりも強力とされる(図6
)'4).ただしH S V I I
型に対しては I 型の場合の 100~200倍高い濃度を要
する.臨床治験でも効果が優れ,実質病変にも有 効というが,この点は事実かどうか試みたいとこ
ろで、ある.
(3)インターフェ口ン
純度の高いインターフエロン(I
FN)
が大量に生 産されるようになり,数年前から本邦でも臨床試 験が行なわれるようになった.HSV
はIFN
に感L~
OH
図6 BVDU
‑137ー
8
受性の低いウイルスとされるが,
HSK
はIFN
の 抗ウイルス性のテストにはよい対象となる.すな わち点眼とし、う投与法はごく小量で足り,また全 身 的 の 副 作 用 は ま ず 考 え な く て す む . さ ら にHSK
の基本型である樹枝状角膜炎は,細隙灯顕 微鏡下でその形態が詳細に観察でき,薬物の影響 による変化が追跡しやすいという利点もある.欧州ではまず英・独で
HSK
に対する治験が行 なわれ, ヒト白血球由来のI F N ‑ α
が用いられた.J o n e s
ら同は家兎角膜にHSV
を接種し,生じた 病変の程度をスコア化し,薬物の影響を定量的に 評価する方法を考案した.この系にヒトIFN
が病 巣拡大を抑制する方向に働くことを見付けたが,このように種特異的といわれる
IFN
が例外的に 他種動物に感受性を示すことがある.この結果を ふまえてHSK
臨 床 例 にIFN
点眼を試みたが,IFN
単独では著しい効果は見られなかった.そこ で彼らは病巣擦過とIFN
の併用を試みた16)樹枝 状角膜炎の病巣を綿棒で擦過除去し1
日1
回2
滴のIFN
を点眼した.病変の再出現率を二重盲検 法で比べるとIFN
が偽薬に対し有意に優れた.Sundmacher
ら17)はI F N ‑ α
を 病 巣d e b r i d e ‑ ment
の熱処理と併用すると,病巣の治癒と結膜 嚢からのウイルス分離率の減少において,対照薬 に比べて有意に優れることを示した.また抗ウイ ルス剤との併用ではF 3T
とIFN
の組合せが最もよし、とL、ぅ18)
私達は厚生省特別研究班の研究の一環として
IFN
の臨床応用を試みた.東レ基礎研究所製のヒ ト線維芽細胞由来のI F N ‑ β
が供給され,この試験 が進んだ.1 0
6IU/ml
の1
日4回の点眼は,対照と したヒトアルブミンの点眼に比べ,樹枝状角膜炎 の治療においてすぐれた19) また多施設二重盲検 試験によって1 0
6IU/ml
と1 0 3 I U / m l
との効果を比 較した.その結果,樹枝状角膜炎6 8
例全例を通じ ては1 0
6IU/ml
の 治 療 効 果 の 優 位 は 傾 向 に と ど まった.しかし病巣の一部からの擦過物において 蛍光抗体法でHSV
抗原が陽性を示した4 1
例にお いては,1 0
6IU/ml
が1 0 3 IU/ml
よりも5%
のレベ ルで、有意に優れた〔表2)叫 .しかし以上の
IFN
点眼の成績は比較的高濃度表2 IFNβの 点 眼 に よ る 樹 校 状 角 膜 炎 の 治 療 効 果,局所の蛍光抗体法陽性例における成績
IFN濃度 10'IU/ml I 2
を用いても,単独では治癒は迅速ではない.印象 としては自然治癒を早めるといったところであ る.そこで病巣擦除去と併用した.病巣擦過は既 述のように古典的な評価を得た方法で、ある.擦過 時に
IFN
を点眼することは,病巣を除去したさい 周囲に散布されたウイルス粒子が新しい宿主細胞 を求めて侵入増殖することを妨げることになる.IFN
の予防的効果が最もよく発揮されるわけで ある.1 0
5/ml I F N ‑ α
をIDU
,アルブミンと比べ,有意差はなかったが副作用のないことなど,実用 的価値のあることが示された.
2)実質病変の治療 (1)ステロイド
私達は
ACV
までのと、の抗へルベス剤も,単独 で実質型HSK
~こ有効と,思われた例を経験してい ない.視力の改善を目的とすると抗炎症剤を用い ざるを得ない.副腎皮質ステロイドが出現した当 初は実質型を改善させるようにみえた.しかし,みかけ上の改善のみで経過を重篤化させることが わかり,禁忌とされた
. 1 9 5 0
年代以降のHSK
の病 像が複雑化し,失明に至る重症例が戦前に比して 増したことに,ステロイド点眼の誤用,濫用が原 因しているとするものもある.現在では表層型にはステロイドは禁忌である が,上皮に
HSV
の活動のない実質病変に対して はステロイド点眼を抗ウイルス剤と併用の形で用 いるものが多い.ステロイドが消炎と同時に防禦 機能を弱め,HSV
が増殖しやすくなるのを抗へ ルベス剤で防ごうというものである.ステロイド の消炎作用は確実でこれに勝るものはない.ステ ロイドの点眼は実質の混濁の軽減,虹彩炎症状の 消退,角膜内血管侵入の抑制などに奏功する.し かし,このような角摸の表層にしばしば点状ある いは樹枝状の活動性病巣が出現してくる.これをHSV
の再活性化というが,ステロイドがそれを 一誘発促進するわけである.
I D U
を併用すると,このステロイドによる
H SV
の再活性化を減少させ る.過去の私達の経験ではほぼ1 / 5
に発生率を低下 させた2) ただしステロイド点眼の濃度と回数お よびこれと併用するI D U
の適当量ということに なると,基準を立てることはむずかしい.プレド ニソロンの量でこの組合わせを示した報告もあ る.著者は0 . 1 %
デキサメサゾンやベータメサゾン であれば,この2
回に対しIDU 5‑6
回,漸減して
0 . 0 2 %
デキサ メ サ ゾ ン と な れ ば そ の1
回にI D U 2
回程度としている.さらにフルオロメソ ロン
0 . 0 2% 1
回となればI D U
は用いなくてもよい.大要は以上のようであるが,症例により再活性化 の既往の有無などで多少の増減がある.
ステロイドと
I D U
の併用において再活性化の ほかに問題となるものに,ステロイド減量によるr e b o u n d
とステロイド依存性となって離脱が困難 となることがある.1段階ステロイドを下げた時 のr e b o u n d
は1‑ 2
週のうちに来る.この場合は2
段階程度前にもどす必要がある. (2) レパミゾール細胞性免疫を賦活する作用ありとして試用され たが,実質型の中でも病型によっては好結果を示 すものがあるとし、ぅ21)ただし頼粒球数の低下を きたすことがあり,使用には血液学的検査が必要 となる.
1 1 1
水痘ー帯状ヘルベス水痘ー帯状へルベスウイルス(
v a r i c e l l a . h e r p e s z o s t e r v i r u s
,VZV
と略〉の感染による疾患は,初 感染が水痘であり,再発が帯状へルベスとなる. 眼科では三叉神経第1枝領域を侵す眼部帯状へル ベスと第2
枝にくるものとが問題となる.帯状へ ルベス( HZ
と略)の眼合併症は甚だ多彩である. まず水殖を形成する眼験炎, それに結膜炎,角膜 炎,強膜炎,ぶどう膜炎などは頻度が高い22) 網脈 絡膜炎,視神経炎, 眼筋麻癖などもまれに見られ る.これらの病像はHSV
によるものとよく似る こともあるが,また異なる特徴をもつものもある.1.ぶどう膜炎
通常前部ぶどう膜炎すなわち虹彩炎の形で起こ る.
HS
の場合,角膜から炎症が深部におよんで虹9
彩炎となるのと異なり,発病時から虹彩炎症状を 示す.豚脂様沈着物,前房への蛋白析出があり,
前房出血を起こすこともある.眼圧上昇もしばし ば起こる.発症1カ月後になると虹彩に脱色した 萎縮病巣があらわれる.瞳孔縁の病変によって瞳 孔括約筋が侵され,瞳孔の脱円,散大と反応消失 をみることも少なくない.
2 .
角膜炎角膜の病変は皮疹発生後数日して起こるが,ま れに皮疹があとになることもある.点状の上皮病 巣に次いで,角膜上皮下に小円形の浸潤性混濁を 多発することが多い.ときに円板状角膜炎を起こ すが,その形状からは単純へルベス
( HS )
と全く 区別がつかない.また上皮性病変がときに樹枝状 角膜炎の形をとることがある(写真3).古くからHZ
が樹枝状角膜炎を作るか否かが問題とされ,否とする説が強く,
HZ
の皮疹をもった患者に現 われる樹枝状角膜炎はHS
の混合感染によると の考えもあった.私達はHZ
も樹校状角膜炎を作 りうるが,その形はHS
と異る特徴を有し2),また 樹枝状を含め線状,点状などのHZ
のさいの上皮 性病巣局所にはV Z V
の活動があることを蛍光抗 体法直接法で示した23)米国でもその噴
HZ
の際の樹枝状角膜炎 が 報 告され,局所からの培養によるウイルスの存在と 病巣の形態的特徴が述べられた24) 私達の経験を もとにHS
とHZ
の樹枝状病変の差を求めると写真3 樹校状角膜炎(帯状ヘルベス性)
一139‑
10
表3 単純ヘノレベスと帯状へノレベスにおける樹枝状 病 巣 の 相 違
単 純 帯状ヘノレベス ヘノレベス
頻 度 経ど過必発中殆 時.におこる
病巣中央部の溝状陥凹 明 瞭 欠く.むしろ隆起する.
結分岐節部状,拡末大端部などの あ り 欠くか,あっても軽度 病巣への苔状物の附着 な し 時にあり
上皮内,上皮下の浸潤 あ り 欠くか,あっても軽度 地図状潰揚への移行 時にあり な し
ステロイドによる悪化 あ り 少がないが病巣の遷延化 ある
表
3
のようになる.HZ
の樹枝状病巣を特に偽樹 枝状Cpseudodendritic)またはmicrodendriticなどと呼ぶことがある.
水痘の眼合併症はやはり多彩であるが,患者の 数からみると頻度は低く,急性期に眼科を受診す る例はまれといえる.水痘擢患後数週ないし数カ 月して円板状角膜炎を起こすことがあるが,臨床 所見のみから
HS
によると考えられやすい.この ような例の経過中に前記のHZ
による樹校状の 特徴をもった病巣が出現し,水痘性と診断がつく 場合がある問.HZ
の円板状角膜炎も同様であり,この樹枝状病巣の出現によって
HZ
によると判 断することがある.このような場合,さらに確定 診断としての蛍光抗体法は極めて有用である.このような樹枝状病巣は発病初期から現われる こともあり, 上記のよ うな経過が遷延して生じた 円板状角膜炎や虹彩炎の上に合併することもあ る.後者の場合,ステロイド点眼は樹枝状角膜炎 の発生を助長するようにみえる.この点,
HSK
の さい,ステロイド点眼が角膜表層にHSV
を再活 性化させて上皮性病巣を作るのと類似している. しかし,このHZ
に生じた樹枝状病巣はステロイ ドをさらに使用した場合でも拡大傾向を示さず,HS
における地図状などに進展することはない.ステロイド使用下でも消退していくことが多い.
VZVによる樹枝状病巣の形態的特徴はpath‑ ognomonicであり,これにより皮疹の分布が定型 的でない場合の眼病変を
HS
から鑑別して診断することができる.また皮疹を欠く眼の
HZ
も時 に あ る こ と を 知 り う る26) 皮 疹 の な いHZ
は herpes zoster sine herpeteとして知られるが,眼 科領域でも確かに存在する.従来原因不明とされ た眼疾患の一部にはこのようなものがあるはずで あり,今後注意する必要がある.I V
サイトメガロウイルスサ イ ト メ ガ ロ ウ イ ル ス Ccytomegalovirus, CMVと略)は母体から胎児に垂直感染し,先天的 CMV症を起こすことでよ く知られる.唾液腺な どに存在することが多く,唾液腺ウイルスと呼ば れることもある.CMVの 感 染 で 起 こ る 疾 患 を cytomegalic inclusion disease CCIDと略〉とし、 う.眼症状としては網脈絡膜炎が主であり,経過 後に眼底に萎縮巣を残す.
近年,成人CMV網膜炎の報告例が増して来て いる.本邦では稀であったが散見するようになっ た27)免疫抑制状態にある患者が大部分であるが,
特に腎移植に当ってステロイドなど免疫抑制剤を 使用しているものに起こっている.所見としては 前眼部に角膜裏面沈着物,前房蓄膿などをみるこ ともあるが,眼底変化が主である.眼底には移出 性の白斑が散在して,これが融合してくる.血管 が白鞘を形成し,網膜動静脈が見え隠れする.惨 出物の中央に灰白色の壊死部が生ずる.出血斑が 散在し,硝子体出血,網膜剥離を起こすこともあ る.病巣は徐々に吸収し,広範な網脈絡膜萎縮を
写真4 マ ウ ス の サ イ ト メ ガ ロ ウ イ ル ス に よ る 限 内 炎.ウイノレスを前房内に接種した場合,脈絡膜に広 くウイルス抗原が認められる(蛍光抗体法直接法).
残す.
以 上 の 眼 底 と 同 様 の 所 見 が 小 児 で の
HSV
感 染,また水痘,成人でのHZ
においてまれに見ら れることがある.同じへノレベス科ウイルスとして,起こる病変に共通性があるためであろう.
CMV
は種特異性が強く,動物でのモデル実験 が で き な い . し か し マ ウ ス のCMV (MCMV
と 略〉というものがあり, これを用いると,ある程 度ヒトのCID
のモデルとなることが予想される.私達は
MCMV
をマウス前房に接種して,蛍光抗 体法でウイルス抗体を追跡してみた28) 接種2週 までには虹彩,脈絡膜など主としてぶどう膜にウ イルスの増殖があり(写真4),強膜,眼筋,涙腺 等にも抗原が証明される.この急性期を過ぎると 顎下腺,涙腺など腺組織に抗原が存在するように なる.角膜に病原性がほとんど見られなかったの は,臨床例にもCMV
の角膜炎が知られないこと と一致している.今後この実験系において,ウイ ルスの潜在場所,活性化の機序などが追究できると考えられる.
V
結 語単純へルペス,水痘一帯状へルペス,サイトメ ガロの
3
種のウイルスによる眼疾患について述べ 7こ単純へルペス角膜炎では,表層型に比して視機 能障害をきたす重篤な実質型が増している.Ara‑
A, Acyc1ovir,
BVDU
,インターフエロンなどの新 しい抗ヘルペス剤が出現しているが,実質型に有 効な治療法はまだ確立されていない.単純へルペ ス眼症の場合, ウイルスの潜伏場所は三叉神経節 とされているが,家兎角膜へノレベスの実験で,三 叉神経節のウイノレス保有神経節細胞の比率を知ることヵ:で、き
T
こ.眼 部 帯 状 へ ル ペ ス は 多 彩 な 眼 合 併 症 を お こ す が,虹彩毛様体炎が著明である.また角膜炎は単 純へノレペスのそれと酷似する.皮疹が非典型的で あったり欠けたりすると診断が困難であるが,こ のような場合,樹枝状角膜炎の病変の形態は特徴 的であり,これによって診断可能な場合がある.
また病因的診断に病変部擦過物の蛍光抗体法によ る検査は有用である.
11 サイトメガロウイルス網脈絡膜炎の報告は増し つつある.マウスサイトメガロウイルスでマウス 眼に病変を作ることができ,これがヒトのサイト
メガロ症の研究にモデ、ルになりうる可能性を示し た
本論文中の一部の研究は昭和58年度武田科学振興 財団研究奨励金による援助を受けた.記して謝意、を表 する.
文 献
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10)塩 田 洋 ・ ほ か :Trifluorothymidineおよび adenine arabinosideによる角膜ヘノレベスの治療
成 績 . 臨 床 眼 科 33145‑150 (1979)
11) Pavan‑Langston, D., et al.: Acyclic antime‑ tabolite therapy of experimental herpes sim‑ plex keratitis. A m J Ophthalmol 86 618‑623 (1978)
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