博 士 ( 歯 学 ) 李 虹
学 位 論 文 題 名
リ コ ン ビ ナ ン ト ヒ トBMP−2と 多 孔 性 ヒ ド ロ キ シ ア パ タ イ ト 複 合 体 の 抜 歯 窩 内 骨 形 成 に 与 え る 影 響
学位論文内容の要旨
[目的]
本研究は,歯の喪失後に生じる歯槽骨吸収を防ぎ,その形態と機能を保持する方 法 を 研 究 開 発 す る 目 的で , ウサギ の小 臼歯 を抜 歯し, 多孔 性顆 粒状ア パタ イト
(PPHAP)を担体としてrhB MP−2と組み合わせて,抜歯窩に移植実験を行い,抜歯 窩内骨形成に与える影響を病理組織学的に観察するとどもに,骨形成について組織 計測学的観察を行った.
[材料と方法]
実験 動物は ,日 本家 兎( 雄性, 体重2.5 kg前後 )9羽 を用い た. 移植 材料は,
rhB MP−2は山之内製薬会社より提供を受けたものを用いた.担体として多孔性顆粒 状アパタイト(PPHAP)は,日本製鋼所室蘭研究所より提供を受けたものを用いた.
PPHAPは, 焼成温度1200℃,粒径0.3 ‑‑0.5mm,内部貫通性気孔があり(気孔径100
〜 200メm,平均気孔径150バm,気孔率70ワ。),非吸収性,球状型で,使用前に洗 浄後乾熱滅菌(160℃,30分)して用いた.実験部位は小臼歯とし,Pentobarbital Sodium (0.5mg/kg)の静脈麻酔および2%塩酸リドカインによる局所麻酔併用下に て,周囲軟組織,歯槽骨にできるだけ損傷を加えないように十分注意して小臼歯を 2本抜 去し た(N=18). 実験 群の分 類は ,3群に 分け ,非 移植群 は抜 歯後 何も移植 せ ず ,PPHAP単 独 群 はPPHAP200mgにPB S160,ul滴 下し て , 移植 した.th BMP− ―460―
2/PPHAP群 はPPHAP200 mgに,thBMP‑2/PBSの混合溶液 ]60ル1(thBMP−2:50メg 含有 )を滴下含 浸して,移 植した.移 植後,各群とも創□を縫合し,2週目および 4週目に屠殺 した.観察 方法は,1)病理組 織学的観察 は屠殺後た だちに顎骨を摘 出し,10%中性ホルマリンにて固定後,Plank―Rychlo法で脱灰後,通法に従いバラ フイ ン包埋し, 近遠心的に6〃mで連続切片 を作成し, ヘマトキシ リン・工オジン 重染 色とァザン ・マ口リー 染色を施し ,光顕下で病理組織学的観察を行った.2) 組織 計測学的観察は上記の方法で作成した病理組織標本から抜歯窩の中央部の標本 を18メm間隔で5枚抽出 した.各標 本とも5倍拡大の顕微鏡写真を作製し,抜歯窩の 新生 骨組織の面積をPIAS,LA−525(PIAS社製)を用いて計測し,各部位の総面積で 除して新生骨量(%)を求めた.各計測値の統計学的分析には,S tudent`st‑test検 定を用いた.
[結果]
1.病理組織学的所見
1)非移植群 :抜歯後2週では, 新生骨は, 抜歯窩の窩 底と窩壁よ り抜歯窩の中 央に 向けて形成された.窩口部では,新生骨がみられず,線維性結合組織が満たさ れた .中央部の中心部には新生骨はみられず結合組織がほとんどであった.窩底部 では ,新生骨の 形成がさか んで著しい 骨形成がみられた.4週では,新生骨は抜歯 窩の 約2/3の高 さに達して いた.新生 骨の大部分は骨改造機転を受け,層板状構造 を呈していた.窩□部の中心部では、新生骨が形成されず窩底側に向かって陥凹し,
窩壁 両側既存骨頂部の骨が吸収されているのが認められた,中央部と窩底部では,
新生骨梁は改造され厚みを減じ,骨髄が多くなった.
2)PPHAP単独 群 :移 植後2週では, 新生骨の形 成が抜歯窩 の窩底部と 窩壁から 少 量み ら れ た. 窩 口部 ではPPHAPが多量に 存在したが ,骨の形成 はほとんど 認め られ なかったが .窩口部の 陥凹はなか った.4週では,新 生骨が2週より増加する ‑ 461―
が みら れ た, そ の新 生 骨の 一 部はHAP顆 粒 の表 面 に接 し てい た ,ごく 一部のH AP顆 粒 の 気 孔 内 外 に 新 生 骨 の形 成 が みら れ たが , 抜歯 窩 の中 心 部に はHAPが 多量に残存しており新生骨の形成はきわめて少ない傾向を示した。
3)rhBMP‑2/PPHAP群 :移 植 後2週 では , 抜歯 窩 のほ ぼ 全 域に , 新生 骨 が形 成 された. 窩□部では ,HAPをと り囲むよう に新生骨が多量に形成されており,抜 歯窩の陥凹 は観察され なかった.中央部と窩底では,新生骨のはさかんで形成さ れた .4週後 では、新生骨の幅と量は非移植群とPPHAP単独群より著しく多くなっ た .窩□部で は,緻密な 新生骨がPPHAP顆粒よりもさらに表層の歯肉上皮直下ま でみられ,盛り上っている状態となっており,歯槽骨頂の吸収は見られなかった.
なお窩底部で.は骨の改造現象により層板状骨がみられたが,骨髄組織は少なかっ た.
2.組織計測学的所見
抜歯 窩の新 生骨量は、 各群間で比 較すると,thBMP‑ 2/PPHAP群 が非移植群 と PPH AP単独 群 に比 べ てに 多 く, と くに 術 後4週 では 非 移 植群 に 危険 率1%で,
PPHAP単独 群 に危 険 率5% で有 意 差が 認 めら れ た, 同 群 間で2週と4週を 比較す ると ,rhB MP‑ 2/PPHAP群 とPPHAP単独 群とも,2週から4週にかけ て新生骨量 が 大幅 に 増加 し ,各 々 の危 険 率5% で有意差が 認められた .非移植群 は2週 から4 週にかけて新生骨の増加は少なく,有意差が認められなかった.
[考察]
非移植群で は,新生骨 が抜歯窩底部および窩壁から形成されたが,窩□部の中 心部 で はほ と んど 骨 形成 が みら れず線 維性結合組 織で満たさ れ,窩□中 心部は窩 底側 に 向か っ て陥 凹 し, 新 生骨 が窩口 頂部まで形 成されず, さらに窩底 部には骨 改造が出現され,歯槽骨頂は吸収されて歯槽骨の本来の高さは減少すると考えられた.
PPHAP単独群では,非移植群と同様に新生骨の形成が抜歯窩底部および窩壁か ら形成され,抜歯窩の中心部では新生骨の形成が少なくなかった.PPHAP単独を用 いた時,生体親和性が良く,骨伝導性があるが,骨誘導能,骨形成能はないので,
主に母床骨組織から骨組織がアパタイト顆粒の周囲に増殖侵入する方式で骨欠損を 修復するのみであり,骨形成の速度が遅く,窩口中心部の顆粒は骨が伝導されてく る前に歯肉結合組織由来の軟組織に被覆されてしまぃ,窩口部ではむしろ新生骨が 窩ロ頂部まで形成されるのを阻害する可能性が高いと考えられた,アパタイト単独 移植の場合は,抜歯窩の修復と骨形成の効果が不十分で,抜歯後の歯槽骨(顎堤)
の保持の効果が得られないと思われた.
th BMP−2/H AP群では窩底部と窩側壁の母床骨から新生骨形成が生じるのみでな く,中央部およぴ窩□部で母床骨からかなり離れた部位でも,新生骨の形成が早期 に生じ,抜歯窩全体に新生骨が多量に認められた,4週後には新生骨の幅と量は非 移植群とPPHAP単独群より著しく多くなった.とくに窩□部では緻密な新生骨が歯 肉直下までみられ,盛り上っている状態となっており,歯槽骨頂の吸収は見られな かった。これはthBMP‐2による骨誘導形成の効果であると考えられる,thBMP ‑ 2/PPHAP複合体は,抜歯窩全体にわたり骨を誘導形成し,本来の歯槽骨の高さを保 持 さ せ , 抜 歯 後 の 歯 槽 骨 吸 収 を 防 止 す る 可 能 性 が 高 い と 考 え ら れ た ,
[結論]
rhB MP‑2胆PHAP複合体の抜歯窩内移植は,抜歯窩の窩□部の新生骨の形成をうな がし,辺縁骨頂部の吸収を防ぎ,歯槽堤の形態を保持する方法として有効であるこ とが示唆された.
学 位 論 文 審 査 の 要 旨
学 位 論 文 題 名
リコンビナントヒト
BMP
―2と多孔性ヒドロキシアパタイト 複合体の抜歯窩内骨形成に与える影響本研究は,歯の喪失後に生じる歯槽骨吸収を防ぎ,その形態と機能を保 持する方法を研究開発する目的で,多孔性穎粒状アパタイト(
PPHAP
)を 担体としてrhB MP
−2と組み合わせて,抜歯窩に移植実験を行い,抜歯窩内 の骨形成を病理組織学的観察を行った.実験動物は,日本家兎9羽を用い,実験部位は小臼歯とした(N =18).
移植材料は,thBMPー2は山之内製薬会社より提供を受けたものを用いた.
担体と して多 孔性顆 粒状アパタイト(
PPHAP
)は,日本製鋼所室蘭研究 所より提供を受けたものを用いた.実験群の分類は,3群に分け,非移植 群は 抜 歯 後 何 も移 植 せ ず ,PPHAP
単 独群はPPHAP2 00
醜にPBS160
ル1滴 下して ,移植 した.thBMP
−2/PPHAP群はPPHAP2 00 mg
に,thBMP−2/PBS
の混合溶液160
メ1(th BMP‐2
:50pg含有)を滴下含浸して,移植し た.移植後,各群とも創口を縫合し,2週目および4
週目に屠殺した.屠 殺後ただちには顎骨を摘出し,固定,脱灰,包埋し,近遠心的に6メmで 連続切片を作成し,HーE重染色とアザン・マ口リー染色を施し,光顕下 で病理組織学的観察を行ったと共に抜歯窩の中央部の標本を18メm間隔で5
枚抽出し,各標本とも5
倍拡大の顕微鏡写真を作製し,抜歯窩の新生骨組徳
熈
男
芳
隆
木
藤
後
保
久
加
向
授
授
授
教
教
教
査
査
査
主
副
副
織の面積をPIAS,LA‑ 525(PIAS社製)を用いて計測し,各部位の総面積で 除 し て 新 生 骨 量 ( % ) を 求 め た . 各 計 測 値 の 統 計 学 的 分 析 に は , 新生骨量(%)を 求めた.各計測値の統計学的分析には,Student'st―
test
検定を用いた.病理組織学的に観察した結果では,非移植詳の新生骨は,抜歯窩の窩底 と窩壁より抜歯窩の中央に向けて形成され,窩□部の中心部では、新生骨 が形成されず窩底側に向かって陥凹し,窩壁両側既存骨頂部の骨が吸収さ れているのが認め、られ,中央部と窩底部では,新生骨梁は改造され厚みを 減じ,骨髄が多<なった.
PPH AP
単独群は,新生骨の形成が抜歯窩の窩 底部と窩壁からみ られ,その新生骨 の一部はHAP
穎粒 の表面に接してい た,ごく一部のHAP
顆粒の気孔内外 に新生骨の形成が みられたが,抜歯 窩の中心部にはHAP
が多量に残存し ており新生骨の形 成はきわめて少な い傾向を示した。r hB MP
ー2
/PPHAP群は,抜歯窩のほぽ全域に,新生骨が形成され,新生 骨の幅と量は非移 植群とPPHAP
単独群よ り著しく多くなった.窩□部で は,緻密な新生骨 がPPHAP
穎粒よりもさ らに表層の歯肉上皮直下までみ られ,盛り上っている状態となっており,歯槽骨頂の吸収は見られなかっ た.窩底部では骨の改造現象により層板状骨がみられたが,骨髄組織は少 なかった.組 織計測学的所見では,抜歯窩の新生骨量は、各群間で比較すると,
th BMP
−2
/PPHAP群が非移 植群とPPHAP
単独群 に比べてに多く,とくに 術後4
週 で は非 移植 群 に危 険率1
%で ,PPH AP
単独 群に 危険 率5
%で有 意差が認められた .同群間で2
週と4週を比較すると,rhB MP
−2
/PPHAP 群とPPHAP
単独群と も,2週から4
週にかけて 新生骨量が大幅に増加し,各々の危険率
5
%で有意差が認 められた.非移植 群は2
週から4週にかけ て 新 生 骨 の 増 加 は 少 な く , 有 意 差 が 認 め ら れ な か っ た .以上 結 果よ り ,非 移 植群 では ,4週 まで に抜 歯 窩□ 部 と中 央 部で は ,新 生 骨 が窩 □ 頂部 まで 形 成さ れ ず, さ らに窩底部に は骨改造が出 現され,歯 槽 骨 の本 来 の高 さは 減 少す る と考 え られ た .PPHAP単 独群 で は, 骨 形成 の 速 度 が遅 〈 ,窩 □中 心 部の 顆 粒は 骨 が伝導されて くる前に歯肉 結合組織由 来 の 軟組 織 に被 覆さ れ てし ま い, 窩 口部ではむし ろ新生骨が窩 口頂部まで 形 成されるのを阻 害する可能性 が高いと考え られた. rhB MP‑2/HAP群で は , 窩底 部 と窩 側壁 の 母床 骨 から 新 生骨形成が生 じるのみでな く,抜歯窩 口 部 で母 床 骨か らか な り離 れ た部 位 でも,新生骨 の形成が早期 に生じ,抜 歯 窩 全体 に 新生 骨が 多 量に 認 めら れ た.とくに窩 □部では緻密 な新生骨が 歯 肉 直下 ま でみ られ , 盛り 上 って い る状態となっ ており,歯槽 骨頂の吸収 は 見ら れなかった, これはrhB MP−2による骨 誘導形成の効果 であると考え られる. rhB MP−2/PPHAP複合体は,抜歯窩全体にわたり骨を誘導形成し,
本 来 の歯 槽 骨の 高さ を 保持 さ せ, 抜 歯後の歯槽骨 吸収を防止す る可能性が 高いと考えられた.
論文 の 審査 は ,審 査 員全 員に よ り口 頭で行われた後 ,主査久保木 芳徳教 授 に よる 論 述試 験が 行 なわ れ た. 口 頭試問では論 文提出者によ る要旨の説 明 の 後, 論 文の 内容 お よび 関 連知 識 について質問 がなされたが ,いずれに 質 問 にも ほ ぼ満 足す べ き回 答 が得 ら れた.論述試 験においても 概ね的確な 解答がなされた.
本研 究 は歯 の 喪失 後 に生 じる 歯 槽骨 吸収を防ぎ,そ の形態と機能 を保持 す る目 的で,多孔性 穎粒状アパタイ トを担体とし てth BMP―2と組み合わせ て , 抜歯 窩 に移 植実 験 を行 い ,抜 歯 窩内骨形成に 与える影響に ついて,病 理 組 織学 的 観察 に加 え て組 織 計測 学 的な手法を駆 使して詳細に 検討してお り , その 成 果は 臨床 的 に歯 の 喪失 後 に生じる歯槽 骨吸収を防ぎ ,歯槽骨の 形態と機能を保持するために重要な方法が示唆された.
本研 究 業績 は ,歯 科 基礎 医学 の 分野 はもとより,歯 科臨床医学な ど広く ―466―
関連領域にも裨益するところ大であり,博士(歯学)の学位を授与するに 価するものと認定した.