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飽和プール沸騰の伝熱機構に関する研究 学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 工 学 ) 坂 下 弘 人

     学位論文題名

飽和プール沸騰の伝熱機構に関する研究 学位論文内容の要旨

  沸騰伝熱は、火力発電所や各種化学プラント、高集積素子の冷却など広範な工学分野で利用 されており、原子炉の設計や安全性評価に当たっても重要な伝熱過程である。また、今後は新 型原子炉や核融合炉、超伝導マグネットの冷却、宇宙プラントヘの応用など最先端工学分野へ の適用が考えられている。

  沸騰伝熱に関しては過去に膨大な研究が行われており、緊急を要する工学的諸問題にっいて はそれまでに培われた経験則によって対処してきた。しかし、今日に至るまで沸騰伝熱の基本 的な機構の多くは未解決のまま残されており、学問としても十分に洗練された体系とはなって いない。今後の沸騰研究の理論面での発展を促し、沸騰が学問体系として望ましい発展を遂げ るためには、沸騰の基本的な諸問題について物理的かつ実験事実と矛盾のない理論モデルを構 築することが不可欠である。

  沸騰を伝熱面周囲の液の温度や流れの状態によって分類すると、飽和プール沸騰、サブクー ルプール沸騰、飽和強制流動沸騰、サブクール強制流動沸騰に大別される。これらの沸騰は、

低熱流束域では液のサブクール度や流れによってそれぞれ異なる特徴を示す。しかし、熱流束 が高く十分に発達した核沸騰域から限界熱流束点を経て遷移沸騰域にかけては、飽和プール沸 騰とその他の沸騰は極めて類似した沸騰伝熱特性を示す。したがって、上記4種類の沸騰現象 を理解するためにtま、その基本となる飽和プール沸騰についての十分な知見が必要である。

  本研究は、各種沸騰形態の基本である飽和プール沸騰において未解決の問題、すなわち「核 沸騰における伝熱機構」、「マクロ液膜形成機構」、「遷移沸騰域の伝熱機構」、「垂直面の 限界熱流束機構」について、物理的により妥当な理論モデルを提案し、これらのモデルに基づ いて検討を行ったものである。本論文は、全6章より構成されている。各章の要旨は以下の通 りである。

  1章は 序論 であ り、 沸騰研究における本論文の位置 付けと各章の概要について述べた。

  2章では、核沸騰伝熱の相関式と核沸騰曲線の推算法にっいて検討した。核沸騰の伝熱は一 次気泡底部のミクロ液膜を通じての熱伝導が支配的であるとして、これに一次気泡の生長と離 脱による伝熱促進効果を加味したモデルを提案した。このモデルを定式化して、熱流束q、壁 面過熱度△Tm、発泡点密度n、気液の物性値より成る新しい核沸騰伝熱の相関式を導出した。

また、伝熱面上のキャビティの発泡は周囲気泡の生長速度と濡れ特性によって影響を受けると 考え、発泡点密n、壁面過熱度△Tsat,、伝熱面特性を表す定数、および気液の物性値より成る、

特定の伝熱面の発泡点密度を与える相関式を提案した。これらニつの相関式を組み合わせるこ     ‑ 158―

(2)

とに より核沸騰曲線の推算式を得た。この推算式は、大気圧以下の低圧域から臨界圧カまでの 広 範 な 条 件 で 測 定 さ れ た 既 存 の 沸 騰 曲 線 を 、 実 用 上 十 分 な 精 度 で 推 算 で き る 。   3章では、限界熱流束に関する マクロ液膜蒸発モデルを定式化するため、マクロ液膜の形成 機構 にっいて検討した。従来の液膜厚さの測定はプローブ法を用いて行われていたが、この方 法で は測定誤差が大きく、また測定は大気圧に限られていた。そこで、プローブ法に替わルマ クロ 液膜蒸発モデルより得られる熱収支の式を用いて限界熱流束と合体泡離脱頻度よルマク ロ液 膜厚さを決定する方法を提案した。この方法により、上向き面での限界熱流束点における 各種 液体の液膜厚さを0.03MPa〜0.5MPaの圧力範囲で求めた。また、既存の各種実験事実と 矛盾 しない液膜形成モデルとして、マクロ液膜は伝熱面上で発生した一次気泡が複数個接合し た二次気泡の接合によって形成されるとする新しいモデルを提案した。このモデルに基づぃて、

マク ロ液膜厚さと二次気泡径の比が気泡に働く各種のカの比の べき の積で与えられると近 似し てマクロ液膜厚さの相関式を導出した。この相関式は、液膜厚さのデータを既存の相関式 に比 べて非常に高い精度で整理することができる。次に、従来より不明であった中・高圧域に おけ るマクロ液膜蒸発モデルの妥当性を検討するため、伝熱面から複数個の合体泡が離脱する 場合 の合体泡離脱頻度の式を導出し、本研究で提案したマクロ液膜厚さの式とともに用いるこ とで 中・高圧域の限界熱流束予測式を導出した。この式は、各種液体の臨界圧カまでの限界熱 流束の実験データを高い精度で予測できることが分かった。

  4章では、遷移沸騰の伝熱機構 にっいて現在まで明らかになっていない疑問点にっいて検討 した 。周囲からの液進入を防ぐために前方にガラス板を設置した垂直面を用いて実験を行い、

高速 ビデオにより沸騰様相を観察した。その結果、伝熱面と合体泡の問には液膜が存在し、遷 移沸 騰域では合体泡離脱前に伝熱面が完全に乾く様子が観察された。これにより、遷移沸騰域 にお いても、限界熱流束点と同様にマクロ液膜蒸発モデルが成立することを明らかにした。次 いで 、3章の限界熱流束点の場合 と同様に、熱収支の式に基づぃて遷移沸騰域の時間平均熱流 束と 合体泡離脱頻度よルマクロ液膜厚さを決定し、遷移沸騰域のマクロ液膜厚さは限界熱流束 点に 対して提案したマクロ液膜厚さの式で良く整理できることを示した。この知見は、遷移沸 騰の 液膜形成機構を明らかにしただけではなく、プール沸騰の限界熱流束点を越える高熱流束 を実 現できる強制流動沸騰に対しても同一の液膜厚さの式を使える可能性を示唆している点 でも重要である。

  5章では、これまでに物理的に 妥当なモデルに基づく検討が行われていなかった、伝熱面が 重カ と平行の向きに設置された垂直面体系の限界熱流束に対して検討を行った。まず、既存の 実験 データが少ない垂直線と片側加熱面にっいて実験を行い、限界熱流束の特徴を把握した。

その結果に基づき、1)限界熱流束は、合体泡の下に形成されたマクロ液膜が合体泡が直径分だ け移動する問に乾くことで発生する、2)合体泡の二次運動は限界熱流束の発生を抑制するため、

線途 中での限界熱流束は合体泡の二次運動開始直前の位置で発生する、とする限界熱流束モデ ルを 提案した。気泡の運動を解析しマクロ液膜厚さに3章で提案した式を用いてモデルを定式 化し 、各種垂直面の限界熱流束予測式を導いた。これらの予測式は、本実験および既存の実験 で得 られた限界熱流束データを良い精度で予測できることを示した。以上の結果より、垂直面 体 系の 限 界熱 流束 が液 膜蒸 発モ デル によ って 統一 的に 説明 でき る こと を明らかにした。

  6章 は 結 論 で あ り 、 本 論 文 で 得 ら れ た 新 た な 知 見 に っ い て 総 括 し て い る 。     ―159―

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学位論文審査の要旨

主査  教 授  熊田 俊明 副査  教 授  日野 友明 副査  教 授  粥川 尚之 副査  教 授  工藤 一彦

副査  教 .授  飯田嘉宏(横浜国立大学大学院工 学研究科)

     学位論文題名

飽和プール沸騰の伝熱機構に関する研究

  沸 騰伝 熱は 、火 カ発 電所や各種化学プラント、高集積素子の 冷却など広範な工学分野で利 用さ れて おり 、原 子炉 の設計や安全性評価に当たっても重要な 伝熱過程である。また、最近 は新 型原 子炉 や核 融合 炉、超伝導マグネットの冷却、宇宙プラ ントなどの分野で、より高い 熱流 束で の利 用が 考え られている。しかし、沸騰伝熱の機構に ついては、各種の沸騰の基本 と な る 飽 和 プ ー ル 沸 騰 伝 熱 の 分 野 に お いて も多 くの 未解 決 の研 究課 題が 残さ れて いる 。   本 論文 は、 飽和 プー ル沸騰における伝熱機構の解明とその定 式化に関する研究成果につい て述べている。

  1章は、本研究の背景 と目的およぴ構成について述べている。

  2章では、核沸騰伝熱 の相関式と核沸騰曲線の推算法を提案している。核沸騰 の伝熱では、

液を 通じ ての 熱伝 導が 支配的であるとして、一次気泡径に比例 する熱伝導層を考え、一次気 泡の 生長 と離 脱に よる 伝熱促進効果を加味したモデルを構成し ている。このモデルを定式化 して 、熱 流束q、 壁 面過熱度△Tsat、発泡点密度n、気液の物性 値よりなる新しい核沸騰伝熱 の相 関式 を導 出し てい る。この相関式を用いることにより、大 気圧以下の低圧域から臨界圧 カま での 広範 な条 件で 測定された既存の沸騰曲線を、実用上十 分な精度で推算できることを 示している。

  3章では、限界熱流束 に関するマクロ液膜蒸発モデルを定式化するため、マク ロ.液膜の形 成機 構に つい て検 討し ている。熱収支の式に基づいて、限界熱 流束と合体泡離脱頻度よルマ クロ 液膜 厚さ を求 める 新しい方法により、上向き面での限界熱 流束点における各種液体のマ クロ液膜厚さを、0.03MP a'‑'O.5MPaの圧力範囲で測定している。この測定結果に基づき、既 存の 各種 実験 事実 と矛 盾しないマクロ液膜形成モデルとして、 マクロ液膜は伝熱面上の一次 気泡 が複 数個 接合 した 二次気泡の接合によって形成される新し いモデルを提案している。こ のモデルに基づいて、マクロ液膜厚さと二次気泡径 の比が気泡に働く各種のカの比の ぺき の積 で与 えら れる と近 似して、マクロ液膜厚さの相関式を導出 している。この相関式は、マ ク ロ 液 膜 厚 さ の 測 定 値 を 既 存 の 相 関 式 に 比 べ て よ り 高 い 精 度 で 整 理 で き る 。   4章で は、 遷移 沸 騰の 伝熱 機構 につ いて 詳細 に検討している 。周囲からの液進入を防ぐた めに 前方 にガ ラス 板を 設置した垂直面を用いて実験を行い、高 速ピデオにより沸騰様相を観     ‑ 160―

(4)

察している。この観察によって、遷移沸騰域においても限界熱流束点と同様にマクロ液膜蒸 発モデルが成立することを明らかにしている。次いで、3章の限界熱流束の場合と同様に、

熱収支の式に基づいて遷移沸騰域の時間平均熱流束と合体泡離脱頻度よルマクロ液膜厚さを 決定し、遷移沸騰域のマクロ液膜厚さは3章で限界熱流束点に対して提案したマクロ液膜厚 さの式で良く整理できることを示している。

  5章では、これまで理論的検討がほとんどなされなかった伝熱面が重カと平行の向きに設 置された伝熱面体系について、限界熱流束の機構を明らかにして`、る。限界熱流束のモデル を提案し、これを定式化して各種垂直面の限界熱流東の予測式を導いている。これらの予測 式は、本実験およぴ既存の実験で得られた限界熱流束データを良い精度で予測できることを 示している。以上の結果より、垂直面体系の限界熱流束がマクロ液膜蒸発モデルによって統 一的に説明できることを明らかにしている。

  6章は、本論文で得られた結論をまとめている。

  以上のように本論文は、飽和プール沸騰の物理モデルを構築し、さらにモデルを定式化し て 実 験 結 果 を よ く 説 明 し て お り 、 沸 騰 伝 熱 の 進 歩に 寄 与 する と こ ろ大 で ある 。   よって、著者は、北海道大学博士(工学)の学位を授与される資格あるものと認める。

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参照

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