博 士 ( 理 学 ) 中 原 拓
学位論文題名
Computational design and experimental evaluation of glycosyltransferase mutants
(新規糖転移酵素の計算に基づく設計と実験による検証)
学位論文内容の要旨
こ の10年間 で生 物学の領 域にお けるバ イオイ ンフオ マティ クスの 地位は 確固たる ものと な っ た。伝 統的に バイオ インフ オマティ クスを 用いた 研究の対象となってきたのはタンパク質 も しくは 核酸で ある。 特にこ れらの配 列情報 はデジ タル化になじみやすいため、コンピュー タ とタン パク質 ・核酸 との相 性は良か った。 一方糖 鎖に目を転じると、糖鎖自身は遺伝物質 で はない 事や、 その合 成・解 析の困難 のため 構造情 報がタンパク質・核酸に比べて少ない事 な ど に 由 来 し て 、 糖 鎖 と コ ン ピ ュ ー タ と の 相 性 は そ れ ほ ど 良 い と は 言 え な か っ た 。 糖 鎖生物 学は長 い歴史 をもっ ているが 、生物 学にお ける主流は常にタンパク質もしくは核酸 を 対象と したも のであ った。 ところが 近年、 特に質 量分析技術の発展により、大量の糖鎖構 造 の情報 が得ら れるよ うにな った。ま た、タ ンパク 質と糖鎖の共結晶が大量に公共データベ ー スに登 録され た事に よって 、糖鎖の3次元構 造の情 報も豊 富に得 られる ようになった。こ の ような 近年の 糖鎖生 物学の 発展によ って、 糖鎖を 対象としたバイオインフオマティクス研 究が行える状況になった。
本 研究は、糖鎖を対象としたバイオインフォマティクスを確立する事を目標にし、はじめに、
現 在得ら れる糖 鎖の3次 元構造 情報を まとめる 事を行 った。 次に、 まとめ た糖鎖の立体構造 情 報を用いて糖一タンパク質問相互作用を評価する経験ポテンシャルを構築しした。最後に、
こ の経験 ポテン シヤル を用い て新しい 基質特 異性を 持つ糖鎖関連酵素をデザインし、実験的 にデザインした酵素の活性を評価した。
本 学位論 文の第1章で、 糖鎖生 物学と バイオイ ンフオ マティ クスに 関連す る現在の状況に関 して概説した。
第2章では 、糖鎖 の立体 構造を まとめ たデータ ベース の構築 に関し て記述 した。糖鎖の立体 構 造情報 はタン パク質 の立体 構造データベースであるThe Protein Data Bank (PDB)に大量に 含 まれて いる。 この研 究をは じめた当 初PDBに 含まれ ている糖 鎖の情 報をま とめたデータベ ー スが存 在しな かった ため、PDBの中か ら網羅 的に自 動で糖鎖 構造を 抽出す る事を行った。
getCARBOと命 名 し た プロ グ ラ ム によ ってPDB中の全 糖鎖構 造を抽 出し、 その化 学構造に 対 し てIU PAC勧告 に 従 っ たア ノ テ ー ショ ン を 施 した 。 ま た 、PDB中のN結 合型糖 鎖に大量 の ま ちがっ た構造 が見ら れたの で、この まちが いを自 動検出する機能もgetCARBOに実装した。
第3章では 、構築 したデ ←タベ ースに 含まれる 情報の 詳細に 付いて 概観し た。前章で記述し た糖鎖の立体構造データベースはGlycoconugateDataBank:Structures(GDB:Structures)と命名 ー217ー
した。GDB:Structuresには18、000を超える糖鎖構造が登録されていた。時系列にそった解析 を行ったところ、構造グノミクスによる糖鎖構造情報ーの貢献はほとんどない事と、まちが ったN結合型 糖鎖がPDBに登録 される 割合が減 ってい ない事な どが明 らかにをった。
第4章では、GDB:Structuresを活用した、糖―タンパク質相互作用を評価する経験ポテンシヤ ルの構築に関して記述した。この経験ポテンシヤルを用いる事で、所与の糖一タンパク質複合 体において、糖の水酸基の向きがエカトリアルである方が親和性が高いのか、アキシャルで ある方が親和性が高いのかを評価する事ができる。
第5章では、前章で記述した経験ポテンシャルを用いて異なった基質特異性を持つ糖転移酵 素をデザインし、その酵素活性を実験的に確かめた。変異体をデザインした酵素は、人のB 型の血液型抗原を合成する糖転移酵素(GTB)で、本来ガラクトースを転移する酵素である。
GTBの立体構造は既知なので、この酵素の変異体を分子モデリングし、その変具体構造とグ ルコースとの複合体が安定にできる候補を前述の経験ポテンシャルを用いて選出した。実際 にデザインしたタンパク質を大量発現させ酵素活性を調べた結果、グルコースを基質として 好む傾向が顕著に上昇した変異体(Ser185AsnとSer185Cys)を得る事ができた。グルコース転 移活性: ガラク トース転移活性の比率が、野生型を1とした時にSer185Asnでは27倍、
Ser185Cysでは217倍に上昇していた。
最後に第6章で、この研究の総括を行い、明らかになった問題点などに関して記述した。
‑ 218ー
学位論文審査の要旨
主 査 教 授 西 村 紳 一 郎 副 査 教 授 河 野 敬 一
副査 教授 田中 副査 助教授 姚
勲 閔
学位 論文題名
ComputationaldeSignandeXperimentaleValuationof glyCOSyltranSferaSemutantS
(新規糖転移酵素の計算に基づく設計と実験による検証)
近 年 、 糖鎖 生 物 学 と情 報 生 物 学( バ イオ インフ オマテ ィクス )は進展 目覚し い研究 分 野で あ る 。 これ ま で 、 糖鎖 生 物 学 では ゲ ノミク スに代表 される 大量の データ をハイ スル ープ ッ ト で 得る こ と が 困難 で あ っ た事 、 バイオ インフオ マティ クスが 核酸と タンパ ク質 を対 象 と す る学 問 で あ った 事 に よ り、 両 者が有 機的に連 携する 事が少 なかっ た。ご く最 近にな って、 糖鎖に 関しても 大量の データ が得ら れるよ うにな り、. 糖鎖生 物学において も バ イ オ イ ン フ オ マ テ ィ ク ス が 重 要 な 手 法 と し て 認 識 さ れ る よ う に な っ た 。 本 論 文 は、 糖 鎖 生 物学 と 情 報 生物 学 を 融 合研 究 の1つ の モデ ル を示し たもの である 。 著者 は 、 糖 鎖生 物 学 の 情報 に 対 し てバ イ オイン フオマテ ィクス 的な整 理を行 い、そ の情 報を も と に 新た な 機 能 を持 つ 酵 素 の設 計 ・実験 的検証を 行った 。この 研究は 、糖鎖 生物 学と 情 報 生 物学 の 融 合 によ っ て タ ンパ ク 質工学 、糖鎖工 学分野 にイン パクト を与え るも のであ った。
著 者 は 、タ ン パ ク 質の 立 体 構 造デ ー タベ ースで あるProtein Data Bank (PDB)中 に相 当数 の 糖 鎖 が含 ま れ て いる 事 を 発 見し 、 その立 体構造情 報を収 集、デ ータベ ース化 した (Glycoconjugate Data Bank/Structures)。PDBの 情 報 から 糖 鎖 の 構造 を 抽 出 する た め に独 自 の コ ンピ ュ ー タ プロ グ ラ ム コー ド を開発 した(getCARBO)。この プログラ ムは、 糖 鎖の 構 造 を 検出 し 、 そ の構 造 の 詳 細に つ いての アノテー ション を自動 付加す るもの であ る 。 ま た、PDB中 にN型 糖鎖 と し て 不適 切 な 立 体構 造 が 多 く含 ま れ て いる 事 を 明 らか に し、 こ れ を 判定 す る た めの プ ロ グ ラム コ ードの 開発もあ わせて 行い公 開した 。次に 、構 築し た 糖 鎖 構造 デ ー タ ベー ス を 活 用し 、 糖鎖周 辺のタン パク質 分子の 原子レ ベルで の分 布を モ デ ル 化し 、 糖 ― タン パ ク 質 相互 作 用を評 価する経 験的ル ールを 構築し た。こ れに よっ て 、 糖 一タ ン パ ク 質複 合 体 に おけ る 糖の水 酸基の向 きがア キシャ ル.エ カトリ アル どち ら の 方 が起 こ り や すい か を 評 価す る 方法を 見出した 。方法 に基づ ぃて著 者は、 本来 の 基 質 が ガ ラ ク ト ー ス で あ る 糖 転 移酵 素GTBに 対し て グ ル コー ス 転 移 活性 を 上 昇 させ るた め の 機 能改 変 を 行 った 。 結 果 、本 来 の基質 であるガ ラクト ースに 対する 転移活 性は 減 少 し 、 グ ル コ ー ス の 転 移 活 性 が 上 昇 し た 変 異 体 を 得 る 事 に 成 功 し た 。 本 学 位 論文 は 、 糖 鎖生 物 学 と 情報 生 物学 を融合 して得 られた 方法論に 基づき 、酵素 変 異体 の モ デ ル設 計 を 行 う事 に よ っ て、 こ れまで にない新 規な糖 鎖合成 酵素を 見出し た研 究を ま と め たも の で あ る。 タ ン パ ク質 工 学や糖 鎖工学に 対して 大きな 影響を 与える とと もに、 その発 展を加 速する研 究であ る。
よって 著者は 、北海 道大学 博士( 理学)の 学位を 授与さ れる資 格があ るもの と認める。
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