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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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(1)

博 士 ( 水 産 科 学 ) 庄 武  理

学 位 論 文 題 名

揚網綱機の緊急停止を考慮した 突発的非常時音声の識別に関する研究

学位論文内容の要旨

  多発する 沿岸小型漁船 での揚網綱機 の巻き込まれ事故に対して,これ を防止 する有効な安 全対策が強く要 望されている。しかしながら,現在 使用さ れている揚網 綱機の基本的構 造と使用方法を考慮すれぱ,機械作 動部に 安全用カバー などを設置する フール・プルーフ的な処置が困難で あり, 必然的にフェ ール・セーフ機 能を重視した安全対策を講じざるを 得ない 状況にある。 このフェール・ セーフを実現する緊急停止装置とし て,現 在までに,音声による2種類の機器システムが製品化されている。

  一っは,音声の音圧の閾値を用いて緊急停止させる装置,他のーっは,

音声認 識技術を用い て「とまれ」の 命令語を言語情報として認識して停 止させ るものである 。しかし,前者 は漁船に数台搭載されたものの,甲 板上で 生じる大きな 打撃音などとの 分別ができず,誤動作が頻発するこ とから 普及には至ら なかった。また ,後者は高価であることや,咽喉マ イクロ フオンを用い ることによる漁 労作業の障害,および無線方式であ ること による他船と の混信などがあ り,前機と同様に普及には至ってい ない。

  さらに, 音声認識を用 いた停止装置 開発に関する根本的課題として,

操作者 が突発的事故 状況に直面した 場合,通常の停止命令語である「と まれ」 を明瞭かつ瞬 時に発声できず ,咄嗟に他の「あっ」とか「あー」

などの 音声を発して しまう状況が考 慮されていない。既存の音声認識シ

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ステ ムのフェール・セーフ機能には,このような不十分な点が残されて おり,実用化に向けた障害となっていた。

  本 研究は,こうした社会的背景を踏まえ,作業者の突発的非常時にお ける 心理学的特徴を考慮しながら,音声認識による揚網綱機の緊急停止 装置 の設計に資する基礎資料を得ることに目的があり,突発的非常時に 高い 頻度で発声が予測される母音「あ」を機械停止の命令語として用い た 場 合 の 音 声 認 識 に 関 す る 広 範 な 検 討 を 行 っ た も の で あ る 。   突発的 非常 時にお ける 発声と 感情 ・意図 母音 「あ」 が揚 網綱機 使用 中の 巻き込まれ事故などの突発的非常時に発声されやすいこと,および 緊急 停止 の命令 語と して適 して いるこ とを検証するために,日本語5母 音 の 最 大 音 圧 の 測 定 実 験 を 行 っ て , そ の 特 徴 を 分 析 し た 。   この結 果, 男女と もに 大声の 音圧 は90か ら110 dBの 範囲 に分布 する こと が明らかとなり,男性の音声平均パワーは,5母音中「あ」98.7 dB で最 大となり,次いで「お」が97.3dBを示した。さらに,女性の「あ」

の 音 声 平均 パ ワ ー は93.OdBであ り , 全母 音につ いて 男性よ りも4dB程 度小 さいことも判明した。一方,突発的非常時の発声者の感情的心理的 傾向に着目すると,「驚き」や「恐怖」の切迫的感情を表現するための発 声は,「お」より「あ」の方が頻繁に用いられる。このため,本研究では 揚網 綱機使用中の巻き込まれに遭遇するような突発的非常時には,「驚 き」や「恐怖」といった切迫的感情が込められた発声である,母音「あ」

が発声される頻度が高いものと結論づけた。

  さらに,「あ」を停止の命令語として扱うことを前提とした場合,一般 的発 声に用いられる「あ」との識別を図る必要があるが,既往の研究で は一 般的音声「あ」に関する系統的な分類は見あたらない。このため,

本研 究では,突発的非常時の感情を「驚き十恐怖」の混合感情とし,誤 作 動を招 く原 因と考 えら れる母 音「 あ」を 含む 突発的 非常 時以外 の13 種類の感情・意図を新たに定義した。この分類法に基づき,「驚き十恐怖」

の母 音「 あ」を 緊急 停止を 要す るとき の発声とし,他ユ3種類の感情・

    ―1361―

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意図の母音「あ」と識別することとした。

  突発的非常時における「あ」の音響学的特徴パラメータの抽出突発 的非常時における発声「あ」と感情・意図の合理性が得られたことから,

「驚き十恐怖」の母音「あ」。を他13種類の感情・意図の母音「あ」から 識別できる音響学的特徴パラメータの抽出を試みた。発声被験者の模倣 による発声で得られた突発的非常時の「驚き十恐怖」と,他の各感情・

意図の「あ」のサンプル音声を聴取実験により評価し,感情がよく表出 されているサンプル音声のみに対して,ケプストラム法によるFO曲線 の抽出と解析を行なった。

  その結果,FO曲線の特徴パラメータであるSTART´AfAX´AレERAGE の閾値およびEND‐Sヱ強RTの正負によって突発的非常時の「あ」を識別 できることを明らかにした。それぞれの閾値は,声の高さの個人差の影 響を受けないよう各発声被験者の無感情のFO平均値を基準とした比で 表し,突発的非常時の「あ」はSTlARTが1.71以上M.AXが1.95以上 AVERAGEが1.73以上EN・D‐STARTがマイナスとなる結果となった。

この識別法においては時間的位置と他感情に対する網羅性からSTART が有効ぬパラメータであることも明らかにした。

  漁 船上騒音下でのF0抽出漁船操業中の騒音レベルと周波数特性を 調べ,その性質を明らかにした後,録音した漁船騒音と音声「あ」およ びカテゴリー1の「驚き」を含む混合感情の「あ」とをMIXした信号を 解析し,FO抽出が可能な音声と騒音レベルの比(S/N比)の値を求めた。

  2漁船の騒音レベルは,騒音の大きい漁船のエンジン騒音が92〜93dB, ウインチ作動中騒音が97〜98dB,騒音の小さい漁船のエンジン騒音が 85〜86dBであり,漁船毎に異なる結果を得た。また周波数特性に関して は,エンジンの回転数とクランク軸一回転あたりの燃焼回数に規定され る基本周波数とその倍音のピークからなる150Hz以下の低周波帯のス ペクトルによって特徴づけられることを明らかにした。またMIX信号の

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解析の結果,FO抽出が可能な,すなわち「驚き十恐怖」を識別できる S/N比 の値は ,STARTとMAXでは ,エンジン騒音に対し‑15 dB,ウイ ンチ作動中騒音に対し‑9dBであった。ENDでは,波形の局所的なS/N 比の検討が必要であるが,エンジン騒音では‑9dB以上の可能性もあり,

ウインチ作動中騒音では‑3dB以上となることも予測された。認識速度を 速めるのに有利なSTARTを重視し,騒音レベルが大きい側の騒音であ るウインチ作動中騒音から限界S/N比を定めるならば‐9dBが限界であ り,ウインチ作動中騒音の騒音レベル98dBを想定すると,単純な試算 で人間側が音声平均パワーで89dB以上の「あ」を発声する必要がある。

発声実験から得られた音声平均パワーの男声平均が98.7dBであったこ とを考慮すれば咽喉マイクロフォンや接話型マイクを使用しない緊急停 止 装 置 の 開 発 も 十 分 可 能 で あ る こ と が 明 ら か に を っ た 。   これらの結果から,騒音レベルより小さい音声レベルで突発的非常時

「あ」を識別できることが明らかとなり,騒音レベルより大きな閾値で 動作させる方式の欠点が解決できる。また「驚き十恐怖」の母音「あ」

を用いる識別方法は,漁船騒音環境下においても,突発的非常時の緊急 停 止 装 置 と し て 十 分 使 用 に 耐 え う る こ と が 明 ら か と な っ た 。   以上のように,本論文では,揚網綱機の巻き込まれ事故に遭遇した場 合に発声されるであろう突発的非常時の母音「あ」を識別して機械を緊 急停止させる装置の実用化に向けた課題および使用環境条件に対する指 針を明らかにしてきた。本研究の認識アルゴリズムは,低価格のハード ウェアや汎用ソフトウェアで利用できることから,装置開発の経済的コ ストの面からも十分実用に耐え得る機器システムとぬることが期待でき る。さらに認識後の揚網綱機の停止に要する遅延時間の発生も,瞬時動 作が可能な電磁|油圧クラッチなどの併用により,十分実用に耐え得る停 止速度を得ることができる。

  今後の研究課題として,騒音下における音声区間の検出方法の確立と

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検証が残されているが,これは音声認識などの専門分野においても困難 な課題とされていることから,関連分野を越えた協同的研究が必要であ ろう。

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学位論 文審査の要旨 主査

副査 副査 副査

教 授    教 授    助 教 授   助 教 授  

本 勝 昭 田 浩 二 上 隆 克 下 成 治

学 位 論 文 題 名

   揚 網 綱 機 の 緊 急 停 止 を 考 慮 し た 突発的 非常時音 声の識別に関する研究

  現 在 、 沿 岸 の 小 型 漁 船 で の 操 業 中 に お け る 揚 網 機 、 揚 綱 機 に よ る 巻 き 込 ま れ 事 故 が 多 発 し て お り 、 こ れ を 防 止 す る 有 効 な 安 全 対 策 が 強 く 要 望 さ れ て い る 。   一 般 に 機 械 の 安 全 対 策 と し て 、 ハ ー ド 的 に 組 み 込 む 機 構 や 装 置 と し て3っ が 考 え ら れ て い る 。 一 っ は 機 械 が 故 障 し た 場 合 、 暴 走 し て 事 故 や 災 害 に 結 び 付 く こ と な く 、 安 全 を 確 保 す る 機 構 を 組 み 込 む フ ェ ー ル ・ セ ー フ 装 置 、 ニ つ 目 は 異 常 や 故 障 が あ っ て 危 険 な 状 態 に な る よ う な 操 作 が と ら れ な い よ う に し た 装 置 で あ る イ ン タ ー ロ ッ ク 機 構 が あ る 。 三 つ 目 は 作 業 標 準 や 機 械 の 危 険 性 な ど を 良 く 理 解 し て い な く て も い か な る 誤 動 作 も 行 わ れ な い フ ー ル ・ プ ル ー フ 装 置 が あ る 。 フ ー ル ・ プ ル ー フ 装 置 と し て は 操 作 者 が 危 険 な 場 所 に 近 づ け な い よ う に す る 稼 働 部 へ の 安 全 カ バ ー の 設 置 や 遠 隔 操 作 装 置 が 用 い ら れ て い る 。

  巻 き 込 ま れ 事 故 を 未 然 に 防 止 す る た め に は 「 ヒ ヤ リ ‐ ハ ッ ト 」 の 過 程 、 ま た は 最 悪 で も 軽 傷 の 過 程 ま で に と ど め て お く こ と が 当 然 求 め ら れ て い る 。 し か し 、 小 型 漁 船 に 装 備 さ れ て い る 揚 網 綱 機 に つ い て の 巻 き 込 ま れ 防 止 の 安 全 対 策 は 最 も 安 全 性 の 高 い 安 全 カ バ ー に っ い て は 機 械 の 操 作 の 妨 げ に な る こ と 、 ま た 網 や 綱 の 巻 掛 け 操 作 を 頻 繁 に 行 う 必 要 が あ る こ と か ら 遠 隔 操 作 方 式 を 用 い る こ と は 難 し く 、 ハ ー ド 的 な 安 全 対 策 に 頼 ら ざ る を 得 な い の が 現 状 で あ る 。 揚 網 綱 機 の 回 転 体 へ の 巻 き 込 ま れ 、 挟 ま れ の 安 全 対 策 が 遅 れ て い る 現 状 に お い て 、 危 険 が 決 定 的 状 態 に 至 る 前 に 機 械 を 停 止 さ せ る 緊 急 停 止 装 置 と し て は セ ン サ ー に よ る 自 動 停 止 装 置 の 導 入 は 難 し く 、 人 間 の 視 覚 に よ っ て 危 険 を 感 知 し 、 人 間 が 指 令 を 与 え る フ ッ ト ス イ ッ チ や 音 声 認 識 に よ る 方 法 が 開 発 さ れ て い る が 、 十 分 普 及 す る ま で に は 至 っ て い な い 。

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  本研 究で は作 業者 が突発 的非 常時 におい て、 高い 頻度 で発声 する こと が予 想さ れる 母 音 「 あ 」 を 機 械 の 緊 急自 動停 止用命 令音 声と して 注目し 、日 本語5母 音に っいて 最大 音圧 の測 定を行 った 。ま た、一 般的 な感 情・ 意図で 発声 する 「あ 」と 突発的 非常 時に 「恐 怖と驚 き」 の感 情で発 声す る「 あ」 とを識 別す るた めに ケプ ストラ ム法 によ るFO曲線の解析をし、音響学的特徴パラメータとしてSTART、MAX AERAGESTARTENDの 抽 出 を行 った 。そし て、 これ らを 識別す るた めに はSTART が最も 有効 的を パラ メータ であ るこ とを見 い出 した 。ま た、漁 船の 操業 中に おけ る騒音 レベ ルと 周波 数特性 を調 べ、 その特 徴を 解明 した 。さら に、 この 漁船 の騒 音と「 驚き 十恐 怖」 の混合 感情 とし て発声 する 「あ 」を 混合し た音 声を 作り 、FO の抽 出 可 能 な 「 あ 」 の 音 声 と騒 音レ ベルの 比(S/N比) を求 め、 事故遭 遇時 に発 声する 母音 「あ 」が最も有効的な命令音声として使用できることを明らかにした。

特に審査員一同が高く評価した点は以下の通りである。

1) 突発的 非常 時に おい て「驚 き十 恐怖 」の切 迫的 感情 を高 い頻度 で発声される     こ と が 予 想 さ れ る 母 音 「 あ 」 を 機 械 停 止 の 命 令 音 声 と 注 目 し た 点 。 2FO曲 線 の 特 徴 パ ラ メ ー タ で あ るSTARTMAXAVERAGEの 閾 値 お よ びSTART     ‑ ENDの正負によって突発的非常時に発する「あ」と感情・意図で発する「あ」

    と を識 別でき るこ とを 明ら かにし 、STARTが最 も有 効的 なパラ メータである     ことを指摘した点。

3) 漁船の 操業 中の 騒音 環境下 にお いて 、突発 的非 常時 に発 する「 あ」は緊急停     止 の た め に 発 す る 命 令 音 声 と し て 十 分 使 用 で き る こ と を 見 出 し た 点 。 4) 騒 音 レ ベ ル が 大 き いウ インチ 作動 中に おける 騒音 から 識別 可能を 限界S/N     を試算し、―9 dB程度になることを指摘した点。

  以 上の成 果は 、突 発的 非常時 に発 する 音声 「あ」を認識することによる揚網綱 機の緊急停止装置の設計に資する基礎的資料を得たものであり、高く評価できる。

よっ て審査 員一 同は 、本 論文が 博士 (水 産科 学)の学位論文として価値あるもの と判定した。

参照

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