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有する機能のなかで大きな位置を占めるのが 人間の生命活動を支える食料供給機能である その意味では 農業は人間の生命活動を支える生命産業ともいえる ここで重要なことは 農業生産の特殊性を理解することである 第 1 に 農業生産は自然に依存した生産活動であり 自然活用産業としての性格を持ってい る つま

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食のグローバル化と安全確保

樫 原 正 澄

大阪大都市圏地域経済研究班主幹 経済学部教授

はじめに

 1980 年以降における新自由主義の激流のなかで、規制緩和の推進、市場化の優先によって、 農産物貿易は自由貿易体制に向かって進んできた。こうしたグローバル化の進展のなかで、現 代の食生活は国際的関係に大きな影響を受けるようになっている。とりわけ、日本のように食 料自給率の低い国は、食のグローバル化と食の安全は切り離せない関係となっている。  ネッスル(M. Nestle)は、食の安全に関して、「食の安全は政治的である」1)と、述べており、 食の安全・安心の問題を分析する際には、社会的関係として分析しなければならないことを指 摘している。そして、食品安全政策に関して、「……国内の食品安全は、多くの政治問題と同じ く、国際的視点抜きには語れないことを、ここに改めて記しておきたい。輸入食品の安全性は、 貿易相手国が定める品質基準だけでなく、食品流通にはさほど影響がないと思われるような国 際的判断にも左右される。従って、非関税障壁に関する規則を制定する際には、健康と安全を 最優先するよう、貿易問題に対処する国連機関(コーデックス委員会と、第Ⅱ部で詳述する世 界貿易機関)に強く求めていくことも、重要であると言わねばならない」と、述べている2)  そこで本論では、人間が生きていく上で必要不可欠な食の問題について、食のグローバル化 と安全確保について考察することにしたい。

1  農業生産の特殊性

 最初に、農業生産の特殊性について考えることにしたい。  農業とは何かということであるが、産業論的には食料供給産業であると規定できる。農業の 1 ) マリオン・ネッスル『食の安全』岩波書店、2009 年、1 ページ。 2 ) マリオン・ネッスル『食の安全』岩波書店、2009 年、141 ページ。

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有する機能のなかで大きな位置を占めるのが、人間の生命活動を支える食料供給機能である。 その意味では、農業は人間の生命活動を支える生命産業ともいえる。  ここで重要なことは、農業生産の特殊性を理解することである。  第 1 に、農業生産は自然に依存した生産活動であり、自然活用産業としての性格を持ってい る。つまり、農業生産は自然環境に大きく影響を受けることを常としており、自然と調和した 生産活動が本質的に求められている。  第 2 に、農業生産は太陽光エネルギー利用による光合成作用を活用していることである。自 然エネルギーを変換して、食料生産を行っているのである。  第 3 に、農業生産は土地に縛られて成立しており、地域・土地の自然条件と離れて存在する ことができないことである。農業生産は土地固着産業としての性格を有している。  第 4 に、農業生産は国内自給を中心として営まれていることである。国内の食糧自給を中心 に組み立てられており、その余剰分が農産物貿易に回る構造となっている。そのため、農産物 貿易の特質としては、工業製品等に比較して貿易率3)が低いことがある。  第 5 に、農業生産の経営主体は、世界的に家族農業経営が主体となっていることである。こ のことは、企業行動の論理が農業生産にストレートに適用できないことを意味している。

2  自由貿易体制の動向―農産物貿易交渉と日本の食料・農業―

⑴ 世界の農産物貿易ルール  1980 年代には、新自由主義の台頭によって、規制緩和、市場化の流れは促進され、グローバ ル化は大きなうねりとなって進行することとなった。貿易分野において、こうした傾向は同様 にみられ、1986 年には、ガット・ウルグアイ・ラウンドの開始となった。農業分野では、①非 関税障壁の撤廃(包括的関税化)、②国内支持の削減(農業保護の削減)、③輸出補助金の削減 が、重要課題であった。この重要課題をめぐってアメリカと EU との対立は鋭く、交渉は難航 の連続であったが、1993 年にガット・ウルグアイ・ラウンド農業合意(UR農業合意)が成立 し、1994 年にラウンドは終結した。

 そして、UR 農業合意を受けて、1995 年 1 月に、WTO(世界貿易機関、World Trade Organization)が発足し、GATTの枠組みを発展させるものとして、スイスのジュネーブに本 部を置く国際機関が設置された。WTO においては、貿易障壁の除去による自由貿易の推進を 目的として、多角的貿易交渉の場を提供し、国際貿易紛争を処理している。

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⑵ WTO 農業交渉  WTO農業交渉は 2000 年から次期交渉を開始しているが、その決着のめどはついていない。  2000 年 3 月から WTO 農業交渉は開始しており、日本政府は、2000 年 12 月には日本政府提 案4)として、「多様な農業の共存」を主張している。  2001 年 11 月にカタールのドーハにおいて、第 4 回WTO定期閣僚会議で、ドーハ閣僚宣言5) が合意され、開発途上国への配慮を受け入れて、ドーハ・ラウンド交渉6)が開始されている。  2004 年 7 月には、交渉の大枠(モダリティ、Modality)である「枠組み合意」がなされてい るが、2011 年 12 月の第 8 回WTO定期閣僚会議においてもモダリティ交渉は合意に至っていな い。 ⑶ EPA(経済連携協定)/ FTA(自由貿易協定)  EPA/FTAは、WTOを補完するものであり、ブロック経済化とは一線を画するものである。  FTAにおいては、物品の関税やサービス貿易の障壁等の削減・撤廃を目的としており、特定 の国・地域の間で締結される協定である。  これに対して、EPA においては、FTA の内容に加えて、投資ルールや知的財産の保護等も 盛り込んで、より幅広い経済関係の強化をめざす協定となっている。  そして、EPA/FTA には、GATT 第 24 条に基づいて貿易自由化を進めるためのステップと しての位置づけが、与えられているのである。  EPA/FTA交渉における日本の取り組み状況は、次のとおりである。  2010 年 11 月 9 日に、「包括的経済連携に関する基本方針」を閣議決定し、2011 年 11 月には、 内閣に「食と農林水産業の再生推進本部」を設置し、日本政府はグローバル化への対応を模索 している。  2012 年 3 月現在で、13 の国・地域7)と、EPA協定は発効しており、3 の国・地域8)と交渉中 4 ) 日本政府は農業交渉に対する提案として、2000 年 12 月に「日本提案」をWTO事務局に提出した。その前 文に、「多様な農業の共存」という哲学を記している。 5 ) 開発途上国への配慮を強調しており、農業分野においては、①市場アクセスの実質的改善、②輸出補助金の 段階的削減、③貿易歪曲的な国内助成の実質的削減等を内容としている。

6 ) ドーハ・ラウンド交渉は DDA(ドーハ開発アジェンダ、Doha Development Agenda)とも略称されてお り、8 つの多岐にわたる分野(農業、NAMA(鉱工業品分野)、ルール、サービス、TRIPS(知的財産権)、開 発、貿易円滑化、環境)の意欲的な取り組みとなっている。 7 ) シンガポール、メキシコ、マレーシア、チリ、タイ、インドネシア、ブルネイ、ASEAN全体、フィリピン、 スイス、ベトナム、インド、ペルー。 8 ) オーストラリア、韓国、GCC(湾岸協力理事会加盟国、バーレーン、クウェート、オマーン、カタール、サ ウジアラビア、アラブ首長国連邦)。

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であり、2 の国9)と交渉開始を合意しており、それ以外には共同研究等10)が実施されているとこ ろである。  日本は、アジア地域を中心に EPA/FTA を推進しており、農林水産省の基本方針としては、 全体としての経済上・外交上の利益を考慮しつつ、①食の安全・安定供給、②食料自給率の向 上、③国内農業・農村の振興を重点課題として、取り組むこととしている11) ⑷ TPP と日本の食料・農業  TPP(環太平洋連携協定、Trans-Pacific Partnership)は特段に新しい協定ではなく、FTA の一種である。ただし、貿易自由度が高いことに、その特徴を有しており、原則的に関税をゼ ロにすることをめざしている。  2006 年 5 月に、シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの 4 ヵ国で締結された自 由貿易協定がTPPの基礎にあり、小国の協定(P4 協定)であった。  ところが、アメリカが関与したことによって、環太平洋地域全体に適用し、2015 年までに完 全な貿易自由化をめざす協定へと変質してきたところに、問題が生じている。  2010 年から新加盟国 5 ヵ国が加わり、9 ヵ国で交渉をしており、2012 年からは 2 ヵ国(カナ ダとメキシコ)が追加加盟し、11 ヵ国12)で交渉を継続している。   旧 4 ヵ国:シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランド   新 5 ヵ国:オーストラリア、アメリカ、ペルー、マレーシア、ベトナム   追加加盟国:カナダ、メキシコ  アメリカがTPPに参加する狙いとしては、次のことが考えられる。  第 1 には、アジア地域への輸出拡大を狙っていることである。オバマ大統領は、一般教書演 説( 2010 年 1 月)において、輸出倍増 5 ヵ年計画「国家輸出計画」を発表している。リーマ ンショック以降のアメリカ経済の回復にとっては、輸出、とりわけ経済成長の著しいアジアへ の輸出を重視している。  第 2 には、TPP交渉においては市場アクセス交渉のみであって、農業国内支持の削減交渉は ないことである。これは、アメリカにとって魅力的であり、積極的関与の余地を大きくしてい る。  第 3 には、対中国戦略として、アジアに拠点を置いて、中国を牽制する狙いがあることであ る。TPPにおいて、環太平洋自由貿易圏を構築することによって、対中国戦略における 1 つの 9 ) モンゴル、カナダ。 10) EU、日中韓、コロンビア、ASEAN+3(日、中、韓)、ASEAN+6(日、中、韓、インド、オーストラリア、 ニュージーランド)。 11) 農林水産省編『2011 年版 食料・農業・農村白書』(農林統計協会、2011 年)121 ~ 123 ページ参照。 12)    は、日本が 2012 年 3 月現在で、EPA/FTA協定の発効ずみであり、オーストラリアとは交渉中である。

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カードとする狙いがある。  ところで、TPP交渉には、次の 24 ワーキンググループ13)があり、単に農産物の自由化の問 題ではないことに注意しておく必要がある。  24 ワーキンググループとは、①主席交渉官協議、市場アクセス、②工業品、③農業、④繊 維・衣料品、⑤TBT(貿易の技術障害)、⑥SPS(衛生植物検疫)、⑦原産地規制、⑧貿易円滑 化、⑨貿易救済(セーフーガード)、サービス、⑩越境サービス、⑪金融、⑫電気通信、⑬商用 関係者の移動、⑭電子商取引、⑮投資、⑯政府調達、⑰競争政策、⑱知的財産、⑲労働、⑳環 境、制度的事項、紛争解決、協力、分野横断的事項、である。

3  TPPの内容と問題点

⑴ 「対日年次改革要望書」から「日米経済調和対話」へ  「対日年次改革要望書」は、正式には、「日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づ く 要 望 書( The U.S.-Japan Regulatory Reform and Competition Policy Initiative )で あ り、 2001 年から作成されていたが、2009 年鳩山内閣時代に廃止されたものである。これは、アメリ カ政府が日本政府に対して行う、毎年の要求事項である。  この「対日年次改革要望書」は 2009 年に廃止されたのではあるが、その後、これに代わっ て、2011 年 3 月から「日米経済調和対話」事務レベル会合が開催されており、基本的にアメリ カ政府の意向が日本政府に届けられることになっている。  「日米経済調和対話」におけるアメリカの関心事項とは、次のとおりである。  ①情報通信技術(ICT)、②知的財産権、③郵政、④保険:共済、⑤透明性、⑥運輸・流通・ エネルギー:自動車、再生可能エネルギー、通関手続き、⑦農業関連課題:残留農薬・農薬の 使用、食品添加物、⑧競争政策、⑨ビジネス法制環境、⑩医薬品・医療機器、である。 ⑵ P 4 協定  P4 協定における特徴は、前述のとおり、ほぼすべての物品貿易の関税撤廃にある。TPPにお いても、原則的にこの方針が貫かれることが予想されるため、日本のTPP参加は慎重であるこ とが求められるところである。 ⑶ ISD(Investor-State Dispute)条項  ISD 条項は、NAFTA(北米自由貿易協定)において導入された制度であり、多国籍資本に 有利な条項である。貿易紛争において、アメリカの多国籍資本などによる、投資紛争解決国際 13) 外務省「TPP交渉の 24 作業部会において議論されている個別分野」(2011 年 2 月 1 日)より作成。

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センター等への提訴を可能とするものである。 ⑷ TPP と韓米 FTA  TPPにおいては、韓米FTAの取り決めが準用されることが懸念される。  韓米FTAで規定されている主要な事項は、次のとおりである。  ①投資・サービスの原則自由化(例外だけを規定)、②エンジニア・建築士・獣医師の資格・ 免許の相互承認の検討、③郵政・共済を含む金融・保険の競争条件の内外無差別化(公的介入、 優遇措置の排除)、④公共事業の入札公示金額の大幅引き下げ、⑤特区における国民健康保険適 用外治療の許可、⑥米国産輸入牛肉への月齢制限の緩和(FTA の「前提条件」として実施)、 ⑦毒素条項等、である。 ⑸ TPP 参加の経済予測  TPP参加の経済予測は、日本政府内部にあっても、様々である。  たとえば、農林水産省では、TPP参加による日本農業への影響を予測しており、農産物の生 産減少額は 4 兆 1 千億円程度、食料自給率は 40%から 14%程度に低下、国内総生産(GDP)の 減少額は 7 兆 9 千億円程度、就業機会の減少数は 340 万人程度となっており、大きな影響を与 えることが示されている。  これに対して、経済産業省の影響評価においては、TPP に参加しない場合、GDP 損失額は 10.5 兆円と予測している。  そして、内閣府の影響評価においては、TPP参加によって、GDP2 ~ 3 兆円のプラスを予想 している。  いずれにしても、こうした経済予測はあくまで仮定を置いた上での話であることだけを指摘 しておこう。

4  食の安全行政

⑴ 食の安全をめぐる状況 ① 食の商品化による問題点―食品をめぐる事件の頻発  近年は、食の安全をめぐって事件が頻発している。2000 年以降だけをみても、次のとおりで ある。  2000 年には、「雪印乳業」大阪工場による低脂肪乳食中毒事件があり、1 万人以上の被害者を 生み出し、食の安全・安心が市民的関心事項となった。  それに続く、2001 年のBSE罹患牛(国産 1 頭目)の発生は、食の安心・安全問題を、国民的 課題に押し上げることとなった。

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 これ以降、2002 年には輸入牛肉の国産偽装による補助金不正受給事件の発生、輸入農産物か らの基準値を超えた残留農薬の検出、2003 年にはアメリカでのBSE(牛海綿状脳症)の発生、 2004 年には高病原性鳥インフルエンザの発生、2006 年には食品メーカーによる不正な食品表示 の発覚、2007 年にはミートホープ、不二家、船場吉兆、赤福、マクドナルド、白い恋人、比内 地鶏等の不正事件の発覚、2008 年には中国製冷凍ギョーザ中毒事件の発生、中国産ウナギ原産 国表示偽装の発覚、事故米穀問題(事故米穀の強制販売)の発生、中国産加工食品メラミン検 出事件の発覚、2009 年には新型豚インフルエンザの発生、2010 年には口蹄疫の発生等、数え切 れない事件が発生している。  こうした事件の背景には、食の商品化の問題点が隠されているといえよう。 ② 食品偽装事件や食の安全・安心を脅かす事件への対応  こうした食品事件に対して、政策的には、次のような対策がなされてきた。  2002 年には食品衛生法の一部緊急改正がなされ、2003 年には食品安全基本法が制定され、食 の安全・安心の確保に努力することとなり、食品安全委員会の発足、食品衛生法の大改正がな された。そして、2009 年には消費者庁の設置、消費者委員会の発足となった。 ⑵ 食の安全行政 ① 法的枠組みの変遷  食の安全行政の法的枠組みは、複数の省庁にまたがっており、複雑な構成となっているため、 以下では、主要なものを紹介することとしたい。  第 1 には、厚生労働省の所管であり、食品衛生法、と畜場法、食鳥処理の事業の規制及び食 鳥検査に関する法律、健康増進法、薬事法等がある。  第 2 には、内閣府の所管であり、食品安全基本法等がある。  第 3 には、農林水産省の所管であり、農薬取締法、肥料取締法、家畜伝染病予防法、飼料の 安全性の確保及び品質の改善に関する法律(飼料安全法)、牛の個体識別のための情報管理及び 伝達に関する特別措置法(牛肉トレーサビリティ法)、食料・農業・農村基本法等がある。 ② 食の安全行政の柱=「食品衛生法」  食の安全行政には複数官庁が関与しているが、その柱には食品衛生法がある。  食品衛生法は、1947 年に制定された。本法の目的としては、「飲食に起因する衛生上の危害 の発生を防止し、公衆衛生の向上および増進に寄与すること」にある。  1995 年に食品衛生法は改正されており、その特徴は次のとおりである14) 14) 山口英昌編著『食環境科学入門』(ミネルヴァ書房、2006 年)268 ~ 272 ページの内容を参考に記述した。

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 本改正の背景には、WTO協定の影響がある。WTO協定に合わせる形で、法改正がなされて いる。  第 1 は、輸入食品検査体制の後退である。これまで法律上は維持されてきた、全量検査体制 が放棄された。  第 2 は、天然添加物を公認したことである。安全検査なしで、天然添加物が食品添加物とし て公認されており、問題を残すこととなった。  第 3 は、安全管理体制の下請け化である。ハサップ(HACCP)制度を導入して、企業に依 存した食の安全体制を構築することとなり、これが問題を引き起こすこととなる。食品衛生推 進員制度を導入した。  第 4 は、縦割り行政の継続である。  第 5 は、残留農薬基準の設定である。コーデックス委員会の基準を、ほぼ日本基準に採用し ており、甘い基準を容認した。また、ポストハーベスト農薬を公認したことは問題である。  第 6 は、情報公開である。消費者相談室を設置した。  第 7 は、国、企業の責任が不明確であることである。消費者の安全確保の権利がうたわれて いない。そして、国民の食生活の安全に対する国の直接的な責任が明記されていないこと等は、 問題である。  2003 年の食品衛生法の改正は、次のとおりである15)  第 1 は、法の目的として、国民の健康保護を明確にした。  第 2 は、国、地方公共団体の責務として、正しい知識の普及、情報収集・提供・研究、国民 の意見を聴取・施策への反映(リスク・コミュニケーション)、検査能力の向上、国および地方 公共団体の相互連携を挙げた。そして、国の責務として、輸入食品などの検査体制の整備、国 際的な連携、地方公共団体への技術支援を規定した。営業者の責務としては、自主的な安全確 保、国や地方公共団体と協力して危害発生を防ぐなどの責務を明記した。  第 3 は、規格・基準に関して、次のとおりである。残留農薬については、ポジティブ・リス ト制の導入、農薬登録と同時に残留基準を設定した。食品添加物については、安全性に問題、 使用実態のない既存添加物は名簿から削除することにした。健康食品等については、安全性の 確証のない場合は販売禁止できるとし、虚偽・誇大広告を禁止した。  第 4 は、監視・検査について、命令検査の対象を限定しない。検査機関を指定制から登録制 にした。モニタリング検査を外部委託とした。  第 5 は、営業者の安全管理について、HACCP 承認制度を見直した。食品衛生管理者の責務 を強化した。  第 6 は、食中毒について、事故への対応を強化し、保健所長の権限を強化した。 15) 山口英昌監修『食の安全事典』(旬報社、2009 年)85 ~ 87 ページの内容を参考に記述した。

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 第 7 は、表示について、一元的な制度とするため、農水省、厚生労働省の 2 元的な管理を改 めることとした。  第 8 は、記録保管については、努力義務とした。  第 9 は、食品安全基本法への対応として、リスクアナリシス手法や関係者の責務、役割等を 記述した。  第 10 は、罰則を強化し、法人に対する罰金を引き上げた。

5  食の安全と国際関係

⑴ WTO 協定  WTO協定は、設立協定と 4 つの付属書(17 協定)からなっている。その基本的考え方には、 ハーモニゼーションの考え方がある。そして、安全性に関する科学的判断は、コーデックス委 員会と国際獣疫事務局(OIE)に委任することとなった。 ⑵ SPS 協定(衛生及び植物検疫措置の適用に関する協定)

 SPS 協 定( Agreement on the Application of Sanitary and Phytosanitary Measures )は、 次の特徴を持っている。  第 1 には、ハーモニゼーション(前文、第 3 条、Harmonization)がある。国際的基準、指 針、勧告に基づいて、国内措置を実施することが求められる。  第 2 には、同等制の原則(第 4 条、Equivalence)がある。他国の検疫・衛生措置を受け入れ なければならないことである。  第 3 には、国際機関によるリスク評価と基準の決定(前文、第 5 条)がある。この国際的基 準とは、コーデックス基準、OIE基準のことである。  第 4 には、紛争解決はWTO(第 11 条)がある。GATT第 12 条及び第 13 条による紛争処理 として、小委員会(パネル)設置がある。  第 5 には、主権の制限(第 5 条)がある。各国の措置には、貿易制限的でないことが求めら れ、国内法より、WTO協定が優先することとなる。 ⑶ コーデックス委員会

 コーデックス委員会(Codex Alimentarius Commission)は、1961 年に、FAOとWHO合同 の委員会として、設置された。それが、SPS協定によって、コーデックス委員会の役割が強化 され、国際的基準を策定する国際的機関となっている。

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むすびに―地域経済の活性化と食料・農業の再構成―

⑴ 食料・農業問題の重要性  現在、農産物自由貿易体制により国のあり方が変わる事態となっている。また、グローバル 化の進展によって、地域経済の崩壊・衰退が引き起こされている。こうしたことを考えれば、 地域経済の基盤としての農業を振興することの重要性を指摘することは必要なことと考える。  日本においては、食料・農業問題は切実に語られていないが、世界的にみれば、国民的課題 としての食料・農業問題の議論を提起することは重要なことといえるであろう。 ⑵ 地域社会の維持・存続の重要性と必要性  地域社会の維持・存続が重要であり、必要と考えた場合、農産物自由貿易体制による地域経 済の崩壊・衰退への対案の骨子を示しておきたい。  第 1 には、地域経済の循環的発展をめざすことである。地域経済の再生を考える際には、経 済の地域内循環を第一義的に重視して、産業・経済の構築を図ることが肝要である。  第 2 には、食料・農業・環境の一体的保持を図ることである。人間の生命活動を保障する食 料生産を確保するために、地域農業の振興・発展を図り、農業生産の自然・環境との共生を進 めることによって、住民の居住環境は改善されることとなる。  第 3 には、都市と農村の協同・連携をめざすことである。現代の都市と農村は、お互いに共 生関係を築かなければ、快適な居住空間を形成することが不可能な社会環境となっていること を認識しなければならない。 ⑶ 自然・環境にやさしい社会の形成  食のグローバル化の下で、食の安全・安心を確保するためには、地域経済の再生を図り、そ の基本に地域農業を位置づけることが求められている。  そこで、最後に、地域経済の再構成をめざすための基本方向について、述べることにしたい。  第 1 は、地域経済の構成要素を活性化することである。地域にある資源の活用を、まず始め に検討して、地域経済の活性化をめざすことが必要となる。  第 2 は、地域コミュニティを基盤に地域経済を考えることである。地域経済の活性化の主体 として、地域コミュニティを位置づけることが大事な視点であり、地域コミュニティが崩壊し ているところでは、その再生から始めることが求められる。  第 3 は、地域経済の循環機能を拡充することである。地域経済の循環機能を意識的に拡充す ることが、地域の連帯を強め、地域コミュニティの再生に役立ち、新たな地域経済の発展を生 み出すことにつながる。  第 4 は、自然・環境の視点を取り入れた地域経済の振興をはかることである。地域経済の振

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興の際には、経済的視点と同時に、社会的視点、地域住民としての視点、そして、地域の自然・ 環境を含めた複眼的視点で、地域振興を考えることが快適な居住環境としての地域再生のつな がることとなる。

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