Stretcendo :力覚刺激による快感をもたらす楽器の試作と評価
Stretcendo:Prototype and evaluation of musical instrument affording pleasure by force sense
1w163049-5 小池 秀平 指導教員 菅野 由弘 教授 KOIKE Shuhei Prof. KANNO Yoshihiro
概要: 近年,高い操作性と表現力を追求した電子楽器が数多く生み出されているが,演奏者自身に快感をもたらそう とする視点も重要である.より多くの人が演奏を楽しめるように楽器が進化をすることで,音楽演奏者の裾野が広がる と考えられる.ここに着目して試作された楽器の例としてGOMUSICが挙げられる.これはゴムを引っ張ることによって 演奏できる電子楽器である.岸岡らはこれの演奏時に快感が生じると述べているが,その客観的な調査はされていない.
本研究では,GOMUSICAを参考に力覚刺激を与える楽器Stretcendoを試作し,演奏時の「快感」の評価実験を行うこと で,Stretcendoの「快感」と力覚刺激の関係を探った.その結果,Stretcendoは力覚刺激によって演奏者に「快感」
をもたらすことが示された.
キーワード:Stretcendo,電子楽器,力覚刺激,快感
Keywords: Stretcendo, electronic musical instrument, force sense, pleasure
1.はじめに
近年,高い操作性と表現力を追求した電子楽器が数多く 生み出されている.一方で、演奏者自身に快感をもたらそ うとする視点も重要である.より多くの人が演奏を楽しめ るように進化させることで,音楽演奏者の裾野が広がると 考えられる.ここに着目した例として,GOMUSICA[1]が挙 げられる.これはゴムを引っ張ることによって演奏できる 電子楽器である.音の変化に合わせてゴムの伸縮による力 覚刺激を与えることで,演奏者は楽しさを感じると岸岡ら は述べているが,論文はデモ機の作成にとどまっており,
その調査は行われていない.
本研究では,評価語を「快感」とし,「楽しい,気持ちい いなどのポジティブな感情を包括したもの」と定義した上 で.GOMUSICAを参考にした楽器の試作と評価を行った.
stretch(伸ばす)とcrescendo(だんだん強く)を組み合 わせ,本稿では試作した楽器をStretcendo(ストレッシェ ンド)と呼ぶ.
2. Stretcendo の概要
GOMUSICAを参考に,力覚刺激による「快感」をもたらす
ことを目指して,Stretcendoを試作した.図1に外観を示 す.この円柱の部分をもって,輪ゴムを引っ張ることで演
奏ができる.引っ張る距離に応じて音量と音高が,引っ張 る速さに応じて音の歪み具合が変化する.引っ張り具合は 圧力センサで検知しており,PureData[2]でその値から音 の合成を行っている.
図1 Stretcendoの外観
3.評価実験の方法
Stretcendoの「快感」を評価する実験1と,力覚刺激の
大きさと「快感」の関係を探る実験2を行った.
実験1では,実験参加者にStretcendoを90秒間操作さ せ,「快感」を5段階で評価させた.また,演奏時に感じ たことを自由に記述させた.
実験2では,引っ張り方による条件間の「快感」の差を
排除するため,一軸方向にのみ操作が可能で,Stretcendo と同じ合成手順で音を出力する装置を操作させた.この装 置のゴムの本数が0,1,2本の各条件における「快感」
を,シェッフェの一対比較法[3]の浦の変法[4](以後,シ ェッフェ-浦法)に従って評価した.また,操作時に感じ たことを自由に記述させた.
4.結果と考察
実験1で多くの実験参加者はStretcendo に対して「快 感」を感じるなどのポジティブな意見を述べた.これと図 2に示した結果は,Stretcendoが多くの実験参加者に「快 感」をもたらしたことを示している.また,実験参加者の 意見より,Stretcendoの「快感」の要因は,操作によって 思い通りに音を変化させられること,力覚刺激と出力され る音のイメージが一致することの2つであると示唆され た.したがって,力覚刺激がStretcendoの「快感」の要 因となったといえる.
図3に示した実験2のシェッフェ-浦法の結果は,輪ゴム の本数が1本のときにStretcendoは最も「快感」をもた らすことを示している.しかし,実験参加者の意見から,
この結果はあくまでもStretcendoにおいてのみ言えるこ とだとわかった.提示される音が異なれば違う結果になる 可能性がある.
これらの結果からStretcendo は力覚刺激によって「快 感」をもたらすことが示されたが,多くの改善すべき点も 見つかった.実験1で一部の実験操作者は楽器の改善すべ き点を述べた.これらを改善することで,「快感」を妨げ る要素を排除できる.また,歪みによる「快感」や力覚刺 激が操作に与える影響の感じ方には個人差が生じた. こ れらの要素を演奏者ごとにカスタマイズできる機能を実 装し,個々人に最適化できるようにしたい.
一方,力覚刺激と「快感」の関係についてより深く調査 を進めることも,Stretcendoの改良に繋がる.例えば,実 験2は,条件をより細かく刻むことで,さらに「快感」を もたらす結果がでる可能性がある.今後の課題として,楽 器の改良案を実装することや,より深く調査を進めること が挙げられる.
さらに本研究では,他の感覚刺激も「快感」をもたらす 可能性があることが示唆された.今後,それらに対しても
調査を進めることで,様々な感覚刺激を応用した楽器の開 発が期待できる.
図2 実験1の5段階評価の集計結果
図3 実験2のシェッフェ-浦法の結果
5.結論
本研究ではStretcendoを試作し,その評価を行った.そ の結果,力覚刺激による「快感」をもたらすことが示され た.特にゴムが一本のときに「快感」が最大化されたが,
出力される音によっては異なる結果になった可能性があ る.
一方,改善すべき点が多く残されていることもわかった.
今後の課題として,実験参加者が述べた意見を参考にした 改良案や,個人差を埋めるための調節機能を実装すること,
力覚刺激と音のイメージの対応をより深く調査すること などが挙げられる.
また,本研究では,他の感覚刺激も「快感」をもたらす 可能性があることが示唆された.今後,それらに対しても 調査を進めることで,様々な感覚刺激を応用した楽器の開 発が期待できる.
参考文献
[1] 岸 岡 信 伍, 倉 知 尚 貴, 栗 原 拓 人, 馬 場 哲 晃, 串 山 久 美 子. Gomusica:ゴ ム の 伸 縮 で 演 奏 す る 楽 器.http://www.interactionipsj.org/archives/paper2012/dat a/Interaction2012/interactive/data/pdf/2EXB-53.pdf, 3 2012
[2] Pure Data - Pd Community Site. https://puredata.info/.
[3] 中前光弘, 田畑洋二, 大賀泰文, 他. Scheff´e の一対比較法 による主観的評価法. 日放技学 誌, Vol. 52, No. 11, pp.
1561–1565, 1996.
[4] 浦昭二. 1 対比較実験の解析. 品質管理, Vol. 10, No. 2, 2 1959