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高分子材料の微視的骨格構造と 加工・単一分子特性

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(1)

関   修 平

Shuhei SEKI

 現代社会において、高分子材料はほとんどありと あらゆる側面で用いられる重要な工業材料となって いる。 プラスチック というカテゴリーで括られ る高分子材料の利用がここまで進展した理由の一端 は、その多様性にあるのではないだろうか。高分子 の骨格を形成する化学構造(1次構造)の多様性は いまさら言うまでもないが、分子量・骨格構造・凝 集構造など、2次・高次構造はさまざまであり、全 く同じ 鎖 を有する分子は1つもない。このよう な高分子の多様性に関する研究は 20 世紀初頭から 積極的に進められ、1970 年代の P.J.  Flory のノーベ ル賞受賞に象徴されるように、その溶液中における 構造に関する統計的な理解が非常に良い成功を収め ている。 統計的 な理解の成功は、とりもなおさ ず高分子の構造が十分に 多様であること を端的 に示しており、高分子希薄溶液のみならず、溶融・

ガラス状態において自由に構造を変化させる高分子 の鎖の本質が、材料としての高分子の利点である成 型性や弾性・軽量性などの根幹を支えている。

 高分子を用いた加工技術について振り返ってみる と、レジスト材料としての高分子は長い間、そして 現在でも微細加工技術の中心的な位置を占めている。

まっすぐにのばせば、数 100  nm 〜μm に達する高 分子の鎖が、数 nm  の精度を要求される微細加工技 術に用いられ続けているのは一見不思議とも思える

が、 統計的 にふるまう高分子の形は、柔軟な高 分子骨格において、固体薄膜中では想像以上に小さ な3次元空間に収まる。では、高分子を用いた微細 加工の限界はどこまで行くのか? こんな単純な疑 問への解答を目指した研究の一端についてまず紹介 したい。

 高分子材料を用いた微細加工は、光やその干渉・

荷電粒子を用いて現在積極的に工業利用されている。

設計図通りに加工された 部品 を形成するために は、これら光や荷電粒子を非常に狭い空間領域に集 束させ、高分子や添加物との相互作用によって化学 反応を引き起こす。この結果、高分子薄膜の溶解特 性のコントラストを作りだし、パターンが形成され る。このとき、形成されるパターンの精度を決定す る因子は多岐にわたり、たとえば光や荷電粒子によ るエネルギーの集束性や化学反応の分布・拡散、溶 解特性の変化量などの要素が複雑に相関しており、

1つの大きな技術分野を形成している。では高分子 材料の限界のみを取り出して評価するためにはどう したらよいだろうか? その手法として本稿で紹介 するのが単一粒子ナノ加工法(Single Particle Nano- fabrication  Technique)である。「何も混ぜない高 分子のみ」を対象にし、「高分子の反応だけ」を利 用して溶解性変化を引き起こし、「誰が見ても使っ ても、世界で最も集束性のよい」エネルギー源を用 いれば、高分子のポテンシャルだけが評価できるは ずであるという考えに基づいて研究を開始した [1]。

では、世界で最も集束性のよいエネルギー源とは何 だろうか。先の光や荷電粒子を高精度に制御するの は最もわかりやすいアプローチではあるが、高分子 の本質の評価だけを目的にした場合、何も正確なパ ターンを形成する必要はない。そこで「できるだけ 細い」ビームを突き詰めた結果、これも単純な結論 ではあるが「1つの原子」にたどり着いた。言うま

− 62 − 1968年10月生

東京大学工学部 原子力工学科卒(1991年)

東京大学大学院 工学系研究科 システム 量子工学専攻博士課程中退(1995年)

現在、大阪大学 大学院工学研究科 応 用化学専攻 教授 博士(工学) 物理化 学 高分子科学     

TEL:06-6879-4586 FAX:06-6879-4586

E-mail:[email protected]

高分子材料の微視的骨格構造と 加工・単一分子特性

Backbone Configuration of Polymeric Materials in  Correlation with Nanostructure Fabrication and 

Single Molecule Electro-optical Properties

Key Words:polymer materials, nanostructure, conductivity, mobility

生 産 と 技 術  第62巻 第2号(2010)

研究ノート

(2)

図2 ごく一般的な構造高分子であるポリスチレンを    ベースに形成されたナノワイヤーのサイズ(太    さ)の分布(分散:標準偏差により評価)と重    合度の関係。○ △ ▼ □はそれぞれ異なる溶媒    により洗浄(現像)処理した際の依存関係を示    す。

図1 良く知られたネガ型フォトレジストである SU-8 の    薄膜(膜厚:10μm)に、400 MeV に加速された    Kr 粒子を入射させ、後に Diacetone Alcohol にて    洗浄した Si 基板の AFM 観察像 粒子は基板に垂    直に入射しているが、溶媒による洗浄(現像)処    理において、飛跡に沿って形成されたナノワイヤ    ーは基板に倒れこんで吸着し、2 次元像としての    観測が可能。

でもなく、1つの原子(荷電粒子)には、もはや集 束という概念が存在しない。従って、 ビーム と いうよりはむしろ真の 線 と考えることができる であろう [1-3]。では、1つの原子で果たして実際 の加工が可能なのであろうか。図1は、高分子の薄 膜に高いエネルギーで加速させた原子を入射させた 後、この高分子がもともと可溶であった溶媒により 溶解させた後の基板表面の構造を、原子間力顕微鏡

(AFM)で観測した結果を示している。長さのそろ ったひも状の構造体(ナノワイヤー)が一様に観測 され、この長さは使用した高分子の膜厚に正確に一 致する。また、ナノワイヤーの数は単位面積あたり に打ち込まれた原子の数と完全に一致しており、高 分子の薄膜を原子が通過しながらその軌道に沿って 高分子を不溶化させ、それぞれナノワイヤーを形成 していることを明確に支持している [1,2,4]。

 基板上にはただの高分子の薄膜だけが存在し、そ こにエネルギーの 線 を創るという、想定しうる 最もシンプルなシステムで形成されたこのナノワイ ヤーの大きさ(太さ)は、高分子の鎖の形を正確に 反映すると考えても良いであろう。図 2 は、一般的

な高分子である polystyrene 誘導体をベースにして 形成されたナノワイヤーの太さの分布を、分子量と 共にプロットした結果である。先に述べた溶液状態 における高分子の分子サイズに関する統計理論によ れば、分子サイズを反映する慣性半径 (

Rg

) と重合 ユニット数 (

M

) の間に、次に示す Mark-Howink- 桜 田の式が良く知られている。

 Rg = aMv       

(1)

と表現される。

a

は高分子鎖を構成するユニット長

(特性長)であり、持続長以上の値の範囲で任意に 選択が可能であり、これを基にした分子鎖内の平均 重合ユニット数が

M

  となる [5,6]。指数

v

は柔らか い高分子鎖の極限モデルである理想鎖(Gauss 鎖)

において 0.5、完全膨張鎖では 0.8 となるが、一般 的には分子鎖の「硬さ」を反映してこの範囲内の値 を取る。図2に示した分子量と太さの関係は (1) 式 の関係をよく反映しており、さらに特筆すべきは、

AFM による太さの精密測定が、溶媒による洗浄を 行った後の大気中における測定であるにも関わらず、

洗浄に用いた溶媒の種類によって、その依存性が大 きく異なるという点である [3,4]。これは、高分子

− 63 −

生 産 と 技 術  第62巻 第2号(2010)

(3)

材料を用いた数 nm レベルの超微細加工において、

高分子の平均分子サイズを決定する骨格のかたちの 制御が重要であるということを端的に示しているの みでなく、基板と高分子の相互作用により、溶液中 の分子のかたちを完全に記憶して固定されるという 事実をも示唆している。

 高分子希薄溶液の徹底的な追求から極めて高度に 体系化され、20 世紀中盤にもはや完結したかにも 見える高分子構造論は、半世紀を経たいま、数 nm レベルの加工が実際に問題になる中で、まさにその 重要性を増しつつある。これは高分子を基にした加 工技術のみでなく、我々が近年積極的に展開してい る共役高分子骨格を対象とした単一高分子鎖内の分 子内電荷輸送特性評価においても明白になりつつあ る [7− 9]。高分子材料に携わる研究者は、いままさ に、その基礎研究と応用研究を矛盾なく繋ぐことが 可能な千載一遇のチャンスに巡り合わせているので はないかと強く考えている。

Reference

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