九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
学び続ける教師を継続的に支援する必要性
八尾坂, 修
九州大学大学院人間環境学研究院教育学部門 : 教授
https://doi.org/10.15017/1498380
出版情報:教育経営学研究紀要. 17, pp.1-3, 2015-03. The Laboratory of Educational Administration, Educational Law Graduate School of Kyushu University
バージョン:
権利関係:
<巻頭言>
学び続ける教師を継続的に支援する必要性
八尾坂 修
教師の資質能力の向上はすでに昭和62年当時、
「教師の資質能力の向上方策等について」で示さ れていた。“いつの時代にも求められる資質能力”
と“変化の激しい時代にあって今後特に求められ る資質能力”に大別される。この基本的視点に立 ち、今日教育専門職としての教師には、教職生活 全体を通じて実践的指導力を高めるとともに、探 究力を持ち、学び続けることが期待される。
中央教育審議会答申「教職生活の全体を通じた 教員の資質能力の総合的な向上方策について」(平 成24年8月28日)では教師に求められる資質能 力を次のように提示し、自己省察するなかで相互 に関連し合いながら形成されるととらえる。
①教職に対する責任感、探究力、自主的に学び続 ける力(使命感や責任感、教育的愛情)
②専門職としての高度な知識・技能〔○教科や教 職に関する高度な専門的知識(グローバル化、
情報化、特別支援教育その他の新たな課題に対 応できる知識・技能を含む)。○新たな学びを展 開できる実践的指導力(基礎的・基本的な知識・
技能の習得に加えて思考力・判断力・表現力等 を育成するため、知識・技能を活用する学習活 動や課題探究型の学習、協働的な学びをデザイ ンできる指導力)。○教科指導、生徒指導、学級 経営等を的確に実践できる力〕
③総合的な人間力(豊かな人間性や社会性、コミ ュニケーション力、同僚とチームで対応する力、
地域や社会の多様な組織等と連携・協力できる 力)
この点、教師育成のための対応としては、教職 生活全体を通じて学び続ける教師を継続的に支援 するため、教育委員会と大学が連携・協働して一 体的に進めることである。これまでは“大学にお ける教員養成”のもと、大学での養成と教育委員 会による研修が分断されがちであったが、今後は 大学卒業後も学びを継続する体制の確立が求めら れる。教科や教職についての基礎・基本を踏まえ た理論と実践の往還による教員養成の高度化、実 質化を推進する必要がある。また大学の知を活用 した現職研修の充実を図るとともに、教職生涯に わたり資質能力の向上を可視化する仕組みの構築
も望まれる。教師を高度専門職業人として明確に 位置づけるためにも教職キャリアにおける修士レ ベル化、とりわけ管理職登用の修士号取得資格化 とメリハリある処遇の実現も求められよう。
グローバル化対応への教師人材
ところで近年とみに“グローバル化社会での育 成”と教師の資質能力の向上が喫緊の政策課題と なっている。グローバル人材育成推進会議による
(審議のまとめ)「グローバル人材育成戦略」(平 成24年6月4日)によると、“グローバル化”と は情報通信・交通手段等の飛躍的な技術革新を背 景として、政治・経済・社会等(たとえば、金融・
物流、人口・環境・エネルギー・公衆衛生等の諸 課題)のあらゆる分野への対応に至るまで全地域 的規模で捉えることが不可欠となった時代状況で ある。
これからのグローバル化した経済・社会の中に あって育成すべきグローバル化された人材像とし ては次の三つの要素が挙げられている。
〔要素Ⅰ:語学力・コミュニケーション能力、要 素Ⅱ:主体性・積極性、チャレンジ精神、協調性・
柔軟性、責任感・使命感、要素Ⅲ:異文化に対す る理解と日本人としてのアイデンティティー〕
この点、特にグローバル化に立って教師に求め られる資質能力を捉えると、第一は、地球、国家、
人間等に関する深い理解である。たとえば、地域 観、国家観、人間観、個人と地球や国家の関係に ついての適切な理解、社会・集団における規範意 識である。第二は、豊かな人間性である。たとえ ば、人間尊重・人権尊重の精神、男女平等の精神、
思いやりの心、ボランティア精神である。第三は、
国際社会で必要とされる基本的資質能力である。
考え方や立場の相違を受容し多様な価値観を尊重 する態度、国際社会に貢献する態度、自国や地域 の歴史・文化を理解し尊重する態度、自己表現力 としての外国語のコミュニケーション能力が考え られる。
教師の人材育成の視点からは、教職課程の質の 維持・向上を図りつつ、留学時の取得単位を教職
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課程に係る単位と認めることにより、海外留学経 験を促進することも考えられる。とくに英語教員 志望者の指導力向上、教員採用の際のポジティブ な評価も期待される。また現職教員の国際性の向 上を図るためにも日本人学校等への教員派遣事業 を積極的に活用し、帰国後も海外経験を有効活用 し、初等・中等教育段階での国際教育を推進する ことも求められる。さらに、小学校教諭の教職課 程においても、学習指導要領に対応した外国語教 育の内容の充実とともに、英語教育の下級学年で の導入・普及に伴う人員等の条件整備も不可欠で ある。
キャリアステージに対応した育成指標
このように教師に求められる資質能力は多面的 に及んでいる。ただしこれらを若年層からベテラ ンの熟年層のすべての教師が一律にしかも高度に 身に付けることを期待されるわけではないと考え る。むしろ学校という組織全体において多様な資 質能力をもつ教師集団が協働し、しかも充実した 教育活動を展開できる学校文化を構築することが 求められている。教師に期待される教育力は、ラ イフステージにおいてむしろ異なるものであり、
職能、専門分野、得意分野に応じ、教職キャリア のなかで“自己変革・向上するスピリットをもっ た教師”が期待される。このような姿勢自体が、
児童生徒にとって教育的励ましともなろう。
それゆえ横浜市教育委員会が平成26年3月(改 定)に提示した教師の「キャリアステージ(第1
~第3)に応じた人材育成指標」はスパイラルの 教師の資質能力向上を考える上で示唆的である。
この点、教師着任時の際、身に付けておくべき 授業力、児童生徒指導力、連携・協働力などに課 題が生じる危惧があることから、実践力のある教 師の育成に向けた養成・採用・研修の一環として、
「教師塾の拡充」が都市部を中心に展開しつつあ るのも事実である(1)。広がった背景として一つは、
団塊世代の教師が一斉大量退職時期を迎え、教師 の量的確保と資質能力の問題が浮上したことであ る。
二つは、当時採用数が少なく中堅層となった教 師の希薄化、また学校多忙化、子どもの実態、保 護者などの要望・クレームの多様化などにより、
若年層教員では対応が困難なケースが増加してい ることである。そのため、新採前に最低限の実践 的指導力を修得した即戦力となる人材への要望が 教育委員会側にあったのである。
平成 16 年度から実施している東京都教育委員 会の「東京教師養成塾」は明白に「採用当初から 学級や教科を担任しつつ、教科指導、生徒指導等 の職務を著しい支障が生じることなく実践できる 資質能力を基本的な資質能力と位置づけている。
大学における教員養成の理念を凌駕することはな いが、教育委員会と大学の連携による新たな試み として位置づけることもできよう。
OJTを基本としたキャリアプラン
教師の資質能力向上策の一つとして、初任者研 修制度がある(教育公務員特例法23条)。新規に 採用された公立の小学校等の教諭等が対象である。
校内研修(週10時間以上、年間300時間以上)の 実施方法として「拠点校指導教員」(初任者4人に 1人)、校内にコーディネーター役の「校内指導教 員」が配置されているのが特徴的である。校外研 修は年間25日以上である。校外研修として評価の 高い研修内容は、概して日常の教育活動への即効 性があり、等身大の自分が投影できるものである。
研修形態も、参加・体験型、選択型、課題解決型 が導入されているものの、校外研修における有用 性、適時性、ニーズを斟酌した即時性、弾力性の ある研修プログラムの推進が期待される。
この点、初任者に加え、若手層教員を対象にし、
複数の先輩教員が継続的、定期的に交流し、信頼 関係を築き、かつ日常の活動を支援し、精神的、
人間的な成長を支援することにより相互の人材育 成を図る「メンターチーム」と呼称される校内新 人育成システムもある。初任者へのより効果的な 育成への方途となる。また臨時的任用教員等の経 験者については、個々の経験に応じた研修のあり 方を検討する余地もある。キャリアステージに応 じた研修体系も看過し得ない視点である。教師一 人ひとりが自らのライフステージを視野に入れて 自己の力量を計画的・継続的に進展させていくた めの研修計画(キャリアプラン)を導入し、長期 的・継続的な視点で自己の資質能力の向上に取り 組むようにすることである。
東京都教育委員会では学校におけるOJT(On the
Job Trainingの略で日常的な職務を通じて、必要
な知識や技能、意欲、態度などを意識的、計画的、
継続的に高めていく取組)の円滑化を図っている
(2)。従来の自己申告や人事考課をより一体的に効 果ならしめようとする。そのため自己の資質能力 向上のためのキャリアプランの活用をOJTを基本 としつつ、将来果たすべき役割、そのために必要
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課程に係る単位と認めることにより、海外留学経 験を促進することも考えられる。とくに英語教員 志望者の指導力向上、教員採用の際のポジティブ な評価も期待される。また現職教員の国際性の向 上を図るためにも日本人学校等への教員派遣事業 を積極的に活用し、帰国後も海外経験を有効活用 し、初等・中等教育段階での国際教育を推進する ことも求められる。さらに、小学校教諭の教職課 程においても、学習指導要領に対応した外国語教 育の内容の充実とともに、英語教育の下級学年で の導入・普及に伴う人員等の条件整備も不可欠で ある。
キャリアステージに対応した育成指標
このように教師に求められる資質能力は多面的 に及んでいる。ただしこれらを若年層からベテラ ンの熟年層のすべての教師が一律にしかも高度に 身に付けることを期待されるわけではないと考え る。むしろ学校という組織全体において多様な資 質能力をもつ教師集団が協働し、しかも充実した 教育活動を展開できる学校文化を構築することが 求められている。教師に期待される教育力は、ラ イフステージにおいてむしろ異なるものであり、
職能、専門分野、得意分野に応じ、教職キャリア のなかで“自己変革・向上するスピリットをもっ た教師”が期待される。このような姿勢自体が、
児童生徒にとって教育的励ましともなろう。
それゆえ横浜市教育委員会が平成26年3月(改 定)に提示した教師の「キャリアステージ(第1
~第3)に応じた人材育成指標」はスパイラルの 教師の資質能力向上を考える上で示唆的である。
この点、教師着任時の際、身に付けておくべき 授業力、児童生徒指導力、連携・協働力などに課 題が生じる危惧があることから、実践力のある教 師の育成に向けた養成・採用・研修の一環として、
「教師塾の拡充」が都市部を中心に展開しつつあ るのも事実である(1)。広がった背景として一つは、
団塊世代の教師が一斉大量退職時期を迎え、教師 の量的確保と資質能力の問題が浮上したことであ る。
二つは、当時採用数が少なく中堅層となった教 師の希薄化、また学校多忙化、子どもの実態、保 護者などの要望・クレームの多様化などにより、
若年層教員では対応が困難なケースが増加してい ることである。そのため、新採前に最低限の実践 的指導力を修得した即戦力となる人材への要望が 教育委員会側にあったのである。
平成 16 年度から実施している東京都教育委員 会の「東京教師養成塾」は明白に「採用当初から 学級や教科を担任しつつ、教科指導、生徒指導等 の職務を著しい支障が生じることなく実践できる 資質能力を基本的な資質能力と位置づけている。
大学における教員養成の理念を凌駕することはな いが、教育委員会と大学の連携による新たな試み として位置づけることもできよう。
OJT を基本としたキャリアプラン
教師の資質能力向上策の一つとして、初任者研 修制度がある(教育公務員特例法23条)。新規に 採用された公立の小学校等の教諭等が対象である。
校内研修(週10時間以上、年間300時間以上)の 実施方法として「拠点校指導教員」(初任者4人に 1人)、校内にコーディネーター役の「校内指導教 員」が配置されているのが特徴的である。校外研 修は年間25日以上である。校外研修として評価の 高い研修内容は、概して日常の教育活動への即効 性があり、等身大の自分が投影できるものである。
研修形態も、参加・体験型、選択型、課題解決型 が導入されているものの、校外研修における有用 性、適時性、ニーズを斟酌した即時性、弾力性の ある研修プログラムの推進が期待される。
この点、初任者に加え、若手層教員を対象にし、
複数の先輩教員が継続的、定期的に交流し、信頼 関係を築き、かつ日常の活動を支援し、精神的、
人間的な成長を支援することにより相互の人材育 成を図る「メンターチーム」と呼称される校内新 人育成システムもある。初任者へのより効果的な 育成への方途となる。また臨時的任用教員等の経 験者については、個々の経験に応じた研修のあり 方を検討する余地もある。キャリアステージに応 じた研修体系も看過し得ない視点である。教師一 人ひとりが自らのライフステージを視野に入れて 自己の力量を計画的・継続的に進展させていくた めの研修計画(キャリアプラン)を導入し、長期 的・継続的な視点で自己の資質能力の向上に取り 組むようにすることである。
東京都教育委員会では学校におけるOJT(On the
Job Trainingの略で日常的な職務を通じて、必要
な知識や技能、意欲、態度などを意識的、計画的、
継続的に高めていく取組)の円滑化を図っている
(2)。従来の自己申告や人事考課をより一体的に効 果ならしめようとする。そのため自己の資質能力 向上のためのキャリアプランの活用をOJTを基本 としつつ、将来果たすべき役割、そのために必要
な経験や研修を明確にし、年度ごとに設定する職 務目標を計画的に達成できることをねらいとする。
OJTの実効性として以下の点を列挙できる。ア.
学校の職務を遂行する中で育成される機会を多く もつことができる。イ.自己の課題に応じた具体 的な取組が可能となる。ウ.OJT の実施状況、目 標の達成状況に応じて受ける側、ミドルリーダー である担当者双方がOJTの方法を適宜改善できる。
エ.育成される側がいずれは育成する側にもなり、
育成機能の連続性を校内で期待できる。オ.一人 ひとりの教員の職務遂行能力の向上により、学校 全体の教育力向上、抱える課題の解決につながる 点である。
学校管理職への免許資格化
学校管理職に求められる不易の資質能力は一般 教師と変わらず、「使命感と責任感」に裏づけられ た自信であろう。ただし職務上学校マネジメント に長けた管理職の登用は不可欠である。学校マネ ジメントは、学校教育目標、それに基づく学校経 営計画を達成するため、学校内外の人、物、情報、
ネットワーク等の諸資源を活用しつつ、教育活動 の計画(Plan)、実施(Do)、評価(Check)、改善 行動(Action)といったPDCAマネジメント・サイ クルに一定の成果と効率をもたらす組織的な活動 である。
このような学校マネジメント力向上に求められ る視点として、一つ目は、学校の短期的・中期的 ビジョンを特色ある学校づくりの方向性との関わ りで、外部・内部へ前向きに発信する“ビジョナ リー・リーダー”としての役割である。多様な価 値観、持ち味を有する教職員への役割求心力を発 することになる。二つ目は、課題ソリューション に応じた“環境づくり”である。組織の機動性と 自校を取巻く社会的・文化的環境を把握するとと もに、必要な情報を収集・編成する力量も求めら れる。三つ目は、“人材育成”である。プロ校長と しての姿勢を体現し、かつ配慮・公平性のある支 援的・変革的リーダーシップを発揮することであ る。四つ目は、“外部折衝力”である。学校課題対 策に向けた教育委員会との連携、日頃から保護者 や地域との風通しのよさを念頭に置き、子ども支 援のための建設的な意見、疑問点を受容しフィー ドバックする雰囲気づくりを醸成する指導性も管 理職に期待される。
学校管理職としては、Off-JT(学校外の研修期 間 で 行 わ れ る 人 材 育 成 の 取 組 ) や 自 己 啓 発
(Self-Developmentと呼称されるが、力量を付加 するために課題意識をもってさまざまな研修や研 鑽に自ら励むこと)によって資質能力向上を図る ことが望ましい。近い将来はアメリカのように校 長(学校管理職)の免許資格として、学校経営分 野(school administration and management)と 連結した修士号取得養成プログラムが制度化( 3 ) されてもよいであろう。
なお、今日教師自身のメンタルヘルス予防策も 不可避である。教師自身の“セルフケア”のみな らず、管理職等の“ラインによるケア”充実が求 められる。校務分掌を適切に実施し、“小集団のラ インによるケア”を充実させる体制の整備(主幹 教諭等の配置)も不可欠となる。また教育委員会 による相談体制、病気休暇・休職せざるを得ない 状況にあっては、個に応じた復職支援プログラム の充実・検証、国レベルでの人的条件整備も望ま れる。
【注】
(1)塾修了者に特別選考枠を設ける場合【東 京教師養成塾、よこはま教師塾、大阪教 志セミナー、大阪市教師養成講座、静岡 熱血教師塾、なごや教師養成塾、さがみ 風っ子教師塾、いしかわ師範塾など】、特 別選考枠を設けていない場合(京都教師 塾、堺・教師ゆめ塾など)がある。
(2)東京都教職員研修センター『平成25年度 研修案内』104総頁、同『OJTガイドライ ン―学校におけるOJTの実践』(改訂版)、
平成22年3月、40総頁。
(3)八尾坂修『アメリカ合衆国教員免許制度 の研究』(とくに第4章)風間書房、平成 10年を参照。
<追記>
本稿は、八尾坂修「教師の資質能力向上の課題 と支援─学び続ける教師を継続的に支援─」(『教 育展望』60巻第8号、2014年7・8月合併号、pp.
4-10)に依拠している。
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