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IT 技術者の長寿と健康のために 【書評】

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2017年1月号 (59)59

【書評】

一般社団法人情報通信医学研究所 編,長野 宏宣,中川 晋一,蒲池 孝一,

櫻田 武嗣,坂口 正芳,八尾 武憲,衣笠 愛子,穴山 朝子 編著

IT

技術者の長寿と健康のために

近代科学社 224頁 2016年 定価2,400円+税 ISBN: 978-4-7649-0513-9

ムンクの叫びのカバー絵に「生きろ!」というオレ ンジの帯.疲れ果て今にも倒れそうなIT技術者に向 けた本かと思ったが,よく考えたらそのような人が本 を買おう読もうという気にはならなさそうである.本 書の狙いは,その手前,不健康予備軍のIT技術者に 対して幅広い知識,生活への指針を示すことにあるの だろう.

本書で扱われる話題は,医学的な助言に始まり,会 計上の開示制度の提案,最後は未来向けた産業のあり 方まで多岐にわたる.

第一章では,産業医の著者から現場での体験を踏ま えた本書の執筆動機が語られる.語り口はソフトで,

おそらく著者の好みであろうスタジオジブリの映画の 登場人物の台詞が時折挿入される(「いいやつはみん な死んでいく」など)

第二章の前半では,医師の著者によって,自身のダ イエットの失敗や心筋梗塞からの生還の経験に基づき,

経験したことのない異常を感じたときにはなりふり構 わず「うったえる」ことが生存にとって最も大切であ るなど,実生活に直結する知恵が語られる.ソファに 倒れこみながら「すみません!心筋梗塞起こしてるみ たい.すぐに救急車を呼んでください!…」と力の限 り叫んだというくだりなどは真に迫る.

後半は,代謝性疾患,心血管系疾患,メンタル・ヘ ルス,がんなどIT技術者との関連が深い病気につい てのわかりやすい医学的解説が続く.たとえば,メタ ボリックシンドロームや糖尿病といった代謝性疾患に ついては,合併症の微小血管障害(腎症,網膜症,神 経症)により人工透析や失明など生活の質が大きく損 なわれる可能性,大血管障害(脳梗塞,心筋梗塞な ど)生命に関わる病の発症率が上がる可能性,など影

響の大きさが示される.もちろんその予防・治療方針 についても説明がある.

第三章ではIT産業についての統計的実態が客観的 な視点で示されたかと思うと,次の第四章では会計士 の著者により企業にとって最も大切な資産である従業 員の健康状態についての開示が会計的な見地からも必 要ではないかという斬新なアイデアが熱意をもって示 される.

最終章ではクラウド化によるビジネスモデルの変革 期を迎えている産業全体の未来について触れたうえで 総括がなされる.

なぜ「IT技術者の健康」という問題に対して,著 者らがここまで総合的なアプローチを取ったのだろう かと思いを巡らせてみた.

「がん」は一つの疾患を表す言葉ではなく,がん・

肉腫の疾患群を総称する言葉だそうである.がんはど の細胞にできたものかで症状も異なれば治療方法も異 なるという.

IT技術者の健康上の問題もがんと同じではないだ ろうか?「この方法で必ず治ります」という単一の解 決策が期待できないタイプの問題なのだ.

だからこそ本書はIT技術者が自身の健康を維持す るために必要な幅広い知識を独学できるような本を目 指したのではないか.

著者ごとに異なる語り口で時に熱く時に冷静に語ら れているので,自身にあった章から読んでいくのもよ いだろう.

個人的には,IT技術者の健康を大きく左右しうる 立場にある経営者層に読んでもらいたい本である.

(井床利生)

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