厚生労働科学研究費補助金(地球規模保健課題推進研究事業)
分担研究報告書
我が国の経験を踏まえた開発途上国における献血制度の構築と普及に関する研究
(H23‑地球規模‑ 指定 009 )
分担研究:アジア諸国の血液事業の実態に関する研究
分担研究者:野崎慎仁郎、宮崎泰司、Mardy Sek
研究要旨
WHO 世界保健機関では、世界各国の血液需給に関し、各国ごとの自発的な献血に由来する血液 製剤による自給を訴え、各国に無償の自発的な献血の実施を求めている。これは、血液確保が社 会責任であるとの考えに基づいている。しかしながら、実際に 100%献血で血液を賄えているの は、2007 年で 57 カ国と、世界の 1/3 の国にも満たない。
また、2009 年 6 月 14 日、世界献血デーにオーストラリア、メルボルンで採択されたメルボル ン宣言では、2020 年までに全ての国が 100%献血を実施し、各国において要する原料血液を確保 することを求められている。
我が国は 1964 年のライシャワー事件以降、政府が、輸血用血液は献血により確保する体制を 確立するよう閣議で決定し、献血による血液確保を目指し、日本赤十字社を中心とした献血制度 を基本とする血液需給システムを整え、輸血用血液製剤については 1974 年に、血漿分画製剤に ついては 1990 年に、原料血液の確保を献血によって賄うことを達成した。
我が国の献血制度は、国、日本赤十字社及び地方自治体を中心に、地域団体、NGO、学校とい った多くの機関並びに国民の協力によって支えられている。また、我が国の献血は戦後間もない 1952 年から開始されている。当時、我が国は、開発途上国であったと言えるが、献血制度の構築 と普及は、開発途上国であった我が国が社会啓発を中心に教育の力を以って成し遂げた大きな成 果であった。これは、先進国のみが献血を実現できるという概念と正反対に位置するものであり、
社会啓発と教育が献血制度を構築普及させることができるという点、及び、我が国の献血制度の 普及が宗教と何らの関係を持たなかった点において、世界各国へのモデルとして提示できるもの であると言える。
本研究においては、我が国のこれまでの献血制度の構築と普及に至った方策をパッケージ化 し、世界中の開発途上国に我が国の経験を紹介し、共有することにより、2020 年までの全世界で の 100%献血の達成に貢献することを目的とする。
A. 研究目的
我が国の献血制度の構築と普及に関する経 験とノウハウをパッケージ化し、開発途上国に 提示し、以って、開発途上国における献血制度 の普及を促進するという国際貢献を図ってい くことが本研究の目的である。
これまで、我が国の献血制度の構築と普及に 関する経験とノウハウをパッケージ化すると
いう試みは行われておらず、血液パックの供与、
機材供与、血液センターの設置といった国際協 力が実施されてきたが、献血率の向上には直接 的には寄与していない。
フィリピンやスリランカにおける血液銀行 に対する機材、施設の供与といった代表的な国 際協力事業もそれなりの効果はあったが、開発 途上国において、深刻な根本問題は、自国での 原料血液の確保であり、それを献血で賄うこと は、WHO の決議が 1975 年に行われて以来、遅々 として進んでいない。
その理由は、献血者を開発するというソフト コンポーネントが機能的な形で紹介あるいは 供与されていないことに起因するものと思わ れる。
我が国が戦後の開発途上国の時期であった 1964 年から、献血によって、原料血液を賄うと いう閣議決定を受けて、国、日本赤十字社及び 地方自治体を中心に、多くの関連機関を巻き込 んで、どのような社会啓発を行ったのかという 点について提示することを目途とした本研究 は、初めての試みであると言える。
B. 研究方法
第一年度においては、我が国の献血制度の構 築と普及の方策をパッケージ化し、開発途上国 に供与できる教材を作成することを、宮崎、福 吉が担当して行う。具体的には、国、日本赤十 字社、地方自治体が有する経験とノウハウの供 与を受け、それらをマニュアル化の手法に基づ き、英文のパッケージとして取りまとめる。ま た、野崎、菅原は、WHO とも協力し、開発途上 国における血液事業の態様、医療制度、人口構 成、疾病構造、現在行われている医療内容およ
び産業構造・技術力、血液製剤の流通システム、
利用者層などのマーケットリサーチなどにつ いて、アジアやアフリカなどの開発途上国数カ 国を対象に調査を実施し、その他の社会経済指 標等を参考に、宮崎・福吉が策定するパッケー ジ化された教材を活用して、パイロットプロジ ェクトを行うについて最も効率的で効果が期 待できる諸国を抽出する。その際、開発途上国 の献血政策・施策担当者へのインタビュー調査 も行い、対象国のニーズに応じたパイロップロ ジェクト及びパッケージの提供を行う。インタ ビュー対象国(実施国及び数)については、研 究班での協議により決定する。
次いで 2 年目に、それらの国々にふさわしい 技術協力の形態・内容・実施方法などの技術協 力を行う際に必要な事項を整理して戦略を策 定し、パイロットプロジェクトを開始する。宮 崎、福吉、井上が技術的な側面の総括を担当し、
野崎が当該国関係機関との調整やプロジェク トの進捗管理を担当する。
最終年殿今年度はは、パイロットプロジェク トの中心的課題である献血キャンペーンの実 施を実現させ、成果を検証するとともに、国際 的枠組みを検討し、相手国とも協議しながらそ の時点の研究成果の具現化=パッケージの内 容改訂に向けて試行した。
なお、本研究に必要な発表資料や統計資料等 は主として国の内外で公表されたもの及び海 外での調査により収集したものを用いること にしているが、研究全体の遂行は「疫学研究の 倫理指針」に従うとともに、必要に応じて倫理 審査委員会での審査・承認を得た上で実施した。
C. 研究結果
最終年度である本年度は、カンボジアにおい て、パイロットプロジェクトを実施した。カン ボジア保健省、国立血液銀行、WHO、そして、
オーストラリア赤十字等と協力し、2013 年 11 月から 12 月にかけて、7 つの大学で一斉に献血 キャンペーンを実施した。
献血キャンペーン実施の概要は資料1のと おりである。
我が国の献血思想普及の鍵が若者への啓蒙 と若者の自発的な献血思想普及への取り組み
であったことを活用し、カンボジアにおいても、
これらの経験を生かすべく、大学生をターゲッ トにして献血キャンペーンを全国的な動きと することを目的としたが、7 つの大学及び学生 の協力と参加が得られ、国民運動の始まりとな るキャンペーンを展開することができた。また、
その効果測定も行った。
政府や国際機関、マスコミ等を効果的に取り 組み、社会に大きなインパクトを与えられたも のと考えられる。また、これを契機に毎年の献 血キャンペーンの実施が予定されるところ、我 が国がかつて二十歳の献血キャンペーンを実 施し、献血思想の普及が推進されたのと同様の 効果が見られた。
D. 考察
カンボジア王国において、我が国の献血の経 験を生かしたキャンペーンを大学を対象とし て実施することは、カンボジア王国にとっても、
時宜を得たものであったといえる。
カンボジア王国の血液事業の実態は、我が国 の昭和 30 年代の状況と言え、血液製剤の質及 び量の確保が喫緊の課題になっており、献血体 制のみならず、法整備、体制整備、製剤技術の 向上、検査体制の確立、供給システムの確立等、
多くの課題が山積している現状にあるが、保健 省管下の国立血液銀行を中心にそれらの改善 に向けての努力が始まったばかりである。
そのような状況下で大学生が自らの意思で 献血の普及に立ち上がったことは、昭和 30 年 代の我が国の経験と一致する。
我が国の献血思想の普及の経験の多くは、学 生献血と密接な関連を持つものが多く、学生献 血での多くのノウハウが我が国にはあること から、パイロットプロジェクトを通じ、我が国 の経験を活用しての成果が期待できた。
E. 結論
カンボジア保健省、国立血液銀行、カンボジ ア赤十字、外国援助機関との効果的な協力関係 を構築することができた。
首都プノンペン市内の7大学、Institute of Technology of Cambodia (ITC) 、 Royal University of Agriculture (RUA)、Phnom Penh
International University (PPIU) 、 Royal University of Phnom Penh (RUPP)、University of Human Resources (UHR) 、 University of Pannasastra of Cambodia (UPC)、 University of Health Sciences (UHS)の大学関係者及び学 生リーダーとの密接な連絡体制も確保できた。
献血キャンペーンは Big Challenges of Great Universities と名づけられ、延べ 10000 名の参 加を得て、また、献血者も目標を上回る 2615 ユニットを確保することができ、カンボジア王 国にとって、献血思想普及のための大きな転機 となったと思量される。
最も重要な点は、我々研究班が本キャンペー ンを主導したのではなく、保健省や国立血液銀 行、大学や学生への我が国の経験を伝達するこ とを契機に、我が国の経験を活用し、カンボジ アの若者たちが自発的に献血の重要性に着目 し、自ら行動を起こしたことである。二十歳の 献血キャンペーンの経験等を紹介し、主体者で ある大学や学生に多くの示唆を与えたことは 事実であるが、我々の想定に反し、大学や学生 たちは我が国の経験を参考にカンボジア文化 に則したキャンペーンを展開した。ラジオ局の 活用、携帯電話の SMS 等の活用などはその良い 事例である。
今回、参加した 7 大学は今後も同様の献血キ ャンペーンの実施を予定しており、全国的な動 きになっていくことが期待される。
我が国の献血の現状では、若年層の献血離れ が進み、現在、献血量の確保に大きく貢献して いるのは、1970 年代、80 年代に献血キャンペ ーンに積極的に取り組んだ世代の存在が大き い。継続的な献血量の確保のために若年層をタ ーゲットにして、早いうちから献血の重要性を 理解し、自発的に献血に参加する機運を醸成し ていくことが継続的な献血の推進に資すると 期待され、カンボジア政府が我が国の経験の中 からその点に着目したことは、想定外の成果で あった。
パイロットプロジェクトの実施が対象国の 選定の遅れや当該国との交渉に時間を要した ことから、最終年度 1 年に留まったことは、継 続性を確保する観点から十分でなかったと言 えるが、別の機会を通じて、フォローアップが
期待される。
F.健康危険情報
(総括研究報告書にまとめて記入)
G.研究発表
HRH National Conference(タンザニア 9 月 2 日)
A High Level Policy Makers Forum on achieving self‑sufficiency in Safe Blood and Blood Products based on Voluntary Non‑remunerated Donation (イタリア:10 月 8‑9 日)
H.知的財産権の出願・登録状況(予定を含む) 今年度はなし
資料1
カンボジアの大学献血キャンペーン実施概要
資料 2‑1 から 2‑7
各大学の献血キャンペーンの状況