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(1)

NAIST-IS-MT1451088

修士論文

現在地情報を付与した観光地図が観光行動に与える影響

枇榔 晃裕

2016 年 3 月 14 日 奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科

(2)

本論文は奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科に 修士 (工学) 授与の要件として提出した修士論文である。 枇榔 晃裕 審査委員: 加藤 博一 教授 (主指導教員) 萩田 紀博 教授 (副指導教員) Christian Sandor 准教授 (副指導教員) 山本 豪志朗 助教 (副指導教員)

(3)

現在地情報を付与した観光地図が観光行動に与える影

枇榔 晃裕

内容梗概 観光地の地図利用において,スマートフォン上での地図アプリが用いられるこ とが増えている.その一方で,地図アプリだけでなく紙で配布される観光地図を同 時に使用する観光者が見られる.観光地で配られる紙の観光地図は観光者向けに 特化した情報がまとめられており,スマートフォンなどの携帯端末にインストー ルされている地図はユーザの現在位置・方角が表示されていることが利点として あげられる.紙の観光地図と携帯端末の地図はそれぞれの有用性が異なるため, 2 つの地図を見比べながら同時に使用すること観光者が増えてきている.それぞ れの有用性を統合した,観光者向け地図に現在位置・方角を表示する地図サービ スがすでに提供されているが,観光者の観光行動にどのような影響を与えるのか についての評価は示されていない.本研究では,配布されてる観光地図に現在位 置・方角を表示した観光携帯電子地図が,観光中の地図利用に対してどのような 影響を与えるのかについて評価を行った.観光地で対照実験を行った結果,観光 携帯電子地図は従来の携帯端末地図と比べ,地図が見やすく観光中に道に迷った のではないかという不安を感じにくい地図であることが確認された.また,紙の 観光地図と同じ地図が表示されることで,現在位置特定が容易で地図を見やすく 感じ,観光情報が記載された地図に現在地が示されることで地図の見比べをしな くてよいことから観光携帯電子地図に好意的な反応が得られた. 奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 修士論文, NAIST-IS-MT1451088, 2016 年 3 月 14 日.

(4)

キーワード

(5)

Effect of tourist maps with added location

information on tourists

Akihiro Biro

Abstract

The number of tourists using electronic maps on their smart phone are increac-ing. On the other hand, some tourists use electronic maps with paper tourist maps. Most electronic maps are general purpose maps, general purpose maps are, however, unfit for tourism. Paper tourist maps don’t have user’s location information. These two maps have different benefits, so some tourists use both types of maps; general purpose maps and paper tourist maps. The purpose of this study is to observe the effect on tourists when they use tourist maps with added location information. This study shows the difference in usefulness be-tween a tourist map that shows the users location, and a general purpose map that shows the users location. We asked tourists to compare two maps for use in tourism, took videos to observe users’ behavior, and requested them to answer questionnaires. Based on our results, augumented tourist maps decrease users’ uneasy feeling and the risk of losing their ways. The users preferred augumented tourist maps over conventional electronic maps.

Keywords:

tourism, tourist map, location information, electronic map, augumented tourist maps

Master’s Thesis, Graduate School of Information Science, Nara Institute of Science and

(6)

目 次

1. はじめに 1 1.1 地図を用いた観光行動 . . . . 1 1.2 研究の目的 . . . . 3 2. 観光地図と地図評価についての関連研究 5 2.1 一般携帯電子地図の利用拡大 . . . . 5 2.2 観光地図を組み合わせたアプリ . . . . 5 2.3 移動課題の認知モデル . . . . 7 2.4 地図作成と地図の評価実験 . . . . 8 2.4.1 General 型地図 . . . . 9 2.4.2 Path 型地図 . . . . 9 2.4.3 Position 型地図 . . . . 11 2.5 分析 . . . . 14 3. 予備実験 16 3.1 観光地選択:研究室内 . . . . 16 3.1.1 比較する地図 . . . . 17 3.1.2 実験の流れ . . . . 17 3.1.3 実験結果 . . . . 19 3.2 ストリートビューと地図を用いた目的地までの移動:研究室内 . . 19 3.2.1 実験の流れ . . . . 19 3.2.2 比較する地図 . . . . 21 3.2.3 実験結果 . . . . 23 3.3 観光地選択 . . . . 25 3.3.1 比較する地図 . . . . 25 3.3.2 実験の流れ . . . . 27 3.3.3 実験結果 . . . . 27 3.4 観光地での地図を利用した移動 . . . . 30

(7)

3.4.1 実験に用いる地図 . . . . 30 3.4.2 実験の流れ . . . . 31 3.4.3 所要時間 . . . . 33 3.4.4 アンケート . . . . 33 3.5 観光地での地図を利用した観光 . . . . 36 3.5.1 実験に用いる地図 . . . . 36 3.5.2 実験の流れ . . . . 36 3.5.3 結果 . . . . 37 3.6 ストリートビューと地図を用いた目的地までの移動 . . . . 37 3.6.1 実験の流れ . . . . 38 3.6.2 比較する地図 . . . . 39 3.6.3 実験結果 . . . . 41 3.7 予備実験全体に対する考察 . . . . 45 4. 実験設計 46 4.1 システム概要 . . . . 46 4.2 観光携帯電子地図に対する仮説 . . . . 49 4.2.1 仮説1:地図を開きながら周りの地図を見る時間が少なく なり,地図を閉じている(観光している)時間が増える . . 49 4.2.2 仮説 2-1:現在地がわからないという不安感が減少する . . 49 4.2.3 仮説 2-2:道に迷う回数が少なくなる . . . . 50 4.2.4 仮説 3:電子化したことで紙の観光地図の長所は消えていない 50 4.2.5 仮説 4:観光携帯電子地図を好むユーザが多い . . . . 50 4.2.6 仮説検証方法 . . . . 50 5. 実験 52 5.1 実験手順 . . . . 52 5.2 結果 . . . . 55 5.2.1 地図の使用感についてのアンケート . . . . 55 5.2.2 道に迷った回数 . . . . 58

(8)

5.2.3 地図閲覧時間 . . . . 64 5.2.4 どちらの地図が好ましいか . . . . 64 5.2.5 地図に対する意見 . . . . 66 6. 考察 69 6.1 観光中の不安感 . . . . 69 6.2 地図の利便性について . . . . 69 7. まとめと今後の展望 72 謝辞 73 参考文献 74

(9)

図 目 次

1 実験の構成 . . . . 4 2 地図利用率の変移([5] を基に作成) . . . . 6 3 平成 26 年モバイル機器等の利用率 [6] . . . . 6 4 意図的に道路の形を歪ませた地図例 [7] . . . . 8 5 旅程の自動作成システム [22] . . . . 10 6 手書き風案内図の生成 [12] . . . . 11 7 認知心理学を基にした加工地図 [19] . . . . 12 8 観光地図の生成 [11] . . . . 12 9 幾何学補正の手法を用いた座標変換 [25] . . . . 13 10 イラストマップと世界座標系との対応付け手法 [26] . . . . 14 11 実験の構成 . . . . 16 12 観光地選択における地図の比較:研究室内 . . . . 18 13 観光ポイント選択の所要時間 . . . . 20 14 選んだポイントに行って,どの程度満足できると思うか . . . . 20 15 選んだポイントの風景がどの程度イメージできるか . . . . 21 16 実験環境 . . . . 22 17 観光地移動における地図の比較:研究室内 . . . . 23 18 スタートからゴールまでの所要時間 . . . . 24 19 文字情報なし一般携帯電子地図+観光地情報 . . . . 26 20 一般携帯電子地図+観光地情報 . . . . 26 21 観光携帯電子地図 . . . . 26 22 一般携帯電子地図 . . . . 31 23 観光携帯電子地図 . . . . 31 24 実験の様子 . . . . 32 25 設定したチェックポイント . . . . 34 26 実験環境 . . . . 38 27 暗転と地図表示の切替 . . . . 39 28 一般携帯電子地図 . . . . 40

(10)

29 観光携帯電子地図 . . . . 40 30 観光案内地図 (位置・方角なし) . . . . 41 31 実験後に描かれた地図 . . . . 44 32 テーブル内に含まれている座標情報の例 . . . . 47 33 システムの構成 . . . . 48 34 電磁気センサから現在の方角を取得し表示 . . . . 48 35 店舗詳細の表示 . . . . 49 36 一般携帯電子地図の画面表示 . . . . 54 37 観光携帯電子地図の画面表示 . . . . 54 38 地図で見つけた目的地まで迷わなかったか . . . . 56 39 スマートフォンの地図は見やすかったか . . . . 57 40 迷っているのではないかと不安になったか . . . . 58 41 途中迷ったりあるいは不安に感じたか . . . . 59 42 地図に記入されたルートと実際に歩いたルートが異なる箇所の数 . 60 43 ユーザが報告した道を見失ったと感じた箇所の数 . . . . 60 44 ユーザが記入した地図例 1 . . . . 61 45 ユーザが記入した地図例 2 . . . . 62 46 ユーザが記入した地図例 3 . . . . 63 47 観光中地図を見ていた時間 . . . . 65 48 紙の観光地図を見ていた時間/地図を見ていた時間 . . . . 65 49 2 パターンの地図について,次回の観光で利用するならどちらが使 いたいですか . . . . 66

表 目 次

1 村越による情報処理モデルの比較 [24] . . . . 9 2 ユーザと使用地図の組み合わせ . . . . 17 3 アンケート結果(はいを選んだ人数) . . . . 24 4 地図の特性 . . . . 27

(11)

5 地図全体を見て,自然が豊かだと感じますか? . . . . 28 6 地図全体を見て,歴史や文化があると感じますか? . . . . 28 7 地図全体を見て,交通インフラが充実していると感じますか? . . 28 8 選んだポイントにどの程度行ってみたいですか? . . . . 28 9 実際に行く場合,地図を見ながら選んだポイントまで迷わずにた どり着けそうですか? . . . . 29 10 北側ブロック平均所要時間(分) . . . . 35 11 南側ブロック平均所要時間(分) . . . . 35 12 観光地での移動:アンケートの回答結果平均値 . . . . 35 13 スタートからゴールまでの平均所要時間 (分 ’秒) :天川村 . . . . 41 14 スタートからゴールまでの平均所要時間 (分 ’秒)  :琴平町 . . . 42 15 地図の表示時間 (秒)/表示回数:天川村 . . . . 42 16 地図の表示時間 (秒)/表示回数:琴平町 . . . . 42 17 平均点数:天川村アンケート . . . . 43 18 平均点数:琴平町アンケート . . . . 44 19 座標系変換テーブル型 . . . . 46

(12)

1.

はじめに

スマートフォンの普及にともない,観光地においても携帯端末上で地図アプリ ケーションを開き利用する観光者が増加してきた.案内地図やガイドマップといっ た紙の観光地図も観光地の駅や観光施設,店舗などで観光者に配布され利用され ている.観光地で地図を利用する観光者の行動を観察すると,配布されている紙 の観光地図と携帯端末上の地図アプリケーションを同時に利用する観光者が見ら れる.しかしながら,両地図を一緒に利用する観光者を観察すると,紙の観光地 図と携帯端末地図を見比べ,それぞれの情報を関連づけることに苦戦している様 子が見られた.本研究では,観光地図に現在地情報を直接表示した地図が,紙の 観光地図と携帯端末地図の見比べをする負担を軽減することで観光者にどのよう な影響を与えるかを調べ,観光地図に現在地情報を付与した地図の有用性を検証 する.

1.1

地図を用いた観光行動

観光地の駅や観光施設,店舗などで観光者に配布されている案内地図やガイド マップといった観光地図(以下,紙の観光地図)は主に,観光者が次にいく場所 を決めるときに周囲にどのような観光スポットがあるか,興味を引かれる店舗は あるか,その場所に行くまでに寄り道すると楽しそうな道や店はないかといった 情報を地図から取り出すことを目的に用いられる.紙の観光地図はこのような観 光者向けの情報に特化しており,文字情報だけでなく,写真やイラストからもエ リア内に立ち寄るべきスポットがいくつかあることを表現している. 地図は一般図と主題図の 2 つに大別される.一般図は国土地理院地形図に代表 される,地表面上の自然・人口のすべてのものを縮尺に応じて均等に表現したも のを指し,多目的に利用される.対して主題図は土地利用や人口・防災・観光など, 特定の主題について,詳しい情報を編集して表現した地図である.特定の目的を 伴わず多目的に用いられる利便性を確保するため,スマートフォンやタブレット 端末といった携帯端末には,Google Maps [2] や Yahoo!地図 [3] といった一般図 に近い地図表現がなされた地図アプリケーションがインストールされていること

(13)

が多い.対して紙の観光地図は,観光者向けに情報を特化するため観光者向けに 地図に記載される情報が編集され,地図によっては縮尺が歪められて道路が描写 される主題図である. 観光地図が配布されるのは駅前や観光センターといったところで紙としての配 布が主であるが,近年は Web サイト上で PDF などとして配布されることもある. このような地図は紙で配布されるものを電子化しアップロードされているだけで あるため,この研究では電子化され配布される観光地図も紙の観光地図と同様の ものとして扱う. スマートフォンやタブレット端末などの携帯端末から起動できる一般図に近い 地図表現がなされた地図アプリケーション(以下,一般携帯電子地図)では,内 蔵されている GPS の機能によって現在位置の情報が取得され,磁気センサによっ て携帯端末が向いている方角を取得することができる.そのため,自身が立って いる位置と地図上の位置を対応付け,自身がどの方向を向いているのかを判断し やすい.GPS・磁気センサから取得できる値を用いることで,ユーザは地図と周 囲の環境を見比べることなく,地図上での現在位置・方角の特定を行うことがで きる. GPS や磁気センサが利用できない紙の観光地図の場合は,ユーザは地図と周囲 の環境を見比べ,環境から位置・方角に必要な情報を選び,選び出した情報を地 図と比較することで地図上での位置・方角を判断している.しかしながら,竹内 が示すように実際に空間行動を行うにあたって,それぞれの能力の成熟率に個人 差がある [27].また,観光と一口にいっても観光者の行動は多岐にわたるが,地 図を用いるときの行動は大きく分けて地図から目的地やランドマークを設定する プランニング,現在位置・方角の把握や移動距離の推測を行う実行の 2 つに分類 される [10] [24].このうち,プランニングは紙の観光地図が得意とし,実行は一 般携帯電子地図が得意としている.それぞれの地図が得意とする部分が違うため, 2 つの同じ場所の地図を見比べる観光者が現われる.

(14)

1.2

研究の目的

観光情報の取得が行いやすい紙の観光地図と,現在位置・方角の特定がしやす い一般携帯電子地図,それぞれの有用性が異なるため,観光地では両方の地図を 利用する観光者が確認できる.しかし,2 つの地図を同時に見ようとすると,そ れぞれの地図を見比べるのが難しいため,観光そのものよりも地図上での現在地 探しに集中してしまう.予備実験として観光者に奈良市奈良町エリアを 2 つの地 図を利用しながら歩いてもらうと,インタビューから 2 つの地図を見比べるとい うことを不便に感じるという意見が得られた. ここで観光地図に現在位置・方角の情報を表示すると,紙の観光地図が観光者 に向けられた主題図であること,一般携帯電子地図が地図上での現在位置・方角 を表示できること,それぞれの長所を持った地図になると考えられる.観光地図 に現在地情報を表示するサービスが提供されることもあるが,このような地図が 観光者に与える影響について評価・分析をした研究はみられない.観光地図に現 在地情報を表示することのメリット・デメリットを明確にできれば観光地での地 図サービス向上が見込まれる.そこで,本研究では観光地図に現在位置・方角の 情報を表示した地図が観光者にどのような影響を与えるかを調べ,評価・検証を 行う. 以降では,まず 2 章で観光地図へ現在位置を表示するアプリケーションと地図 作成に関する研究を俯瞰し,3 章で図 1 のような構成で評価する基準を設定する ために行った予備実験について述べる.次に,4 章で地図の違いがユーザに与え る影響を検証するためのプロトタイプシステムの設計と,そのシステムで検証す る仮説について示す.提案するナビゲーションインタフェースのコンセプトや開 発したプロトタイプシステムに関する詳細を述べ,5 章で提案したシステムにつ いて行った実験とその結果の報告を行い,6 章で結果に対して考察する.最後に, 7 章で本研究のまとめと今後の課題について述べる.

(15)
(16)

2.

観光地図と地図評価についての関連研究

本章では,観光地図へ現在位置を表示するアプリケーションと地図作成を行う 研究について俯瞰する.次に本研究がどのような分岐を作り出すのかを設定する.

2.1

一般携帯電子地図の利用拡大

スマートフォンやタブレット端末などの携帯端末における地図利用が拡大して いることを示す。ゼンリンの調査 [5] によると 2013 年-2015 年における地図の利 用率は,モバイル用インターネット地図が 32.6%,38.8%,46.3%と増加傾向であ る(図 2).モバイル用インターネット地図と紙地図が同じような地図機能を持つ 場合,モバイル用インターネット地図の伸びと比例して紙地図の利用することが 減少することが考えられるが,経年変化をみるとモバイル用インターネット地図 の伸びにも関わらず,紙地図の利用率は 27.2%,26%,26.1%とほぼ横ばいとなっ ている.このことから,モバイル用インターネット地図と紙地図の棲み分けがさ れていることが考えられる. 次に,スマートフォン,フィーチャーフォン及びタブレット端末の利用率につ いて見ていく.総務省の調査によると,スマートフォン,フィーチャーフォン及 びタブレット端末の利用率は図 3 のように経年変化しており,スマートフォン・タ ブレットが増加しフィーチャーフォンが減少しているのがわかる.平成 26 現在に おいては,モバイル機器の中ではスマートフォンの利用率がタブレット・フィー チャーフォンよりも高いことがわかる.

2.2

観光地図を組み合わせたアプリ

観光者やエンターテイメント施設の来場者に対する地図アプリケーションサー ビスとして,一般図ではなく主題図に現在位置情報を付与した地図が提唱される ことがある.ユニバーサル・スタジオ・ジャパン公式ガイドアプリはユニバーサ ル・スタジオ・ジャパンの来場者に対して,アトラクションの待ち時間やショー のスケジュールに加えて,敷地内の案内図を表示し,案内図上に現在位置を表示

(17)

図 2 地図利用率の変移([5] を基に作成)

(18)

している [4].施設内の案内のためにつくられた精確な縮尺でない地図を用いてい るため世界測地系とのズレがあり,ユーザが立つ位置によっては道路上にいるに も関わらず海の上に現在位置が表示されることがある.しかし,おおまかでああ るが現在地が表示され,特徴的なランドマークが周囲に多数存在するため,現在 地の特定は比較的容易である. ちずぶらりは,古地図やイラスト地図といった精確な縮尺でない地図を世界 測地系と関連づけ,古地図やイラスト地図の上に現在位置を表示する地図アプリ ケーションとして提供するサービスを行っている [1][30].提供している地図アプ リケーションの中には,観光を目的とする地図も含まれている. 観光を目的とした地図を基にした現在地情報を表示する地図サービスはいくつ か提供されているが,これらに対するユーザテストの結果は発表されていない.

2.3

移動課題の認知モデル

Tolman らはラットを用いた実験により移動課題を分析し,ルート決定は空間 的な位置関係の把握から行われることを示した [17].記憶の中に構築された空間 的な位置関係は認知地図と呼ばれ,地図を用いた目的地までの移動や順路の決定 には認知地図が用いられると述べている.Shemyakin は認知地図にルートマップ 型とサーヴェイマップ型があることを指摘した [15].ルートマップ型では経路上 での移動を系列的に保持し,空間内の移動を道の集合として理解している.サー ヴェイマップ型は環境内の空間関係を俯瞰した形で把握しており,環境の全体的 な位置関係を理解している. 一方で,認知地図は必ずしも正確な地図が生成されるわけではない.Sadalla らは曲がり角や交差点が多いほど認知地図上の距離が長くなることを示し [14], Byrne は交差点の交差角度は 90 度に近く評価されることを述べた [9].このよう な現実空間との相違は認知地図の歪みと表現される.そのため,紙の観光地図の 中には土地に不慣れな観光者に対して理解しやすい地図とするため,地図を正確 な縮尺で描かず,図 4 のようにあえて地図を歪ませ歪んだ認知地図に合致しやす いよう描いた観光地図もみられる.

(19)

図 4 意図的に道路の形を歪ませた地図例 [7] Garling らは移動課題における情報処理モデルをプランニングと実行の2段階 で考えるモデルを提唱した [10].プランニングは情報へのアクセス,目的地と訪 れる順序の設定,目的地へのルート決定の工程で構成され,実行段階では場の再 認,進路の維持と予期を行う.人間は環境中から情報を抽出して移動課題を遂行 している.移動課題の認知プロセスを表す情報処理モデルは多く提唱されている. 移動課題のモデルは他にもいくつか提唱されているものの [8][13],表 1 に示すよ うにこれらのモデルはプランニングと実行を詳細に分割したモデルであると言え る [24][16].このうち,プランニングは紙の観光地図が得意とし,実行は一般携帯 電子地図が得意としている.それぞれの地図が得意とする部分が違うため,2 つ の同じ場所の地図を手にして見比べる観光者が現われる.

2.4

地図作成と地図の評価実験

北山らは観光に用いられる地図を,Google Maps や Yahoo!地図のような一般 図に近い地図を General 型地図,目的地点までの道案内をするための Path 型地 図,オブジェクトの配置関係を示すための Position 型地図の3種類に分類してい る [20].3種類の地図という観点から,観光と地図の関係について概観していく.

(20)

2.4.1 General 型地図

栗山らは観光の旅程を自動的に算出し,ユーザの経路案内,発着案内を行う観 光スケジュール自動作成している [22].目的地を入力すると,Google Maps API を利用したインタフェース上に各観光地の到着・出発予定時刻を含むスケジュー ルを算出しユーザに提示するシステムを提案している(図 5). 2.4.2 Path 型地図 Path 型地図に関しては,ルートマップ型認知地図を形成しやすい目的地までの 移動に特化した地図を生成するために,一般図から情報を抽出して地図を描画す る研究がある.生成した地図に対しユーザテストを行い,評価を行っている.

Kopf らは,Google Maps からナビゲーションに必要な道路情報を取り出し,手 書き風の案内図を生成している [12].図 6 のように道路情報だけを取り出し,手 書き風に加工して描写しているため,道の形は正確ではなくなっている.しかし, ユーザを用いた評価から,手書き風の地図は既存の加工前の地図と比べて,より 心地よく感じるといった結果が示されている. 二宮らは,ナビゲーションに必要な情報を取り出し認知心理学を基に地図の加 工をする試みを行っている [19].図 7 のように地図上の道路を直線的に描画した 表 1 村越による情報処理モデルの比較 [24] Garling ら [10] Oatley[24] Board[8]

地図上での同定 プランニング 目的地の把握 目的地の地図上での定位 地図上での方向決定 プランの形成 ランドマークの設定 適当な距離の移動 実行 移動距離の推測 現地での同定 現在地の把握

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(22)

図 6 手書き風案内図の生成 [12] り,交差点を直角に描写したりする加工をした地図を生成し,既存の地図とユー ザを用いた比較を行ったところ,道路の形は精確ではないにも関わらず,道中の 不安感などが減少したことが示されている. Kopf ら,二宮らの研究から目的に併せて編集加工された地図は,道路の情報 が精確でなくとも,より心地良く感じ,不安感を減少させることがわかる. 2.4.3 Position 型地図 Position 型地図に関する研究には,サーベイマップ型認知地図を形成しやすい ように情報を抽出し地図の生成を行うもの [28], [29] と,精度の異なる地図を GIS で幾何補正するものがある [18].[21].

Grabler らは,Google Maps から観光者に向けた情報を取り出し編集し,観光 地図を生成している [11].観光者にとって重要な道路やランドマークといった情 報を選択し地図上で強調するシステムを作成し,San Francisco や Market Street の地図を例示し,建物の位置が把握しやすくなっているとまとめている (図 8).

(23)

図 7 認知心理学を基にした加工地図 [19]

(24)

ルとアフィン変換を組み合わせた幾何補正手法を提案し,補正を行っている [23]. 清水らの手法を用いると,相互に一致させたい基準点を与えれば,精度の異なる 地図同士で座標の幾何変換を行うことができる.そのため,観光地図や案内図と いった精度の低い地図を世界測地系に変換することができる. 矢野らは意図的な変形を伴う地図を古地図の幾何学補正の手法を用いて世界測 地系に対応付けを行っている [25].双方の地図で対応の取れている地点を選定し, 座標変換を行っている (図 9).植物園で5名の被験者を対象に実験を行い,変形 を伴う地図と世界測地系の対応付けが成功していることを確認している. 図 9 幾何学補正の手法を用いた座標変換 [25] 石井らはイラストマップの文字認識からランドマークの抽出を行い,抽出した ランドマークからイラストマップと世界座標系との対応付けを行う手法を検討し ている [26].図 10 のようにイラストマップに文字認識を行いランドマークを抽出,

(25)

実地図との対応関係が正確な基準点としてイラストマップの幾何補正を行い,補 正したイラストマップを電子地図に重ね合わせる手法を考察している.

図 10 イラストマップと世界座標系との対応付け手法 [26]

2.5

分析

観光に用いられる地図としては,General 型地図,Path 型地図,Position 型地 図の3種類に分類でき,Path 型地図ではナビゲーション用に主題図を作成するこ とで,ユーザにとって心地よいと感じるものとなり,道中の不安感などが減少し たことが示されている.Position 型地図の研究として,変形を伴う正確な縮尺で ない地図を世界測地系の座標と対応づける手法が検討されている.

Path 型地図と Position 型地図の違いとして,Path 型地図を用いる場合はあら かじめ目的地が定まっており,なるべく最短の距離と時間で目的地まで向かうこ とを課題としている.この課題を達成するためにルート型認知地図の形成を手助 けするような地図が歓迎される.観光は目的地が定まっていないことも多く,店 舗や観光施設の位置関係を思い浮かべながら寄り道がしやすそうなエリアを歩き ながら考え観光する.そのため,サーベイ型認知地図が形成しやすいオブジェク トの配置関係を示す Position 型地図が歓迎される. 紙の観光地図は Position 型地図され,加えて一般携帯電子地図には含まれない 情報も多数記載されることがある.例として,地図に記載されない程度の小さな

(26)

ランドマークや手洗い,野生動物の生息地,一般図からは読み取ることができな い商店街と一般道の区別などがある.一般携帯電子地図から観光者向けの地図を 生成し評価を行う研究もあるが,観光協会や商工会議所などがつくる観光者向け の地図に対する研究は少ない.観光を目的とした地図を基にした現在位置・方角 を表示するサービス例もあるが,観光地でのユーザテストの結果は報告されてい ない. 本研究では観光地で配布される観光地図に現在位置・方角の情報を加えること が観光者にとってどのような点で一般携帯電子地図と比べて利点となるのかを明 らかにする. 次章では予備実験を行い,ナビゲーションにおいて配布されている紙の観光地 図でも,ナビゲーション用に作成した地図 [12][19] と同様に観光者にとって心地 よく,観光中の不安を取り除くといった効果が得られるのかを確認する.また, プランニング段階において地図の違いが観光者の選択に違いを与えるのかを検証 する.加えて,地図の違いによって観光中の地図利用に違いが見られるのかを観 光地での予備実験から考察する.

(27)

3.

予備実験

観光者に与える影響を評価する基準を設定するため,図 11 のような構成で数回 にわたって予備実験を行った.3.1 節-3.6 節で予備実験の詳細と結果を述べ,3.7 節にて予備実験から得られた結果の考察を行う. 図 11 実験の構成

3.1

観光地選択:研究室内

2015 年 1 月下旬に観光地図の情報が観光地選択に影響を与えるのかをテスト した.同研究室の大学院生 6 名(男 6,23-25 歳)を対象として,2 名ごとの 3 グ ループに分け,被験者内実験を行った.

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3.1.1 比較する地図 実験対象の地域として,奈良市奈良町,京都哲学の道,兵庫六甲山を選択した. それぞれの地域に対して,3 タイプの地図を用意した. 一般携帯電子地図 GoogleMapsAPI を用いて地域の地図を表示した(図 12 左). GoogleMaps がもつ機能に制限は設けず,GoogleMaps のもつ情報内へのリンク, ストリートビューの使用に制限は行わなかった. 一般携帯電子地図 +観光地情報 紙の観光地図に記載されている店舗名や施設 名を観光地情報として,GoogleMaps に表示した(図 12 右).観光地情報に加え て,GoogleMaps の情報も画面上に表示されている.GoogleMaps がもつ機能に 制限は設けず,GoogleMaps のもつ情報内へのリンク,ストリートビューの使用 も制限は行わなかった. 観光携帯電子地図 各地の観光協会の Web ページまたは各地で配布されている 紙の観光地図を GoogleMapsAPI を用いて表示,地図の拡大縮小を行えるように した.加えて,配布されている紙の観光地図に店舗の詳細情報が別途付与されて いる場合は地図上で詳細情報がポップアップするマーカーを設置した(図 12 下). 3.1.2 実験の流れ ユーザには表 2 のように地図を見せ実験を行った.奈良市奈良町,京都哲学の 道,兵庫六甲山の順に地図を提示した. 表 2 ユーザと使用地図の組み合わせ 一般携帯電子地図 一般携帯電子地図 観光携帯電子地図 +観光地情報  グループ 1 奈良市奈良町 京都哲学の道 兵庫六甲山 グループ 2 京都哲学の道 兵庫六甲山 奈良市奈良町 グループ 3 兵庫六甲山 奈良市奈良町 京都哲学の道

(29)
(30)

それぞれの地図と共に「地図から行ってみたいポイントを 5 つ選んでください」 の設問を提示したアンケート用紙をユーザに渡した.ユーザがポイントを 5 か所 選択し,用紙に記入し終わるまでの時間を計測し,観光する箇所の選択にかかる 時間を検証する.5 か所のポイントをユーザが記入し終えたあと,それぞれのポ イントに対して以下のアンケートに 0-10 の 11 段階で答えてもらう. • 選んだポイントに行って,どの程度満足できると思うか • 選んだポイントの風景がどの程度イメージできるか 3.1.3 実験結果 観光ポイント選択の所要時間に対しては図 13 のような結果が得られた.グラフ 上の数値はユーザごとの所要時間,グラフ下部の丸囲み数字はどのユーザが行っ たものかを示す.平均では観光携帯電子地図の所要時間が小さくなる.それぞれ のポイントに対するアンケートの結果は図 14,15 のようになった.グラフは選 択されたポイントに n 点がつけられた回数を示す.「選んだポイントに行って,ど の程度満足できると思うか」,「選んだポイントの風景がどの程度イメージできる か」に対して,観光携帯電子地図では他の 2 パターンの地図に対して,得られる 得点の期待値が高くなった.

3.2

ストリートビューと地図を用いた目的地までの移動:研究室内

3.1 節の実験後に続けて,観光携帯電子地図が目的地に到着するまでの地図の 表示時間に影響を与えるのかをテストするため,以下のような予備実験を行った. 同研究室の大学院生 6 名(男 6,23-25 歳)を対象として,3 名ごとの 2 グループ に分け,被験者内実験を行った. 3.2.1 実験の流れ 奈良先端科学技術大学院大学内にて実験をおこなった.奈良県奈良市・京都哲 学の道の 2 エリアに対して,それぞれ 2 パターンの地図を作成した.実験ではデ

(31)

図 13 観光ポイント選択の所要時間

(32)

図 15 選んだポイントの風景がどの程度イメージできるか スクトップ PC と iPad を用意した(図 16). デスクトップ PC でストリートビューの表示,iPad にて地図を表示し,地図上 にストリートビューでの位置とゴールまでのルートを表示した.ユーザには地図 を見ながら地図上のゴールまでのルート上をストリートビューを用いて移動する ように伝えた.ゴールまでのルートは同距離のものを用意している. それぞれのエリアで移動が完了したのち,以下のアンケートに記入してもらった. • ルートを迷わずにたどることができたか(はい/いいえ) • 地図が見やすかったか(はい/いいえ) • 迷っているのではないかと不安になったか(はい/いいえ) • 途中,迷ったり,あるいは不安に感じたか(はい/いいえ) 3.2.2 比較する地図 iPad に表示する地図として 2 パターンの地図を用意した.

(33)
(34)

一般携帯電子地図 GoogleMapsAPI を用いて実験エリアの地図を表示,ストリー トビューが表示している位置とゴールまでのルートを地図上に表示した(図 17 左). 観光携帯電子地図 紙の観光地図を GoogleMapsAPI を用いて表示,地図の拡大 縮小を行えるようにした.加えて,ストリートビューが表示している位置とゴー ルまでのルートを地図上に表示した(図 17 右). 図 17 観光地移動における地図の比較:研究室内 3.2.3 実験結果 それぞれストリートビュー上でスタートからゴールまでにかかった移動時間は 図 18 のような結果となった.グラフ上の数値はユーザごとの所要時間,グラフ下 部の丸囲み数字はどのユーザが行ったものかを示す.スタートからゴールまでの 移動にかかる所要時間に対して,地図の種類による差はほとんど見られなかった. それぞれのエリアで移動が完了したのち,回答されたアンケートの結果は表 3 の通り.表中の数値は(はい/いいえ)の 2 択ではい を選んだ人数(6 人中)を 示す. 観光携帯電子地図は一般携帯電子地図と比較して,ルートを迷わずにたどるこ とができ,地図が見やすく,道中不安を感じづらいという結果となった.

(35)

図 18 スタートからゴールまでの所要時間 表 3 アンケート結果(はいを選んだ人数) 一般携帯電子地図 観光携帯電子地図 ルートを迷わずにたどることができたか 2 3 地図が見やすかったか 3 5 迷っているのではないかと不安になったか 2 0 途中,迷ったり, 3 1 あるいは不安に感じたりしたか

(36)

3.3

観光地選択

2015 年 4 月中旬に観光地図の情報が観光地選択に影響を与えるのかをテストし た.コンピューター上に地図を表示しアンケートを用いた主観評価を行う.ユー ザは大学生または大学院生 15 名(男 13 女 2)年齢は 21-24 歳.5 名ごとの 3 グ ループに分け,被験者内実験を行った. 3.3.1 比較する地図 実験対象の地域として,奈良市奈良町,京都哲学の道,兵庫六甲山を選択した. それぞれの地域に対して,3 タイプの地図を用意した.地図の特性は表 4 のよう にまとめられる. 文字情報なし一般携帯電子地図+観光地情報 紙の観光地図に記載されている店舗 名や施設名を観光地情報として,API の設定により文字情報を除いた GoogleMaps に表示した(図 19).表示される地図は GoogleMaps のものであるが,表示され ている店舗名や施設名などの文字は紙の観光地図のものが表示されている.紙の 観光地図と同様に,地図を拡大縮小しても地図内の文字情報の増減はない. 一般携帯電子地図+観光地情報 紙の観光地図に記載されている店舗名や施設名 を観光地情報として,GoogleMaps に表示した(図 20).観光地情報に加えて, GoogleMaps の情報も画面上に表示されている.GoogleMaps がもつ機能に制限 は設けず,GoogleMaps のもつ情報内へのリンク,ストリートビューの使用も制 限は行わない.地図を拡大縮小すると,地図内の表示される店舗名や施設名など の文字情報が増減する. 観光携帯電子地図 各地の観光協会の Web ページまたは観光地で配布されてい る紙の観光地図を,GoogleMapsAPI を用いて地図の拡大縮小を行えるようにし た.加えて,配布されている紙の観光地図に店舗の詳細情報が別途付与されてい る場合は地図上で詳細情報がポップアップするマーカーを設置した(図 21).

(37)

図 19 文字情報なし一般携帯電子地図+

観光地情報 図 20 一般携帯電子地図+観光地情報

(38)

表 4 地図の特性 情報内容 地図 情報粒度 文字情報なし 一般携帯電子地図 観光情報 正確 一定 +観光情報 一般携帯電子地図 一般携帯電子地図 正確 可変 +観光情報 +観光情報 観光携帯電子地図 観光情報 不正確 一定 3.3.2 実験の流れ ユーザには 3.1 と同様の組み合わせで奈良市奈良町,京都哲学の道,兵庫六甲 山の順に地図を提示し実験を行った.地図と同時に「地図から行ってみたいポイ ントを 5 つ選んでください」と設問を提示し,5 か所のポイントをユーザが記入 し終えたあと,それぞれのポイントに対して以下のアンケートに 0-6 の 7 段階で 答えてもらう. • 地図全体を見て,自然が豊かだと感じますか? • 地図全体を見て,歴史や文化があると感じますか? • 地図全体を見て,交通インフラが充実していると感じますか? • 選んだポイントにどの程度行ってみたいと思うか • 実際に行くとなった場合地図を見ながら選んだポイントにたどり着けそうか 3 パターンの地図について答えてもらったのちに,ユーザへ「良い点,悪い点, ほかの地図と比べて使いやすかった点」について自由記述をしてもらった. 3.3.3 実験結果 7 段階のアンケートに対して表 5-9 のような結果が得られた.図中には 15 名の ユーザから得られた回答の平均値を示す.それぞれの設問に対して,地図の種類 による大きな差は見られなかった.

(39)

表 5 地図全体を見て,自然が豊かだと感じますか? 文字情報なし一般携帯電子地図 一般携帯電子地図 観光携帯電子地図 +観光地情報 +観光地情報  奈良市 1.2 1.6 1.2 哲学の道 1.4 2.2 3.6 六甲山 4.8 3.8 4.6 表 6 地図全体を見て,歴史や文化があると感じますか? 文字情報なし一般携帯電子地図 一般携帯電子地図 観光携帯電子地図 +観光地情報 +観光地情報  奈良市 2.8 4.6 4.2 哲学の道 3.4 3.8 5.4 六甲山 3 1.8 2 表 7 地図全体を見て,交通インフラが充実していると感じますか? 文字情報なし一般携帯電子地図 一般携帯電子地図 観光携帯電子地図 +観光地情報 +観光地情報  奈良市 1.4 2.6 1.2 哲学の道 0.8 3.8 3.6 六甲山 2.2 1.8 2.4 表 8 選んだポイントにどの程度行ってみたいですか? 文字情報なし一般携帯電子地図 一般携帯電子地図 観光携帯電子地図 +観光地情報 +観光地情報  奈良市 4.15 3.75 4.7 哲学の道 4.55 4 4.6 六甲山 4.1 4.35 3.8 total 4.2666667 4.0333333 4.3666667

(40)

表 9 実際に行く場合,地図を見ながら選んだポイントまで迷わずにたどり着け そうですか? 文字情報なし一般携帯電子地図 一般携帯電子地図 観光携帯電子地図 +観光地情報 +観光地情報  奈良市 3 2.6 3.4 哲学の道 2.85 2.45 3.75 六甲山 2.1 2.6 3.15 total 2.65 2.55 3.4333333 自由記述には以下のような回答が得られた. 観光携帯電子地図 • 他の地図に比べて正確さは欠けてる気がするが,観光案内とかに特化して いて,行きたい場所を探すなどの目的なら見やすい. • 情報がちょうどよくまとまっていてわかりやすい. • 観光地に絞った地図であったのでとてもわかりやすい.とても使い勝手が 良く,なんだろう?と思った場所に関してすぐにアクセスできたところが 面白い. • 自然の様子や,観光客が注目すべき点がはっきりとしていた. • 細かい道が省略されていたり,距離縮尺が変だったりするので,大きく目 立つものの挿絵や写真が欲しい. • 動物園や建物の絵があるため直感的で分かりやすかったが,具体的に何が できる場所なのかがわからなかったのが使いづらかった. • 情感は伝わり,目的地までの道順も把握しやすくはあるが,縮尺上の問題 で地図以外の場所がどうなってるかわからないので,地図以外の場所も見 たい場合は役に立たない. 一般携帯電子地図 • 地図としては簡素化されているので,道の把握はたやすい.けれど,情感

(41)

は伝わらない.ただ,観光地の場合でないと情感を伝える義務はすくない と思う. • ☆印をクリックすると写真が出てくるため,どこに行ってみたいかを考え るのが楽.しかし,☆印をクリックしないと具体的にどんな感じか想像つ かないため,クリックしていない場所でもっと興味があるかもしれない場 所を見過ごしていないかだけ心配になった. • 質問の中にあった自然の多さやインフラの充実さを地図からはっきりと知 ることはできなかった.

3.4

観光地での地図を利用した移動

2015 年 6 月に観光携帯電子地図が観光地での地図利用に影響を与えるのかにつ いて予備実験を行った.ユーザは大学生または大学院生 6 名(男 3 女 3)年齢は 21-24 歳.3 名ごとのグループ(グループ A,グループ B)に分け,被験者内実験 を行った.奈良市奈良町において実験をおこなった.ユーザは実験エリアに知識 はほとんどない.方向感覚質問紙 [27] において目立った成績の者はおらず,両グ ループとも成績の平均はほぼ同様であった. 3.4.1 実験に用いる地図 奈良県奈良市奈良町エリアを対象とした 3 タイプの地図を用意した. 紙の観光地図 奈良町エリアにて配布されている紙の観光地図を各ユーザ分用意 した.紙の観光地図は歩行で一周できる範囲内で観光情報が示されている地図の うち,道中に配置されている箇所の多いものを選択した. 一般携帯電子地図 GoogleMapsAPI を用いて奈良町エリアの地図を表示,ユー ザの現在地を表示した(図 3.4.1).

(42)

観光携帯電子地図 紙の観光地図をスキャンし GoogleMapsAPI を用いて表示, 地図の拡大縮小を行えるようにした.加えて,ユーザの現在地を表示した(図 3.4.1). 図 22 一般携帯電子地図 図 23 観光携帯電子地図 3.4.2 実験の流れ 奈良県奈良町エリアを 2 つのブロックに分け,ユーザに観光携帯電子地図と紙 の観光地図,あるいは一般携帯電子地図と紙の観光地図を用いて歩いてもらった (図 24).ユーザには紙の観光地図と一般携帯電子地図・観光携帯電子地図へア クセスできる QR コード,チェックポイント箇所の名称が書かれたカードを配布 した.実験開始前に QR コードをユーザが所持するスマートフォンにて読み込ん でもらい,紙の観光地図とスマートフォン上に表示した地図を用いて実験を行う こと,2 パターンの地図を使ってもらい,それぞれの使用感について答えてほし いことを伝えた. スタート,ゴールを含めて 9 つのチェックポイントを用意した.ユーザは観光 携帯電子地図もしくは一般携帯電子地図と紙の観光地図を使用して,それぞれの チェックポイントを順にたどってもらった.チェックポイントは図 25 の通り.ス タートから★印のチェックポイントまでを北側ブロック,★印のチェックポイン トからゴールまでを南側ブロックと設定し,★印のチェックポイントにて観光携

(43)
(44)

帯電子地図もしくは一般携帯電子地図と紙の観光地図をもう一方の地図と入れ替 えた. A グループは一人ずつ,紙の観光地図と一般携帯電子地図を用いて北側ブロッ クのチェックポイントを通過してもらい,★印のチェックポイントで紙の観光地 図と観光携帯電子地図に切り替え,南側ブロックのチェックポイントを通過して もらった.その後,方向感覚質問紙,アンケートを行った.B グループも,北側 ブロックで紙の観光地図と観光携帯電子地図,南側ブロックで紙の観光地図と一 般携帯電子地図を用いて同様に実験を行った. 3.4.3 所要時間 それぞれのチェックポイント通過にかかった時間とブロック全体でかかった時 間については表 10,表 11 の通り. A ブロックでは観光携帯電子地図の所要時間が一般携帯電子地図よりも短く, B ブロックでは一般携帯電子地図の所要時間が観光携帯電子地図の所要時間より も短くなった.地図の種類に関わらず,A グループの所要時間が短いという結果 になった. 3.4.4 アンケート 2 ブロックとも終えた後,以下のアンケートについて 1-7 の 7 段階で回答が得 られた. • 地図で見つけた目的地まで迷わなかったか • 地図が見やすかったか • 迷っているのではないかと不安になったか • 途中迷ったりあるいは不安に感じたか アンケートの回答結果は以下の通り. どちらの地図が使用感が良かったかという質問には,4 人のユーザが観光携帯 電子地図に好意的であったが,2 人のユーザが一般携帯電子地図を選択した.観 光携帯電子地図に好意的であった理由としては,以下のような回答が得られた.

(45)
(46)

表 10 北側ブロック平均所要時間(分) 一般携帯電子地図 (A) 観光携帯電子地図 (B) 1 10.3 7 2 3.6 4.3   3 8 4.3   4 3.3 3.6   合計 25 19.3   表 11 南側ブロック平均所要時間(分) 一般携帯電子地図 (A) 観光携帯電子地図 (B)   5 3.6 3.3 6 2.3 2.6 7 4.3 5 8 6.6 10 合計 17 21.3 表 12 観光地での移動:アンケートの回答結果平均値 一般携帯電子地図 観光携帯電子地図 ルートを迷わずにたどることができたか 4.83 5.83 地図が見やすかったか 4.3 5.6 迷っているのではないかと不安になったか 4.5 4 途中,迷ったり,あるいは不安に感じたりしたか 5.5 3.5

(47)

• 紙の地図と一般携帯電子地図両方に書いているものが少なく,地図の比較 で現在地をつかみにくい • 一般携帯電子地図はビル名・店名が記載されているが,それだけでは何の 店かわからない • 観光携帯電子地図は内容によって色分けされているので行きたい場所が絞 れる • もう一度来て観光するなら観光携帯電子地図を使いたい.同じ地図がその ままスマホに入っているので見比べる必要がなく,楽. 一般携帯電子地図に好意的であった理由としては,以下のような回答が得ら れた. • 紙の観光地図の縮尺と実際に歩いときの感覚がずれることがある.思って いた以上に行きすぎていたりすることが多々あった. • 正確な地図なのでどこにいるかわかりやすい • 普段から GoogleMaps を使用しており慣れているため,観光携帯電子地図 より一般携帯電子地図が使いやすい

3.5

観光地での地図を利用した観光

観光携帯電子地図が観光地での地図利用に影響を与えるのかをテストするため, 3.4 節の実験終了後に休憩を挟み,実験を行った.ユーザは 3.4 節の実験と同じく 大学生または大学院生 6 名(男 3 女 3)年齢は 21-24 歳. 3.5.1 実験に用いる地図 本実験では 3.4 節の実験と同じ地図を用いた. 3.5.2 実験の流れ 奈良県奈良町エリアを北側ブロック (紙の観光地図上半分),南側ブロック (紙 の観光地図下半分) の 2 ブロックに分け,ユーザに観光携帯電子地図と紙の観光

(48)

地図,あるいは一般携帯電子地図と紙の観光地図を用いて歩いてもらった.ユー ザには 2 パターンの地図を使ってもらい,それぞれの使用感について答えてほし いと伝えた.各ブロックをそれぞれ1時間ずつ自由に観光をしてもらった. A グループには,南側ブロックにて紙の観光地図と観光携帯電子地図を用いて 1時間の自由観光を行い,その後に地図についてのアンケートを行った.続いて, 北側ブロックにて紙の観光地図と一般携帯電子地図を用いて1時間の自由観光を 行い,その後,地図についてのアンケートと実験全体に対するアンケートを行っ た.B グループには南側ブロックで紙の観光地図と一般携帯電子地図,北側ブロッ クで紙の観光地図と観光携帯電子地図を用いて同様に実験を行った. 3.5.3 結果 2 ブロックとも終えた後,どちらの地図が使用感が良かったとか質問をしたと ころ,6 人全員のユーザが観光携帯電子地図に好意的であった.観光携帯電子地 図に好意的であった理由としては,以下のような回答が得られた. • 観光地図は内容によって色分けされているので行きたい場所が絞れる • もう一度来て観光するなら観光携帯電子地図を使いたい.同じ地図がその ままスマホに入っているので見比べる必要がなく,楽.

3.6

ストリートビューと地図を用いた目的地までの移動

2015 年 8 月に観光携帯電子地図が目的地に到着するまでの地図の表示時間に影 響を与えるのかをテストするため,以下のような予備実験を行った. ユーザは年齢は 22∼24 歳の本学大学院生 6 名(男 3 女 3).2 名ごとの 3 グルー プに分け,被験者内実験を行った.方向感覚質問紙 [27] において目立った成績の 者はおらず,両グループとも成績の平均はほぼ同様であった.

(49)

3.6.1 実験の流れ 奈良先端科学技術大学院大学内にて実験をおこなった.ユーザの予備知識の少 ないエリアを選択し,選択されたエリアに対してそれぞれ 3 パターンの地図を作 成した. 実験ではデスクトップ PC と iPad を用意した(図 26).デスクトップ PC では ストリートビューを表示し,iPad にて地図を表示,地図上にストリートビューで の位置・方角とゴールとなる赤い印を表示した.ユーザには地図を見ながら地図 上の赤い印までストリートビューを用いて移動するように伝えた.加えて,iPad の画面には画面切替ボタンが表示されており,ボタンをタップすると画面の暗転 と地図表示が切り替わる(図 27). ユーザになるべく早く地図上の赤い印まで移動すること,地図の表示時間をな るべく少なくすること,地図の表示回数をなるべく減らすように伝え,ストリー トビュー上での移動を練習したのち実験を行った. 図 26 実験環境 それぞれのエリアで移動が完了したのち,スタートからゴールまでの地図とア ンケートに記入してもらった.アンケートの内容は以下の通り. • 迷っているのではないかと不安になったか

(50)

図 27 暗転と地図表示の切替 • 途中,迷ったり,あるいは不安に感じたりしたか • 地図が描きやすかったか • 地図の表示時間を小さくすることができたと感じるか • 地図の表示回数を小さくすることができたと感じるか 3.6.2 比較する地図 香川県仲多度郡琴平町,奈良県天川村に対して,3 パターンの地図を用意した. ユーザはそれぞれの地域に対していずれかのパターンで実験を行い,3 パターン の地図はそれぞれ 2 名のユーザで実験される. 一般携帯電子地図 iPad 上に GoogleMapsAPI を用いて地図を表示,ストリート ビューが表示している位置・方角とゴールとなる赤い印を地図上に表示した(図 28). 観光携帯電子地図 iPad 上に配布されている観光地案内地図を GoogleMapsAPI を用いて表示,地図の拡大縮小を行えるようにした.加えて,ストリートビュー が表示している位置・方角とゴールとなる赤い印を地図上に表示した(図 29). 一般携帯電子地図+観光地図 iPad 上に GoogleMapsAPI を用いて地図を表示, ストリートビューが表示している位置・方角を地図上に表示した.加えてこの パターンでは 2 台の iPad を用意し,2 台目に配布されている観光地案内地図を GoogleMapsAPI を用いて表示,ゴールとなる赤い印を地図上に示した(図 30). 観光案内地図には位置・方角を表示させていない.

(51)

図 28 一般携帯電子地図

(52)

図 30 観光案内地図 (位置・方角なし) 3.6.3 実験結果 以上の実験を行い,以下のような結果が得られた. 所要時間 それぞれスタートからゴールまでにかかった時間,地図の表示時間, 表示回数は表 13-16 の通り.地図を確認する時間・回数は観光携帯電子地図が一 般携帯電子地図+紙の観光地図と比べて少なくなった. 表 13 スタートからゴールまでの平均所要時間 (分 ’秒) :天川村 一般携帯電子地図 一般携帯電子地図 観光携帯電子地図 +観光地図 1 1 ’36 11 ’42 1 ’00 2 2 ’08 9 ’18 2 ’40 平均 1 ’52 10 ’30 1 ’50

(53)

表 14 スタートからゴールまでの平均所要時間 (分 ’秒)  :琴平町 一般携帯電子地図 一般携帯電子地図 観光携帯電子地図 +観光地図 1 1 ’27 3 ’17 3 ’38 2 2 ’30 3 ’17 1 ’58 平均 1 ’58.5 3 ’17 2 ’48 表 15 地図の表示時間 (秒)/表示回数:天川村 一般携帯電子地図 一般携帯電子地図 観光携帯電子地図 +観光地図 1 17 / 2 593 / 6 10 / 4 2 40 / 7 677 / 6 57 / 5 平均 28.5 / 4.5 635 / 6 33.5 / 4.5 表 16 地図の表示時間 (秒)/表示回数:琴平町 一般携帯電子地図 一般携帯電子地図 観光携帯電子地図 +観光地図 1 39/6 64/8 35/4 2 73/4 105/7 57/4 平均 56/5 84.5/7.5 46/4

(54)

アンケート それぞれの地図で実験を行った後,表 17,18 のアンケートについ て 1-7 の 7 段階で回答が得られた.迷っているのではないかという不安感は一般 携帯電子地図+紙の観光地図が他の 2 地図と比べて高くなり,地図の表示時間・ 表示回数が大きくなったと感じていることが分かる. 表 17 平均点数:天川村アンケート 一般携帯電子地図 一般携帯電子地図 観光携帯電子地図 + 観光地図 迷っているのではないかと 3 6.5 2 不安になったか 途中,迷ったり, 4.5 7 3 あるいは不安に感じたりしたか 地図が描きやすかったか 5.5 4.5 6.5 地図の表示時間を小さくする 5.5 1.5 5.5 ことができたと感じるか 地図の表示回数を小さくする 6 1.5 5 ことができたと感じるか 記入地図 観光携帯電子地図を用いると,実験後に描かれた地図に図 31 のような 神社や信号,橋などのランドマークが地図に記載されるようになった.この結果 から観光携帯電子地図を用いると,一般携帯電子地図と比べて道中のランドマー クを記憶しやすくなることが考えられる.

(55)

表 18 平均点数:琴平町アンケート 一般携帯電子地図 一般携帯電子地図 観光携帯電子地図 +観光地図 迷っているのではないかと 2 3.5 3 不安になったか 途中,迷ったり, 2.5 4.5 3 あるいは不安に感じたりしたか 地図が描きやすかったか 4.5 3.5 5.5 地図の表示時間を小さくする 4.5 4 5 ことができたと感じるか 地図の表示回数を小さくする 5 5 5 ことができたと感じるか 図 31 実験後に描かれた地図

(56)

3.7

予備実験全体に対する考察

3.4 節,3.5 節の実地テストからナビゲーションと観光は異なるという知見を得 た.実験にナビゲーションやスタンプラリーといったタスクを設定すると,観光 ではなくオリエンテーリングのような行動をユーザがとることが分かった.観光 行動を観察するためには,タスクを設定せず,ユーザの興味が向いたままに歩い てもらうことがよさそうである.より実際の観光行動に近い状況で地図の利用を どのように行うのか,地図の違いがどのような感覚をユーザに感じさせるのかを 調査する. 3.6 節の実験では 2 つの地図の見比べが,実際にどのくらいの負担になるのか を調べた.2 つの地図をなるべく閲覧しないようにすること,なるべく早く移動 を終えることを伝えた結果,2 つの地図のランドマークを比較し,移動に必要な ランドマークをはじめに覚えてしまう人,比べながら移動を行う人などが見られ た.2 つの地図を見比べる場合に比べて,観光携帯電子地図は,移動中に迷って いるのではないかという不安が減少し,地図の描写がしやすく,地図の表示時間・ 表示回数を小さくできたと感じていることが分かった.本実験では,移動中の不 安に合わせて,地図の表示時間・表示回数についても調査する. 対して,3.3 節の観光するスポットを選択する予備実験では地図ごとの差があま り見られなかった.観光するスポットを選択するにあたって,地図の表記方法に はあまり差がないようであった.実験を観光地ではない場所で行ったため,観光 中のスポット選択とは状況ではなく,観光前のプラン段階に近しくなってしまっ ている点も問題かもしれない.いずれの地図も施設名で観光スポットを選択され ることが多かったため,有名な場所や博物館・動物園といった施設内容がイメー ジしやすい箇所が選ばれやすかった. それぞれの予備実験の結果から観光中の不安感が減り,観光に対する満足度が 高くなったことがわかった.本実験を行うにあたって,どの要素を検証するかを 4 章で述べる.

(57)

4.

実験設計

観光地で配布される紙の観光地図を電子化し,携帯端末上で自己位置・方角を 併せて表示する地図を観光携帯電子地図(以下,観光携帯電子地図)の特性を明 らかにすることが研究の目的である.観光携帯電子地図がユーザに与える影響を 検証するためのプロトタイプを開発した.本章では,開発したシステムの概要と その機能に関する詳細,そのシステムで検証する仮説について述べる.

4.1

システム概要

2 章で概観したように,観光地における地図利用においては大きく 2 つに行動 が分類され,プランニングと実行に分けられる.プランニング段階における情報 へのアクセス,目的地と訪れる順序の設定,目的地へのルート決定には紙の観光 地図が適しており,実行段階における地図上での同定や方向決定には一般携帯電 子地図が適している.紙の観光地図と一般携帯電子地図が適した状況が異なるた め,両方の地図を利用する観光者が見られる.プロトタイプはプランニング段階 における観光情報へのアクセスのため紙の観光地図をスキャンしたものを表示し, 実行段階における地図上での同定や方向決定のため GPS・磁気センサから取得し た情報を地図の該当する場所に表示するシステムとする. プロトタイプを作成するにあたって,紙の観光地図が正確な縮尺で描かれたも のではなくデフォルメ化された不正確な地図であるという問題がある.正確な縮 尺でないため,GPS から取得した緯度経度の値をそのまま紙の観光地図のスキャ ン画像上に表示すると,実際とはズレた場所を現在位置として表示してしまう. そこで GPS から取得される緯度経度座標(世界座標系)を紙の観光地図上での 座標に置き直すデータベースを PostgreSQL で作成した.データベースのテーブ ル型は表 19 の通り. 表 19 座標系変換テーブル型 id POINT(世界座標系) POINT(観光地図座標系)  

(58)

座標系変換テーブルを用いることで携帯端末の GPS から取得した座標情報を 紙の観光地図上での座標に変更できる.携帯端末の GPS から取得される座標情 報はデータベースへ送信され,データベース内テーブルの世界座標系 POINT 型 データを比較し,GPS から取得座標に最も近いデータを探し出す.その後,取り 出されたデータに含まれている同 id の観光地図座標系 POINT 型データを取り出 し,携帯端末へ送信する.携帯端末は受け取ったデータを基に,紙の観光地図を スキャンした画像に現在位置を表示する.テーブル内に含まれている座標情報は あらかじめ手作業で入力され,図 32 のように保存されている. 図 32 テーブル内に含まれている座標情報の例 本システムの構成を図 33 に示す.本システムは座標系変換データベースと携帯 端末に分かれる.座標系変換データベースは携帯端末の GPS から取得した座標 情報を紙の観光地図上での座標に変更する.携帯端末は地図の描画・店舗の詳細・ 位置情報の表示を行う.Google Maps JavaScript API を用いて,紙の観光地図を スキャンした画像をブラウザ上にを表示する.加えて,座標系変換データベース へ GPS から取得される座標情報を送信し,返送されてきた座標データを基に紙 の観光地図をスキャンした画像に現在位置を表示する. さらに磁気センサから現在の方角を取得し図 34 のように表示している.紙の 観光地図には店舗の詳細が記載されていることがある.紙の観光地図上での座標 を指定することでマーカが地図に加えられ,タップすることで店舗の詳細が図 35 のように地図上にポップアップされる.

(59)

図 33 システムの構成

(60)

図 35 店舗詳細の表示

4.2

観光携帯電子地図に対する仮説

観光携帯電子地図の使用に関して,以下の仮説を検証する実験を行う. 4.2.1 仮説1:地図を開きながら周りの地図を見る時間が少なくなり,地図を閉 じている(観光している)時間が増える 3.6 節の結果から,紙の観光地図と一般携帯電子地図を用いて目的地まで進む ときと比べて,観光携帯電子地図を用いた場合は観光携帯電子地図上での現在地 把握が容易になることが考えられる.そこで,実験者がユーザを撮影し,撮影さ れた動画から道中に地図を注視している時間を計測する.紙の観光地図と一般携 帯電子地図を用いて目的地まで進むときと比べて,観光携帯電子地図を用いた場 合は地図よりも観光に注目している時間が増え,結果地図を注視する時間が減少 するのではないかと考えられる. 4.2.2 仮説 2-1:現在地がわからないという不安感が減少する 3.4 節-3.6 節の結果から,紙の観光地図と一般携帯電子地図を用いて目的地ま で進むときと比べて,観光携帯電子地図を用いた場合は地図で見つけた目的地ま

図 1 実験の構成
図 3 平成 26 年モバイル機器等の利用率 [6]
図 5 旅程の自動作成システム [22]
図 6 手書き風案内図の生成 [12] り,交差点を直角に描写したりする加工をした地図を生成し,既存の地図とユー ザを用いた比較を行ったところ,道路の形は精確ではないにも関わらず,道中の 不安感などが減少したことが示されている. Kopf ら,二宮らの研究から目的に併せて編集加工された地図は,道路の情報 が精確でなくとも,より心地良く感じ,不安感を減少させることがわかる. 2.4.3 Position 型地図 Position 型地図に関する研究には,サーベイマップ型認知地図を形成しやすい ように情報を抽出
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