別紙1
論 文 審 査 の 要 旨
報告番号 甲 第
2700
号 氏 名 星野 真理江論文審査担当者
主査 歯科薬理学教授 高見 正道 副査 口腔解剖学教授 中村 雅典 副査 口腔微生物学教授 桑田 啓貴
副査 生体分子薬学講座生物化学部門 教授 板部 洋之
(論文審査の要旨)
学位申請論文「8-Nitroguanosine3’,5’–cyclic monophosphate mediates expansion of growth
plate cartilage in mice
」について,上記4
名が個別に審査を行った.8-Nitro-cGMP
は,NO依存的にニトロ化された環状GMP(cGMP)の代謝物であり,
遺伝子発現や細胞増殖を制御する新たな分子 として知られている.本論文は,
C
型ナト リウム利尿ペプチド(CNP)による軟骨形成において,8-Nitro-cGMP
が細胞増殖や分化 を 調 節 す る 機 能 を 担 っ て い る こ と を 示 し た も の で あ る .CNP
は 成 長 板 に お け る8-Nitro-cGMP
生成と成長板および脛骨の伸長を誘導したが ,一酸化窒素合成酵素(NOS)
阻 害 剤 は こ れ を 抑 制 し た . ま た ,
NOS
阻 害 剤 はCNP
に よ る 培 養 軟 骨 細 胞 増 殖 と8-Nitro-cGMP
の生成も 抑制した.さらに,8-Nitro-cGMPは,培養脛骨成長板の伸長と軟 骨細胞の増殖を促進した.以上の結果は,成長板軟骨においてCNP
が8-Nitro-cGMP
の 産生を誘導し ,それが軟骨細胞の増殖を介して 成長板軟骨の伸長を促進することを示唆 する.本論文の審査において,副査の上條委員および美島委員から多くの質問があり,その一 部とそれらに対する回答を以下に示す.
副査 中村委員の質問とそれに対する回答:
1. 軟骨の成長に大きくかかわる要素は何か述べよ.
軟骨組織は,軟骨細胞の増殖と分化に伴い,軟骨基質を分泌することで成長する.軟 骨内部では,軟骨細胞が分裂増殖し ,増殖した軟骨細胞が基質を分泌することで軟骨組 織は大きく成長する.一方,軟骨表面には軟骨膜の扁平な軟骨膜細胞が ,次第に大きく 形を変えながら細胞周囲に軟骨基質を分泌して成長する.
2. 軟骨細胞培養系において, D-NAME
添加群とL-NAME+CNP
添加群で差がないのはどのような機序が考えられるか考察せよ.
D-NAME
添加群とL-NAME+CNP
添加群で差がないことから,脛骨の伸長に及ぼす因子が,NOS の活性のみではなく多因子が関与していることが考えられる .D-NAME+
CNP
添加群とL-NAME+ CNP
添加群の軟骨細胞の増殖を比較したところ ,L-NAME+CNP
添加群では増殖が有意に抑制されていた.このことから,CNPによる脛骨の伸長がNOS
の活性に依存していることが示唆された.副査 桑田委員の質問とそれに対する回答:
1. CNP
を添加した際,成長板軟骨の静止/増殖軟骨細胞層と同様に肥大軟骨細胞層の伸長 も促進されているが,8-nitro-cGMPの成長板軟骨の発現は,静止/増殖軟骨細胞層でしか
認められない.このような成長板軟骨の伸長部位と8-nitro-cGMP
の発現部位の相違は,どのように解釈すればよいか説明せよ.
(主査が記載)
CNP
の軟骨細胞における作用として ,細胞増殖と肥大化分化とマトリクス産生の促進 がすでに知られている.このうちの細胞増殖の促進に8-nitro-cGMP
が関与しているので は な い か と 考 え て い る . 一 方 ,8-nitro-cGMP
が 生 体 内 で 産 生 さ れ る 硫 化 水 素 に よ っ て8-SH-cGMP
に代謝されるという報告があるが ,8-SH-cGMP
も8-nitro-cGMP
と同様に,cGMP
キナーゼ依存性に生物活性を持つ .このことから,もう一つの可能性として,検 出されなかった8-SH-cGMP
が肥大軟骨細胞層で発現していることが考えられる.2. 培養した脛骨を µCT
で解析した場合,どのような結果が得られると考えられるか.胎生
16
日齢マウスの脛骨を4
日間培養後に,µCT にて骨密度や骨梁の量を解析しよ うと試みたことがあるが,胎仔の脛骨の大きさが機械に適していなかったため,µCT 像 を得ることができなかった .今後,骨体部の解析を行 う際は,カルシウム沈着を検出す るVon Kossa
染色や骨組織を検出するVillanueva bone
染色を行うことを考えている . 副査 板部委員の質問とそれに対する回答:1. 胎仔期の成長における CNP
の役割を説明せよ.
CNP
ノックアウトマウス(Nppc-/-ノックアウトマウス)は出生時から体長が短く ,そ の後の成長も著しく阻害され小人症の表現型を示す.生存率は,出生4
週目には60%,6
週目には
40%にまで低下する.胎生致死には至らないが,胎仔期および出生後の骨格成
長に,CNPの作用は必要であると考えられる.
2. CNP
の骨成長のメカニズムについて説明せよ .成 長 板 軟 骨 を 構 成 す る 軟 骨 細 胞 の 細 胞 膜 像 に 存 在 す る 線 維 芽 細 胞 増 殖 因 子 受 容 体
3
(FGFR-3)は,STAT-1 経路および
MAPK
経路を介して細胞外マトリクス合成を抑制さ せることによって成長板軟骨細胞の増殖と分化を阻害し,軟骨内骨化の成長を抑制する.一方,CNP は軟骨細胞や血管内皮細胞などで産生される .軟骨細胞の細胞膜上に,CNP 受容体であるグアニル酸シクラーゼ
B(GC-B)が存在し,CNP
がGC-B
に結合すると,GTP
がcGMP
へ代謝される.この,CNP/GC-B の下流のcGMP/プロテインキナーゼ G-
Ⅱ(PKG-Ⅱ)が
MAPK
経路を阻害することで,軟骨内骨化の成長を促すことが明らかに なっている.三名の副査は,すべての回答が適切で満足できるものと判断した.
主査 高見委員の質問とそれに対する回答:
1. 疾患における 8-Nitro-cGMP
の役割について具体的な例を挙げて説明せよ .共同研究者の赤池らは,マウスにおいて,心筋梗塞ののち心臓組織には
8-Nitro-cGMP
が過剰に蓄積しており,それがH-Ras
の活性化を介して心筋細胞の 早期老化を促進し心 不全の発症につながることを報告した.さらにマウスやヒト由来の細胞においてサルモ ネラなどの感染により,高濃度の8-Nitro-cGMP
が産生されたことも分かっている.以 上のことから,8-Nitro-cGMPは多様な疾患に関与する重要な分子であると考えられる.2. 本研究の展望および予想される課題と対応策について述べよ.
今後,
8-Nitro-cGMP
が関節炎や歯科領域では変形性顎関節症などの骨軟骨疾患などに 対する新規の治療法になることを期待し,関節炎モデルマウスを用いたin vivo
の実験系 において,投与方法や投与量および予測される副作用等を検討していきたい.主査の高見委員は主査の立場から,三名の副査の質問に対する回答の妥当性を確認する とともに,本論文の主張をさらに確認するために上記の質問をしたところ,明確かつ適 切な回答が得られた.
以上の審査結果から,博士(歯学)の学位授与に値するものと判断した.
(主査が記載)