陸 上 競 技 短 距 離 走
400m
に お け る
競技力向上に関する一考察
陸 上 競 技 専 門 部
山形県立山形中央高等学校
1 は じ め に
本校に赴任して六年目になる。本校は普通科、体育科の併設校であり、強化部であることか ら比較的競技実績を持っている生徒が陸上競技部に在籍している。部員は 70 名を超えること もあるが、一人一人の能力を引き上げ、全国で勝負できる選手を輩出したいと思い、指導にあ たっている。 毎年、インターハイ、国体など全国大会に選手を出場させているが、決勝で勝負させるレベ ルまで育てあげることが難しい。選手にも出るだけで満足するレベルで闘っていないことを伝 えているが、全国大会での予選通過がなかなか容易でない。本校の要である男子短距離種目、 4×100mリレー、4×400mリレーを中心にインターハイで入賞することを目標に、現在のレベ ルを打開する練習や対策について特に短距離走 400mに絞って研究を進めたい。 山形では冬に雪が積もるが、夏場同様あかねヶ丘陸上競技場に通い、雨天走路に風雪を遮る シートを張ってもらい、そのなかでできるトレーニングや、外で雪かきをして走跳投の練習を 行っている。決して恵まれた環境ではないが、競技場の職員の配慮もあって外での練習も可能 になっている。 寒さの中ではウォーミングアップでしっかり身体を暖めるなど工夫しているが、スピードや キレのある動きを求めるのは難しい。怪我にも十分注意を払わなくてはならない。試合期では ない鍛練期にいかにレベルアップする練習が積めるかが次のシーズンの競技力に大きく関 わってくるものと考える。 また、試合期にどんな練習をし、どんな練習をすればいいのか、どんなことを意識して練習 すれば、記録向上につながるのか、掘り下げて研究したい。 本稿では短距離走 400mで全国入賞を果たした時の鍛練期の練習や試合期において実践し た経過について振り返り、新たな改善策を見つけていきたい。2 研究の方法
(1)調査方法 鍛練期、試合期における練習を振り返り、試合期の記録、スピード、技術の精度を検 証する。400mにおいて有効な練習方法を探る。 (2)調査対象 山形県立山形中央高等学校男子陸上競技部員 (男子 1 年 15 名、2 年 12 名、3 年13 名、 計 40 名) (3)調査期間 平成 22 年 11 月~平成 24 年 10 月 (4)調査内容 ① 鍛練期に取り入れたこと ② 鍛練期の練習の組立 ③ 試合期の練習の組立 ④ スタート練習 30mのタイムと全国との比較 ⑤ 400mレースの 200m通過タイムの比較 ⑥ 400mのスピード曲線、全国との比較3 結果と考察
(1)鍛練期に取り入れたこと 本格的な鍛練期練習に入る前(11 月上旬)にコントロールテストを実施した。実施し た種目は、以下の 11 種目である。 ① ウエイトMAX測定(ベンチプレス、ハイクリーン、スクワット) ② 加速走(30m、150m) ③ 跳躍系種目(立 5 段跳び、立 5 段ホッピング、30mホッピングタイム(歩数を含む) 30mバウンディングタイム(歩数を含む)) ④ 投擲系種目(メディシンボールフロント投、バック投) 上記種目を実施した結果、全ての種目で本校の上位の記録を出せた選手が、競技力が高 い選手であった。特に短距離走については瞬発力、敏捷性、跳躍・投擲系種目を向上させ るための身体の動かし方、地面を押しだす接地のタイミング、走スピードの向上が必須で あると分析できた。さらに 400m選手であっても距離が短い加速走 30m、150mの記録か ら、ショートスプリント能力が高くなければ、高いスピードを維持して 400mを走りきれ ないことが予想できた。それらを踏まえ、鍛練期では、怪我をしない身体づくり(関節可 動域を高める動きづくり)、絶対スピードの向上を意識した走練習、ロングスプリント練 習からのスピード持久力向上、走フォームの矯正としてスプリントドリルの徹底、跳躍系 のトレーニング(スキップ、ホッピング、バウンディング)、総合体力づくり(主にサー キットトレーニング)、ウエイトトレーニングを週 6 日のトレーニングのなかにバランス よく取り入れることにした。 (2)鍛練期の練習の組立 表1 鍛練期7日間サイクルの練習例 曜日 強度 メニュー 目的 月 低 完全休養 火 強 ウエイトトレーニング必修 3 種目(ベンチプレス、ハイクリーン、スク ワット)×3、体幹補強、ウインドスプリント 主動筋、拮抗筋のバラン スを持った筋力向上。怪 我予防も含め、細部の筋 力向上も目指す。 水 低 ハードルドリル、スキップ・バウンディング走、200mウェーブ走×5、 股関節柔軟性強化補強 スキップ・バウンディン グは走技術、接地のタイ ミングの徹底。 ウェーブ走はスピードを 落とさず、リラックスし た走りを身につける練習 木 強 サーキット 10 種目×10、スタビライゼーション 5 種目×3、2 人組スト レッチ 総合体力づくり、柔軟性 の向上、ぶれない走りを 作り出す体幹づくり。曜日 強度 メニュー 目的 金 中 160 秒インターバル(100×5)×3、シャフト補強 ショートスプリントでの スピード強化(タイムを 測定する) 土 低 スプリントドリル(踏みつけ、もも上げ)、ミニハードル走 10 台×5 ミニハードル走 20 台×5、メディシンボール投げ補強 走技術、接地のタイミン グの徹底。筋力強化。 日 強 スプリントドリル→ウインドスプリント、 300m×10、ハードル補強 走技術の徹底。 スピード持久力強化。精 神力強化。 コントロールテストの結果を踏まえ、選手個人ごと必要なことを考えさせた。まずは、 今年度の取り組みの反省で、試合や記録向上など頑張りの評価と足りなかったものの確認、 そして来年度シーズンはどうありたいか、目標を明確にし、取り組みへの意欲を確認した。 内容を確認した上で、鍛練期練習への取り組み方、内容、練習を行う上でのルール、練習 のやり方を示し、鍛練期に入った。 練習計画例からの反省点は、スプリントドリルなど身体の動かし方については丁寧な取 り組みができたが、ショートスプリントの高いスピードを維持して走る練習が徹底できな かった。寒さという気候の問題もあるが、さらに工夫が必要な点であった。 (3)試合期の練習の組立 表2 試合期7日間サイクルの練習例 曜日 強度 メニュー 目的 月 低 完全休養 火 中 スキップ→加速走 50m×3、加速走 100m×2、リレー練習 or 200m×1、 シャフト補強 怪我のないよう、ハムストリ ングスに負荷を掛けてから 加速走を行う。スピード強 化。 水 強 SD30m×5、ミニハードル走×5、250m+150m×2、メディシンボール 補強 スタート技術の確認 ミニハードル走は走技術、リ ズムの徹底。 セット走は400mの前半のス ピードを意識した練習 木 低 ホッピング→ダッシュ×3 ずつ、片足バウンディング×3 ずつ、 足首ジャンプ+スキップ+ラン×5、快調走 200m×3、体幹補強 接地のタイミング、走フォー ムの修正 金 中 SD30m×3、60m×2、コーナー走 or ウェーブ走×5、200×1 or リレー 練習 体幹補強 スタート技術の確認(タイム は測定する) 走技術の確認とバトン技術 の精度を高める。 土 中 SD30m×3、60m×2、加速走 100m×3、リレー練習、 スタビライゼーション、ストレッチ、各自マッサージ スタート技術の確認(タイム は測定する)スピード強化。 バトン技術の精度を高める。
曜日 強度 メニュー 目的 日 強 コーナー→直線走×3、直線→コーナー走×2、50 秒(女子 60 秒)走 ×1 ハードル補強 走技術の徹底。 設定走は積極的なスピード 維持とリラックスした動き を身につけるために行う。 試合期においては、スピードの獲得を重視した。鍛練期に身につけた総合体力を、走技 術、スピードにつなげられるよう練習計画を組んだ。本校のメイン種目である 100m、200 m、400m、リレー種目に対応できるように配慮した。走技術においては、鍛練期に意識 して練習してきたことを、試合期でも反復し、試合本番に活かせるように取り組んだ。4 ×100mリレー練習は、走練習の後半に入れていたので、負荷がかかりやすいことを配慮 して怪我のないよう練習計画を作成した。400m、4×400mリレー練習は、絶対スピード の向上を最優先とし、走り込みでは、200mの通過タイムを意識させたり、400mの距離を 分割する「組み合わせ練習」をセット走にして雰囲気を盛り上げ、集中力を下げないよう 配慮した。また、練習のまとめとして走る練習に 200m~300mのメニューを入れ、走技術 の改善はもちろんのこと、練習の取り組みに手抜きがないよう 1 本 1 本を全力で行うこと を促した。さらに、体が乳酸で動かなくなってから走フォームがばらばらになって走ス ピードが極端に落ちないよう、意識して取り組ませた。 (4)スタート練習 30mのタイムと全国との比較 表 3 練習中の SD30m、60mタイムの目安 30m 60m 試合での通過タイム 練習での達成率 98% 試合での通過タイム 練習での達成率 98% 電動 手動換算 手動 電動 手動換算 手動 3.80 3.60 3.67 6.50 6.30 6.43 3.90 3.70 3.78 6.60 6.40 6.53 4.00 3.80 3.88 6.70 6.50 6.63 4.10 3.90 3.98 6.80 6.60 6.73 4.20 4.00 4.08 6.90 6.70 6.84 4.30 4.10 4.18 7.00 6.80 6.94 4.40 4.20 4.29 7.10 6.90 7.04 ※SD…スタートダッシュ 表 3 は練習の SD30m、60mのタイムの目安として紹介されているものである。練習時に 手動計時で 4 秒 00 を切ることが 100m10 秒台を出す必須条件だと考え、指導の目安とし てきた。レース中に 30m通過タイムが 4 秒 00 を出すには、練習での達成率(98%)で 3 秒 88 を常に出せていなければならない。試合期の調子の良し悪しに関わらず、いつでも この通過タイムを出せなければ、本番で 10 秒台、またはそれ以上をねらうことはかなり 難しいと言える。 ここで目標とするタイムを試合期の練習で、常に安定して出すことができれば、試合本 番はねらい通り安定して 10 秒台の記録が出せると考えていた。本校では週 3 回程度 SD 練
習を入れていたが、どの選手にも波があり、本番の仕上がりが想定しきれなかった。確立 したスタート技術が指導できていなかったと推察できる。 また、選手のコンディションの配慮や、集中力を高めた練習形態をつくる工夫が必要で あったと考えられる。 (5)400mレースの 200m通過タイムの比較 表4 2011 年北上インターハイ男子 400m決勝 200m、400m地点通過タイム 200m通過タイム 400mゴールタイム 優勝 22.85 47.48 2 位 23.07 47.79 3 位 22.68 47.80 4 位 22.63 48.01 5 位 23.52 48.08 6 位 23.22 48.13 7 位 22.82 48.26 8 位 23.03 48.59 表 4 は 2011 年北上インターハイで本校陸上競技部員、黒田琢也が 7 位に入賞したとき の 200m、400m地点通過タイムである。本人のそれまでのデータで、22 秒 3~8 以内で 200 mを通過したときに 48 秒 0~47 秒台で走ることができた。 「400mはペースをしっかり守る」ことが大切であると、インターハイ優勝者を育てた 先生方から伺っていたが、まさにそのとおりで、選手それぞれに特徴があり、200mの通 過タイムに多少ばらつきはあっても、選手の特徴を見抜いてタイム設定をすることが大切 であると感じている。例えば 400mを 50 秒で走りたいとすれば、100m区間を 12 秒 5 で走 れば 50 秒になるとか、同じく 200mの通過が 25 秒であれば 50 秒になる、と計算する必要 があるということである。もちろんエネルギーの筋出力の問題で計算通りにはいかないが、 常に高いスピードを維持して効率よく走ることを意識した練習が必要だと感じた。 選手のタイプとしては、大きく分けて「前半型」「後半型」「イーブン型」の 3 通りに分 類できるが、選手個々がどのパターンに属するかを見抜き、練習を積んでいかなければな らない。しかし、大会のレベルが上がるにつれ、前半型のほうが通用してくると感じてい た。やはり、「400m=スピード」で、試合を意識しての練習は、距離を分割した「組み合 わせ練習」の方法でスピード強化に重点を置いて行った。 黒田が 47 秒 75(準決勝タイム)でインターハイに 7 位入賞した時の調整練習でも、組 み合わせ練習のセット走で 200mの通過を意識した練習を常に行っていた。インターハイ 前の 7 月 2 週目の県選手権では、48 秒 01 を出し、調子は上がってきていると感じた。裏 づけとして 30m、60mSD タイムや 100m加速走においてもレベルアップが見られ、200m のレースタイムでも 22 秒 08 を出していたので、インターハイは前半の走りに余裕を持つ ことができ、47 秒台が出せる手ごたえを感じていた。黒田が 22 秒 5~22 秒 8 程度で 200 mを通過すれば、入賞のチャンスもあると予想していた。実際予定通りのレースを展開し、 47 秒台で準決勝を走り、決勝に駒を進めた。
(6)400mのスピード曲線、全国との比較 グラフ1 2011 年北上インターハイ男子 400m決勝のスピード曲線 7.2 7.4 7.6 7.8 8 8.2 8.4 8.6 8.8 9 start-100m 100m-200m 200m-300m 300m-400m 走ス ピ ー ド ( m / s ) 優勝 2位 3位 4位 5位 6位 7位 8位 グラフ1は 2011 年北上インターハイ男子 400m決勝 8 名のスピード曲線である。さすが に全国上位のレースだけにスピード曲線に大きな違いはないが、スタートから 100mまで リズムよく滑らかな加速をして、100m~200m地点で誰もがレースの最高スピードに達し、 減速していく流れである。ラップタイムで言うと 200mを 22 秒 5~22 秒 8 程度で通過し、 300mを 33 秒から 35 秒で通過、第 3 コーナーから第 4 コーナーにかけて脚の回転数(ピッ チ)を落とさない、リズムを崩さない走りでラスト直線の流れに備える。いかにスピード を落とさずに走るか、特にラスト 100mの減速を抑えるかが課題である。スピードの減速 は誰もが抑えられないなかで、ラスト 100mの走りは、ピッチのリズムを高めていくよう なつもりで走りきることが大切である。 全国レベルと本校部員との比較では、大きな違いはスタートからの加速力で、100m~ 200mまでに上がってくる最高スピードが、全国レベルの通過タイムまで達していない。 そこをクリアしたとしても、絶対スピードがない選手は、後半の 200mは著しく減速する レースパターンになってしまう。そうなると「イーブン型」や「後半型」でなければ、良 い記録が望めない。しかし、そのままのレース展開を続けていても自己記録の更新に伸び 悩みがやってくる。それぞれのレベルに応じた打開策が必要で、競技レベルを上げるには、 スタートから 200mまでの絶対スピードの向上と、後半の減速を抑えられるスピード持久 力の向上が必要であると考える。
4 ま と め
今回の研究を通して、鍛練期前に行ったコントロールテストの結果をよく分析し、何が できていて、何が足りないのかを全体と個別に分類して把握し、選手に様々な練習方法を 理解させ、よい動きのイメージを持たせて鍛練期の練習計画に取り入れていくことがとて も大事なことであると感じた。また、冬季の寒さの中で怪我をさせない配慮、スピードや 筋力を引き上げる取り組みに課題があった。鍛練期ゆえに、もっと発想を変えて進めてい く必要があると感じた。また、試合期では、スピードや動きのキレを追求する中で、より本番のレースイメージを持たせてその動きがいつでも何度でもできるように徹底してい くことが大切だと痛感している。特にスタートダッシュ 30m、60mのタイムについては、 選手の調子の波を把握できる目安になるが、今回の研究では怪我などで調子以前の問題で 納得のいくものが見えにくかった。個々の目安となるタイムのデータをしっかり残してい き、今後もこの目安にこだわって指導にあたっていきたい。 400mレースの 200m通過タイムの比較や 400mのスピード曲線は、様々な文献でも紹介 されているところであるが、レベル別ではあるが、200mの通過タイムで全体のレース展 開がほぼ想定できることが確認できた。絶対スピードを高めることが、100mや 200mだけ でなく、400mのレースにも欠かせない能力なので、勝負にこだわっても力みがなく、レー ス展開を有利に進められるスピードを生かした苦しいところに挑戦する選手を育成して いきたい。 本校に赴任して以来、動きを見る、選手の心を見る目は養われてきたと感じる。選手が 動きのイメージを洗練し、本番のレースに生かすまでに、本人の努力は非常に大きいとこ ろであるが、高校生は指導者の助言なくして目標の達成は難しいと考える。選手との信頼 関係を築き上げ、一体となって同じ目標に向かっていくからこそ、その目標は達成されて いくのだと思う。そのためには、日々の練習の積み重ねが大切であり、達成感のある内容 にしていく必要がある。選手にできるだけ多く成功経験を与え、自信を持たせられるよう にすることが全国で勝負していくための土台であると考える。 参考文献にある書物で紹介されている全国級の選手は、やはり練習が好きである。その 前に陸上競技が好きであることがよく伝わってくる。そういった選手の“好き”という気 持ちを大事に育てながら、全国で勝負ができる、入賞や優勝する選手の育成を目指したい。 〔参考文献〕 高校トレーニング方式第 6 版 ジュニア陸上競技マニュアル 2011 月刊陸上競技 5 月号、7 月号、9 月号、10 月号、11 月号、12 月号 2012 月刊陸上競技 1 月号、2 月号、3 月号、4 月号、5 月号