ポルフィリン症患者およびその未発症血縁者における
酸化的ストレスに関する研究
網中 雅仁
*1, 近藤 雅雄
*2, 高田 礼子
*1, 山内 博
*3, 池田 真紀
*3, 吉田 勝美
*1 *1聖マリアンナ医科大学医学部予防医学教室 *2東横学園女子短期大学 *3北里大学医療衛生学部公衆衛生学教室Oxidative Stress in Porphyria and Carriers
Masahito AMINAKA
*1, Masao KONDO
*2, Ayako TAKATA
*1, Hiroshi YAMAUCHI
*3,
Maki IKEDA
*3and Katsumi YOSHIDA
*1*1Department of Preventive Medicine, St. Marianna University School of Medicine *2Toyoko Gakuen Women’s College
*3Department of Public Health, School of Alled Health Science, Kitasato University
Abstract We sought to establish a causal relationship between oxidative stress and porphyria in patients and carriers. We reported changes in urinary porphyrin concentrations related to 8-hydroxy-2 ′-deoxyguanosine.
Methods: We measured urinary 8-hydroxy-2′-deoxyguanosine concentration in porphyria patients and carriers with multifactorial inheritance as a possible marker of attack. The porphyria types included 10 patients with porphyria cutanea tarda, 5 with variegate porphyria, 8 with hereditary coproporphyria, 7 with congenital erythropoietic porphyria, 5 with erythropoietic protoporphyria, 5 with acute intermittent porphyria, 7 erythropoietic protoporphyria carriers, and 7 acute intermittent porphyria carriers.
Results: Urinary porphyrin concentrations in these patients were significantly higher than those in healthy subjects (p<0.001). Urinary 8-hydroxy-2′-deoxyguanosine concentrations were significantly high in dermatopathy porphyria types namely porphyria cutanea tarda (p<0.001), variegate porphyria (p<0.05), hereditary coproporphyria (p<0.05), congenital erythropoietic phyria (p<0.05), and erythropoietic protopor-phyria (p<0.001).
Conclusion: These results reveal that urinary 8-hydroxy-2′-deoxyguanosine concentration in cutis porphyria types is a good predictor of attack and abatement.
Key words: porphyria(ポルフィリア),urine(尿),8-hydroxy-2′-deoxyguanosine(8-ヒドロキシ-2-デオ
キシグアノシン),index(指標),oxidative stress(酸化的ストレス) は じ め に ポルフィリン症は,ヘム合成関連酵素の活性低下を要 因として,生体内でのポルフィリン過剰産生を主要原因 とした疾患の総称である (1)。ポルフィリン症では臨床 症状と標的になる病因酵素によって 8 病型が報告されて いる。このうち一部の疾患を除いてすべて遺伝性疾患で あり,分子生物学的に遺伝子上の変異が見出されている (2)。病因になる酵素は分子異常が生じるために必要な酵 素活性が得られず,ポルフィリン代謝やヘム合成に異常 を起こすことが知られている (3)。ポルフィリン症は臨 床症状から病型を急性型と皮膚型に大別され,急性型は 急性腹痛・手足のしびれや麻痺などの神経症状を主症状 として発症し (4),皮膚型は日光被曝による紅斑,水疱, 腫脹などの日光過敏症や色素沈着,瘢痕などを主症状と して発症する (5)。これらの発症には遺伝的な素因のみ ならずヘム合成に関連する様々な要因 (6-8) が関与す る。皮膚型に分類される晩発性皮膚ポルフィリン症 受付 2007 年 4 月 13 日,受理 2007 年 12 月 4 日 Reprint requests to: Masahito AMINAKA
Department of Preventive Medicine, St. Marianna University School of Medicine, 2-16-1 Sugao, Miyamae-ku, Kawasaki 216-8511, Japan TEL:+81(44)977-8111 (3426), FAX: +81(44)977-8356
(PCT: porphyria cutanea tarda)には遺伝性と獲得性ポル フィリン症があり (9),獲得性の PCT では効果的な治療 法の検討 (10) もなされている。しかし,多くのポルフィ リン症は遺伝性疾患であるために遺伝子治療の確立以外 は根治が望めず,現状では対症療法に依存している (11-13)。ポルフィリン症患者および遺伝的な素因を有する未 発症の血縁者にとって初発作の予防(発症予防)や病状 管理は,QOL を維持する上で重要な問題である。また, ポルフィリン症の初発作は出生直後の発症例 (14),薬物 摂取による発症例 (15),他の疾病に起因した発症例 (16),ストレスやその他の要因による発症例 (17) など多 くの報告がなされており,発症を予見するための指標は 確立されていない。 一方,生体内での酸化的ストレスは,発がんをはじめ とする様々な原因による生体影響への関与が明らかにさ れてきている。我々の研究では,ヒ素中毒 (18,19) や石 綿曝露 (20) などの毒物による生体影響,運動 (21) や栄 養 (22) などの生活習慣による生体影響,小児性脳障害 (19,23) などの疾病による生体影響と酸化的ストレスと の関連性を明らかにした。またポルフィリン症と酸化的 ストレスとの関連性では,ポルフィリン症患者における 酸化的ストレスの抑制が病状を軽減させるという報告 (24) があり,さらに我々は,これまでに皮膚型ポルフィ リン症の赤芽球性プロトポルフィリン症(EPP: erythro-poietic protoporphyia)で酸化的ストレスの指標である 8-hydroxy-2′-deoxyguanosine(8-OHdG)が高値であること を確認している (25)。 本研究ではポルフィリン症と酸化的ストレスの関係を 明らかにするために,6 病型のポルフィリン症患者と 2 病 型の未発症血縁者について酸化的ストレスの指標である 尿中 OHdG を測定し,ポルフィリン症における尿中 8-OHdG濃度の測定が発症予防や病状管理に有効な指標と なり得るのか検討を行ったので報告する。 方 法 1.対象者 対象者は問診,血液や尿,糞便による生化学検査もし くは分子生物学的解析をおこない,主治医によってポル フィリン症と確定診断された PCT 患者 10 名,急性間歇 性ポルフィリン症患者(AIP: acute intermittent porphyria) 5 名,EPP 患者 5 名,先天性赤芽球性ポルフィリン症患者 (CEP: congenital erythropoietic porphyria)7 名,遺伝性コ プロポルフィリン症患者(HCP: hereditary coproporphyria) 8 名,多様性ポルフィリン症患者(VP: variegate porphyria) 5 名,および遺伝的な素因を有する患者の血縁者として AIP未発症血縁者 7 名,EPP 未発症血縁者 7 名の 54 名で あった。対照群には成人の日本人健常者 248 名のデータ を用いた (18,26)。 2.試料の採取及び輸送方法 尿試料は聖マリアンナ医科大学病院,北里大学病院を 含む全国 30 施設の医療機関で採取された後,遮光下ドラ イアイスで凍結状態のまま保存し,国立健康・栄養研究 所にて尿中ポルフィリンを測定した。その後,同一の検 体を用いて聖マリアンナ医科大学にて尿中 8-OHdG の測 定を実施した。検体は全て-80°C で保存した。 3.尿中ポルフィリンと 8-OHdG の分析 尿中ポルフィリン濃度の測定は高速液体クロマトグラ フィー蛍光検出法を用いた (27)。試料は 0.08%ヨウ素含 有酢酸を等量加えて混和し,試料中に含まれるポルフィ リノ-ゲンを酸化させてポルフィリンを測定した。標準 試料には,porphyrin acid chromatographic marker kit CMK-1 及び coproporphyrin fluorescence standards CFS-3 (Porphyrin Products. UTAH U.S.A.)を使用した。
尿中 8-OHdG 濃度は 8-OHdG キット(日本老化制御研 究所 袋井)を使用し,enzyme-linked immuno sorbent assay (ELISA)法にて測定した (28)。ELISA 法に用いたマイ クロプレートリーダーは SPECTRA CLASSIC(TECAN
Austria)を,定量分析には,LS-PLATEmaneger 2001 for
windowsを使用した。尿中 8-OHdG 実測値の補正には,尿
中クレアチニン(cr)濃度を creatinine test kit(和光純薬 東京)を用いて測定し,cr 補正を行った (27)。
4.統計処理
測定結果の解析は Stat-View for Windows Ver. 5.0 を使 用し,統計学的な処理は Mann-Whitney U 検定および Kruskal Wallis検定を用いた。 5.倫理的配慮 本研究を遂行するための試料提供および成果について は,国の倫理指針が定められる平成 15 年 3 月以前であっ たため,聖マリアンナ医科大学及び国立健康・栄養研究 所の生命倫理審査委員会等への申請,審査及び承認は受 けていない。しかし,本研究は,聖マリアンナ医科大学 倫理委員会規定及び国立健康・栄養研究所の生命倫理規 定に基づいて遂行し,またヘルシンキ宣言に基づいて患 者本人及び家族から承諾を得た。また,患者団体(全国 ポルフィリン代謝障害患者の会「さくら友の会」)からの 全面的な協力も得ており,各医療機関においてイン フォームドコンセントを行い,患者本人及び家族の承諾 を得た上で試料の採取を行った。 結 果 1.各種ポルフィリン症の尿中ポルフィリン濃度 ポルフィリン症患者および対照者の尿中ポルフィリン 濃度を Table 1 に示した。尿中ポルフィリンの排泄パター ンはポルフィリン症の各病型によって特徴が示され, 皮膚型ポルフィリン症では対照群と比較して PCT の
uroporphyrin(UP)と coproporphyin III(CP III)濃度で有 意差が特に高く(Mann Whitney U
検定,p<0.001),copro-porphyrin I(CP I)濃度で有意に高値であった(p<0.01)。 HCPでは CP III 濃度で有意差が特に高く(p<0.001),UP と CP I 濃度で有意に高値であった(p<0.01)。また CEP では UP,CP I および CP III 濃度で特に有意な高値であっ た(p<0.001)しかし,EPP では他のポルフィリン症に 比較して尿中ポルフィリン濃度が少なく,CP I で有意な 高値(p<0.01),CP III 有意差を認めた(p<0.05)が,UP で有意差は認められなかった。急性ポルフィリン症であ り,かつ皮膚障害を呈する VP では,UP および CP III 有 意差が特に高く(p<0.001),CP I 濃度で有意に高値で あった(p<0.01)。また皮膚障害の無い AIP では CP III 濃 度で有意差が特に高く(p<0.001),UP および CP I 濃度 で有意な高値を認めた(p<0.01)。 ヘム合成の効率を表す CP I/CP III 比では対照群の 0.71 に比較して CEP が 16.9 と有意に高く(p<0.01),EPP は 2.50 で高値の傾向を示した。しかし VP,HCP,AIP の CP I/CP III 比は逆に対照群よりも低く,特に VP では有意な 低値を認めた (p<0.001)(Fig. 1)。 Fig. 2には AIP,EPP 患者および未発症血縁者の各々の 尿中ポルフィリン濃度を示した。AIP 未発症血縁者の尿 中ポルフィリン濃度は AIP 患者とは異なり,UP,CP I お よび CP III で対照群と全く差がなかった。EPP の未発症 血縁者では EPP 患者に似たパターンを示し,対照群に比 較して CP III が約 2.4 倍の高値となった(p<0.01)。しか し,発症者と未発症血縁者の間には有意な差は見られな かった。 2.各種ポルフィリン症の尿中 8-OHdG 濃度 ポルフィリン症患者および対照者の尿中 8-OHdG 濃度 を Table 2 に示した。皮膚障害を呈する皮膚型ポルフィリ ン症の CEP,PCT,HCP,EPP および急性ポルフィリン 症であっても皮膚障害を呈する VP の尿中 8-OHdG 濃度 は,対照群に比較して有意な高値を認めた (PCT,EPP; p<0.001)(CEP,HCP,VP: p<0.05)。しかし,皮膚障 害を呈さない AIP の尿中 8-OHdG 濃度は,対照群との間 に有意差は認められなかった。一方,Fig. 3 に示したよ うにポルフィリン症患者と未発症血縁者の尿中 8-OHdG 濃度を比較した結果,AIP では患者,未発症血縁者にか かわらず対照群と変わらず,有意な差は示されなかった。 しかし,EPP 患者の尿中 8-OHdG 濃度は対照群に比較し て約 2.8 倍(p<0.001)の有意な高値を示し,EPP 未発症 血縁者でも約 1.3 倍の有意な高値を認めた(p<0.05)。ま た AIP,AIP 未発症血縁者と対照者,EPP,EPP 未発症血 縁者と対照者の 8-OHdG 濃度について Kruskal wallis 検定 による多重比較をおこなった。その結果,対照者と EPP, EPP未発症血縁者に有意差が見出された(p<0.007)。一 方,対照者と AIP,AIP 未発症血縁者に有意差は認めら れなかった。 考 察 本研究は皮膚障害を発症する皮膚型ポルフィリン症の PCT,HCP,CEP,EPP と急性ポルフィリン症であっても 皮膚障害を呈する VP そして唯一皮膚障害を発症しない AIPを総括的に研究対象とした。Table 1 に示したように PCT,VP,HCP,CEP,AIP は尿中ポルフィリン濃度が特 に高値を示した群であった。これに対して EPP および EPP未発症血縁者は PCT,VP,HCP,CEP,AIP および AIP未発症血縁者に比較して尿中ポルフィリン濃度にお ける上昇傾向は僅かではあったが,対照群に比較して
EPPでは CP Iと CP IIIで,EPP未発症血縁者では CP IIIで有
意差を認めた(Fig. 2)。尿中ポルフィリンは代謝中間物 質であり,影響を受ける標的酵素も病型によって異なる (1)。EPP では標的となる病因酵素が Fig. 4 に示したよう に ferrochelatase であるため,血液および糞便中プロトポ ルフィリン濃度の上昇が診断に用いられており,尿中ポ
Table 1 The urinary porphyrin concentraitons on dermatopathy porphyria types and acute intermittent porphyria, and controls (except for nonpathogeny consanguinities of acute intermittent porphyria and erythropoietic proto porphyria)
UP CP I CP III
porphyrin concentrations in urine (µg/g. creatinine)
controls (n=248) 12.5±5.12 18.6±11.5 26.2±23.8 dermatopathy porphyria PCT (n=10) 3149±3627*** 96.5±61.3** 149±119*** VP (n=5) 2890±4002*** 193±246** 661±530*** HCP (n=8) 877±1191** 350±457** 2205±2869*** CEP (n=7) 47922±37976*** 6467±4065*** 736±638*** EPP (n=5) 37.1±12.6 113±116** 45.0±36.4* acute porphyria AIP (n=5) 1351±940** 101±126** 472±404*** Values are presented as means±S.D.
Statistically significant difference either porphyrin level on the patients and controls by Mann-Whiteny U test. * p<0.05, ** p<0.01, *** p<0.001 UP; uroporphyrin, CP I; coproporphyrin I-isomer, CP III; coproporphyrin III-isomer, PCT; porphyria cutanea tarda, VP; variegate porphyria, HCP; hereditary copro porphyria, CEP; congenital erythropoietic porphyria, EPP;erythropoietic proto porphyria, AIP; acute intermittent porphyria.
ルフィリンの増加は殆ど認められないことが知られてい る (1)。本研究では EPP においてもコプロポルフィリン 高値が明らかにされ,CP I/CP III 比も高値傾向を示すこ とが確認された。他のポルフィリン症では,PCT におい て UP の顕著な上昇を,AIP と VP では UP および CP III で顕著な上昇を,HCP と CEP では UP,CP I および CP III
で顕著な上昇をそれぞれ確認し,尿中ポルフィリン排泄 パターンは既知の診断に準じた結果を認めた (1)。また,
CEPは病因酵素が CP III 生成に関与する uroporphyrinogen
synthetaseであるため,機能的なヘム合成障害が生じ,他
のポルフィリン症に比較して CP I/CP III 比も顕著な高値 を認めた。
Fig. 2 The urinary porphyrin concentrations of acute intermittent porphyria, erythropoietic proto porphyria patients and carrier. AIP; acute intermittent porphyria, EPP; erythropoietic proto porphyria, UP; uroporphyrin, CP I; coproporphyrin I isomar, CP III; coproporphyrin III iso-mar. Mann-Whiteny U test, p<0.01, p<0.001.
Fig. 1 The ratio of CP I/CP III on dermatopathy and acute porphyria types, and controls. (except for nonpathogeny consanguinities of acute intermittent porphyria and erythropoietic proto porphyria). AIP; acute intermittent porphyria, CEP; congenital erythropoietic porphyria, PCT; por-phyria cutanea trada, HCP; hereditary copropopor-phyria, VP; variegate porpor-phyria, EPP; erythropoietic porpor-phyria, CP I; coproporphyrin I-isomar, CP III; coproporphyrin III-isomar.
一方,ポルフィリン症患者の酸化的ストレスに対する 影響を明らかにするため,尿中 8-OHdG 濃度の測定を 行った。その結果,Table 2 に示したように CEP および EPPの尿中 8-OHdG 濃度は対照群に比較して有意に高く なる傾向を明らかにした。我々はこの機序を hydoroxy methylbiraneの関与によるものと考えた(Fig. 4)。すなわ
ち,hydoroxy methylbirane は CP I/CP III 比の変動に直接 影響するため (29),外的因子によって非酵素的に反応が 促進し,CP I が最終産物として大量に生成したのではな いかと推察した。つまり,EPP における CP I/CP III 比の 上昇は,皮膚障害に起因した過度の酸化的ストレスが外 的因子として影響を与え,CP I を過剰に生成したためで あると考えた。また,Fig. 3 に示したように,EPP では 8-OHdG濃度が対照者に比較して特に有意な高値を認め, EPP未発症血縁者も有意な高値であった。多重比較から は,対照者及び EPP,EPP 未発症血縁者の間にも有意差 を認めた。すなわち,EPP 未発症血縁者は EPP 患者の酸 化的ストレスの影響レベルには至らないが,EPP 未発症 血縁者であっても酸化的ストレス影響を受けていること が懸念された。EPP 未発症血縁者にも発症のリスクがあ り,病状としての皮膚障害には至っていないが,生体内 の酸化的ストレスレベルでは対照者よりも影響のあるこ とが示唆され,発作の発症原因から少しでも遠ざけるこ とが重要であると考える。 他方,急性ポルフィリン症は主に急性腹痛・手足のし びれや麻痺などの神経症状,皮膚型ポルフィリン症では 主に日光被曝による皮膚障害を起こすことが知られてい る。AIP の急性腹痛や神経症状の原因として,生体内に 蓄積した高濃度の 5-aminolevrinic acid(ALA)の関与が 懸念されている (30)。近年,がん治療の分野で ALA を 用いた photo dynamic therapy も臨床応用されているが
(31),AIP 様の症状は報告されておらず,急性腹痛や神 経症状の発症機序は不明のままである。皮膚型ポルフィ リン症における日光過敏は,生体内で過剰蓄積したポル フィリノーゲンが日光による長波長紫外線によって励起 し,ポルフィリンに変化した際に生成するラジカル(主 に一重項活性酸素)反応が酸化的ストレスを誘導するた めであると考えられている (32)。しかし,詳細は解明さ れておらず,その生体影響も明らかにされていない。そ こで本研究では酸化的ストレスが皮膚障害の主要な原因 であることを明らかにするため,8-OHdG 濃度と尿中ポ
Fig. 3 The urinary 8-OHdG concentrations of acute intermittent porphyria, erythropoietic proto porphyria patients and carrier. AIP; acute intermittent porphyria, EPP; erythropoietic proto porphyria Mann-Whiteny U test, p<0.05, p<0.001.
Table 2 The urinary 8-OHdG concentraitons on dermatopathy porphyria types and acute intermittent porphyria, and controls (except for nonpathogeny consanguinities of acute intermittent por-phyria and erythropietic proto porpor-phyria)
8-OHdG concentrations in urine (ng/g creatinine) controls (n=248) 15.7±5.48 dermatopathy porphyria PCT (n=10) 26.2±7.34*** VP (n=5) 20.6±9.31* HCP (n=8) 23.5±17.75* CEP (n=7) 53.0±29.54* EPP (n=5) 43.9±26.47*** acute porphyria AIP (n=5) 16.5±9.00 Values are presented as means±S.D.
Statistically significant difference either 8-OHdG level on the patients and controls by Mann-Whiteny U test.
* p<0.05, *** p<0.001.
UP; uroporphyrin, CP I; coproporphyrin I-isomer, CP III; copropor-phyrin III-isomer, PCT; porphyria cutanea tarda, VP; variegate porphyria, HCP; hereditary copro porphyria, CEP; congenital eryth-ropoietic porphyria, EPP; erytheryth-ropoietic proto porphyria, AIP; acute intermittent porphyria.
ルフィリンの相関について検討を行った。その結果,皮 膚障害の生じるポルフィリン症患者では,8-OHdG と UP,hepta carboxyl porphyrin,hexa carboxylporphyrin,penta
carboxyl porphyrin Iおよび CP I との間で有意な相関が確認 された(p<0.001)。これに対して,皮膚障害の見られな い AIP では,8-OHdG 濃度と尿中ポルフィリンに相関関 係は示されなかった(Table 3)。このことから皮膚障害 を呈するポルフィリン症の尿中ポルフィリンの動態と酸 化的ストレス(尿中 8-OHdG の上昇)との間に関連性を 見出すことができた。皮膚障害を呈するポルフィリン症 の発症及び症状の悪化に日光被爆が影響することは周知 の事実であり,生体内の過剰なポルフィリノーゲンが紫 外線によって励起され,ポルフィリンに酸化されるとき に活性酸素を発生させることによって,皮膚の紅斑,水 疱,腫脹などの日光過敏症や色素沈着,瘢痕を呈するこ とが示唆された。 近年,皮膚型ポルフィリン症において皮膚障害の治療 を目的とした抗酸化剤治療 (33) が試みられている。しか し,有効で信頼性のある成績は得られていない。また, 関連したレシチン化 SOD 製剤を用いた治験も試みられ たが症状の改善は得られていない(Kondo M. personal communication)。このような治療結果から,我々は生体 内での酸化的ストレスは過酸化水素よりも,一重項酸素 などによる影響が主要因ではないかと推察した。また, EPP治療として beta-carotene による内服療法が行われた 症例も報告されている (34)。beta-carotene は酸化的 DNA 損傷を誘導するとの報告があり (35),EPP 治療を目的と した beta-carotene 投与には,発作を助長する恐れも懸念 される (36)。 他方,AIP,VP,PCT,HCP および EPP は常染色体優 性遺伝の疾患であり,遺伝的素因を有するポルフィリン 症未発症の血縁者は,患者と同様の発症リスクにさらさ れている。酸化的ストレスによる生体影響の把握は,患 者にとって発作時の病状管理や安定時の QOL を向上さ
Fig. 4 Mechanisms of heme metabolism in porphyria. Figure 4 shows synthesis of heme and porphyrin metabolism. Main synthesis reactions are indicated by heavy lines. Narrow lines show non-enzymatic synthesis. Heavy dotted lines show enzymatic inhibitory reactions and narrow dot-ted lines show individual enzymatic synthesis.
Table 3 The correlation between 8-OHdG and porphyrins in urine on dermatopathy porphyria and acute intermittent porphyria UP hepta hexa penta CP I CP III dermatopathy porphyria (n=35) 0.558*** 0.522*** 0.653*** 0.637*** 0.579*** 0.292 AIP (n=5) 0.304 0.322 0.007 0.107 0.352 0.300 correlation coefficient test, *** p<0.001.
UP; uroporphyrin, hepta; hepta carboxyl porphyrin, hexa; hexa carboxyl porphyrin, penta; penta carboxyl porphyrin, CP I; coproporphyrin I-isomar, CP III; coproporphyrin III-isomar dematopathy porphyria; The sum total of PCT, VP, HCP, CEP and EPP (PCT; porphyria cutanea trada, VP; variegate porphyria, HCP; hereditary copropophyria, CEP; congenital erythropoietic porphyria, EPP; erythropoietic proto porphyria) AIP; acute intermittent porphyria.
せるだけではなく,未発症血縁者の発作を回避する上で 重要であり,家族に対するプライマリ・ケアにも寄与で きるものと考える。 お わ り に 本研究ではポルフィリン症患者の尿中 8-OHdG 濃度を 測定した結果,皮膚障害を呈するポルフィリン症患者群 では尿中 8-OHdG 濃度が上昇傾向であることを明らかに した。これに対して,皮膚障害がない AIP や AIP 未発症 血縁者には尿中 8-OHdG 濃度の上昇が認められなかっ た。すなわち,皮膚障害の発症機序に酸化的ストレスが 起因していることが明かになった。一方,ポルフィリン 症の特徴として過剰生成するポルフィリンが病型で異な るために,尿中ポルフィリン濃度のみでは病状を把握で きない。皮膚障害を呈するポルフィリン症であれば,8-OHdGを用いることによって病型の異なる症例との間で 病状の比較検討が可能になるのではないかと考える。ポ ルフィリン症の治療は対症療法のみであり,有効な治療 法が望めないため,発症予防や病状管理は極めて重要で ある。ポルフィリン症患者における生体中の酸化的スト レスを把握することは,全身管理をおこなう目安として 重要であり,その手段として尿中 8-OHdG 濃度の測定は 有効な指標であると考える。 文 献 ( 1 ) 近藤雅雄,矢野雄三,白鷹増男,柘植光代,浦田郡平. 内分泌,栄養・代謝疾患 ポルフィリン症.日本臨牀 2001;59:349-364. ( 2 ) 赤木玲子,高川真徳,藤田博美.ポルフィリン症の分 子生物学.ポルフィリン研究会編,ポルフィリン・ヘ ムの生命科学.東京:東京化学同人,1995:128-135. ( 3 ) Sassa S. Modern diagnosis and management of the
por-phyrias. Br J Haematol. 2006;135:281-292. ( 4 ) 岸 泰宏.症状性(器質性)精神障害の治療ガイドラ イン第 1 章 全身疾患に精神疾患が由来する病態 1)代 謝・内分泌疾患 12)急性ポルフィリア.精神科治療学 2006;21:48-50. ( 5 ) 三浦 隆 . 皮膚型ポルフィリン症の臨床.ポルフィリ ン研究会編,ポルフィリン・ヘムの生命科学.東京: 東京化学同人,1995:154-158.
( 6 ) Badminton MN, Elder GH. Molecular mechanisms of dom-inant expression in porphyria. J Inherit Metab Dis. 2005; 28: 277-286.
( 7 ) Fujita H, Nishitani C, Ogawa K. Lead, chemical porphyria, and heme as a biological mediator. Tohoku J Exp Med. 2002; 196:53-64. ( 8 ) 藤田博美,西谷千明,中島美寧博.鉄の分子栄養学. 日本衛生学雑誌 2003;58:248-253. ( 9 ) 近藤雅雄.晩発性皮膚ポルフィリン症の C 型肝炎の合 併症例の生化学的解析.消化器科 2004;39:681-690. (10) 鳥巣勇一,木下晃吉,伏谷 直,瀬嵐康之,穂苅厚史, 石川智久,河辺朋信,高橋宏樹,銭谷幹男,戸田剛太 郎.C 型慢性肝炎のインターフェロン治療に伴い改善 した晩発性皮膚ポルフィリン症の 1 例.肝臓 2003; 44: 522-527.
(11) Kawasaki H. Novel Therapies in Porphyrias. Porphyrins. 1998; 7:93-98.
(12) Asada N, Kitamoto M, Aisaka Y, Kawamura H, Nakanishi T, Kajiyama G, Horie Y. Recovery from acute cholestasis associated with erythropoietic protoporphyria treated by antibiotics. Clin Chim Acta. 1999;282:197-201.
(13) Cherem JH, Malagon J, Nellen H. Cimetidine and acute
in-termittent porphyria. Ann Intern Med. 2005;143:694-695.
(14) 荒井佳恵,本多芳英,内海雅子,坪井良治,五百井寛 明,河島尚志.臨床例 骨髄性プロトポルフィリン症 の姉弟例.皮膚病診療 2004;26:1261-1264. (15) 磯島 豪,安藤智暁,永井由紀子,谷田川聡也,竹内 正人,小田洋一郎,鈴木五三男,熊沢洋子.急性ポル フィリア様症状を呈した薬剤性コプロポルフィリン 尿症の 1 例.ポルフィリン 2003;12:63-65. (16) 川上康彦,藤田武久,松永成太,橋本 清,松岡和彦, 桑原健太郎,藤野 修,古根 淳,近藤雅雄.難治て んかんにポルフィリン代謝異常を併発したと考えら れた一症例.ポルフィリン 2002;11:125-132. (17) 山下利春,大森房之,嵯峨賢次,神保孝一.熱傷を契 機に発見された晩発性皮膚ポルフィリン症.臨床皮膚 科 2003;57:698-700.
(18) Yamauchi H, Aminaka M, Yoshida K, Sun G, Pi J, Waalkes MP. Evaluation of DNA damage in patients with arsenic poisoning: urinary 8-hydroxydeoxyguanine. Toxicol Appl Pharmacol. 2004;198:291-296. (19) 山内 博,福田美穂,網中雅仁,吉田勝美.小児の脳 障害に対する酸化的ストレスのバイオマーカー:ヒ素 曝露を中心に.臨床環境医学 2005;14:2-8. (20) 高田礼子.石綿無害化処理材の有害性評価.日本衛生 学雑誌 2007;62:401-403. (21) 網中雅仁,山内 博,渡辺尚彦,工藤吉郎,吉田勝美. マラソン走者の運動負荷による酸化的 DNA 損傷および ポルフィリン代謝の研究.日本衛生学雑誌 2004; 59: 188. (22) 網中雅仁,近藤雅雄,餐場直美,田口浩子,大田 麗, 栗原典子,拓殖光代,岡 純,梶本雅俊,池田真紀, 山内 博,高田礼子,吉田勝美.健常高齢者における 抗酸化食品(ピーマン)による酸化的ストレスの改善 の効果.臨床環境医学 2006;15:124-130. (23) 福田美穂,山本 仁,村上浩史,神山紀子,宮本雄策, 小板橋靖.小児脳障害における 8- ヒドロキシデオキシ グアノシン(8-OHdG)を使用した酸化的ストレス評 価の研究.聖マリアンナ医科大学雑誌 2005;33:383-392.
(24) Pinelli A, Trivulzio S, Tomasoni L, Bertolini B, Pinelli G. High-dose vitamin E lowers urine porphyrin levels in pa-tients affected by porphyria cutanea tarda. Pharmacol Res. 2002; 45:355-359.
(25) 網中雅仁,山内 博,近藤雅雄,吉田勝美.ポルフィ リン症患者における酸化的ストレスに関する研究.日 本衛生学雑誌 2005;60:258.
(26) Kimura S, Yamauchi H, Hibino Y, Iwamoto M, Sera K, Ogino K. Evaluation of urinary 8-hydroxy deoxyguanine in
healthy Japanese people. Basic Clin Pharmacol Toxicol. 2006; 98:496-502.
(27) 網中雅仁,山内 博,木村慎吾,千葉啓子,吉田勝美. 日本人健常者の尿中ポルフィリン濃度に関する研究. 臨床環境医学 2002;11:29-35.
(28) Saito S, Yamauchi H, Hasui Y, Kurashige J, Ochi H, Yoshida K. Quantitative determination of urinary 8-hydroxy-deoxyguanosine (8-OHdG) by using ELISA. Res Commun
Mol Pathol Pharmacol. 2000;107:39-44.
(29) Frydman RB, Frydman B. 1 Protoporphyrin: Synthesis and biosynthesis of its metabolic intermediates. The porphyrins. Dolphin D. Vol. VI. New York: Academic press, 1979:3-115.
(30) Herrick AL, McColl KE. Acute intermittent porphyria. Best Pract Res Clin Gastroenterol. 2005;19:235-249.
(31) de Bruijn HS, van der Ploeg-van den Heuvel A, Sterenborg HJ, Robinson DJ. Fractionated illumination after topical ap-plication of 5-aminolevulinic acid on normal skin of hair-less mice: the influence of the dark interval. J Photochem
Photobiol B. 2006;85:184-190.
(32) Mukerji SK, Pimstone NR. Free radical mechanism of oxi-dation of uroporphyrinogen in the presence of ferrous iron.
Arch Biochem Biophys. 1990;281:177-184.
(33) Bohm F, Edge R, Foley S, Lange L, Truscott TG. Anti-oxdant inhibition of porphyrin-induced cellular phototoxici-ty. J Photochem Photobiol B. 2001; 65:177-183. (34) Alemzadeh R, Feehan T. Variable effects of beta-carotene
therapy in a child with erythropoietic protoporphyria. Eur J
Pediatr. 2004;163:547-549.
(35) Palozza P, Serini S, Di Nicuolo F, Boninsegna A, Torsello A, Maggiano N, Ranelletti FO, Wolf FI, Calviello G, Cittadini A. Beta-carotene exacerbates DNA oxidative damage and modifies p53-related pathways of cell prolifera-tion and apoptosis in cultured cells exposed to tobacco
smoke condensate. Carcinogenesis. 2004;25:1315-1325.
(36) Badminton MN, Elder GH. Management of acute and cuta-neous porphyrias. Int J Clin Pract. 2002;56:272-278.