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ク ラウス ・ロク シン『刑 法 総 論 』第一 巻(第 三 版)〔十 五 〕

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【翻 訳 】

ク ラウス ・ ロク シン『刑 法 総 論 』第一 巻(第 三 版)〔十 五 〕

ク ラ ウ ス ・ロ ク シ ン 著 吉 田 宣 之 訳

第17章 職務上の権 限 と強制権;官庁の許可 第1節 公務員の侵害権

1国 家 公 務 員 は 、 法 規 を 貫 徹 す る た め に 種 々 強 制 を用 い な け れ ば な ら な い 。 そ の よ う な 強 制 処 分 は 、 通 常 、 強 要 罪(刑 法240条)、 逮 捕 監 禁 罪(刑 法239条)、 傷 害 罪(刑 法223条)あ るい は 住 居 侵 入 罪(刑 法123条) の よ う な 刑 罰 構 成 要 件 を 充 足 して い る 。 そ れ が 許 さ れ る の は 、 正 当 化 事 由 と して 作 用 す る侵 害 規 範 が 前 提 と して存 在 して い る か らで あ る 。 国 家 の 侵 害 権 は 、 極 め て 多 く、 種 々 の 法 に点 在 して い る。 こ こ で 、 そ れ らを 個 別 的 に テ ー マ と して 取 上 げ る こ と も不 可 能 で あ る し、 ま た 、 一 つ ず つ 記 述 す る こ と さ え不 可 能 で あ る た め 、 二 、 三 を例 示 す る こ と に留 め ざ る を え な い 。 決 定 的 に重 要 な侵 害 権 は 、 刑 事 訴 訟 法 に含 ま れ て い る 。例 え ば 、 刑 事 訴 訟 法81条(精 神 病 院へ の収 容 処 分)、 刑 事 訴 訟 法81条a(身 体 へ の 侵 害 、 血 液 検 査 の た め の 採 取)、 刑 事 訴 訟 法81条b(写 真 撮 影 と 指 紋 押 捺 の 強 制 的 採 取)、 刑 事 訴 訟 法94条 以 下(差 押)、 刑 事 訴 訟 法102

条 以 下(捜 索)、 刑 事 訴 訟 法112条 以 下(逮 捕)、 刑 事 訴 訟 法126条a(仮 留 置)、 刑 事 訴 訟 法127条 以 下(仮 逮 捕)、 刑 事 訴 訟 法134条(勾 引)、 刑 事 訴 訟 法164条(妨 害 者 の 逮 捕)、 刑 事 訴 訟 法449条 以 下(刑 罰 の 執 行) で あ る 。 行 刑 法 は 、 全 体 と して 、 行 刑 に よ っ て 制 限 され る 自 由 剥 奪 の 法 治 国 家 的 限 界 を規 定 して い る し、 ま た 、 多 くの 強 制 処 分 の 合 法 性 を個 別 的 に認 め て い る(行 刑 法94条 以 下 参 照)。 更 な る侵 害 を可 能 に して い る

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桐 蔭 法 学 正8巻1号(2011年)

の は 、 民 事 訴 訟 法 で あ る 。 例 えば 、 民 事 訴 訟 法883条 以 下(執 行 官 の 侵 害)、 あ る い は 、 民 事 訴 訟 法888条 、901条 、909条(拘 禁)で あ る 。 さ

ら に、 破 産 法 は 、 例 え ば 、 破 産 法101条2項(勾 引 、拘 禁)、117条(占 有 侵 奪)、121条1項2文(親 書 の 開 披)で 、侵 害 の 可 能 性 を認 め て い る。

加 え て 、 ほ と ん どの 州 で 規 定 され て い る警 察 の 強 制 処 分 、 性 病 者 の 強 制 入 所(性 犯 罪 対 策 法18条2項)、 精 神 病 者 お よ び 中 毒 患 者 の 強 制 入 院(州 法 に よ る)、 そ の 他 多 数 の 規 定 が 、 そ れ に 属 す る 。

2こ れ らの 侵 害 の 前 提 条件 は 、 相 互 の 関 連 性 を保 ち な が ら、 そ れ ぞ れ の 法 領 域 に よ っ て 規 定 さ れ て お り、 そ れ 故 に 、 そ れ らが 刑 法 的 な作 用 を営 ん だ と して も、 刑 法 的 な 実 体 を持 っ た も の で は な い 。 こ れ に 反 して 、 公 務 員 に よ る侵 害 は、 そ れ 自体 、 一 つ の 問 題 を 持 っ て お り、 そ れ は 、 特 殊 刑 法 的 で 、 公 務 員 の 錯 誤 が 彼 ら の 行 為 の 適 法 性 に 関 係 しな い の か 、 あ る い は 、 関係 した 場 合 に は どの 程 度 な の か 、 ま た 、 当 事 者 か ら正 当 防 衛 権 が 奪 わ れ る の か 否 か 、 奪 わ れ る と して どの 程 度 な の か とい う 問 に係 る も の で あ る 。 確 定 した 判 例 お よ び 支 配 的見 解 に よれ ば 、 そ の 点 に 関 して は 、 特 別 の 、 刑 法 的違 法 性 概 念 が 適 用 さ れ る と され る 。 そ れ に よ れ ば 、 公 務 員 は 、彼 の行 為 が 、 例 え ば 、 公 法 的 に は 違 法 で あ り、 取 り消 し う る も の で あ る場 合 で も、 適 法 に行 為 して い る こ と に な る の で あ る。

3こ の よ う な見 解 に よれ ば 、 侵 害 の適 法 性 の 条 件 は 、 まず 、 公 務 員 が 事 物 的 お よび 場 所 的 に 管 轄 権 を持 っ て い る こ と で あ る 。 公 務 員 が 事 物 的 に 管 轄 権 の な い 場 合 と は 、 当 該 種 類 の 侵 害 が お よ そ 彼 の 職 務 権 限 の 領 域 に は 入 らな い よ う な 場 合(例 え ば 、 検 察 官 が 刑 事 訴 訟 法114条 に 基 づ い て 勾 留 状 を発 付 す る よ う な場 合)で あ る 。 土 地 管 轄 権 は 、 州 の公 務 員 の 場 合 、 い ず れ に しろ 、 州 の 境 が 限 界 で あ る(例 外:裁 判 所 構 成 法167条)。

そ の 他 、 「個 別 的 に は 、 執 行 され た 職 務 行 為 の種 類 が 重 要 で あ る 。 適 法 性 は 、 あ る 職 務 行 為 の 場 合 に は 、 そ の管 轄 区 域 に拘 束 され て い る。 しか し、

他 の 職 務 行 為 の 場 合 に は 、 土 地 管 轄 が 管 轄 区 域 を超 え て い る た め に 、 そ の よ うな 拘 束 は ない 」(連 邦 通 常 裁 判 所 刑 事 判 例 集4巻112頁)。 例 え ば 、

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ク ラ ウス ・ロ ク シ ン 『刑法 総 論』 第 一巻(第 三 版)〔 十五 〕(吉 田宣之)

地 方 警 察 の 場 合 、 可 罰 的 行 為 の 阻 止 の た め で あ れ ば 管 轄 区 域 外 で あ っ て も介 入 す る こ とが で きる の に対 して 、例 え ば 、 鉄 道 警 察 の場 合 は、 「警 察 権 限 の行 使 は鉄 道 の 範 囲 に限 ら れ て 」 い る 。

4事 物 管 轄 と土 地 管 轄 に加 え て 、 本 質 的 な様 式 規 定 が 尊 重 さ れ な け れ ば な らな い し(例 え ば 、 刑 事 訴 訟 法114条 に よ れ ば 、 勾 留 状 は 、 書 面 で 提 示 さ れ な け れ ば な らな い)、 必 要 性 と相 当 性 の 基 本 要 件 を 遵 守 して い な け れ ば な ら な い 。 そ れ に 対 し て 、侵 害 権 限 の 事 実 的 前 提 の存 否 に関 す る錯 誤 は 、公 務 員 が 合 義 務 的 な 検 討 に もか か わ ら ず 、 誤 っ た判 断 に至 っ た よ

う な場 合 に は、 正 当性 を変 更 す る もの で は な い 。 他 方 、 侵 害 権 の 法 的 限 界 に つ い て の 錯 誤 は 、 公 務 員 の 行 為 を 、 刑 法 的 な 意 味 で 、 常 に、 違 法 化

す る べ きで あ る 。

5既 に、 大 審 院 は 、 こ の よ う な考 え を判 例 と して確 立 して い る 。 大 審 院 刑 事 判 例 集30巻348頁 以 下 で は、 警 察 の 巡 査 が 、 「実 体 的 に は 間 違 っ て い る」 措 置 で あ る に もか か わ らず 、 「事 態 の全 体 を 考 慮 して 」、 「義 務 に違 反 す る こ と もな く」、 しか し、 誤 っ て 他 人 の住 居 に侵 入 す る こ とが 許 さ れ て い る と考 え た と い う住 居 侵 入 事 案 が 、 検 討 され て い る 。 こ の よ う な事 情 は 、大 審 院 に と って は 、適 法 な公 務 の 執 行 とす る に は 、十 分 で は なか っ

た 。 そ れ は 、 公 務 員 の 錯 誤 が 誤 っ た法 解 釈 に基 づ い て い な か っ た の か ど うか が 明 らか に され て い な い か らで あ る 。 した が っ て 、 「そ の よ うな 事 案 に あ っ て は 、 自 らの 行 為 態 様 の 合 義 務 性 に つ い て の公 務 員 の確 信 は 、 重 要 で は な い(350頁)」 と し て い る 。 大 審 院 刑 事 判 例 集38巻373頁 以 下 で は 、 刑 事 訴 訟 法127条2項 に従 っ た 逮 捕 の 条 件 が 問 題 に な っ て い るの で あ る が 、 こ の 点 に つ い て 、 「これ らの … 行 為 事 情 が 、 客 観 的 に も存 在 して い る の か ど う か は 、 ど う で もい い こ と で あ っ て … 、 む し ろ 、

この よ う な事 情 が 彼(公 務 員)の 合 義 務 的 な裁 量 に よ っ て 存 在 して い る と看做 さ れ て い た か ど う か で 十 分 で あ る(375頁)」 と さ れ て い る 。 大 審 院 刑 事 判 例 集61巻297頁 以 下 は 、 執 行 官 に よ る 差 押 さ え に つ い て 、 彼 が 「そ の住 居 が 債 務 者 の 物 で あ る と誤 っ て思 い 込 ん で い る」 よ う な場

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桐 蔭 法 学18巻1号(2011年)

合 で あ っ て も、 事 情 に よ れ ば 、 適 法 で あ り う る、 と し て い る 。 た だ し、

そ の 場 合 に唯 一 重 要 な の は 、 「執 行 官 が 、 そ れ を債 務 者 の 物 で あ る と思 う こ とが で き た し、 また 、 そ う思 っ て い た とい う 点 に つ い て 、 義 務 に 違 反 す る よ うな 過 失 が 存 在 しな い か ど う か(299頁)」 で あ る。

6こ の 判 例 は 、連 邦 通 常 裁 判 所 に よっ て も、 ま た 、 そ の他 の 上 告 裁 判 所 に よっ て も、 一 貫 して 維 持 され て い る 。 連 邦 通 常 裁 判 所 刑 事 判 例 集4巻 161頁 以 下 に よ れ ば 、 「違 法 に行 為 す る 執 行 官 に対 して は … 正 当 防 衛 が … 当 然 に 許 され る が 、 執 行 行 為 の 適 法 性 は、 主 と して 、 当 該 事 実 に適 用 され る 法 に よ る の で は な く、 原 則 的 に は 、 侵 害 に つ い て の公 務 員 の 事 物 的 お よ び場 所 的権 限 に 、 法 律 の 合 式 性 に 、 … あ るい は … 裁 量 行 為 の秩 序 違 反 性 に よ っ て い る(163頁 以 下)」 と さ れ て い る 。 連 邦 通 常 裁 判 所 刑 事 判 例 集21巻334頁 以 下 に よれ ば 、 「駅 前 広 場 で の ビ ラ撒 き を 阻 止 す る とい う秩 序 維 持 の た め に介 入 す る」 鉄 道 警 察 官 は 、 「全 事 情 の 合 義 務 的 検 討 の結 果 、 彼 の 介 入 行 為 が 事 実 的 に正 当 化 され て い る と思 う こ とが 許 され る」 よ う な場 合 に は、 適 法 で あ る と さ れ て い る。 た だ し 「そ の場 合 、 秩 序 が 事 実 と して 危 殆 化 さ れ て い る か 否 か は 重 要 で は な い(335 頁 、 さ ら に は 、363頁 、365頁)」 と さ れ て い る。 警 察 官 が 刑 事 訴 訟 法81 条aに 違 反 し、 医 者 の 代 わ り に 医 学 助 手 を 使 っ て 採 血 を させ た 場 合 に つ い て 、 連 邦 通 常 裁 判 所 刑 事 判 例 集24巻125頁 以 下(130頁)は 、 こ の よ うな 行 為 の 実 体 的 ・法 的 適 法 性 を、 「彼 が 善 意 で 行 為 して い る、 す な わ ち 、 被 疑 者 か らの 採 血 を 強 制 し う る と考 え る に至 っ た事 実 的 条 件 を誤 っ て 前 提 と して い る 」 こ とか ら導 か れ う る と し て い る。 た だ し、 この よ う な 仮 定 が 無 過 失 で あ る べ きで あ る の か の 点 に つ い て は 、 詳 細 な検 討 は 加 え て い な い 。

7部 分 的 に で は あ るが 、公 務 員 の 強 制 的 侵 害 の 適 法 性 に は 、 わ ず か で は あ る が 、 要 求 が 付 加 され て い る。 と は い え、 連 邦 通 常 裁 判 所 の 判 例 が 、 既 に、 立 入 りの 事 実 的 前 提 条 件 に つ い て の 錯 誤 の 際 に 、 少 な くと も、 「合 義 務 的 検 討 」 を詳 細 且 つ厳 格 に取 調 べ る べ きで あ る と の認 識 を 示 し て い

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ク ラ ウス ・ロ ク シ ン 『刑法 総 論』 第 一巻(第 三版)〔 十五〕(吉 田宣之)

る わ け で は な い 。 む しろ 、 時 折 、 明示 的 に 、 公 務 員 の 重 大 な落 度 が あ っ た 場 合 に の み 、彼 の 行 為 の適 法 性 が 阻却 さ れ る と の結 論 を是 認 して い る。

誤 っ た 法 解 釈 に 基 づ い た裁 判 の 執 行 の 場 合 に は 、 す べ て の 場 合 に違 法 と な る わ け で は な い との 見 解 を示 して い る 。 公 務 員 が 上 司 の 命 令 、 あ る い は 、 指 揮 権 の 在 る官 庁 の 委 任 に 基 づ い て行 為 して い る場 合 、 判 例 に よ れ ば 、 彼 が 善 意 で あ る場 合 に 限 り、 そ の 指 揮 が瑕疵 あ る 法 的 仮 定 に基 づ い て お り、 しか も、 彼 が 検 討 を全 く して い な い 場 合 で あ っ て も、 適 法 に行 為 して い る の で あ る。 い ず れ に しろ 、 恣 意 的 で 、 しか も、 無 効 な 要 求 の 場 合 に は 、 結 論 が 異 な る こ と に な る の で あ る 。 少 数 の 学 者 は 、 さ ら に、

自己 の イ ニ シ ア チ ブ に 従 っ て行 為 して い る 公 務 員 の 場 合 に は 、 事 実 関 係 に つ い て の 錯 誤 と 法 的 状 況 を誤 っ た錯 誤 を 同 列 に 取 り扱 お う と して い る が 、 そ の 理 由 は 、 執 行 力 の 点 に つ い て 、 「そ の 法 的 な形 成 が 完 全 で は な い 」 可 能 性 が あ る か らで あ る と さ れ て い る 。

8文 献 に あ る 注 目す べ き見 解 は 、 既 に 述 べ られ た 「刑 法 的 違 法 性 概 念 」 を 批 判 し、 当 該 市 民 の 地 位 が さ ら に不 利 益 に な る よ う な 方 法 で 、 行 政 法 に リ ンク して い る 。 す な わ ち 、公 法 上 無 効 な 、 す な わ ち 、 「重 大 且 つ 明 白 な瑕疵 」 の あ る 高 権 的 行 為 の場 合 に の み 、 違 法 で あ る とす べ きで あ る が 、 許 可 され て は い な い が 、 取 り消 し可 能 な程 度 の公 務 員 の行 為 は、 こ の 見 解 に よれ ば 、 受 忍 さ れ るべ き で あ り、 そ れ 故 に 、 適 法 で あ る とい うの で あ る。 こ の見 解 に よ れ ば、 公 務 員 は 、 判 例 に よ る よ りは さ ら に広 範 に特 権 を与 え られ る こ と に な る 。 そ れ は 、判 例 が 公 務 員 の 行 為 の 適 法 性 に(管 轄 権 、 相 当性 、 合 義 務 的 検 討 の よ う な)要 求 を 、 しか も、 そ れ を 欠 くこ

とが 直 裁 的 に命 令 の無 効 性 を基 礎 づ け る わ け で は な い よ う な 要 求 を 設 定 して い る か らで あ る 。

9ま ず 支 持 で き な い の は 、刑 法 的違 法 性 概 念 で あ る 。 そ れ は 、行 政 法 上 の 理 由 か ら も、 刑 法 上 の 理 由 か ら も説 明 され る 。 侵 害 権 の 事 実 的 前 提 条 件 を確 定 す る際 の 合 義 務 的 な裁 量 は 、 判 例 は い つ も こ の概 念 か ら議 論 を 出 発 して い る の で あ る が 、 存 在 しな い 。 む しろ 、 この よ う な 条 件 は 、 事

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桐 蔭 法 学18巻1号 く2011年)

実 と して 存 在 して い な け れ ば な らな い 。 そ れ が 欠 け て い れ ば 、 侵 害 権 は そ もそ も存 在 しな い。 す べ て の 高 権 的 侵 害 に存 在 して い る法 律 の 留 保 を 理 由 に、 刑 法 判 例 に は 、 そ の よ う な 侵 害 権 を 特 別 の 、刑 法 上 の 違 法 性 概 念 の 助 け を借 り て創 造 す る こ と が 禁 止 さ れ て い る。 こ の よ う な 概 念 は 、 刑 法 解 釈 学 の あ らゆ る原 則 に矛 盾 す る。 とい うの は 、侵 害 の 違 法 性概 念 が 、 公 務 員 の 落 度 あ る い は重 大 な 落 度 に依 存 して い る 場 合 、 二 つ の 刑 法 上 の

基 本 的 カテ ゴ リー が 、 修 復 不 可 能 な まで に 混 同 され て し ま う か らで あ る 。 ま た 、 多 くの 判 決 が 引 用 して い る 、 公 務 員 の 「善 意 」 は 、 故 意 を 阻却 す る こ とは で きる か も しれ な い が 、 不 法 を法 に変 換 す る こ と は で き な い 。

10職 務 行 為 の 適 法 性 を 、 そ の 行 為 の 基 礎 に 取 消 し可 能 な 高 権 的 行 為 が 横 た わ っ て い る よ う な場 合 に ま で 、 認 め る の も、 正 し くな い 。 高 権 的 行 為 自体 は 、 そ れ が 取 消 され る ま で は、 実 効 的 で あ る が 、 刑 罰 構 成 要 件 を 充 足 す る よ うな 執 行 は 、 独 自 の 正 当化 を 、 す な わ ち 、 特 に 、 侵 害 を 基 礎 づ け る事 実 の存 在 を前 提 とす る よ う な 正 当 化 を 必 要 とす る 。 行 政 行 為 が 無 効 とな る の は 稀 で あ る こ と を 考 え る と、 公 務 員 は 、 刑 法 的 な 帰 結 や 防 衛 を恐 れ る こ と な く、 可 能 的 に違 法 な す べ て の行 為 を行 う こ とが で きる こ と に な っ て し ま うで あ ろ う。 正 当 に も 、 大 刑 法 委 員 会 の 会 議 の 際 に 、 部 会 長 で あ るBaldusは 、 同様 のWelzelの 提 案 に対 して 反 対 した の で あ る 。 す な わ ち 、 「… 私 の 経 験 か らす る と 、警 察 の側 に もあ る程 度 の リ ス ク が 残 さ れ て い るべ きで あ る 。 こ れ らの 公 務 員 が リス ク な しで 命 令 し、 行 為 す る こ とが で き る とす る と、 一 定 の 喜 ば し くな い 手 練 手 管 が も っ と悪 質 化 す る で あ ろ う 。」 と。

11そ れ 故 、公 務 行 為 に 関 し て 、 特 別 な違 法 性 概 念 は放 棄 され る べ きで あ り、 受 忍 義 務 の あ る 侵 害 権 は 、 授 権 的 法 律 に よ っ て規 定 され た 条 件 が 存 在 して い ない 場 合 に は 、 拒 否 さ れ な け れ ば な ら な い で あ ろ う 。 こ れ に 対 して 、 「国 家 が 間 違 い を犯 す とい う特 権 を も っ て い る。」 と い う支 配 的 見 解 を、 再 三 再 四 、 国 家 秩 序 に 奉 仕 す る た め に行 為 して い る 公 務 員 の 背 面 を援 護 す べ きで あ る とい う誤 解 され た 刑 事 政 策 的 必 然 性 が 、 正 当 化 し

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ク ラウ ス ・ロク シ ン 『刑法 総論 』 第 一巻(第 三版)〔 十五 〕(吉 田宣 之)

て い る 。 錯 誤 の 特 権 は 、 連 邦 通 常 裁 判 所 刑 事 判 例 集4巻116頁 に よ れ ば 、

「公 務 員 の 執 行 を 、 公 務 の 遂 行 の 際 に 、 彼 の 決 断 力 の 点 で 保 護 しよ う と す る の で あ り、 さ も な け れ ば 、 そ の 力 は 、 公 の 要 求 に 沿 う こ と の で き な い 程 に 弱 め られ て し ま う で あ ろ う し、 許 さ れ な い 抵 抗 を 行 う 危 険 性

を抵 抗 勢 力 に委 ね て し ま う こ とに な っ て し ま う。」 の で あ る 。

12当 然 、 良 心 的 な公 務 員 も錯 誤 に 陥 る こ と は あ る し、 保 護 す る必 要 も あ る。 しか し、 こ の 保 護 は 、 必 要 な範 囲 内 で 、 一 般 的 な違 法 性 概 念 を前 提 に保 障 され る の で あ る。 公 務 員 が 、全 体 の 見 通 しが き か な い 、 わ か り に くい 状 況 を 解 決 し よ う と した り、 予 測 に 基 づ い て 行 為 し た り、 あ る い は 、 緊 急 措 置 を 講 じ な け れ ば な らな い よ う な場 合 に は 、侵 害 構 成 要 件 自体 が 、 既 に、 有 効 な 執 行 行 為 の 必 要性 に 配 慮 す る よ う な原 則 を予 定 し て い る 。 この よ う な 現 象 は 、 嫌 疑 構 成 要 件 、 危 険 構 成 要 件 お よ び 仮 執 行 力 に 関 す る 原 則 に見 ら れ る 。 古 典 的 な 嫌 疑 構 成 要 件 は、 例 え ば 、 刑 事 訴 訟 法112条 、127条 で あ る 。 そ こ で は 、 切 迫 した 嫌 疑 が 存 在 す る場 合 に、

市 民 は 逮 捕 あ る い は 刑 事 訴 訟 法127条2項 の 仮 逮 捕 を、 た と え 責 任 が な い 場 合 で あ っ て も、 忍 従 し な け れ ば な ら な い 。 特 に 、 警 察 法 を 支 配 し て い る 「危 険 」 お よ び 「外 観 上 の危 険 」 と い う基 準 は 、 現 実 の 進 行 に よ っ て は否 定 さ れ る か も しれ な い よ う な事 前 判 断 を根 拠 に した侵 害 権 を保 障 して い る 。 仮 執 行 とい う制 度(民 事 訴 訟 法708条 以 下 の み を参 照)は 、 侵 害 が 、 後 に な っ て 、 無 権 限 で あ る こ とが 明 らか に な っ た と して も、 と

りあ えず は受 け入 れ られ るべ きで あ る こ と を前 提 に して い る 。 そ れ に よ っ て 、 不 明 確 な 状 況 で あ る に もか か わ らず 行 為 さ れ な け れ ば な ら な い よ う な 、 非 常 に重 要 な 諸 事 例 に 対 して 、 い ず れ に して も 、 執 行 権 の持 つ 錯 誤 の 危 険 を 阻止 し、 特 別 な違 法 性 概 念 を無 用 の もの とす る規 定 が 適 用 され る こ と に な る。

13そ の 他 、特 に重 要 な もの と して は、執 行 官 が 誤 っ て他 人 の 住 居 に 入 っ て し ま っ た(大 審 院 刑 事 判 例 集61巻297頁)と か 、 採 血 を誤 っ て 医 者 で は な い 者 に 委 託 した(連 邦 通 常 裁 判 所 刑 事 判 例 集24巻125頁)と か 、 あ

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桐 蔭 法学18巻1号(2011年)

る い は 、 人 違 い の 結 果 、 他 人 を 逮 捕 状 の 出 て い る 人 と して 逮 捕 し た とい う よ う な 諸 事 例 が あ る 。 そ の よ う な 場 合 に、 公 務 員 が 命 ぜ られ た 注 意 を 尽 く して い る に もか か わ らず 錯 誤 に屈 して し ま っ た の で あ れ ば、 公 務 員 は 、 い ず れ に しろ 、 故 意 お よ び 過 失 が 欠 け る た め に、 自己 に 対 す る可 罰 性 か ら は守 られ て い る 。 当 事 者 は、 ま た 、 正 当 防 衛 権 を持 つ こ とは な い 。

とい うの は 、 客 観 的 な、 日常 生 活 上 必 要 な 注 意 を 怠 っ て い な い 行 為 は 、 行 為 無 価 値 を示 して は お らず 、 ま た 、 違 法 で も な い か らで あ る。 当 然 の

こ と、 客 観 的 に 回 避 不 可 能 な 錯 誤 で あ っ て も、 公 務 員 に侵 害 権 を得 さ せ る こ と は な い 。 そ の 結 果 、 市 民 に は刑 法34条 に よ る 防御 的 緊 急 避 難 を行 使 す る権 利 が 留 保 さ れ る(14章 、側 注50参 照)。 しか し、 そ の 場 合 に 必 要 と さ れ る利 益 考 量 に 際 して は 、 当 然 の こ と、 錯 誤 の 犠 牲 者 が 公 務 員 を 有 無 を 言 わせ ず 撲 り倒 す こ と まで を 許 して い る の で は な く、 まず 、 疑 い な ど を 晴 ら さ な け れ ば な ら な い が 、 い ず れ に し ろ 、 用 意 さ れ て い る 防御 的 な 抵 抗 をす る こ とは 許 され る 。 そ の よ う な理 性 的 な利 益 の 調 整 は 、 結 果 的 に は 、 執 行 権 に 有 利 に 操 作 さ れ た 違 法 性 概 念 の 手 を借 り る こ と もな

く、判 例 の解 決 方 法 に近 い もの とな る 。

14市 民 の 正 当 防 衛 権 は、 まず 、 公 務 員 が侵 害 権 の 事 実 的 前 提 条 件 を 過 失 的 に認 識 し た場 合 に、 生 ず る 。 そ の よ う な場 合 に、 判 例 も、 正 当 防 衛 を保 障 す る傾 向 に あ る(重 大 な 過 失 を要 求 す る わ け で も、 あ る い は 、公 務 員 の 無 実 を証 明 す る 、 主 観 的 不 十 分 性 を、 常 に 、 刑 法 上 「適 法 」 とす る わ け で もな い)。 し か し、 そ の こ と か ら 、 「公 の 利 益 」 に 「治 癒 不 可 能 な 」 不 利 益 が 生 ず る わ け で は な い 。 とい うの は 、 公 務 員 に は 犯 罪 故 意 が 欠 け て い る た め に 、 正 当 防衛 権 は 、 社 会 倫 理 的 に制 限 され た 形(詳 細 は 、15章 、 側 注57以 下)で の み 、 存 在 す る か ら で あ る 。 そ れ 故 、 防 衛 の た め に は 、 誤 っ て い る と主 張 す る 市 民 が 、 公 務 員 に そ の錯 誤 を 明 ら か に して や る こ とが 、 「必 要 」 で あ る 。 そ の よ う に な さ れ た な らば 、 法 治 国 家 に相 応 し く、 公 務 員 は 、 再 照 会 に よ っ て 真 の 事 態 を確 認 す る こ と に な る の で あ る 。 こ の こ とは 、多 くの 事 例 に と っ て 、 容 易 に可 能 で あ る(執 行 官 が 正 しい 住 居 に 入 っ て い る の か が 、 あ る い は 、 採 血 して い る者 が 現

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クラ ウス ・ロ クシ ン 『刑 法 総論 』 第一 巻(第 三版)〔 十 五 〕(吉 田宣 之)

に 医 者 な の か が 疑 わ しい場 合 に は)。 被 逮 捕 者 が 逮 捕 状 に記 載 さ れ た 人 物 との 同 一 性 を争 う場 合 、 十 分 に証 明 す る こ とが で き な い の で あ れ ば 、 制 限 さ れ た 正 当 防 衛 が 基 礎 づ け ら れ て い る こ と を前 提 に、 彼 に は 、 短 時 間 公 務 員 に 従 い 、 彼 の 同 一 性 を 確 定 す る こ と を 可 能 にす る こ とが 期 待 され て い る。 こ の よ う な 仲 裁 的 な 解 決 の 方 が 、 有 無 を言 わせ な い 法 の 徹 底 よ

り も、公 共 の福 祉 に資 す る の で あ る 。

第2節 違法拘束命令

15執 行 中 の 公 務 員 に対 す る違 法 拘 束 命 令 は 正 当化 根 拠 を提 起 す る の か 、 あ る い は 、 責 任 阻却 根 拠 を提 起 す る の か と い う、 以 前 よ り し ば しば 議 論 さ れ た 問 題 は 、 実 定 的‑法 的 規 定 の 力 に よ っ て 、 多 くの 領 域 に お い て、

違 法 な命 令 が 明 示 的 に拘 束 力 を持 た な い と され た こ と に よ っ て、 議 論 の 対 象 で は な く な っ た。 そ の た め に 、 公 務 員 は 、 上 司 の命 令 を、 彼 に命 ぜ られ た行 為 が 可 罰 的 で も、 あ る い は、 秩 序 違 反 で も・・・な い 場 合 に 限 り、

ま た 、… 人 間 の 尊 厳 を侵 害 して い な い 場 合 に 限 り、 実 行 しな け れ ば な ら な い の で あ る(連 邦 公 務 員 法56条2項3文 、 同 法38条2項2文)。 軍 隊 に 関 して は 、 軍人 法11条2項1文 が 、秩 序 違 反 に つ い て は触 れ て い な い が 、 次 の よ う に命 じて い る 。 す な わ ち 、 「命 令 に従 え ば 犯 罪 を 犯 して し ま う よ う な 場 合 に は、 そ の命 令 に従 う必 要 は な い 。」 と。 軍 人 法ll条1 項2文 に よ れ ば 、 「人 間 の 尊 厳 を侵 害 す る か 、 あ る い は 、 職 務 上 の 目 的 の た め に与 え られ た の で は な い 命 令 に 従 わ な く と も、 不 服 従 で は な い 」 と さ れ て い る。 同 様 の 規 定 は 、 そ の他 の領 域 に も見 ら れ る(例 え ば 、 連 邦 執 行 官 に よ る公 権 力 行 使 の 際 の 直 接 強 制 に 関 す る 法 律 、 お よ び、 州 の 公 務 員 法)。

16こ の よ う な最 初 の 外 観 に もか か わ らず 、 可 罰 的 行 為 の 実 行 へ の 義 務 は 、 現 行 法 上 で 、 完 全 に 排 除 され て い る わ け で は ない 。 例 え ば、 連 邦 公 務 員 法(例 え ば 、 連 邦 公 務 員 法56条2項3文)に は 、 「公 務 員 に 命 ぜ ら れ た行 為 が 可 罰 的 で は な く … 、 ま た 、 彼 に可 罰 性 が 認 識 不 可 能 で あ

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桐 蔭 法学18巻1号(2011年)

る 場 合 に 限 り」、 公 務 員 の 次 席 上 司 に よっ て命 令 が 許 可 され た 場 合 に は 、 そ の 命 令 を実 行 し な け れ ば な ら な い と さ れ る規 定 が あ る 。 部 下 が そ の 可 罰 性 を 認 識 で きな か っ た場 合 に は 、 可 罰 的 命 令 は 、 依 然 と して 拘 束 的 で あ る 。 こ の よ う な こ と は 、 実 態 違 反 で あ る が 、 現 行 法 上 で は 、 甘 受 さ れ な け れ ば な ら な い 。 実 際 上 、 さ ら に 重 要 な の は 、 上 司 と部 下 の 間 に命 ぜ られ た行 為 の 可 罰 性 に つ い て の 見 解 の 相 違 が あ っ た 場 合 で あ る。 そ の 場 合 、 命 令 は、 原 則 と して 、 部 下 が 正 当 に も可 罰 性 を 認 め て い た とい う こ とが 後 に 明 らか に な っ た よ う な 場 合 で あ っ て も、 な お 拘 束 的 で あ る とい う 点 で あ る。 と い う の は、 階 級 組 織 で は 本 質 に、 疑 問 が あ る 場 合 、 大 抵 は よ り大 きな 事 物 権 限 を持 っ て い る 上 司 の 主 張 が 通 らな け れ ば な ら な い の で あ る 。例 外 が あ るが 、 そ れ は 、 「上 司 の 決 定 が 事 実 的 観 点 か ら も法 的 観 点 か ら も主 張 不 可 能 で あ る とい う場 合 」、 す な わ ち 、命 ぜ られ た行 為 の 可 罰 性 が 明 白 で あ る場 合 で あ る。

17一 部 で は 、 違 法 な行 為 へ 向 け られ た 指 示 お よ び 命 令 も、 そ の 他 の 場 合 も(そ れ 故 、 兵 士 の 場 合 、例 えば 、 秩 序 違 反 行 為 の命 令 、 あ る い は 、 公 務 員 の 場 合 の 民 法 上 違 法 な行 為 の 指 示)拘 束 力 を持 って い な い 。 しか も、

そ の よ う な 指 図 の 実 行 に対 して は制 裁 が 科 せ ら れ て い な い とい う事 実 は 、 そ れ らが 拘 束 力 を 持 っ て い な い と い う こ と を 意 味 す る 、 と の 見 解 も主 張 さ れ て い る 。 この よ うな 見 解 は 、 魅 力 的 に ス ム ー ズ な 解 決 を可 能 に す る が 、当該 法律 の 文 言 と一 致 し難 い 。公 務 員 法 上 の規 定 は 、誤 解 の余 地 な く、

指 示 の適 法 性 に つ い て 疑 問 を持 っ た 部 下 で あ る公 務 員 は 、 こ の こ と を 上 司 に 報 告 しな け れ ば な らな い が 、 こ の 上 司 が こ の指 示 を追 認 した 時 に は 、

「公 務 員 はそ の 指 示 を 実 行 しな け れ ば な らな い 」 の で あ る(連 邦 公 務 員 法 56条2項1文 乃 至3文 、 連 邦 公 務 員 基 本 法38条2項)。 こ の こ と は 、 指 示 が 拘 束 力 を持 っ て い る と い う こ と以 外 の 何 者 で もな い 。 軍 人 法11条1 項1文 は 、 「兵 士 は 、 上 官 に服 従 しな け れ ば な らな い 。」 と規 定 して い る 。 続 い て 、 同法 は、 何 時 命 令 は 従 わ れ な くて も良 い の か(命 令 が 犯 罪 行 為 へ 向 け ら れ て い る 場 合)、 ま た 、 何 時 兵 士 は 命 令 を拒 否 して 不 服 従 を して は な らな い の か(軍 人 法11条1項2文 、 側 注15参 照)を も、 詳 細 に 規

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ク ラウス ・ロ クシ ン 『刑 法 総論 』 第一 巻(第 三版)〔 十 五 〕(吉 田宣 之)

定 して い る 。 ま た 、 こ こ で は、 他 の 命 令 は 、 通 常 の場 合 、 拘 束 力 を持 つ とい う結 論 を 回避 す る こ と は で き な い 。 法 律 の そ の よ う な ス タ ンス を擁 護 す る た め に、 二 、 三 の 点 を主 張 で き る。 か な り小 さな 法 衝 突 の 可 能 性 が 問 題 に な っ て い る よ う な 場 合 に、 す べ て の 部 下 が 法 的 疑 問 が あ る か ら とい っ て 国 家 作 用 を封 じる こ とが で き る よ う な こ と が あ る とす る と、 執 行 行 為 が 、 事 実 と して 、 「回復 で き ない ほ ど萎 え させ られ る 」(側 注11参 照)。 この よ う に 考 え る と、 部 下 にス トラ イ キ 権 を保 障 す る こ と に限 定 し、

よ り広 く深 い 識 見 を期 待 す る こ と の で き る 上 司 に 決 定 を委 ね る こ との ほ うが 好 ま しい とい え よ う。 彼 が 、 完 全 な、 しか も、 排 他 的 な 責 任 を負 う の で あ るか ら、 は じめ か ら争 い の あ る よ うな 紛 争 事 案 に お い て 、 彼 が 権 力 を濫 用 す る とい う危 険 も少 な か ろ う。

18違 法 な命 令 を 実 行 しな け れ ば な ら ない 部 下 に 責 任 が 問 わ れ な い とい うの は 、 自 明 の こ と で 、 ま た 、 この こ と は 、 す べ て の 該 当法 律 か ら も 明 らか に され る の で あ る。 け れ ど、 彼 が 正 当 化 され る の か 、 あ る い は 、 単 に責 任 が 阻 却 さ れ る の か の 問 題 は 、 当 該 市 民 が 命 令 の 実 行 に対 して 正 当 防衛 権 を持 っ て い る か とい う 問 に 関係 し、 しか も、 そ の 決 定 が 実 定 法 し だ い で あ る と い うの に、 実 定 の 法 律 に よ っ て は解 決 され て い な い 。 一 般 化 し て い る見 解 に よ れ ば 、 実 行 した 公 務 員 の 責 任 阻 却 が 認 め ら れ る と さ れ て い る 。 こ の見 解 は 、 主 と して 、 違 法 な命 令 は 不 法 を法 に は 変 更 し な い と い う こ と、 ま た 、 上 司 は 、 彼 自 身 が す る こ との 許 さ れ な い よ うな こ と を、 部 下 に命 令 す る こ と に よ っ て 実 現 す る こ とが 許 さ れ て い る わ け で は な い とい う こ と を根 拠 と して い る 。 服 従 義 務 に 従 っ た 受 命 者 の 正 当化 を肯 定 す る 反 対 説 は 、公 務 員 を命 令 の 実 行 へ と義 務 付 け 、 同 時 に、 こ の 合 義 務 的 行 為 を違 法 と評 価 し、 そ うす る こ とで 公 務 員 を正 当 防衛 の 効 力 に晒 す こ とは 問 題 で あ る と指 摘 して い る。

19正 しい の は、 部 下 に対 して の 拘 束 的 命 令 は 、 そ れ が 例 外 的 に違 法 で あ っ た と して も、 正 当化 根 拠 を 意 味 す る との 見 解 で あ る。 そ の よ うな 状 況 下 に あ っ て は 、 部 下 の 人 格 に は 、 服 従 義 務 が 違 法 な 行 為 を行 う な と い

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桐 蔭法 学18巻1号(2011年)

う禁 止 と矛 盾 関 係 に 陥 っ て い る よ う な 、 刑 法34条 で 判 断 され る べ き衝 突 事 例 が 存 在 して い る の で あ る。 こ の よ う な 衝 突 に あ っ て は 、公 務 員 お よ び 兵 士 の 服 従 へ の 利 益 が 、 些 細 な衝 突 が 問 題 に な っ て い る 限 りで は 、不 法 を 回避 す べ きで あ る とい う利 益 を凌 駕 して い る の で あ る 。 しか し、 重 大 な(例 え ば 、 刑 法 あ る い は 人 間 の 尊 厳 、 部 分 的 に は 、 秩 序 違 反 法 を も 侵 害 し て い る〉 衝 突 の 場 合 に は 、 不 法 を 回 避 す るべ きで あ る とい う利 益 が 優 先 す る の で あ るo場 合 に よ っ て は服 従 義 務 が 優 先 す る と い う結 論 を 支 持 す る根 拠 は 、 些 細 な 領 域 で は 、 そ もそ も、 部 分 的 に は 違 法 命 令 の 拘 束 性 を認 め させ よ う と、 立 法 者 を導 く こ とに な る 根 拠 と同 じ もの で あ る (側 注17の 最 終 部 参 照)。 拘 束 力 を決 定 す る 基 礎 に は 、 服 従 義 務 の あ る公 務 員 へ の 考 慮(側 注18の 最 終 部 参 照 〉 が 、利 益 考 量 の 際 に、 決 定 的 影 響

を与 え る。

20こ れ に対 して 、 責 任 阻 却 説 は 、 自 ら を貫 徹 す る こ と は で きな い 。 と い う の は 、 違 法 命 令 を与 え る上 司 は 、 不 法 を法 へ 変 換 す る こ とな ど で き な い 。 む しろ 、 彼 の 行 為(そ して 同 時 に 国 家 の 行 為)は 、 そ の行 為 が 適 法 に行 為 す る道 具 に よ っ て 行 わ れ た と して も、 不 法 の ま ま で あ る。 も ち ろ ん 、 違 法 命 令 の 拘 束 力 は 、 市 民 か ら 、 上 司 個 人 の 行 為 に 対 して は 認 め られ る は ず の 正 当 防 衛 権 を、 実 行 して い る受 命 者 に対 して は 奪 う こ と に な る 。 しか し、 そ の こ と に矛 盾 は な い 。 とい うの は 、 服 従 義 務 を負 っ て い る 第 三 者 を 挿 入 す る こ とに よ って 、 正 当 防 衛 権 の 許 可 につ い て の 決 定 を異 な っ た結 論 へ と導 く よ う な新 しい考 量 要 素 が 入 っ て くる か ら で あ る。

だ か ら とい っ て 、 市 民 に何 か 耐 え 難 い こ とが 期 待 され る こ と に な る わ け で は な い 。 とい うの も、 第 一 に 、 次 の よ う な事 情 が 、 彼 を重 大 な 侵 害 を 甘 受 す る 義 務 か ら守 る か らで あ る。 す な わ ち 、 刑 法 上 保 護 され た 法 益 の 侵 害 へ と 向 け られ た 違 法 な 命 令 は、 は じめ か ら拘 束 力 を 持 た な い と い う 事 情 で あ る。 ま た 、 第 二 に 、 市 民 は 、 発 生 した 損 害 に つ い て 、 国 家 を 確 実 な、 しか も、支 払 い 能 力 の あ る債 務 者 とす る こ とが で きる か らで あ る 。 そ して 、 第 三 に 、 違 法 な指 示 の 実 行 に対 して は 、 当 事 者 の 防 御 的 な 抵 抗 が 、 当 事 者 が 法 律 状 況 に つ い て の適 切 な 判 断 に従 っ て 行 為 して い る 場 合

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ク ラ ウス ・ロク シ ン 『刑法 総 論』 第 一巻(第 三 版)〔 十五 〕(吉 田宣之)

に は 、 刑 法34条 に従 っ て正 当 化 さ れ るか らで あ る。

21民 法 上 違 法 な 行 為 、 あ る い は、‑兵 士 の 場 合‑秩 序 違 反 に 向 け ら れ た 命 令 が 、 過 失 犯 の 危 険 を 帯 有 して い る よ う な 場 合 に も、 拘 束 的 で あ る の か と い う問 題 が 、 争 わ れ て い る 。 こ の よ うな 事 案 は 、 特 に 、 軍 事 的 領 域 に お い て 、 兵 士 に 、 事 故 の 恐 れ の あ る交 通 秩 序 違 反 行 為 が 命 ぜ られ た よ うな 場 合 に(例 え ば 、 速 度 超 過 運 転 、 あ る い は、 無 灯 火 運 転)生 じ う る もの で あ る 。 連 邦 通 常 裁 判 所 刑 事 判 例 集19巻232頁 は 、 「受 命 者 が 命 ぜ られ た行 為 の 実 行 に よ っ て、 違 法 な 軽 罪 を犯 す 、 多 少 の 差 は あ る と し

て も、 高 度 の 蓋 然 性 に つ い て 責 任 を 負 わ な け れ ば な ら な い よ う な 場 合 に は 、 命 令 の 拘 束 性 が 脱 落 す る の で は な い か と い う疑 問 は 、 も っ と も で あ る」 とす る。 この 疑 問 は 、 多 くの 秩 序 違 反 自体 に付 属 す る抽 象 的 な 危 険 が 、 命 令 を 非 拘 束 的 とす る に は 十 分 で は な い が 、 しか し、 道 路 交 通 の 危 殆 化 、 傷 害 あ る い は 殺 人 の 具 体 的危 険 は そ うで は な い とい う よ うに 、 解 決 され る べ きで あ る。 とい うの は 、 立 法 者 が 可 罰 的 行 為 に 向 け られ た 指 示 を 非 拘 束 的 で あ る と宣 言 して い る 場 合 に は 、 結 果 が 現 実 に 生 じた か 否 か は 重 要 で は あ り え な い か らで あ る。 部 下 は 、 命 令 の 瞬 間 に 、 そ れ を 遂 行 す る の に種 々 の 危 険 が あ る 場 合 に は 、 そ れ を実 行 す る 必 要 は な い と

い う こ と を知 らな け れ ば な ら な い の で あ る 。

第3節 公職者の代理権 に基づ く行為

22「 公 職 者 の 代 理 権 に 基 づ く」 行 為 と して は、 一 般 に 、 私 人 が 、 原 則 的 に管 轄 権 を有 す る が 、 適 時 に 現 場 に 到 達 す る こ とが で き な い か 、 あ る い は、 出 動 準 備 の で きて い な い 官 憲 に 代 わ っ て 、 行 為 を行 う よ う な 場 合 が 挙 げ ら れ る 。 二 つ の 重 要 な場 合 を 挙 げ れ ば 、 刑 事 訴 訟 法127条1項1 号 に よ る 私 人 に よ る 逮 捕 と、 民 法229条 な い し231条 の 自助 権 で あ る 。 両 規 定 は、以 下 で 述 べ る が 、基 本 的 な 且 つ 刑 法 に と っ て重 要 な 視 点 か ら、

取 り扱 わ れ る 。 さ ら に こ こ に 取 り込 ま れ る べ き は 、 基 本 法20条4項 の 抵 抗 権 で あ る。 こ の事 案 に つ い て は 、 既 に 、 緊急 避 難 と の 絡 み の 中 で 取

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桐 蔭 法 学18巻1号(2011年)

り扱 わ れ た(16章 、 側 注115以 下)。 正 当 防 衛 は 、 公 職 者 の代 理 権 に基 づ く行 為 で は な い 。 そ れ は 、 正 当 防衛 が 、 主 と して 、 個 人 の 保 護 に資 す る もの で あ り、 また 、 補 充 的 に の み 用 い ら れ る も の で も な い か ら で あ る。

そ れ ど こ ろ か 、 正 当 防 衛 は 、(特 に 、 法 確 証 の 権 限 に よ っ て)こ こで 述 べ た よ う な性 質 を示 す も の で あ る。

I.仮 逮 捕

23刑 事 訴 訟 法127条1項1文 は、 「現 行 犯 と して 捕 ら え られ る か 、 あ る い は 、 追 跡 さ れ て い る者 は、 逃 走 が 疑 わ れ た り、 あ る い は 、 彼 を即 座 に 識 別 す る こ と が で き な い よ う な場 合 に は、 誰 で も、 裁 判 官 の 指 示 が な く と も、彼 を仮 に 逮 捕 す る こ とが で きる 。」 と規 定 して い る。 行 為 者 は 、 そ れ 故 、‑錯 誤 を 可 能 な 限 り排 除 す る た め に‑犯 行 中 に(現 行 犯 で)捕 ま え られ な け れ ば な らな い 。 刑 事 訴 訟 法127条1項1文 の 場 合 、 「立 会 を保 障 す る よ う な 、 且 つ 、 個 人 の 識 別 を保 障 す る よ う な 明 白 な 逮 捕 」 の 場 合 で あ る と さ れ う る 。 行 為 は 、 可 罰 的 な未 遂 の段 階 で あ れ ば 、 「現 行 」 で あ る し、 既 遂 に 達 して い て も 「現 行 」 と い え る 。 さ ら に 、 行 為 者 は 、 行 為 の現 場 で 、 あ る い は 、 立 去 ろ う とす る際 に捕 ま え ら れ るか 、 ま た 、 追 跡 さ れ る の で あ る。 行 為 が 、 場 合 に よ っ て は、 数 時 間 に も及 ぶ犯人 狩 りの 末 に 可 能 とな っ た よ う な逮 捕 の 場 合 に は 、 「現 行 」 で あ る必 要 は な い 。

24主 た る争 点 は 、 刑 事 訴 訟 法127条1項1文 が 、 被 逮 捕 者 が 後 に な っ て 、 事 実 と して行 為 者 で あ っ た こ との証 明 を前 提 条 件 と して い る の か 、 あ る い は 、 客 観 的 に差 迫 っ た嫌 疑 が 存 在 し、 逮 捕 者 が無 過 失 で 犯 行 現 場 の 当 事 者 の 正 犯 性 か ら 出発 す る こ とで足 りる の か の 点 に あ る 。 広 く行 渡 っ た、

そ して 、 特 に刑 法 学 者 の 間 で 支 配 的 な 見 解 は 、 最 初 の 立 場 を主 張 して い る。 そ の 見 解 は 、 本 質 的 に 、 公 務 員 の 錯 誤 特 権(側 注2以 下 参 照)は 私 人 に は 適 用 で き な い こ と、 経 験 も な く、 しか も逮 捕 の 義 務 が あ る わ け で もな い 私 人 に公 務 員 と 同 じ よ う な 権 利 が 与 え られ るべ きで は な い こ と 、 不 法 に私 人 の 手 に よ っ て 逮 捕 され た 者 に 正 当 防 衛 権 を拒 否 す る こ と は で

きな い で あ ろ う こ とを根 拠 と して い る 。 賛 同が え られ る の は 、 訴 訟 法 学

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ク ラ ウス ・ロ ク シ ン 『刑法 総論 』 第 一巻(第 三 版)〔 十五 〕(吉 田 宣之)

者 の 問 で 支 配 的 な、 こ との ほ か 浸 透 し て い る見 解 、 す な わ ち 、 差 迫 っ た 犯 罪 の 嫌 疑 が あ る場 合 に は 、 彼 が 客 観 的 に 要 請 さ れ た 注 意 を払 っ た う え で 、 出 くわ した 者 を 行 為 者 で あ る と思 っ た の で あ れ ば 、 既 に 、 私 人 に逮 捕 権 が 与 え ら れ て い る とい う もの で あ る 。 とい う の は 、 国 家 は 、 市 民 か ら公 の 任 務 の た め の 助 力 を得 よ う とす る 場 合 、 私 人 に客 観 的 に 可 能 な 限 りの 注 意 を 払 う以 上 の こ と を 要 求 して は な ら な い か らで あ る 。 加 え て 、 一 般 的 な、 訴 訟 上 の 基 本 原 則 に 従 え ば、 刑 事 手 続 きへ の 導 入 行 為 は 、 常

に、 嫌 疑 構 成 要 件(側 注12参 照)か ら は じ ま っ て い る の で あ る 。 そ れ は 、 この 段 階 で は絶 対 的 な確 実 性 は存 在 しえ な い の で あ る か ら、 侵 害 権 は そ の 時 に 認 識 可 能 で あ っ た事 柄 に結 び 付 か ざ る を え な い か ら で あ る 。

ま た 、 逮 捕 の適 法 性 を 、被 逮 捕 者 の 正 犯 性 が 既 判 力 の あ る もの と して 確 定 さ れ る ま で 、 中途 半 端 な状 態 の ま ま に して お く こ とな ど で き な い か ら で あ る。 私 人 の 経 験 の な さ に対 す る 指 摘 は 、 公 務 員 が 払 うべ き注 意 と 同 じ もの を私 人 に要 求 す る の で あ れ ば 、 反 対 の論 拠 に は な りえ な い 。 公 務 員 に対 す る要 求 よ り も高 い 要 求 を設 定 す る こ と、 あ る い は 、 認 識 不 可 能

な事 情 の 認 識 を適 法 性 の 前 提 条 件 に す る こ とは 、 誤 りで あ る 。

25「 錯 誤 に よ っ て 逮 捕 され た者 が 、 正 当 防 衛 の権 利 もな く、 耐 え 」 な け れ ば な ら な い と い う こ と は 、 必 ず し も、 不 当 で は な い 。 と い う の は 、 彼 に は 、 無 罪 解 明 ま で 、 単 に、 短 時 間 の 自 由 剥 奪 の 危 険 が あ る だ け で あ る か ら。 こ の 解 明 は 、 犯 行 現 場 の 疑 わ しい 事 情 に 関係 す る 者 に は、 ほ とん ど の 場 合 、 重 要 な の で あ る。 彼 を犯 罪 行 為 者 と思 わ ざ る を え な い 者 に対 す る 暴 力 的 行 動 は 、 無 罪 で は あ るが 明 白 に嫌 疑 の あ る者 を よ り一 層 疑 わ しい 者 に して しま う の で は な か ろ う か 。 ま た 、 逮 捕 者 に対 して 、 原 則 的 な正 当 防 衛 権 の 承 認 を勧 め て しま う こ と に な っ て し ま うの で は な か ろ う か 。 そ れ は さ て 置 き、 許 可 は 、 結 果 的 に は 、 正 当 防 衛 権 を排 除 しな け れ ば な ら な い こ と に な ろ う。 とい うの は 、 逮 捕 者 が 客 観 的 に必 要 な 注 意 に 違 反 して い な い 場 合 、 彼 の行 為 に は、 行 為 無 価 値 が 欠 け、 そ れ 故 に、 違 法 性 が 欠 け て い る か らで あ る 。 確 か に 、 逮 捕 者 は 、 彼 の 不 可 避 的 な 錯 誤 に よ っ て 侵 害 権 を そ もそ も持 っ て い な い の か も しれ な い 。 しか し、 刑 法

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桐 蔭法 学18巻1号(2011年)

34条 か ら の権 利 に 制 限 され た被 逮 捕 者 に 、 利 益 考 量 の 際 に 、 派 出 所 へ 行 く こ と を 簡 単 に期 待 す る こ とが で き るで あ ろ うか 。 注 意 深 く逮 捕 さ れ た 者 の 正 当 防 衛 権 の 存 在 を認 め る と して も、 逮 捕 者 に 対 す る暴 力 的 な 行 動 を正 当 化 す る こ と に は な ら ない の で は な か ろ うか!と い うの は 、 逮 捕 者 の 善 意 性 は社 会 倫 理 的 に制 限 され た 正 当 防 衛 権 を考 慮 す る こ と に な る で あ ろ う し、 ま た 、 こ の こ と は少 々 の侵 害 は 忍 受 す る こ と を 要 求 す る(15 章 、側 注58参 照)と 考 え られ るか らで あ る 。 こ の よ う な 忍 受 が 重 要 で あ

る とす る と、 明 白 に 嫌 疑 を 受 け た 者 に は 、事 態 の 解 明 の た め に短 時 間 を 提 供 して も ら う こ とが 要 求 され る の で あ る 。

26行 為 は 、 私人 に よ る 逮 捕 を正 当 化 す る た め に は 、 犯 罪 で な け れ ば な ら な い 。 不 可 罰 の 未 遂 行 為 あ る い は予 備 行 為 で は 、 十 分 で は な い 。 防御 的 な 防 衛 措 置 は 、 い ず れ に しろ 、 刑 法34条 に よ っ て 保 護 さ れ る(16章 、 側 注73以 下 参 照)。 ま た 、 刑 事 未 成 年 の 子 供 に よ る 犯 罪 行 為 は 、 秩 序 違 反 行 為 が そ うで あ る よ う に 、 逮 捕 権 を付 与 しな い(秩 序 違 反 法46条3項 1文)。 け れ ど も、 責 任 の な い 者(例 え ば、 精 神 病 者)の 行 為 は 、 そ の 限

りで 、 常 に 、 刑 法 上 の処 分 や 訴 訟 手 続 き(刑 事 訴 訟 法126条a、413条 以 下)が 考 慮 され る の で あ る か ら、 私 人 に よ る逮 捕 の 正 当 化 に と っ て 十 分 で あ る 。

27逮 捕 の 前 提 条 件 は 、 逃 亡 の 嫌 疑 あ る い は 即 時 の個 人 識 別 の 不 可 能 性 で あ る 。 「逃 亡 の 嫌 疑 」 と は 、 支 配 的見 解 に よれ ば 、 具 体 的 な状 況 の 下 で 限 界 づ け ら れ た 判 断 能 力 に よ っ て で は あ る が 、 逮 捕 者 が 逃 亡 もあ り得 る と 自然 に 考 え ら れ る よ う な 場 合 に は 、 存 在 す る 。 こ の こ と は 、 重 大 か つ 秘 密 の 犯 罪 の 場 合 に は 、 原 則 的 に 当 て は ま る。 そ れ 故 、 個 別 の 事 案 の諸 事 情 の 評 価 が 前 提 と さ れ て い る刑 事 訴 訟 法112条2項2号 の 「逃 亡 の危 険 」 よ りは 、 よ り緩 や か な 条 件 が 要 求 さ れ る の で あ る 。 少 数 説 に よれ ば、

刑 事 訴 訟 法127条1項1文 の 「逃 亡 の 嫌 疑 」 と い う専 門用 語 は 、 用 語 選 択 を誤 っ て い る と さ れ る。 正 し くは 、 こ こ で は 、 教 育 さ れ た公 務 員 以 上 の こ と は 私 人 に は 許 さ れ な い の で あ る か ら、 刑 事 訴 訟 法112条2項2号

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ク ラ ウス ・ロク シ ン 『刑 法総 論』 第 一巻(第 三 版)〔 十五 〕(吉 田宣之)

の 意 味 で の 逃 亡 の 危 険 が 要 求 さ れ るべ きで あ る と さ れ る 。 しか し、 そ の よ うな 見 解 に 従 う こ と は で き な い 。 そ れ は 、 刑 事 訴 訟 法127条1項1文 で 要 求 され る 「状 況 に条 件 づ け られ た瞬 時 の 決 断 」 は、 逮 捕 状 の 際 に正

に要 求 さ れ る個 別 の 事 案 の 諸 事 情 の 考 量 を許 さ な い か らで あ る 。 法 律 上 の 専 門用 語 の 差 異 は 、 そ れ 故 、 十 分 な 理 由 が あ る 。 刑 事 訴 訟 法127条1 項1文 で 択 一 的 に 要 求 さ れ て い る 、 個 人 識 別 の 可 能 性 の 欠 如 は 、 特 に、

現 行 犯 と して 現 場 で 取 押 さ え ら れ た 者 が 身分 証 明 書 を所 持 して い な い か 、 あ る い は 、 そ の 呈 示 を拒 否 した 場 合 に認 め られ る 。 当 然 、 逮 捕 者 が 行 為 者 を 個 人 的 に 知 っ て い る 場 合 や 、 彼 が 住 ん で い る と こ ろ を知 っ て い る場 合 は 、 別 で あ る 。 自動 車 番 号 の メ モ の 可 能 性 で は 、 個 人 識 別 の 可 能 性 は 十 分 で は な い 。 そ れ は 、 番 号 か ら、 運 転 者 の 人 物 を 確 実 に推 論 す る こ と が で きな い か らで あ る 。

28刑 事 訴 訟 法127条1項1文 は 、 逮 捕 に通 常 欠 か す こ との で きな い よ う な 構 成 要 件 の 充 足 を の み 、 そ れ 故 、 猛 然 と掴 み か か る こ とに よる 軽 度 の 傷 害 、 身 柄 確 保 、 お よび 、 場 合 に よ っ て は 、 閉 じ込 め や 枷 に は め る こ と に よ る 逮 捕 ・監 禁 、 派 出 所 へ の 同行 を 強 制 す る こ と に よ る 強 要 を の み 正 当 化 す る。 これ に対 し て、 健 康 侵 害(例 え ば 、 逮 捕 す べ き者 を打 ち の め す こ と)、 お よ び 、 当 然 の こ と な が ら、 殴 打 用 の 武 器 、 刺 突 用 の 武 器 あ る い は銃 器 の 利 用 は 、 支 配 的 で且 つ 正 当 な 理 論 に よれ ば 、 許 さ れ な い 。

ま た 、 警 察 官 は 、 仮 逮 捕 の 目 的 の た め に 、 オ ー トバ イ の 運 転 手 を オ ー ト バ イ か ら意 識 的 に 落 下 させ 、 そ れ に よ っ て 故 意 に傷 害 す る こ とが 許 さ れ

る。 他 の見 解 は 、 広 範 な 暴 力 の 行 使 を相 当 性 の 範 囲 内 で 、 また 、 重 大 な 犯 罪 の 際 に は 、 銃 器 の 使 用 さえ も許 そ う と し て い る。 しか し、 私 人 に そ の よ う な 重 大 な侵 害 を 許 す の は、 まず 、 場 合 に よ っ て は 、 無 責 の者 が 犠 牲 に な る こ と も あ り うる こ と を考 え る な らば(側 注24以 下)、 侵 害 権 を 広 げ 過 ぎ る。 行 為 者 が 逮 捕 に 抵 抗 し、 逮 捕 者 に暴 行 を加 え る よ うな 場 合 に は 、 む ろ ん 、 逮 捕 者 は 、 必 要 な らば 武 器 の使 用 を も許 す よ う な 正 当 防 衛 権 を有 す る 。 こ れ に対 して 、 身体 的拘 束 や 、 こ れ を不 要 にす る 、 も っ と寛 大 な 手 段(例 え ば 、 身 分 証 明 書 あ る い は エ ンジ ンキ ー の 奪 取)の 適

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桐 蔭 法 学18巻1‑号(2011年)

用 は 、 許 さ れ て い る 。

II.自 助 権

29民 法229条 に よ れ ば 、 「自助 の 目 的 で 、 物 を奪 取 し、 破 壊 し、 あ るい は 、 損 壊 した 者 は 、 あ るい は … 債 務 者 を」 逃 亡 の 恐 れ が あ る場 合 に、

「逮 捕 し」、 あ るい は 、 そ の 抵 抗 を排 除 した 者 は 、 「官 憲 の 救 助 を適 宜 に求 め られ ず 、 ま た 、 即 座 に 介 入 し な け れ ば 権 利 の 要 求 の 実 現 が 無 に帰 す る か 、 あ る い は 、本 質 的 に 困 難 に な る危 険 が あ る場 合 に は 、 違 法 に行 為 し た の で は な い と さ れ る。 「自助 は 、 危 険 を 回避 す る た め に必 要 で あ る 以 上 に及 ぶ こ と は許 さ れ な い(民 法230条1項)」 。 実 際 上 の主 た る事 案 は 、名 前 も宛 名 も知 ら な い 債 務 者 に偶 然 街 頭 で 出 会 っ た者 が 、 永 久 に消 え うせ る前 に、 自助 行 為 に 出 た とい う場 合 で あ る。 そ れ 故 、例 え ば 、 所 有 者 が 、 思 い が けず 、 彼 か ら窃 取 した 物 を 携 行 して い る 窃 盗 犯 人 と遭 遇 した場 合 、 警 察 が そ の 場 に居 合 わ せ て い な け れ ば 、 逃 走 者 を 「逮 捕 し」、 彼 か ら物 を 「奪 取 し」、 場 合 に よ っ て は 、 彼 の 「抵 抗 を排 除 す る」 こ とが 許 さ れ る。 そ の 際 、 暴 力 は、 刑 事 訴 訟 法127条1項1文 で 許 さ れ て い る範 囲 で 、 行 使 す る こ とが 許 され る。 そ れ故 、 債 務 者 を 骨 折 させ る と か 、 あ る い は 、 生 命 を 危 殆 化 す る とか は 禁 止 さ れ て い る(大 審 院 刑 事 判 例 集69巻 、308 頁)。 債 務 者 が債 権 者 に対 して ナ イ フ を 出 し、 積 極 的 な抵 抗 を な した場 合 に は 、 債 権 者 は、 完 全 な正 当 防 衛 権 を持 つ 。

30け れ ど も、 自助 権 は 、 債 権 者 を満 足 させ る の で は な く、財 産 の 保 全 を させ る だ け で あ る 。 債 権 者 は 、 債 務 者 か ら有 責 な 金 額 を確 か に 奪 取 す る こ とは 許 され て い る 。 しか し、 そ の お金 を単 純 に 自分 の も の とす る こ と は許 さ れ な い。 む し ろ 強 制 執 行 の 判 断 を求 め る か 、 あ る い は 、 物 的 仮 差 押 を 申 し立 て な け れ ば な ら な い(民 法230条2項 、 連 邦 通 常 裁 判 所 刑 事 判 例 集17巻89頁 以 下)。 こ の こ とは 、 債 権 者 が 、 窃 盗 犯 人 に対 して 、 犯 人 が そ の 物 に つ い て 直 接 的 な 占有 権 を 保 持 して い る よ うな 場 合 に つ い て も、 そ の ま ま 妥 当 す る の か 、 民 事 上 争 わ れ て い る。 ま た 、 自助 権 は 、

自 己 の 請 求 権 の 証 明 が 裁 判 所 に もた らす 困 難 を 回 避 す る た め に使 用 す る

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ク ラ ウス ・ロク シ ン 『刑法 総 論』 第 一巻(第 三版)〔 十五 〕(吉 田宣之)

こ と を許 さ な い 。 とい うの は、 そ の よ う な 場 合 に は、 「‑基本 的 に は 規 定 され て い る‑訴 訟 方 法 で は 得 られ な い で あ ろ う よ うな・・・ 利 益 を認 め る こ と に な っ て し ま う か ら で あ る(連 邦 通 常 裁 判 所 刑 事 判 例 集17巻331 頁)」。 個 別 的 に は 、極 め て 困 難 な民 事 上 の 基 礎 的 問題 の た め には 、 民 法 へ の 言 及 が 参 照 され る よ う指 示 され な け れ ば な ら ない 。 比 較 的最 近 の 判 例 に よれ ば 、 日常 生 活 上 の 簡 単 な事 案 で す ら、 民 法229条 の 助 け を借 りて も、

満 足 の い く解 決 に到 達 す る の は 難 しい と さ れ て い る。 し ば しば 議 論 さ れ た 「ガチ ョ ウの 胸 肉」‑事 件(お 客 が彼 の元 に運 ば れ て きた ガチ ョウ の胸 肉 が あ ま りに も小 さい の で、 お 金 を支 払 わ な い で そ の 場 を後 に した と こ ろ、

彼 の 道 を遮 っ た ウエ ー トレス と衝 突 し、 傷 害 させ 、 そ れ を排 除 した)に し ろ 、 「タ ク シ ー運 転 手 」‑事 件(乗 客 が 無 一 文 で、 一 身 上 の 申告 を拒 否 し、

運 転 手 に よる 身 体 の 拘 束 に対 して 身 を守 る た め に強 打 した)に しろ、 い ま だ に争 わ れ て い る。 冷 静 に考 え れ ば 、 少 な く と も一 身 上 の 申告 を得 る 目 的 で の 身体 の拘 束 は 、民 法229条 に よっ て カバ ー さ れ て い る と思 え る 。

31さ ら な る 自 助 権 を 、 民 法561条 、581条2項 、704条 、859条2項 い し4項 、860条 、910条 、962条 お よ び1029条 が 規 定 し て い る 。 そ れ ら は 、 官 憲 の 救 助 の 不 可 能 性 を 要 求 し て は い な い た め 、 語 の 厳 格 な 意 味 で は 、 公 職 者 の 代 理 権 に 基 づ く行 為 で は な い 。

第4節 懲戒権

32懲 戒 権 は 、 傷 害(殴 打 を加 え る場 合)に つ い て の み な らず 、 例 え ば 、 自 由 剥 奪(監 禁)あ る い は 強 要(許 し、 弁 償 の 強 制 な ど)に つ い て も正 当 化 事 由 と考 え られ る 。 可 否 と そ の 範 囲 に つ い て は、 こ との外 、 争 わ れ て い る 。

I.私 的 懲 戒 権

33支 配 的 見 解 に よれ ば 、 家 族 内 で の 未 成 年 の 子 供 に対 す る 、 教 育 的理 由 に よ る 懲 戒 は 許 され る、 と さ れ て い る 。 そ の 懲 戒 が 殴 打 に よ っ て な さ

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桐 蔭 法学18巻1号(2011年)

れ る場 合 、 構 成 要 件 に は該 当 す る が 、 そ れ が 健 康 に対 す る 加 害 を惹 起 し、

屈 辱 的 な態様 で な さ れ な い 限 り、正 当化 され る。 両 親 に とっ て 、懲 戒 権 は 、 民 法1631条 か ら(そ れ故 、 一 般 的 な 養 育 権 か ら)、 非 嫡 出 の 子 供 の 母 親 、 養 親 、 お よび 、 後 見 人 に とっ て は、 民 法1705条 、1754条 、1800条 に あ

る 同 じ規 定 か ら導 か れ る。 これ に対 して 、 継 親 は 、継 子 と姻 戚 関係 に立 つ の で(民 法1590条)、 継 子 に対 して は 、 固 有 の懲 戒権 を持 っ て い な い 。

34教 育 目的 で な され た 、 身体 的 懲 戒 は 、 虐 待 で は な い の で 、 既 に 刑 法 223条 の 意 味 で の 構 成 要 件 該 当 性 が な い とい う見 解 に は 、 賛 同 で きな い 。

と い う の は、 刑 法223条 は 、 身 体 的 に健 康 な 状 態 を保 護 して い る 。 こ の 状 態 は 懲 戒 に よ っ て 直 接 的 に 侵 害 さ れ る も の で あ る た め に、 犯 罪 類 型 自 身 は そ れ に よ っ て 実 現 さ れ て お り、 そ れ 故 に 、 構 成 要 件 は 充 足 さ れ て い る か らで あ る 。 そ の よ う な苦 痛 の付 与 が そ れ に よ っ て 遂 行 さ れ る 目 的 に よ っ て 許 さ れ る の か が 、 正 当 化 の 問 題 で あ る 。 む ろ ん 、 そ の よ うな 正 当 化 は 、 肯 定 され るべ きで あ る。 確 か に、 法 律 は 、 教 育 権 は節 度 の あ る 身 体 的 懲 戒 の権 利 を 内 包 し て い る と 明 示 的 に述 べ て い る わ け で は な い 。 ま た 、教 育 学 的 観 点 か ら は、 家 族 内 で の 教 育 の手 段 と して 身 体 的 懲 戒 が 放 棄 さ れ る こ とが 、 望 ま しい 。 しか し、 現 在 の社 会 的 お よ び心 理 学 的 条 件 の 下 で 、 す べ て の 両 親 が 、 腕 力 に よ る 教 え な し に 済 ま せ る こ とが で き る は ず で あ る な ど と考 え る の は、 浮 世 離 れ した 話 と受 取 ら れ る べ きで は な か ろ うか 。 度 を越 した 無 作 法 に端 を発 した 平 手 打 ち に 刑 法 を動 員 す る と い う の で あ れ ば 、 家 族 を満 足 させ る よ り も む しろ破 壊 して し ま う こ と に な る の で は なか ろ うか 。

35家 族 内 の 懲 戒 権 は 、 む ろ ん 、 出 血 の あ る 傷 、 内 出 血 な ど を 加 え る よ う な場 合 に は 、教 育 権 の 濫 用 と して 刑 法223条bに よ っ て 処 罰 され る が 、 そ う で な い 限 りで 、 許 容 され る の で あ る 。 そ れ は 、 民 法1631条2項 に

よ っ て 明 示 的 に 禁 止 さ れ た 、 屈 辱 的 な 懲 戒(例 え ば 、 足 蹴 あ る い は 髪 の 毛 を不 恰 好 に切 る こ とに よ っ て 、 枷 に は め て の 、 あ る い は、 強 制 的 に丸 裸 に した 上 で の 殴 打 に よ っ て)と 同 じで あ る。 こ れ に は 、 こ れ と い っ た

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原 因 な くな さ れ た 殴 打 も加 え られ る べ きで あ ろ う。 そ の よ う に 客 観 的 に 限 界 づ け られ た懲 戒 権 は 、 「教 育 学 的 動 機 か らの懲 戒 に重 き を置 く」 こ と に正 当 化 の 根 拠 を求 め る 、 一 般 化 して い る 見 解 よ り も優 れ て い る と考 え ら れ る べ き で あ る。 と い うの は 、 懲 戒 者 の 最 終 的 動 機 は 、 懲 戒 の た め に 十 分 な 原 因 が あ り、 そ の 懲 戒 行 為 が 客 観 的 に許 容 さ れ る範 囲 内 に あ る限 り、 裁 判 上 確 定 さ れ る 必 要 が な い か ら で あ る 。 ま た 、 「教 育 学 上 の 動 機 」 と い う要 件 は 、懲 戒 の 原 因 と して の腹 立 ち や 怒 りが 正 当 化 を排 除 しな い 余 地 を残 して お くの で あ れ ば 、 既 に 、 基 本 的 に は、 放 棄 され て しま っ て い る 。 他 方 、 「彼 に 身 を 委 ね て 、 そ の 求 め に 応 じて 洋 服 を 脱 い だ 少 女 を 鞭 打 つ 」(連 邦 通 常 裁 判 所 刑 事 判 例 集13巻 、138頁)場 合 、 そ れ は 、 客 観 的 に は 、屈 辱 的 な 、 決 して 正 当 化 す る こ との で きな い行 為 で あ る 。 前 面 に あ る教 育 目的 も、 「性 的 動 因 が 意 識 的 に協 働 して い る」 の で あ れ ば 、 正 当 化 に は 十 分 で は な い とい う点 に 関 す る 連 邦 通 常 裁 判 所 の 緻 密 な 検 討

も、 もは や 、 必 要 は な い の で は なか ろ う か 。 懲 戒 の 際 に は 往 々 に して 一 定 の役 割 を に な っ て い る 、 サ デ ィス テ ィ ッ ク な 動 機 は 、 サ デ ィス テ ィ ッ

ク な行 為 に 表 現 さ れ る の が 常 で あ る 。 こ の よ う な行 為 は 、 そ れ 自体 と し て 処 罰 さ れ る の で あ っ て 、まず は 、そ の動 機 の 故 に処 罰 され るの で は な い 。 主 観 的 正 当 化 要 素 の 問 題 に つ い て 、 根 本 的 に は 、14章 、 側 注91以 下 を 参 照 。

36  1987年 、 連 邦 政 府 に よ っ て、 「暴 力 に 関 す る 委 員 会 」 が 外 国 の例 に 習 っ て 開 催 され 、1990年1月 に そ の結 論 が 発 表 され た 。 懲 戒 権 の 領 域 で は 、 民 法1631条2項 に よ る 「懲 戒 禁 止 」 の 導 入 が 提 案 さ れ た 。 こ の 禁 止 は 、補 助 策 、例 え ば 、特 に 、非 暴 力 お よ び社 会 関 係 的 行 為 へ の 両 親 の 教 育 、 被 害 者 保 護 の 強 化 の よ う な 社 会 的 ス ト レス 要 因 の 克 服(被 害 者 識 別 の 改 善 、 医 師 や 他 の 職 業 集 団 の た め の 届 出 権 の 法 律 的 な 明 確 化 、 家 族 の切 迫 し た危 機 状 況 に お い て 被 害 者 を 保 護 す る た め の 迅 速 な 救 助 の確 立 、 い わ ゆ る 「子 供 保 護 セ ン ター 」 の 設 置)に よ っ て 支 え られ るべ き で あ る と さ れ て い る。 こ の よ う な 提 案 は 、 歓 迎 され る べ きで あ る。 け れ ど も 、 明 示 的 な懲 戒 禁 止 に もか か わ らず 、 そ れ を行 っ た両 親 の 可 罰 性 が 、 ど の よ う

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桐 蔭 法 学18巻1号(2011年 〉

な場 合 で も適 当 で且 つ 貫 徹 可 能 で あ る か とい う問 題 は 、 側 注34で 挙 げ ら れ た 理 由 か ら、 疑 問 視 され な け れ ば な ら な い 。 委 員 会 も この こ と を 認 識

して お り、 「国 家 に よ る 救 済 」 を応 援 して い る。1993年12月3日 の 連 邦 政 府 に よ る 法 案(ド イ ツ 連 邦 議 会 印 刷 物12/6343)は 、 民 法1631条2 項 の新 規 定 を予 定 して い る 。 す な わ ち 、 「身体 的 お よび 精 神 的 虐 待 や そ の 他 の侮 辱 的 処 置 は 、 許 さ れ ない 。」 と。 しか し、 そ の 理 由付 け の 中(上 記 印 刷 物12頁)で は、 「現 存 す る刑 罰 威 嚇 を … 拡 大 す る 」 意 図 は な い と さ れ て い る 。 こ の よ う な不 明 確 な規 定 が 利 用 さ れ る の か は 、 見 通 しが 立 た な い 。 こ の 規 定 は 、 実 際 の と こ ろ 、 現 在 に至 る まで 法 律 に は な っ て い な い 。

37他 人 の 子 供 を懲 戒 す る権 利 は 存 在 しな い 。 酷 い 悪 戯 に そ の 場 で 罰 を 与 え る 場 合 で あ っ て も、同 じで あ る 。 以 前 しば しば 高 等 裁 判 所 に よ っ て 、 ま た 、論 文 に よ っ て 主 張 され て い た反 対 意 見 に は 、現 在 で は 、 正 当 に も、

支 持 者 が い な い 。 懲 戒 権 は 、 教 育 の 権 利 を 持 っ た 者 の 一 身 専 属 的 な 権 限 で あ る。 そ れ故 に 、 い わ ゆ る 公 の 利 益 を根 拠 に他 人 の 意 思 に 反 して ま で 懲 戒 権 を 「民 法679条 に相 応 し く」 認 め よ う とす る の は 、重 要 で は な い 。 お そ ら く は 、 両 親 の 推 定 的 承 諾 を根 拠 と す る正 当 化 が 考 え られ る 。 しか

し、 彼 ら の 賛 同 に つ い て の 具 体 的 な よ り ど こ ろ が 存 在 して い る よ う な 、 例 外 的 な場 合 に 限 られ よ う(詳 し くは 、18章 、側 注23参 照)。 も ち ろ ん 、 正 当 防 衛 は 、 留 保 さ れ て い る。 す な わ ち 、 そ れ 故 、 子 供 に よ っ て侵 害 さ れ た 者 は 、 そ れ に対 して 、 必 要 が あ れ ば 、 殴 打 に よ っ て 対 抗 す る こ とが 許 され る 。 け れ ど も子 供 に対 す る 正 当 防衛 権 の 社 会 倫 理 的 制 限 は 尊 重 さ れ な け れ ば な らな い(15章 、 側 注57以 下 参 照)。 こ の 領 域 で は 、 緊 急 救 助 も許 さ れ る 。 子 供 が 老 婦 人 に 石 を 投 げ て い る 現 場 に 来 合 わ せ た 者 は 、 諌 め た が 、 効 果 が な か っ た場 合 に、 平 手 打 ち を 食 わ せ 、 追 い 払 う こ とが 許 され る 。 こ れ は 、 懲 戒 権 の 事 案 で は な く、刑 法32条 の 問題 で あ る。

38懲 戒 権 自体 は 、 そ の 一 身 専 属 的 な性 質 の た め に譲 渡 不 可 能 で あ るが 、 しか し、 特 別 の 世 話 を す る 関 係 に あ る場 合 に も実 行 で き る(連 邦 通 常 裁

参照

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