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今後の国際取引実務におけるインド仲裁の重要性

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Academic year: 2021

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著者 井口 直樹

雑誌名 同志社大学ワールドワイドビジネスレビュー

巻 10

ページ 207‑213

発行年 2009‑03‑31

権利 同志社大学ワールドワイドビジネス研究センター

URL http://doi.org/10.14988/re.2017.0000015965

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今後の国際取引実務におけるインド仲裁の重要性

井口 直樹

(弁護士)

1.国際投資・国際取引における仲裁とは

国際投資・国際取引に日常従事する者にとっては,国際仲裁(国際商事仲裁・投資仲裁)の 重要性は釈迦に説法だが,残念ながら日本のビジネス界の常識にまではなっていない。

特に,国際商事仲裁は,裁判に代替する紛争解決手段である。すなわち,紛争解決のための 実体的判断を下す限りにおいて,国の裁判所の代わりとなる。もっとも,強制執行段階まで考 えると,各国の裁判所の助けを借りるほかないが,外国仲裁判断の承認執行については「外国 仲裁判断の承認及び執行に関する条約」(以下「ニューヨーク条約」という。)が存在し,強制 執行のハードルを低くする努力が払われてきた。

国際商事仲裁を利用しないのであれば,相手国の裁判所に裁判管轄が認められてしまうリス クと向き合わなければならない。各国の司法・裁判制度は,日本と必ずしも同じでない。先進 国・途上国を問わず,むしろ相当違うものだと覚悟しておくべきである。だからといって,他 国では不正がなされていると考えるのは短絡的だが,しかし,世界各地で国際投資・国際取引 に従事する日本企業が,全ての国の司法・裁判制度に通じるというのは非現実的な話である。

無論,全ての紛争が仲裁で解決できるわけではないので,日本企業にとって重要な国,重要な 種類の紛争については,ある程度知っておく必要があろう(例,労働紛争)。しかし,一般商 事紛争については,より簡便な方法が存在するのだから,それを利用しないのは勿体ない。

国際商事仲裁では,国連商取引法委員会(UNCITRAL)による仲裁規則(UNCITRAL仲裁 規則)の制定のみならず,各国の仲裁法のベースとなる UNCITRALモデル法(UNCITRAL Model Law on International Commercial Arbitration, 1965)が作成され,多くの国によって受け 入れられた。国際商事仲裁に携わる実務家・法律家の共通認識も,徐々に形成されてきた。無 論それらは完全に一致してはいないが,これに変わる,信頼できる・利用できる制度装置はな

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い。だからこそ,国際投資・国際取引に携わる日本企業には,もっと国際商事仲裁のことを知 り,国際商事仲裁を活用し,国際商事仲裁の世界に対して利用者としての意見を発信する必要

────────────

日本弁護士(第二東京弁護士会)・ニューヨーク州司法試験合格。アンダーソン・毛利・友常法律事務 所パートナー・立教大学兼任講師(国際民事手続法)。東京大学法学修士・スタンフォード大学法科大学 院法学修士。米国・台湾・中国及びICC国際仲裁裁判所(フランス)で研修。英語・中国語に堪能。

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2.インドの司法・裁判制度

近時,日本企業の対インド投資・取引の増進は著しいにもかかわらず,インドの商事紛争解 決制度について説明した文献は極めて少なかっ

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た。そんな中で,今回,同志社大学ワールドワ イドビジネス研究センターが,「インドの経済発展と仲裁法の役割」をセミナーの主題とした 意義は大きい。インドの司法・裁判制度の詳細は別稿に委ねるが,ここでは特に気づいた重要 と思われる点のみ指摘しておく。

第1に,司法制度全般について,インドは,イングランド法に基礎を置くコモン・ロー法圏 に属し,その司法・裁判制度は日本と大きく異なっている。最高裁・高裁の裁判官は,主とし て実務法曹から選ばれて有能であり,かつ弁護士の尊敬を集めている。インド弁護士と話して いて,これらの裁判官に対するあからさまな批判を聞くことは少な

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い。インド法曹界は,一貫 した歴史を有しているので,良い教育・訓練を受け,十分な経験を積んだ法曹であればその資 質・水準は極めて高い。裁判官が現役弁護士から選ばれるという制度も,こうした基盤に支え られている。他方で,(かつての)日本のような難度の高い司法試験が実施されているわけで もないので,疑問符の付く弁護士も少なくない。

第2に,裁判所の法適用について,コモン・ロー法圏とはいえ制定法は多く整備されてい て,実際の裁判においても制定法の文言の解釈によって解決される。特に仲裁法は,UNCITRAL モデル法準拠の新しい制定法でもあり,必ずしもコモン・ロー法圏の伝統的な仲裁法(例,1940 年イングランド仲裁法,1940年インド仲裁法)と同じでないことから,コモン・ローよりも

むしろUNCITRALモデル法準拠国の実務さえ参考にして解釈されることがあ

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る。

第3に,極めて時間が長くかかることである。口頭弁論が重視されるため,弁護士は審理に おいてかなり雄弁に弁論を行い,また,裁判所がこれを制止することは少なく,審理の順番は 守られていてもどんどん先になってしまうこともあ

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る。さらに,期日の延期(adjournment)

の制度が悪用されて,延期・再延期されることもある。その結果,1件当りのトータルの審理 期間は極めて長くなり,また,多数の未決案件が滞留する。この事態はインド政府・インド法 曹界も憂慮はしており,準司法機関(Quasi-judicial authorities)を多数設置することで通常裁 判所の負担を減らす努力がなされているようだが,経済発展・訴訟の増加の速度に追いついて いな

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い。

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3.インドの仲裁法・仲裁実務

(1)概観

インドの現行仲裁法は,正式には「1996年仲裁調停法(The Arbitration and Conciliation Act,

1996, 26 of 1996)」(以下「1996年インド仲裁法」という。)といい,UNCITRALモデル法に

準拠し,それまでの1940年仲裁法を全面的に改正して立法された。従って,条文を見る限り は,多くの点でUNCITRALモデル法,さらにはUNCITRALモデル法に従って立法された日 本仲裁法(平成15年法第138号)とよく似ている。

1996年インド仲裁法は,4つの部(Part)に分かれているが,この体裁は日本仲裁法とは異 なっている。第1部「仲裁(Arbitration)」,第2部「一定の外国仲裁判断の執行(Enforcement of Certain Foreign Awards)」,第3部「調停(Conciliation)」,第4部「付則(Supplementary Pro-

visions)」である。第1部が,ほぼUNCITRALモデル法に従った仲裁手続等に関する規定の

ほとんどを収めるが,適用範囲はインドを仲裁地とする仲裁と明言されている(2(2)条)。

従って,インド当事者を相手方とする場合でも,例えば,仲裁地をシンガポールとして合意し ておけば,第1部の適用はないはずである(この点に関する重要な裁判例は,後で指摘す る)。第2部は,ニューヨーク条約・ジュネーブ条

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約の適用される外国仲裁判断の執行手続を 定めるもので,内容は各条約に従っている。もっとも,こうした構成自体は内容に直接影響す るものではなく,各国仲裁法が自国を仲裁地とする仲裁手続にのみ適用されるとするのは,当 然の規定でもある(UNCITRALモデル法1条2項)。

UNCITRALモデル法に基づく仲裁手続は,仲裁手続自体は国家の裁判所外で行われるが,

仲裁人の選任・仲裁廷の判断権限の有無等の様々な点で,裁判所の助力又は介入がある。そし て最終的には,仲裁判断取消の訴

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え,並びに外国仲裁判断の承認及び執行(の許

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否)という段 階で,当該仲裁判断をその国の裁判所が認めるか・拒否するかの判断が示される。こうした制 度自体は,日本を含めどの国の仲裁法にも存在するから,そうした訴えの提起又は承認及び執 行の拒否の主張自体は,阻止できるものではない。但し,UNCITRALモデル法及びニューヨ ーク条約では,出来るだけ裁判所でなく仲裁廷に対して権限を認め,また,仲裁判断後の仲裁 判断取消の訴えの「取消原因」を狭く規定・解釈することで,仲裁の結果が裁判所によって覆 される場面を極力限定している。

(2)近時の仲裁に関する裁判例

1996年インド仲裁法の下でも,既に日本よりははるかに多数の裁判例が出ている。ところ が,それらの中には,国際仲裁実務の共通理解からは驚きを禁じえないものも含まれる。裁判 例の背景・判示内容については,本セミナーのパネリストでもあるインド弁護士のドラキア

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けるため省略するが,ここではそうした判決の背景及び影響について,若干の説明を試み

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る。

日本企業を含む外国企業にとって,潜在的インパクトの大きな裁判例は Venture Global v.

Satyam Computers 事

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件といえよう。なぜならこの裁判例は,外国仲裁判断をインド裁判所が 取り消し得ることを示唆したからである。即ち,インド仲裁法の適用を嫌って,外国を仲裁地 とすることに合意して,その通りの効力を認められないかもしれないという可能性を示した,

と言う意味において,外国企業にとって大変影響があるからである。

一般に,仲裁判断取り消しの訴えの国際裁判管轄は仲裁地国に専属すると解されてお

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り,1996 年インド仲裁法にも文言上これと矛盾する規定はない。むしろ,前述したように1996年イン

ド仲裁法2(2)条は,第1部はインド国内で行われる仲裁にのみ適用されると規定してい

る。他方,(ニューヨーク条約締結国の)外国仲裁判断には第2部が適用されるというふう に,適用される部を異にすることで,外国・内国仲裁判断を切り分けている。

にもかかわらず,Venture Global事件がこのような判断を示したのは,Bhatia International v.

Bulk Traders事

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件という伏線があった。これは,背景事実・争点は全く異なる事件で,1996年 インド仲裁法9条(暫定措

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置)の適用を,(インドから見た)外国仲裁に関しても認めたもの であった。その限りでは,外国仲裁利用者にも一見「有利」なものであった

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が,1996年イン ド仲裁法を外国仲裁に対しても認めたという点で,Venture Global事件を導くことになってし まった。しかし,そもそも1996年インド仲裁法9条は,第1部の規定なのだから,1996年イ ンド仲裁法2(2)条によりインド国内を仲裁地とする仲裁に対してのみ適用されるべきで,

文言上も矛盾抵触していたというべきかもしれない。そして,Venture Global事件では,この

誤ったBhatia International事件の判示に従ったために,さらにより悪影響の大きい結論を導い

てしまったのではないかと推測される。なお,Venture Global事件でインド最高裁は,外国仲 裁判断を取り消したのではなく,その可能性を示唆して下級審に差し戻したに留まるし,判示 自体から,インド最高裁が外国仲裁を敵視しているとまでは読めないだろう。さらに,伏線で

あるBhatia International事件はむしろ外国当事者の利益に資する面の大きい結論であった。し

かし,いずれにしても,今後,外国仲裁判断についても積極的に「仲裁判断取消の訴え」の対 象とするこれらの点を踏まえて,インド最高裁は今後どのような判断を下すのか,注目される。

(3)その他の裁判例・論点

その他にも,インド国内仲裁において「公序(public policy)」の範囲を広く認めたONGC v. Saw Pipe Ltd事

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件は,Global Venture事件の法理を介して外国仲裁判断の承認・執行手続へ の影響が注目される。

また,インド最高裁の確たる判例はなく,また,1996年インド仲裁法の合理的な解釈から はとうてい導くことはできないと思われるもの

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の,一部に,「仲裁差止め」を認めた例がある

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との話も聞く。

4.これからの対応と変化への期待,今においてもなすべきこと

外国企業・投資家の視点からは,インド当事者が外国(特に,仲裁について実績・理解のあ る国)に資産を有していれば,当該在外資産に対する保全・執行を考えることができるし,紛 争解決自体についても仲裁について実績のある国(例,シンガポール,英国,日本)を仲裁地 としておけば,相手がインド当事者であるかどうかはあまり関係なく,(外国)仲裁判断を得 ることができる。しかし,外国仲裁を利用した上で,インド当事者のインド国内に存在する資 産への執行を考えている場合は,上記の裁判例等による影響を考慮せざるを得ない。

万一,インド最高裁が,今後Venture Global事件で示した考えを推し進め,いかなる外国仲 裁判断でもインド裁判所の取消判断に服するものとし,さらに,ONGC事件で示した極めて 広範な公序違反の考え方を貫くならば,インド仲裁実務,とりわけ外国仲裁を利用してインド 国内での承認執行を考える外国企業にとっては,重大なインパクトを与える。そうなれば,裁 判所において「公序違反がないこと」等取消事由・承認執行拒否事由の欠如を主張して争うほ かな

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い。

そもそも,インドのような広大な国家で,一部の下級裁判所が国際商事仲裁実務・共通理解 を十分に咀嚼できず,論理的に・実務的に誤った判断を下す可能性は,完全に否定するのは難 しいのが現実である(それほどまでに司法制度の確立が難しいことは,種々の経験が教えてく れるところである)。もちろん,下級審の誤った対応に出くわしたのを不運だったと慰めるの は実務家の役割ではないし,日本弁護士としては,日本企業の正当な利益の擁護のためにあら ゆる手段を考えなければならない。ただ一部の例を取り上げて,インド仲裁実務・司法手続,

インド法曹界が全く信用置けないものであると断じるのも,あまりに短絡的でもある。

非難するより先に,今においても可能なことは全て行うことである。仲裁人の選任その他の 裁判所の援助・介入のことを考えれば,それでも,インド当事者を相手方とする国際投資・国 際取引において外国仲裁を利用する意味は大きい。また,例えば,UNCITRALモデル法に準 拠した1996年インド仲裁法の下でも(当然ではあるが)仲裁地,仲裁人の選任(人数・選任 方法・国籍等),手続言語等は,当事者の合意によって選択できる。日本企業も,単に最低限 の仲裁合意・仲裁条項を導入するだけではなく,まずこれらの基本的な事項について適切な選 択をして,適切な内容の仲裁条項を定めなければならない。

日本企業及び日本社会が,インドへの投資・インドとの取引を続けることに魅力を感じる限 り,日本法曹としては,正しい事実及び情報を伝え,インドの法曹と協力し,日本企業に対し て適切なアドヴァイスを提供しなければならない。インド司法制度・仲裁実務について正しい 理解がなされていないのは日本だけではなく,筆者が進めてきた英米実務家との意見交換にお

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何を問題とすべきなのか,インドでは何が解決できないのか,インドでは何が解決できるの か,誰の助力を得るべきなのか,問題の解決にはどれくらいの時間と手間がかかるのかを,正 しく認識して欲しい。正しく認識してこそ,正しく判断することができる。そうすることで,

今後,好ましい変化に対しては好機を失わず,また,万一そうでない変化があったとしてもリ スク把握を正確に行うことが可能となろう。そして願わくは,国際商事仲裁の世界の一員とし て,利用者・実務家の立場からの意見を臆せず表明していきたいものである。

1 近時大いに注目されている,二国間投資協定(Bilateral Investment Treaty)等を利用した投資協定仲 裁も,私人対国という特徴ある枠組みではあるが,仲裁の考え方を延長し応用したものである。

2 旧法(1940年仲裁法)下のものであるが,財団法人機械振興協会・経済研究所,社団法人国際商 事仲裁協会「国際商事仲裁の理論と実際」。また,近時のものとしてShaneen Parikh・Manvendra Kane

・井口直樹・琴浦諒(共著)「インド商事紛争解決概説(1)〜(6)(連載中)」JCAジャーナル第55 巻7号〜10号・12号,第56巻1号。

3 若干説明を補足する。インドは,連邦国家であるが,米国のように連邦・州の二元性を採用するも のではない。従って,弁護士はどの州でも業務できる。インド憲法に定める公用語はヒンディー語 であるが(インド憲法343条),法令・司法手続(高裁以上)では英語が用いられるべきものと定 められている(インド憲法348条)。1つの最高裁,21の高裁(原則各州に1つ),その他の下級裁 判所からなる。裁判は原則公開。口頭審理に重きが置かれているので,口頭弁論では日本と違って 実際に弁論が戦わされる。米国ほど徹底的に用いられることはあまりないようだが,証拠開示(Dis- covery)の制度もある。民事手続は,基本的には1908年民事訴訟法(Code of Civil Procedure,

1908)に基づくが,実際の手続の流れは同法の別紙1(schedule 1)に規定された51項目のオーダ

ー(order)という手続細則まで見る必要がある。詳しくは,前掲注1のShaneen Parikh他の第55 巻7号(2008年7月号)を参照されたい。

4 なお,かつての宗主国イングランドの法令はもちろんのこと,裁判例も,インドにおいては何ら法 的効力が認められない。しかし,インド法はイングランドの法を継受して発展してきたため,イン ドの法律書等ではイングランド(及び他の英法圏国,例,オーストラリア)の裁判例・学説が言及 されている。

5 最高裁は,10数個の法廷を有し,精力的に開廷しているものの,一定の事件については弁論時間 の制限がなかったりするため,口頭弁論が何時に終わるのかが分からないという,日本の裁判実務 とは全く異なる実務が,当然のこととして受け入れられている。自分の弁論の順序が来るまで忍耐 強く待ち(実際は,事務所職員を派遣して先行案件の推移を見守り,先行案件が終結すると見込ま れる時点で事務所から裁判所に移動する),与えられた弁論の機会は可能な限り活かす,という弁 護士の認識のようである。

6 準司法機関には,会社法委員会(Company Law Board),証券上訴審判所(Securities Appellate Court),全国消費者紛争救済委員会(National Consumer Disputes Redressal Commission),労働裁判 所(Labour Court),産業審判所(Industrial Court),中央行政審判所(Central Administrative Tribu- nal)等,枚挙に暇がない。詳しくは,前掲注1のShaneen Parikh他の第55巻9号(2008年9月 号)を参照されたい。

7 1927年に締結された「外国仲裁判断の執行に関する条約(Convention on the Execution of Foreign Ar-

bitral Awards)」のこと。ニューヨーク条約加盟国間では既に効力を失っている(日本・インド共に

ニューヨーク条約加盟国である)。

8 1996年インド仲裁法34条,日本仲裁法44条。

9 1996年インド仲裁法48条,日本仲裁法45条。

10 ドラキア氏の論稿とは,説明の順序は異なる。なお,本稿でのインド裁判例への言及は,セミナー

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前に調査したもののほか,セミナー中でのドラキア氏との意見交換及びドラキア氏の論稿(草稿)

に接したことから多くの示唆を得たものであることを,付言しておく。

11 (2008)4 SCC 190。

12 小島武司・高桑昭編「注釈と論点 仲裁法」242頁[早川吉尚執筆](2007年)。上記の原則をその まま「文言どおり」リフレーズした条文はUNCITRALモデル法にはないが,UNCITRALモデル法 1条2項(適用範囲)は上記原則に基づくものと解されている。

13 (2002)4 SCC 105。

14 1996年インド仲裁法9条は,仲裁合意がある場合でも,裁判所が暫定措置を行えるという規定で ある。

15 例えば,仲裁地をシンガポールとする仲裁合意があっても,インド国内で相手方に対する暫定措置

(保全処分)を提起できることになる。結果オーライともいえる裁判例である。もっとも,インド 最高裁が,こうした明文規定と抵触するような判断をせざるをえなかったのは,インドの保全制度 の特殊性(原則として,本訴提起と同時でなければ保全申立てが出来ない)と関連しているのかも しれない。仲裁地を外国とする有効な仲裁合意があれば,インド国内で本訴提起することは不可能 となるからである。もっとも,この点はインド弁護士に確認が必要である。

16 (2003)5 SCC。

17 詳細は,前掲注1のShaneen Parikh他の第56巻1号(2009年1月号)。

18 なお,取消事由は執行拒否事由とほぼ同じなので,Venture Global事件が無くても,もしインドの 裁判所が「取消事由≒執行拒否事由」を広く解釈すれば外国仲裁判断をインド国内で執行できなく なって,実効性を欠くことにもなる。従って,結局問題は管轄の広狭ではなく,「取消事由≒執行 拒否事由」の広狭であるともいえるが,せっかく1996年インド仲裁法は国内仲裁と外国仲裁を分 けているのにその壁を崩してしまった(かもしれない)Venture Global事件が懸念される事件であ ることには変わりない。

Law of Arbitration in India

Shishir Dholakia

Senior Advocate, Vice-President of

the Asia-Pacific Regional Arbitration Group

1 Introduction.

a. General.

India is a Union of

1

States. Its territories are divided among the Union territories and the State terri- tories. There are 28 States and 7 Union territories.

The political set up of the federation is that power to legislate and govern is divided among the Union and the States in accordance with legislative lists given in the Seventh Schedule to the Consti- tution of India.

The judiciary, however, is common throughout India. It consists of the Supreme Court of India that functions from India’s capital, New Delhi ; 22 High Courts that functions from capitals of different

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