• 検索結果がありません。

と中国人・韓国人日本語学習者による「思う」の使 用状況について

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "と中国人・韓国人日本語学習者による「思う」の使 用状況について"

Copied!
17
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

と中国人・韓国人日本語学習者による「思う」の使 用状況について

著者 田中 舞

雑誌名 同志社大学日本語・日本文化研究

号 13

ページ 133‑147

発行年 2015‑03

権利 同志社大学日本語・日本文化教育センター

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000013979

(2)

要 旨

 外国人留学生が日本の大学や大学院等で学ぶ場合、意見文等の論述文を作成す る能力が求められることが多い。そのため、本稿では、論述文で多用される「思う」

を取り上げ、Web上で公開されているICLEAJ作文コーパスβ版を用いて、日本 語母語話者と中国人日本語学習者及び韓国人日本語学習者の使用実態の比較を行 い、それぞれの言語使用の特徴を明らかにし、文章作成時に学習者に必要だと考 えられる指導点を探った。分析は使用されている「思う」の活用形、直前で用い られている前接語、用法、及び「と思う」の引用部分で使用されている文末表現 の 4 つの点から行った。その結果、日本語学習者の使用する「思う」は、全ての 点において日本語母語話者と比較しバリエーションが少なく、「思う」の使用法 が固定化されていることが確認された。特に、日本語学習者は日本語母語話者と 比較し、客観的な表現として使用可能とされる「思っている」を過剰使用してい る半面、「普通形+ように思う」や「意向形/たい+と思う」、「〜のだと思う」な どのような書き手の意見陳述の強さを和らげる表現の使用が少なく、論述文では このような表現がしばしば用いられることを指導する必要があることが明らかに なった。また、第三者の感情を表す「ている形」の使用法など、日本語母語話者 にはあまり用いられない表現の使用を控え、他の表現を用いるべきであることも 指導する必要があると思われた。

キーワード

日本語 作文 コーパス 学習者 母語話者 思考動詞 思う

1 はじめに

 日本の大学や大学院等で学ぶ外国人留学生にとって、日本語を用いて意見文等の論 述文を作成する機会は多い。しかし、日本語学習者の作成する文章を読むと、日本語 母語話者の作成する文章とは異なる印象を受け、読みにくさを感じることが多々ある。

それは、日本語母語話者、日本語学習者のそれぞれに言語使用の特徴があるためだと

ICLEAJ 作文コーパスβ版における日本語母語話者と

中国人・韓国人日本語学習者による「思う」の使用状況について

The Use of Verbs Omou in ICLEAJ Corpus

- The Comparison of Japanese, Chinese, and Korean Students -

田中 舞

(3)

考えられる。そこで、本研究では、意見文等の論述文で多用され、先行研究でもしば しば取り上げられている思考動詞の一つである「思う」を取り上げ、日本語母語話者 と中国人及び韓国人日本語学習者の使用実態の比較を行い、それぞれの言語使用の特 徴を明らかにし、文章作成時に学習者に必要だと考えられる指導点を探る。

 具体的には、まず、日本語母語話者と中国人及び韓国人日本語学習者が作文で用い ている「思う」が、どのような形で使用されているかを確認するため、「思う」の活用 形と、「思う」の直前に用いられる前接語についての調査を行った。その後、使用され た「思う」がどのような用法で書かれたものであるかを調べ、日本語母語話者と日本 語学習者の用いる用法に違いが見られるかどうかを確認した。また、作文で使用され た「思う」の中から、先行研究でも数多く論じられている「と思う」の形で用いられ ている使用例を取り上げ、母語話者と学習者の「と思う」を用いた引用部分の文末表 現の相違点を調査した。

2 分析データ

 本調査は、ICLEAJ作文コーパスβ版を用いて行った。ICLEAJ作文コーパスとは、

Web

上で公開されている外国人日本語学習者コーパスの一つであり、第二言語として 日本語を学習している大学生及び大学院生が作成した作文によって構成されている。

用いられている作文は、20 種類のテーマから選択されたもので、1時間で 800 字程度 の文章が手書きまたはワードで作成されている。また、比較用データとして日本語母 語話者が作成した同様の作文も取り上げられており、大学生及び大学院生が作成した 文章と一般社会人が作成した文章で構成されている。

 本調査では、日本語母語話者の作成した作文と日本語学習者の作成した作文を比較 するため、ICLEAJ作文コーパスβ版のうち、中国人日本語学習者が作成した作文 43 名分及び韓国人日本語学習者が作成した作文 36 名分と、大学生及び大学院生である日 本語母語話者が作成した作文 44 名分を使用した。一般社会人である日本語母語話者が 作成した作文は、中国人及び韓国人日本語学習者が学生であるため、本調査では比較 対象としては取り上げなかった。

3 分析方法

 本調査では、まず、KH Coderを用いて「思う」が使用されている文を抽出した。同 時に、

KH Coder

では、「思える」が「思う」とは別の語として抽出されるため、「思える」

が含まれている文の抽出も行った。その後、1 文ずつを目視で確認し、「思い出す」や

「思い知らす」などの慣用表現を取り除いた。その結果、日本語母語話者の作文コーパ スからは 177 例を、中国人日本語学習者の作文コーパスからは 119 例を、韓国人日本 語学習者の作文コーパスからは 104 例を取りだすことができた。本調査では、抽出さ れたこれらの「思う」の使用例を分類し、日本語母語話者と中国人及び韓国人日本語

(4)

学習者が作文で用いた「思う」の使用状況の差異を明らかにした。なお、日本語母語 話者の作文は、総抽出語数が 21,274 語であり、異なり語数は 2,481 語であった。また、

中国人日本語学習者の作文は、総抽出語数が 20,277 語であり、異なり語数は 2,324 語、

韓国人日本語学習者の作文は、総抽出語数が 17,062 語であり、異なり語数は 2,082 語 であった。

4 分析と結果 4.1 「思う」の活用形 4.1.1 量的分析と結果

 ICLEAJの作文コーパスでは、「だ・である」体と「です・ます」体が混在しているため、

文体差は考慮に入れず、作文で使用されている「思う」の活用形を量的に調査した結果、

以下の【表 2】のようになった。なお、【表 2】で用いられている

NS

は日本語母語話者を、

NNS

は日本語学習者を表している。また、CNは日本語学習者のうち中国人日本語学 習者を、KRは韓国人日本語学習者を表している。

 日本語母語話者も中国人及び韓国人日本語学習者も「思う・思います」の基本形で の使用率(NS= 62.7%,

CN

= 63.9%,

KR

= 67.3%)が最も高かったが、受身形の

「思われる・思われます」(NS= 2.8%,

CN

= 0.8%,

KR

= 1.9%)や可能形の「思え る・思えます」(NS= 6.8%,

CN

= 0.0%,

KR

= 1.0%)、条件形の「思えば」(NS= 1.7%,

CN

= 0.0%,

KR

= 1.0%)などの活用形の使用に関しては、日本語母語話者の

【表 2】「思う」の活用形の使用数と使用率 思う・         

思いま

思った・   

思いました 思って・

思い 思っている・

思っていた

思わない・  

ん・思わず思いませ

思われる・  

思われます 思える・   

思えます 思えば 思わせる・  

思わせます

NS 使用数 111 22 5 17 1 5 12 3 1

使用率 62.7% 12.4% 2.8% 9.6% 0.6% 2.8% 6.8% 1.7% 0.6%

NNS

CN 使用数 76 12 8 20 2 1 0 0 0

使用率 63.9% 10.1% 6.7% 16.8% 1.7% 0.8% 0.0% 0.0% 0.0%

KR 使用数 70 14 4 11 1 2 1 1 0

使用率 67.3% 13.5% 3.9% 10.6% 1.0% 1.9% 1.0% 1.0% 0.0%

【表 1】「思う」の抽出結果

日本語母語話者 中国人日本語学習者 韓国人日本語学習者

使用例数 117 例 119 例 104 例

総抽出語数 21,274 語 20,277 語 17,062 語 異なり語数 2,481 語 2,324 語 2,082 語

(5)

使用率と比較して日本語学習者の使用率は低く、初級レベルで学習している基本的な 活用形であっても、実際に使用するまでにはいたっておらず、日本語学習者の使用す る活用形のバリエーションが非常に少ないことが分かった。また、中国人日本語学習 者は、「思って・思い」(NS= 2.8%,

CN

= 6.7%,

KR

= 3.9%)の活用形と「思って いる・思っていた」(NS= 9.6%,

CN

= 16.8%,

KR

= 10.6%)の活用形の使用率が他 グループと比べて非常に高く、特徴的であった。なお、「思う」が文末で使用された例 は、日本語母語話者が 117 例中 94 例で 84.7%、中国人日本語学習者が 119 例中 64 例 で 84.2%、韓国人日本語学習者が 104 例中 57 例で 81.4%であり、すべてのグループで 文末での使用が 80%を超えていた。

4.1.2 質的分析と結果

 次に、日本語母語話者、中国人及び韓国人日本語学習者のそれぞれの実際の使用例 を確認し、質的な比較を行った。その結果、まず、日本語学習者の使用率が日本語母 語話者よりも 5%以上低かった「思われる・思われます」(NS= 6.8%,

CN

= 0.8%,

KR

= 1.9%)の使用例では、日本語母語話者にのみ 1 例ではあったが、(1)のように 受身の意味での使用例が見られたが、その他の使用例は全て(2)や(3)のように、

自身の意見を客観的に述べるために使用されたものであった。そのため、使用率は低 いが、日本語母語話者も日本語学習者も「思う」を「思われる・思われます」の活用 形で使用する場合は、基本的には意見を客観的に述べる方法として認識していると考 えられる。また、日本語学習者の使用率が低く、使用例が韓国人日本語学習者の 1 例 しか見られなかった「思える・思えます」を確認すると、日本語母語話者は(4)〜(6)

のように全て可能の意味で用いていた。そこで、同じように可能の意味を表す「思う ことができる」の使用例の有無を確認したが、日本語母語話者にも日本語学習者にも 使用例は確認できず、日本語母語話者は「思う」に可能の意味を付加する場合は「思 うことができる」よりも「思える・思えます」を多用する傾向があるということ、また、

日本語学習者は「思う」に可能の意味を付加する傾向が非常に少ないということが推 測された。さらに、可能形と同様に使用率が低かった条件形「思えば」での使用例を 確認したところ、日本語母語話者の使用例では、(7)〜(9)のように、3 例とも「今」

とセットで使用されていることが確認されたが、日本語学習者の使用例(10)では、「今」

は使用されておらず、同様の特徴は見られなかった。なお、以下では本調査で得られ た使用例を示すが、学習者が作成した文では誤りも含めそのまま提示している。

(1)××市というと製紙の町というイメージがあるらしく、あまり自然がないと思われが ちですが、…。(NS)

(2)ぶつかりつつある問題を少しずつクリアしていけば、留学生活は面白くて、自分の夢 に近づく道の一つだと思われます。(CN)

(6)

(3)日本の教育に関して、現在日本が抱えている教育の問題点は数多くあると思われる。

(NS)

(4)「勉強って楽しい、こんなに勉強して良いんだ」と思えるようになりました。(NS)

(5)いつか、私にとっての「ストレス」が未来の私にとって人生の「スパイス」・良い刺激だっ たと思えたら最高だ。(NS)

(6)引退後からセンター試験までの 8 ヶ月、自分でも本当に頑張ったと思えます。(NS)

(7)今にして思えば、せっかく時間があったのだから…。(NS)

(8)今思えば笑い話ですが、当時の私は本気で思っていました。(NS)

(9)今にして思えば、熱中はしなかったものの、自分の好きなスポーツを楽しんでいた時 期だと思います。(NS)

(10) 人々は大人になってから思えばそのころが懐かしいとよく言うけど…。(KR)

 また、日本語母語話者よりも日本語学習者のほうが使用率が高かった「思っている・

思っていた」(NS= 9.6%,

CN

= 16.8%,

KR

= 10.6%)と「思って・思い」(NS= 2.8%,

CN

= 6.7%,

KR

= 3.9%)の使用例を確認したところ、次のような相違点が見 られた。まず、日本語母語話者と比べて、使用率が 5%以上も高く、中国人日本語学習 者に特徴的であった「思っている・思っていた」の使用例では、日本語母語話者は(11)

や(12)のようにある一定の期間の思考を表すものと(13)や(14)のように強調表現、

もしくは客観的表現のためのものをほぼ半数ずつバランスよく使用していた。それに 対して、日本語学習者の使用例では(15)や(16)のようにある一定期間の思考を表 すものも見られたが、中国人日本語学習者では 20 例中 3 例、韓国人日本語学習者では 11 例中 2 例の使用であり、使用例の半数以上が(17)や(18)のように強調表現、も しくは客観的表現のためのものであった。また、それらの使用例の中には、「思う」を 用いた方が自然な印象を与える表現も多く見られた。

(11) 500 円あれば、一生遊んで暮らせると思っていた時もありました。(NS)

(12) それぞれが県外の大学へ通うことになり、だんだん合わなくなるのではないかと思っ

ていたからです。(NS)

(13) 本当に、中学・高校、そして今も勿論そうですが、母には苦労をかけたと思っています。

(NS)

(14) そして、もし私の様に悩んでいる人がいたら、作品をすすめて、前に進むヒントにし

てくれたら嬉しいと思っています。(NS)

(15) その時先生がいやだなと思っていたけれども、やはりいい先生だとは知っている。(CN)

(16) 10 代の私思い出せると、常に肯定的な性格で何でもできると思ってた明るい子だった。

(KR)

(7)

(17) そのため、私たちは生活の便利さは得ることができたが、かわりに心の余裕を失って しまったのだと思っている。(KR)

(18) 学校でカウンセラーを設置することが必要だと思っている。(CN)

 このような日本語学習者の強調表現、もしくは客観的表現のための「思っている」

の多用に関しては、桑山(2007)がその不自然な過剰使用を指摘している。桑山によ れば、日本語学習者は「以前から今に至るまでの気持ちを表現するために」、また、「客 観的で婉曲的な表現であると理解している」ため「自分の意見を和らげる効果を期待 して」、「思っている」を過剰使用している。そのため、「思う」を用いるべきところで も「思っている」を使用してしまい、不自然な日本語になると述べている。本調査でも、

日本語学習者は日本語母語話者と比較して、強調表現、もしくは客観的表現のための

「思っている」の使用が非常に多く、日本語学習者の使用実態における特徴的な点であ ると考えられる。しかし、客観的表現を表すためには、日本語学習者では使用率の低かっ た「思われる・思われます」を使用し、「思っている」の過剰使用を避けることを日本 語学習者には指導する必要があると思われる。

 さらに、本調査では、(19)や(20)のように他者の思考を表すために用いられた使 用例が日本語学習者には確認されたが、この使用法は日本語母語話者には 1 例も見ら れないものであった。特に、中国人日本語学習者にはこの用法での使用例が 20 例中 6 例あり、「思っている」の形での使用法の 30%を占めており、日本語母語話者との使 用法の違いが顕著であったが、日本語母語話者は他者の思考を表すために「思ってい る」を使用することは非常に少ないということを指導する必要もあると思われる。また、

「思っている・思っていた」と同様に、日本語母語話者よりも日本語学習者の使用率の 方が高かった「思って・思い」の使用例は、中国人日本語学習者の(21)と(22)の ように「〜てしまう」の文型で用いられた 2 例以外は、(23)や(24)のように文中で の使用であった。

(19) 子供の将来のためだと思っている心使いだと思うが、…。 (CN)

(20) そして、金が一番だと思っている人たちの考えを直したいです。(KR)

(21) 得点はすべてっと教師も学生もそう思ってしまった。(CN)

(22) その感動した後にはほかに何かほかの道はないかなとつい思ってしまった。(CN)

(23) それを確認して私も自分のために何かしないといけないなと思い、好きなこと、将来

やりたいことを考えた。(CN)

(24) 自然に「休まなければならない。」と思って、週末には平日にできなかったことをする

のだ。(KR)

(8)

4.2 「思う」の直前に用いられている前接語 4.2.1 分析方法

 次に、「思う」の直前に用いられている前接語の使用状況を調査した。調査時には、「私 の腹痛がストレスからきているとは思えません。」(NS)の「は」のように、対比・強 調を表わす助詞や、「ストレスはある意味でプラスイメージを持っていると私は思う。」

(CN)の「私は」のように、使用箇所を移動しても意味が変わらないようなものは、

その直前に用いられている語である「と」を「思う」の直前に用いられている前接語 としてカウントした。

4.2.2 分析と結果

 分析の結果、日本語母語話者(NS= 83.6%)も日本語学習者(CN= 93.3%,

KR

= 90.4%)も大部分が「思う」の前接語として引用を表す「と」を用い、「と思う」の形で 使用していることが確認できた。しかし、日本語母語話者と日本語学習者の使用率には 10%前後の差異があり、「思う」の活用形と同様に、「思う」の直前に用いられる前接語 においても、日本語学習者のバリエーションの少なさが確認された。特に、「に」の使 用率に関しては、日本語母語話者(NS=7.9%)と日本語学習者(CN=0.8%,

KR

=1.0%)

に 5%以上の違いが確認され、日本語学習者への指導が必要な点であると考えられる。

【表 3】「思う」の直前に用いられた前接語の使用数と使用率

その他  

(が・の等)

NS 使用数 148 14 15

使用率 83.6% 7.9% 8.5%

NNS

CN 使用数 111 1 7

使用率 93.3% 0.8% 5.9%

KR 使用数 94 1 9

使用率 90.4% 1.0% 8.7%

 実際の使用例を確認すると、日本語母語話者の使用例には(25)や(26)のように「ナ 形容詞/名詞+に思う」の形での使用が 4 例と、(27)や(28)のように「普通形+よ うに思う」の形での使用例が 10 例の2種類の用法が確認できたが、日本語学習者の使 用例は(29)と(30)の 2 例であり、固定化された表現の使用法のみであった。この 結果から、日本語学習者には「に思う」の形での日本語母語話者の実際の使用例を提 示し、使用法を指導する必要があると考えられる。特に、「普通形+ように思う」での 使用については、「普通形+ようだと思う」での使用例を確認したところ、日本語母語 話者にも日本語学習者にも 1 例も確認できなかったことからも、「ようだ」とともに「思 う」が用いられる場合には「ように思う」の形で使用されることが多いという点も指 導が必要な項目であると考えられる。

(9)

(25) 何で好きでもない運動を 3 年間続けることができたのか不思議に思う。(NS)

(26) なぜこんなに金額が変わるのか疑問に思ったことはないだろうか。(NS)

(27) 日々生活をする中でこういったことについて考える時間が増えたように思う。(NS)

(28) この時の頑張り、努力がある意味現在の自信につながっているように思います。(NS)

(29) 自分がお金を稼ぐ感じがなくて、単なる時間を潰しという風に思った。(CN)

(30) 私はそのように思っている。(KR)

 また、「その他」の使用例を確認すると、日本語母語話者の使用例では、日本語学習 者の使用例では 1 例も見られなかった(31)や(32)のような「今思うと」や「今に して思えば」などの定型表現での使用が半数近い 6 例確認された。このことから「思う」

の活用形の調査でも確認できたように、日本語学習者の使用率が低かった条件形であ る「思えば」を日本語母語話者が「今」とセットで用いていたことも含め、「今」と「思 う」をセットで用いる慣用表現の指導が必要であると思われる。さらに、「自分の思っ た通りに」のように「が」を「の」に置き換えた表現も日本語母語話者にのみ確認さ れた使用法であった。それに対して、韓国人日本語学習者の使用例には日本語母語話 者および中国人日本語学習者の使用例では見られなかった(33)のように「を」を用 いた表現が 3 例確認できた。また、中国人日本語学習者の使用例では、(34)のように

「イ形容詞−く+思う」の形での使用が確認できたが、これは日本語母語話者にも韓国 人日本語学習者にも見られなかった使用法であった。

(31) 今思うと、この頃の目立ちたがり屋な性格のおかげで得られた経験が子どもを指導し、

学校を動かす教職を目指すきっかけになったのかもしれません。(NS)

(32) 今にして思えば、熱中はしなかったものの、自分の好きなスポーツを楽しんでいた時

期だと思います。(NS)

(33) いつもこの言葉を思いながら生活しようとしているが、…。(KR)

(34) 今まで必死に頑張ったことがあると聞かれた時にすごく恥ずかしく思った。(CN)

4.3 「思う」の用法

4.3.1 「思う」の先行表現との組み合せによる用法分類

 「思う」の用法分類の先行研究としては、まず、中尾・柴田・中谷・平林(2007)は 日本人学生によって作文中で使用されている「思う」がどのような位相で書かれたも のかを調査するために、「思う」を複数の国語辞書で共通して用いられている見出し語 カテゴリーから、「客観的視点」「意見・考え」「感情」「回想」「推量」「決意」「同調」

の7つに分類している。また、森山(1992)は、文末思考動詞の意味と機能を明らか にすることを目的に、「と思う」の用法を「不確実表示用法」と「主観明示用法」に分 類している。森山によれば、「不確実表示用法」は不確実であることを表示するもので

(10)

あり、「と思う」の内部は、客観的事実として扱える内容の文であるとされている。そ れに対して、「主観明示用法」は個人的な意見を個人的なものとして明示するものであ り、主張を和らげる機能を有しているものとされている。さらに、林(2007)は、こ の森山が行った「不確実表示用法」と「主観明示用法」の分類を踏まえ、「と思う」の 有無によって命題内容としての実質的な意味が変化するかどうかという基準によって、

まず、「と思う」を「不確実認識表示用法」と「主観的認識表示用法」の 2 種類に分類し、

その後、「不確実認識表示用法」には「不確実認識(推量)」「不確実認識(回想)」「不 確実認識(断定回避)」の 3 つを、「主観的認識表示用法」には「主観的認識(意見評価)」「主 観的認識(蓋然性判断)」「主観的認識(条件的判断)」の 3 つをそれぞれの用法の下位 分類として設定している。また、「不確実認識表示用法」と「主観的認識表示用法」に 加えて、定型表現としての形式が用いられている「希望決意表示用法」と「遂行報告 用法」の 2 つの用法を設定し、さらに、コミュニケーションを行う際に用いられる用 法としての「相手伺い用法」と合わせ、合計 5 つの「と思う」の用法を提示している。

また、高橋(2009)は、引用節を伴う「思う」の意味として、「(外部からの刺激により)

主体内部に生じた感情・感覚」を表す場合と「主体内部に存在する判断内容」として「主 体の意志的な思考活動によって導かれた内容」を表す場合に分類している。そして、「(外 部からの刺激により)主体内部に生じた感情・感覚」を表す場合には類義語である「考 える」に置き換えることはできず、「主体内部に存在する判断内容」を表す場合には「考 える」への自然な置換えが可能であると述べている。

 本調査では、これらの分類法を踏まえ、

ICLEAJ

コーパスが作文コーパスであることを 考慮した上で、「思う」を「回想」「断定回避」「推量」「意見・考え」「感情」「意志」の 6 つの用法に分類した。このうち、「回想」「断定回避」「推量」の 3 つは、森山の分類では「不 確実表示用法」に含まれ、「と思う」の内部は潜在的には誰でも確認ができる「客観的情報」

を表すものとし、林の分類における「不確実認識(回想)」を「回想」に、「不確実認識(断 定回避)」を「断定回避」に、「不確実認識(推量)」を「推量」にあてた。そのため、分類 基準は林に合わせ、「回想」には、話し手が「過去の出来事や、自身の体験などについて回 想する場合」に用いた「思う」を、「断定回避」には話し手が「自身の事柄や、心理状態に ついて」述べているにもかかわらず、「発話に婉曲的なニュアンスを持たせる」ために用い た省略可能な「思う」を、「推量」には、「不確かな認識・判断を伝達する」ために用いた

「だろう」に置換え可能な「思う」を分類した。また、森山の分類では、個人的意見にあた る「主観的情報」を表す「意見・考え」と「感情」の分類には、高橋の分類基準を用い、「主 体の意志的な思考活動によって導かれた内容」を表し、「考える」に置き換え可能な場合は「意 見・考え」に、「(外部からの刺激により)主体内部に生じた感情・感覚」を表し、「考える」

への置き換えが不可能な場合は「感情」に分類した。さらに、「意志」には、中谷の「決意」

及び林の「希望決意表示用法」にあたる書き手の個人的意見である意志や決意を表すため に用いられた「思う」を分類した。以上 6 つの分類例に該当する使用例を以下に挙げる。

(11)

【客観的情報】

「回想」(過去の出来事や自身の体験など)

(35) 休日も、昼近くまで寝る日もあれば、友人とボーリングやカラオケに行く日もあり、

自分の好きなように時間を使っていたと思います。(NS)

(36) その頃、私は家族とけんかをすることが多かった。それでたぶんもっと友達に頼った

と思う。(KR)

「断定回避」(自身の事柄や心理状態など・省略可能)

(37) 私自身、一人前に自立したと胸を張って言えるか自信はないが、日々生活をする中で

こういったことについて考える時間が増えたように思う。(NS)

「推量」(不確かな認識や判断など・「だろう」に置換え可能)

(38) ところで、お金という概念自体存在していない時代、人々はどのように過ごしてきた

のだろう。おそらく物々交換だと思う。(NS)

(39) これが私がストレスを解消する方法です。ほかにもいろいろな方法があると思う。(KR)

【主観的情報】

「意見・考え」(意志的な思考活動によって導かれた内容・「考える」と置換え可能)

(40) ストレスと上手く付き合うことは、人間の往年の課題であり、ストレスを感じるから

こそ成長や今までの人間の進歩があると思います。(NS)

(41) 幼稚園から大学まで、ボランティアの教育に力を入れないといけないと思う。(CN)

(42) 教育というのは一日で改善することはできないが、努力しないと問題はさらに深刻に

なると思います。(KR)

「感情」(外部からの刺激により生じた感情や感覚・「考える」と置換え不可能)

(43) ピッチャーが投げたボールは内角にきて、バットの芯に当たらずフライが上がり、ア

ウトになると思った。(NS)

(44)「…お金貸してくれますか、実は、お金が落としてしまって、帰るお金がないです。」

街上で声をかけられたことがあった。返す方法もないのに、なんでお金貸してと言え ると思った。(CN)

(45) 最近、ネットニュースで、四五十代の男の人は趣味を教える塾に登録していると言う

記者を読んだことがある。つまらないと思ったが、…。(KR)

「意志」(意志や決意)

(46)「ストレス」という言葉で助けられるのなら、「ストレス」という言葉に存分に甘えよ うと思う。(NS)

(47) それから、中国の教育問題について私がいくつの意見を述べたいと思う。(CN)

(48) ここで、私は自分のストレス解消法について幾つかを紹介したいと思います。(KR)

(12)

4.3.2 分析と結果

 以上の分類方法を用いて

ICLEAJ

作文コーパスで使用された「思う」の用法を調査 した結果、【表 4】のような結果となった。日本語母語話者も日本語学習者も「意見・

考え」での用法使用が最も多かったが、その使用率には、日本語母語話者と日本語学 習者の間に 15%以上の違いが確認され、「思う」の用法の調査でも、日本語学習者が 使用するバリエーションの少なさが確認された。特に、日本語学習者は「意見・考え」

に「感情」と「意志」を加えた個人的情報を伝える用法での使用率が 100%に近く、「思 う」の用法について主観的情報のみを表すものであると認識している可能性が考えら れるが、「思う」は過去の出来事や自身の心理状況などの客観的情報を伝える場合にも 使用することができるという点を指導する必要があると思われる。ただし、用法を分 類する際にも参考にした林(2007)の研究結果として提示されている中国人母語話者 の「と思う」の習得順序【図 1】と比較すると、習得が難しいとされる「断定回避」や

「回想」の使用例が非常に少なかった理由は、学習者の日本語レベルによるものである とも考えられ、さらなる調査が必要だと思われる。また、中国人日本語学習者では「意 志」(CN= 2.5%)での使用率が、韓国人日本語学習者では「感情」(CN= 5.8%)で の使用率が日本語母語話者(NS= 11.9%,14.1%)と比較して、非常に低く、それぞ れの日本語学習者の特徴であると考えられる。

【図 1】林(2007)が提示する「と思う」の用法の習得順序

【表 4】「思う」の用法の使用数と使用率

回想 断定回避 推量 意見・考え 感情 意志

客観的情報 個人的情報

NS 使用数 14 10 1 106 25 21

使用率 7.9% 5.6% 0.6% 59.9% 14.1% 11.9%

NNS

CN 使用数 1 0 0 92 23 3

使用率 0.8% 0.0% 0.0% 77.3% 19.3% 2.5%

KR 使用数 4 2 0 82 6 10

使用率 3.8% 1.9% 0.0% 78.8% 5.8% 9.6%

(13)

 実際の使用例を確認してみると、日本語母語話者は「断定回避」では(49)のように、

4 例で「のだと思う」の形を用いていた。また、「回想」では(50)のように、3 例で「よ うに思う」の形で用いていた。そして、「意志」の用法での使用例では、日本語母語話 者には(51)のように「〜ていきたいと思う」の形での使用例が 4 例見られたが、「た いと思う」の前に「〜ていく」を接続したこの形での使用例は日本語学習者には見ら れなかった。日本語学習者には、これらの日本語母語話者の使用例で高い割合で確認 された形での使用法を実際の使用例を提示しながら指導していくことが必要であろう。

(49)「断定回避」;しかし、大学へ行って教師を目指したいという気持ちが心から消えるこ とはなかったので、頑張れたんだと思います。

(50)「回想」;全体をまとめると、自分の好きなように過ごした時間が多かったように思い ます。

(51)「意志」;これから、なぜ私がその先生を尊敬するようになったかを述べていきたいと 思う。

4.4 「と思う」による引用部分の文末表現 4.4.1 分析方法

 最後に、先行研究でもしばしば取り上げられ、本調査でも日本語母語話者および日 本語学習者の双方において、「思う」の使用状況の中での使用率が最も高かった引用を 表す表現である「と思う」を取り上げ、「と思う」によって引用された文の文末表現に ついての分析を行った。文末表現は「平叙文」「疑問文」「モダリティ文」の 3 つに分 類し、調査の際には、「寒いなのに、冷たいお弁当をたべ、一生懸命商品を売る姿は、

あまりにもかわいそうと思う」(CN)のように接続の形が間違っていても(誤;かわ いそうと思う⇒正;かわいそうだと思う)、正しい形が予測可能な文に関しては、使用 例の一つとしてカウントした。また、「私は見えない物を余り信用できないので、目に 見えないお金の取引に対してとても不安があるのだなと思う」(NS)で用いられてい る「な」のように全ての文末に使用可能な伝達態度のモダリティに関してはカウント せず、その直前に現れたモダリティをカウントした。

4.4.2 分析と結果

 その結果、【表 5】のように日本語母語話者は「平叙文」の使用が 57.4%、「疑問文」

の使用が 0.7%、「モダリティ文」の使用が 41.9%であり、「平叙文」と「モダリティ 文」をバランスよく使用していることがわかった。それに対して、日本語学習者は

「平叙文」での使用が 70%以上(CN= 77.9%,KR= 70.2%)あり、「と思う」を 用いた引用部分の文末の割合が非常に高く、伊集院・高橋(2004)でも指摘されて いるように、日本語学習者にとって包括形式で使用することが難しいことが確認さ

(14)

れた。「平叙文」との使用においても、基本形での使用が多く、日本語母語話者には 8.1%見られたテンスを用いた使用例はほとんど見られなかった(CN= 1.8%,KR

= 1.1%)。ただし、中国人日本語学習者には、日本語母語話者(4.4%)及び韓国人 日本語学習者(5.3%)と比較し、否定形との使用率が高く(11.5%)、特徴的であっ たが、日本語母語話者では使用率が低いことを伝え、過剰使用の注意を行うことが 必要であろうと思われた。

 また、「モダリティ文」の使用状況を確認すると、全体的な使用率には違いが見られ るが、日本語母語話者と韓国人日本語学習者では、(52)や(53)のような「たい」(NS

= 11.0%,KR= 7.4%)、(54)や(55)のような「のだ」(NS= 8.1%,4.3%)、(56)

や(57)のような「のではないか」(NS= 10.3%,KR= 5.3%)の使用率が他の形に 比べて高くなっているという点で類似点が見られた。それに対して、中国人日本語学 習者は、それらの使用率は非常に低く(「たい」= 1.8%,「のだ」= 0.0%,「のではな いか」= 1.8%)、その反面、(58)のような「べきだ」(5.3%)や(59)のような「な けらばならない」(3.5%)の使用率が他の形と比べて高くなっており、日本語母語話者 との使用状況の違いが顕著であった。

(52) 当時、国立の大学になんとしても合格したいと思ったので、…。(NS)

(53) 物質的な自立も重要でありますが、内面も自立も重要だと思いそこに優先順位をおき

たいとおもいます。(KR)

(54) 進路を急いで決めることはないのだと思い、気持ちが楽になりました。(NS)

(55) もともとはたぶん、学生にいろんな活動をしてほしかったのだと思いますが、…。(KR)

(56) それぞれが県外の大学へ通うことになり、だんだん合わなくなるのではないかと思っ

ていたからです。(NS)

(57) …充分に考えたうえで使うともっといい世界になるのではないかと思います。(KR)

【表 5】「と思う」を用いた引用文の文末表現の使用数と使用率

平叙文

疑問文

モダリティ文 現在形 過去形 否定形 テンス てくれ

たい ほしい(よ)うなけれ

ばならない だろう べきだかもし

れな からだ のだ のではないかみたい わけで

はないほうが いい はずだ

NS

使用数 53 8 6 11 1 1 15 3 6 1 1 2 1 2 11 14 0 0 0 0

使用率 39.0% 5.9% 4.4% 8.1% 0.7% 0.7% 11.0% 2.2% 4.4% 0.7% 0.7% 1.5% 0.7% 1.5% 8.1% 10.3% 0.0% 0.0% 0.0% 0.0%

使用数 78 1 57

使用率 57.4% 0.7% 41.9%

(CN)NNS

使用数 70 3 13 2 2 0 2 2 3 4 0 6 1 0 0 2 1 1 1 0

使用率 61.9% 2.7% 11.5% 1.8% 1.8% 0.0% 1.8% 1.8% 2.7% 3.5% 0.0% 5.3% 0.9% 0.0% 0.0% 1.8% 0.9% 0.9% 0.9% 0.0%

使用数 88 2 23

使用率 77.9% 1.8% 20.4%

(KR)NNS

使用数 55 5 5 1 3 0 7 0 3 2 0 0 1 1 4 5 0 0 1 1

使用率 58.5% 5.3% 5.3% 1.1% 3.2% 0.0% 7.4% 0.0% 3.2% 2.1% 0.0% 0.0% 1.1% 1.1% 4.3% 5.3% 0.0% 0.0% 1.1% 1.1%

使用数 66 3 25

使用率 70.2% 3.2% 26.6%

(15)

(58) …ストレスが溜っていたら、解消すべきだと思います。(CN)

(59) 勝手にゴミを捨てる人に高い罰金をしなければならないと思う。(CN)

 これらの結果から、「と思う」を用いる場合、引用部分の文末は基本形だけでなく、(60)

のような過去形や(61)のようにテンスを用いた形も使用されることを日本語学習者 には指導し、日本語母語話者の使用に多く見られた表現である(52)や(53)のよう な「〜たいと思う」や(54)や(55)のような「〜のだと思う」、(56)や(57)のよ うな「〜のではないかと思う」などの形式を実際の使用例とともに提示していくこと が必要であると考えられる。ただし、本調査では「と思う」とともに用いられた使用 例だけを対象としているため、「モダリティ文」に関しては、「と思う」と使用された 包括形式だけではなく、他の包括形式や裸の形式で使用されているものなどとも比較 し、どのような場合にどのような形で用いられているのかについて、より詳細な調査 が必要であると思われる。

(60) 本当に、中学・高校、そして今も勿論そうですが、母には苦労をかけたと思っています。

(NS)

(61) 映画鑑賞をすることで、勇気を出して前へ踏み出すことが出来て、そこから新しい考

えや行動につながっていくと思うので、…。(NS)

5 まとめと今後の課題

 本調査では、ICLEAJ作文コーパスβ版を用いて、日本語母語話者と中国人日本語 学習者及び韓国人日本語学習者の「思う」の使用状況を、使用されている「思う」の 活用形、「思う」の直前で用いられている前接語、「思う」の用法、そして「と思う」

によって引用されている文の文末表現の4つの点から調べたが、どの場合でも、日本 語母語話者と日本語学習者の使用状況には違いが見られ、日本語母語話者と比較して 日本語学習者が使用する「思う」のバリエーションが少ないことが確認された。これ らの結果から、日本語学習者が用いる「思う」は、その使用方法が固定化されている ことが考えられる。そのため、日本語学習者に作文などの文章作成についての指導を 行う際には、日本語母語話者が頻繁に使用している表現を実際の使用例とともに提示 し、それらの表現の使用を促す必要があると思われる。

 また、日本語学習者の使用状況では、強調表現、もしくは客観的な表現のために使 用されたと考えられる「思っている」の活用形での使用率が高く、過剰使用が特徴的 であったことから、日本語学習者には書き手の意見陳述の強さを和らげる表現に関し ての指導が求められていると考えられる。そのためには、日本語学習者には使用が少 なかった「思われる」や「思える」の活用形や、「〜ように思う」、「〜ていきたいと 思う」、「〜のだと思う」、「〜のではないかと思う」などのような表現を用いるべきで

(16)

あることを指導する必要があり、日本語母語話者が実際に多く用いているこれらの書 き手の意見陳述の強さを和らげる表現を実際に日本語学習者に提示し、使用を促すこ とが今後重要になるであろう。また、第三者の気持ちを表す表現として「ている形」

を用いるという用法や否定形とともに「と思う」を用いる用法のように、日本語母語 話者にはあまり見られなかった使用法に関しても、過剰使用を避け、他の表現を用い るべきであることを指導する必要もあると思われる。

 ただし、本調査で用いたコーパスは規模が小さく、今後、さらなる調査が必要であり、

また、日本語母語話者の使用法に関しても、より詳しい分析を実施することが、今後 の指導を行う上で必須であると思われる。

参考文献

伊集院郁子・高橋圭子(2004)「文末のモダリティに見られる Writer/Reader visibility ― 中国人学習者と日本語母語話者の意見文の比較―」『日本語教育』123,日本語教育学会,

pp.86-95.

伊集院郁子・高橋圭子(2010)「日本語の意見文に用いられる文末のモダリティ ―日本・中 国・韓国語母語話者の比較―」『東京外国語大学留学生日本語教育センター論集』36,東 京外国語大学,pp.13-27.

桑山京子(2007)「思考動詞『思う』の文末表現について」『國文學論叢』52,龍谷大学,

127-140.

高橋圭介(2009)「『思う』の多義構造再考―文法化の進んだ『と思う』の位置付けをめぐっ て―」『福島工業高等専門学校研究紀要』第 50 号,福島工業高等専門学校,pp.167-174.

中尾桂子・柴田実・中谷由郁・平林一利(2012)「『文章表現』指導内容再考のための一考 察―学生の語彙量 記述上の形式的規則に見られる問題点の観察をもとに―」『大妻女子 大学紀要―文系―』44,大妻女子大学,pp.1-17.

森山卓郎(1992)「文末思考動詞『思う』をめぐって―文の意味としての主観性・客観性―」

『日本語学』11 巻 9 号,明治書院,pp.105-116.

横溝紳一郎(1997)「文末思考動詞『思う/思っている』の違いをめぐって」『名古屋学院 大学日本語学・日本語教育論集』第 4 号,名古屋学院大学留学生別科「論集」編集委員会,

pp.131-146.

李晨(2007)「中国語母語話者の日本語作文におけるモダリティ表現について」『語学教育 研究論叢』24,大東文化大学語学教育研究所,pp.239-249.

林 佩怡(2007)「中国語母語話者による『ト思う』の習得研究」『東北大学高等教育開発 推進センター紀要』2,東北大学高等教育開発推進センター,pp.97-111.

調査資料

ICLEAJコーパス http://icleaj.info/

(17)

参照

関連したドキュメント

会話を行い、 レベルを判定する。 KY コ一 パスはそれを 文字データとしてテキ スト化したものであ る。

 本研究では.パラフレーズを言語運用の積極的な方略として捉え,その教育学習方法を

1 2

形とする)と「 (食べ)ないです/(食べ)なかったです」 (以下、

""""

日本人母語話者の韓国語翻訳に現れる誤用傾向 JgJ 「喜q-」 (置く)などの動詞を組み合わせた合成語, 「tl且q」 (出てくる)

要 旨 :聞 き手 によって使用 されるあいづ ちは,コ ミュニ ケー ションを円滑 にす る働 きを担 っている が,非 母語話者

Campbell (  1990