九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
Contamination of Irrigation Water, Soil, and Vegetables by Heavy Metals in a Multi-industry District of Bangladesh
ミンハズ, アーメド
https://doi.org/10.15017/2534511
出版情報:九州大学, 2019, 博士(理学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
(様式6-2)
氏 名 Minhaz Ahmed
論 文 名
Contamination of Irrigation Water, Soil, and Vegetables by Heavy Metals in a Multi-industry District of Bangladesh
(バングラデシュの多産業地域における灌漑水、土壌および野菜の 重金属汚染)
論文調査委員 主 査 九州大学 准教授 松元 賢 副 査 九州大学 教授 小山内 康人 副 査 九州大学 教授 桑原 義博 副 査 九州大学 准教授 宮島 郁夫 副 査 九州大学 元教授 黒澤 靖
論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨
本論文は、近年工業化が急速に進みつつあるバングラデシュにおいて、首都ダッカ近郊の多産業 地域内の農地の灌漑水、土壌、および野菜類に含まれる重金属類に着目し、季節(雨季・乾季)の 違いによって引き起こされる重金属汚染の特性を地域間や汚染源で比較・検討し、バングラデシュ における多産業地域で栽培された農作物摂取の危険性について学術的に証明したものである。以下、
論文の概要を示した後、論文審査の結果をまとめる。
第1章では、当該分野における先行研究を調査し、バングラデシュを含むいくつかの国における 灌漑水、土壌、および作物の重金属汚染の状況を紹介するとともに、本研究の目的を示した。
第2章では、本研究における対象地と方法を示した。研究対象地は、バングラデシュの首都ダッ カ近くにある多産業地域である。ここでは、繊維、染料、陶磁器、バッテリー、および農薬等の工 場が林立するが、この一帯を特徴づける3つの地域を対象にした。調査は、2015年の雨季と、2017 年の乾季に実施した。灌漑水、土壌、および野菜のサンプリングは、1 地域当たり 12 地点、合計 36地点について行い、それらの重金属濃度を実験室で分析した。分析対象とした重金属は、毒性の 強いカドミウム、ヒ素、鉛、亜鉛、銅、クロムの6種類で、試験に供試した野菜は、根菜類、葉菜 類、および果菜類に属する主要な13種とした。
第3章では、灌漑水、土壌、および野菜の重金属濃度について、国際的な許容基準(以下基準と いう)から見たレベル、雨季と乾季の違い、および地域差を軸として考察した。また、検出された 重金属の供給源を推定した。灌漑水の重金属濃度は、カドミウム(雨季のみ)と鉛を除いて、灌漑 用途の基準を超過していた。土壌の重金属濃度は、農地土壌の基準をほぼ満たし、濃度が基準を超 過したのは、ヒ素のみであった。野菜の重金属濃度については、カドミウム(雨季のみ)と銅を除 いて、濃度は食用の基準を超過していた。ここでは、鉛、クロム、およびヒ素濃度について、それ ぞれ基準の27倍、23倍、および14倍という高い値が地域により認められた。
また、灌漑水の重金属濃度は、雨季の方が乾季より有意に低い値で、これには雨季の降雨で灌漑 水が希釈されたことによる影響が考えられた。土壌および野菜の重金属濃度も雨季では乾季より低 く、これには、灌漑水で重金属濃度が雨季で低かったことが影響したと考えられた。調査した3地
域間では、灌漑水の各重金属濃度に違いが認められた。重金属濃度は地域内の各種工場の工場排水 の特徴を反映した値を示した。従って、灌漑水中に含まれる重金属は、工場排水由来であると推定 された。なお、土壌および野菜の重金属濃度については、雨季・乾季ともに地域差が認められず、
これには、重金属が灌漑水から土壌に吸着され、また灌漑水から野菜に吸収される際の科学的性質 が影響したと考えられた。
第4章では、重金属濃度に関して灌漑水および土壌が、野菜に及ぼす影響を統計学的手法により 解析した。灌漑水、土壌、および野菜の各重金属濃度について、雨季・乾季別にクラスター分析を 行った。この分析のデンドログラムより、野菜の重金属濃度は、雨季では灌漑水の、また乾季では 土壌の各重金属濃度の影響を受けたものであると判断された。野菜は、雨季には豊富に存在する灌 漑水から、乾季には灌漑水が少ないため土壌から、それぞれ水分を吸収して重金属を蓄積し、これ が各季の野菜の重金属濃度の上昇をもたらしたと考えられた。なお、乾季の野菜につき、各重金属 の生物濃縮係数(BCF、野菜と土壌の各重金属濃度の比)を求めたところ、BCF は 20%以上の高 い値であり、野菜は土壌から重金属をよく吸収する傾向を示した。このことが、乾季の重金属濃度 が土壌で基準を満たしたにも関わらず、野菜で基準を超過した理由であると判断された。なお、野 菜の重金属濃度は、その種類によって大きく異なっていた。根菜類では、葉菜類より濃度が高く、
果菜類では相対的に高い濃度は示されなかった。
第5章では、本論文の総合的考察を行った。バングラデシュにおいては、灌漑水の重金属濃度が、
全体的に基準を超過し、これらには地域差があり、その濃度は、各地域の工場排水の性質を反映し ていた。土壌の重金属濃度は、ほぼ基準を満たしたが、一方、野菜の重金属濃度は、基準を超える 場合が多かった。灌漑水の重金属濃度は、降雨による灌漑水の希釈で雨季の方が乾季より低かった。
この影響によって、土壌および野菜とも、重金属濃度は雨季の方が乾季よりも低かった。野菜の重 金属濃度は、雨季には灌漑水の、乾季には土壌の各重金属濃度の影響を受けていた。野菜は種類に よっては重金属濃度が異なり、根菜類は他の種類のものより濃度が高く、基準の 14-27 倍に達す る場合があった。以上の結果から、多産業地域で栽培される野菜類の摂取の危険性が学術的に証明 され、今後、野菜の栽培時期と重金属汚染の影響についてさらに研究を遂行する必要があると結論 づけた。
論文審査の結果、本研究で明らかとなった「多産業地域で生産された野菜の重金属汚染の実態解 明と摂取の危険性」の結論は審査委員全員の意見の一致するところであった。また、バングラデシ ュの多産業地域における灌漑水、土壌および野菜の重金属汚染の現状把握と実態解明に関する研究 は先行例がなく、その性質や程度に関する貴重な知見が得られた点は、本論文の高く評価できると ころである。よって論文調査委員会は、本論文を博士(理学)の学位に値すると判断した。