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反発度法と超音波法を用いた煉瓦組積体の強度推定に関する研究
西山 壮海 1.序 過去に起こった度々の地震によって,現在日本では 鉄筋などで補強していない煉瓦造建築が建てられるこ とは稀である.しかし,煉瓦が持つその特有の美しさ, 素材感は依然として評価されており,非構造材として 主に内外装に利用されている.また,海外では家を建 てる上で煉瓦が伝統的に,かつ日常的に欠かせないも のとして利用されている地域も少なくない.従って, 既存の煉瓦造建築の耐震安全性を評価するために,非 破壊試験による煉瓦壁体の強度推定法の開発は非常に 有意義な課題である.本研究の目的は非破壊試験によ り既存の無補強煉瓦造建築物の壁体の強度推定を行う 方法を提案することである.現在耐震診断の際に行わ れている破壊試験より簡易な方法で壁体の強度推定を 行うことができれば既存の無補強煉瓦造建築物の耐震 診断を行う上で大いに役に立つ. 本論文では,九州大学本部庁舎における反発度法と 超音波法を用いた非破壊実験と,同庁舎の壁体を模し て作製した供試体に関する反発度法と超音波法を用い た非破壊実験とを行い,その結果を用いた強度推定法 について検討した結果を述べる. 2.九州大学本部庁舎における耐震診断 本論文で非破壊実験を行った九州大学本部庁舎は福 岡市東区箱崎に位置し,1925(大正 14)年に建築され た地上 2 階建て,延床面積 2,881m2の煉瓦造建築物であ る.同庁舎の外観を写真 1 に,平面図を図 2 に示す. 同庁舎を構成する壁体は無筋煉瓦造で,壁厚は 1 階が 煉瓦の長手方向 2 枚分,2 階が 1.5 枚分である.各階の 床スラブは鉄筋コンクリート造で,小梁や壁頂部に臥 梁を有する.本研究室では本年度九州大学本部庁舎で 行われた耐震診断において耐力壁として構造計算に用 いられた壁体から採取された 2 体の組積体の強度を第 一庁舎,第三庁舎の壁体の強度の参考として強度推定 に 用 い た . 1) 採 取 さ れ た 組 積 体 は 寸 法 約 670mm×340mm×450mm の 10 段煉瓦組積体で,圧縮載 荷実験を行い圧縮強度を求めた.圧縮強度はそれぞれ 第一庁舎が 6.30N/mm2,第三庁舎が 9.10 N/mm2であっ た. 3.実験概要 3.1 測定項目と測定方法 反発度法を用いた測定において独立行政法人土木研 究所が作成した、「テストハンマーによる強度推定調査 の 6 つのポイント」2)を参考にし、 各耐力壁につき 3 箇所(9 点×3=27 点)計測を行い、平均値を測定箇所の 反発度とした.超音波法を用いた測定では独立行政法 人土木研究所が作成した、「超音波試験 土研法による 新設の構造体コンクリート強度測定要領(案)」3)を参 考にし、対面測定法で各耐力壁につき 9 点測定を行い、 平均値をその耐力壁の伝搬時間とした.九州大学本部 第一、第三庁舎それぞれ 3 つの外壁において測定を行 い強度を推定した. 3.2 測定対象概要 供 試 体 の 製 作 に 使 用 し た 煉 瓦 は , 寸 法 226mm×108mm×60mm の無孔の直方体で,圧縮強度 21.4N/mm2 で あ っ た . ま た , 目 地 材 は 圧 縮 強 度 34.3N/mm2,ヤング係数は 2.55×104 N/mm2であった. 本 実 験 に お い て 測 定 を 行 っ た 供 試 体 は 寸 法 1406mm×462mm×340mm の直方体で,せん断試験のた 写真 1 本部庁舎外観 写真 2 庁舎から採取した組積体64-2 めに 2 体,圧縮試験のために 1 体コアを採取しており 3 箇所の孔があり,圧縮強度 24.3N/mm2であった. 九州大学本部庁舎における非破壊実験では第一庁舎, 第三庁舎それぞれ 3 つの外壁において測定を行った. 第 一 庁 舎 で 測 定 し た 外 壁は 幅 1996mm , 2704mm , 3176mm,第三庁舎で測定した外壁は幅 998mm,1760mm, 1996mm である. 3.3 反発度法を用いた非破壊実験 供試体における反発度法を用いた非破壊実験は供試 体 4 体において各供試体 9 点計 36 点行った.9 点の平 均値の±20%を満たさない測定点については予備点に おいて測定を行い,再度平均値を出して平均値の±20% を満たすかを確認し,全測定点がその条件を満すとき の平均値をその供試体の反発度とした.4) 九州大学本部庁舎における非破壊実験は第一庁舎, 第三庁舎において各外壁 9 点測定を 3 箇所ずつ計 91 点 測定を行った.平均値は供試体で行った反発度法によ る非破壊実験と同様の方法で算出し,3 箇所の平均値を その外壁の反発度とした. 3.4 超音波法を用いた非破壊実験概要 供試体における超音波法を用いた非破壊実験は供試 体 4 体各 9 点ずつ測定を行った.9 点の平均値の±20% を満たさない測定点については予備点において測定を 行い,再度平均値を出して平均値の±20%を満たすかを 確認し,全測定点がその条件を満すときの平均値をそ の供試体の超音波伝搬時間とした. 九州大学本部庁舎における非破壊実験は第一庁舎, 第三庁舎において各外壁 9 点計 27 点測定を行った.平 均値は供試体で行った非破壊実験と同様の方法で算出 した. 4.実験結果および考察 4.1 供試体における反発度法を用いた非破壊実験 結果 供試体における反発度測定結果を図 11 に示す.コア 抜きによる孔の大きな影響は見られなかった. 1 点の み平均の±20%を超える値を計測したため,予備点で測 定後,±20%を満たす事を確認した. 図 3 第一庁舎外壁 1 測定点 290 1996 290 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 2 3 1 2 3 1 2 3 4 5 6 4 5 6 4 5 6 7 8 9 7 8 9 7 8 9 1 2 3 4 5 6 7 8 9 図 4 第一庁舎外壁 3 測定点 290 3176 290 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 2 3 1 2 3 1 2 3 4 5 6 4 5 6 4 5 6 7 8 9 7 8 9 7 8 9 図 5 第一庁舎外壁 2 測定点 2704 290 290 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 2 3 1 2 3 1 2 3 4 5 6 4 5 6 4 5 6 7 8 9 7 8 9 7 8 9 図 6 第一庁舎測定外壁位 置 図 7 第三庁舎測定外壁位 置 写真 3 供試体写真 図 1 供試体反発度法測定点 図 2 供試体超音波法測定点
64-3 4.2 供試体における超音波法による非破壊実験 供試体における超音波伝搬時間測定結果を図 12 に示 す.各供試体においてコア抜孔有・無それぞれの平均 値を算出し、すべての値が平均値の±20%を満たすこと を確認した.数点数値が平均値と離れた数値を測定し たが、測定点の表面のへこみが原因だと考えられる. 4.3 九州大学本部庁舎における反発度法を用いた非 破壊実験結果 九州大学本部庁舎における反発度法を用いた非破壊 実験結果を第一庁舎の結果を図 13 に、第三庁舎の結果 を図 14 に示す.各外壁において 1 外壁につきそれぞれ 3 箇所の反発度平均値を算出し、すべての値が平均値の ±20%を満たすことを確認した.反発度法による測定で はばらつきが小さく、安定した値を示した. 4.4 九州大学本部庁舎における超音波法を用いた非 破壊実験結果 九州大学本部庁舎における超音波法を用いた非破壊 実験結果を第一庁舎の結果を図 15 に、第三庁舎の結果 を図 16 に示す.各外壁においての平均値を算出し、す べての値が平均値の±20%を満たすことを確認した. 第一庁舎における測定値は、第三庁舎における測定値 と比較するとばらつきがあり、平均値も小さい値を示 した.反発度法の測定においては孔の影響は確認でき ず、表面の硬度のみに影響することがわかった. 4.5 強度推定法に関する考察 供試体のコア圧縮載荷実験の結果,圧縮強度は供試 体 1~4 それぞれ 20.9N/ mm2,供試体 2 は 23.7 N/ mm2, 供試体 3 は 25.2N/mm2,供試体 4 は 27.1 N/ mm2という 値を示した.供試体における反発度法,超音波法を用 いた非破壊実験結果と圧縮強度の関係を図 7,図 8 に示 す.4 つの供試体における実験結果,九州大学本部第一 庁舎,第三庁舎でそれぞれ 3 つ計 6 つの外壁の実験結 果から近似式を求め,相関係数を用いて相関関係を求 めた.その結果,反発度法を用いた実験結果における 相関係数は,供試体において 0.0619,九州大学本部庁 舎において 0.186 と低い値を示した.一方超音波法を用 いた実験結果における相関係数は,供試体において 0.941,九州大学本部庁舎において 0.826 と非常に高い 値を示した.また,供試体における実験結果と九州大 学本部庁舎における実験結果は,反発度法,超音波法 どちらの実験においても 2 つの近似直線は近い式を示 さなかった. これらの結果から煉瓦組積体の強度推定において, 反発度法による強度推定では反発度法が測定対象の表 図 15 第一庁舎超音波法実験結果 0.00 0.50 1.00 1.50 2.00 2.50 3.00 3.50 0 5 10 外壁1 外壁2 外壁3 測定点番号(1~9) 超音波伝搬速度 (k m /s ) 図 16 第三庁舎超音波法実験結果 結果 0.00 0.50 1.00 1.50 2.00 2.50 3.00 3.50 4.00 0 2 4 6 8 10 外壁1 外壁2 外壁3 測定点番号(1~9) 超音波伝搬速度 (k m /s ) 図 14 第三庁舎反発度法実験結果 0 10 20 30 40 50 60 70 80 0 10 20 30 外壁1 外壁2 外壁3 反発度 (R ) 測定点番号(1~27) 図 12 供試体超音波法実験結果 0.00 0.50 1.00 1.50 2.00 2.50 3.00 3.50 0 5 10 試験体1 供試体2 供試体3 供試体4 測定点番号(1~9) 超音波伝搬速度 (k m /s ) 0 10 20 30 40 50 60 70 80 0 10 20 30 外壁1 外壁2 外壁3 反発度 (R ) 測定点番号(1~27) 図 13 第一庁舎超音波法実験結果 図 11 供試体反発度法実験結果 0 10 20 30 40 50 60 0 5 10 供試体1 供試体2 供試体3 供試体4 測定点番号(1~9) 反発度 (R ) 図 9 第三庁舎外壁 2 測定点 290 1760 290 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 2 3 1 2 3 1 2 3 4 5 6 4 5 6 4 5 6 7 8 9 7 8 9 7 8 9 図 10 第三庁舎外壁 3 測定点 290 1996 290 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 2 3 1 2 3 1 2 3 4 5 6 4 5 6 4 5 6 7 8 9 7 8 9 7 8 9 図 8 第三庁舎外壁 1 測定点 1052 290 998 290 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 2 3 1 2 3 1 2 3 4 5 6 4 5 6 4 5 6 7 8 9 7 8 9 7 8 9
64-4 面の状態に大きく影響を受けるため,壁体全体の硬度 を測定結果から推定することが難しいことがわかった. 一方,超音波法を用いた非破壊実験は実験結果からも 煉瓦組積体の強度推定において有用な可能性があるこ とがわかった.これは,反発度法による強度推定と異 なり,組積された煉瓦と目地部のモルタル両材料を超 音波が伝搬することで壁体全体の伝搬性質が測定結果 に反映されるためであると考える. 超音波法を用いた強度推定において,供試体と九州 大学本部庁舎の測定結果から得られた近似直線が近い 式を示さなかったのは,供試体における測定では上下 面から圧縮のない状態で測定を行ったため,測定対象 の境界条件に差が生じたためであると推察する.した がって,その条件を改善し,サンプルを増やし安定し た結果を得ることが可能になれば,超音波法による煉 瓦造組積体の強度推定が出来る可能性があると考える. 次に本研究の目的である既存煉瓦造建築物壁体の強 度診断の簡易化について述べる.本研究における実験 結果から超音波法の強度推定への有用性に関して,現 在一般的に行われている耐震診断法に対して壁体の強 度診断のためのコアやプリズムなどのサンプルの採取 と同時に超音波法を用いた測定を行いサンプルから得 られる強度を確認できる方法を確立することで,採取 するサンプルの量を減らすことができ,既存の煉瓦造 組積体建築物の壁体を採取することで生じる採取後の 採取箇所の処理や建築物への影響,その建築の利用者 への影響を軽減でき,時間や費用を削減できる可能性 があると考える. 最後に超音波法を用いた測定における測定対象の表 面処理に関して述べる.本実験では,測定の精度向上 のために測定箇所,発振子・受振子にグリスを塗り密 着させて測定を行った.測定後には,既存の建築物に おいて測定を行う際に,壁面にグリスの後がどの程度 影響がでるかを考慮して処理を行った.測定後の処理 として表面を湿った布と乾いた布でふき取りを行った 後,超音波法による測定を行った箇所はアセトンを含 ませた布でふき取りを行った.処理後の表面の状態は, 今回の測定においては反発度法,超音波法どちらの測 定方法においても測定による影響は確認されなかった. 表面の処理に関しては壁体を構成する煉瓦の性質に大 きく影響するため,複数の種類の煉瓦で処理方法を比 較するなど今後も検討が必要である. 5.まとめ 反発度法および超音波法を用いた無補強煉瓦組積体 の非破壊試験による強度推定に関する検討から以下の 結論を得た. 1) 超音波法を用いた強度推定については,条件が近い 複数の測定対象について,超音波伝搬速度と圧縮強度 の間に高い相関関係が見られた.これより,各条件の 測定対象に対して少数の破壊試験を行えば,条件が近 い対象は非破壊試験で圧縮強度が推定できる可能性が 確認された. 2) 反発度法による強度推定については,条件が近い複 数の測定対象に関しても反発度と圧縮強度の間に相関 関係が見られなかった.反発度法は測定対象の表面の 状態に大きく影響を受けるためと考察される. 参考文献 1) 山口謙太郎,石原義高,村上公志,蜷川利彦:九州大学本部庁舎 を構成する無補強煉瓦組積体の力学特性 その 1 本部第一庁舎から 採取した煉瓦組積体の圧縮載荷実験 2) 「テストハンマーによる強度推定調査の 6 つの ポイント」独立行 政法人土木研究所 3) 「超音波試験 土研法による新設の構造体コンクリート強度測定要 領(案)独立行政法人土木研究所 4) JIS A 1155 コンクリートの圧縮強度 反発度法 図 17 圧縮強度‐反発度相関関係 y = -1.40x + 94.5 R² = 0.0619 y = 0.555x - 26.8 R² = 0.186 0 5 10 15 20 25 30 40 50 60 70 供試体 九州大学 本部庁舎 反発度(R) 圧縮強度 (N /㎟ ) y = 47.2x - 99.9 R² = 0.941 y = 3.42x - 1.76 R² = 0.826 0 5 10 15 20 25 30 2 2.5 3 3.5 供試体 九州大学 本部庁舎 圧縮強度 (N /㎟ ) 超音波伝搬速度(km/s) 図 18 圧縮強度-超音波伝搬速度相関関係