氏 名 しげおか とおる
重岡 徹
学 位 の 種 類
博士(医学)
報 告 番 号
甲第
1844号
学位授与の日付
令和
2年
9月
13日
学位授与の要件
学位規則第
4条第
1項該当(課程博士)
学 位 論 文 題 目
Activation of overexpressed GLP-1R attenuates prostate cancer growth by inhibiting cell cycle progression
(GLP-1 受容体の過剰発現は、細胞周期を阻害する事によって前 立腺癌の増殖を抑制する)
論 文 審 査 委 員 (主 査) 福岡大学 教授
川浪 大治
(副 査) 福岡大学 教授
白澤 専二
福岡大学 教授
羽賀 宣博
福岡大学 准教授
四元 房典
内 容 の 要 旨
【目的】
わが国の糖尿病患者死因第一位は癌である。前立腺癌は増加傾向にある癌の一つで、J- DOIT3 の試験期間中 3 番目に多い癌であった。また、糖尿病の既往がある前立腺癌患者の 予後は不良であることから、前立腺癌は糖尿病患者において重要な癌と言える。我々は、ヒ ト前立腺癌組織に GLP-1 受容体(GLP-1R)が発現している事を検証し、ヒト前立腺癌細胞 株において GLP-1R 作動薬 Exendin-4(Ex-4)が細胞増殖を抑制することを見出し報告した (Diabetes 2014, PLoS ONE 2015)。その後、大規模臨床試験において、GLP-1 受容体作動薬 リラグルチドが、前立腺癌罹患率を有意に低下することが報告され(NEJM 2016)、GLP-1R 作動薬の前立腺癌抑制作用が糖尿病患者でも証明された。そこで今回我々は、前立腺癌に おける GLP-1R 発現のさらなる検証が、癌抑制を目指した糖尿病治療ストラテジーの確立 と、新たな癌治療の発見に貢献し得ると考え本研究を行った。
【対象と方法】
①前立腺癌悪性度と GLP-1R 発現の関連を検討する為、前立腺癌患者の生検、前立腺摘出術
後の病理組織を Gleason score で 3 群(Gleason 6, Gleason 7, Gleason 8 以上)に分類
し、GLP-1R 発現を蛍光免疫染色で検証した。②既報において、前立腺癌細胞株によって
GLP-1R 発現レベルが異なり、GLP-1R 発現と Ex-4 の細胞増殖抑制作用は正相関にあった
(Diabetes 2014)。その際、GLP-1R 発現のない前立腺癌細胞株 ALVA-41 細胞は、Ex-4 投与
の細胞増殖抑制作用を認められなかった。そこで今回我々は、ALVA-41 細胞にレンチウイル
スを用いて GLP-1R を強制発現させ、細胞増殖能への影響を検討した。
【結果】
①前立腺癌生検、摘出術検体での GLP-1R 発現は、高分化低悪性度群(Gleason 6)では著明 に認められたが、低分化高悪性度群(Gleason 8 以上)では発現がごくわずかであり、GLP- 1R 発現と前立腺癌の病理学的悪性度は逆相関することを認めた。②レンチウイルスを用い た GLP-1R 発現 ALVA-41 細胞は、通常培養で empty ベクターを導入したコントロール ALVA- 41 細胞と比較し、成長曲線、BrdU アッセイにおいて細胞増殖能の低下が認められ、ウエス タンブロッティング法で細胞周期抑制因子 p27kip1 の上昇、フローサイトメトリーを用い た細胞周期の検討では G1 期の上昇、S 期の低下から G1 アレストの所見を認めた。また、
GLP-1R 発現 ALVA-41 細胞において、Ex-4 は用量依存性に細胞増殖を抑制し、その作用は GLP-1R 拮抗薬 Ex9-39 や、GLP-R の下流シグナルである PKA 活性を阻害する PKI でキャン セルされた。Ex-4 投与時、GLP-1R 発現 ALVA-41 細胞は、p27kip1 がさらに上昇し、CyclinD1 の低下、Rb 蛋白リン酸化の低下を認め、細胞周期の G1 アレストは増強された。非糖尿病ヌ ードマウスに GLP-1R 発現 ALVA-41 細胞とコントロール ALVA-41 細胞をそれぞれ播種さ せ、Ex-4 と PBS を浸透圧ポンプを用いて持続的に投与し、癌腫の増大を検討したところ、
in vitro の結果と同様に GLP-1R 発現 ALVA-41 細胞群は、腫瘍重量、サイズ共にコントロー ル ALVA-41 細胞群と比較し低下を認め、Ex-4 投与により、さらなる腫瘍サイズと重量の低 下を認めた。
【結論】
内因性の GLP-1R 発現を認めない前立腺癌細胞株においても、GLP-1R を強制発現すること により細胞増殖能の低下を認め、ヒト前立腺癌組織の悪性度と GLP-1R 発現は逆相関し た。以上のことより、癌細胞における GLP-1 作用と癌の進行は密接な関係にあり、癌細 胞における GLP-1R の発現及び GLP-1R 作動薬によるその活性化が、癌を抑制するための 糖尿病治療ストラテジーの確立や新たな癌治療法解明の糸口となる可能性が示唆され た。
審査の結果の要旨