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論文審査の結果の要旨
氏名:金 田 孝 之
博士の専攻分野の名称:博士(工学)
論文題名:港湾再開発における公民共同の事業誘導手法に関する研究 審査委員: (主 査) 教授 桜 井 慎 一
(副 査) 教授 岸 井 隆 幸 特任教授 近 藤 健 雄
従来,わが国の港湾は,安全で効率的な運営のため,公共が管轄・整備を行い,民間事業者の参入 や一般市民の立ち入りを厳しく制限してきた。しかし,1985 年,日本の長期港湾整備政策である「21 世紀の港湾」(通称ポートルネッサンス 21)が策定され,港湾政策の大転換が行われた。当時,日本 の大規模港湾は,コンテナ船の大型化に対応するため大水深で広大なバックヤードを求めて沖合の埋 立地に移転し,スペースも手狭で老朽化した旧港(インナーハーバー)地区は,都心に近いという利 点を活かして商業・業務機能を中心とした空間へと再開発する必要に迫られた。
港湾の中に,商業・業務施設,レクリエーション施設等を誘致し,積極的に市民開放して賑わい空 間を創出することは,明治以来,長期にわたり排他的に港湾を管理してきた公共にとって初めての試 みであり,施設整備や経営のノウハウを持つ民間との共同で事業が計画的に推進できるかが大きな課 題であった。こうした,公民共同による港湾再開発等を推進するため,1986 年には「民活法」が制定,
また,1987 年には港湾法で定める「臨港地区規制」の見直しも行われた。
申請者は,横浜市の職員として,みなとみらい 21 事業をはじめとする横浜市臨海部のウォーターフ ロント開発事業,横浜港の港湾再開発事業等に長年,深く関わり,計画立案の段階から事業実施まで,
さまざまなポジションで民間事業者と協調しながら事業の推進に貢献してきた。本論文は,申請者の こうした経験を踏まえ,港湾再開発と商業・業務施設を核とする街区開発の特性,および公の役割と 民間開発者の役割の関係性を解明し,民間開発者の事業参入および街区開発の誘導の方法を明らかに することを研究の目的としている。
本論文は,全 7 章で構成され,第 1 章では,研究の背景と目的を述べ,わが国におけるウォーター フロント開発や港湾再開発の実態を,全国 59 事例を対象とした資料調査等から整理している。その結 果,59 事例は「課題解決型」と「土地利用促進型」に大別し,さらに前者は,「市街地接続型」と「市 街地非接続型」に細分化した。また,もう一つの評価項目として,これら 59 事例を港湾事業を本格的 に活用したものと,そうでないものに2分した。その結果,本研究では,市街地接続・課題解決型の うち,港湾事業を本格的に活用した 4 事例(小樽築港駅周辺再開発,横浜みなとみらい 21,神戸ハー バーランド,サンポート高松)を分析対象とし,その比較対象として港湾事業非活用型の 4 事例(幕 張新都心,豊洲 2・3 丁目,ヨコハマポートサイド,HAT 神戸)を選定している。次に,本研究に関連 する既往研究を文献調査し,港湾再開発に関わるもの7件,大規模都市開発に関係するもの 2 件,公 民共同に関わるもの 2 件について比較考察し,本研究の独自性と意義を述べている。さらに,本研究 で用いている重要な用語を定義し,事例比較調査の方法,情報の提供を依頼した資料収集やヒアリン グ調査対象先等を示している。
第 2 章では,港湾再開発の計画特性に関する分析を行い,次の 3 点を明らかにしている。①再開発 区域,都心部,都市全体の課題解決が計画の目標とされ,商業・業務を中心とした土地利用となって いること。②公的主体による基盤整備と土地利用転換だけでなく街区開発のための方法が詳細に述べ られていること。③目標と方法および公民の役割についての合意形成が図られていること。
第 3 章では,目的,立地条件,規模,開発時期が類似であるが,港湾事業を活用していないウォー ターフロント開発事業 4 事例との比較分析によって,港湾再開発事業の特性として次の 2 点を明らか にした。①駅や既存市街地へのアクセスが劣り,また,開発ポテンシャルも劣っていること。②基盤 整備と用途容積の緩和が不可欠であるが,そのための手法は未完成であること。
第 4 章では,「横浜みなとみらい 21」および「小樽築港駅周辺再開発」における開発協議のプロセ スを分析することにより,公的主体の役割と民間事業者の参入と土地取得の関係を明らかにしている。
民間事業者が参入の方針を決める条件は,①再開発計画の中で,物流・工業から商業・業務へ用途地
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域を転換する基本方針が決定されること,②道路などの基盤整備を公共事業で実施することが決定さ れること,の 2 点が重要であり,また,民間事業者が用地取得を決める条件は,①基盤整備の手法と 主体が決まり,法定計画に反映され,事業実施が確実となること,および,②用途容積緩和について の具体的内容が決定されることである,と結論づけている。
第 5 章では,港湾再開発の 4 事例と港湾事業を活用しない類似のウォーターフロント開発との比較 によって,街区開発の特性を分析し,街区開発の推進手法として次の 3 種の手法が有効であることを 明らかにしている。①港湾事業と街路事業を併用し基盤整備によりアクセスを改善する。②街区開発 全体の促進のため,民間提案を出発点に独自性のある水際線での街区開発を促進する。③公的主体が 公共建築物を先行的に整備する。
第 6 章では,共同コンペ,街区開発協議,公的主体の調整による街の形成について,4 事例の開発 プロセスを分析し,次の3点が公民共同にとって重要であり,これらによって優れた開発と公共空間 の実現が可能となることを論述している。①基本計画確定前から尐数の地権者と公的主体が共同して 安定的に開発を推進することに関して協議を始めること。②公民協議で提案された民間提案に対し公 的主体がその意図するところをできる限り実現する方針を示すこと。③公的主体が社会状況の変化に も即応して主体的役割を果たすこと。
第 7 章では,前章までで行った事例分析の結論として,公民共同による港湾再開発の事業誘導手法 の提案を行っている。
(1)公的主体が民間開発者参入の基本的枠組みをつくることに関して:(1-1) 港湾事業と街路事業 を併用し,駅や近隣市街地へのアクセスを向上させる。(1-2) 臨港地区の解除と用途容積を緩和する こと。(1-3) 街の形成のため街区開発誘導を公的主体の責任で実施すること。
(2)民間開発者の自主性を前提に,公民共同による優れた公共性のある開発を実現することに関し て:(2-1)水際線に面した街区では,公の基本計画と民間の提案を出発点に,独自性のある事業を実 現すること。(2-2)主たる尐数の民間開発者と公的主体との協議の枠組みをつくり,民間の開発主体 の意図を実現すること。
(3)公的主体が大きな役割を担い状況変化に対応していくことに関して:(3-1) 基盤整備を受益者 負担から公共事業で推進することに移行すること。(3-2) 臨港地区解除や用途容積緩和の方法は,そ れぞれの再開発ごとに工夫すること。(3-3) 街の形成では,調整者としての公的主体の働きが必要で あること。(3-4) 経済環境の変化には,街区開発についての方針転換が必要となること。
(4)上記の(1)~(3)の事業誘導手法は,公的主体の大きな役割に依拠するが,目標と推進手法 について合意形成を得た基本構想,基本計画は,公的主体の大きな役割をサポートするガイドライン としての機能を果たすことができること。
最後に,以上の結論を踏まえ,本研究で得られたこれらの事業誘導手法は,開発規模やマーケット の動向にかかわらず有効と考えられ,次のような課題に適用されることで,より一層の事業推進が図 られることが期待できると述べている。①事業継続中の港湾再開発の安定的推進,②再整備が不可避 の都心港湾空間の再生,③クルーズ・観光による地域活性化や港湾空間再編の新たなニーズへの対応,
④わが国の港湾空間開発方式の国際展開。
「21 世紀への港湾」という長期港湾整備政策の大転換から約 30 年を経過し,公民共同による港湾 再開発の事業達成度や成否が,ようやく明らかになってきた現在,申請者の豊かな経験と幅広い人脈 に裏付けられたデータ・資料・知識に基づき,全国の事例を対象とした比較分析によって得られた本 研究の成果は,今後の港湾再開発の推進にとって,おおいに有益な知見を提供している。このことは,
申請者が自立して研究活動を行い,またはその他の高度な専門的業務に従事するに必要な能力および その基礎となる豊かな学識を有していることを示すものである。
よって本論文は,博士(工学)の学位を授与されるに値するものと認められる。
以 上
平成 26 年 9 月 11 日